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小学生でも分かる商標法|商標法第45条・第56条の2 補正の却下の決定に対する審判 ― 「その書き直しはみとめません」に言い返す道

小学生でもわかる商標法 第39回「補正却下に対する審判」。書き直しの却下を争う手続。

小学生でも分かる商標法 / D. 登録異議・審判・訴訟 #39

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出願の用紙を書き直したら、審査をする人に「この書き直しはみとめません」と言われることがあります。そのはんだんに納得できないとき、別の人たちにもう一度見てもらう手続が、この記事のテーマです。期限は3か月。言い分がみとめられると、審査をする人はその答えにしたがわなければなりません。特許にはなく、意匠と商標にだけある、めずらしい審判です。

条文:商標法第45条、第56条の2(準用する意匠法第51条)関連:商標法第16条の2、第17条の2、第44条第2項、第55条の2第3項、第63条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

書き直しを「みとめません」と言われたら

パン屋さんが、お店の目じるし「ほしぞらパン」を登録(とうろく)してもらおうと、用紙を出しました。あとから用紙を書き直したところ、審査(しんさ)をする人(審査官=しんさかん)から、こう言われました。

「この書き直しは、中身を大きくかえすぎています。みとめません。」

でも、パン屋さんは「大きくかえてなんかいない」と思っています。こんなとき、だまってあきらめるしかないのでしょうか。

いいえ。商標(しょうひょう=お店や商品の「目じるし」)の法律には、別の人たちに、もう一度はんだんしてもらう道が用意されています。これを「審判(しんぱん)」といいます。審判をするのは、審査官とは別の「審判官(しんぱんかん)」という人たちです。

パン屋さん 目じるし 「ほしぞらパン」 用紙を書き直した 審査をする人 (審査官) 「この書き直しは みとめません」 別の人たち (審判官) もう一度、はんだん しなおす ① 「みとめません」の知らせ ② 3か月以内に 「もう一度見てください」 ③ 答え を伝える

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:用紙を出した人(パン屋さん)
  • 赤の枠:審査をする人(審査官)と、その「みとめません」という答え
  • 藍の枠:別の人たち(審判官)

【図1】「書き直しはみとめません」に言い返す道のイメージ。「ほしぞらパン」は架空の例です。

期限は3か月。そのあいだ、もとの審査はストップ

「もう一度見てください」と言えるのは、「みとめません」の知らせがとどいた日から3か月以内です。

そして、別の人たちがはんだんしているあいだ、もとの審査はストップして待ちます。書き直しがみとめられるかどうかが決まらないと、審査を先に進められないからです。

答えは2通り。「言い分が正しい」なら、審査官はしたがう

別の人たち(審判官)の答え 「パン屋さんの言い分が正しい」 「みとめません」は取り消される 審査官は、この答えにしたがう (同じ理由でもう一度「みとめません」 とは言えない) 「審査官のはんだんが正しい」 「みとめません」はそのまま 書き直す前の内容で、審査が進む (まだ納得できなければ、 裁判所にうったえる道がある)

図は左右にスクロールできます。

  • 藍の枠:答えを出す人たち(審判官)
  • 橙の枠:パン屋さんの言い分が正しいとされた場合
  • 赤の枠:審査官のはんだんが正しいとされた場合

【図2】審判の答えは2通り(イメージ)。左の答えが出たとき、審査官がその答えにしたがうことが、法律に書かれています。

① 「みとめません」に納得できない → 別の人たちに見てもらえる② 期限は知らせがとどいてから3か月③ そのあいだ、もとの審査はストップ④ 言い分が正しいとされたら、審査官はしたがう
レベル1のまとめ
  • 用紙の書き直し(補正=ほせい)を「みとめません」と言われても、別の人たち(審判官)にもう一度はんだんしてもらえます。
  • 言えるのは、知らせがとどいた日から3か月以内です。
  • はんだんが出るまで、もとの審査はストップします。
  • 「言い分が正しい」という答えが出たら、審査官はその答えにしたがいます。
  • この道は、商標と意匠(いしょう=もののデザイン)にあります。特許(とっきょ=発明)にはありません。

※ 「みとめません」と言われるのは、どんな書き直しでもではなく、「要旨(ようし)を変更する」書き直しにかぎられます。また、3か月の期限にはのばしてもらえる場合があること、書き直したあとの内容で「出し直し」をした人はこの道を使えないことなど、正確には条件があります(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

