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小学生でも分かる意匠法|意匠法第59条・第60条 審決等に対する訴え・対価の額についての訴え ― 特許庁の判断に「裁判所で待った」をかける手続

小学生でもわかる意匠法 35:審決等に対する訴え(第59条・第60条)

小学生でも分かる意匠法 / D. 審判・訴訟 #35

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拒絶査定不服審判や意匠登録無効審判の審決に納得できないとき、次の行き先は「裁判所」です。意匠法第59条は、審決などに対する訴えを東京高等裁判所だけが扱うこと(専属管轄)を決め、出訴期間(30日)や被告などの細かいルールは特許法第178条〜第182条を準用しています。意匠法第60条は、裁定で決められた「対価の額」だけを争う訴えです。この記事では、意匠法の条文と準用先の特許法の条文をセットで読み、特許法第178条・実用新案法第47条との違いを整理します。

条文:意匠法第59条(第1項・第2項)・第60条(第1項・第2項)準用先:特許法第178条第2項〜第6項・第179条・第180条第1項・第180条の2〜第182条・第183条第2項・第184条関連:意匠法第17条の2・第33条・第50条・第57条、知的財産高等裁判所設置法第2条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「審判」でもダメなら、こんどは「裁判所」

ある会社が「新しい形のコップ」のデザインを特許庁に出しました。ところが審査官は「似たコップがもうあるから登録できません」と言いました(拒絶査定)。会社は納得できないので、特許庁の中のもう一つの窓口である審判(しんぱん)にもう一度見てもらいました。でも審判でも「やっぱりダメ」(審決)と言われました。

ここで終わりではありません。特許庁は「お役所」なので、お役所の判断が正しいかどうかは、最後は裁判所が決めます。審決に納得できない人は、裁判所に「特許庁の判断はまちがっているので取り消してください」と訴え(うったえ)を起こすことができます。これが意匠法第59条の「審決等に対する訴え」です。

① 審査(特許庁) 審査官が登録できるか調べる →「拒絶査定」 ② 審判(特許庁) 審判官3人などがもう一度見る →「審決」 ③ 裁判所 東京高等裁判所だけ →「判決」

矢印=「納得できない」ときに次の段階へ進むこと。

原則、審決等の謄本送達から30日 付加期間・責めに帰せない遅延の救済あり

拒絶査定から裁判所までの手続の例。

① 審査(特許庁・審査官) ② 審判(特許庁・審判官) ③ 裁判所(特許庁の外)

図は左右にスクロールできます。

【図1】審査 → 審判 → 裁判所の三段階。②までは特許庁の中、③からは裁判所(特許庁の外)です。この図では審決に対する訴えを示し、期限は謄本送達から30日。第59条は審判等での補正却下決定なども対象(破線の枠は期限の注記)。

どこの裁判所? ― 日本中どこからでも「東京」

ふつうの裁判は、住んでいる場所に近い裁判所で始めます。でも、審決に対する訴えは、日本中どこの会社でも東京高等裁判所にしか出せません。デザインや発明の話はむずかしいので、専門の裁判官が集まっている場所に集めているのです(東京高等裁判所の中に「知的財産高等裁判所」という専門の支部があります)。

相手(被告)はだれ?

「登録できません」と言われた → 相手は特許庁長官
「登録を無効にする/しない」の争い → 相手は審判で争った相手の会社

「登録できません」という審決は特許庁が決めたことなので、相手は特許庁長官です。一方、無効審判は「A社とB社のケンカ」を特許庁がジャッジしたものなので、裁判所でも相手はケンカの相手(審判の請求人や被請求人)になります。

「対価の額についての訴え」(第60条)はちょっと別もの

意匠法には、「他の人のデザインを使わせてもらう代わりに、お金(対価)を払いなさい」と特許庁長官が決める手続(裁定)があります(意匠法第33条)。その「金額だけ」に不満があるときは、審決に対する訴えとは別に、裁判所に「金額を増やして/減らしてください」と訴えることができます。これが第60条です。期限は30日ではなく6月です。

