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2026年度 弁理士試験短答・特許実用新案 第12問|均等論・消尽・技術的範囲

2026年度弁理士試験 短答第12問 均等論・消尽・技術的範囲

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目次

【問題文】

出典:特許庁「令和8年度弁理士試験短答式筆記試験問題」特許・実用新案第12問(PDF15〜16頁)。公式問題PDF

以下は問題原文です。改行・字間を整え、判断の手掛かりとなる箇所を赤字にしました。赤字は当サイトによる編集上の追加です。

【特許・実用新案】12

特許権に関する事例について、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。なお、(イ)~(ホ)はそれぞれ独立しているものとする。また、事例や(イ)~(ホ)に示されていない事実をあえて仮定する必要はない。

【事例】甲は、物に関する発明について特許を受けた(以下、この発明を「本件特許発明」といい、その特許を「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)。甲は、乙の販売する製品Aが、本件特許発明の技術的範囲に属すると考え、乙に対して特許権侵害訴訟を提起した。一方、乙は、製品Aの販売が本件特許権の侵害に該当しないことを、特許権侵害訴訟において反論した。

(イ)甲は、本件特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と製品Aの構成に異なる部分があるものの、製品Aは当該特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであると主張した。一方、乙は、製品Aがその製造時点における公知技術と同一であると考えた。乙が、それを根拠として、製品Aが当該特許請求の範囲に記載された構成と均等なものでないと反論した場合、乙の反論を根拠として、製品Aは当該特許請求の範囲に記載された構成と均等なものでないと判断される。

(ロ)甲は、丙に対し、製品Aを外国において販売した。その際に、甲と丙との間においては、製品Aについて販売地から日本国を除外する旨の合意はなかった。さらに、乙は、丙から製品Aを外国において購入し、日本国に輸入して販売を行っていた。乙は上記事情による反論をした。この場合において、甲による本件特許権の行使は認められないものと判断される。

(ハ)乙は、甲が販売する製品Bを購入して使用した後、消耗した中身を交換し、リサイクル品として製品Aを販売していた。製品Bが本件特許に係る特許製品である場合において、製品Aは製品Bとは同一性を欠き、製品Aは本件特許に係る新たな特許製品として製造されていると認められれば、本件特許権は消尽したものと判断される。

(ニ)乙は、技術的範囲の確定に当たって、願書に添付された明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきと主張した。甲は、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解できない場合、及び一見してその記載が誤記ではないことが明らかであるといった、特段の事情もないため、明細書の記載を考慮すべきではないと主張した。この場合において、甲の主張にかかわらず、明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義が解釈される。

(ホ)本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1には、「製造方法αによって製造される、組成物」と記載されていた。また、製造方法αによって実際に製造された組成物と製品Aとは物として同一であるものの、製品Aの製造方法βは製造方法αとは異なっていた。乙は、製造方法の相違によって製品Aが本件特許発明の技術的範囲に属しないと反論した。この場合において、甲による本件特許権の行使は認められないものと判断される。

1 1つ

2 2つ

3 3つ

4 4つ

5 5つ

【解説】

甲が特許を持つことと、乙が販売する個々の製品Aについて権利を行使できることは、分けて考えます。「技術的範囲に入るか」と「一度販売された製品について権利行使が制限されるか」が、本問の二つの軸です。各肢は独立しているため、たとえば(ロ)の海外販売の事実を(ホ)に持ち込むことはできません。

以下の表は、本問に必要な条件を整理した自作の学習用要約です。試験日2026年5月17日を基準とし、根拠条文は2026年9月30日時点とも照合しました。○は正しい肢、×は誤った肢を示します。

(イ)均等論で公知技術と比べるのは、いつか

根拠:特許法70条1項、最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1083号・ボールスプライン事件、理由三1、PDF3〜4頁)。

この肢は誤りです。決め手は「その製造時点における公知技術」です。均等論の第4要件で公知技術との関係を見る基準時は、対象製品の製造時ではなく、特許発明の出願時です。

甲は、請求項の構成と製品Aに違いがあることを認めつつ、均等の範囲に含まれると主張しています。請求項の文言どおりではない構成でも、判例の五つの要件を満たせば技術的範囲に入る場合があります。ただし、出願時に既に公知だった技術や、その公知技術から当業者が出願時に容易に考え出せた技術まで、均等論によって独占させることはできません。

〔表1〕均等論の五要件と、本問で混同させている時点

要件 確認する内容
第1要件 相違部分が特許発明の本質的部分ではない
第2要件 置き換えても発明の目的を達し、同一の作用効果を奏する
第3要件 対象製品等の製造等の時点に、当業者が置換を容易に思い付く
第4要件 対象製品等が特許出願時の公知技術と同一でも、そこから当業者が出願時に容易に推考できたものでもない
第5要件 出願手続で意識的に請求範囲から除外したなどの特段の事情がない