商標法第45条 ― 審判を請求できる人と期限

商標法第45条(補正の却下の決定に対する審判)(原文) 第十六条の二第一項の規定による却下の決定を受けた者は、その決定に不服があるときは、その決定の謄本の送達があつた日から三月以内に審判を請求することができる。ただし、第十七条の二第一項において準用する意匠法第十七条の三第一項に規定する新たな商標登録出願をしたときは、この限りでない。
2 前条第二項の規定は、前項の審判の請求に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

「補正(ほせい)」は、出願の書類をあとから直すこと。「却下(きゃっか)」は、受けつけずにしりぞけること。「謄本(とうほん)の送達(そうたつ)」は、決定の書面の写しが正式にとどけられることです。第1項を部品に分けると、次のようになります。

部品文言意味
だれが「第十六条の二第一項の規定による却下の決定を受けた者」要旨を変更する補正だとして、審査官に補正を却下された出願人
どんなとき「その決定に不服があるとき」却下のはんだんに納得できないとき
いつまでに「その決定の謄本の送達があつた日から三月以内」決定の書面がとどいた日から3月以内
何ができる「審判を請求することができる」特許庁の審判官に、決定が正しいかどうかをはんだんしてもらえる
例外「ただし、…新たな商標登録出願をしたときは、この限りでない」補正後の商標で「出し直し」(新出願)をした人は、審判を請求できない

〔表1〕商標法第45条第1項を部品に分けた表。

項役割ひとことで
第45条第1項本文審判を請求できる人・理由・期限を定める却下の決定の謄本の送達があった日から3月以内
第45条第1項ただし書審判を請求できない場合を定める新出願をしたときは請求できない
第45条第2項商標法第44条第2項(期間を守れなかったときの救済)を準用する自分の責任でない理由で遅れたときの特別ルール
第56条の2意匠法第51条を準用する決定を取り消す審決の判断は、審査官を拘束する

〔表2〕商標法第45条の各項と第56条の2の役割一覧。

第45条第2項が準用する商標法第44条第2項

商標法第44条第2項(原文) 前項の審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により同項に規定する期間内にその請求をすることができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその請求をすることができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

「その責めに帰することができない理由」とは、自分のせいとはいえない理由のことです。そのような理由で3月の期限に間に合わなかったときは、理由がなくなった日から14日(外国にいる人などの「在外者」は2月)以内で、しかも、もとの期限がすぎてから6月以内であれば、審判を請求できます。

商標法第56条の2 ― 意匠法第51条を借りてくる

商標法第56条の2(意匠法の準用)(原文) 意匠法第五十一条の規定は、第四十五条第一項の審判に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
意匠法第51条(補正却下決定不服審判の特則)(原文) 補正却下決定不服審判において決定を取り消すべき旨の審決があつた場合における判断は、その事件について審査官を拘束する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

「準用(じゅんよう)」は、ほかの法律の決まりを、必要な読みかえをして借りてくることです。「審決(しんけつ)」は審判の結論、「拘束(こうそく)する」は、したがわなければならないという意味です。商標法にあてはめて読むと、次のようになります。

意匠法第51条の文言商標法で読むとき
「補正却下決定不服審判において」商標法第45条第1項の審判において
「決定を取り消すべき旨の審決があつた場合における判断は」補正の却下の決定を取り消す審決が出たときの、その審決の判断は
「その事件について」その商標登録出願の事件にかぎって
「審査官を拘束する」審査官は、その判断にしたがわなければならない

〔表3〕意匠法第51条を商標法第45条第1項の審判にあてはめた読み方。商標法第56条の2には読替規定が置かれていないため、右列は本記事作成者が条文の文言に沿ってあてはめたものです。

ポイント:商標法には「補正却下決定不服審判」という名前は出てきません。条文の見出しは「補正の却下の決定に対する審判」、条文の中では「第四十五条第一項の審判」とよばれます。「補正却下決定不服審判」は意匠法第47条の条文上の名前です。

手続の流れ

flowchart TB
  A["出願人が指定商品・指定役務
または商標について補正"] --> B["審査官:要旨を変更する補正と判断"] B --> C["決定をもって補正を却下
(商標法第16条の2第1項)
文書・理由つき(同条第2項)"] C --> D["決定の謄本の送達"] D --> E["3月以内に審判を請求
(商標法第45条第1項)"] E --> F["審査官は審決が確定するまで
審査を中止(商標法第16条の2第4項)"] F --> G{"審判官の合議体の判断"} G -- "決定は誤り" --> H["決定を取り消すべき旨の審決"] G -- "決定は正しい" --> I["請求は成り立たない旨の審決"] H --> J["その判断は審査官を拘束
(商標法第56条の2・意匠法第51条)"] I --> K["不服なら審決に対する訴え
(商標法第63条第1項)"] style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style J fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の箱:請求人(出願人)の主張が認められる側の結論とその効果
  • 赤の箱:認められない側の結論(請求は成り立たない旨の審決)

