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小学生でも分かる商標法|商標法第36条・第37条 差止請求権と侵害とみなす行為 ― 「やめて」と言える権利と、にせものの「じゅんび」まで止めるしくみ

小学生でもわかる商標法 第34回「差止請求と侵害行為」。侵害を止めるためのしくみ。

小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #34

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お店の目じるしをまねされたとき、「やめてください」と言える権利が商標法第36条です。そして、にせものを売る前の「じゅんび」の段階でも止められるようにしたのが商標法第37条です。この記事では、2つの条文を、パン屋さんのたとえから始めて、条文の部品、号ごとの一覧、特許法との構造のちがいまで、はしごをのぼるように見ていきます。

条文:商標法第36条(第1項・第2項)、第37条(第1号〜第8号)関連:商標法第2条第3項・第7項、第25条、第67条、第78条、第78条の2参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

目じるしをまねされたら、「やめて」と言える

町に「ほしぞらパン」というパン屋さんがあります。ふくろには、星のマークと「ほしぞらパン」の名前がついています。これがお店の「目じるし」です。ほしぞらパンは、この目じるしを国に登録(とうろく)しています。登録した目じるしのことを、法律では「登録商標(とうろくしょうひょう)」とよびます。

ある日、べつの人が、そっくりの目じるしをつけたパンを売りはじめました。お客さんは「ほしぞらパンのパンだ」とまちがえて買ってしまいます。このように、人の登録した目じるしを勝手に使って、持ち主の権利をふみにじることを「侵害(しんがい)」といいます。

このとき、ほしぞらパンは、相手に次の3つのことを言えます。

目じるしをまねされたときに言える3つのこと ① やめて いま、にせものを 売っている人に 「売るのをやめてください」 (法律のことば:停止) ② やらないで これから、にせものを 売りそうな人に 「売りはじめないでください」 (法律のことば:予防) ③ すてて ①や②といっしょに 言えること 「にせのふくろをすてて」 「道具をかたづけて」 (法律のことば:廃棄・除却) ①と②がメイン。③は、①か②を言うときに、いっしょに言えるおまけです。 この3つをまとめて「差止請求権(さしとめせいきゅうけん)」とよびます。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:①やめて(法律のことば:停止)
  • 青緑の枠:②やらないで(法律のことば:予防)
  • 藍の枠:③すてて(法律のことば:廃棄・除却)。①か②といっしょにだけ言える

【図1】差止請求権の3つの中身(商標法第36条をもとに本記事作成者が作成した模式図。「ほしぞらパン」は架空のお店です)。

川の下流で止めるだけでは、おそい

にせもののパンがお店にならぶまでには、いくつかの「じゅんび」があります。にせのシールを作る。シールを持っておく。ふくろにはる。はったパンを、売るために持っておく。そして売る。これは、川が上流から下流へ流れていくのに似ています。

「売る」ところ(下流)だけを止めても、上流ににせシールが山ほど残っていたら、またすぐに、にせものが流れてきます。そこで商標法は、上流の「じゅんび」も、「侵害したのと同じにあつかう」と決めました。これが商標法第37条です。

← 上流(じゅんび) 下流(お客さんにとどく)→ にせシール専用の 型(かた)を 作る・わたす じゅんびのじゅんび にせシールを 作る じゅんび にせシールを 持っておく・ 人にわたす じゅんび ふくろにはる。 はったパンを売る ために持っておく あと一歩 にせものを売る お客さんがまちがえる ここも「侵害したのと同じ」にあつかう(商標法第37条) だから、この段階でも「やめて」「すてて」と言える 上流で止めれば、にせものはお客さんまで流れていかない。 ※ どの「じゅんび」が当てはまるかは、条文で細かく決まっています(→レベル2・3)。

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:にせものを売る前の「じゅんび」の段階
  • 橙の枠:売るまであと一歩の段階
  • 赤の枠:にせものを売る段階(お客さんにとどく)

