小学生でも分かる商標法 / D. 登録異議・審判・訴訟 #40
商標(しょうひょう)の登録に、あってはならないまちがいが見つかったとき、「その登録をなかったことにしてください」と特許庁(とっきょちょう)にたのむ手続が、無効審判(むこうしんぱん)です。第46条は「どんなまちがいのとき」「だれが」たのめるかを決め、第46条の2は、たのみが認められたとき権利が「いつから消えるか」を決めています。消え方には「はじめから」と「とちゅうから」の2種類があります。3つのレベルで順に見ていきます。
LEVEL 1イメージでつかむ
登録にも「まちがい」がある
お店や商品の「目じるし」のことを、商標(しょうひょう)といいます。目じるしを特許庁(とっきょちょう)という国の役所に登録(とうろく)してもらうと、その目じるしを自分だけが使えるようになります。
登録の前には、役所の人がしっかり調べます。それでも、本当は登録してはいけない目じるしが、まちがって登録されてしまうことがあります。
たとえば、町のパン屋さん「ほしぞらパン」(架空のお店です)が、ずっと前から目じるしを登録していたとします。ところがあとから、べつのお店「こぐま堂」(これも架空です)が、そっくりの目じるしをパンについて登録してしまいました。これは、本当なら登録されないはずのものです。
このままだと、「ほしぞらパン」はこまります。お客さんもまちがえてしまいます。そこで「ほしぞらパン」は、特許庁に「こぐま堂のあの登録は、まちがいです。なかったことにしてください」とたのむことができます。これが無効審判(むこうしんぱん)です。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:たのむ人(ほしぞらパン)
- 青緑の枠:特許庁(審判官)
- 藍の枠:登録を持っている人(こぐま堂)
- 赤の枠:「まちがいでした」と決まったあとの結果
【図1】無効審判のイメージ。たのむ人と登録を持っている人が言い分を出し合い、審判官が決める。架空の例。本記事作成者が模式化したもの。
だれでも たのめるわけではない
無効審判をたのめるのは、その登録のせいでこまっている人、こまるかもしれない人だけです。まったく関係のない人は、たのめません。法律の言葉では「利害関係人(りがいかんけいにん)」といいます。「その登録があることで、損(そん)をしたり得(とく)をしたりする立場の人」という意味です。
消え方は2種類 ―「はじめから」と「とちゅうから」
登録のまちがいには、2つの種類があります。
1つめは、登録したときから、もうまちがっていた場合です。この場合、権利は「はじめから なかったこと」になります。
2つめは、登録したときは正しかったのに、あとから事情が変わって、だめになった場合です。たとえば、登録したあとで、どこかの国の旗(はた)が新しく決まり、目じるしがその旗とそっくりになってしまった、というような場合です。この場合は、「だめになった時から なかったこと」になります。だめになった時がはっきりしないときは、「なかったことにして」というたのみが役所の帳面(ちょうめん)に書きこまれた日から、なかったことになります。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:正しい権利のままだった期間
- 赤の破線の枠:「なかったこと」になる期間
- 丸じるし:時の区切り(それぞれ図の中に名前を書いています)
【図2】権利の消え方の2種類。本記事作成者が模式化したもの。
- 無効審判は、まちがった登録を「なかったこと」にしてもらう手続です。
- たのめるのは、その登録に関係のある人(利害関係人)だけです。
- はじめからまちがっていた登録は「はじめから」、あとからだめになった登録は「だめになった時から」消えます。
- 目じるしを使う商品がいくつもあるときは、「パンについてだけ」のように、商品ごとにたのむこともできます。
※ 「どんなまちがいでも」たのめるわけではなく、たのめる理由は法律が決めた7つに限られます。また、理由によっては「登録から5年まで」という締切(しめきり)があります。正確には条件があります(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第46条は4つの項でできている
| 項 | 役割 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 第1項 | 無効理由(第1号〜第7号)と、請求の単位 | 「どんなとき」無効審判を請求できるか。指定商品・指定役務ごとに請求できる |
| 第2項 | 請求人 | 利害関係人に限る |
| 第3項 | 請求できる時期 | 商標権が消滅した後でも請求できる |
| 第4項 | 審判長の通知 | 専用使用権者など、登録した権利を持つ者に知らせる |