レベル1のまとめ

  • 審決に納得できないときは、裁判所に「取り消してください」と訴えられる(意匠法第59条)。
  • 訴えを出せるのは東京高等裁判所だけ。期限は審決の謄本(正式な写し)が届いた日から30日。
  • 相手は原則として特許庁長官。無効審判の審決なら、審判で争った相手。
  • 裁定で決まった「対価の額」だけを争う訴えは別ルート(意匠法第60条)で、期限は6月。

※訴えを起こせる人、30日の延長(附加期間)、判決のあとに特許庁がどうするか、準用される特許法の条文の正確な範囲は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第59条第1項 ― 3種類の訴えと、東京高等裁判所の専属管轄

意匠法第59条第1項(原文)
審決に対する訴え、第五十条第一項(第五十七条第一項において準用する場合を含む。)において準用する第十七条の二第一項の規定による却下の決定に対する訴え及び審判又は再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
# 訴えの対象 どこで出た判断か 具体例
1 審決に対する訴え 拒絶査定不服審判・補正却下決定不服審判・意匠登録無効審判・再審の審決 「拒絶査定は正しい」という審決、「意匠登録を無効にする」という審決
2 審判(再審)で準用される第17条の2第1項の却下の決定に対する訴え 拒絶査定不服審判(第50条第1項で準用)とその再審(第57条第1項で準用)の中で、審判官が補正を却下した決定 審判の途中で図面を直したが「要旨を変更する補正」として却下された
3 審判又は再審の請求書の却下の決定に対する訴え 審判請求書・再審請求書が方式不備などで却下された決定 審判請求書の補正命令に応じず却下された

〔表1〕意匠法第59条第1項が対象とする3種類の訴え。いずれも「東京高等裁判所の専属管轄」。

flowchart LR
  A["拒絶査定不服審判の審決"] --> T["東京高等裁判所
(専属管轄)"] B["補正却下決定不服審判の審決"] --> T C["意匠登録無効審判の審決"] --> T D["再審の審決"] --> T E["審判中の補正却下の決定
(第50条第1項で準用する第17条の2第1項)"] --> T F["審判・再審の請求書の却下の決定"] --> T T --> U["最高裁判所(上告等)"] style T fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図2】第59条第1項の訴えは、種類を問わずすべて東京高等裁判所に集まる。凡例:緑=6つの入口が集まる先(東京高等裁判所)。東京高等裁判所の判決に対する上訴は民事訴訟法の一般ルールによる(本記事のスコープ外)。

「東京高等裁判所」と「知的財産高等裁判所」の関係:知的財産高等裁判所設置法第2条柱書は「東京高等裁判所の管轄に属する事件のうち、次に掲げる知的財産に関する事件を取り扱わせるため、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第二十二条第一項の規定にかかわらず、特別の支部として、東京高等裁判所に知的財産高等裁判所を設ける。」と定め、同条第2号で「特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第百七十八条第一項の訴え、実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第四十七条第一項の訴え、意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第五十九条第一項の訴え又は商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第六十三条第一項(同法第六十八条第五項において準用する場合を含む。)の訴えに係る訴訟事件」を挙げています(e-Gov法令検索・法令ID 416AC0000000119、2026年9月参照)。条文上の管轄はあくまで「東京高等裁判所」であり、知的財産高等裁判所はその支部です。
逐条解説による趣旨(なぜ東京高等裁判所なのか):意匠法第59条の趣旨は特許法第178条を参照とされています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(以下「青本〔第22版〕」)意匠法1380頁)。逐条解説は、審決・決定も行政処分なので本来は行政事件訴訟法が適用され、処分行政庁の所在地の東京地方裁判所が管轄となるはずだが、特許事件の性質上そのまま適用するのは適当でないので特許法第178条〜第184条で行政事件訴訟法の特則を定めたと説明しています。そして、特許庁の審判手続が裁判に類似した準司法的手続で厳正に行われる以上さらに三審級を重ねるのは解決を遅らせること、事件の内容が極めて専門技術的で専門家による審判手続を尊重してよいことから、一審級を省略して直接東京高等裁判所に出訴させることにした、と説明しています(青本〔第22版〕特許法588頁)。

