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小学生でも分かる意匠法|意匠法第53条〜第58条 再審 ― 「決まったはずの審決」をもう一度やり直せる、ごく例外的な出口

小学生でもわかる意匠法 34:再審(第53条〜第58条)

小学生でも分かる意匠法 / D. 審判・訴訟 #34

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審判の結論(審決)が確定すると、ふつうはもう争えません。ところが、審決がウソの証拠でできていた、審判官が犯罪をしていた、というような重大な事情があるときだけ、確定した審決をやり直せる手続があります。それが「再審」です。意匠法は第53条〜第58条の6か条で、再審を請求できる人、こっそり共謀して第三者を害した審決への再審、再審で権利がよみがえったときに「その間に善意で動いていた人」を守るルール、そして特許法からの借用(準用)を定めています。

条文:意匠法第53条〜第58条準用:民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条/特許法第173条・第174条第3項・第5項対比:特許法第171条〜第177条、実用新案法第42条〜第45条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「確定」したら、ふつうはもう動かせない

学校の運動会で、リレーの順位が決まって表彰式も終わったとします。あとから「もう一回走らせて」と言っても、ふつうは聞いてもらえません。決まったことを何度もひっくり返せると、いつまでも落ち着かないからです。

意匠法の審判(たとえば、コップのデザインの意匠登録を「無効」にするかどうかを決める審判)も同じです。特許庁の審判の結論を審決といい、これに不服なら裁判所に訴えることができますが、その期間も過ぎて結論が確定すると、もう争えないのが原則です。

でも、「ズル」があったら?

もし、リレーの順位を決めた審判員が、ある選手からお金をもらっていたら? もし、順位を決めるのに使ったビデオが作り物だったら? こういうとても重い事情があるときだけ、「決まったこと」をもう一度やり直せる非常口が用意されています。これが再審(さいしん)です。

審判 「このデザイン登録は 無効」などの結論=審決 確定 扉がしまる (ふつうは開かない) 再審 重い事情がある時だけ 扉を開けてやり直す 扉を開ける「かぎ」の例 証拠の書類がにせ物だった 証人がうそを言っていた 審判官が職務で罪を犯した

審判の手続・再審事由の例 確定(原則は開かない) 再審=破線の非常口(例外)

図は左右にスクロールできます。

【図1】再審のイメージ。確定した審決の扉は、重い事情(再審事由)という「かぎ」があるときだけ開く。

こっそり手を組んで、ほかの人をだますケース

もう一つ、特別な非常口があります。審判で争っている2人が、じつは裏で手を組んでいて、わざとある結論を出させ、それで関係ない第三者が損をする、というケースです。たとえば、椅子のデザインの権利をAさんが持っていて、Bさんがそれを借りて椅子を作っているとします。AさんとCさんがグルになり、わざと「Aさんの登録は無効」という審決を出させれば、Bさんの「借りる権利」も消えてしまうかもしれません。こういうとき、だまされたBさんのような第三者も再審を請求できます(第54条)。

やり直して権利がよみがえったとき、「その間に動いた人」はどうなる?

「無効」の審決が確定すると、みんな「あのデザインはもう誰でも使っていい」と思います。それを信じて、スマホの画面デザインをまねしたアプリを作って売る人も出てきます。ところが、再審で権利がよみがえったら、その人は急に「権利侵害」になってしまうのでしょうか?

それではあまりにかわいそうなので、意匠法は「審決が確定してから、再審の請求が登録されるまで」の間に、何も知らずに(善意で)作ったり買ったりした物には権利が届かないことにし(第55条)、さらに、その間に善意で事業を始めた人には、そのまま続けられる権利(通常実施権)を与えています(第56条)。

「無効」の審決が確定 権利が消えたと みんなが思う 再審の請求が登録される ここから先は「知らなかった」 と言えなくなる目安 権利がよみがえる この間に善意で作った物・始めた事業 → 権利は届かない(第55条)/続けてよい(第56条)

丸=時点(できごと) 帯=善意の行為が守られる期間

図は左右にスクロールできます。

【図2】再審で権利がよみがえっても、「審決の確定後〜再審請求の登録前」に善意でした行為は守られる。(時間軸は縮尺なし)

再審=確定した審決をやり直す非常口
開くのは「重い事情」があるときだけ
共謀でだまされた第三者も請求できる
その間の「善意の人」は守られる
レベル1のまとめ

  • 審決が確定すると、ふつうはもう争えない。でも、証拠がにせ物だった等の重い事情があるときは「再審」でやり直せる。
  • 審判の2人が共謀して第三者に損をさせる審決を出させたときは、その第三者も再審を請求できる。
  • 再審で権利がよみがえっても、審決の確定後〜再審の請求の登録前に善意でした行為には権利が届かず、善意で始めた事業は続けられる。

※「重い事情」の正確な一覧(再審事由)、請求できる期間(30日・3年など)、守られる行為の細かい範囲は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

意匠法の「第六章 審判」に続く「第七章 再審及び訴訟」のうち、再審の部分が第53条〜第58条です。第54条と第56条には条文見出しがありません(e-Gov法令検索で確認。特許法第172条・第176条、実用新案法第43条にも見出しがありません)。以下、原文はすべて e-Gov法令検索(意匠法:法令ID 334AC0000000125)から2026年9月に取得したものです。