〔表1〕商標法第46条の項ごとの役割。2026年9月時点のe-Gov条文による。本記事作成者が整理したもの。
第1項の柱書 ―「指定商品又は指定役務ごとに」
商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
| 部品 | 文言 | 意味 |
|---|---|---|
| どんなとき | 「商標登録が次の各号のいずれかに該当するとき」 | 第1号〜第7号のどれかに当たること。ここに書かれていない理由では請求できません。 |
| 何を | 「その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる」 | 無効にするのは「商標登録」。特許庁の審判で判断されます。 |
| どの単位で | 「指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに」 | 登録の一部(たとえば指定商品「パン」だけ)を対象に請求できます。 |
〔表2〕第46条第1項柱書の分解。本記事作成者が整理したもの。
「指定商品(していしょうひん)・指定役務(していえきむ)」とは、出願のときに「この商標をこの商品・サービスに使います」と指定したものです。1つの登録にたくさんの指定商品があるとき、まちがいがあるのは一部だけ、ということがよくあります。そこで、一部だけをねらって無効審判を請求できるようにしてあります。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:登録がそのまま残る指定商品
- 赤の破線の枠:無効になり「なかったこと」になる指定商品
【図3】指定商品ごとの請求(商標法第46条第1項柱書後段)のイメージ。架空の例。本記事作成者が模式化したもの。
第1号〜第7号 ― 無効理由の一覧
| 号 | 原文(e-Gov) | やさしく言うと | いつの時点のまちがいか |
|---|---|---|---|
| 第1号 | その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。 | 登録の条件(識別力、不登録事由、地域団体商標、先願、取消し後の再登録禁止、外国人の権利の享有)に違反して登録された | 登録時 |
| 第2号 | その商標登録が条約に違反してされたとき。 | 条約に違反して登録された | 登録時 |
| 第3号 | その商標登録が第五条第五項に規定する要件を満たしていない商標登録出願に対してされたとき。 | 願書の記載などから商標が特定されていない出願に対して登録された | 登録時 |
| 第4号 | その商標登録がその商標登録出願により生じた権利を承継しない者の商標登録出願に対してされたとき。 | 出願人の地位(商標登録出願により生じた権利)を引き継いでいない者の出願に対して登録された | 登録時 |
| 第5号 | 商標登録がされた後において、その商標権者が第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定により商標権を享有することができない者になつたとき、又はその商標登録が条約に違反することとなつたとき。 | 登録後に、商標権者が権利を持てない外国人になった、または登録が条約違反になった | 登録後(後発的) |
| 第6号 | 商標登録がされた後において、その登録商標が第四条第一項第一号から第三号まで、第五号、第七号又は第十六号に掲げる商標に該当するものとなつているとき。 | 登録後に、国旗・国際機関の標章・公序良俗違反・品質誤認などの商標に当たるものになっている | 登録後(後発的) |
| 第7号 | 地域団体商標の商標登録がされた後において、その商標権者が組合等に該当しなくなつたとき、又はその登録商標が商標権者若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているもの若しくは第七条の二第一項各号に該当するものでなくなつているとき。 | 地域団体商標について、登録後に、主体の条件・周知性・商標の構成の条件を欠くようになった | 登録後(後発的) |
〔表3〕商標法第46条第1項第1号〜第7号。原文欄は2026年9月時点のe-Gov条文を一字一句引用。「やさしく言うと」欄は要約であり、各条の括弧書・除外を省略しています。
第2項〜第4項 ― だれが・いつまで・だれに知らせる
2 前項の審判は、利害関係人に限り請求することができる。
3 第一項の審判は、商標権の消滅後においても、請求することができる。
4 審判長は、第一項の審判の請求があつたときは、その旨を当該商標権についての専用使用権者その他その商標登録に関し登録した権利を有する者に通知しなければならない。
