小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #33
登録がまちがいだったと後で分かり、登録が取り消されてしまった(無効になった)人がいます。その人が、まちがいと知らずに目じるしを使い、もう町で有名になっていたら、どうなるでしょう。また、発明やデザインの権利の期限が切れたとたん、他人の商標権にぶつかって商品を売れなくなったら、こまります。商標法第33条・第33条の2・第33条の3は、こうした人が目じるしを使いつづけられるようにする決まりです。第33条の権利は、受験界などで「中用権(ちゅうようけん)」と呼ばれますが、これは条文の言葉ではなく講学上の呼称です。
LEVEL 1イメージでつかむ
お話その1:登録がまちがいだったと、後で分かった
商標(しょうひょう)は、お店や商品の「目じるし」です。国(特許庁)に登録すると、その目じるしを自分だけが使えるようになります。
「ほしぞらパン」の店長さんは、「ほしぞらパン」という目じるしを登録してもらいました。店長さんは安心して何年もこの名前でパンを売り、町のみんなが知っているお店になりました。
ところが、後になって「その登録は、本当はしてはいけないものだった」と分かりました。よく似た目じるしを、ミナトベーカリーが先に登録していたのです。ミナトベーカリーが手続をして、店長さんの登録は「はじめからなかったこと」になりました。これを登録の無効(むこう)といいます。
では、店長さんは明日から「ほしぞらパン」の名前を使えなくなるのでしょうか。店長さんは、登録がまちがいだとは知りませんでした。それに、お客さんはもう「ほしぞらパン」の名前でお店をおぼえています。そこで法律は、条件がそろえば、店長さんが名前を使いつづけてよいことにしました。ただし、ミナトベーカリーにお金(対価=たいか)をはらいます。また、ミナトベーカリーから「お客さんがまちがえないように、見分けの札(ふだ)をつけてください」とたのまれることがあります。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:登録があると思って使っていたころ
- 赤の枠:登録がまちがいだったと分かったこと
- 赤の破線の枠:はじめからなかったことになった登録
- 青緑の枠:それでも使いつづけてよいという結論
【図1】登録が無効になっても使いつづけられる場合のイメージ。店名はすべて架空の例です。単純化しており、正確な条件はレベル3で説明します。
お話その2:デザインの権利の期限が切れた
ミナトさんは、星の形をしたジュースのびんを考えて、デザインの権利(意匠権=いしょうけん)を取りました。その後で、こぐま堂が、よく似た星の形のびんを「目じるし」として商標登録しました。
デザインの権利には期限があります。期限があるあいだ、ミナトさんは自分のデザインの権利でびんを作れます。こぐま堂のほうは、ミナトさんの権利とぶつかる形では、その目じるしを使えません。
こまるのは、期限が切れた後です。商標権は、更新(こうしん)すれば長くつづけられます。もし何の決まりもなければ、ミナトさんは、期限が切れた日から、こぐま堂の商標権のせいでびんを使えなくなってしまいます。先に考えたのはミナトさんなのに、それはおかしいですね。そこで法律は、ミナトさんが、もとのデザインの権利の範囲で、びんを使いつづけてよいことにしました。ただし、こぐま堂の人気にただ乗りするようなずるい目的で使うのはだめです。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:自分のデザインの権利にもとづいて使える期間(ミナトさん)
- 青緑の枠:期限が切れた後も使いつづけてよいという結論(ミナトさん)
- 赤の枠:その形では使えないというあつかい
- 藍の枠:目じるしの側(こぐま堂)が使えるというあつかい
【図2】デザインの権利(意匠権)の期限が切れた後のイメージ。人物・店名・商品は架空の例です。発明の権利(特許権)や、物の形などのくふうの権利(実用新案権)でも同じしくみです。
- 登録がまちがいだったと後で分かっても、まちがいと知らずに使い、もう有名になっていた人は、その目じるしを使いつづけられます。
- そのかわり、正しい権利を持つ人にお金(対価)をはらいます。見分けの札をつけるようたのまれることもあります。
- 発明やデザインの権利の期限が切れた後、後から出願された他人の商標権とぶつかっても、元の持ち主は、元の権利の範囲で使いつづけられます。ずるい目的のときはだめです。
※「使いつづけられる人」は、正確には条文で決まった3種類の人に限られます。「いつまでに知らずに使っていたか」「どの商品について使えるか」にも条件があります(→レベル3)。お話その2でお金をはらう人・はらわない人の区別もあります(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第33条 ― 無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利