条 見出し ひとことで
第53条 再審の請求 誰が・何に対して再審を請求できるか。再審事由は民事訴訟法を準用
第54条 (見出しなし) 共謀による詐害審決に対する第三者の再審
第55条 再審により回復した意匠権の効力の制限 善意で取得した物・善意の行為には意匠権が及ばない
第56条 (見出しなし) 再審の請求登録前の善意の実施事業者に通常実施権
第57条 審判の規定の準用 意匠法第50条第1項・第3項、第51条を再審に準用
第58条 特許法の準用 請求期間(特許法第173条)・審理の範囲・審判手続規定を準用

〔表1〕意匠法第53条〜第58条の全体マップ。

第53条 ― 再審の請求(誰が・何に・どんな理由で)

意匠法第53条第1項(原文)
確定審決に対しては、当事者又は参加人は、再審を請求することができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第53条第2項(原文)
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第三百三十八条第一項及び第二項並びに第三百三十九条(再審の事由)の規定は、前項の再審の請求に準用する。
要素 第53条の内容 補足
対象 「確定審決」 確定前の審決は対象外(確定前は意匠法第59条第1項の審決取消訴訟で争う)。特許法第171条第1項が「確定した取消決定及び確定審決」としているのと異なり、意匠法には異議申立制度(取消決定)がないため「確定審決」のみ
請求人 「当事者又は参加人」 審判の当事者(請求人・被請求人・拒絶査定不服審判の請求人など)と参加人
再審事由 民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条を準用 民事訴訟法第338条第3項(控訴審で本案判決をしたときの制限)は準用されていない

〔表2〕意匠法第53条の分解。

再審事由(民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条)

再審は「重い事情」があるときだけ請求できます。その一覧が民事訴訟法第338条第1項各号です。下の表の原文は、すべて e-Gov法令検索(民事訴訟法:法令ID 408AC0000000109)から2026年9月に号・項単位で逐語取得し、条全体の再取得結果とも照合したものです。

号 内容(原文) 区分
柱書 「次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。」 原文
第1号 「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。」 原文
第2号 「法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。」 原文
第3号 「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」 原文
第4号 「判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。」 原文
第5号 「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。」 原文
第6号 「判決の証拠となった文書その他の物件が偽造され若しくは変造されたものであったこと又は判決の証拠となった電磁的記録が不正に作られたものであったこと。」 原文
第7号 「証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。」 原文
第8号 「判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。」 原文
第9号 「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。」 原文
第10号 「不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。」 原文
第2項 「前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」 原文
第339条 「判決の基本となる裁判について前条第一項に規定する事由がある場合(同項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合にあっては、同条第二項に規定する場合に限る。)には、その裁判に対し独立した不服申立ての方法を定めているときにおいても、その事由を判決に対する再審の理由とすることができる。」 原文

〔表3〕再審事由の一覧(民事訴訟法第338条第1項各号・第2項、第339条)。審決に準用する際は「判決」を「審決」、「裁判官」を「審判官」と読むことになりますが、意匠法第53条第2項自体に読替え規定はありません。特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(以下「青本〔第22版〕」)の意匠法第53条は趣旨を特許法第171条に委ねており(青本〔第22版〕意匠法1371頁)、特許法第171条の解説にも「判決」「裁判官」の読み方を明示した記述は見当たりませんでした。

「準用」の意味民事訴訟法は裁判所の判決のための法律です。意匠法第53条第2項は、その中の「再審の事由」の部分だけを、特許庁の審決に「当てはめて使う(準用する)」と定めています。第338条第3項が準用されていない理由について、逐条解説は、同項は控訴審で本案判決をしたときに第一審判決への再審を封じる規定であるところ、民事訴訟の控訴審に相当する抗告審判の制度を現行法は採らなかったので準用の余地がなくなった、と説明しています(青本〔第22版〕特許法573頁。意匠法第53条の趣旨は特許法第171条を参照とされています〔同 意匠法1371頁〕)。
逐条解説による再審の趣旨逐条解説は、再審を、確定した判決の後に特別の理由に基づいて認められる非常の不服申立方法と位置づけ、確定審決を争わせることは法的安定性を害するが、不服申立ての途を一切閉ざすと具体的妥当性の要請に反するため、手続の重大な瑕疵など一定の理由がある場合に限って認めるものと説明しています。また、民事訴訟法第339条を準用することで、参加の許否の決定などの中間的な処分に再審理由がある場合にも確定審決に対して再審を請求できることになる、と説明しています(青本〔第22版〕特許法571〜573頁)。参加人に請求適格を認めた理由についても、同じ箇所で民事訴訟法の改正に合わせた事後的な救済の必要から説明されています。

第54条 ― 共謀による詐害審決に対する第三者の再審

意匠法第54条第1項(原文)
審判の請求人及び被請求人が共謀して第三者の権利又は利益を害する目的をもつて審決をさせたときは、その第三者は、その確定審決に対し再審を請求することができる。
意匠法第54条第2項(原文)
前項の再審は、その請求人及び被請求人を共同被請求人として請求しなければならない。
要素 第54条の内容 ポイント
誰と誰が 「審判の請求人及び被請求人」が 請求人と被請求人がいる審判(意匠登録無効審判が典型)が前提。拒絶査定不服審判のように被請求人がいない審判では起こらない
何をした 「共謀して第三者の権利又は利益を害する目的をもつて審決をさせた」 共謀+害する目的+審決をさせたこと
誰が請求 「その第三者」 第53条の「当事者又は参加人」ではない者に請求人適格を認める特則
誰を相手に 「その請求人及び被請求人を共同被請求人として」 2人をまとめて相手方にしなければならない(必要的)