第3項は、「もう消えた権利を、なぜ無効にするの?」と思うかもしれません。商標権が存続期間の満了などで消えても、消える前の期間について「権利を侵害した」として損害賠償を求められることがあります。無効審決が確定すれば、権利は過去にさかのぼって消える(第46条の2)ので、消滅後でも無効にする意味があります(条文の組合せから導かれる説明。本記事作成者による整理)。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:請求人(利害関係人)
- 青緑の枠:特許庁(審判官の合議体)
- 藍の枠:被請求人(商標権者)
- 赤の枠:通知を受ける者(専用使用権者等)
- 実線の矢印:書面の提出・送達(①②)
- 破線の矢印:請求があった旨の通知(③・第46条第4項)
【図4】無効審判の登場人物の相関図。架空の例。本記事作成者が条文を整理して作成したもの。
手続の流れ
商標法は、審判の細かい手続を自前で書かず、第56条第1項で特許法の規定をまとめて借りています(準用)。おおまかな流れは次のとおりです。
flowchart TB A["利害関係人が審判請求書を提出
商標法第46条第1項・第2項
(準用)特許法第131条第1項"] --> B["審判長が請求書の副本を
商標権者に送達
(準用)特許法第134条第1項"] A --> N["審判長が専用使用権者等に通知
商標法第46条第4項"] B --> C["商標権者が答弁書を提出
(相当の期間内)"] C --> D["審理(原則は口頭審理)
(準用)特許法第145条第1項
職権審理:同第153条"] D --> E{"無効理由に
該当するか"} E -- "該当する" --> F["商標登録を無効にすべき旨の審決"] E -- "該当しない" --> G["請求は成り立たない旨の審決"] F --> H["不服があれば東京高等裁判所へ
商標法第63条"] G --> H F --> I["確定すると商標権は
さかのぼって消える
商標法第46条の2"] style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 赤の箱:商標登録を無効にすべき旨の審決と、その効果
- 緑の箱:請求は成り立たない旨の審決(商標登録はそのまま残る)
【図5】商標登録の無効審判の手続フロー。商標法第46条・第56条第1項(特許法第131条第1項、第134条第1項、第145条第1項、第153条の準用)・第63条をもとに、本記事作成者がフロー化したもの。手続の全部を示すものではありません。
第46条の2 ― いつから消えるか
商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、初めから存在しなかつたものとみなす。ただし、商標登録が前条第一項第五号から第七号までに該当する場合において、その商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その商標登録が同項第五号から第七号までに該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、商標登録が前条第一項第五号から第七号までに該当するに至つた時を特定できないときは、商標権は、その商標登録を無効にすべき旨の審判の請求の登録の日から存在しなかつたものとみなす。
| 場面 | 根拠 | 対象の無効理由 | 商標権が存在しなかったものとみなされる起点 |
|---|---|---|---|
| 原則 | 第46条の2第1項本文 | 第46条第1項第1号〜第4号 | 初めから |
| 後発的な理由 | 第46条の2第1項ただし書 | 第46条第1項第5号〜第7号 | 第5号〜第7号に「該当するに至つた時」から |
| 後発的な理由で、時点を特定できない | 第46条の2第2項 | 第46条第1項第5号〜第7号 | 「その商標登録を無効にすべき旨の審判の請求の登録の日」から |
〔表4〕商標法第46条の2の3つの起点。本記事作成者が整理したもの。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:商標権が有効に存在していた期間
- 赤の破線の枠:存在しなかつたものとみなされる期間
- 縦の破線:時点の目じるし(上端にその時点の名前)
【図6】無効審決確定の効果のタイムチャート(商標法第46条の2)。横軸の間隔は模式的なもの。本記事作成者が条文を整理して作成したもの。時間軸に縮尺はありません。
- 第46条第1項:無効理由は第1号〜第7号に限られる。指定商品又は指定役務ごとに請求できる。
- 第46条第2項:請求できるのは利害関係人に限る。第3項:商標権の消滅後も請求できる。第4項:審判長は専用使用権者等に通知する。
- 第46条の2:原則は「初めから」。第5号〜第7号は「該当するに至つた時から」。その時を特定できないときは「審判の請求の登録の日から」。
