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小学生でも分かる商標法|商標法第54条〜第56条 取消審決の効果と特許法の準用 ― 「いつから消えるか」と「どのルールを借りるか」

小学生でもわかる商標法 第47回「取消審決の効果と準用」。権利が消える時点と手続の規律。

小学生でも分かる商標法 / D. 登録異議・審判・訴訟 #47

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商標(しょうひょう)の登録が「取り消し」になったとき、その権利はいつからなくなるのでしょうか。はじめから? 決まった日から? それとも申し込んだ日から? この記事では、その答えを決めている商標法第54条と、審判(しんぱん)の進め方を特許法から「借りてくる」商標法第56条などを、まとめて見ていきます。図と表をたくさん使って、無効・登録異議・取消しの3つをくらべます。

条文:商標法第54条、第55条、第55条の3、第56条特許庁資料:審判便覧(第20版)53―01参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「目じるし」の登録がなくなるとき、いつから消える?

商標(しょうひょう)は、お店や商品の「目じるし」です。パン屋さんの「ほしぞらパン」という名前を国に登録(とうろく)すると、その名前を自分だけが使える権利(けんり)がもらえます。

でも、この登録は、あとからなくなることがあります。たとえば「3年間、ぜんぜん使っていなかった」「わざとまぎらわしい使い方をした」といった場合です。国の役所(特許庁(とっきょちょう))で「審判(しんぱん)」という話し合いの手続をして、「この登録は取り消します」と決まると、権利がなくなります。

ここで大事なのが、「いつから」なくなるのかです。ノートにたとえてみましょう。

  • はじめから消す:ノートの1ページ目から全部消しゴムで消す。「さいしょから無かったこと」にする。
  • これから先だけ消す:今日より前のページは残して、明日からのページだけ使えなくする。
  • 申し込んだ日から消す:だれかが「この登録を取り消してください」と申し込んで、それが役所の帳面(ちょうめん)に書かれた日までさかのぼって、そこから先を消す。
「ほしぞらパン」の登録がなくなるとき ― 消える時点は3種類 登録された日 申込みが帳面にのった日 結論が決まった日 ① はじめから消す (無効・登録異議の取消し) ぜんぶ「無かったこと」になる ② これから先だけ消す (取消しの審判のきほん) ここまでは権利があった 消える ③ 申込みの日から消す (使っていない登録の取消し) ここまでは権利があった さかのぼって消える 時間は左から右へ進みます。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の帯:権利があったものとしてあつかわれる期間
  • 赤の帯:権利が無かったことになる期間
  • 破線のたて線:時点の区切り

【図1】登録がなくなるときの3つのパターン(模式図)。「ほしぞらパン」は架空の店名です。単純化した図であり、①には例外があります(→レベル3)。本記事作成者が作図したもの。

なぜ「使っていない登録」だけ、申込みの日までさかのぼるの?

「これから先だけ消す」がきほんです。でも、3年間使っていない登録を取り消す場合だけは、申込みが帳面にのった日までさかのぼります。

もし「結論が決まった日」からしか消えないとしたら、どうなるでしょう。話し合いには時間がかかります。その間、使ってもいない登録の持ち主が「わたしの権利だ。お金をはらえ」と言えてしまいます。それはおかしいので、申込みの日までさかのぼって消すことにしているのです(特許庁の「審判便覧」がこのように説明しています。→レベル3)。

審判の進め方は、特許のルールブックを「借りる」

審判には、申込書の書き方、話し合いを進める人(審判官(しんぱんかん))の決め方、話し合いの終わらせ方など、こまかいルールがたくさん必要です。商標の法律は、これを一から書かずに、特許(とっきょ)の法律に書いてあるルールを借りています。これを「準用(じゅんよう)」といいます。

ただし、まるごと借りるわけではありません。商標に合わないページは借りませんし、「特許」と書いてある言葉は商標用の言葉に入れかえて読みます。

特許のルールブック (審判の進め方のページ) 申込書の書き方 … 借りる 審判官の決め方 … 借りる 書類の直し(訂正)… 借りない 商標に合わないページは借りない 借りる(準用) 言葉は商標用に 入れかえて読む 商標の審判 ・登録をことわられた人の審判 ・登録を無効にする審判 ・登録を取り消す審判 など 「消える時点」など商標だけの ルールは、自分の法律に書く

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:特許の法律(借りてくる元)と、その中のページ
  • 赤の枠:商標では借りないページ
  • 橙の枠:商標の審判(借りた先)
  • 橙の矢印:借りる(準用)向き

【図2】「準用」のイメージ(模式図)。本記事作成者が作図したもの。何を借りて何を借りないかの正確な一覧はレベル3で示します。

① 取消し=きほんは「これから先だけ消える」② 使っていない登録の取消し=申込みが帳面にのった日から③ 無効・登録異議=はじめから④ 審判の進め方は特許法から借りる
レベル1のまとめ
  • 登録を「取り消す」と決まったら、権利はそれから先なくなります。
  • 「3年間使っていない」ことを理由にした取消しだけは、申込みが帳面にのった日までさかのぼってなくなります。
  • 「無効」や「登録異議(とうろくいぎ)」で登録がなくなるときは、はじめから無かったことになります。
  • 審判のこまかい進め方は、特許の法律のルールを借りています(準用)。合わないルールは借りません。

※「無効ははじめから」は、正確には例外があります(登録のあとで起きた理由による無効は、その理由が起きた時から)。「結論が決まった日」は、正確には審決(しんけつ)が「確定(かくてい)」した時です。「申込みが帳面にのった日」は、条文では「審判の請求の登録の日」です(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

4つの条文の役割分担

この記事であつかう4つの条文は、どれも短い条文です。まず、それぞれが何を決めているのかを一覧にします。

条文見出し何を決めているかひとことで
商標法第54条第1項(固有の見出しなし)商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したとき、商標権がいつ消滅するか(原則)その後消滅
商標法第54条第2項商標法第50条第1項の審判による取消しの場合の特則審判の請求の登録の日に消滅とみなす
商標法第55条(固有の見出しなし)商標法第46条第4項(審判長の通知)を取消しの審判に準用専用使用権者などへお知らせ
商標法第55条の3(審決の確定範囲)審決がどの単位で確定するか原則:審判事件ごと
商標法第56条第1項(特許法の準用)特許法の審判に関する規定を商標法の審判に準用(読替えつき)審判の進め方を借りる
商標法第56条第2項特許法第155条第3項を商標法第46条第1項の審判に準用無効審判の一部取下げ

