小学生でも分かる商標法 / D. 登録異議・審判・訴訟 #48
特許庁が出した答え(取消決定や審決)に納得できないとき、進む道は2つあります。1つは、答えが固まる前に裁判所へ行く道(審決等に対する訴え)。もう1つは、答えが固まったあとで、とても重大なまちがいが見つかったときだけ使える「やり直し」の道(再審)です。この記事では、商標法第六章(第57条〜第63条)を、特許法・意匠法との違いに重点をおいて整理します。
LEVEL 1イメージでつかむ
特許庁の答えに納得できないときは、裁判所へ
パン屋さんの「ほしぞらパン」という目じるしは、特許庁(とっきょちょう)という国の役所に登録(とうろく)されています。あるとき、特許庁の中の審判官(しんぱんかん)という人たちが、「この登録はなかったことにします」という答えを出しました。
パン屋さんは「その答えはおかしい」と思いました。このとき、パン屋さんは裁判所(さいばんしょ)に「特許庁の答えを取り消してください」とたのむことができます。行き先は決まっていて、東京にある高等裁判所(こうとうさいばんしょ)だけです。しかも、答えの書類がとどいた日から30日をすぎると、もうたのめません。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:①特許庁(役所)が答えを出す段階
- 藍の枠:②東京の高等裁判所で争う段階
- 橙の枠:③最高裁判所へ進む段階
- 赤の枠:期限(すぎると次の段階に進めない)
【図1】特許庁の答えに納得できないときの階段(模式図)。「ほしぞらパン」は架空の例。本記事作成者が単純化して描いたもの。ふつうの裁判は「地方裁判所」から始まりますが、この場合は①の特許庁が1段目の役目をしています。
答えが固まったあとでも、重大なまちがいなら「やり直し」
30日をすぎたり、裁判所でも負けたりすると、特許庁の答えは「固まり」ます(これを「確定(かくてい)」といいます)。固まった答えは、もうひっくり返せないのが原則です。
でも、あとになって「答えの決め手になった書類が、にせものだった」と分かったらどうでしょう。そんな重大なまちがいがあるときだけ、特別に「もう一度やり直してください」とたのめます。これが再審(さいしん)です。
やり直しで権利がもどるまでの「空白の時間」
「ほしぞらパン」の登録がなかったことになったあと、となり町のお店「こぐま堂」が、何も知らずに「ほしぞらパン」という名前でパンを売りはじめたとします。その後、やり直し(再審)でパン屋さんの権利がもどりました。
このとき、こぐま堂が「権利のなかった空白の時間」に何も知らずにしたことまで責めるのは、かわいそうです。そこで商標法は、その時間に知らずにしたことには権利の力がおよばない、と決めています。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:パン屋さんの権利がある時間
- 赤の枠:空白の時間(権利はないことになっている)
- 青緑の枠:何も知らずに名前を使ったお店(こぐま堂)
【図2】「空白の時間」に何も知らずに使った人の保護(模式図)。「ほしぞらパン」「こぐま堂」は架空の例。本記事作成者が単純化して描いたもの。
- 特許庁の答え(登録をなくす答えなど)に納得できないときは、東京の高等裁判所にうったえることができる。期限は書類がとどいてから30日。
- 答えが固まったあとでも、とても重大なまちがいがあれば、やり直し(再審)をたのめる。
- やり直しで権利がもどっても、空白の時間に何も知らずに名前を使った人は責められない。
※ 「重大なまちがい」の中身、やり直しをたのめる期間、うったえる相手(特許庁の長官か、相手のお店か)、空白の時間のあとも使い続けられるかどうかは、正確には条件があります(→レベル3)。また、「登録をそのままにします」という答え(維持決定)には、そもそも不服を言えません(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第六章は8つの条文でできている
商標法第六章「再審及び訴訟」は、第57条から第63条までの8つの条文です(第60条の2を含みます。第63条の2はありません)。前半の7つが再審、最後の第63条が裁判所への訴えです。
| 条文 | 見出し(e-Govの表示) | 役割 | 対応する特許法/意匠法 |
|---|---|---|---|
| 商標法第57条 | 再審の請求 | 確定した取消決定・確定審決に対して、当事者又は参加人が再審を請求できる。再審の事由は民事訴訟法を準用 | 特許法第171条/意匠法第53条 |