〔表4〕意匠法第54条(詐害審決に対する再審)の要件。

審判の請求人 (例:無効審判を請求) 審判の被請求人 (例:意匠権者) 共謀 審決(確定) 第三者を害する目的 第三者 (例:通常実施権者) 再審を請求(2人を共同被請求人に)第54条

共謀した当事者 害する目的の確定審決(破線=共謀) 害された第三者=再審請求人

図は左右にスクロールできます。

【図3】詐害審決に対する再審(意匠法第54条)の相関図。「第三者」の具体例は本記事作成者による架空の例です。なお逐条解説は、特許権者が質権を設定した後、無効審判の請求人と共謀して特許を無効にする審決を確定させ、質権者の利益が害される場合を例に挙げ、その質権者に再審の請求を許して救済するのが趣旨だと説明しています(青本〔第22版〕特許法574頁。意匠法第54条の趣旨は特許法第172条を参照とされています〔同 意匠法1372頁〕)。

第55条 ― 再審により回復した意匠権の効力の制限

意匠法第55条第1項(原文)
無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回復したときは、意匠権の効力は、当該審決が確定した後再審の請求の登録前に、善意に輸入をし、若しくは日本国内において製造若しくは取得をした当該登録意匠若しくはこれに類似する意匠に係る物品若しくは画像記録媒体等、善意に日本国内において建築若しくは取得をした当該登録意匠若しくはこれに類似する意匠に係る建築物又は善意に日本国内において作成若しくは取得をした当該登録意匠若しくはこれに類似する意匠に係る画像には、及ばない。

長い条文ですが、構造は「いつ」「何に」意匠権が及ばないか、を物品・建築物・画像の3本立てで書いたものです。

要素 内容
場面 「無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回復したとき」(無効審決が再審でくつがえった場合)
期間 「当該審決が確定した後再審の請求の登録前」
主観 「善意に」(逐条解説は、権利の拘束から脱したと信じて実施した者が遡って侵害者となるのは公平の原則に反するとし、悪意の実施者は遡って侵害者となっても不当ではないから善意を要件にした、と説明しています〔青本〔第22版〕特許法582〜583頁〕。「善意」の語そのものの定義を示した記述は、青本〔第22版〕の該当条には見当たりませんでした)
対象(物品) 輸入をし、若しくは日本国内において製造若しくは取得をした、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る「物品若しくは画像記録媒体等」
対象(建築物) 日本国内において建築若しくは取得をした、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る「建築物」
対象(画像) 日本国内において作成若しくは取得をした、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る「画像」
効果 意匠権の効力が「及ばない」

〔表5〕意匠法第55条第1項の分解。物品・建築物・画像の3本立ては令和元年改正(令和2年4月1日施行。特許庁 令和元年意匠法改正特設サイト、2026年9月参照)で意匠の定義が拡大されたことに対応しています。逐条解説は、令和元年の一部改正で建築物及び画像を意匠の定義に追加したことに伴い、第1項を改正し、第2項に第4号から第7号を新設して、建築物・画像についても物品と同様に効力の及ばない範囲を定めたと説明しています(青本〔第22版〕意匠法1374頁)。改正前の第55条の文言そのものは本記事では取得していません。

意匠法第55条第2項(原文・柱書)
無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回復したときは、意匠権の効力は、当該審決が確定した後再審の請求の登録前における次に掲げる行為には、及ばない。
意匠法第55条第2項各号(原文)
一 当該意匠又はこれに類似する意匠の善意の実施
二 善意に、当該登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造に用いる物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等について行つた次のいずれかに該当する行為
イ 当該製造に用いる物品又はプログラム等記録媒体等の製造、譲渡、貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をした行為
ロ 当該製造に用いるプログラム等の作成又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出をした行為
三 善意に、当該登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を譲渡、貸渡し又は輸出のために所持した行為
四 善意に、当該登録意匠又はこれに類似する意匠に係る建築物の建築に用いる物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等について行つた次のいずれかに該当する行為
イ 当該建築に用いる物品又はプログラム等記録媒体等の製造、譲渡、貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をした行為
ロ 当該建築に用いるプログラム等の作成又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出をした行為
五 善意に、当該登録意匠又はこれに類似する意匠に係る建築物を譲渡又は貸渡しのために所有した行為
六 善意に、当該登録意匠又はこれに類似する意匠に係る画像の作成に用いる物品若しくは画像若しくは一般画像記録媒体等又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等について行つた次のいずれかに該当する行為
イ 当該作成に用いる物品若しくは一般画像記録媒体等又はプログラム等記録媒体等の製造、譲渡、貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をした行為
ロ 当該作成に用いる画像又はプログラム等の作成又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出をした行為
七 善意に、当該登録意匠若しくはこれに類似する意匠に係る画像を電気通信回線を通じた提供のために保有した行為又は当該登録意匠若しくはこれに類似する意匠に係る画像記録媒体等を譲渡、貸渡し若しくは輸出のために所持した行為
号 意匠の種類 行為の性質 対応する「侵害とみなす行為」(意匠法第38条)との関係
第1号 共通 意匠の「善意の実施」そのもの 直接実施(意匠法第23条の効力の対象)
第2号 物品 製造に用いる物品・プログラム等の製造・譲渡等・作成・提供等 間接侵害型の行為(逐条解説は、平成14年・平成18年・令和元年の各改正で、回復した意匠権の効力の及ばない範囲を間接侵害規定の改正に合わせたものにしたと説明しています〔青本〔第22版〕意匠法1374頁〕。第38条の号ごとの一対一の対応関係までは青本〔第22版〕に記載がなく、本表の号の対応は本記事作成者の整理です)
第3号 物品 譲渡・貸渡し・輸出のための所持 同上
第4号 建築物 建築に用いる物品・プログラム等の製造・譲渡等・作成・提供等 同上
第5号 建築物 譲渡・貸渡しのための「所有」 同上(建築物は「所持」ではなく「所有」)
第6号 画像 作成に用いる物品・画像・記録媒体等・プログラム等の製造・譲渡等・作成・提供等 同上
第7号 画像 提供のための「保有」/画像記録媒体等の譲渡・貸渡し・輸出のための所持 同上