〔表1〕担当条文の役割一覧。見出しの有無は e-Gov法令検索のデータで確認(2026年9月参照)。

商標法第54条 ― 取消審決の効果

商標法第54条(原文) 商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅する。
2 前項の規定にかかわらず、第五十条第一項の審判により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、同項の審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。項番号「2」は読みやすさのため付記。
部品第1項(原則)第2項(特則)
どの審判?商標登録を取り消すべき旨の審決が出る審判すべて商標法第50条第1項の審判(講学上・実務上「不使用取消審判」と呼ばれる)だけ
いつ効果が出る?審決が「確定したとき」審決が「確定したとき」
どうなる?商標権は「その後消滅する」商標権は「審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす」
ことばの意味確定より前の期間は、権利があったまま(将来に向かってだけ効果が出る)確定した結果、請求の登録の日までさかのぼって権利が消える

〔表2〕商標法第54条の部品分解。本記事作成者が条文を整理したもの。

「確定」とは、その審決をもう争えなくなった状態のことです。「審判の請求の登録」とは、審判が請求されたことが特許庁の商標登録原簿(げんぼ)に記録されることです。

flowchart TB
  A["商標登録がなくなる手続は?"] --> B{"どの手続?"}
  B -- "登録異議の申立て" --> C["取消決定が確定
商標法第43条の3第3項"] B -- "無効の審判" --> D["無効にすべき旨の審決が確定
商標法第46条の2"] B -- "取消しの審判" --> E{"商標法第50条第1項の
審判か?"} C --> C1["初めから存在しなかつた
ものとみなす"] D --> D1["原則:初めから存在しなかつた
ものとみなす(例外あり)"] E -- "はい" --> F["審判の請求の登録の日に
消滅したものとみなす
商標法第54条第2項"] E -- "いいえ" --> G["その後消滅する
商標法第54条第1項"] style C1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style D1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の箱:初めから存在しなかったものとみなす(登録の時までさかのぼる)結論
  • 緑の箱:消滅する時点が「その後」または「審判の請求の登録の日」となる結論

【図3】「いつから権利がなくなるか」の分岐図。本記事作成者が条文をフロー化したもの。無効の例外(商標法第46条の2第1項ただし書・第2項)はレベル3で説明します。

商標法第55条 ― 審判長の通知(商標法第46条第4項の準用)

商標法第55条(原文) 第四十六条第四項の規定は、第五十条第一項、第五十一条第一項、第五十二条の二第一項、第五十三条第一項又は第五十三条の二の審判の請求があつた場合に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
準用される商標法第46条第4項(原文) 審判長は、第一項の審判の請求があつたときは、その旨を当該商標権についての専用使用権者その他その商標登録に関し登録した権利を有する者に通知しなければならない。
出典:同上。

商標登録が取り消されると、その商標権をもとにした専用使用権(せんようしようけん)なども一緒になくなってしまいます。そこで、「取消しの審判が請求されましたよ」と審判長が知らせることになっています。

部品内容
だれが審判長
いつ商標法第50条第1項、第51条第1項、第52条の2第1項、第53条第1項、第53条の2の審判の請求があったとき
だれにその商標権についての専用使用権者、その他その商標登録に関し登録した権利を有する者
何を審判の請求があった旨を通知しなければならない(義務)

〔表3〕商標法第55条(商標法第46条第4項の準用)の部品分解。本記事作成者が条文を整理したもの。

商標法第55条の3 ― 審決の確定範囲

商標法第55条の3(原文) 審決は、審判事件ごとに確定する。ただし、指定商品又は指定役務ごとに請求された第四十六条第一項の審判の審決は、指定商品又は指定役務ごとに確定する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

1つの商標登録には、「パン」「菓子」「飲食物の提供」のように、いくつもの指定商品・指定役務(えきむ=サービス)が入っていることがあります。審決が「確定」する単位は、原則として審判事件まるごとです。ただし書で、指定商品又は指定役務ごとに請求された無効の審判(商標法第46条第1項の審判)だけは、指定商品又は指定役務ごとに確定するとされています。

商標法第56条 ― 特許法の準用

商標法第56条第1項前段(原文) 特許法第百三十一条第一項、第百三十一条の二第一項(第二号及び第三号を除く。)、第百三十二条から第百三十三条の二まで、第百三十四条第一項、第三項及び第四項、第百三十五条から第百五十四条まで、第百五十五条第一項及び第二項、第百五十六条第一項、第三項及び第四項、第百五十七条、第百五十八条、第百六十条第一項及び第二項、第百六十一条、第百六十七条並びに第百六十八条から第百七十条まで(審決の効果、審判の請求、審判官、審判の手続、訴訟との関係及び審判における費用)の規定は、審判に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。後段(読替え)と第2項の原文はレベル3に掲げます。

長い条文ですが、骨格は「特許法の○条〜○条は、(商標法の)審判に準用する」だけです。ポイントは、「第百三十四条第一項、第三項及び第四項」のように、わざと飛ばしている項・号があることです。飛ばされた部分は、商標法の審判には借りてこない部分です。

flowchart TB
  A["審判請求書の提出
特許法第131条第1項の準用"] --> B["方式の点検・却下
特許法第133条・第133条の2・第135条の準用"] B --> C["審判の請求の登録"] C --> D["審判長の通知
商標法第55条→第46条第4項"] C --> E["請求書の副本の送達・答弁書
特許法第134条第1項の準用"] D --> F["審理
特許法第145条〜第154条の準用"] E --> F F --> G["審理の終結の通知
特許法第156条第1項の準用"] G --> H["審決
特許法第157条の準用"] H --> I["審決の確定
商標法第55条の3"] I --> J["取消審決の効果
商標法第54条"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style I fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style J fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:商標法に独自に書かれている部分

【図4】取消しの審判の流れと、担当条文の位置づけ。本記事作成者が条文をフロー化したもの。手続の順序は単純化しています(請求書提出日と請求登録日は別の時点です)。

レベル2のまとめ
  • 商標法第54条第1項=取消審決が確定すると、商標権は「その後消滅する」。第2項=商標法第50条第1項の審判だけは「審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす」。
  • 商標法第55条=取消しの審判が請求されたら、審判長が専用使用権者などに通知する(商標法第46条第4項の準用)。
  • 商標法第55条の3=審決は審判事件ごとに確定。例外は、指定商品又は指定役務ごとに請求された商標法第46条第1項の審判だけ。
  • 商標法第56条=審判の進め方は特許法を準用。ただし飛ばしている項・号がある。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 「消滅時点」の比較 ― 無効・登録異議・取消し

