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【問題文】
【特許・実用新案】6
実用新案権に関し、次のうち、正しいものは、どれか。
1 実用新案法は、特許法と異なり、実用新案権者に対し、登録実用新案に係る物品にその物品が登録実用新案に係る旨の表示を付するよう努めることまでは求めていない。
2 実用新案法の規定により実用新案権を侵害する行為とみなされる行為を行った者は、特許法の規定により特許権を侵害する行為とみなされる行為を行った者と異なり、刑事罰が課されることはない。
3 実用新案権を侵害する行為を行った者は、実用新案技術評価書が作成されていないことを理由として、刑事罰を逃れることはできない。
4 存続期間が満了するまでの登録料を納付していた実用新案権者は、実用新案権を無効にすべき旨の審決が確定した場合、法定期間内に請求することによって、当該請求をした年の翌年以降の各年分の登録料の返還を受けることができる。
5 無効審判請求により実用新案権を無効にすべき旨の審決が確定した場合、当該実用新案権の消滅は、実用新案原簿に登録されるものの、実用新案公報には掲載されない。
出典:特許庁「令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験問題」PDF8頁。問題文は改行・字間を整えています。赤字は判断の手掛かりとして編集部が追加しました。
【解説】
1 実用新案にも登録表示の努力義務がある
この肢は誤りです。実用新案法51条は、実用新案権者・専用実施権者・通常実施権者に、登録実用新案に係る物品又はその包装へ、登録実用新案である旨の表示を付するよう努めることを求めています。
特許法187条にも、特許表示について同じく努力義務が定められています。したがって、「特許法と異なり」という比較が成り立ちません。
表示には、その物品が権利の対象であることを周囲に知らせ、侵害を未然に防ぐ役割があります。実用新案が新規性・進歩性などの実体審査を経ずに登録される制度であっても、この役割がなくなるわけではありません。
ここでは、「表示しなければ処罰される」と「表示するよう努めなければならない」を分けます。 表示を付けなかったことに罰則がないからといって、法律上の努力義務もないとはいえません。一方、登録実用新案でない物に登録表示をする虚偽表示は、別の禁止規定の問題です。
〔表1〕登録表示の義務を比較する
| 制度 | 表示について求められること |
|---|---|
| 特許法187条 | 特許表示を付するよう努める |
| 実用新案法51条 | 実用新案登録表示を付するよう努める |
表示をしないことと虚偽表示は別の問題です。根拠:特許法187条、実用新案法51・52条(2026年10月4日確認)。
根拠:実用新案法51条・52条、特許法187条。青本第22版・印刷1081~1082頁(PDF1153~1154頁)、表示の趣旨は印刷671頁(PDF743頁)。
2 「侵害とみなす行為」も刑事罰の対象になる
この肢は誤りです。実用新案法28条は、一定の部品供給や、登録実用新案に係る物品を業として譲渡等するための所持などを、実用新案権又は専用実施権の侵害とみなしています。こうした行為も、同法56条の侵害罪の対象に含まれます。
実用新案法56条の法定刑は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科です。「みなされる」にとどまるので民事上の責任しか生じない、という整理ではありません。
特許法では、直接侵害を196条、101条による「侵害とみなす行為」を196条の2で分けています。実用新案法にはこのような条文の分け方がなく、56条で扱います。別の処罰条文がないことと、処罰されないことは違います。
なお、対象行為に当たれば、事情を問わず自動的に刑罰が科されるという意味ではありません。侵害罪の成立には故意などの要件が必要です。本肢の誤りは、刑事罰の可能性を一律に否定している点にあります。
〔表2〕侵害とみなす行為の刑事罰
| 制度 | 処罰の根拠と法定刑 |
|---|---|
| 実用新案法 | 56条。5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金(選択又は併科) |
| 特許法 | 196条の2。5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金(選択又は併科) |
個人の侵害罪の比較です。故意などの成立要件を満たす必要があります。根拠:実用新案法28・56条、特許法101・196条の2、刑法38条1項(2026年10月4日確認)。
根拠:実用新案法28条・56条、特許法101条・196条・196条の2、刑法38条1項。青本第22版・印刷1094頁(PDF1166頁)、特許法側の説明は印刷701~703頁(PDF773~775頁)。青本の「懲役」という表記は刊行時のもので、本文の刑名は確認した現行条文に合わせています。
3 技術評価書の提示を求める場面を読み分ける
この肢は正しいです。技術評価書が作成されていないこと自体は、侵害した者が刑事罰を免れる理由にはなりません。
混同しやすいのが、実用新案法29条の2です。実用新案権者又は専用実施権者は、登録実用新案に係る技術評価書を提示して警告した後でなければ、侵害者等に対して権利を行使することができません。差止めや損害賠償を請求するときに問題になる規定です。
この制限は、実体審査を経ずに登録された権利が安易に行使され、相手方に不利益が生じることを防ぐためのものです。権利の有効性について客観的な判断材料を示し、慎重な権利行使を促します。
これに対し、56条は侵害行為に対する刑事罰の規定です。権利者が民事上の権利を行使するための条件を、そのまま侵害罪の成立条件へ移すことはできません。 56条は、技術評価書の作成や提示を処罰の前提としていません。
「評価書がないから差止請求が認められない」と「評価書がないから犯罪にならない」は別の話です。ただし、評価書の有無と無関係に、権利侵害や故意など、刑事責任の要件は満たす必要があります。本肢も「侵害した者は全員処罰される」と述べているわけではありません。
〔表3〕技術評価書と二つの場面
| 場面 | 技術評価書との関係 |