第33条の見出しは「無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利」です。長いので、受験界などでは「中用権」と呼ばれています(講学上の呼称で、条文にこの言葉はありません)。まず原文を見ます。
次の各号のいずれかに該当する者が第四十六条第一項の審判の請求の登録前に商標登録が同項各号のいずれかに該当することを知らないで日本国内において指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について当該登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、その商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
一 同一又は類似の指定商品又は指定役務について使用をする同一又は類似の商標についての二以上の商標登録のうち、その一を無効にした場合における原商標権者
二 商標登録を無効にして同一又は類似の指定商品又は指定役務について使用をする同一又は類似の商標について正当権利者に商標登録をした場合における原商標権者
三 前二号に掲げる場合において、第四十六条第一項の審判の請求の登録の際現にその無効にした商標登録に係る商標権についての専用使用権又はその商標権若しくは専用使用権についての第三十一条第四項の効力を有する通常使用権を有する者
2 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
3 第三十二条第二項の規定は、第一項の場合に準用する。
| 部品 | 条文の文言 | やさしく言うと |
|---|---|---|
| だれが | 「次の各号のいずれかに該当する者」 | 無効にされた登録の元の持ち主(原商標権者)など、決まった3種類の人 |
| いつまでに | 「第四十六条第一項の審判の請求の登録前に」 | 無効審判が請求されたことが登録される前に |
| どんな気持ちで | 「商標登録が同項各号のいずれかに該当することを知らないで」 | 登録に無効の理由があるとは知らずに |
| どこで・何について | 「日本国内において指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について当該登録商標又はこれに類似する商標の使用をし」 | 日本国内で、登録した商品・サービスやそれに似たものに、登録商標やそれに似た商標を使い |
| どうなっていた | 「需要者の間に広く認識されていたとき」 | お客さんのあいだで有名になっていた(いわゆる周知) |
| これから | 「継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は」 | その商品・サービスに、その商標を使いつづけるなら |
| どうなる | 「その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する」 | その商品・サービスについて、その商標を使う権利がある |
〔表1〕商標法第33条第1項柱書の部品分解。「周知」は講学上の呼称です。右列は本記事作成者による言い換えです。
| 項・号 | 役割 |
|---|---|
| 第1項柱書 | 使用をする権利が生じる条件と、権利の中身。後段で、業務を承継した者にも同じ扱い。 |
| 第1項第1号 | 同一・類似の二以上の商標登録のうち、一つが無効にされた場合の原商標権者。 |
| 第1項第2号 | 商標登録が無効にされ、正当権利者に商標登録がされた場合の原商標権者。 |
| 第1項第3号 | 第1号・第2号の場合に、無効審判の請求の登録の際現に、専用使用権、または商標法第31条第4項の効力を有する通常使用権を有する者。 |
| 第2項 | 商標権者・専用使用権者は、相当の対価を受ける権利を有する。 |
| 第3項 | 商標法第32条第2項(混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことの請求)の準用。 |
〔表2〕商標法第33条の項・号ごとの役割一覧(要約)。
第3項が準用する商標法第32条第2項の原文は次のとおりです。
当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。
図は左右にスクロールできます。
【図3】商標法第33条の相関図。「混同防止表示の請求」は商標法第32条第2項の内容を短く呼んだものです。本記事作成者が条文を整理して作図したもの。
flowchart LR A["商標登録