【図3】補正の却下から審決までの流れ。本記事作成者が条文(商標法第16条の2、第45条、第56条の2、第63条、意匠法第51条)をフロー化したものです。審決の結論の言い回しは説明用で、実際の審決の主文の文言ではありません。

時間の流れで見る

時間の流れ → 却下の決定の 謄本の送達 審判の請求 3月 審決の確定 審判を請求できる期間 商標法第45条第1項(新出願の期間も同じ3月) 査定をしてはならない期間 商標法第16条の2第3項 審査を中止しなければならない期間 商標法第16条の2第4項(請求したとき〜審決の確定) → 審査再開

図は左右にスクロールできます。

  • 藍の帯:審判を請求できる期間
  • 赤の帯:査定をしてはならない期間
  • 青緑の帯:審査を中止しなければならない期間
  • 破線の縦線:上の丸印の時点から下ろした目印(期間の区切り)

【図4】補正の却下の決定のあとのタイムチャート。本記事作成者が条文を図にしたものです。横幅は実際の日数に比例していません。「審査再開」は条文の文言ではなく、中止の終わり(審決の確定)のあとを示す説明用の表示です。時間軸に縮尺はありません。

レベル2のまとめ
  • 商標法第45条第1項:商標法第16条の2第1項の却下の決定を受けた者は、決定の謄本の送達があった日から3月以内に審判を請求できます。
  • 同項ただし書:補正後の商標についての新出願をしたときは、請求できません。
  • 同条第2項:商標法第44条第2項(責めに帰することができない理由があるときの救済)を準用します。
  • 商標法第56条の2:意匠法第51条を準用。決定を取り消すべき旨の審決の判断は、その事件について審査官を拘束します。
  • 審判を請求すると、審決が確定するまで審査は中止されます(商標法第16条の2第4項)。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 請求の要件を細かく見る

項目内容根拠
対象となる決定審査官が、指定商品・指定役務または商標登録を受けようとする商標についての補正を「要旨を変更するもの」として却下した決定商標法第16条の2第1項、第45条第1項
請求人「却下の決定を受けた者」商標法第45条第1項
請求期間決定の謄本の送達があった日から3月以内商標法第45条第1項
期間の延長特許庁長官は、遠隔または交通不便の地にある者のため、請求によりまたは職権で、期間を延長できる商標法第77条第1項で準用する特許法第4条(「第百二十一条第一項」を「商標法第四十四条第一項若しくは第四十五条第一項」と読替え)
期間を守れなかったとき責めに帰することができない理由があるとき、理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、期間の経過後6月以内商標法第45条第2項で準用する第44条第2項
請求できない場合補正後の商標についての新出願をしたとき商標法第45条第1項ただし書
請求の効果審査官は、審決が確定するまで、その商標登録出願の審査を中止しなければならない商標法第16条の2第4項

〔表4〕商標法第45条第1項の審判の請求要件と効果。期間に関する数値はいずれも2026年9月時点のe-Gov法令検索の条文によります。

ポイント:商標法第45条第1項の「三月」と、商標法第16条の2第3項の「三月」(査定をしてはならない期間)、準用する意匠法第17条の3第1項の「三月」(新出願ができる期間)は、いずれも「決定の謄本の送達があつた日から」数えます。出願人が審判にするか新出願にするかを決めるあいだ、審査官が先に査定をしてしまわないようにする組み合わせです(この説明は条文の組み合わせからの本記事作成者の整理です)。
請求書には、当事者・代理人の氏名又は名称及び住所又は居所、審判事件の表示、請求の趣旨及び理由を記載します(第56条第1項が準用する特許法第131条第1項)。商標の審判請求料は、2026年4月1日現在、15,000円+区分数×40,000円です。第56条/特許法第131条/特許庁料金一覧