|---|---|
| 権利者等による民事上の権利行使 | 技術評価書を提示して警告した後でなければ行使できない |
| 侵害者の刑事責任 | 評価書の作成・提示は56条の処罰の前提ではない。侵害や故意等の要件は別に必要 |
根拠:実用新案法29条の2・56条、刑法38条1項(2026年10月4日確認)。
根拠:実用新案法29条の2・56条。青本第22版・印刷1016~1017頁(PDF1088~1089頁)、1094頁(PDF1166頁)。
4 返還対象は「請求した年」ではなく「審決が確定した年」で決まる
この肢は誤りです。実用新案法34条1項3号は、無効審決が確定した場合に返還できる登録料を、審決が確定した年の翌年以後の各年分と定めています。問題文の「当該請求をした年の翌年以降」ではありません。
ここでは、二つの時間の基準を分けて読みます。
〔表4〕返還対象と返還請求期限(実用新案法34条1項3号・2項、2026年10月4日確認)
| 確認すること | 基準 |
|---|---|
| どの年分の登録料が返ってくるか | 無効審決が確定した年の翌年以後 |
| いつまで返還を請求できるか | 原則として、無効審決が確定した日から6月 |
前者は34条1項3号、後者は同条2項です。請求を早くしたか遅くしたかによって、返還対象の年分が決まるわけではありません。
問題文には「法定期間内に請求」とあるため、一見正しそうに見えます。しかし、請求期限を守っていることと、返還対象の説明が正しいことは別です。返還される年分の基準を入れ替えている点を見抜きます。
また、無効審決が確定したからといって、納付した登録料の全額が返還されるわけでもありません。返還は34条が定めた範囲に限られます。責めに帰することができない理由で期限内に請求できなかった場合の救済は、同条3項に別途定められています。
根拠:実用新案法34条1項3号・2項・3項。青本第22版・印刷1030~1032頁(PDF1102~1104頁)。
5 原簿への登録に加えて、公報にも掲載される
この肢は誤りです。実用新案法49条1項1号は、実用新案権の消滅を実用新案原簿へ登録する事項としています。この部分は正しいのですが、「実用新案公報には掲載されない」が誤っています。
公報については、実用新案法53条2項が特許法193条2項の所定の号を準用しています。そのうち5号は、権利の消滅を掲載事項とし、存続期間の満了によるものと、特許料の不納によるものを除外しています。実用新案への準用では、対応する実用新案権・登録料として読みます。
本肢は無効審決の確定による消滅です。存続期間満了や登録料不納による消滅ではないため、除外には当たりません。また、準用される7号には、審判の確定審決も掲載事項として挙げられています。
原簿は権利に関する事項を登録して管理するもの、公報は法定の事項を公に知らせるものです。原簿に記録するから公報には載せない、という二者択一ではありません。 本肢は両方を確認する必要があります。
〔表5〕無効審決確定による消滅の記録
| 記録先 | 本肢の消滅の扱い |
|---|---|
| 実用新案原簿 | 消滅を登録する(実用新案法49条1項1号) |
| 実用新案公報 | 消滅を掲載する(同法53条2項・準用特許法193条2項5号) |
公報掲載から除かれる存続期間満了・登録料不納による消滅と、本肢の無効審決確定による消滅を区別します。根拠:上記条文(2026年10月4日確認)。
根拠:実用新案法49条1項1号・53条2項、同項が準用する特許法193条2項5号・7号。青本第22版・印刷1083頁(PDF1155頁)。
特許法と実用新案法を並べて確認する
〔表6〕制度を横断して整理する(2026年10月4日確認)
| 論点 | 特許法 | 実用新案法 |
|---|---|---|
| 権利の表示 | 特許表示の努力義務(187条) | 登録表示の努力義務(51条) |
| 直接侵害の刑事罰 | 10年以下の拘禁刑・1,000万円以下の罰金。選択又は併科(196条) | 5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金。選択又は併科(56条) |
| 侵害とみなす行為の刑事罰 | 別条文で5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金。選択又は併科(196条の2) | 56条による処罰対象に含まれる |
| 技術評価書を提示して警告する権利行使の条件 | 実用新案法29条の2に対応する技術評価書の条件はない | 29条の2に規定。刑事罰の前提とは分ける |
| 無効審決確定による年金の返還 | 審決が確定した年の翌年以後の各年分。原則6月以内に請求(111条) | 同じ基準(34条) |
| 無効審決確定による消滅の公報掲載 | 193条2項5号 | 53条2項で特許法193条2項5号を準用 |
法定刑の表は、個人の侵害罪を比較したものです。法人への両罰規定とは区別しています。比較の要点は、実用新案だけが刑事罰や表示義務のない権利ではない、という点です。
【解答】
正答は3です。
| 肢 | 正誤 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 誤り | 実用新案にも登録表示の努力義務がある |
| 2 | 誤り | 侵害とみなす行為も刑事罰の対象になる |
| 3 | 正しい | 技術評価書未作成は、それ自体で刑事罰を免れる理由にならない |
| 4 | 誤り | 返還対象の基準は、請求した年ではなく無効審決が確定した年 |
| 5 | 誤り | 無効審決確定による消滅は、公報にも掲載される |
特許庁の公式正答の「特許・実用新案 第6問=3」と照合しています。
参照:実用新案法(e-Gov)、特許法(e-Gov)、刑法(e-Gov)、工業所有権法逐条解説〔第22版〕。条文確認日:2026年10月4日。試験日(2026年5月17日)と公開準備日の条文を照合し、この記事で参照する条文の一致を確認しました。青本の該当箇所は2026年9月17日に確認しています。青本は刊行時の解説資料として参照し、現在の条文とは区別しています。
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