(後に無効にされる登録)"] --> B["登録商標等の使用
無効理由を知らないで
日本国内で"] B --> C["需要者の間に
広く認識される"] C --> D["無効審判の
請求の登録"] D --> E["無効にすべき旨の
審決の確定"] E --> F["継続して使用をする場合
使用をする権利
(第33条第1項)"] F --> G["相当の対価(第2項)
混同防止表示の請求(第3項)"] style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図4】商標法第33条の時間の流れ。条文は使用・認識を「審判の請求の登録前」のこととして書いています。本記事作成者がフロー化したもの。
第33条の2・第33条の3 ― 特許権等の存続期間満了後の商標の使用をする権利
商標登録出願の日前又はこれと同日の特許出願に係る特許権がその商標登録出願に係る商標権と抵触する場合において、その特許権の存続期間が満了したときは、その原特許権者は、原特許権の範囲内において、その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をする権利を有する。ただし、その使用が不正競争の目的でされない場合に限る。
2 第三十二条第二項の規定は、前項の場合に準用する。
3 前二項の規定は、商標登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る実用新案権又は意匠権がその商標登録出願に係る商標権と抵触する場合において、その実用新案権又は意匠権の存続期間が満了したときに準用する。
商標登録出願の日前又はこれと同日の特許出願に係る特許権がその商標登録出願に係る商標権と抵触する場合において、その特許権の存続期間が満了したときは、その満了の際現にその特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者は、原権利の範囲内において、その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をする権利を有する。ただし、その使用が不正競争の目的でされない場合に限る。
2 第三十二条第二項及び第三十三条第二項の規定は、前項の場合に準用する。
3 前二項の規定は、商標登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る実用新案権又は意匠権がその商標登録出願に係る商標権と抵触する場合において、その実用新案権又は意匠権の存続期間が満了したときに準用する。
| 部品 | 第33条の2 | 第33条の3 |
|---|---|---|
| だれが | 原特許権者(第3項の準用により、原実用新案権者・原意匠権者) | 存続期間の満了の際現に、専用実施権、または特許権・専用実施権についての通常実施権を有する者(第3項の準用により、実用新案権・意匠権についても) |
| 前提 | 商標登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る特許権等が、その商標権と抵触する場合 | |
| いつ | その特許権等の存続期間が満了したとき | |
| 範囲 | 「原特許権の範囲内において」 | 「原権利の範囲内において」 |
| 何ができる | 指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について、登録商標又はこれに類似する商標の使用をする権利を有する | |
| ただし書 | 「その使用が不正競争の目的でされない場合に限る。」 | |
| 混同防止表示の請求 | あり(第2項→第32条第2項準用) | あり(第2項→第32条第2項準用) |
| 相当の対価 | 準用なし | あり(第2項→第33条第2項準用) |
〔表3〕商標法第33条の2と第33条の3の部品分解。違いは「だれが」と「相当の対価」の2点です。
- 第33条は、無効にされた登録の側の人(原商標権者、専用使用権者、登録をした通常使用権者)を守る規定です。条件は、無効審判の請求の登録前に、無効理由を知らないで、日本国内で使用をし、需要者の間に広く認識されていたことです。
- 第33条の権利には、相当の対価(第2項)と混同防止表示の請求(第3項)がセットになっています。
- 第33条の2は原特許権者等、第33条の3は専用実施権者・通常実施権者の規定です。相当の対価の準用があるのは第33条の3だけです。
- 第33条の2・第33条の3には、「不正競争の目的でされない場合に限る」というただし書があります。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 第33条の要件を一つずつ確認する