第59条第2項 ― 特許法の準用(どの条文が、どこまで)

意匠法第59条第2項(原文)
特許法第百七十八条第二項から第六項まで(出訴期間等)、第百七十九条(被告適格)、第百八十条第一項(出訴の通知等)及び第百八十条の二から第百八十二条まで(審決取消訴訟における特許庁長官の意見、審決又は決定の取消し及び裁判の正本等の送付)の規定は、前項の訴えに準用する。この場合において、同条第二号中「訴えに係る請求項を特定するために必要な」とあるのは、「旨を記載した」と読み替えるものとする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
特許法 第178条〜第182条の2 のうち、意匠法第59条第2項が準用する範囲

178条1項 準用なし(59条1項が自前) 178条2〜6項 ○ 原告・30日・不変・附加・審決前置 179条 ○ 被告適格 180条1項 ○ 出訴の通知 180条2項 × 請求項ごとの書類

180条の2 ○ 特許庁長官の意見 181条 ○ 審決・決定の取消し 182条 ○(読替え) 裁判の正本等の送付 182条の2 × 5人合議体の決定

○=意匠法第59条第2項が準用する条文 ×=準用されない条文(第178条第1項は意匠法第59条第1項が自ら規定)

図は左右にスクロールできます。

【図3】準用マップ。意匠には「請求項」がないため、請求項に関する第180条第2項は準用されず、第182条第2号は読み替えられる。第182条の2(5人合議体)も準用されていない。※読替え:第182条第2号「訴えに係る請求項を特定するために必要な」→「旨を記載した」。※実用新案法第47条第2項は「第百七十九条から第百八十二条の二まで」を準用し、第180条第2項・第182条の2も含む(レベル3〔表5〕)。条文は2026年9月時点のもの。

準用される特許法の条文を一つずつ読む

特許法第178条第2項〜第6項(原文)
2 前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。
3 第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4 前項の期間は、不変期間とする。
5 審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で、前項の不変期間については附加期間を定めることができる。
6 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。「前項」「第一項」は特許法第178条第1項を指し、意匠法では第59条第1項の訴えに読み替えて適用される。
項 テーマ 意匠法に当てはめると ポイント
第2項 原告適格 当事者(審判の請求人・被請求人)、参加人、参加申請を拒否された者 意匠法には特許異議の申立てがないので、「特許異議の申立てについての審理」の部分は使われない。逐条解説は、対世的な権利では利害関係のある第三者が著しく広範になり全員に原告適格を認めると裁判渋滞のおそれがある一方、審決で権利を害された者の救済を拒むのは憲法第32条との関係で問題なので、いわば妥協案として参加を申請して拒否された者にも訴えを認めた、と説明しています(青本〔第22版〕特許法590頁)
第3項 出訴期間 審決又は決定の謄本の送達があった日から30日 起算点は「送達があつた日」。経過後は提起できない
第4項 不変期間 30日は不変期間 逐条解説は、不変期間は通常の期間と異なり期間の伸縮ができず、第5項によって附加期間を定め、又はその附加期間を伸縮できるのみであり、行政訴訟には一般に民事訴訟法が適用される(行政事件訴訟法第7条)から、責めに帰することができない理由で期間内に提起できなかったときは追完できる(民事訴訟法第97条)、と説明しています(青本〔第22版〕特許法591〜592頁)
第5項 附加期間 審判長が、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で附加期間を定めることができる 「審判長」が「職権で」定める。裁判所ではない
第6項 審決前置 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ提起できない 拒絶査定そのものを直接裁判所で争うことはできず、まず審判を経る