- 手続の細部は、商標法第56条第1項で特許法の審判の規定を準用している。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 拒絶理由・異議理由・無効理由の三者対応
レベル1で「どんなまちがいでも」と単純化した点を回収します。無効理由は第46条第1項各号に限定列挙されています。拒絶理由(商標法第15条)、登録異議の申立ての理由(商標法第43条の2)と見比べると、ずれがあります。
| 理由となる規定 | 拒絶理由 (第15条) | 異議理由 (第43条の2) | 無効理由 (第46条第1項) | 除斥期間 (第47条) |
|---|---|---|---|---|
| 第3条 | 該当第1号 | 該当第1号 | 該当第1号 | 5年(第1項) |
| 第4条第1項 | 該当第1号 | 該当第1号 | 該当第1号 | 号により異なる(第8号、第11号〜第14号は5年。第10号・第15号・第17号は条件付き。その他はなし) |
| 第7条の2第1項 | 該当第1号 | 該当第1号 | 該当第1号 | 周知性を欠いていた違反について第47条第2項 |
| 第8条第1項 | 非該当 | 該当第1号 | 該当第1号 | 5年(第1項) |
| 第8条第2項・第5項 | 該当第1号 | 該当第1号 | 該当第1号 | 5年(第1項) |
| 第51条第2項(第52条の2第2項で準用する場合を含む)、第53条第2項 | 該当第1号 | 該当第1号 | 該当第1号 | なし |
| 第77条第3項で準用する特許法第25条 | 該当第1号 | 該当第1号 | 該当第1号(後発は第5号) | なし |
| 条約 | 該当第2号 | 該当第2号 | 該当第2号(後発は第5号) | なし |
| 第5条第5項 | 該当第3号 | 該当第3号 | 該当第3号 | なし |
| 第6条第1項・第2項 | 該当第3号 | 非該当 | 非該当 | ― |
| 商標登録出願により生じた権利を承継しない者の出願 | 非該当 | 非該当 | 該当第4号 | 5年(第1項) |
| 後発的な理由(第46条第1項第5号〜第7号) | ― | ― | 該当第5号〜第7号 | なし |
〔表5〕拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間の対応表。2026年9月時点のe-Gov条文(商標法第15条、第43条の2、第46条第1項、第47条)による。除斥期間の欄は要約で、括弧書(不正競争の目的・不正の目的)を省略しています。詳細は関連記事(商標法第47条)へ。本記事作成者が整理したもの。
① 第15条第1号に第8条第1項がないのは、査定の段階では第8条第1項で拒絶すべき場合はなく、全て第4条第1項第11号違反となるからである。
② 第15条第3号に該当する無効理由がない(一商標一出願・区分に関する第6条第1項・第2項の違反が無効理由にならない)のは、出願の段階では一商標一出願の原則及び区分に従った商品又は役務の指定を守るべきであるが、一旦商標登録があった以上は、その存続を認めても実害はないから無効理由とはしなかったからである(なお、第46条第1項第3号=第5条第5項の明確性要件は、平成26年の一部改正で追加されたものと説明されています)。
③ 第46条第1項第4号に相当する規定が第15条の拒絶理由にないのは、審査の段階ではこのようなことが問題とならないのに反し、一旦誤って無権利者に登録がされたときにはそのままにしておくのは妥当ではないからである。
同書はまた、第1項各号の無効理由は限定列挙であって、これらに該当しない限り無効審判により商標登録が無効とされることはあり得ず、商標登録の当然無効ということはない、としています。指定商品又は指定役務ごとに請求できるとした第1項後段については、指定商品又は指定役務が二以上ある場合に、特定の指定商品又は指定役務に係る部分についてのみ無効理由があることがあり(例えば商標権のうち指定商品又は指定役務のうちの一にのみ係る部分が他の商標権と抵触する場合)、このような場合に商標登録全体を無効にするのは酷であるとの考え方から、商標登録の一部無効を認めることとしたものだと説明しています。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
逐条解説〔第22版〕1734頁〜1736頁。
2. 後発的無効理由(第5号〜第7号)を読む
| 号 | 何が登録後に変わったか | 条文の語尾 | 対応する登録時の理由 |
|---|---|---|---|
| 第5号前段 | 商標権者が、第77条第3項で準用する特許法第25条により商標権を享有できない者になった | 「なつたとき」 | 第1号(特許法第25条違反) |
| 第5号後段 | 商標登録が条約に違反することとなった | 「こととなつたとき」 | 第2号 |