| 商標法第58条 | (見出しなし) | 請求人と被請求人が共謀して第三者を害する目的で審決をさせたとき、その第三者が再審を請求できる | 特許法第172条/意匠法第54条 |
| 商標法第59条 | 再審により回復した商標権の効力の制限 | 回復した商標権の効力が及ばない行為(2つの号) | 特許法第175条/意匠法第55条 |
| 商標法第60条 | (見出しなし) | 再審の請求の登録前の善意の使用により周知になった商標を、使い続ける権利 | 特許法第176条/意匠法第56条 |
| 商標法第60条の2 | 審判の規定の準用 | 商標法の登録異議・審判の規定を再審に準用 | 特許法第174条第1項など/意匠法第57条 |
| 商標法第61条 | 特許法の準用 | 特許法第173条(再審の請求期間)、第174条第3項・第5項を準用 | 意匠法第58条第1項・第4項 |
| 商標法第62条 | 意匠法の準用 | 意匠法第58条第2項・第3項を準用(拒絶査定・補正却下の審判の再審) | 意匠法第58条第2項・第3項 |
| 商標法第63条 | 審決等に対する訴え | 東京高等裁判所の専属管轄。特許法第178条第2項〜第6項、第179条〜第182条を準用 | 特許法第178条〜第182条/意匠法第59条 |
〔表1〕商標法第六章の条文一覧と役割。e-Gov法令検索で確認した条文をもとに本記事作成者が整理(2026年9月参照)。
第57条 ― 再審の入口
確定した取消決定及び確定審決に対しては、当事者又は参加人は、再審を請求することができる。
2
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第三百三十八条第一項及び第二項並びに第三百三十九条(再審の事由)の規定は、前項の再審の請求に準用する。
| 部品 | 文言 | 意味 |
|---|---|---|
| 何に対して | 確定した取消決定及び確定審決 | 登録異議の申立てで商標登録を取り消す決定(取消決定)と、審判の審決。どちらも「確定した」ものに限る |
| だれが | 当事者又は参加人 | その手続に加わっていた人。無関係の第三者は原則として請求できない(例外は商標法第58条) |
| どんな理由で | 民事訴訟法第338条第1項及び第2項並びに第339条 | 裁判の再審と同じ理由を借りてくる。理由は限られている |
| どうなる | 再審を請求することができる | 特許庁で、もう一度審理してもらえる |
〔表2〕商標法第57条の部品分解(本記事作成者による整理)。
「維持決定」(商標登録をそのまま維持する決定)は第57条第1項に挙がっていません。再審の対象は「取消決定」と「審決」です。
第63条 ― 裁判所への入口
取消決定又は審決に対する訴え、第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十六条の二第一項の規定による却下の決定に対する訴え及び登録異議申立書又は審判若しくは再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
| 訴えの種類 | 何に対する不服か | かんたんな説明 |
|---|---|---|
| ① 取消決定又は審決に対する訴え | 登録異議の申立てについての取消決定/審判・再審の審決 | いちばん基本の訴え |
| ② 補正の却下の決定に対する訴え | 商標法第55条の2第3項(商標法第60条の2第2項で準用する場合を含む)で準用する商標法第16条の2第1項の却下の決定 | 拒絶査定に対する審判(又はその再審)の中で、審判官が補正を却下した場合。審査官のした却下(商標法第45条第1項の審判へ進む)とは別 |
| ③ 却下の決定に対する訴え | 登録異議申立書、審判の請求書、再審の請求書の却下の決定 | 書類の不備などで申立書・請求書そのものが却下された場合 |
〔表3〕商標法第63条第1項が挙げる3種類の訴え(本記事作成者による整理)。
「専属管轄(せんぞくかんかつ)」とは、「この裁判所だけが担当する」という意味です。ほかの裁判所には訴えを出せません。
審級の流れ
flowchart TB A["特許庁
登録異議の申立ての決定・審判の審決"] --> B{"取消決定又は審決に
不服がある?"} B -- "ある(謄本の送達から30日以内)" --> C["東京高等裁判所に訴えを提起