| # | 要件 | 条文の根拠 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 主体が第1項各号のいずれかに該当する者であること | 第33条第1項柱書・各号 | だれでもよいわけではない。各号は「無効にした場合」を前提にした原商標権者・使用権者に限られる。 |
| 2 | 無効審判の請求の登録前の使用であること | 第1項柱書「第四十六条第一項の審判の請求の登録前に」 | 基準は「審判の請求の登録」。審決の時や審決確定の時ではない。 |
| 3 | 無効理由に該当することを知らないこと | 第1項柱書「同項各号のいずれかに該当することを知らないで」 | 「同項各号」は商標法第46条第1項各号。特定の号に限定する文言はない。 |
| 4 | 日本国内における使用であること | 第1項柱書「日本国内において」 | ― |
| 5 | 指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務についての、登録商標又はこれに類似する商標の使用であること | 第1項柱書 | 類似の範囲での使用も対象に含まれる。 |
| 6 | その商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたこと | 第1項柱書 | 特許法第80条・意匠法第30条にはない要件(→表6)。 |
| 7 | 継続してその商品又は役務についてその商標の使用をすること | 第1項柱書「継続して…使用をする場合は」 | 効果も「その商品又は役務についてその商標」に限られる。 |
〔表4〕商標法第33条第1項の要件整理。「注意点」列は条文の文言から読み取れる範囲に限っています。
その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有するです。特許法第80条第1項が
通常実施権を有すると定めるのと表現が異なります。商標法第32条(先使用による商標の使用をする権利)・第60条第1項と同じ言い回しです。
再審の請求の登録の際現に広く認識されているとき、と時点を明記しています。この点について、特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)は、第33条の要件を、無効審判の予告登録前の使用によってその商標が周知になったこと、予告登録後も使用を継続していることである、と整理しています。あわせて〔字句の解釈〕で、第1項柱書にいう第46条第1項の審判の請求の登録とは予告登録のことであり、この登録があった以上、一応、無効理由があるかもしれないことが予想されるから、その後の使用による周知については第1項の保護がない、と説明しています(要約)。つまり、周知性は予告登録の前に備わっている必要があり、予告登録の後に周知になったとしても第33条の保護はない、という整理です。
出典:逐条解説〔第22版〕1673頁〜1674頁。
2. 第1項各号 ― だれが権利を持てるか
| 号 | 場面 | 権利を持てる者 | 架空の例 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 同一又は類似の指定商品・指定役務について使用をする同一又は類似の商標について、二以上の商標登録があり、その一が無効にされた | 無効にされた登録の原商標権者 | 「ほしぞらパン」(店長さん)と「ほしぞらベーカリー」(ミナトベーカリー)がどちらも登録され、後に店長さんの登録が無効にされた |
| 第2号 | 商標登録が無効にされ、同一又は類似の範囲の商標について正当権利者に商標登録がされた | 無効にされた登録の原商標権者 | 店長さんの登録が無効にされ、その後、正当権利者であるミナトベーカリーに登録がされた |
| 第3号 | 第1号・第2号の場合 | 無効審判の請求の登録の際現に、無効にされた登録に係る商標権についての専用使用権、または商標権・専用使用権についての「第三十一条第四項の効力を有する通常使用権」を有する者 | 店長さんから専用使用権の設定を受けていた「こぐま堂」 |
〔表5〕商標法第33条第1項各号の場面と主体。例はすべて架空です。
第3号の通常使用権は、「第三十一条第四項の効力を有する」ものに限られています。商標法第31条第4項は通常使用権は、その登録をしたときは、その商標権若しくは専用使用権又はその商標権についての専用使用権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。
と定めています。つまり、登録をしていない通常使用権者は第3号に当たりません。特許法第80条第1項第3号は単に通常実施権を有する者
としており、登録を求める文言がありません。ここは商標法と特許法の違いです。