商標登録がなくなる3つのルート(登録異議の申立て、商標登録の無効の審判、商標登録の取消しの審判)で、権利がなくなる時点の定め方は条文ごとに異なります。原文の文言で並べます。

手続根拠条文効果の文言(原文)効果の向き
登録異議の申立て(取消決定)商標法第43条の3第3項取消決定が確定したときは、その商標権は、初めから存在しなかつたものとみなす。遡及(初めから)
無効の審判(原則)商標法第46条の2第1項本文商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、初めから存在しなかつたものとみなす。遡及(初めから)
無効の審判(商標法第46条第1項第5号〜第7号)商標法第46条の2第1項ただし書商標権は、その商標登録が同項第五号から第七号までに該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。該当するに至った時まで遡及
同上(該当時を特定できないとき)商標法第46条の2第2項商標権は、その商標登録を無効にすべき旨の審判の請求の登録の日から存在しなかつたものとみなす。審判の請求の登録の日まで遡及
取消しの審判(原則)
商標法第51条第1項、第52条の2第1項、第53条第1項、第53条の2
商標法第54条第1項商標権は、その後消滅する。将来に向かって(確定後)
取消しの審判(商標法第50条第1項)商標法第54条第2項商標権は、同項の審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす。審判の請求の登録の日まで遡及

〔表4〕消滅時点の比較表。文言はいずれも e-Gov法令検索(2026年9月参照)。「効果の向き」欄は本記事作成者の整理。

商標権が「なかったこと」になる期間のタイムチャート 設定の登録 後発的事由に 該当するに至った時 審判の請求の登録 審決(決定)の確定 登録異議の取消決定 商標法第43条の3第3項 初めから存在しなかったものとみなす 無効の審判(原則) 商標法第46条の2第1項本文 初めから存在しなかったものとみなす 無効の審判(第5号〜第7号) 商標法第46条の2第1項ただし書 存在した 該当するに至った時から存在しなかった 取消しの審判(第50条第1項) 商標法第54条第2項 存在した 請求の登録の日に消滅とみなす 取消しの審判(その他) 商標法第54条第1項 存在した その後消滅

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の帯:商標権が存在したものと扱われる期間
  • 赤の帯:商標権が存在しなかった(消滅した)ものと扱われる期間
  • 破線のたて線:時点の区切り

【図5】消滅時点のタイムチャート。本記事作成者が〔表4〕の条文を図にしたもの。商標法第46条の2第2項(該当時を特定できないとき=審判の請求の登録の日から)は図では省略しています。時間軸に縮尺はありません。

ポイント:「審判の請求の登録の日」という時点が出てくるのは、商標法第54条第2項(商標法第50条第1項の審判による取消し)と、商標法第46条の2第2項(後発的な無効理由に該当するに至った時を特定できないとき)の2か所です。前者は「消滅したものとみなす」、後者は「存在しなかつたものとみなす」と、文言が違います。

2. 商標法第54条第2項の意味 ― 審判便覧の説明

商標法第54条第2項がなぜ置かれているかについて、特許庁の審判便覧(第20版)53―01「登録商標の不使用による取消審判」は、平成8年改正商標法における不使用取消審判の改善の一つとして「取消効果の遡及」を挙げ、次のように説明しています。

審判便覧(第20版)53―01「ウ 取消効果の遡及」より 取消審判における取消審決の効果の発生時は取消審決の確定したときが原則である(商§54①)が、不使用取消審判の場合は、その例外として審判請求の登録日まで遡及して取消審決の確定の効果を認めるものである。これにより、審判請求の登録日から取消審決の確定日までの不使用登録商標に係る商標権に基づく損害賠償請求等の権利行使を回避することが可能となる。
出典:特許庁「審判便覧(第20版)」53―01。原PDFの当該項と照合。2026年9月参照。

条文上の帰結として、次のことが言えます。

  • 商標法第50条第1項の審判で取消審決が確定しても、審判の請求の登録の日より前の期間は、商標権が存在していたものと扱われます(「初めから」ではありません)。
  • 商標法第51条第1項・第52条の2第1項・第53条第1項・第53条の2の審判では、審決の確定までは商標権が存在し、確定の後に消滅します。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(以下「逐条解説〔第22版〕」)は、商標法第54条について、次のように説明しています(要約)。
  • 第1項:商標法第50条の審判を除く取消しの審判(商標法第51条、第52条の2、第53条、第53条の2)では、取消審決が確定した時以降に商標権が消滅する。取消審決は、東京高等裁判所への出訴期間(商標法第63条第2項で準用する特許法第178条第3項の期間)の経過、東京高等裁判所で審決の取消請求を棄却する判決の確定、又は最高裁判所で上告を棄却する判決によって確定する。
  • 第2項を設けた理由:第2項は平成8年の一部改正で新設された。改正前は、不使用取消審判でも取消しの効果は審決確定日から生じたので、他人の不使用の登録商標を使っていた審判請求人は、取消しに成功しても、審決確定までの期間については、その商標権に基づく損害賠償等の請求を免れることができなかった。しかし、不使用取消審判で取り消される商標登録に係る商標は、保護すべき信用が発生していないか、一度発生した信用も消滅しているものであり、審決確定日より前についても、そのような実体のない商標の登録が維持され、それに基づいて損害賠償の請求等が行われるのを認めるのは適当でない。そこで、取消しの効果を審判の請求の登録の日までさかのぼらせた。
  • 効果と位置づけ:不使用の登録商標に係る商標権の行使を受けた者は、直ちに審判を請求すれば、審判に時間がかかっても、審決の確定によって審判の請求の登録の日までさかのぼって権利が消滅するので、その間の商標権者による損害賠償請求等の余地はなくなる(事実上、不使用の商標権に基づく権利行使が制限される)。取消しの効果の遡及は、登録主義の建前を維持しつつ、実質的には使用主義の考え方を最大限取り入れ、商標を使わない状態に置くことに大きなリスクを与えるもの、と位置づけられています。
  • 遡及日を「審判の請求の登録の日」とした理由(逐条解説〔第22版〕は次の3点を挙げ、これら等を考慮したと説明):①取消しの要件である不使用期間(3年)の満了日であって、取消しの要件を充足した日であること。②EU諸国の多くも、不使用期間満了日までさかのぼらせる法制を採用していること。③取消審判を請求する旨が登録原簿に掲載された日であるので、公示の原則も担保されること。
以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
出典:逐条解説〔第22版〕1759頁〜1761頁。
関連(商標法第38条の2):侵害訴訟の判決が確定した後の再審で主張が制限されるのは、商標法第38条の2各号に掲げる「無効にすべき旨の審決」と「取り消すべき旨の決定」(登録異議の取消決定)が確定した場合です。取消しの審判の審決は同条の各号に挙げられていません(→関連記事 商標法第38条〜第39条)。