(商標法第63条第1項。専属管轄)"] B -- "ない/30日を経過" --> K["決定・審決が確定"] C --> D{"請求に理由がある?"} D -- "ある" --> E["審決又は決定を取り消す判決
(準用する特許法第181条第1項)"] E --> F["判決確定後、審判官が更に審理し
審決又は決定をする
(準用する特許法第181条第2項)"] D -- "ない" --> G["請求棄却の判決"] G --> H["最高裁判所への上告等
(民事訴訟法の定めによる)"] E --> H G --> K K --> R["確定後に再審の事由が見つかったとき
再審(商標法第57条・第58条)"] style E fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style K fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:審決・決定が取り消される結論(特許庁で審理がやり直される)
- 赤の箱:決定・審決が確定する結論(その後に争えるのは再審だけ)
【図3】特許庁 → 東京高等裁判所 → 最高裁判所の流れと、確定後の再審の位置づけ。条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの(上告等の要件は民事訴訟法によるため省略)。
特別の支部として、東京高等裁判所に知的財産高等裁判所を設ける。と定め、同条第2号で
特許法等の訴えに係る訴訟事件を取り扱わせるとしています。特許庁の審判便覧(第20版)80―00も、審決等取消訴訟は東京高等裁判所の特別の支部である知的財産高等裁判所が取り扱うと説明しています。
再審の時間の流れ
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠と丸:理由を知った日から30日のルール(枠=請求できる期間、丸=30日の終わり)
- 青緑の枠と丸:確定した日から3年のルール(枠=過ぎると請求できない、丸=3年の終わり)
- 赤い丸:取消決定又は審決が確定した日(3年の起算点)
- 藍の丸:請求人が再審の理由を知った日(30日の起算点)
【図4】再審の請求期間のタイムチャート。商標法第61条が準用する特許法第173条をもとに本記事作成者が図にしたもの(例外あり。〔表4〕参照)。時間軸に縮尺はありません。
- 商標法第六章は第57条〜第63条の8条。第57条〜第62条が再審、第63条が裁判所への訴え。
- 再審の対象は「確定した取消決定」と「確定審決」。請求できるのは当事者又は参加人(商標法第58条の場合は害された第三者)。
- 訴えは東京高等裁判所の専属管轄。対象は、①取消決定・審決、②審判での補正の却下の決定、③申立書・請求書の却下の決定。
- 出訴期間・被告などの細かいルールは、特許法の条文を借りている(準用。→レベル3)。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 再審の事由(商標法第57条第2項)
商標法第57条第2項は、民事訴訟法第338条第1項及び第2項並びに第339条を準用します。民事訴訟法第338条第1項は第1号〜第10号の事由を列挙しており、たとえば、代理権を欠いたこと(第3号)、証拠となった文書等の偽造・変造(第6号)、虚偽の陳述が証拠となったこと(第7号)、重要な事項についての判断の遺脱(第9号)、前に確定した判決との抵触(第10号)があります(要旨。適用条件と例外は下記の説明を参照)。
2. 詐害審決に対する再審(商標法第58条)
審判の請求人及び被請求人が共謀して第三者の権利又は利益を害する目的をもつて審決をさせたときは、その第三者は、その確定審決に対し再審を請求することができる。
2
前項の再審は、その請求人及び被請求人を共同被請求人として請求しなければならない。
文言は特許法第172条、意匠法第54条と同じです。「詐害審決」は講学上の呼称です。対象は「確定審決」であり、条文上「取消決定」は挙がっていません(登録異議の申立てには「請求人及び被請求人」という対立構造がないことに対応します。これは条文の構造からの本記事作成者の整理です)。商標で典型的に想定されるのは、たとえば商標権者と審判請求人が通じて商標登録を無効にさせ、専用使用権者や質権者などの第三者を害する場面です(作成者による例示)。
3. 再審の請求期間(商標法第61条 → 特許法第173条)
| 特許法第173条 | 内容(商標法第61条で準用) |
|---|---|