〔表6〕意匠法第55条第2項各号の整理。物品=第2号・第3号、建築物=第4号・第5号、画像=第6号・第7号という対応で読むと覚えやすい。

逐条解説による第55条の趣旨意匠法第55条の趣旨は特許法第175条を参照とされています(青本〔第22版〕意匠法1374頁)。特許法第175条について逐条解説は、無効になった権利が再審で回復すると審決確定から回復までの間も権利が存在したことになり、その間の実施がすべて侵害になってしまうが、権利の拘束から脱したと信じて実施した者が遡って侵害者となるのは公平の原則に反するので、善意の者を侵害者としないことにした、と説明しています。「再審の請求の登録前」と時点を区切ったのは、再審の請求があると予告登録をし公報にも掲載して請求の事実を公知にするので、それ以降の実施者は悪意とみなしても苛酷ではないからだ、とも説明しています(青本〔第22版〕特許法582〜583頁)。また、令和3年の一部改正で「輸入」に外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれることとされた(意匠法第2条第2項)のに伴い、本条の輸入にも同様の行為が含まれることとした、と説明しています(青本〔第22版〕意匠法1374頁)。

第56条 ― 再審の請求登録前の実施による通常実施権

意匠法第56条(原文)
無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回復したとき、又は拒絶をすべき旨の審決があつた意匠登録出願について再審により意匠権の設定の登録があつたときは、当該審決が確定した後再審の請求の登録前に善意に日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠権について通常実施権を有する。
要素 第56条の内容 第55条との違い
場面 ①無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回復したとき、または②拒絶をすべき旨の審決があった意匠登録出願について再審により意匠権の設定の登録があったとき 第55条は①のみ。第56条は②(拒絶審決→再審→登録)もカバー
期間 「当該審決が確定した後再審の請求の登録前」 同じ
主観・場所 「善意に日本国内において」 第55条第1項は輸入も対象だが、第56条は国内の事業に限る
要件 「当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者」 事業の「準備」でもよい
効果 「その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠権について通常実施権を有する」 第55条は「効力が及ばない」(過去の行為・物の免責)、第56条は「通常実施権」(将来も続けられる)

〔表7〕意匠法第56条の要件と、第55条との役割分担。

逐条解説による第56条の趣旨意匠法第56条の趣旨は特許法第176条を参照とされています(青本〔第22版〕意匠法1375頁)。逐条解説は、特許法第176条の通常実施権をいわゆる後用権と呼び、前条(第175条)が公平の原則に立って善意の実施者を保護するにとどまるのに対し、本条はさらに事業設備の維持という社会経済的な見地を加えて通常実施権を認めたものであり、権利の回復後も引き続き実施を続けられる点で前条と異なる、と説明しています(青本〔第22版〕特許法583〜585頁)。

第57条・第58条 ― 準用(借りてくるルール)