2. 補正を却下された出願人の3つの選択肢

既刊の#16(補正と要旨変更)で整理したとおり、補正を却下された出願人には3つの選択肢があります。本記事はそのうちの①を扱います。

flowchart TB
  A["補正の却下の決定の謄本の送達"] --> B{"決定に不服があるか"}
  B -- "不服がある" --> C{"補正後の商標についての
新出願をしたか"} C -- "した" --> E["審判は請求できない
(商標法第45条第1項ただし書)"] C -- "していない" --> D["① 商標法第45条第1項の審判を請求
(送達の日から3月以内)"] B -- "決定は受け入れるが
補正後の内容で権利がほしい" --> F["② 新出願(送達の日から3月以内)
商標法第17条の2第1項で準用する
意匠法第17条の3"] F --> G["新出願は手続補正書を提出した時に
したものとみなす
もとの出願は取り下げたものとみなす"] B -- "補正をあきらめる" --> H["③ 何もしない
(補正前の内容で審査が続く)"] D --> I["審決が確定するまで審査を中止
(商標法第16条の2第4項)"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の箱:商標法第45条第1項の審判を請求できる場合
  • 赤の箱:審判を請求できない場合

【図5】補正の却下の決定を受けた出願人の選択肢の分岐図。本記事作成者が条文(商標法第16条の2、第17条の2、第45条、準用する意匠法第17条の3)をフロー化したものです。③は条文に直接の定めはなく、①②をしなかった場合の帰結として整理しています。

① 審判② 新出願③ 何もしない
根拠商標法第45条第1項商標法第17条の2第1項で準用する意匠法第17条の3(直接の規定なし)
期限決定の謄本の送達があった日から3月以内決定の謄本の送達があった日から3月以内―
出願人の主張「要旨の変更ではない」と争う要旨の変更であることは争わず、補正後の内容で出し直す補正をあきらめる
出願の時もとの出願のまま手続補正書を提出した時にしたものとみなすもとの出願のまま
もとの出願残る(審査は中止)取り下げたものとみなす残る(補正前の内容で審査)
両立②をしたときは①は請求できない(商標法第45条第1項ただし書)―

〔表5〕3つの選択肢の比較。②の詳細(同時に提出する書面など)は#16の記事を参照してください。

Q. なぜ、新出願をした人は審判を請求できないのですか。
A. 条文上の帰結として、新出願があったとき、もとの商標登録出願は取り下げたものとみなされます(商標法第17条の2第1項で準用する意匠法第17条の3第2項)。補正の却下の決定は、もとの出願についてされたものですから、もとの出願がなくなれば、決定を争う意味もなくなります。商標法第45条第1項ただし書は、このことを明文で定めています(ただし書の趣旨についての立法担当者の説明は、下の確認先をご覧ください)。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』は、商標法第45条について、第16条の2の補正の却下の決定に対する不服の申立ての方法を定めたものとし、第16条の2の補正却下の例としては、指定商品又は指定役務の範囲を変更又は拡大する場合や、商標登録を受けようとする商標に変更を加えて別の商標とするような場合が考えられる、本条に規定する期間内に審判を請求しなければ補正の却下の決定は確定する、と説明しています。
なぜ商標法にこの審判が残っているのかについては、平成5年の一部改正において、特許法では制度の国際的調和及び迅速な権利付与の観点から補正却下決定不服審判が廃止されたが、商標法においては、補正が要旨変更か否かの判断を行うに当たり、解釈が入り込む余地が少なく、客観的な判断が可能であり、補正却下処分について争いがある場合も、その審理にさほどの時間を要することがないため、迅速な権利付与の障害とはならないことから、補正却下決定不服審判を存続させることとした、と説明されています。同改正では、従来は特許法の準用としていたものを意匠法の準用とする等の改正が行われました。あわせて、昭和60年の一部改正で特許法及び実用新案法が補正却下の決定に基づく新出願の制度を廃止し、意匠法及び商標法が同制度を存続させることとしたことに伴い、意匠法第17条の3が新設されて第17条の2で準用され、第45条第1項ただし書にも必要な改正が行われたこと、平成20年の一部改正前は請求期間を決定の謄本の送達があった日から30日以内としていたが、補正却下の決定を受けた出願人に対する手続保障の充実の観点から3月に拡大したことが説明されています。
意匠法第47条の項では、平成5年の一部改正で意匠法が補正却下決定不服審判を存続させた理由として、⑴特許法で認められているような広範な補正を行うことが認められていないため、補正がされることによる権利付与の遅延等の弊害も生じていないこと、⑵願書の記載及び図面等が意匠の内容となることから、願書の記載又は図面等に本質的な変更を加える補正は要旨変更に該当する場合がほとんどであるため、要旨変更か否かの判断に解釈が入り込む余地が余り多くなく、客観的な判断が可能であり、補正却下処分について争いがある場合もその審理にさほどの時間を要することはなく、迅速な権利付与の障害とならないこと、の2つが挙げられています。
商標法第56条の2については、昭和60年の一部改正で新設された規定であり、平成5年の一部改正で第55条の2を新設したことにより従来の本条の規定は不要となったものの、同改正で特許法の補正却下決定不服審判が廃止され、第56条で準用していた特許法第162条(補正却下決定不服審判の特則)が削除されたため、同条に相当する意匠法第51条を第45条第1項の審判で準用することとし、本条において新たに規定したもの、と説明されています(意匠法第51条も、同改正で削られた特許法第162条に相当する規定として新たに設けられたものと説明されています)。
いずれも立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
逐条解説〔第22版〕1732頁〜1733頁(商標法第45条)、1768頁〜1769頁(商標法第56条の2)、1360頁〜1361頁(意匠法第47条)、1367頁〜1368頁(意匠法第51条)。
先に審判を請求していても、法定期間内に準用意匠法第17条の3第1項の新出願をすれば、元の出願は同条第2項により取り下げたものとみなされます。出願の取下げは審判の終了事由です。逆に、新出願後は第45条第1項ただし書により、その補正却下に対する審判は請求できません。第17条の2・第45条/審判便覧45―01の1

