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【問題文】
特許異議の申立てに関し、次のうち、誤っているものは、いくつあるか。
なお、以下において、「取消理由通知」とは、特許法第120条の5第1項の規定による通知をいうものとする。
(イ)審判長は、取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人に対し、取消理由通知をしなければならないところ、特許異議申立人が申し立てない理由についても審理した場合においては、特許異議申立人に対しても当該通知をしなければならない。
(ロ)取消決定が確定したときは、原則として、その特許権は、初めから存在しなかったものとみなされるが、異議理由によっては、当該理由に該当するに至った時から存在しなかったものとみなされる場合がある。
(ハ)特許異議の申立てに係る特許の取消決定又はその特許を維持すべき旨の決定に対して不服がある場合は、いずれの決定であっても東京高等裁判所に対して不服を申し立てることができる。
(ニ)2以上の請求項に係る特許について、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされ、その一部の請求項について取消決定が確定したときは、全ての請求項に係る特許権は、初めから存在しなかったものとみなされる。
(ホ)特許異議申立事件において訂正の請求をした後、当該訂正を認め、取消理由を有する旨の取消理由通知があった。この場合、更に訂正の請求をするときは、先の訂正の請求に係る訂正の請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
1 1つ
2 2つ
3 3つ
4 4つ
5 5つ
出典:特許庁「令和8年度弁理士試験短答式筆記試験問題」【特許・実用新案】18(PDF22頁)。原文の改行・字間を整理し、赤字の強調を編集上追加しています。
【解説】
特許異議の申立ては、特許が付与された後に、その処分を特許庁が見直す制度です。本問では、通知を受ける人、決定の効果、不服申立て、請求項ごとの扱い、訂正の基準を順に確認します。無効審判と似た規定があるため、「異議でも同じだろう」と読み替えないことが大切です。
以下の表は、判断に必要な関係を整理した自作表です。法令は試験日(2026年5月17日)と2026年10月8日の対象規定を照合しています。
(イ)職権で理由を追加すると、申立人にも取消理由通知が必要か
この肢は誤りです。根拠は特許法120条の2第1項、120条の5第1項・第5項です。
審判長が取消決定をしようとするとき、取消理由通知をする相手は「特許権者及び参加人」です。特許を取り消される側に、理由を知って意見を述べ、必要なら訂正を請求する機会を与えます。
120条の2第1項は、申立人などが申し立てていない理由についても職権で審理できると定めています。しかし、これは審理できる理由の範囲を広げる規定です。取消理由通知の相手まで、申立人へ広げる規定ではありません。
〔表1〕通知と書類送付の相手を分ける(120条の5)
| 場面 | 相手と手続 |
|---|---|
| 取消決定をしようとするとき | 特許権者・参加人に取消理由を通知し、意見書提出の機会を与える(1項) |
| 職権で、申立てのない理由を審理したとき | そのことだけで1項の通知先に申立人が加わるわけではない |
| 指定期間内に訂正の請求があったとき | 原則として申立人へ取消理由を記載した書面・訂正関係書類を送付し、意見書提出の機会を与える(5項) |
申立人に書類が送られる仕組みは別にあります。訂正の請求がされた場合の120条の5第5項です。ただし、申立人が意見書提出を希望しない旨を申し出ている場合や、意見を聴く必要がない特別の事情がある場合は例外です。
青本第22版439頁は1項を特許権者等に弁明の機会を与える規定として説明し、440〜441頁は訂正に対する申立人の意見提出を別に説明しています。本肢はこの二つを混同し、「申し立てない理由を審理した」という事情から申立人への取消理由通知を必須にしているため、誤りです。
(ロ)取消しの効果が、後から生じた理由の発生時までしか遡らないことはあるか
この肢は誤りです。根拠は特許法114条3項です。比較する規定は125条ただし書です。