【図2】にせものができるまでの流れと、商標法第37条が止める「上流」(本記事作成者が作成した模式図。シール・型は架空の例で、条文の言葉を単純化しています)。

「そっくり」だけでなく「にている」も止められる

もうひとつ大事なことがあります。まねをする人は、まったく同じ目じるしではなく、少しだけ変えた「にている目じるし」を使うことがあります。たとえば「ほしぞらパン」に対して「ほしそらパン」のような名前です(どちらも架空の名前です)。商標法第37条は、この「にている目じるし」を「にている商品」に使うことも、侵害したのと同じにあつかいます。くわしくは、この連載の#24(商標権の効力)で説明しています。

① やめて(停止)② やらないで(予防)③ すてて(廃棄・除却)④ 「にている」も止められる⑤ 「じゅんび」も止められる
レベル1のまとめ
  • 登録した目じるしをまねされたら、「やめて」「やらないで」と言える。いっしょに「すてて」とも言える(商標法第36条)。
  • にている目じるしを使うことや、にせものの「じゅんび」も、侵害したのと同じにあつかう(商標法第37条)。
  • 上流で止めるから、にせものがお客さんにとどく前にふせげる。

※ 「やめて」と言えるのはだれか、「すてて」だけを単独で言えるか、どの「じゅんび」が当てはまるか(「売るために」などの目的が必要です)は、正確には条件があります(→レベル3)。また、目じるしとして使っていない場合や、本物の商品を外国から持ってきた場合など、侵害にならないこともあります(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第36条 ― 差止請求権は2つの項でできている

商標法第36条(差止請求権)(原文) 第1項 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
第2項 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
部品第1項の文言意味(中学生向け)
だれが「商標権者又は専用使用権者」商標権を持っている人、または、その商標を独占して使える権利(専用使用権)をもらった人
だれに「侵害する者又は侵害するおそれがある者」いま侵害している人と、これから侵害しそうな人の両方
何を「その侵害の停止又は予防」いまの侵害をやめさせること(停止)と、これからの侵害をふせぐこと(予防)
どうなる「請求することができる」相手に求めることができる。応じなければ裁判所に訴えることになる

〔表1〕商標法第36条第1項を部品に分けた表。

項役割請求の中身注意する文言
第1項差止請求の本体侵害の「停止」、侵害の「予防」「侵害するおそれがある者」もふくむ
第2項本体にくっつく請求「侵害の行為を組成した物の廃棄」「侵害の行為に供した設備の除却」「その他の侵害の予防に必要な行為」「前項の規定による請求をするに際し」

〔表2〕商標法第36条の項ごとの役割。

flowchart TB
  A["商標権者 又は 専用使用権者"] --> B{"相手は
侵害する者 か
侵害するおそれがある者 か"} B -- "侵害する者" --> C["第36条第1項
侵害の停止を請求"] B -- "侵害するおそれがある者" --> D["第36条第1項
侵害の予防を請求"] B -- "どちらでもない" --> X["差止請求はできない"] C --> E["第36条第2項
第1項の請求をするに際し"] D --> E E --> F["侵害の行為を組成した物の廃棄"] E --> G["侵害の行為に供した設備の除却"] E --> H["その他の侵害の予防に必要な行為"] style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:差止請求ができる結論
  • 赤の箱:差止請求ができない結論

【図3】商標法第36条の請求の流れ(条文を整理して本記事作成者がフロー化したもの)。

第37条 ― 8つの号を原文で読む

商標法第37条(侵害とみなす行為)(原文) 柱書 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
第1号 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
第2号 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
第3号 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
第4号 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
第5号 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
第6号 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
第7号 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
第8号 登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

「みなす」とは、「本当は別のものだが、法律上は同じものとしてあつかう」という意味です。第37条の行為は、第25条の「登録商標を指定商品・指定役務に使用する」そのものではありません。それでも、商標権(又は専用使用権)の侵害として同じようにあつかう、というのが柱書の役割です。