又はその商標権若しくは専用使用権についての第三十一条第四項の効力を有する通常使用権を有する者を、
若しくはその商標権若しくは専用使用権についての第三十一条第四項の効力を有する通常使用権を有する者又はその商標の使用をする権利を有する団体構成員若しくは地域団体構成員と読み替えます。団体構成員・地域団体構成員の権利は登録の対象となる通常使用権ではないため、読替えで第3号に加えられています(後半の理由づけは本記事作成者による整理です)。
flowchart TB
S["商標登録が無効にされた"] --> Q1{"第33条第1項各号の者か
原商標権者、専用使用権者
登録をした通常使用権者 等"}
Q1 -- "はい" --> Q2{"無効審判の請求の登録前に
無効理由を知らないで
日本国内で使用をしたか"}
Q1 -- "いいえ" --> N1["第33条の権利なし"]
Q2 -- "はい" --> Q3{"指定商品役務又は類似の範囲で
登録商標又は類似商標の
使用か"}
Q2 -- "いいえ" --> N1
Q3 -- "はい" --> Q4{"需要者の間に
広く認識されていたか"}
Q3 -- "いいえ" --> N1
Q4 -- "はい" --> Q5{"継続してその商品役務に
その商標の使用をするか"}
Q4 -- "いいえ" --> N1
Q5 -- "はい" --> Y["その商品役務について
その商標の使用をする権利
(第33条第1項)"]
Q5 -- "いいえ" --> N1
Y --> Z["相当の対価を支払う(第2項)
混同防止表示の請求を
受けることがある(第3項)"]
style Y fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style N1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:第33条第1項の使用をする権利が認められる結論
- 赤の箱:第33条の権利が認められない結論
【図5】商標法第33条の判断手順。本記事作成者が条文をフロー化したもの(判断の順序は条文が定めたものではありません)。
3. 特許法第80条・意匠法第30条との比較
| 項目 | 商標法第33条 | 特許法第80条 | 意匠法第30条 |
|---|---|---|---|
| 条見出し | 無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利 | 無効審判の請求登録前の実施による通常実施権 | 無効審判の請求登録前の実施による通常実施権 |
| 基準時 | 第46条第1項の審判の請求の登録前 | 特許無効審判の請求の登録前 | 意匠登録無効審判の請求の登録前 |
| 善意 | 商標登録が第46条第1項各号のいずれかに該当することを知らないで | 特許が第123条第1項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで | 意匠登録が第48条第1項各号のいずれかに該当することを知らないで |
| 行為 | 商標の「使用をし」 | 発明の「実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているもの」 | 意匠又はこれに類似する意匠の「実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているもの」 |
| 事業の準備 | 文言なし | あり | あり |
| 需要者の間に広く認識 | 要件 | 文言なし | 文言なし |
| 第1号の対象 | 同一又は類似の指定商品・指定役務について使用をする同一又は類似の商標についての二以上の商標登録 | 同一の発明についての二以上の特許 | 同一又は類似の意匠についての二以上の意匠登録 |
| 第3号の通常使用権・通常実施権 | 第31条第4項の効力を有する通常使用権(登録をしたもの) | 通常実施権(登録の文言なし) | 通常実施権(登録の文言なし) |
| 効果 | その商品又は役務についてその商標の使用をする権利 | 実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内で通常実施権 | 実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内で通常実施権 |
| 継続使用の文言 | あり(「継続して…使用をする場合は」) | なし | なし |
| 業務の承継人 | あり(第1項後段) | 同様の後段なし | 同様の後段なし |
| 相当の対価 | あり(第2項) | あり(第2項) | あり(第2項) |
| 混同防止表示の請求 | あり(第3項) | なし | なし |