取消決定が確定すると、その特許権は初めから存在しなかったものとみなされます。114条3項には、本肢のいう「理由に該当するに至った時から」という例外がありません。
この例外があるのは、特許無効審判の無効審決について定める125条です。特許後に外国人の権利享有要件を満たさなくなった場合など、123条1項7号に該当する後発的な無効理由については、その理由が生じた時点から権利が存在しなかったものとみなされます。
〔表2〕異議の取消決定と、無効審決の効果
| 手続と根拠 | 確定した場合の効果 |
|---|---|
| 特許異議の取消決定(114条3項) | 初めから特許権が存在しなかったものとみなす |
| 無効審決の原則(125条本文) | 初めから特許権が存在しなかったものとみなす |
| 123条1項7号による無効審決(125条ただし書) | その理由に該当するに至った時から存在しなかったものとみなす |
青本458〜459頁は、後発的な無効理由が特許異議申立ての理由とされていないことを、早期の特許処分見直しという制度の趣旨と結び付けて説明しています。異議理由は113条に列挙されており、無効理由の全てを取り込むものではありません。
「初めから存在しない」という原則が共通でも、例外まで共通とは限りません。本肢は、無効審判の例外を特許異議に持ち込んでいる点で誤りです。
(ハ)取消決定と維持決定は、どちらも裁判所で争えるか
この肢は誤りです。根拠は特許法114条5項、178条1項です。
取消決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄です。一方、特許を維持すべき旨の決定については、114条5項が不服申立てを認めていません。「いずれの決定であっても」という表現が誤りです。
〔表3〕決定ごとの不服申立て
| 決定 | 不服がある場合の扱い |
|---|---|
| 特許を取り消す決定 | 178条による取消訴訟の対象になる |
| 特許を維持する決定 | 114条5項により不服を申し立てられない |
特許を取り消された権利者にとって、権利を失う決定を裁判で争えることは重要です。他方、異議申立ては第三者に特許処分の見直しを求める機会を与える制度であり、維持決定まで同じように争わせる仕組みにはしていません。青本428頁は、この点と、別途無効審判を請求できることを理由として説明しています。
ただし、「維持されたら誰でも無効審判を請求できる」という意味ではありません。無効審判には123条2項の請求人適格などの要件があります。また、取消決定への訴えにも178条2項以下の提訴できる者や期間の制限があります。裁判で争える決定の種類と、その訴えの要件は分けて押さえます。本肢は維持決定まで不服申立ての対象にしているため、誤りです。
(ニ)一部の請求項の取消しが確定すると、全ての請求項が消えるか
この肢は誤りです。根拠は特許法114条3項、185条です。
本肢では、全ての請求項に対して異議申立てがされています。しかし、取消決定が確定したのは、その一部だけです。申立ての対象と、取消しが確定した対象を区別しなければなりません。
185条は、114条3項を適用するとき、請求項ごとに特許がされ、又は特許権があるものとみなすと定めています。そのため、初めから存在しなかったものと扱われるのは、取消決定が確定した請求項に係る特許権です。
〔表4〕3請求項すべてに異議申立てがある例(114条3項・185条)
| 請求項 | 決定の状態 | 取消確定による効果 |
|---|---|---|
| 請求項1 | 取消決定が確定 | この請求項に係る特許権が初めから存在しなかったものとみなされる |
| 請求項2・3 | 取消決定が確定していない | 請求項1の取消確定だけでは、初めから存在しなかったことにはならない |
この表は、本肢の効果を示すための仮定例です。個々の決定がどの単位で確定するかは120条の7の問題であり、表から「どの事件でも必ず請求項ごとに別々に確定する」と読むことはできません。
本肢は既に一部の取消決定が確定したという前提なので、その効果がどこまで及ぶかを185条で判断します。一つの出願に複数の請求項が含まれていても、一部の取消しによって当然に残り全てを失わせるわけではありません。「全ての請求項に係る特許権」とする点で、誤りです。