号対象になる物目的を示す文言行為ひとことで
第1号―(商標の使用そのもの)―類似範囲での「使用」いわゆる禁止権(講学上の呼称。詳細は#24)
第2号商標を付した商品(商品の包装に付したものをふくむ)「譲渡、引渡し又は輸出のために」所持売るため・輸出するために持っている
第3号役務の提供を受ける者の利用に供する物に商標を付したもの「これを用いて当該役務を提供するために」所持、輸入自分がサービスに使うために持つ・輸入する
第4号同上「これを用いて当該役務を提供させるために」譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための所持、輸入他人のサービスに使わせるためにわたす等
第5号商標を表示する物「使用をするために」所持自分が使うために表示物を持つ
第6号商標を表示する物「使用をさせるために」譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための所持他人に使わせるために表示物をわたす等
第7号商標を表示する物「使用をし、又は使用をさせるために」製造、輸入表示物を作る・輸入する
第8号商標を表示する物を「製造するためにのみ用いる物」―(かわりに「のみ」「業として」)製造、譲渡、引渡し、輸入表示物を作る専用の道具を作る・わたす等

〔表3〕商標法第37条 全8号の一覧(原文の文言を本記事作成者が整理。各号とも、商標は「登録商標又はこれに類似する商標」、商品・役務は指定商品・指定役務とその類似範囲が対象。正確な範囲は原文参照)。

8つの号を3つのグループに分ける

グループ(本記事での呼び方)号何についての「じゅんび」かたとえ(架空)
使用そのもの第1号じゅんびではなく、類似範囲での使用「ほしそらパン」の名前でパンを売る
商品系第2号商標を付した商品を、譲渡・引渡し・輸出する前の段階にせの目じるしをはったパンを、売るために倉庫に置いている
役務系第3号・第4号商標を付した物を用いて、役務を提供する(させる)前の段階にせの目じるしを付けたトレーを、パン教室で使うために持っている(第3号)/ほかの教室に使わせるためにわたす(第4号)
表示物系第5号〜第8号商標を表示する物(シール、ラベルなど)を用意する段階と、さらにその手前にせシールを持つ(第5号)・わたす(第6号)・作る/輸入する(第7号)・にせシール専用の型を作る(第8号)

〔表4〕商標法第37条各号のグループ分け(「商品系」「役務系」「表示物系」は本記事での呼び方で、条文の用語ではありません。たとえは架空の例で、具体的な物がどの号に当たるかは個別の事案によります)。

行為の流れを上流にさかのぼる

商標法第2条第3項は、商品に標章を「付する行為」(第1号)、付したものを「譲渡し、引き渡し…輸出し、輸入し」等する行為(第2号)などを「使用」と定めています(詳細は#1)。第37条第2号以下は、この「使用」の手前にある行為を、上流へ向かって順につかまえていく形になっています。

← 上流 下流 → 表示物系(商標を表示する物) 第8号 表示物を製造するために 「のみ」用いる物を 「業として」製造・譲渡・ 引渡し・輸入 第7号 表示物を 製造・輸入 使用をし/させるため 第5号 表示物を所持 自分が使用をするため 第6号 譲渡・引渡し等 他人に使用をさせるため 商標の「使用」 (第2条第3項各号) 下の2つの列へ 商品系 使用:商品・包装に 標章を付する 第2条第3項第1号 第2号 商標を付した商品を 譲渡・引渡し・輸出のために 所持 使用:付したものを譲渡・ 引渡し・輸出・輸入 等 第2条第3項第2号 役務系 使用:提供を受ける者の 利用に供する物に付する 第2条第3項第3号 第3号 所持・輸入 自分が役務を提供するため 第4号 譲渡・引渡し・ そのための所持・輸入 他人に役務を提供させるため 使用:付したものを用いて 役務を提供する 第2条第3項第4号