3. 商標法第55条 ― 通知の対象となる審判

商標法第46条第4項の通知義務は、もともと無効の審判についての規定です。これが、登録異議の申立て(商標法第43条の4第5項)と、取消しの審判(商標法第55条)に、それぞれ準用されています。

手続通知の根拠条文上の呼び方(実務上の呼称)
登録異議の申立て商標法第43条の4第5項 → 第46条第4項登録異議の申立て
商標法第46条第1項の審判商標法第46条第4項(直接適用)商標登録の無効の審判
商標法第50条第1項の審判商標法第55条 → 第46条第4項(不使用取消審判)
商標法第51条第1項の審判(商標権者の不正使用取消審判)
商標法第52条の2第1項の審判(移転に伴う混同による取消審判)
商標法第53条第1項の審判(使用権者の不正使用取消審判)
商標法第53条の2の審判(代理人等の不正登録による取消審判)

〔表5〕商標法第46条第4項の通知が行われる手続。かっこ内は講学上・実務上の呼称で、条文上の名称ではありません。本記事作成者の整理。

通知を受けるのは「当該商標権についての専用使用権者その他その商標登録に関し登録した権利を有する者」です。条文の文言上、「登録した権利」を有する者に限られています。通知を受けた者が審判にどう関与できるか(参加)は、商標法第56条第1項が準用する特許法第148条(参加)の問題です(→関連記事)。

防護標章との関係:商標法第68条第4項は、防護標章登録に係る登録異議の申立て及び審判に準用する規定として、第五十三条の二、第五十三条の三、第五十四条第一項及び第五十五条の二から第五十六条の二までなどを挙げています。商標法第54条は第1項だけが挙げられ、第2項は挙げられていません(商標法第50条が準用されていないことと対応します)。商標法第55条も列挙にはありませんが、商標法第46条(第4項を含む)と第43条の4は別途列挙の範囲に入っています(同項の第四十三条の二(第三号を除く。)から第四十五条まで、第四十六条(第一項第三号及び第七号を除く。))。

4. 商標法第55条の3 ― 審決の確定範囲

登録異議の申立てについては、同じ構造の規定が商標法第43条の14にあります。特許法第167条の2とも比べてみます。

商標法第43条の14(決定の確定範囲)(原文) 登録異議の申立てについての決定は、登録異議申立事件ごとに確定する。ただし、指定商品又は指定役務ごとに申し立てられた登録異議の申立てについての決定は、指定商品又は指定役務ごとに確定する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第55条の3商標法第43条の14特許法第167条の2
対象審決登録異議の申立てについての決定審決
原則審判事件ごとに確定登録異議申立事件ごとに確定審判事件ごとに確定
例外指定商品又は指定役務ごとに請求された商標法第46条第1項の審判の審決 → 指定商品又は指定役務ごと指定商品又は指定役務ごとに申し立てられた登録異議の申立てについての決定 → 指定商品又は指定役務ごと第1号:請求項ごとの特許無効審判+一群の請求項ごとの訂正の請求 → 一群の請求項ごと
第2号:一群の請求項ごとの訂正審判 → 一群の請求項ごと
第3号:請求項ごとの審判の請求(第1号以外)→ 請求項ごと
例外の数1つ(ただし書)1つ(ただし書)3つ(各号)

〔表6〕確定範囲の規定の比較。いずれも e-Gov法令検索で原文確認(2026年9月参照)。特許法第167条の2の各号は要旨。

ポイント(条文上の帰結):商標法第55条の3ただし書が名指ししているのは「第四十六条第一項の審判」(無効の審判)だけです。取消しの審判の審決は、ただし書に挙げられていないので、本文どおり「審判事件ごとに確定する」ことになります。特許法第167条の2に「一群の請求項」の号があるのは訂正の請求・訂正審判があるためで、訂正の制度がない商標法では、その部分に対応する例外がありません。
flowchart TB
  A["商標法の審決・決定が出た"] --> B{"登録異議の申立てに
ついての決定か?"} B -- "はい" --> C{"指定商品又は指定役務ごとに
申し立てられたか?"} C -- "はい" --> C1["指定商品又は指定役務ごとに確定
商標法第43条の14ただし書"] C -- "いいえ" --> C2["登録異議申立事件ごとに確定
商標法第43条の14本文"] B -- "いいえ(審決)" --> D{"商標法第46条第1項の審判で、
指定商品又は指定役務ごとに
請求されたか?"} D -- "はい" --> D1["指定商品又は指定役務ごとに確定
商標法第55条の3ただし書"] D -- "いいえ" --> D2["審判事件ごとに確定
商標法第55条の3本文"] style C1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:ただし書による例外(指定商品又は指定役務ごとに確定)となる結論
  • 白い箱:判断のための問いと、本文どおり(事件ごとに確定)となる結論

【図6】確定範囲の分岐図。本記事作成者が商標法第43条の14・第55条の3をフロー化したもの。

立法趣旨と改正の経緯(逐条解説〔第22版〕・平成23年改正解説書):逐条解説〔第22版〕は、商標法第55条の3は平成23年の一部改正で追加された規定だと説明しています。その趣旨は次のとおりです。すべての審判は審判請求書の提出で手続が始まり、その請求書によって審判事件が特定される(商標法第56条第1項で準用する特許法第131条第1項)ので、審判事件ごとに請求が存在し、その請求に対する行政処分としての審決も原則として審判事件ごとに確定する。一方、無効の審判は、指定商品又は指定役務が二以上あるときは指定商品又は指定役務ごとに請求できる(商標法第46条第1項後段)ので、そのように請求された場合の審決の確定範囲を指定商品又は指定役務ごととした、というものです。
特許庁「平成23年法律改正(平成23年法律第63号)解説書」第5章「審決の確定の範囲等に係る規定の整備」は、商標法第43条の14と第55条の3の新設について、登録異議の申立ても無効の審判も、指定商品又は指定役務ごとに申立て・請求ができ、指定商品又は指定役務ごとに取り下げることもできる(無効の審判の取下げは商標法第56条第2項)ことから、両者は一部無効の考え方を採っており、そこで決定・審決の確定を指定商品又は指定役務ごとに行うことを明文化した、と説明しています。同じ考え方から、書換登録の無効審判の審決についても指定商品ごとに確定することを明確にするため、商標法第55条の3を準用する規定を附則に設けた、としています(附則の条番号は現行条文で確認のうえ補ってください)。同解説書によれば、この改正の施行日は平成24年4月1日です(平成23年政令第369号)。
あわせて逐条解説〔第22版〕は、同じ平成23年の一部改正で特許法に第167条の2(審決の確定範囲)が新設されたが、商標法は自前の確定範囲の規定(商標法第55条の3)を新設したので、特許法第167条の2を商標法第56条の準用から外した、と説明しています(〔表12〕の「準用なし」に対応)。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
出典:逐条解説〔第22版〕1763頁〜1764頁、1767頁〜1768頁。平成23年改正解説書 第5章 120頁〜121頁、125頁。
審決等は、不服を申し立てられる期間に取消訴訟が提起されず、又は訴訟で終局的に維持され、通常の不服申立てで取り消せなくなると確定します。登録すべき旨の審決は、不服の利益を有する者がいないため謄本送達時に確定します。取消判決が確定した場合は、元の審決が確定するのではなく、再審理の段階に戻ります。審判便覧46―00の1