〔表2〕特許法第178条第2項〜第6項の分解(意匠法第59条第2項で準用)。

特許法第179条(原文)
前条第一項の訴えにおいては、特許庁長官を被告としなければならない。ただし、特許無効審判若しくは延長登録無効審判又はこれらの審判の確定審決に対する第百七十一条第一項の再審の審決に対するものにあつては、その審判又は再審の請求人又は被請求人を被告としなければならない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
準用の読み方:意匠法第59条第2項には第179条についての明文の読替え規定がありません。意匠法には延長登録無効審判はなく、「特許無効審判」の部分は準用の性質上「意匠登録無効審判」として読むことになります(本記事作成者の整理。青本〔第22版〕意匠法第59条の解説には、第179条の読み方についての記載は見当たりませんでした)。なお逐条解説は、第179条本文で特許庁長官を被告とするのは行政庁内部の事情から便宜であるためであり、ただし書で無効審判の審決に対する訴えを審判の相手方を被告とするのは、無効審判が請求人・被請求人という当事者対立構造を採っているからだ、と説明しています(青本〔第22版〕特許法592〜593頁)。
特許法第180条第1項(原文)
裁判所は、前条ただし書に規定する訴えの提起があつたときは、遅滞なく、その旨を特許庁長官に通知しなければならない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。第2項(請求項ごとの書類送付)は意匠法では準用されない。逐条解説は、第180条第2項は請求項に係る規定であり、意匠法では二以上の意匠を包含する出願を認めていないので準用から除外し、あわせて特許法第182条第2号の「訴えに係る請求項を特定するために必要な」を「旨を記載した」と読み替えることにした、と説明しています(青本〔第22版〕意匠法1380頁)。
特許法第180条の2(原文)
裁判所は、第百七十九条ただし書に規定する訴えの提起があつたときは、特許庁長官に対し、当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について、意見を求めることができる。
2 特許庁長官は、第百七十九条ただし書に規定する訴えの提起があつたときは、裁判所の許可を得て、裁判所に対し、当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について、意見を述べることができる。
3 特許庁長官は、特許庁の職員でその指定する者に前二項の意見を述べさせることができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
特許法第181条(原文)
裁判所は、第百七十八条第一項の訴えの提起があつた場合において、当該請求を理由があると認めるときは、当該審決又は決定を取り消さなければならない。
2 審判官は、前項の規定による審決又は決定の取消しの判決が確定したときは、更に審理を行い、審決又は決定をしなければならない。この場合において、審決又は決定の取消しの判決が、第百二十条の五第二項又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求がされた一群の請求項のうち一部の請求項について確定したときは、審判官は、審理を行うに際し、当該一群の請求項のうちその他の請求項についての審決又は決定を取り消さなければならない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。第2項後段(訂正の請求・一群の請求項)は意匠に対応する制度がなく、意匠法では事実上働かない部分である(本記事作成者の整理)。逐条解説は、意匠法ではいわゆるキャッチボール現象による弊害がないため差戻しに係る特許法第181条第2項〜第4項を準用していなかったが、平成23年の一部改正で旧第2項〜旧第4項が削除され旧第5項が第2項に繰り上がったため、第181条をそのまま準用することにした、と説明しています(青本〔第22版〕意匠法1380頁)。
特許法第182条(原文)
裁判所は、第百七十九条ただし書に規定する訴えについて次の各号に掲げる場合には、遅滞なく、それぞれ当該各号に定める書類を特許庁長官に送付しなければならない。
一 裁判により訴訟手続が完結した場合 各審級の裁判の正本又は当該裁判の内容を記載した書面であつて裁判所書記官が当該書面の内容が当該裁判の内容と同一であることを証明したもの
二 裁判によらないで訴訟手続が完結した場合 訴訟手続が完結した訴えに係る請求項を特定するために必要な書類

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。意匠法第59条第2項の読替えにより、第2号は「訴訟手続が完結した旨を記載した書類」となる。
flowchart TB
  A["審決の謄本が送達された日"] --> B{"30日以内に
東京高等裁判所へ提訴したか"} B -- "はい" --> D["裁判所が審理"] D --> E{"請求に理由があるか"} E -- "はい" --> F["審決を取り消す判決
(特許法第181条第1項)"] F --> G["判決確定後、審判官が
更に審理して審決
(特許法第181条第2項)"] D -. "無効審判の審決の場合" .-> I["裁判所→特許庁長官へ通知
(第180条第1項)
長官の意見(第180条の2)
正本等の送付(第182条)"] B -- "いいえ" --> C["審決が確定
(不変期間・附加期間の例外あり)"] E -- "いいえ" --> H["請求棄却
→ 審決が確定"] style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style C fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style H fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図4】審決取消訴訟の流れ(意匠法第59条第2項で準用される特許法の条文をフロー化)。主経路(「はい」)を下に、「いいえ」側の終端を右にそろえている。凡例:緑=審決が取り消される結果/赤=審決が確定する終端/点線=無効審判の審決の場合にだけ働く手続。