〔表6〕いわゆる中用権の三法比較。各条をe-Gov法令検索で2026年9月に確認した文言に基づきます。実用新案法第20条は、特許を無効にした場合の原特許権者等に実用新案権についての通常実施権を認める規定で、場面の設定が異なるため表から外しています(詳細は実用新案法シリーズの記事へ)。
| 規定 | 場面 | 善意・目的の文言 | 広く認識 | 相当の対価 | 混同防止表示の請求 |
|---|---|---|---|---|---|
| 商標法第32条第1項 | 他人の商標登録出願前からの使用 | 「不正競争の目的でなく」 | 要件(出願の際現に) | 規定なし | あり(第32条第2項) |
| 商標法第33条第1項 | 無効審判の請求の登録前の使用 | 無効理由に「該当することを知らないで」 | 要件 | あり(第33条第2項) | あり(第33条第3項) |
| 商標法第60条第1項 | 取消決定・審決の確定後、再審の請求の登録前の使用 | 「善意に」 | 要件(再審の請求の登録の際現に) | 規定なし | あり(第60条第2項) |
| 商標法第33条の2 | 特許権等の存続期間満了後(原権利者) | 「不正競争の目的でされない場合に限る」 | 文言なし | 準用なし | あり(第33条の2第2項) |
| 商標法第33条の3 | 特許権等の存続期間満了後(実施権者) | 「不正競争の目的でされない場合に限る」 | 文言なし | あり(第33条の3第2項) | あり(第33条の3第2項) |
〔表7〕商標法の「商標の使用をする権利」の横並び比較。商標法第32条の2(地域団体商標に対する先使用)は関連記事に回しています。
4. 無効審判との関係(拒絶・異議・無効・除斥期間の対応)
第33条から第33条の3は、商標権の効力を制限する側の規定です。登録要件ではないため、拒絶理由(商標法第15条)・登録異議の申立ての理由(商標法第43条の2)・無効理由(商標法第46条第1項)のいずれにも挙げられていません。無効審判との関係は次のとおりです。
| 観点 | 第33条との関係 |
|---|---|
| 対象となる審判 | 第33条第1項が挙げるのは「第四十六条第一項の審判」(商標登録の無効の審判)のみ。登録異議の申立てによる取消決定や、取消しの審判は第33条の文言に含まれていない。 |
| 対象となる無効理由 | 「同項各号のいずれかに該当することを知らないで」とあり、商標法第46条第1項各号のうち特定の号に限る文言はない。 |
| 無効審決の効果 | 商標法第46条の2第1項本文:商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、初めから存在しなかつたものとみなす。(同項ただし書・第2項に、第46条第1項第5号から第7号までに該当する場合の例外あり) |
| 除斥期間(商標法第47条) | 除斥期間の経過により無効審判を請求できない場合は、商標登録が無効にされないので、第33条の場面にならない(本記事作成者による整理)。 |
| 再審で商標権が回復した場合 | 別の規定(商標法第60条)が置かれている。 |
〔表8〕商標法第33条と無効審判まわりの条文の対応。
5. 第33条の2・第33条の3 ― 商標法第29条との接続
商標法第29条は、登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権
等と抵触するとき、抵触する部分についてその態様による使用ができないと定めています。つまり、特許権等が存続しているあいだは、先願の特許権者等が優先します。
しかし、特許権・実用新案権・意匠権には存続期間があります。満了後は、今度は原特許権者等の側が、存続している商標権の効力を受けることになります。第33条の2・第33条の3は、この場面で原特許権者等・その実施権者に商標の使用をする権利を認めたものです。たとえば、立体商標と意匠権が抵触する場合が考えられます。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:意匠権・実施権にもとづく実施(存続期間中)
- 青緑の枠:満了後に認められる使用をする権利(第33条の2・第33条の3)
- 赤の枠:商標法第29条により抵触する態様では使用できないこと
- 藍の枠:商標権者が使用できること
- 赤の縦の破線:意匠権の存続期間が満了した時点(左右の場面の境目)
【図6】商標法第29条から第33条の2・第33条の3への接続を示す時系列図。会社名・商品は架空の例で、立体商標が登録されたと仮定しています(立体商標の登録要件は別の記事で扱います)。本記事作成者が条文を整理して作図したもの。時間軸に縮尺はありません。
| # | 要件 | 条文の文言 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 先後関係 | 「商標登録出願の日前又はこれと同日の特許出願に係る特許権」(第3項で実用新案権・意匠権) | 同日の出願を含む。商標法第29条の「日前の出願」より広い。 |