5. 商標法第56条第1項 ― 準用される特許法の条文一覧

商標法第56条第1項前段の列挙を、特許法の条ごとに見出しと並べます。見出しは e-Gov法令検索の特許法(法令ID 334AC0000000121)の条見出しです。

特許法の条見出し(特許法)準用の範囲・商標法での注意
第131条審判請求の方式第1項のみ(第2項〜第4項は準用なし)
第131条の2審判請求書の補正第1項のみ、かつ第2号・第3号を除く。第1号に読替えあり
第132条共同審判第1項に読替えあり
第133条方式に違反した場合の決定による却下全部
第133条の2不適法な手続の却下全部
第134条答弁書の提出等第1項・第3項・第4項(第2項は準用なし)
第135条不適法な審判請求の審決による却下全部
第136条〜第138条審判の合議制/審判官の指定/審判長全部
第139条〜第144条審判官の除斥/(第140条 見出しなし)/審判官の忌避/除斥又は忌避の申立の方式/除斥又は忌避の申立についての決定/(第144条 見出しなし)全部
第144条の2審判書記官全部
第145条・第146条審判における審理の方式/(第146条 見出しなし)第145条第1項に読替えあり
第147条調書全部
第148条・第149条参加/(第149条 見出しなし)全部(ただし特許法第161条の準用により、商標法第44条第1項・第45条第1項の審判には適用なし)
第150条・第151条証拠調及び証拠保全/(第151条 見出しなし)全部
第152条・第153条職権による審理/(第153条 見出しなし)全部
第154条審理の併合又は分離全部
第155条審判の請求の取下げ第1項・第2項。第3項は商標法第56条第2項で商標法第46条第1項の審判にだけ準用。第4項は準用なし
第156条審理の終結の通知第1項・第3項・第4項(第2項は準用なし)。第1項に読替えあり
第157条審決全部
第158条拒絶査定不服審判における特則全部(審査においてした手続の効力)
第160条(見出しなし)第1項・第2項(さらに審査に付すべき旨の審決、審査官の拘束)。第3項は準用なし
第161条(見出しなし)読替えあり(商標法第44条第1項又は第45条第1項の審判)
第167条審決の効力読替えあり(対象を商標法の無効・取消しの審判に)
第168条訴訟との関係全部
第169条審判における費用の負担第1項・第3項に読替えあり
第170条費用の額の決定の執行力全部

〔表7〕商標法第56条第1項が準用する特許法の条文と見出し。見出しのない条の内容は特許法シリーズの各記事を参照してください。e-Gov法令検索、2026年9月参照。

6. 準用されていない特許法の条文 ― 何を「借りていない」か

商標法第56条の列挙に含まれていないことを原文で確認できたものを挙げます。

特許法の条項内容(特許法)商標法第56条での扱い商標法側の対応
第131条第2項特許無効審判の請求の理由の記載要件準用なし―
第131条第3項・第4項訂正審判の請求書の記載・添付書類準用なし商標法に訂正審判なし
第131条の2第1項第2号、第2項〜第4項審判長の許可による請求の理由の要旨変更補正(訂正の請求があった場合等)準用なし―
第131条の2第1項第3号補正を命じられた事項についてする補正準用なし―
第134条第2項請求書の補正を許可するときの副本送達・答弁機会準用なし特許法第131条の2第2項の準用がないことと対応
第134条の2・第134条の3特許無効審判における訂正の請求/取消しの判決があった場合における訂正の請求準用なし商標法に訂正の請求なし
第155条第3項請求項ごとの特許無効審判の請求の取下げ第2項で準用商標法第46条第1項の審判に限る
第155条第4項訂正審判の請求の取下げ準用なし―
第156条第2項特許無効審判における審理の終結の通知(審決の予告との関係)準用なし第1項を読み替えて全審判に適用
第159条拒絶査定不服審判への審査規定の準用(補正の却下、拒絶理由通知、特許査定等)準用なし商標法第55条の2(拒絶査定に対する審判における特則)が独自に規定
第160条第3項差戻し審決をするときは特許法第159条第3項を適用しない準用なし―
第162条〜第164条審査官による審査(実務上「前置審査」)準用なし商標法に対応する制度の規定なし
第164条の2特許無効審判における特則(審決の予告)準用なし―
第165条・第166条訂正審判における特則準用なし商標法に訂正審判なし
第167条の2審決の確定範囲準用なし商標法第55条の3が独自に規定
第125条特許を無効にすべき旨の審決の効果準用なし商標法第46条の2が独自に規定

〔表8〕商標法第56条の列挙に含まれない特許法の条項(原文で確認できたもの)。「内容」欄は特許法の条文の要旨で、本記事作成者の整理。

ポイント(条文構造から言えること):準用されていない条項の多くは、①訂正審判・訂正の請求に関するもの(特許法第131条第3項・第4項、第134条の2、第134条の3、第155条第4項、第165条、第166条)、②訂正の請求を前提とする手続(特許法第131条の2第1項第2号・第2項、第134条第2項、第156条第2項、第164条の2)、③明細書等の補正を前提とする前置審査(特許法第162条〜第164条)です。商標法には、登録後に商標や指定商品・指定役務の記載を「訂正」する審判・請求の規定がなく、そのため、これらを借りてくる必要がない、という関係になっています。
逐条解説〔第22版〕の説明(準用から外した理由):逐条解説〔第22版〕は、商標法第56条は、特許法の審判手続のうち、商標法にない訂正審判と審査前置に関するものを除いて、ほとんど全部を準用している、と説明しています。改正の経緯についても、平成5年の一部改正(無効審判における訂正に関する旧特許法第134条第2項・第5項の準用除外)、平成15年の一部改正(特許法第134条の2・第134条の3の準用除外)、平成23年の一部改正(特許法第131条の2第1項第2号・第3号、第156条第2項の準用除外)のいずれについても、商標法には訂正の制度が設けられていないことを、準用から外した理由として挙げています。〔表8〕の①②の多くは、この説明と対応します。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
出典:逐条解説〔第22版〕1765頁〜1767頁。
第56条は、商標法に訂正制度がないため、特許法の訂正審判・訂正請求に関する規定を準用していません。商標の無効審判では、特許のような訂正請求による登録内容の修正はできません。青本1765〜1767頁