3. 審決の2つの結論と、その後

出願人 却下の決定を受けた者 審査官 補正の却下の決定 審判官の合議体 商標法第45条第1項の審判 東京高等裁判所 審決に対する訴え 決定の謄本の送達 (第16条の2) 3月以内に審判を請求 (第45条第1項) 決定を取り消す審決 の判断は審査官を拘束 (第56条の2・ 意匠法第51条) 請求不成立の審決に不服 → 訴え(第63条第1項) 審決の謄本の送達から30日

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:出願人(審判を請求する側)
  • 赤の枠:審査官(補正の却下の決定をした側)
  • 藍の枠:審判官の合議体(審判をする側)
  • 橙の枠:東京高等裁判所(審決に対する訴えの管轄)
  • 太い藍の矢印:拘束力がはたらく向き(審決の判断 → 審査官)
  • 細い灰色の矢印:書面の送達・審判の請求・訴えの提起

【図6】商標法第45条第1項の審判をめぐる相関図。図中の条番号は、意匠法第51条を除き商標法のものです。本記事作成者が条文を図にしたものです。

審決の結論その後根拠
決定を取り消すべき旨の審決その判断は、その事件について審査官を拘束する。審決の確定により審査の中止が終わり、審査官は、却下の決定が取り消されたことを前提に審査を進める商標法第56条の2で準用する意匠法第51条、商標法第16条の2第4項
請求は成り立たない旨の審決不服があれば、審決に対する訴えを東京高等裁判所に提起できる(専属管轄)。出訴期間は審決の謄本の送達があった日から30日(不変期間)商標法第63条第1項、同条第2項で準用する特許法第178条第3項・第4項
同上(訴えを提起せず確定)審査の中止が終わり、補正前の内容で審査が進む商標法第16条の2第4項(「審決が確定するまで」)からの整理

〔表6〕審決の結論とその後。「審決の結論」の言い回しは説明用です。「その後」の欄のうち審査の進み方の部分は、条文(審査の中止は審決の確定まで)からの本記事作成者の整理です。出訴期間は2026年9月時点のe-Gov法令検索の条文によります。

拘束力の範囲:意匠法第51条の文言は「その事件について」です。拘束されるのは、その商標登録出願の事件を担当する審査官であり、ほかの出願の審査に及ぶものではありません。また、拘束されるのは「決定を取り消すべき旨の審決があつた場合における判断」です。請求は成り立たない旨の審決については、この条文は何も定めていません。
Q. 商標法第56条の2は、「審判の請求を取り下げたものとみなす」規定ですか。
A. ちがいます。商標法第56条の2が準用する意匠法第51条は、決定を取り消すべき旨の審決の判断が「その事件について審査官を拘束する」ことを定める規定です。審判の請求の取下げや取下げ擬制を定める規定ではありません。もとの出願の取下げ擬制を定めるのは、商標法第17条の2第1項で準用する意匠法第17条の3第2項(新出願をしたとき)です。混同しないようにしましょう。