| 第6号 | 登録商標が第4条第1項第1号〜第3号、第5号、第7号、第16号の商標に該当するものとなっている | 「なつているとき」 | 第1号(第4条第1項違反)のうち6つの号だけ |
| 第7号 | 地域団体商標について、①商標権者が組合等に該当しなくなった、②周知性を欠くものとなっている、③第7条の2第1項各号に該当しないものとなっている | 「なくなつたとき」「でなくなつているとき」 | 第1号(第7条の2第1項違反) |
〔表6〕後発的無効理由(第46条第1項第5号〜第7号)の整理。語尾の欄は2026年9月時点のe-Gov条文の文言。本記事作成者が整理したもの。
判断の基準時について、同書は、無効理由に該当するかどうかの判断は、第5号から第7号までを除き、その商標登録時に無効理由があったかどうかによる、としています。第6号の語尾については、〔字句の解釈〕として、該当することとなつたときとせずに該当するものとなつているときとしたのは、該当する時期について、過去に該当するだけでなく審判請求時においても継続して該当することを審判請求の要件としていることを明確にするためである、と説明しています。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
逐条解説〔第22版〕1735頁〜1736頁。
3. 請求人 ― 利害関係人(第46条第2項)
商標法第46条第2項は、請求人を利害関係人に限り
としています。特許庁の審判便覧は、利害関係人について次のように説明しています。
| 項目 | 審判便覧 31―01「利害関係人」の記載 |
|---|---|
| 利害関係人とは | 「特許(商標)権などの存在によって、法律上の利益や、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、又は受ける可能性のある者」 |
| 判断の基準時 | 「審決の時を基準とする。」 |
| 調査 | 「相手方が特に争わない限り、問題とならないので、利害関係については調査しない。」 |
| 利害関係が認められないとき | 請求人適格を欠き、審判請求は不適法であるとして、審決をもって無効審判請求を却下する旨の記載 |
〔表7〕利害関係人に関する特許庁の実務上の取扱い。出典:特許庁「審判便覧」31―01(特許・商標)。2026年9月参照。これは特許庁の運用の説明であり、条文そのものではありません。
また、逐条解説〔第22版〕は〔参考〕として、後発的な公益的無効事由(第4条第1項第1号から第3号まで、第5号、第7号、第16号)を理由とする無効審判を請求できる利害関係人の例を挙げています。第4条第1項第1号から第3号まで及び第5号については外国の大使館や国際機関等、同項第7号については市民団体等、同項第16号については商標権者の同業者等が、その例として考えられる、というものです。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
逐条解説〔第22版〕1736頁(第46条第2項)、1737頁(〔参考〕)。平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書 第2章 124頁。
何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り(商標法第43条の2柱書)、無効審判は
利害関係人に限り(商標法第46条第2項)です。制度の趣旨の違い(登録異議は登録処分の見直しにより登録の信頼を高める制度、無効審判は当事者間の紛争解決の性格が強い制度、と一般に説明されます)は通説的な説明であり、条文に書かれているわけではありません。この制度目的の区別は、青本1711頁の説明とも一致します。
4. 登録異議の申立て(第43条の2)との比較
| 比較項目 | 登録異議の申立て | 無効審判 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 商標法第43条の2 | 商標法第46条 |
| できる人 | 何人も | 利害関係人に限る(第46条第2項) |
| 時期 | 商標掲載公報の発行の日から2月以内 | 設定の登録後。商標権の消滅後も可(第46条第3項)。ただし理由により5年の除斥期間(第47条) |
| 理由 | 第43条の2第1号〜第3号(登録時の理由のみ) | 第46条第1項第1号〜第7号(第4号と後発的理由の第5号〜第7号が加わる) |
| 単位 | (関連記事 商標法第43条の2 を参照) | 指定商品又は指定役務ごとに請求可(第46条第1項柱書後段) |
| 審理の構造 | 申立人と特許庁の関係が中心(詳細は関連記事) | 請求人と被請求人(商標権者)が対立する構造。原則は口頭審理(準用する特許法第145条第1項) |
| 結論 | 取消決定/維持決定 | 無効審決/請求は成り立たない旨の審決 |