| 第1項 | 請求人が取消決定又は審決が確定した後再審の理由を知った日から30日以内 |
| 第2項 | 責めに帰することができない理由で第1項の期間内に請求できないときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、期間の経過後6月以内 |
| 第3項 | 法律の規定に従って代理されなかったことを理由とするときは、第1項の期間は、請求人又は法定代理人が送達により取消決定又は審決があったことを知った日の翌日から起算 |
| 第4項 | 取消決定又は審決が確定した日から3年を経過した後は請求できない |
| 第5項 | 再審の理由が確定後に生じたときは、第4項の期間は理由が発生した日の翌日から起算 |
| 第6項 | 当該審決が前にされた確定審決と抵触することを理由とする再審には、第1項・第4項を適用しない |
〔表4〕再審の請求期間。特許法第173条(e-Gov法令検索、法令ID 334AC0000000121、2026年9月参照)の要旨を本記事作成者が整理。数値は同条による。詳細は関連記事「特許法第171条〜第176条」へ。
4. 再審の手続に準用される規定(商標法第60条の2・第61条・第62条)
特許法は第174条の1か条で再審への準用をまとめていますが、商標法は3つの条文に分けています。自分の法律の規定を準用するのが商標法第60条の2、特許法を借りるのが商標法第61条、意匠法を借りるのが商標法第62条です。
| 再審の対象 | 根拠 | 準用される規定(原文の列挙) |
|---|---|---|
| 確定した取消決定 | 商標法第60条の2第1項 | 商標法第43条の3、第43条の5〜第43条の9、第43条の12〜第43条の15、商標法第56条第1項において準用する特許法第131条第1項、第131条の2第1項本文、第132条第3項、第154条、第155条第1項、第156条第1項・第3項・第4項、商標法第56条第2項において準用する特許法第155条第3項 |
| 商標法第44条第1項の審判(拒絶査定に対する審判)の確定審決 | 商標法第60条の2第2項 | 商標法第55条の2、第55条の3 |
| 商標法第62条第1項 | 意匠法第58条第2項(「第百六十七条の二本文、第百六十八条」を「第百六十八条」と読替え) | |
| 商標法第45条第1項の審判(補正の却下の決定に対する審判)の確定審決 | 商標法第60条の2第3項 | 商標法第55条の3、第56条の2 |
| 商標法第62条第2項 | 意匠法第58条第3項(同じ読替え) | |
| 商標法第46条第1項、第50条第1項、第51条第1項、第52条の2第1項、第53条第1項、第53条の2の審判(当事者系)の確定審決 | 商標法第60条の2第4項 | 商標法第55条の3 |
| 商標法第61条 | 特許法第174条第3項(「第百六十七条から第百六十八条まで」を「第百六十七条、第百六十八条」と、「特許無効審判又は延長登録無効審判」を上記6つの審判と読替え) | |
| すべての再審 | 商標法第61条 | 特許法第173条(再審の請求期間)、特許法第174条第5項(民事訴訟法第348条第1項(審理の範囲)の準用) |
〔表5〕再審の種類ごとの準用規定。商標法第60条の2、第61条、第62条の原文(e-Gov、2026年9月参照)をもとに本記事作成者が整理。
審決は、審判事件ごとに確定する。ただし、指定商品又は指定役務ごとに請求された商標法第46条第1項の審判の審決は指定商品又は指定役務ごとに確定)があり、これを商標法第60条の2第2項〜第4項で再審に準用しているためです。これは条文の構造からの本記事作成者の整理であり、立法趣旨として確認したものではありません。
5. 再審により回復した商標権の効力の制限(商標法第59条)
取り消し、若しくは無効にした商標登録に係る商標権が再審により回復したときは、商標権の効力は、次に掲げる行為には、及ばない。
一
当該取消決定又は審決が確定した後再審の請求の登録前における当該指定商品又は指定役務についての当該登録商標の善意の使用
二
当該取消決定又は審決が確定した後再審の請求の登録前に善意にした第三十七条各号に掲げる行為
| 号 | 対象となる行為 | 時期 | 主観 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 指定商品又は指定役務についての登録商標の使用(講学上の「専用権」の範囲の使用) | 取消決定又は審決が確定した後、再審の請求の登録前 | 善意 |