意匠法第57条(原文)
第五十条第一項及び第三項の規定は、拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審に準用する。
2 第五十一条の規定は、補正却下決定不服審判の確定審決に対する再審に準用する。
意匠法第58条第1項(原文)
特許法第百七十三条及び第百七十四条第五項の規定は、再審に準用する。
意匠法第58条第2項(原文)
特許法第百三十一条第一項、第百三十一条の二第一項本文、第百三十二条第三項及び第四項、第百三十三条、第百三十三条の二、第百三十四条第四項、第百三十五条から第百四十七条まで、第百五十条から第百五十二条まで、第百五十五条第一項、第百五十六条第一項、第三項及び第四項、第百五十七条、第百五十八条、第百六十条、第百六十七条の二本文、第百六十八条、第百六十九条第三項から第六項まで並びに第百七十条の規定は、拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審に準用する。この場合において、同法第百六十九条第三項中「拒絶査定不服審判及び訂正審判」とあるのは、「拒絶査定不服審判」と読み替えるものとする。
意匠法第58条第3項(原文)
特許法第百三十一条第一項、第百三十一条の二第一項本文、第百三十二条第三項及び第四項、第百三十三条、第百三十三条の二、第百三十四条第四項、第百三十五条から第百四十七条まで、第百五十条から第百五十二条まで、第百五十五条第一項、第百五十六条第一項、第三項及び第四項、第百五十七条、第百六十七条の二本文、第百六十八条、第百六十九条第三項から第六項まで並びに第百七十条の規定は、補正却下決定不服審判の確定審決に対する再審に準用する。この場合において、同法第百六十九条第三項中「拒絶査定不服審判及び訂正審判」とあるのは、「補正却下決定不服審判」と読み替えるものとする。
意匠法第58条第4項(原文)
特許法第百七十四条第三項の規定は、意匠登録無効審判の確定審決に対する再審に準用する。
flowchart LR
  subgraph S57["意匠法第57条(意匠法の審判規定を借りる)"]
    A1["第50条第1項・第3項
(補正却下・新出願/拒絶理由通知)"] --> R1["拒絶査定不服審判の
確定審決に対する再審"] A2["第51条
(補正却下決定不服審判の特則)"] --> R2["補正却下決定不服審判の
確定審決に対する再審"] end subgraph S58["意匠法第58条(特許法を借りる)"] B1["特許法第173条(請求期間)
第174条第5項(審理の範囲)"] --> R0["再審すべて"] B2["特許法第131条第1項ほか審判手続規定
+第158条・第160条"] --> R1b["拒絶査定不服審判の
確定審決に対する再審"] B3["特許法第131条第1項ほか審判手続規定
(第158条・第160条なし)"] --> R2b["補正却下決定不服審判の
確定審決に対する再審"] B4["特許法第174条第3項
(無効審判の再審の手続規定)"] --> R3["意匠登録無効審判の
確定審決に対する再審"] end

図は左右にスクロールできます。

【図4】意匠法第57条・第58条の準用の相関図。第58条第2項と第3項の違いは、特許法第158条(審査手続の効力)・第160条(差戻し)の有無。

準用する規定 内容(見出し) 準用先 根拠
特許法第173条 再審の請求期間 再審すべて 意匠法第58条第1項
特許法第174条第5項 民事訴訟法第348条第1項(審理の範囲)の準用 再審すべて 意匠法第58条第1項
意匠法第50条第1項・第3項 補正却下・補正後の新出願/拒絶理由通知 拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審 意匠法第57条第1項
意匠法第51条 補正却下決定不服審判の特則 補正却下決定不服審判の確定審決に対する再審 意匠法第57条第2項
特許法第131条第1項〜第170条の一部(第158条・第160条を含む) 審判請求書、審判官、審理、証拠調べ、費用など 拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審 意匠法第58条第2項
特許法第131条第1項〜第170条の一部(第158条・第160条を含まない) 同上 補正却下決定不服審判の確定審決に対する再審 意匠法第58条第3項
特許法第174条第3項 特許無効審判の確定審決に対する再審の手続規定(特許法第132条第1項・第2項など当事者系の規定を含む) 意匠登録無効審判の確定審決に対する再審 意匠法第58条第4項

〔表8〕意匠法第57条・第58条による準用の一覧。特許法第131条〜第170条の各条の内容は、意匠法第52条の記事(審判規定の準用)と共通です。

民事訴訟法第348条第1項(審理の範囲)の準用意匠法第58条第1項→特許法第174条第5項→民事訴訟法第348条第1項という二段の準用です。民事訴訟法第348条第1項(見出し「本案の審理及び裁判」)の原文は「裁判所は、再審開始の決定が確定した場合には、不服申立ての限度で、本案の審理及び裁判をする。」です(e-Gov法令検索、法令ID 408AC0000000109、2026年9月参照)。逐条解説は、審判では職権主義により当事者が申し立てない理由についても審理できる(特許法第153条)が、再審は確定審決の効力を争う非常の不服申立方法なので判断の範囲を狭く限定すべきだとして、同項を準用し特許法第153条を準用しなかった、と説明しています。また、同項中の「再審開始の決定が確定した場合には、」の部分は、再審開始決定の手続が民事訴訟法独自のもので特許法では採用していないため、適用がないものとして取り扱う、としています(青本〔第22版〕特許法579〜580頁。意匠法第58条第1項が特許法第174条第5項を準用する旨は同 意匠法1378頁)。
レベル2のまとめ

  • 第53条:確定審決に対し、当事者・参加人が再審を請求できる。再審事由は民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条の準用。
  • 第54条:請求人・被請求人が共謀して第三者を害する審決をさせたときは、その第三者が両者を共同被請求人として再審を請求できる。
  • 第55条:無効審決が再審でくつがえって意匠権が回復しても、審決確定後〜再審請求登録前の善意の物品・建築物・画像(第1項)と善意の行為(第2項第1号〜第7号)には効力が及ばない。
  • 第56条:同じ期間に善意で国内で実施事業(準備を含む)をしていた者は通常実施権を持つ。拒絶審決後に再審で登録された場合もカバー。
  • 第57条・第58条:意匠法第50条第1項・第3項、第51条と、特許法第173条(請求期間)・第174条第3項・第5項・審判手続規定を再審に準用。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 再審請求の全体フロー