7. 商標法第56条第1項後段 ― 読替え

商標法第56条第1項後段(原文) この場合において、同法第百三十一条の二第一項第一号中「特許無効審判以外の審判を請求する場合における前条第一項第三号に掲げる請求の理由」とあるのは「商標法第四十六条第一項の審判以外の審判を請求する場合における同法第五十六条第一項において準用する特許法第百三十一条第一項第三号に掲げる請求の理由」と、同法第百三十二条第一項及び第百六十七条中「特許無効審判又は延長登録無効審判」とあり、並びに同法第百四十五条第一項及び第百六十九条第一項中「特許無効審判及び延長登録無効審判」とあるのは「商標法第四十六条第一項、第五十条第一項、第五十一条第一項、第五十二条の二第一項、第五十三条第一項又は第五十三条の二の審判」と、同法第百五十六条第一項中「特許無効審判以外の審判においては、事件が」とあるのは「事件が」と、同法第百六十一条中「拒絶査定不服審判」とあり、及び同法第百六十九条第三項中「拒絶査定不服審判及び訂正審判」とあるのは「商標法第四十四条第一項又は第四十五条第一項の審判」と読み替えるものとする。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
読替えの対象特許法の文言商標法での読替え後読替えの結果(条文上の帰結)
特許法第131条の2第1項第1号特許無効審判以外の審判商標法第46条第1項の審判以外の審判無効の審判以外(取消しの審判、商標法第44条第1項・第45条第1項の審判)では、請求の理由の補正は要旨変更の制限を受けない。無効の審判では要旨を変更する請求の理由の補正は不可で、特許法第131条の2第2項のような審判長の許可の制度は準用されていない
特許法第132条第1項、第167条特許無効審判又は延長登録無効審判商標法第46条第1項、第50条第1項、第51条第1項、第52条の2第1項、第53条第1項又は第53条の2の審判共同審判(第132条第1項)と審決の効力(第167条)の対象が、無効の審判と取消しの審判の全部になる
特許法第145条第1項、第169条第1項特許無効審判及び延長登録無効審判審理の方式(第145条第1項)と費用の負担(第169条第1項)の対象も同じ6つの審判になる
特許法第156条第1項特許無効審判以外の審判においては、事件が事件がすべての審判で、事件が審決をするのに熟したときに審理の終結を通知する(特許法第156条第2項=審決の予告がらみの規定は準用なし)
特許法第161条拒絶査定不服審判商標法第44条第1項又は第45条第1項の審判この2つの審判には、答弁書(準用される特許法第134条第1項・第3項)・参加(特許法第148条・第149条)の規定を適用しない
特許法第169条第3項拒絶査定不服審判及び訂正審判この2つの審判に関する費用は請求人の負担

〔表9〕商標法第56条第1項後段の読替え一覧。「読替えの結果」欄は、読替え後の特許法の条文から導いた本記事作成者の整理。

特許法第167条(審決の効力)の準用:特許法第167条は特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。と定めています。商標法では、この「特許無効審判又は延長登録無効審判」が上の6つの審判に読み替えられるので、取消しの審判の確定審決にも、当事者及び参加人に対する同一事実・同一証拠による再請求の制限が及びます。
審理の方式:審判便覧(第20版)53―00「取消審判の審理の方式」は、項目として「口頭審理(原則)」「書面審理(例外)」を掲げています。これは、特許法第145条第1項の対象が取消しの審判にも読み替えられていることと対応します(詳細は特許法第145条の記事へ)。

8. 商標法第56条第2項 ― 無効の審判の一部取下げ

商標法第56条第2項(原文) 特許法第百五十五条第三項(審判の請求の取下げ)の規定は、第四十六条第一項の審判に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。商標法第56条は全2項。

特許法第155条第3項は二以上の請求項に係る特許の二以上の請求項について特許無効審判を請求したときは、その請求は、請求項ごとに取り下げることができる。という規定です。商標法第56条第2項は、これを商標法第46条第1項の審判(無効の審判)にだけ準用しています。商標法第56条第2項には読替えの定めが置かれていないので、「請求項」を商標法でどう読むかは準用の性質に従って解釈することになります。

審判の請求の取下げ特許法商標法での準用
審決が確定するまで取下げ可特許法第155条第1項準用(商標法第56条第1項)すべての審判
答弁書提出後は相手方の承諾が必要特許法第155条第2項準用(商標法第56条第1項)
一部(請求項ごと)の取下げ特許法第155条第3項準用(商標法第56条第2項)商標法第46条第1項の審判のみ
訂正審判の取下げは全部について特許法第155条第4項準用なし

〔表10〕審判の請求の取下げに関する準用関係。本記事作成者の整理。

ポイント:商標法第55条の3ただし書(確定範囲)と商標法第56条第2項(一部取下げ)は、どちらも「商標法第46条第1項の審判」だけを名指ししています。取消しの審判は、どちらの規定にも挙げられていません。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕・平成23年改正解説書):逐条解説〔第22版〕は、商標法第56条第2項による特許法第155条第3項の準用は、同項に挙げられた審判(商標法第46条第1項の審判)では、審判の請求を指定商品又は指定役務ごとに取り下げることができることを意味する、と説明しています。平成23年改正解説書 第5章も、無効の審判は商標法第56条第2項により指定商品又は指定役務ごとに取り下げることができる、と述べています。
また逐条解説〔第22版〕は、商標法第50条の審判(不使用取消審判)に特許法第155条第3項を準用しない理由を、次のように説明しています。昭和50年の一部改正で不使用取消審判の挙証責任を被請求人に転換したが、不使用取消審判の請求は全体として一つの事件を構成し、被請求人は請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについて登録商標の使用を証明すれば取消しを免れる(商標法第50条第2項)。そのため、請求人が請求に係る指定商品又は指定役務の範囲を自由に減縮することは請求の要旨の変更に当たり許されず、この趣旨を明確にするため、不使用取消審判については特許法第155条第3項の準用をやめた。その結果、実際上、不使用取消審判は、使用されていないことに確信のある指定商品又は指定役務だけについて請求すべきことになる、としています。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
出典:逐条解説〔第22版〕1765頁〜1766頁。平成23年改正解説書 第5章 121頁。
第56条第2項が特許法第155条第3項(指定商品・指定役務ごとの取下げ)の準用を認めるのは、第46条の無効審判です。不使用取消審判にはこの規定が準用されず、第51条・第52条の2・第53条・第53条の2の不正登録・不正使用に対する取消審判も登録全体の取消しを求める制度です。これらを無効審判と同じ「指定商品ごとに一部を取り下げられる」制度として扱いません。第56条/青本1763〜1767頁