| 第2号 | 商標法第37条各号に掲げる行為(類似範囲の使用や予備的行為など、侵害とみなす行為) |
〔表6〕商標法第59条各号の整理(本記事作成者による)。「専用権」は講学上の呼称。
「取り消し、若しくは無効にした」とあるので、登録異議の取消決定、取消審判の審決、無効審判の審決のいずれで消えた商標権でも対象になります。特許法第175条は「物」に着目した第1項と行為を列挙する第2項の2項構成ですが、商標法第59条は1項2号の構成です。
6. 再審の請求の登録前の使用による「商標の使用をする権利」(商標法第60条)
取り消し、若しくは無効にした商標登録に係る商標権が再審により回復した場合、又は拒絶をすべき旨の審決があつた商標登録出願について再審により商標権の設定の登録があつた場合において、当該取消決定又は審決が確定した後再審の請求の登録前に善意に日本国内において当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について当該登録商標又はこれに類似する商標の使用をした結果、再審の請求の登録の際現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
2
第三十二条第二項の規定は、前項の場合に準用する。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:商標法第59条が守る範囲(この間の過去の行為に効力が及ばない)
- 藍の枠:商標法第60条の要件(この間の善意の使用)
- 橙の枠:商標法第60条で得られる結果(将来に向けた継続使用)
- 藍の破線:再審の請求の登録の時点(第59条と第60条の区切り)
【図5】商標法第59条と第60条の時間的な関係。条文をもとに本記事作成者が図にしたもの。
flowchart TB S["商標権が再審により回復した
又は 拒絶をすべき旨の審決があった出願について
再審により設定の登録があった"] --> Q1{"取消決定又は審決の確定後
再審の請求の登録前の使用か"} Q1 -- "はい" --> Q2{"善意に 日本国内において
同一・類似の範囲で使用をしたか"} Q1 -- "いいえ" --> N1["商標法第60条の権利なし"] Q2 -- "はい" --> Q3{"その結果 再審の請求の登録の際
現に需要者の間に
広く認識されているか"} Q2 -- "いいえ" --> N1 Q3 -- "はい" --> Q4{"継続してその商品又は役務に
その商標の使用をするか"} Q3 -- "いいえ" --> N2["使い続ける権利はない
過去の行為は商標法第59条の範囲で保護"] Q4 -- "はい" --> Y["その商品又は役務について
その商標の使用をする権利を有する
業務を承継した者も同様"] Q4 -- "いいえ" --> N1 Y --> Z["商標権者又は専用使用権者は
混同防止表示を請求できる
(商標法第32条第2項の準用)"] style Y fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:商標法第60条の「商標の使用をする権利」が認められる結論
- 赤の箱:その権利は認められない結論
【図6】商標法第60条の判断手順。条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの。
| 比較項目 | 商標法第60条 | 特許法第176条 | 意匠法第56条 |
|---|---|---|---|
| 場面 | 取り消し・無効にした商標登録に係る商標権の回復/拒絶をすべき旨の審決があった出願の再審による設定の登録 | 取り消し・無効にした特許に係る特許権等の回復/拒絶をすべき旨の審決があった出願の再審による設定の登録等(延長登録を含む) | 無効にした意匠登録に係る意匠権の回復/拒絶をすべき旨の審決があった出願の再審による設定の登録 |
| 対象者 | 善意に日本国内において使用をした結果、周知にした者(業務を承継した者も同様) | 善意に日本国内において発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者 | 善意に日本国内において意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者 |
| 周知性 | 必要再審の請求の登録の際現に需要者の間に広く認識 | 不要 | 不要 |
| 事業の準備 | 対象外(文言は「使用をした結果」) | 対象 | 対象 |