(ホ)後の訂正は、先の訂正案の記載の範囲に縛られるか
この肢は誤りです。根拠は特許法120条の5第7項・第9項、同項で準用する126条5項・6項です。
ここで先の訂正が認められたのは、取消理由通知に至る審理の中での判断です。その段階の訂正案が、後の訂正を縛る新たな基準として固定されるわけではありません。
同じ特許異議申立事件で後の訂正の請求がされると、先の訂正の請求は取り下げられたものとみなされます。120条の5第7項の規定です。青本441頁は、複数の訂正の請求が並存するとき、後の請求が特許権者の意思を最も反映していると考えることを、この仕組みの理由として説明しています。
〔表5〕二度の訂正請求と、その基準
| 順序 | 法律上の扱い |
|---|---|
| ① 最初の訂正を請求 | 訂正案Aを審理する |
| ② 訂正を認めても取消理由があると通知 | この通知だけで、案Aが後の訂正の基準として固定されるわけではない |
| ③ 更に訂正案Bを請求 | 先の請求Aは取り下げられたものとみなす(120条の5第7項) |
| 案Bの適否 | 126条5項・6項などの訂正要件に照らして判断する |
126条5項による記載の範囲の基準は、願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面です。誤記・誤訳の訂正の場合は、願書に最初に添付したもの(外国語書面出願に係る特許では外国語書面)が基準になります。本肢のように、先の訂正請求書に添付した訂正案の範囲内に限るという規定ではありません。
ただし、後の訂正が自由になるわけではありません。訂正の目的、訂正可能な時期、新規事項を追加しないこと、実質上特許請求の範囲を拡張・変更しないことなどの要件は守る必要があります。例えば、先の案で削った記載を後の案に戻すときも、「案Aより広いか」だけでなく、法律上の基準と訂正要件に照らして判断します。既に確定した訂正と、同じ事件の審理中の訂正案も区別します。
本肢は、先の訂正案を後の訂正の上限としている点で誤りです。
確認した資料
- 特許法(e-Gov法令検索):113条、114条、120条の2、120条の5、120条の7、123条、125条、126条、128条、178条、185条。試験日と2026年10月8日の対象条文を照合しました。
- 特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕」:114条(427〜428頁)、120条の2(434頁)、120条の5(437〜441頁)、後発的無効理由(458〜460頁)、185条(662頁)。第22版の説明と現行条文を区別して参照しています。
- 特許庁・令和8年度短答式筆記試験の公式正答:特許・実用新案第18問。
【解答】
誤っているものは(イ)・(ロ)・(ハ)・(ニ)・(ホ)の5つ。正答は5です。
〔表6〕各肢の正誤(×=誤り)
| 肢 | 正誤 | 判断の決め手 |
|---|---|---|
| イ | × | 職権審理をしても、1項の取消理由通知先に申立人は加わらない |
| ロ | × | 異議の取消確定に、125条ただし書の後発的理由の例外はない |
| ハ | × | 維持決定に不服申立てはできない |
| ニ | × | 取消確定の効果は、その請求項に係る特許権について生じる |
| ホ | × | 後の訂正請求により先の請求は取下げ擬制となり、先の訂正案が基準になるわけではない |
5肢のうち、いくつ自信を持って判定できましたか
正答を選べたかだけでなく、根拠条文を思い浮かべて判定できた肢の数で、次に取り組むことを選んでください。
〔表7〕特許異議の申立ての自己診断
| 自信を持って判定できた肢 | 今の状態 | 次にやること |
|---|---|---|
| 5肢すべて | 通知先・決定の効果・訂正の基準を、無効審判との違いも含めて区別できている | 次の問題へ進む |
| 3〜4肢 | 手続の流れは分かるが、通知先や請求項単位、訂正の基準に迷いがある | あいまいだった肢だけ、枝別の過去問で潰す |
| 2肢以下 | 異議と無効審判、審理中の訂正と確定後の効果がまだつながっていない | 過去問を回す前に、流れを一度整理する |
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