4. 拒絶査定に対する審判(商標法第44条)との比較

項目商標法第44条第1項の審判商標法第45条第1項の審判
条文の見出し拒絶査定に対する審判補正の却下の決定に対する審判
争う対象拒絶をすべき旨の査定商標法第16条の2第1項の規定による却下の決定
請求人拒絶をすべき旨の査定を受けた者却下の決定を受けた者
請求期間査定の謄本の送達があった日から3月以内決定の謄本の送達があった日から3月以内
責めに帰することができない理由の救済商標法第44条第2項商標法第45条第2項で第44条第2項を準用
期間の延長(特許法第4条の準用)どちらも対象(商標法第77条第1項の読替え「商標法第四十四条第一項若しくは第四十五条第一項」)
請求できない場合の明文―新出願をしたとき(商標法第45条第1項ただし書)
請求と審査の関係査定により審査は終わっている審査は審決が確定するまで中止(商標法第16条の2第4項)
相手方(被請求人)どちらもいない。商標法第56条第1項は、特許法第161条の「拒絶査定不服審判」を「商標法第四十四条第一項又は第四十五条第一項の審判」と読み替えて準用し、答弁書提出の機会(特許法第134条第1項)や参加(特許法第148条)などの規定を適用しない
審判に関する費用どちらも請求人の負担(商標法第56条第1項で準用する特許法第169条第3項の読替え)
審決の拘束力の規定さらに審査に付すべき旨の審決の判断が審査官を拘束(商標法第56条第1項で準用する特許法第160条第2項)決定を取り消すべき旨の審決の判断が審査官を拘束(商標法第56条の2で準用する意匠法第51条)
審判の中での特則商標法第55条の2(拒絶理由の通知、登録すべき旨の審決、補正の却下の準用)商標法第56条の2のみ
審決に対する訴え東京高等裁判所の専属管轄(商標法第63条第1項)

〔表7〕商標法第44条第1項の審判と第45条第1項の審判の比較。いずれも2026年9月時点のe-Gov法令検索の条文によります。

商標法第56条第1項の読替え(原文)商標法第45条第1項の審判への意味
同法第百六十一条中「拒絶査定不服審判」とあり、及び同法第百六十九条第三項中「拒絶査定不服審判及び訂正審判」とあるのは「商標法第四十四条第一項又は第四十五条第一項の審判」と読み替えるものとする。特許法第161条(被請求人がいる審判のための規定を適用しない)と特許法第169条第3項(費用は請求人の負担)が、第45条第1項の審判にもあてはまる

〔表8〕商標法第56条第1項のうち、第45条第1項の審判が名指しされている読替え部分。商標法第56条第1項が準用する特許法の条文の全体は、#47(商標法第56条ほか)の記事で扱います。

5. 審判の中で補正を却下されたとき ― 3月が30日に、審判が訴えに

補正は、商標登録出願が審判に係属しているあいだもできます(商標法第68条の40第1項。詳細は#16)。では、拒絶査定に対する審判(商標法第44条第1項)の中でした補正が、要旨を変更するものとして却下されたら、どうなるでしょうか。

商標法第55条の2第3項(原文) 第十六条の二及び意匠法第十七条の三の規定は、第四十四条第一項の審判に準用する。この場合において、第十六条の二第三項及び同法第十七条の三第一項中「三月」とあるのは「三十日」と、第十六条の二第四項中「第四十五条第一項の審判を請求したとき」とあるのは「第六十三条第一項の訴えを提起したとき」と読み替えるものとする。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
flowchart LR
  subgraph S1["審査の段階"]
    A1["審査官が補正を却下
(商標法第16条の2第1項)"] --> A2["商標法第45条第1項の審判
送達の日から3月以内"] A2 --> A3["審決に不服なら
商標法第63条第1項の訴え"] end subgraph S2["拒絶査定に対する審判の段階"] B1["審判で補正を却下
(商標法第55条の2第3項で準用する
第16条の2第1項)"] --> B2["商標法第63条第1項の訴え
(東京高等裁判所)"] end style A2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style B2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の箱:不服を申し立てる手続(この図では結論の良し悪しを表しません)

【図7】補正の却下の決定に対する不服のルートのちがい。審査の段階では「審判→訴え」、拒絶査定に対する審判の段階では、商標法第45条第1項の審判を経ずに直接「訴え」になります。本記事作成者が条文(商標法第45条、第55条の2第3項、第63条第1項)をフロー化したものです。