| 得られる権利 | その商品又は役務についてその商標の使用をする権利(継続して使用をする場合) | 実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内の通常実施権 | 実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内の通常実施権 |
| 混同防止表示の請求 | あり(商標法第32条第2項の準用) | なし | なし |
| 対価 | 条文に定めなし | 条文に定めなし | 条文に定めなし |
〔表7〕再審の請求の登録前の使用・実施による権利の三法比較。各条の原文(e-Gov、2026年9月参照)をもとに本記事作成者が整理。
出典:逐条解説〔第22版〕1773頁〜1774頁。
7. 審決等に対する訴え ― 準用される特許法の規定(商標法第63条第2項)
特許法第百七十八条第二項から第六項まで(出訴期間等)及び第百七十九条から第百八十二条まで(被告適格、出訴の通知等、審決取消訴訟における特許庁長官の意見、審決又は決定の取消し及び裁判の正本等の送付)の規定は、前項の訴えに準用する。この場合において、同法第百七十九条中「特許無効審判若しくは延長登録無効審判」とあるのは、「商標法第四十六条第一項、第五十条第一項、第五十一条第一項、第五十二条の二第一項、第五十三条第一項若しくは第五十三条の二の審判」と読み替えるものとする。
| 準用される特許法の規定 | 内容(要旨) | 商標法での注意 |
|---|---|---|
| 特許法第178条第2項 | 訴えを提起できるのは、当事者、参加人、又は審理・審判・再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限る | 原告適格。だれでも提起できるわけではない |
| 特許法第178条第3項 | 審決又は決定の謄本の送達があった日から30日を経過した後は提起できない | 出訴期間 |
| 特許法第178条第4項 | 第3項の期間は不変期間 | ― |
| 特許法第178条第5項 | 審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で附加期間を定めることができる | ― |
| 特許法第178条第6項 | 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ提起できない | 拒絶査定や、審査官のした補正の却下の決定に対して、いきなり訴えは提起できない(審決を経る) |
| 特許法第179条 | 被告は特許庁長官。ただし当事者系の審判(及びその再審)の審決に対する訴えは、請求人又は被請求人が被告 | 読替えあり(→〔表9〕) |
| 特許法第180条 | 当事者系の訴えの提起があったとき、裁判所は特許庁長官に通知等をする | 読替えなし |
| 特許法第180条の2 | 当事者系の訴えで、裁判所は特許庁長官に意見を求めることができ、特許庁長官は裁判所の許可を得て意見を述べることができる | ― |
| 特許法第181条 | 請求に理由があるときは審決又は決定を取り消す(第1項)。取消しの判決が確定したときは、審判官は更に審理を行い、審決又は決定をする(第2項) | 裁判所は自ら商標登録を無効にしたり登録を命じたりせず、特許庁に戻る |
| 特許法第182条 | 当事者系の訴えについて、裁判所は裁判の正本等を特許庁長官に送付する | ― |
〔表8〕商標法第63条第2項で準用される特許法の規定。特許法第178条〜第182条の原文(e-Gov、法令ID 334AC0000000121、2026年9月参照)の要旨を本記事作成者が整理。詳細は関連記事「特許法第178条〜第182条の2」へ。
8. 被告はだれか(特許法第179条の読替え)
準用される特許法第179条は、本文で特許庁長官を被告としなければならない。
と定め、ただし書で当事者系の審判等についてその審判又は再審の請求人又は被請求人を被告としなければならない。
と定めます。商標法第63条第2項の読替えにより、ただし書の対象は商標法の6つの当事者系審判になります。
| 訴えの対象 | 系統(講学上の呼称) | 被告 |
|---|---|---|
| 商標法第44条第1項の審判(拒絶査定に対する審判)の審決 | 査定系 | 特許庁長官 |
| 商標法第45条第1項の審判(補正の却下の決定に対する審判)の審決 | 査定系 | 特許庁長官 |