| 権利が消える時点 | (関連記事を参照) | 第46条の2(初めから/該当するに至つた時から/審判の請求の登録の日から) |
〔表8〕登録異議の申立てと無効審判の比較。2026年9月時点のe-Gov条文による。登録異議の側の詳細は関連記事に回しています。本記事作成者が整理したもの。
5. 無効審判を請求できるかの判断手順
flowchart TB
S["商標登録に問題があると考えた"] --> Q1{"請求人は
利害関係人か
第46条第2項"}
Q1 -- "はい" --> Q2{"理由は第46条第1項
第1号〜第7号の
どれかに当たるか"}
Q1 -- "いいえ" --> X1["請求人適格を欠く
(審判便覧:審決で却下)"]
Q2 -- "はい" --> Q3{"第47条の対象となる
理由か"}
Q2 -- "いいえ
(例:第6条違反)" --> X2["無効理由にならない"]
Q3 -- "対象" --> Q4{"設定の登録の日から
5年を経過したか"}
Q3 -- "対象外
(例:第4条第1項第7号、第19号、
第46条第1項第5号〜第7号)" --> OK["請求できる
商標権の消滅後も可
第46条第3項"]
Q4 -- "経過した" --> X3["その理由では請求できない
(例外あり:第47条の括弧書)"]
Q4 -- "経過していない" --> OK
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style X1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style X2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style X3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:無効審判を請求できる
- 赤の箱:無効審判を請求できない(この図の赤は「請求できない」の意味で、【図5】【図8】の赤とは意味が違います)
【図7】無効審判を請求できるかの分岐図。商標法第46条・第47条をもとに、本記事作成者がフロー化したもの。第47条の詳細(不正競争の目的・不正の目的の括弧書、第2項)は関連記事を参照。
6. 「いつから消えるか」の判断手順と、つながる条文
flowchart TB A["商標登録を無効にすべき旨の
審決が確定"] --> B{"無効理由は
第46条第1項の何号か"} B -- "第1号〜第4号" --> C["初めから存在しなかつたものとみなす
第46条の2第1項本文"] B -- "第5号〜第7号" --> D{"該当するに至つた時を
特定できるか"} D -- "できる" --> E["該当するに至つた時から
第46条の2第1項ただし書"] D -- "できない" --> F["審判の請求の登録の日から
第46条の2第2項"] style C fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 赤の箱:商標権が存在しなかつたものとみなされる起点
【図8】無効審決確定の効果の分岐図。商標法第46条の2をもとに、本記事作成者がフロー化したもの。
無効審判と無効審決は、ほかの条文の「入口」になっています。詳しい内容は各関連記事に回し、ここでは接続だけを示します。
| つながる制度 | 条文 | 第46条・第46条の2との関係 |
|---|---|---|
| 除斥期間 | 商標法第47条 | 第46条第1項の審判のうち、一定の理由によるものは、設定の登録の日から5年を経過した後は請求できない。 |
| 侵害訴訟での無効の抗弁(講学上の呼称) | 商標法第39条で準用する特許法第104条の3第1項・第2項 | 無効審判を請求しなくても、侵害訴訟の中で「この商標登録は無効審判により無効にされるべきもの」と主張できる。第47条の除斥期間との関係は関連記事(商標法第47条、商標法第38条・第39条)へ。 |
| 無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利(講学上「中用権」) | 商標法第33条 | 無効にされた商標登録の原商標権者等が、第四十六条第一項の審判の請求の登録前に無効理由を知らないで使用し周知になっていた場合の保護。 |
| 主張の制限 | 商標法第38条の2 | 侵害訴訟の終局判決が確定した後に当該商標登録を無効にすべき旨の審決が確定しても、再審の訴えでその審決の確定を主張できない。 |
| 一事不再理 | 商標法第56条第1項で準用する特許法第167条 | 無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求できない(読替えあり)。 |