項目審査の段階での却下拒絶査定に対する審判の段階での却下
却下の根拠商標法第16条の2第1項商標法第55条の2第3項で準用する第16条の2第1項
不服の手段商標法第45条第1項の審判商標法第63条第1項の訴え(東京高等裁判所の専属管轄)
結論を出してはならない期間決定の謄本の送達があった日から3月(査定)読替えにより30日
新出願ができる期間決定の謄本の送達があった日から3月以内読替えにより30日以内
手続が止まるきっかけ商標法第45条第1項の審判を請求したとき(審査を中止)商標法第63条第1項の訴えを提起したとき

〔表9〕審査の段階と、拒絶査定に対する審判の段階とのちがい。商標法第63条第1項は、訴えの対象として「第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十六条の二第一項の規定による却下の決定」を挙げています。30日は2026年9月時点のe-Gov法令検索の条文によります。

ポイント:商標法第45条第1項の審判の対象は「第十六条の二第一項の規定による却下の決定」、つまり審査官がした決定です。審判の中でされた却下の決定に対して、さらに審判を請求する道はありません。上級の判断を求める先は裁判所になります。

6. 特許法・意匠法との比較

項目特許法意匠法商標法
補正の却下の決定に対する独立の審判なしあり(意匠法第47条 補正却下決定不服審判)あり(商標法第45条 補正の却下の決定に対する審判)
却下の決定への不服不服を申し立てることができない。ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない(特許法第53条第3項)決定の謄本の送達があった日から3月以内に審判を請求できる決定の謄本の送達があった日から3月以内に審判を請求できる
請求できない場合―意匠法第17条の3第1項に規定する新たな意匠登録出願をしたとき(意匠法第47条第1項ただし書)準用する意匠法第17条の3第1項に規定する新たな商標登録出願をしたとき(商標法第45条第1項ただし書)
期間を守れなかったときの救済―意匠法第47条第2項(意匠法第46条第2項を準用)商標法第45条第2項(商標法第44条第2項を準用)
審査の中止―意匠法第17条の2第4項商標法第16条の2第4項
取消しの審決の拘束力―意匠法第51条商標法第56条の2(意匠法第51条を準用)
条文上の審判の名前―「補正却下決定不服審判」「第四十五条第一項の審判」

〔表10〕補正の却下の決定に対する不服の三法比較。条文番号はいずれも2026年9月にe-Gov法令検索で確認したものです。特許法第53条第1項の却下は、対象となる補正の場面が条文で限定されています(詳細は特許法シリーズ)。

特許法第53条第3項(原文) 第一項の規定による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができない。ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。

特許法では、補正の却下の決定だけを取り出して争うことはできず、拒絶査定不服審判の中であわせて争います。これに対し、意匠法と商標法では、補正の却下の決定そのものを対象とする審判が用意され、そのあいだ審査が中止されます。意匠法第47条と商標法第45条は、文言の組み立てがほぼ同じです。ちがいは、商標法が新出願(意匠法第17条の3)と拘束力(意匠法第51条)を自前で書かず、意匠法を準用している点にあります。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許法に補正却下決定不服審判が置かれていない経緯について、逐条解説〔第22版〕は、特許法第122条(現在は「削除」)の〔参考〕で、次のように説明しています。平成5年の一部改正前の特許法第122条は、補正の却下の決定に対する審判について規定していた。従来は、要旨を変更する不適法な補正が行われた場合、審査官はその補正を却下し、それに不服がある場合は補正の却下の決定に対する審判の請求が可能であり、審判が請求された場合には審査を中止しなければならないこととされていたため(一部改正前の特許法第53条第3項・第4項)、審査の迅速性が確保されにくかったのみならず、国際的にみても特異な制度となっていた。このため、平成5年の一部改正では、新規事項を追加する不適法な補正がされた場合には、特許出願を拒絶することにより、制度の国際的調和及び迅速な権利付与の実現を図ることとし、補正の却下の決定に対する審判は廃止することとした(同審判における特則を定めていた一部改正前の特許法第162条・第163条も併せて削除された)。なお、平成5年の一部改正後も、第2回目以降の拒絶理由通知に対して不適法な補正がされた場合には特許法第53条の規定に基づき補正を却下するが、その却下処分の可否については拒絶査定不服審判において争うこととされているため、この場合についても補正の却下の決定に対する審判の請求は認めないこととした。以上は立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。
逐条解説〔第22版〕449頁(特許法第122条の〔参考〕)。