| 登録異議の申立てについての取消決定 | 登録異議 | 特許庁長官(登録異議申立人ではない) |
| 審判での補正の却下の決定(商標法第55条の2第3項で準用する商標法第16条の2第1項) | 査定系 | 特許庁長官 |
| 登録異議申立書、審判・再審の請求書の却下の決定 | ― | 特許庁長官 |
| 商標法第46条第1項(無効)、第50条第1項、第51条第1項、第52条の2第1項、第53条第1項、第53条の2(取消し)の審判の審決 | 当事者系 | その審判の請求人又は被請求人(相手方) |
| 上記6つの審判の確定審決に対する再審の審決 | 当事者系 | その再審の請求人又は被請求人 |
| 査定系の審判の確定審決・確定した取消決定に対する再審の審決・決定 | 査定系・登録異議 | 特許庁長官(特許法第179条本文) |
〔表9〕訴えの対象ごとの被告。商標法第63条第2項で読み替えて準用する特許法第179条をもとに本記事作成者が整理。「査定系」「当事者系」は講学上・実務上の呼称。
flowchart TB
A["特許庁の判断に不服がある"] --> B{"どの判断か"}
B -- "商標登録を維持すべき旨の決定" --> X1["不服申立て不可
(商標法第43条の3第5項)"]
B -- "登録異議の取消決定" --> P["被告=特許庁長官"]
B -- "拒絶査定・審査官のした
補正の却下の決定" --> X2["まず審判を請求する
(商標法第44条・第45条)
直接の訴えは不可
(準用する特許法第178条第6項)"]
B -- "審判の審決" --> C{"審判の種類"}
C -- "商標法第44条第1項・
第45条第1項の審判" --> P
C -- "商標法第46条第1項、第50条第1項、
第51条第1項、第52条の2第1項、
第53条第1項、第53条の2の審判" --> Q["被告=その審判の
請求人又は被請求人"]
B -- "申立書・請求書の却下の決定
審判での補正の却下の決定" --> P
P --> T["東京高等裁判所へ
謄本の送達から30日以内"]
Q --> T
style X1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style X2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style T fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:東京高等裁判所に訴えを提起できる
- 赤の箱:その決定に対して直接の訴えはできない
【図7】不服申立ての可否と被告の分岐図。条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの(防護標章登録に関する審判は省略。例外あり)。
9. 不服を申し立てられない決定
| 決定 | 根拠 | 訴え・再審との関係 |
|---|---|---|
| 商標登録を維持すべき旨の決定(維持決定) | 商標法第43条の3第5項前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。 | 商標法第63条第1項の「取消決定」に当たらず、商標法第57条第1項の再審の対象にも挙がっていない。登録異議申立人は、別途、商標法第46条第1項の無効審判を請求する道がある(利害関係人であること等の要件は関連記事へ) |
| 登録異議の申立てについての、特許法第135条を準用した却下の決定 | 商標法第43条の15第2項 | 不服申立て不可(既刊記事「商標法第43条の2」参照) |
〔表10〕不服を申し立てられない決定(本記事作成者による整理)。
10. 拒絶理由・異議理由・無効理由との関係
商標法第57条〜第63条は、決定・審決が出た後の手続と、回復した商標権の効力の制限を定める規定です。商標法第15条(拒絶の理由)、第43条の2(登録異議の申立ての理由)、第46条第1項(無効の理由)の列挙には含まれず、商標法第47条(除斥期間)の対象でもありません。
11. 四法の対応表
| 項目 | 商標法 | 特許法 | 意匠法 | 実用新案法 |
|---|---|---|---|---|
| 再審の請求 | 第57条(確定した取消決定及び確定審決) | 第171条(確定した取消決定及び確定審決) | 第53条(確定審決) | 第42条(確定審決) |
| 詐害審決の再審 | 第58条 | 第172条 | 第54条 | 第43条 |