9. 関係者の相関図 ― 取消しの審判でだれが何をするか

審判長(合議体) 特許法第136条〜第138条の準用 請求人 請求書=特許法第131条第1項 被請求人(商標権者) 答弁書=特許法第134条第1項 専用使用権者その他 登録した権利を有する者 参加=特許法第148条の準用 ① 審判の請求 ② 副本の送達 ③ 請求があった 旨の通知 商標法第55条→第46条第4項 使用権の設定

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:審判をする側(審判長・合議体)
  • 橙の枠:請求人
  • 赤の枠:被請求人(商標権者)
  • 藍の枠:専用使用権者その他登録した権利を有する者
  • 実線の矢印:審判の手続の流れ(①②)
  • 藍の太い矢印:③商標法第55条(第46条第4項の準用)による審判長の通知
  • 破線:商標権にもとづく使用権の設定(審判の手続ではない)

【図7】取消しの審判の関係者の相関図。本記事作成者が条文を整理して作図したもの。取消審決が確定すると商標権が消滅し(商標法第54条)、商標権にもとづく権利にも影響が及ぶため、③の通知が置かれています。

10. 拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間との関係

担当条文拒絶理由(商標法第15条)異議理由(商標法第43条の2)無効理由(商標法第46条第1項)除斥期間(商標法第47条)
商標法第54条、第55条、第55条の3、第56条非該当非該当非該当対象外

〔表11〕担当条文はいずれも審判の効果・手続を定める規定で、登録要件ではないため、拒絶・異議・無効の理由の列挙には現れません。なお、取消審決が確定した後の再出願の制限(商標法第51条第2項、第52条の2第2項、第53条第2項)は拒絶理由等の列挙に含まれます(→各関連記事)。

11. 四法比較(1)― 審判規定の準用条文

実用新案法第41条意匠法第52条商標法第56条
特許法第131条(審判請求の方式)準用なし(実用新案法第38条に独自規定)第1項・第2項第1項のみ
特許法第131条の2(審判請求書の補正)準用なし(実用新案法第38条の2に独自規定)第1項第3号・第2項第1号を除いて準用第1項のみ(第2号・第3号を除く)
特許法第134条(答弁書の提出等)準用なし(実用新案法第39条に独自規定)全部第1項・第3項・第4項
特許法第155条(取下げ)準用なし(実用新案法第39条の2に独自規定)第1項・第2項第1項・第2項(+第3項を無効の審判に)
特許法第156条第1項・第3項・第4項第1項・第3項・第4項第1項・第3項・第4項
特許法第158条、第160条第1項・第2項、第161条準用なし準用準用
特許法第167条(審決の効力)準用準用準用(読替えあり)
特許法第167条の2(審決の確定範囲)準用準用(「第167条から第170条まで」に含まれる)準用なし(商標法第55条の3)
特許法第125条(無効審決の効果)準用準用なし(意匠法第49条)準用なし(商標法第46条の2)

〔表12〕審判規定の準用条文の比較(主なもの。全部ではありません)。実用新案法第41条・意匠法第52条・商標法第56条の原文(e-Gov法令検索、2026年9月参照)から本記事作成者が整理。

ポイント:意匠法第52条は「第百六十七条から第百七十条まで」とまとめて準用するので特許法第167条の2を含みますが、商標法第56条第1項は「第百六十七条並びに第百六十八条から第百七十条まで」と第167条の2を飛ばしています。商標法は確定範囲を自前の条文(商標法第55条の3)で定めているためです。

12. 四法比較(2)― 審判・異議制度の有無マトリクス

制度特許法実用新案法意匠法商標法
拒絶査定に対する不服の審判あり 特許法第121条なしあり 意匠法第46条あり 商標法第44条
補正の却下の決定に対する不服の審判なし(特許法第122条は削除)なしあり 意匠法第47条あり 商標法第45条
無効の審判あり 特許法第123条あり 実用新案法第37条あり 意匠法第48条あり 商標法第46条
取消しの審判なしなしなしあり 商標法第50条、第51条、第52条の2、第53条、第53条の2
訂正審判あり 特許法第126条なし(審判ではない訂正=実用新案法第14条の2)なしなし
登録後の異議の申立てあり 特許法第113条(特許異議の申立て)なしなしあり 商標法第43条の2(登録異議の申立て)
延長登録無効審判あり 特許法第125条の2なしなしなし

〔表13〕四法の審判・異議制度の有無。各法の「審判」の章の条見出し(e-Gov法令検索、2026年9月参照)から本記事作成者が整理。登録異議の申立ては審判ではありませんが、比較のため同じ表に入れています。再審は省略。

読み方:〔表13〕を縦に見ると、商標法第56条の準用の「飛ばし方」の理由が見えてきます。商標法には訂正審判・延長登録無効審判がないので、それらに関する特許法の条項は借りません。逆に、商標法にしかない取消しの審判については、特許法の条文の「特許無効審判又は延長登録無効審判」という文言を読み替えて、当事者が対立する審判のルールを当てはめています。

13. 改正の経緯(確認できた範囲)

条文確認できた事実確認した資料
商標法第54条第2項「取消効果の遡及」は、平成8年改正商標法における不使用取消審判の改善の一つとして挙げられている審判便覧(第20版)53―01
商標法第55条の3、第43条の14平成23年法律第63号の解説書に「審決の確定の範囲等に係る規定の整備」の章がある特許庁 平成23年法律改正(平成23年法律第63号)解説書 目次ページ
特許法第167条(準用)同解説書に「無効審判の確定審決の第三者効の廃止」の章がある。現行の特許法第167条は「当事者及び参加人」を対象とする同上、e-Gov法令検索