flowchart TB
  S["確定審決がある"] --> Q1{"請求人は当事者・参加人か"}
  Q1 -- "はい" --> P53["意匠法第53条第1項の再審"]
  P53 --> Q2{"再審事由があるか
(民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条)"} Q2 -- "はい" --> Q3{"請求期間内か
(特許法第173条の準用)"} Q3 -- "はい" --> T["審理(審判手続規定の準用)
民事訴訟法第348条第1項:不服申立ての限度"] T --> J["再審の審決"] J --> R["無効審決が取り消され意匠権が回復 等"] R --> P55["第55条:無効登録の回復の場合のみ
審決確定後〜再審請求登録前の
善意の物・行為に効力が及ばない"] R --> P56["第56条:拒絶後の設定登録も対象
審決確定後〜再審請求登録前に
善意に国内で事業又は準備した者に通常実施権"] Q1 -- "いいえ(共謀で害された第三者)" --> P54["意匠法第54条の再審
(請求人・被請求人を共同被請求人に)"] P54 --> Q2b{"共謀・害する目的・審決をさせたか"} Q2b -- "はい" --> Q3 Q2 -- "いいえ" --> NG["請求は認められない"] Q2b -- "いいえ" --> NG Q3 -- "いいえ(期間外)" --> NG style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style R fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図5】再審請求から権利回復後の保護までの全体フロー(本記事作成者の整理)。主経路(「はい」)を下に、例外(「いいえ」)を右に置いている。凡例:緑=意匠権が回復する結果/赤=請求が認められない終端。

2. 再審の請求期間(特許法第173条の準用)

意匠法第58条第1項で準用される特許法第173条は、再審を請求できる期間を定めています。原文は特許法(法令ID 334AC0000000121)からの逐語取得です。意匠法には「取消決定」がないため、意匠法に準用する際は「審決」の部分のみを読むことになります(読替え規定は意匠法第58条第1項にはありません)。

特許法第173条(原文)
再審は、請求人が取消決定又は審決が確定した後再審の理由を知つた日から三十日以内に請求しなければならない。
2 再審を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその請求をすることができる。
3 請求人が法律の規定に従つて代理されなかつたことを理由として再審を請求するときは、第一項に規定する期間は、請求人又はその法定代理人が送達により取消決定又は審決があつたことを知つた日の翌日から起算する。
4 取消決定又は審決が確定した日から三年を経過した後は、再審を請求することができない。
5 再審の理由が取消決定又は審決が確定した後に生じたときは、前項に規定する期間は、その理由が発生した日の翌日から起算する。
6 第一項及び第四項の規定は、当該審決が前にされた確定審決と抵触することを理由とする再審の請求には、適用しない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
項 期間 起算点 性質
第1項 30日以内 審決が確定した後、再審の理由を知った日 原則の請求期間(主観的期間)
第2項 理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内、かつ期間経過後6月以内 責めに帰することができない理由がなくなった日 第1項の期間を守れなかった場合の救済(逐条解説は追完の規定と説明〔青本〔第22版〕特許法575頁〕)
第3項 (第1項の30日) 請求人またはその法定代理人が送達により審決があったことを知った日の翌日 代理権欠缺を理由とする場合の起算点の特則
第4項 3年 審決が確定した日 原則的な上限(第5項・第6項に特則)。逐条解説は、再審の請求期間を無制限にすると法律秩序をいたずらに不安定にするので一定の制限を設けたと説明し、民事訴訟法では判決確定の日から5年としていることにも触れています(青本〔第22版〕特許法575頁)。「除斥期間」という性質付けは青本〔第22版〕の該当条には見当たりませんでした
第5項 (第4項の3年) 再審の理由が審決確定後に生じたときは、その理由が発生した日の翌日 第4項の起算点の特則
第6項 第1項・第4項を適用しない ― 前の確定審決と抵触することを理由とする再審には期間制限なし

〔表9〕再審の請求期間の整理(特許法第173条、意匠法第58条第1項で準用)。数値は2026年9月時点の条文による。

gantt
  title 再審の請求期間のイメージ(特許法第173条・意匠法第58条第1項で準用)
  dateFormat YYYY-MM-DD
  axisFormat %Y-%m
  section 原則的な上限
  審決確定日から3年(第4項)              :crit, a1, 2026-01-01, 2029-01-01
  section 原則
  再審理由を知った日から30日(第1項)      :active, b1, 2026-06-01, 30d
  section 救済
  理由消滅から14日(在外者2月)・経過後6月内(第2項) :c1, 2026-07-01, 14d

図は左右にスクロールできます。

【図6】再審の請求期間のタイムチャート。手続(条項)を左、期間を横棒にしたガント型で、群ごとにセクションで仕切っています。凡例:赤帯=原則的な上限(第4項の3年。確定後に再審理由が生じた場合は第5項の起算点特則があり、先の確定審決との抵触を理由とする場合は第6項により第1項・第4項の期間制限がない)/濃い帯=原則の請求期間(第1項の30日)/通常の帯=救済(第2項)。第2項の帯は「理由がなくなった日から14日」だけを描いており、「在外者は2月」「期間経過後6月以内」という上限は図では省略しています。日付は説明用の架空の例で、「知った日」「理由消滅日」は事案ごとに異なります。数値は2026年9月時点の条文による。(時間軸は縮尺なし)

期間の延長(特許法第4条)意匠法第68条第1項は特許法第3条から第5条までを意匠法上の期間に準用し、その読替えで特許法第4条の対象期間に「同法第五十八条第一項において準用する第百七十三条第一項」を含めています(原文:意匠法第68条第1項第2文、e-Gov法令検索2026年9月参照)。つまり、特許庁長官は遠隔・交通不便の地にある者のため、再審の30日の請求期間を延長できます。実用新案法では実用新案法第45条第2項が同じことを定めています。