表の根拠:上記最高裁判決。基準:本問の試験日。各要件の判断枠組みを要約し、立証責任などは省略しています。

乙が示したのは、Aが「製造時点」の公知技術と同一であるという事情だけです。それだけでは、Aが「出願時」にも公知だったとはいえません。問題は明示されていない事実を仮定しないよう指定しているため、出願時にも公知だったと補って読むことはできません。

また、この反論が足りないからといって、Aの均等侵害が直ちに成立するわけでもありません。他の要件の充足は別の問題です。本肢が誤りなのは、乙の挙げた事情だけを根拠に「均等でない」と結論付けているからです。第3要件は製造等の時点、第4要件は出願時と、何を判断する時点かをセットで覚えます。

(ロ)権利者が海外で販売した製品を、日本へ輸入した場合

根拠:特許法68条・2条3項1号、最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1988号・BBS事件、理由三3〜5、PDF5〜7頁)。

この肢は正しいです。甲自身が外国でAを丙へ販売しており、甲と丙の間には日本を販売先から除外する合意がありません。丙から買った乙に対し、甲が本件特許権を行使することは認められません。

特許権者が外国で製品を売れば、その製品が流通して日本へ輸入されることも予想できます。BBS判決は、この流通への信頼を保護する一方、特許権者が日本での権利行使を留保する余地も認めています。そのため、権利者から直接買った人と、その人からさらに買った人とでは、留保の条件を分けています。

〔表2〕海外販売後、日本で権利を行使するための留保

権利行使の相手 判例が求める留保
直接の譲受人・丙 甲と丙の間で、販売先ないし使用地域から日本を除外する合意
丙から買った第三者・乙、その後の転得者 上記の合意に加え、製品への明確な表示
本問の乙 合意自体がないため、留保の条件を満たさない

表の根拠:BBS最高裁判決・理由三4。基準:本問の試験日。日本の特許権者又はこれと同視し得る者による国外譲渡を前提とした整理です。

本問では、製品への表示がどうだったかを推測する必要はありません。乙に対する留保には「合意と表示」が必要なのに、合意がないことが明示されているからです。

ここで、外国での販売を国内消尽と全く同じ理由で説明しない点にも注意します。最高裁は、国外譲渡を国内譲渡と直ちに同列には扱わず、留保なしの国外譲渡に伴う黙示的な権利の授与を根拠に権利行使を制限しました。また、譲渡地で対応する外国特許権を持っていることを必要条件にはしていません。本問は、甲自身の海外販売と日本除外合意の不存在から判断できます。

(ハ)使用済み製品を加工し、新しい特許製品を作った場合

根拠:特許法68条・2条3項1号、最高裁平成19年11月8日第一小法廷判決(平成18年(受)第826号・インクカートリッジ事件、理由4(1)、PDF9〜10頁)。

この肢は誤りです。「製品Bとは同一性を欠き」「新たな特許製品として製造されている」と認められるなら、Bの販売による消尽を理由に、Aについてまで権利行使を免れることはできません。

国内で特許権者等が適法に販売した特許製品について、購入者が使用・再販売するたびに許諾を取り直す必要はありません。これが消尽です。権利者には販売などを通じて発明の公開の代償を確保する機会があり、製品の流通過程で二重の利得を認める必要がないことなどが理由になります。

ただし、その制限は、販売されたその製品を対象とします。加工・部材交換によって、元の製品との同一性を欠く特許製品を新たに製造した場合は、元の製品の流通とは別です。

〔表3〕消尽で自由になる行為と、新たな製造の違い

場面 消尽との関係
権利者等が国内で譲渡した製品そのものを使用・再販売 その製品について権利行使が制限される
加工・部材交換をしただけで、新たな製造かまだ分からない 製品の属性、発明の内容、加工等の態様、取引の実情を総合判断
元の製品と同一性を欠く特許製品を新たに製造したと認められる 新しい製品について権利行使が許される

表の根拠:上記最高裁判決・理由4(1)。基準:本問の試験日。国内譲渡についての判示を整理しています。

「中身を交換した」「リサイクル品」という名称だけで、新たな製造かどうかは決まりません。判例は、製品の機能・構造・材質・用途・耐用期間・使用態様、加工の内容や程度、交換部材の技術的機能・経済的価値などを考慮します。

しかし本肢は、その評価を終えた結果として「新たな特許製品として製造されていると認められれば」と条件を置いています。ここで中身の交換程度をさらに推測する必要はありません。仮にBの最初の販売について消尽が認められても、その効果は新しく製造されたAを覆いません。同一性を欠く新たな製造を認めながら消尽を理由に権利行使を否定する、という結論が逆です。