第60条 ― 対価の額についての訴え

意匠法第60条(原文)
第三十三条第三項又は第四項の裁定を受けた者は、その裁定で定める対価の額について不服があるときは、訴えを提起してその額の増減を求めることができる。
2 特許法第百八十三条第二項(出訴期間)及び第百八十四条(被告適格)の規定は、前項の訴えに準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
特許法第183条第2項・第184条(原文)
(第183条第2項)前項の訴えは、裁定の謄本の送達があつた日から六月を経過した後は、提起することができない。
(第184条)前条第一項の訴えにおいては、次に掲げる者を被告としなければならない。
一 第八十三条第二項、第九十二条第四項又は第九十三条第二項の裁定については、通常実施権者又は特許権者若しくは専用実施権者
二 第九十二条第三項の裁定については、通常実施権者又は第七十二条の他人

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
項目 審決等に対する訴え(第59条) 対価の額についての訴え(第60条)
争うもの 審決・補正却下の決定・請求書却下の決定の「取消し」 裁定で定められた「対価の額」の増減
対象となる裁定 ― 意匠法第33条第3項(意匠権者・専用実施権者の請求による裁定)又は第4項(第26条の他人の請求による裁定)
出訴期間 審決又は決定の謄本の送達があった日から30日(不変期間・附加期間あり) 裁定の謄本の送達があった日から6月(特許法第183条第2項の準用)
管轄 東京高等裁判所の専属管轄 東京高裁の専属管轄ではない。当事者間の対価に関する訴えとして、行政事件訴訟法第4条・第7条と民事訴訟法第4条・第5条等により管轄を判断する
被告 原則:特許庁長官/意匠登録無効審判等:請求人又は被請求人 特許法第184条の準用:通常実施権者又は意匠権者・専用実施権者・第26条の他人(対応関係はレベル3〔表7〕)
裁定そのものの取消し ― 第60条は「額の増減」のみ。逐条解説は、裁定自体に不服がある場合は本条の問題ではなく、行政不服審査法に基づく不服申立てまたは行政事件訴訟法に基づく訴えの提起によると説明しています(青本〔第22版〕特許法602頁。詳細は本記事のスコープ外)

〔表3〕第59条の訴えと第60条の訴えの比較。

gantt
  title 出訴期間のちがい(起算点=謄本の送達があった日)
  dateFormat  YYYY-MM-DD
  axisFormat  %m/%d
  section 第59条(審決等)
  30日(不変期間)           :a1, 2026-04-01, 30d
  附加期間(審判長が職権で定める・長さは事案による) :a2, after a1, 15d
  section 第60条(対価の額)
  6月                        :b1, 2026-04-01, 2026-10-01

図は左右にスクロールできます。

【図5】出訴期間のイメージ。手続(条)を左、期間を横棒にしたガント型で、第59条と第60条をセクションで仕切っている。附加期間の長さは条文に定めがなく、図の長さは仮のもの。日付も説明用の仮の値。数値は2026年9月時点の条文による。(時間軸は縮尺なし)

レベル2のまとめ

  • 第59条第1項:①審決、②審判・再審中の補正却下の決定、③審判・再審の請求書の却下の決定に対する訴え → 東京高等裁判所の専属管轄。
  • 第59条第2項:特許法第178条第2項〜第6項(原告適格・30日・不変期間・附加期間・審決前置)、第179条(被告適格)、第180条第1項、第180条の2〜第182条を準用。第182条第2号は読替え。
  • 第60条:第33条第3項・第4項の裁定の「対価の額」の増減を求める訴え。6月(特許法第183条第2項)・被告は特許法第184条の準用。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 三法の「審決等に対する訴え」条文を並べる