| 2 | 抵触 | 「その商標登録出願に係る商標権と抵触する場合」 | ― |
| 3 | 消滅の原因 | 「存続期間が満了したとき」 | 条文が挙げるのは存続期間の満了のみ。 |
| 4 | 主体 | 第33条の2:「原特許権者」/第33条の3:「その満了の際現に」専用実施権又は通常実施権を有する者 | 第33条の3の通常実施権には、第33条第1項第3号のような登録の限定文言がない。 |
| 5 | 範囲 | 「原特許権の範囲内において」/「原権利の範囲内において」 | 使用できるのは、指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務についての、登録商標又はこれに類似する商標。 |
| 6 | 目的 | 「ただし、その使用が不正競争の目的でされない場合に限る。」 | 特許法第81条・第82条、意匠法第31条・第32条にはない文言。 |
〔表9〕商標法第33条の2・第33条の3の要件整理。第33条と異なり、「需要者の間に広く認識」「継続して」「業務を承継した者」の文言はありません。
著作権・著作隣接権を挙げていない理由については、同書の〔参考〕〈著作権との関係を規定していない理由〉が、個人の思想、感情の表現である著作物が商品・役務の出所表示として使用され、さらにそれが商標権の侵害に当たることは極めてまれであると考えられること、加えて従前、平面商標や意匠権との関係においても著作権の存続期間満了後の原著作権の権利については規定されておらず、実際に特段の問題も起こっていないこと等を挙げています(要約)。
出典:逐条解説〔第22版〕1675頁〜1678頁。
flowchart TB S["特許権・実用新案権・意匠権の
存続期間が満了した"] --> Q1{"その出願は
商標登録出願の日前
又は同日か"} Q1 -- "はい" --> Q2{"その権利は商標権と
抵触していたか"} Q1 -- "いいえ" --> N["第33条の2・第33条の3の
権利なし"] Q2 -- "はい" --> Q3{"使用は不正競争の
目的でされないか"} Q2 -- "いいえ" --> N Q3 -- "目的なし" --> Q4{"だれか"} Q3 -- "不正競争の目的" --> N Q4 -- "原特許権者等" --> A["第33条の2
原特許権等の範囲内で
使用をする権利"] Q4 -- "満了の際現に
専用実施権者・通常実施権者" --> B["第33条の3
原権利の範囲内で
使用をする権利"] A --> A2["混同防止表示の請求を受けうる
相当の対価の準用なし"] B --> B2["混同防止表示の請求を受けうる
相当の対価を支払う"] style A fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style B fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:使用をする権利が認められる結論
- 赤の箱:第33条の2・第33条の3の権利が認められない結論
【図7】商標法第33条の2・第33条の3の分岐図。本記事作成者が条文をフロー化したもの。
6. 存続期間満了後の権利 ― 四法のマトリクス
「先願(又は同日出願)の権利が満了した後、存続している後願の権利に対して使いつづけられる」という規定は、特許法・実用新案法・意匠法にもあります。どの権利が満了して、どの権利に対して主張するのかを、マトリクスで整理します。
| 満了した権利 \ 存続している権利 | 特許権 | 実用新案権 | 意匠権 | 商標権 |
|---|---|---|---|---|
| 特許権 | ― | ― | 意匠法第31条第2項・第32条第2項 | 商標法第33条の2第1項・第33条の3第1項 |
| 実用新案権 | ― | ― | 意匠法第31条第2項・第32条第2項 | 商標法第33条の2第3項・第33条の3第3項 |
| 意匠権 | 特許法第81条・第82条 | 実用新案法第26条(特許法第81条・第82条の準用) | 意匠法第31条第1項・第32条第1項(登録意匠に類似する意匠に係る部分の抵触) | 商標法第33条の2第3項・第33条の3第3項 |
| 商標権 | 規定なし | 規定なし | 規定なし | ― |
〔表10〕存続期間満了後の通常実施権・商標の使用をする権利のマトリクス。各条をe-Gov法令検索で2026年9月に確認。「規定なし」は、特許法第81条・第82条、意匠法第31条・第32条が満了する権利として商標権を挙げていないという意味です。「―」の欄は、本表に掲げた条文に該当する規定がないことを示します。