| 審決取消訴訟 | 商標法第63条 | 審決に対する訴えは東京高等裁判所の専属管轄。出訴期間等は特許法第178条第2項〜第6項を準用。 |
〔表9〕無効審判・無効審決とつながる主な条文。2026年9月時点のe-Gov条文による。本記事作成者が整理したもの。
7. 特許法・実用新案法・意匠法との比較
| 比較項目 | 特許法第123条 | 実用新案法第37条 | 意匠法第48条 | 商標法第46条 |
|---|---|---|---|---|
| 審判の名称(条文の文言) | 特許無効審判 | 実用新案登録無効審判 | 意匠登録無効審判 | 「その商標登録を無効にすることについて審判」(第46条第1項の審判) |
| 請求の単位 | 請求項ごと(第1項柱書後段) | 請求項ごと(第1項柱書後段) | 定めなし | 指定商品又は指定役務ごと(第1項柱書後段) |
| 請求人 | 利害関係人に限る。冒認・共同出願違反を理由とするときは特許を受ける権利を有する者(第2項) | 何人も。冒認・共同出願違反は実用新案登録を受ける権利を有する者に限る(第2項) | 何人も。冒認・共同出願違反は意匠登録を受ける権利を有する者に限る(第2項) | 利害関係人に限る(第2項)。第4号について請求人を真の権利者に限る定めはない |
| 権利を有しない者の出願 | 第1項第6号(移転の登録があったときを除く) | 第1項第5号(同左) | 第1項第3号(同左) | 第1項第4号(除外の括弧書なし) |
| 後発的無効理由 | 第1項第7号(特許法第25条、条約) | 第1項第6号(同左) | 第1項第4号(同左) | 第1項第5号(特許法第25条準用、条約)+第6号(第4条第1項の6つの号)+第7号(地域団体商標) |
| 訂正違反の無効理由 | 第1項第8号 | 第1項第7号 | なし | なし(商標法に訂正の制度なし) |
| 消滅後の請求 | 第3項 | 第3項 | 第3項 | 第3項 |
| 登録した権利を有する者への通知 | 第4項(専用実施権者等) | 第4項(同左) | 第4項(同左) | 第4項(専用使用権者等) |
| 除斥期間 | なし(特許法第124条は「削除」) | なし(現行の審判規定) | なし(現行の審判規定) | あり(商標法第47条) |
〔表10〕四法の無効審判の比較。2026年9月時点のe-Gov条文(特許法第123条、実用新案法第37条、意匠法第48条、商標法第46条)を原文確認のうえ整理。各号の内容は要約。本記事作成者が整理したもの。
| 比較項目 | 特許法第125条 | 意匠法第49条 | 商標法第46条の2 |
|---|---|---|---|
| 原則 | 特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす | 意匠権は、初めから存在しなかつたものとみなす | 商標権は、初めから存在しなかつたものとみなす |
| 後発的理由の場合 | 第123条第1項第7号に「該当するに至つた時から」 | 第48条第1項第4号に「該当するに至つた時から」 | 第46条第1項第5号〜第7号に「該当するに至つた時から」 |
| 該当時を特定できない場合の定め | なし | なし | あり(第2項:審判の請求の登録の日から) |
〔表11〕無効審決の効果の比較。実用新案法は第41条で特許法第125条を準用しています。2026年9月時点のe-Gov条文による。本記事作成者が整理したもの。
逐条解説〔第22版〕は、第46条の2について、第1項は平成8年の一部改正前の第56条第1項で準用していた特許法第125条に対応する条項であるが、早期審理が求められる審判実務上の要請により第2項を設けることとの関係で、特許法の準用をやめて新たに書き起こしたものである、と説明しています。第1項ただし書については、第46条第1項第5号(商標登録後における外国人の権利享有能力の喪失、条約違反)及び第6号(後発的な公益的無効事由該当)の場合は、ともに商標登録時においては何ら瑕疵がなかったのであるから、無効理由に該当することとなった時から無効の効果を及ぼすこととしたものであり、第7号は平成17年の一部改正で追加されたものだとしています。第2項については、商標登録について無効とすべき事実の存在の蓋然性は立証されるものの、無効の効果を遡及させる時点を特定できない場合(例えばある商標が公序良俗に違反することとなった場合や、品質の誤認を生ずるようになった場合等においては、どの時点からこれらの事由に該当するに至ったかを特定するための立証が困難な場合が想定される)の調整規定であり、このようにしたのは、無効の効果を遡及させる時点について争訟化し、いたずらに審理が遅延するのを防止するためである、と説明しています。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
逐条解説〔第22版〕1737頁〜1738頁。