3. 特許法・実用新案法・意匠法の再審規定の対比表

項目 特許法(第171条〜第177条) 実用新案法(第42条〜第45条) 意匠法(第53条〜第58条)
再審の請求の対象 第171条第1項「確定した取消決定及び確定審決」 第42条第1項「確定審決」 第53条第1項「確定審決」
請求人 「当事者又は参加人」 同左 同左
再審事由 第171条第2項:民事訴訟法第338条第1項・第2項、第339条を準用 第42条第2項:同左 第53条第2項:同左
詐害審決に対する再審 第172条 第43条 第54条(文言は同一)
請求期間 第173条 第45条第1項で特許法第173条を準用 第58条第1項で特許法第173条を準用
審判規定の準用 第174条第1項〜第4項(取消決定・拒絶査定不服・無効/延長登録無効・訂正審判の再審ごと) 第45条第1項で特許法第174条第3項を準用(読替えあり) 第57条(意匠法第50条第1項・第3項、第51条)+第58条第2項〜第4項
審理の範囲 第174条第5項:民事訴訟法第348条第1項を準用 第45条第1項で特許法第174条第5項を準用 第58条第1項で特許法第174条第5項を準用
回復した権利の効力の制限(物) 第175条第1項:取消・無効・延長登録無効からの回復、および拒絶審決後の再審による登録の場合。物の発明のとき「当該物」 第44条第1項:無効からの回復のみ。「当該登録実用新案に係る物品」 第55条第1項:無効からの回復のみ。物品・画像記録媒体等/建築物/画像の3本立て
回復した権利の効力の制限(行為) 第175条第2項第1号〜第5号(物・方法・物を生産する方法) 第44条第2項第1号〜第3号 第55条第2項第1号〜第7号(物品・建築物・画像)
再審の請求登録前の実施による通常実施権 第176条 第45条第1項で特許法第176条を準用 第56条(意匠法に直接規定。拒絶審決後の再審による登録もカバー)
期間延長(特許法第4条) 第4条が第173条第1項を直接対象 第45条第2項 第68条第1項の読替え
削除条 第177条「削除」 ― ―

〔表10〕三法の再審規定の対比。各条の原文は e-Gov法令検索(特許法:334AC0000000121、実用新案法:334AC0000000123、意匠法:334AC0000000125)から2026年9月に取得。

実用新案法第45条第1項(原文)
特許法第百七十三条(再審の請求期間)、第百七十四条第三項及び第五項(審判の規定等の準用)並びに第百七十六条(再審の請求登録前の実施による通常実施権)の規定は、再審に準用する。この場合において、同法第百七十四条第三項中「第百三十一条第一項、第百三十一条の二第一項本文」とあるのは「実用新案法第三十八条第一項、同法第三十八条の二第一項本文」と、「第百三十四条第一項、第三項及び第四項」とあるのは「同法第三十九条第一項、第三項及び第四項」と、「から第百六十八条まで」とあるのは「、第百六十七条の二、同法第四十条」と読み替えるものとする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000123)、2026年9月参照。

実用新案法には拒絶査定不服審判がない(無審査登録制度)ため、再審は実用新案登録無効審判の確定審決に対するものだけを想定した準用になっています。意匠法は拒絶査定不服審判・補正却下決定不服審判・意匠登録無効審判の3種類の審判があるため、第57条・第58条で審判の種類ごとに準用先を書き分けています。

4. 意匠法固有の論点 ― 第55条と第56条の「場面」のずれ

特許法第175条第1項・第2項は「拒絶をすべき旨の審決があつた特許出願……について再審により特許権の設定の登録……があつた場合」も対象にしています。これに対し意匠法第55条第1項・第2項は「無効にした意匠登録に係る意匠権が再審により回復したとき」だけを対象とし、拒絶審決後に再審で設定登録された場合を含んでいません。一方、意匠法第56条(通常実施権)は拒絶審決後の再審による登録も対象にしています。

場面 意匠法第55条(効力の制限) 意匠法第56条(通常実施権) 特許法第175条 特許法第176条
無効審決が再審でくつがえり権利が回復 対象 対象 対象 対象
拒絶審決後、再審で設定登録 対象外 対象 対象 対象
取消決定・延長登録無効からの回復 ―(制度なし) ―(制度なし) 対象 対象

〔表11〕「どの場面をカバーするか」の意匠法・特許法対比。条文の文言どおりに整理したものです。意匠法第55条が拒絶審決後の登録を含まない理由は、青本〔第22版〕意匠法第55条には記載が見当たりませんでした(下記では確認できた条文上の相違を整理します)。

第55条は無効にした意匠登録の回復を対象とするのに対し、第56条はそれに加えて、拒絶審決後の再審による設定登録も対象とします。青本1374〜1375頁は各条の趣旨を特許法第175条・第176条の解説に委ねています。この適用場面の違いは条文から確認できますが、意匠に出願公開制度がないことを唯一の立法理由とする推測は加えません。第55条・第56条/青本第22版・1374〜1375頁