特許法第178条第1項(原文)
取消決定又は審決に対する訴え及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
実用新案法第47条(原文)
審決に対する訴え及び審判又は再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
2 特許法第百七十八条第二項から第六項まで(出訴期間等)及び第百七十九条から第百八十二条の二まで(被告適格、出訴の通知等、審決取消訴訟における特許庁長官の意見、審決又は決定の取消し、裁判の正本等の送付及び合議体の構成)の規定は、前項の訴えに準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000123)、2026年9月参照。
比較項目 特許法第178条 実用新案法第47条 意匠法第59条
取消決定(異議申立て)に対する訴え あり なし(異議申立制度なし) なし(異議申立制度なし)
審決に対する訴え あり あり あり
審判・再審の請求書の却下の決定に対する訴え あり あり あり
特許異議申立書・訂正の請求書の却下の決定に対する訴え あり なし なし
審判中の補正却下の決定に対する訴え なし(逐条解説は、平成5年の一部改正で拒絶査定不服審判における補正却下も審決取消訴訟の中で争うこととし、補正の可否のみを理由とする訴えは認めないことにしたので、特許法第178条第1項から該当箇所を削除した、と説明しています〔青本〔第22版〕特許法589頁〕) ―(実用新案は無審査) あり(第50条第1項・第57条第1項で準用する第17条の2第1項の却下の決定)
準用する特許法の範囲 ―(自前の規定) 第178条第2項〜第6項、第179条〜第182条の2 第178条第2項〜第6項、第179条、第180条第1項、第180条の2〜第182条
第180条第2項(請求項ごとの書類送付) 適用 準用(請求項あり) 準用なし(請求項なし)
第182条の2(5人合議体の決定) 適用 準用 準用なし
読替え規定 ― なし 第182条第2号「訴えに係る請求項を特定するために必要な」→「旨を記載した」

〔表4〕三法の審決等に対する訴えの対比(条文はいずれもe-Gov法令検索、2026年9月参照)。

第59条第2項は特許法第182条までを準用し、第182条の2(5人合議体)は準用しません。青本1380頁にこの不準用の立法理由を直接説明する記載はないため、対象権利の違いから理由を推測する説明は置きません。適用の有無は準用範囲から確定します。意匠法第59条

2. 出訴期間 ― 30日・不変期間・附加期間の整理

論点 内容(条文) 注意点
期間の長さ 30日(特許法第178条第3項の準用) 「三十日を経過した後は、提起することができない」。月単位ではなく日単位
起算点 審決又は決定の謄本の「送達があつた日」 審決日ではない。初日不算入の扱いは特許法第3条の準用の問題(意匠法第68条。本記事のスコープ外)
性質 不変期間(第178条第4項の準用) 伸縮できず、附加期間と追完の制度がある点で通常の期間と異なる(青本〔第22版〕特許法592頁の字句の解釈)。追完は民事訴訟法第97条による(行政事件訴訟法第7条。青本〔第22版〕特許法591頁)。民事訴訟法第97条第1項は、責めに帰することができない事由により不変期間を遵守できなかった場合、その事由が消滅した後1週間以内(外国に在る当事者は2月)に限り追完できると定めています(e-Gov法令検索、法令ID 408AC0000000109、2026年9月参照)
附加期間 審判長が、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で定める(第178条第5項の準用) 定めるのは「審判長」、「職権」で。当事者の請求権ではない。裁判所が定めるのではない
対価の額の訴え 6月(特許法第183条第2項の準用) 起算点は「裁定の謄本の送達があつた日」。不変期間との明記はない

〔表5〕出訴期間の整理。

特許庁は、出訴可能な在外者が含まれる事件について、審決等に「出訴期間として在外者に対し90日を附加する」と記載する運用を公表しています。平成30年4月からは、他方当事者に送達する謄本にも参考として記載します。したがって、謄本に90日の記載があっても、国内居住者に同じ附加期間が与えられるとは限りません。特許庁・審決等における出訴附加期間の記載