| 項目 | 商標法第33条の2・第33条の3 | 特許法第81条・第82条 | 意匠法第31条・第32条 |
|---|---|---|---|
| 満了する権利 | 特許権・実用新案権・意匠権 | 意匠権 | 意匠権(第1項)、特許権・実用新案権(第2項) |
| 先後関係 | 商標登録出願の日前又はこれと同日 | 特許出願の日前又はこれと同日 | 意匠登録出願の日前又はこれと同日 |
| 効果 | 商標の使用をする権利 | 通常実施権 | 通常実施権 |
| 範囲 | 原特許権の範囲内/原権利の範囲内 | 原意匠権の範囲内/原権利の範囲内 | 原意匠権の範囲内/原権利の範囲内 |
| 原権利者の対価 | 準用なし(第33条の2) | 規定なし(第81条) | 規定なし(第31条) |
| 実施権者の対価 | 相当の対価(第33条の3第2項→第33条第2項準用) | 相当の対価(第82条第2項) | 相当の対価(第32条第3項) |
| 不正競争の目的でないこと | 必要(各第1項ただし書) | 文言なし | 文言なし |
| 混同防止表示の請求 | あり(各第2項) | なし | なし |
〔表11〕存続期間満了後の権利の三法比較。「原権利者は対価なし・実施権者は相当の対価」という形は三法で共通しています。
7. 混同しやすい点の整理
| まちがえやすい記述 | 条文で確認すると |
|---|---|
| 「第33条の権利は、事業の準備をしていた者にも認められる」 | 第33条第1項に「事業の準備」の文言はない。特許法第80条第1項・意匠法第30条第1項との違い。 |
| 「第33条の権利に周知性は不要である」 | 「需要者の間に広く認識されていたとき」が要件。 |
| 「第33条第1項第3号の通常使用権者は、登録の有無を問わない」 | 「第三十一条第四項の効力を有する通常使用権」に限られる。 |
| 「混同防止表示の請求は第33条第2項に規定されている」 | 第2項は相当の対価。混同防止表示の請求は第3項(商標法第32条第2項の準用)。 |
| 「第33条の2の原特許権者は相当の対価を支払う」 | 第33条の2第2項が準用するのは商標法第32条第2項のみ。第33条第2項を準用するのは第33条の3第2項。 |
| 「第33条の2は商標登録出願の日前の特許出願に限る」 | 「日前又はこれと同日」。 |
| 「第33条の2の権利は、不正競争の目的があっても認められる」 | 第1項ただし書で「その使用が不正競争の目的でされない場合に限る」。 |
| 「第33条の2は著作権の存続期間満了にも適用される」 | 第33条の2・第33条の3が挙げるのは特許権・実用新案権・意匠権。 |
〔表12〕混同しやすい点の整理。左列は本記事作成者が作った誤りの例であり、実際の試験問題の引用ではありません。
8. 審査基準・判例
第33条から第33条の3は、登録後の商標権の効力に関する規定です。商標審査基準〔改訂第17版〕の目次に、これらの条を単独で扱う章は見当たりません(特許庁ウェブサイト「商標審査基準」目次、2026年9月参照)。
試験での問われ方
この条文群は、①第33条の要件(特に周知性の要否、事業の準備の有無、第3号の通常使用権の登録)、②対価と混同防止表示の請求の有無の組合せ、③特許法第80条〜第82条・意匠法第30条〜第32条との異同、という形で条文知識が問われやすい構造をしています。ただし、出題の頻度や重要度を断定できる資料はありません。短答式では条文の文言どおりに正誤を判断できるよう、表6・表7・表11の違いを条文で確認しておくことが有効と考えられます。論文式・口述試験では、商標法第29条との接続(図6)や、無効審判を請求された側の使用継続の可否という形で関係しうる論点です。
- 第33条(いわゆる中用権。講学上の呼称)の要件は、①第1項各号の者、②無効審判の請求の登録前、③無効理由を知らない、④日本国内、⑤指定商品・指定役務又は類似範囲での登録商標又は類似商標の使用、⑥需要者の間に広く認識、⑦継続使用、です。
- 特許法第80条・意匠法第30条との違いは、周知性が要件であること、「事業の準備」がないこと、混同防止表示の請求があること、第3号の通常使用権が登録をしたものに限られることです。相当の対価は共通です。
- 団体商標・地域団体商標では、商標法第31条の2第4項の読替えにより、団体構成員・地域団体構成員が第33条第1項第3号に加わります。
- 第33条の2(原特許権者等)は対価の準用なし、第33条の3(実施権者)は相当の対価あり。どちらも混同防止表示の請求があり、不正競争の目的でされない使用に限られます。
- 第33条の2・第33条の3は「日前又はこれと同日」の出願が対象で、商標法第29条(「日前の出願」)より広くなっています。
- 商標権の満了を理由とする逆向きの規定は、特許法第81条・第82条、意匠法第31条・第32条にありません。