審決確定 再審の請求の登録 意匠権回復 第55条:この間の善意の物・行為 → 回復後も意匠権が「及ばない」(過去の免責) 第56条:この間に善意で事業(準備) → 通常実施権(範囲内で将来も続けられる) 回復後も実施・準備の範囲で継続 登録後に新たに作った物には及ぶ

丸=時点 第55条=過去の免責(回復後も及ばない) 第56条=将来の通常実施権(破線矢印)

図は左右にスクロールできます。

【図7】第55条(過去の免責)と第56条(将来の通常実施権)の役割分担。「登録後に新たに作った物には及ぶ」は第55条第1項の期間の文言からの反対解釈で、本記事作成者の整理です。上下の2段は同じ時間軸・同じ幅のレーンにそろえ、第55条と第56条で「効く向き」だけが違うことを示しています。(時間軸は縮尺なし)

5. 第56条の通常実施権と他の法定通常実施権との位置づけ

意匠法第56条の通常実施権は、先使用による通常実施権(意匠法第29条)や無効審判の請求登録前の実施による通常実施権(中用権、意匠法第30条)と同じ「法定通常実施権」の仲間です。「善意」「日本国内」「事業をしている者又はその事業の準備をしている者」「実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内」という要件の組み立ては第29条・第30条と共通の型です。第56条には対価の支払に関する規定は置かれていません(第30条第2項のような対価規定がない点は条文どおりです。対価不要とされる趣旨は、青本〔第22版〕の意匠法第56条・特許法第176条には記載が見当たりませんでした)。なお逐条解説は、特許法第176条を先使用による通常実施権の第79条と対応する条文とし、事業の概念や通常実施権の範囲は第79条の説明を参照するよう述べています(青本〔第22版〕特許法585頁)。

比較項目 先使用(第29条) 中用権(第30条) 再審登録前の実施(第56条)
保護される時期 意匠登録出願の際 無効審判の請求の登録前 審決確定後、再審の請求の登録前
主観要件 意匠登録出願に係る意匠を知らないで(不知) 無効理由に該当することを知らないで 「善意に」
対価 規定なし 第30条第2項で相当の対価 規定なし
範囲 実施・準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内 同左 同左

〔表12〕法定通常実施権の型としての比較。第29条・第30条の文言は本シリーズの法定通常実施権の記事(意匠法第29条〜第32条)を参照。本表の第29条・第30条欄は要旨であり、原文はそちらでご確認ください。

6. 拒絶理由・無効理由との関係

再審は「確定審決を取り消してやり直す」手続であり、意匠法第17条の拒絶理由や第48条第1項の無効理由に直接該当するものではありません。ただし、再審で無効審決が取り消されれば意匠権は「初めから存在していた」ことになり(無効審決の効果の遡及、意匠法第49条参照)、第55条・第56条はその遡及の副作用を和らげるための規定と位置づけられます。

7. 試験での問われ方

試験種別 学習用の問いの例 気をつける点
短答式 「参加人は再審を請求できるか」「詐害審決の再審は請求人・被請求人の一方のみを被請求人にできるか」「再審の請求期間(30日・3年)」「第55条の対象は拒絶審決後の再審登録を含むか」の正誤 意匠法第54条第2項の「共同被請求人」、特許法第173条第6項(抵触を理由とする再審は期間制限なし)、第55条と第56条の場面のずれ(〔表11〕)
論文式 無効審決確定後に第三者が実施を開始し、その後再審で意匠権が回復した事例で、第三者の行為・物に対する権利行使の可否と、第三者の抗弁(第55条・第56条) 「審決確定後〜再審請求登録前」の期間と「善意」を事実関係から拾う。物の免責(第55条第1項)、行為の免責(第55条第2項)、通常実施権(第56条)を分けて論じる
口述 「再審を請求できる者を述べよ」「再審の請求期間を述べよ」「再審事由はどの法律を準用しているか」 「当事者又は参加人」「民事訴訟法第338条第1項及び第2項並びに第339条」を条文どおり

〔表13〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

令和8年度意匠問1〜10を全文照合した範囲では、再審を直接問う肢はありません。特許・実用新案で出題が多いという頻度の裏付けはないため、その断定はせず、準用される特許法第173条・第174条と意匠法固有の第55条・第56条を比較して学びます。 令和8年度・問題PDF/公式解答PDF。肢の説明と公式の正解番号を区別して確認しています。
レベル3のまとめ

  • 再審事由は民事訴訟法第338条第1項各号(10類型)・第2項(第4号〜第7号は有罪確定判決等が必要)・第339条の準用。第338条第3項は準用されない。
  • 請求期間は特許法第173条の準用:理由を知った日から30日、確定日から3年(理由が確定後に生じたときは発生日の翌日起算)。抵触を理由とする再審には期間制限なし。30日の期間は意匠法第68条第1項の読替えにより特許法第4条の延長対象。
  • 意匠法第55条は無効からの回復のみを対象とし、拒絶審決後の再審登録は含まない。第56条は両方を含む(特許法第175条・第176条は両方を含む)。
  • 意匠法第57条・第58条は審判の種類(拒絶査定不服・補正却下決定不服・無効)ごとに準用先を書き分け。第58条第2項と第3項の差は特許法第158条・第160条の有無。
  • 実用新案法は無効審判の再審のみを想定し、第45条で特許法第173条・第174条第3項・第5項・第176条を準用。

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