3. 原告適格・被告適格のマトリクス

審判の種類 原告になり得る者(第178条第2項の準用) 被告(第179条の準用)
拒絶査定不服審判(意匠法第46条) 審判請求人(当事者) 特許庁長官(本文)
補正却下決定不服審判(意匠法第47条) 審判請求人 特許庁長官(本文)
意匠登録無効審判(意匠法第48条) 請求人・被請求人(当事者)、参加人、参加申請を拒否された者 審判の請求人又は被請求人(ただし書の準用)
上記各審判の確定審決に対する再審(意匠法第53条) 再審の当事者等 拒絶査定不服審判・補正却下決定不服審判の再審:特許庁長官/無効審判の再審:請求人又は被請求人
審判中の補正却下の決定・請求書却下の決定 決定を受けた者 特許庁長官(本文)

〔表6〕原告適格と被告適格。無効審判系だけ「相手方当事者」が被告になる。

意匠法第60条の対象裁定 だれの請求による裁定か(意匠法第33条) 特許法第184条の対応号(準用の読み方) 被告
第33条第3項の裁定 意匠権者又は専用実施権者が、第26条の他人(先願の特許権者等)の権利について通常実施権の設定を求める 第184条第2号(特許法第92条第3項の裁定に対応) 通常実施権者 又は 第26条の他人
第33条第4項の裁定 第26条の他人が、対抗的に意匠権者側の登録意匠等について通常実施権の設定を求める 第184条第1号(特許法第92条第4項の裁定に対応) 通常実施権者 又は 意匠権者若しくは専用実施権者

〔表7〕対価の額についての訴えの被告。意匠法には不実施裁定(特許法第83条)・公益裁定(特許法第93条)がないため、第184条第1号のうち「第八十三条第二項」「第九十三条第二項」の部分は意匠法では働かない(本記事作成者の整理。意匠法第60条第2項に明文の読替え規定はない)。

第33条第3項は自己の登録意匠等を実施するために相手方の権利について通常実施権を求める裁定、第4項は相手方からの対抗的な裁定です。第60条第2項で準用する特許法第184条は、第3項の裁定に対応する場面では通常実施権者又は利用・抵触先の他人、第4項の裁定に対応する場面では通常実施権者又は意匠権者・専用実施権者を被告とする構造です。これは両法の裁定と当事者の対応を照合した説明で、明文の読替え文言の引用ではありません。意匠法第33条・第60条/特許法第184条

4. 訴えの提起と、審判・出願手続との関係

意匠法第50条第1項(原文)
第十七条の二及び第十七条の三の規定は、拒絶査定不服審判に準用する。この場合において、第十七条の二第三項及び第十七条の三第一項中「三月」とあるのは「三十日」と、第十七条の二第四項中「補正却下決定不服審判を請求したとき」とあるのは「第五十九条第一項の訴えを提起したとき」と読み替えるものとする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
flowchart TB
  A["拒絶査定不服審判の審理中に補正"] --> B["審判官が補正を却下する決定
(第50条第1項で準用する第17条の2第1項)"] B --> C{"却下決定そのものを争うか"} C -- "はい" --> D["第59条第1項の訴え
(東京高等裁判所・30日)"] C -- "いいえ(補正後の意匠で出し直す)" --> E["第17条の3の新出願
(第50条第1項で準用・読替えにより30日)"] D --> F["訴えの判決確定まで審理を中止
(第17条の2第4項の読替え)"] E --> G["元出願は取下げとみなす
(第17条の3第2項)"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図6】審判中の補正却下に対する訴えと、補正後の新出願。第17条の2第4項の読替えは、訴えが提起された場合の審理中止を定める規定で、新出願を禁止する規定ではありません。新出願には第17条の3の要件と手続が必要です。