7. 周辺の条文との関係

場面商標法第45条・第56条の2の扱い根拠
防護標章登録出願商標法第45条、第56条の2は、防護標章登録に係る審判に準用される商標法第68条第4項(「第四十三条の二(第三号を除く。)から第四十五条まで」「第五十五条の二から第五十六条の二まで」)
国際商標登録出願補正後の商標についての新出願(商標法第17条の2第1項で準用する意匠法第17条の3)は適用されない。したがって、商標法第45条第1項ただし書が働く場面は生じない商標法第68条の18(詳細は#16、マドリッド協定の議定書に基づく特例の記事)
拒絶理由・異議理由・無効理由との関係商標法第45条・第56条の2は手続の規定であり、商標法第15条(拒絶理由)、第43条の2(異議理由)、第46条第1項(無効理由)の列挙には関係しない。なお、要旨変更の補正が登録後に判明した場合の扱いは商標法第9条の4(#16)―

〔表11〕周辺の条文との関係。国際商標登録出願の行の「したがって」以下は、条文の組み合わせからの本記事作成者の整理です。

8. 試験での問われ方

短答式では、条文の知識として、①請求期間(決定の謄本の送達があった日から3月)、②新出願をしたときは請求できないこと(商標法第45条第1項ただし書)、③審判を請求したときの審査の中止(商標法第16条の2第4項)、④取消しの審決の拘束力(商標法第56条の2で準用する意匠法第51条)、⑤拒絶査定に対する審判の中での却下は30日・訴え(商標法第55条の2第3項、第63条第1項)、⑥特許法にはこの審判がないこと(特許法第53条第3項)、が問われうる箇所です。論文式・口述では、補正を却下された出願人の採りうる手段を、根拠条文とともに挙げられるかが基本になります(出題の頻度について断定するものではありません)。

問6の肢3は、補正却下後の新出願と先願の関係を問うもので、問題全体の正解も3(誤っている肢)です。新出願の出願日が補正書提出時とみなされることだけで、常に第8条第1項の無効理由があるとはいえません。 公式問題/公式正解。肢の説明は条文による検証であり、公式解答が公表するのは問題全体の正解番号です。
令和8年度受験案内は、各試験の実施日に施行されている法令を出題対象としています。同年の短答試験日は5月17日です。本記事の現行制度の説明は2026年9月21日時点、過去問はその試験日の法令を基準に区別しています。令和8年度受験案内・表紙及び2頁
Q. 補正の却下の決定の謄本の送達から2月がたちました。まだ審査官は査定をしていません。これはなぜですか。
A. 商標法第16条の2第3項により、決定の謄本の送達があった日から3月を経過するまでは、その商標登録出願について査定をしてはならないからです。この3月は、審判を請求できる期間(商標法第45条第1項)、新出願ができる期間(準用する意匠法第17条の3第1項)と同じ起算点・同じ長さです。
Q. 取消しの審決が確定したあと、審査官は、同じ補正を同じ理由でもう一度却下できますか。
A. 決定を取り消すべき旨の審決があった場合における判断は、その事件について審査官を拘束します(商標法第56条の2で準用する意匠法第51条)。したがって、審査官は、審決の判断に反して同じ理由で却下することはできません。対象は、その事件で補正却下決定を取り消す判断です。出願が必ず登録されるという意味ではありません。
レベル3のまとめ
  • 商標法第45条第1項の審判の対象は、審査官がした商標法第16条の2第1項の却下の決定。請求期間は決定の謄本の送達があった日から3月以内。期間の延長(商標法第77条第1項で準用する特許法第4条)と、責めに帰することができない理由の救済(商標法第45条第2項で準用する第44条第2項)があります。
  • 新出願をしたときは、審判を請求できません(商標法第45条第1項ただし書)。
  • 審判を請求すると、審決が確定するまで審査は中止(商標法第16条の2第4項)。
  • 決定を取り消すべき旨の審決の判断は、その事件について審査官を拘束します(商標法第56条の2で準用する意匠法第51条)。取下げ擬制の規定ではありません。
  • 請求は成り立たない旨の審決には、東京高等裁判所への訴え(商標法第63条第1項。審決の謄本の送達があった日から30日)。
  • 拒絶査定に対する審判の中での却下は、3月が30日に、審判の請求が商標法第63条第1項の訴えの提起に読み替えられます(商標法第55条の2第3項)。
  • 三法比較:特許法=なし(特許法第53条第3項)、意匠法=あり(意匠法第47条・第51条)、商標法=あり(商標法第45条・第56条の2)。

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