(ニ)請求項の用語を解釈するとき、明細書・図面を考慮できるか

根拠:特許法70条1〜3項、特許庁『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説』第22版・印刷279〜280頁。

この肢は正しいです。技術的範囲を定めるときは、明細書の記載及び図面を考慮して、請求項に記載された用語の意義を解釈します。「特段の事情がある場合だけ」という条件は、70条2項にありません。

70条1項は、技術的範囲を定める基礎を特許請求の範囲に置きます。2項は、その請求項の言葉をどう読むかについて、明細書・図面を考慮すると定めています。たとえば、明細書にある用語の定義を読むことは、請求項を離れて発明を作り直すことではなく、請求項の内容を正確に理解するための作業です。

〔表4〕技術的範囲の確定における三つの資料

資料 70条での扱い
特許請求の範囲 技術的範囲を定める基礎(1項)
明細書の記載・図面 請求項の用語の意義を解釈する際に考慮(2項)
要約書 考慮してはならない(3項)

表の根拠:特許法70条。試験日・2026年9月30日の条文は一致。判例上の個別事案の解釈までは示していません。

一方、明細書を考慮するからといって、請求項にない事項を自由に付け加えたり、技術的範囲を実施例だけに限定したりしてよいわけではありません。青本も、2項は個々の用語の意味の解釈についての規定であり、そのような読み替えを容認するものではないと説明しています。

甲の主張は、請求項が不明確などの事情がなければ明細書を読めない、というものです。しかし本問は侵害訴訟における技術的範囲の確定であり、70条2項の規定をそのまま適用できます。乙のいうとおり、明細書・図面を考慮して用語を解釈します。

(ホ)物を製造方法で表した請求項は、別の方法で作れば外れるか

根拠:特許法70条、最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決(平成24年(受)第1204号・プロダクト・バイ・プロセス・クレーム事件、理由4(1)・(2)、PDF3〜5頁)。

この肢は誤りです。請求項が対象にしているのは「製造方法α」という方法そのものではなく、その方法によって表された組成物という物です。Aがαによって作られた組成物と物として同一であるなら、βという別の製法を使ったことだけでは、技術的範囲から外れません。

物の発明の請求項に製造方法が記載されたものを、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)といいます。最高裁は、この場合も技術的範囲を、記載された製法で作られた物と構造・特性等が同一である物として確定するとしました。物の発明としての保護は、同じ物を作る別の方法があるからといって、その方法による物を当然に除くものではないからです。

〔表5〕本問で比較する二つの対象

比較対象 問題の条件と判断
製造方法 αとβは異なる。しかし、この相違だけでは範囲外にならない
製造された物 αによる組成物とAは物として同一。物の技術的範囲から除外する理由にならない
特許の有効性など 別の論点。本問にない無効理由等は仮定しない

表の根拠:上記最高裁判決・理由4(1)。基準:本問の試験日。物の発明のPBPクレームを扱っており、方法の発明の表ではありません。

ここでは「技術的範囲」と「明確性要件」を混ぜないことも大切です。同じ判決は、PBPクレームの明確性について、出願時に物を構造・特性によって直接特定することが不可能又はおよそ実際的でない事情が必要だと述べています。これは、特許法36条6項2号に適合するかという別の判断です。

本肢では、そのような事情の有無や無効の抗弁は示されていません。勝手に無効理由を補って、甲の権利行使が認められないと結論付けることはできません。反対に、あらゆる権利行使の要件がこの一事だけで確定するともいいません。「製造方法が異なる」という乙の反論によって、甲の権利行使が否定される、という本肢の判断が誤りです。

確認した一次資料

確認日:2026年9月30日。条文は試験日2026年5月17日版と現行版を照合し、本問で参照する2条・29条・36条・68条・70条・104条の3に差異がないことを確認しました。判例は次の最高裁判決の該当箇所を確認しています。

【解答】

正答は「2」(正しいものは2つ)です。 正しいのは(ロ)と(ニ)です。

〔表6〕各肢の正誤と決め手

肢 正誤 判断を分ける箇所
イ × 公知技術との比較は製造時ではなく出願時
ロ ○ 甲自身の海外販売。日本を除外する合意なし
ハ × 同一性を欠く新たな特許製品には、元の製品の消尽による制限は及ばない
ニ ○ 70条2項により、明細書・図面を考慮して用語を解釈
ホ × 物として同一なら、製法が違うだけで技術的範囲から外れない

出典:特許庁「令和8年度弁理士試験短答式筆記試験問題解答」 特許・実用新案第12問。正答番号は保存済み公式資料で照合しています。

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