論点 特許法 意匠法
審決取消訴訟の係属中に権利範囲を直せるか 特許無効審判の審決取消訴訟では、審決取消判決確定後の訂正の請求(第134条の3等)や訂正審判との関係が問題になる(本記事のスコープ外) 意匠法には訂正審判・訂正の請求がない(意匠法第52条の準用範囲を参照)。図面を直して権利範囲を変える手段はない
請求項ごとの取扱い 請求項ごとに無効審判請求・訴え提起が可能(第180条第2項等) 一意匠一出願(第7条)で請求項概念がないため、該当規定は準用されない
審決取消判決の後 審判官が更に審理して審決(第181条第2項) 同じ(第181条の準用)。逐条解説は、この場合には処分又は裁決を取り消す判決が関係行政庁を拘束するという行政事件訴訟法第33条の規定が適用されると説明しています(青本〔第22版〕特許法598頁。同条第1項の原文は「処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」、e-Gov法令検索、法令ID 337AC0000000139、2026年9月参照)。拘束力の範囲の詳細は本記事のスコープ外

〔表8〕審決取消訴訟と他の手続との関係の対比。

最高裁大法廷昭和51年3月10日判決(昭和42年(行ツ)第28号・メリヤス編機事件)は、審判で現実に争われ審理判断された特定の無効原因が取消訴訟の審理対象となり、別の無効原因を訴訟で持ち込むことはできないとしました。特許事件の判示であり、これを「新しい証拠は一切提出できない」という意味に広げません。裁判所・判例詳細/判決本文3〜5頁

5. 拒絶理由・無効理由との関係(この条文自体は理由にならない)

意匠法第59条・第60条は手続規定であり、第17条の拒絶理由にも第48条第1項の無効理由にも該当しません。試験では、むしろ「30日」「不変期間」「附加期間を定めるのは審判長」「被告は誰か」「準用の範囲(第182条の2の有無)」といった手続の細部が正誤問題の素材になります。

6. 試験での問われ方

試験種別 学習用の問いの例 気をつける点
短答式 「審決に対する訴えは、審決の謄本の送達があった日から〇日以内」「附加期間を定めるのは裁判所か審判長か」「無効審判の審決取消訴訟の被告は特許庁長官か」「実用新案法と意匠法で準用範囲が同じか」の正誤 30日・不変期間・審判長・職権。意匠法は第182条の2を準用しない。第180条第2項も準用しない
短答式(意匠固有) 審判中の補正却下の決定に対して訴えを提起した場合に、第17条の3の新出願ができるか 第50条第1項の読替え(「第五十九条第一項の訴えを提起したとき」)
論文式 拒絶審決・無効審決を受けた出願人・権利者がとり得る手段を問う設問の中で、出訴先・期間・被告を正確に書けるか 「東京高等裁判所の専属管轄」「謄本の送達があった日から30日」を条文どおりに
口述 「意匠登録無効審判の審決に対する訴えの被告は誰か」「対価の額についての訴えの出訴期間は」 第60条は6月、第59条は30日。混同しない

〔表9〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

令和8年度意匠問1〜10では審決等に対する訴えを直接主題とする肢はありません。特許・実用新案問14の公式正解は4です。肢ロは審決取消し後の処理、肢ニは特許庁長官の意見陳述を扱い、意匠法第59条第2項の準用規定と比較できます。 令和8年度・問題PDF/公式解答PDF。肢の説明と公式の正解番号を区別して確認しています。
レベル3のまとめ

  • 意匠法第59条第1項の訴えは、審決・審判中の補正却下の決定・請求書の却下の決定の3種類。取消決定・訂正の請求書却下は意匠法にない。
  • 準用範囲:特許法第178条第2項〜第6項、第179条、第180条第1項、第180条の2〜第182条。実用新案法第47条第2項と異なり、第180条第2項・第182条の2は準用されない。第182条第2号は「旨を記載した」に読替え。
  • 出訴期間30日は不変期間。附加期間は審判長が職権で定める。対価の額についての訴えは6月。
  • 被告は原則として特許庁長官。意匠登録無効審判(およびその再審)の審決は請求人・被請求人。
  • 審判中の補正却下の決定に対して第59条第1項の訴えを提起すると、第17条の3の新出願はできない(第50条第1項の読替え)。

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確認した関連一次資料:行政事件訴訟法第4条・第7条/民事訴訟法第4条・第5条。

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