8. 冒認と移転請求 ― 商標法にはない制度
特許法第123条第1項第2号・第6号、意匠法第48条第1項第1号・第3号には、「(第七十四条第一項/第二十六条の二第一項)の規定による請求に基づき、……移転の登録があつたときを除く。」という括弧書があります。真の権利者が、冒認者から権利そのものを取り戻す移転請求の制度(特許法第74条、実用新案法第17条の2、意匠法第26条の2)があるためです。
これに対し、商標法第46条第1項第4号にはこの括弧書がありません。商標法第4章第1節(第18条〜第35条)の条を確認しても、商標登録出願により生じた権利を承継しない者の出願に対する商標権の移転請求を定める条は見当たらず、商標法第35条が準用する特許法の規定も第73条、第76条、第98条第1項第1号・第2項だけです(2026年9月時点のe-Gov条文で確認)。したがって、条文上、第4号の場面で用意されている手段は無効審判であり、しかも第47条第1項により5年の除斥期間がかかります。
9. 手続面での特許無効審判との違い
| 項目 | 特許無効審判 | 商標登録の無効審判 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 答弁書提出の機会 | あり(特許法第134条第1項) | あり | 商標法第56条第1項が特許法第134条第1項を準用 |
| 訂正の請求 | あり(特許法第134条の2) | なし | 商標法第56条第1項の準用列挙に特許法第134条第2項、第134条の2がない |
| 審決の予告 | あり(特許法第164条の2) | なし | 商標法第56条第1項の準用列挙に特許法第164条の2がない。審判便覧 51―03も同旨 |
| 請求の理由の要旨を変更する補正 | 原則不可。審判長の許可による例外あり(特許法第131条の2第1項第2号、第2項) | 原則不可。審判長の許可による例外は準用されていない | 商標法第56条第1項は特許法第131条の2第1項を「(第二号及び第三号を除く。)」で準用し、同条第2項は準用列挙にない |
| 審理の方式 | 口頭審理が原則(特許法第145条第1項) | 口頭審理が原則 | 商標法第56条第1項の読替え(第46条第1項の審判等に読み替え) |
| 請求の一部取下げ | 請求項ごと(特許法第155条第3項) | 特許法第155条第3項を第46条第1項の審判に準用 | 商標法第56条第2項 |
〔表12〕手続面の比較。2026年9月時点のe-Gov条文(商標法第56条、特許法第131条の2、第134条、第145条、第155条)および特許庁「審判便覧」51―03による。本記事作成者が整理したもの。
逐条解説〔第22版〕1765頁〜1766頁。
10. つまずきやすい点(Q&A)
その商標登録を無効にすべき旨の審判の請求の登録の日からです(商標法第46条の2第2項)。「提出の日」ではなく「請求の登録の日」です。商標法第33条第1項も同じく
第四十六条第一項の審判の請求の登録前にを基準にしています。
試験での問われ方
- 短答式:①無効理由の列挙(第6条が入らない、第8条第1項が入る、第4号)、②後発的無効理由の号と第6号の対象、③請求人(利害関係人)、④消滅後の請求、⑤第46条の2の3つの起点、が条文レベルで問われる形が考えられます。
- 論文式:侵害警告を受けた側の対抗手段として、無効審判(第46条)、除斥期間(第47条)、侵害訴訟での主張(第39条で準用する特許法第104条の3)、先使用権(第32条)などを並べて検討する形が考えられます。
- 口述:条文の文言(「利害関係人に限り」「商標権の消滅後においても」「該当するに至つた時から」「審判の請求の登録の日から」)を正確に言えるかが問われる形が考えられます。
※ 上記は条文の構造から考えられる問われ方の例であり、出題を予想・保証するものではありません。
- 無効理由は第46条第1項第1号〜第7号の限定列挙。第6条第1項・第2項は無効理由でない。第8条第1項は拒絶理由でないが無効理由。第4号(承継しない者の出願)は無効理由だけにある。
- 後発的無効理由は第5号〜第7号。第6号の対象は第4条第1項第1号〜第3号、第5号、第7号、第16号のみ。
- 請求人は利害関係人に限る(第46条第2項)。審判便覧 31―01は、判断の基準時を審決の時とし、利害関係が認められないときは審決で却下するとしている。
- 効果は第46条の2:初めから/該当するに至つた時から/(特定できないとき)審判の請求の登録の日から。最後の定めは特許法第125条・意匠法第49条にはない。
- 商標法には冒認に対する移転請求の制度がなく、第4号には「移転の登録があつたときを除く」の括弧書がない。訂正の請求・審決の予告も商標の無効審判にはない。
- 除斥期間(第47条)、無効の抗弁(第39条)、中用権(第33条)、主張の制限(第38条の2)へ接続する。