〔表14〕改正の経緯のうち、一次資料で確認できた範囲。

第三者効の廃止(平成23年改正解説書):平成23年改正解説書 第6章「無効審判の確定審決の第三者効の廃止」は、改正前の特許法第167条では、確定審決の登録後は何人も同一の事実及び同一の証拠に基づいて審判を請求できなかった(第三者効)が、審判に関与していない第三者の争う権利まで制限するのは不合理であるとの指摘などを踏まえて第三者効を廃止し、先の審判で主張立証を尽くすことができた当事者及び参加人についてだけ、同一の事実及び同一の証拠による請求の制限を残した、と説明しています。あわせて、効力が及ぶのが当事者及び参加人だけになり、これらの者は登録がなくても確定を知ることができるので、効力の発生時点を確定審決の登録があったときから審決が確定したときに改めた、としています。特許法第167条を準用する商標法についても、特許法の考え方がそのまま当てはまるとして同様の手当てをした、と述べています。施行日は平成24年4月1日(平成23年政令第369号)。経過措置として、商標法の審判についても、施行日前に確定審決の登録があった審判と同一の事実及び同一の証拠に基づく審判には、なお従前の例による旨が定められた、と説明しています。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
出典:平成23年改正解説書 第6章 133頁〜137頁。
本記事の準用関係は2026年9月21日時点の条文で確認しています。例えば、現在も第46条の無効審判と第50条の不使用取消審判では、第56条第2項の準用範囲が異なります。改正前の一般論をそのまま当てはめず、対象の審判と準用条項を対応させます。2026年度試験は、受験案内により各試験の実施日に施行されている法令が対象です。第56条/受験案内・冊子2頁

14. よくある取り違え(Q&A)

Q. 取消しの審判で取消審決が確定すると、商標権は「初めから存在しなかつたもの」とみなされますか。
A. 条文上、そうはなりません。「初めから存在しなかつたものとみなす」は、無効の審決(商標法第46条の2第1項本文)と登録異議の取消決定(商標法第43条の3第3項)の文言です。取消審決は「その後消滅する」(商標法第54条第1項)、商標法第50条第1項の審判の場合は「審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす」(同条第2項)です。
Q. 商標法第54条第2項の基準時は「審判の請求の日」ですか。
A. 条文の文言は「審判の請求の登録の日」です。請求の日そのものではありません。
Q. 商標法第51条第1項や第53条第1項の審判の取消審決も、請求の登録の日にさかのぼりますか。
A. さかのぼりません。商標法第54条第2項が名指ししているのは「第五十条第一項の審判」だけです。それ以外の取消しの審判は第1項の原則(その後消滅)です。
Q. 指定商品ごとに請求された取消しの審判の審決は、指定商品ごとに確定しますか。
A. 商標法第55条の3ただし書が挙げているのは「指定商品又は指定役務ごとに請求された第四十六条第一項の審判の審決」だけです。取消しの審判はただし書に挙げられていないので、条文上は本文の「審判事件ごとに確定する」が適用されます。
Q. 商標法の無効の審判には、特許法のような「審決の予告」や「訂正の請求」はありますか。
A. 商標法第56条は特許法第164条の2(審決の予告)、第134条の2・第134条の3(訂正の請求)を準用していません。
Q. 商標法の拒絶査定に対する審判には、特許法第162条の審査官による審査(実務上「前置審査」)はありますか。
A. 商標法第56条は特許法第162条〜第164条を準用していません。拒絶査定に対する審判の特則は商標法第55条の2に置かれています(→関連記事 商標法第44条・第55条の2)。

試験での問われ方

担当条文は、単独の論点としてよりも、無効・登録異議・取消しの効果の比較や、特許法の審判手続との異同の形で整理すると違いを捉えやすい規定です。条文の文言の違い(「その後消滅する」「消滅したものとみなす」「初めから存在しなかつたものとみなす」)と、名指しされている審判の範囲を、原文で押さえておくことが有効です。

チェック項目見るべき条文
取消審決の効果の原則と、商標法第50条第1項の審判の特則商標法第54条第1項・第2項
無効の審決の効果の原則・ただし書・該当時を特定できないとき商標法第46条の2第1項・第2項
登録異議の取消決定の効果商標法第43条の3第3項
審判長の通知が必要な手続商標法第46条第4項、第43条の4第5項、第55条
確定範囲の例外が無効の審判だけであること商標法第55条の3、第43条の14
一部取下げの準用が無効の審判だけであること商標法第56条第2項、特許法第155条第3項
準用されていない特許法の規定商標法第56条第1項(〔表8〕)
防護標章登録への準用は商標法第54条第1項のみ商標法第68条第4項

〔表15〕条文チェックリスト。本記事作成者の整理。

問8肢ホは第56条が準用する特許法第156条第3項の審理再開に関係し、問9肢5は専用使用権者等への通知を異議申立てにも必要とする点が誤りです。通知を求める第46条第4項・第55条と異議手続を区別します。問8の正解は2、問9は3です。 公式問題/公式正解。肢の説明は条文による検証であり、公式解答が公表するのは問題全体の正解番号です。
レベル3のまとめ
  • 消滅時点:登録異議の取消決定・無効の審決=「初めから」(無効は商標法第46条の2第1項ただし書・第2項の例外あり)。取消審決=「その後消滅」。商標法第50条第1項の審判だけ「審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす」。
  • 審判便覧は、商標法第54条第2項により、審判請求の登録日から審決確定日までの不使用登録商標に係る商標権に基づく権利行使を回避できる、と説明しています。
  • 商標法第55条=商標法第46条第4項(審判長の通知)を5つの取消しの審判に準用。登録異議の申立てには商標法第43条の4第5項で準用。
  • 商標法第55条の3=審判事件ごとに確定。例外は指定商品又は指定役務ごとに請求された商標法第46条第1項の審判のみ。特許法第167条の2は準用されていない。
  • 商標法第56条第1項=特許法の審判規定を準用。訂正審判・訂正の請求・審決の予告・前置審査・特許法第159条などは列挙に含まれない。読替えにより、共同審判・審決の効力・審理の方式・費用負担の規定は、無効の審判と取消しの審判の全部に及ぶ。
  • 商標法第56条第2項=特許法第155条第3項(一部取下げ)を商標法第46条第1項の審判にだけ準用。
  • 防護標章登録への準用(商標法第68条第4項)は、商標法第54条第1項、第55条の2〜第56条の2。第54条第2項と第55条は列挙にない。

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