| 再審の請求期間 | 第61条(特許法第173条準用) | 第173条 | 第58条第1項(特許法第173条準用) | 第45条(特許法第173条準用) |
| 回復した権利の効力の制限 | 第59条(1項2号) | 第175条(2項構成) | 第55条 | 第44条 |
| 再審の請求の登録前の使用・実施 | 第60条(周知性が必要。商標の使用をする権利) | 第176条(通常実施権) | 第56条(通常実施権) | 第45条が特許法第176条を準用(通常実施権) |
| 審決等に対する訴え | 第63条 | 第178条 | 第59条 | 第47条 |
| 訴えの対象に「取消決定」 | あり | あり | なし(異議制度なし) | なし |
| 審判での補正の却下の決定に対する訴え | あり(第63条第1項) | 特許法第178条第1項に該当の文言なし | あり(第59条第1項。意匠法第50条第1項で準用する意匠法第17条の2第1項) | ― |
| 特許法第179条の読替え | あり(6つの審判) | ― | 意匠法第59条第2項に第179条の読替えなし(読替えは特許法第182条第2号について) | 実用新案法第47条第2項に第179条の明文読替えなし |
| 対価の額についての訴え | なし(商標法第六章は第63条まで) | (関連記事へ) | 第60条 | 第48条 |
〔表11〕再審・訴訟の四法対応表。各法の章(商標法第六章、特許法第七章・第八章、意匠法第六章、実用新案法第六章)をe-Govで確認できた範囲で本記事作成者が整理(2026年9月参照)。
12. 審決取消訴訟に関する判例
審決取消訴訟の審理範囲など、特許法第178条以下に関する最高裁判所の判例は、特許法シリーズの関連記事に委ねます。
13. 取消しの判決が確定した後
準用する特許法第181条第2項により、審決又は決定の取消しの判決が確定したときは、審判官は更に審理を行い、審決又は決定をします。特許庁の審判便覧(第20版)80―00は、行政事件訴訟法第33条を引いて、取消判決がその事件について当事者である行政庁その他の関係行政庁を拘束する旨を説明しています。
なお、特許法第181条第2項後段(訂正の請求がされた一群の請求項に関する部分)は、商標法に訂正の請求の制度がないため、商標法では適用の場面がありません(条文の構造からの本記事作成者の整理。商標法第63条第2項にこの点の読替え規定はありません)。
試験での問われ方
| 論点 | 条文上の答えの出どころ |
|---|---|
| 再審の対象に取消決定が入るか、維持決定はどうか | 商標法第57条第1項、第43条の3第5項 |
| 詐害審決の再審の請求人と被請求人 | 商標法第58条第1項・第2項 |
| 商標法第60条に周知性が必要か、事業の準備で足りるか | 商標法第60条第1項と特許法第176条の文言の比較 |
| 商標法第60条に対価・混同防止表示の請求があるか | 商標法第60条第2項(商標法第32条第2項のみ準用) |
| 取消決定に対する訴えの被告 | 商標法第63条第2項で準用する特許法第179条 |
| 取消審判(商標法第50条第1項等)の審決に対する訴えの被告 | 同上(読替え) |
| 出訴期間と、その性質 | 準用する特許法第178条第3項〜第5項 |
| 管轄 | 商標法第63条第1項(文言は「東京高等裁判所」) |
〔表12〕問われやすいと考えられる論点と条文の対応(本記事作成者による整理。出題を保証するものではありません)。
- 再審の事由は民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条の準用。請求期間は特許法第173条の準用(理由を知った日から30日以内、確定の日から3年。例外あり)。
- 再審への準用は、商標法第60条の2(自法)、第61条(特許法)、第62条(意匠法)の3本立て。読替えはいずれも特許法第167条の2を外す形で、商標法第55条の3が代わりに準用される。
- 商標法第59条は過去の善意の使用等を守り、商標法第60条は周知になった場合に限り継続使用を認める。特許法第176条・意匠法第56条と異なり、周知性が必要で、事業の準備は文言にない。
- 訴えは東京高等裁判所の専属管轄、出訴期間は謄本の送達から30日(不変期間。附加期間あり)。被告は原則として特許庁長官、無効・取消しの6つの審判(及びその再審)の審決については相手方。
- 維持決定には不服を申し立てられない(商標法第43条の3第5項)。特許法第182条の2は商標法第63条第2項の準用の列挙にない。