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の枠:商標の「使用」(第2条第3項)。同一範囲は第25条、類似範囲は第37条第1号
  • 藍の枠:表示物系の号(第5号〜第8号)=使用の手前
  • 橙の枠:商品系の号(第2号)=使用の手前
  • 青緑の枠:役務系の号(第3号・第4号)=使用の手前

【図4】商標法第37条第2号〜第8号を、行為の流れの上流から下流へ並べた模式図(商標法第2条第3項・第37条を整理して本記事作成者が作成。各号とも「登録商標又はこれに類似する商標」・指定商品(役務)とその類似範囲が対象。条文の文言は簡略化しており、正確には原文を参照)。

レベル2のまとめ
  • 商標法第36条第1項=「停止」と「予防」。相手は「侵害する者」と「侵害するおそれがある者」。
  • 商標法第36条第2項=廃棄・除却など。「前項の規定による請求をするに際し」という文言がついている。
  • 商標法第37条は8つの号。第1号は類似範囲での使用、第2号は商品系、第3号・第4号は役務系、第5号〜第8号は表示物系(グループ名は本記事での呼び方)。
  • 第2号〜第7号には「…のために」という目的を示す文言があり、第8号には「のみ」「業として」という文言がある。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 第36条の要件を条文の文言から整理する

項目条文の文言条文から直接言えること
請求の主体「商標権者又は専用使用権者」条文が挙げているのはこの二者。通常使用権者は条文に挙げられていない
相手方「侵害する者又は侵害するおそれがある者」現実の侵害が始まっていなくても、「おそれ」があれば予防を請求できる
主観的要件(文言なし)第36条には、相手方の故意・過失を要件とする文言は置かれていない
第2項の請求「前項の規定による請求をするに際し」第1項の請求と結びつけて規定されている
第2項の範囲「その他の侵害の予防に必要な行為」廃棄・除却は例示で、しめくくりは「侵害の予防に必要な行為」

〔表5〕商標法第36条の要件(条文の文言から直接読み取れる範囲に限って本記事作成者が整理)。

ポイント:専用使用権を設定した範囲の商標権者第36条第1項は「商標権者又は専用使用権者」と並べて規定しています。一方、商標法第25条ただし書は、専用使用権を設定した範囲について商標権者の「使用をする権利を専有する」効力が制限されることを定めています(→#24)。商標権者の自己使用の制限と、侵害者に対する差止請求の根拠は区別します。下記では第36条の文言と、参考になる特許事件の最高裁判例を分けて説明します。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):第36条は何を定めた規定か特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)は、商標法第36条の趣旨として、特許法第100条の趣旨を参照するようにとだけ述べています。その特許法第100条の解説は、第1項の差止請求権について、こうした請求権は特別の規定がなくても旧法の下で認められていたものであり、その意味では当然のことを明確にしたものだ、と説明しています。第2項については、いわば第1項の請求権の行使の態様を定めたものであって、第2項の請求は常に第1項の請求を前提として行われるが、逆に第1項の請求をするときに常に第2項による具体的な請求の態様を示さなければならないわけではない、と説明しています。あわせて、侵害の行為を組成した物とは、刑法第19条第1項第1号にいう犯罪行為を組成した物と同様に、その侵害行為の必然的内容をなした物をいうこと、その他の侵害の予防に必要な行為の例としては担保の提供などが挙げられることを説明しています。
逐条解説〔第22版〕商標法第36条の解説1682頁、特許法第100条の解説334頁〜335頁。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):普通名称化を止める規定を置かなかった理由逐条解説〔第22版〕は、商標法第36条の参考として、登録商標をその指定商品の普通名称にさせるおそれがある行為をしている者に対し、その行為の停止を請求できる旨の規定を置く必要があるのではないかという意見があることを紹介し、そのような規定が採用されなかった理由を3つ挙げています。①普通名称化させるおそれのある行為といっても、その範囲がはっきりしないこと(例として、辞書に登録商標Aと書かずに単にAと書いた場合も該当するといわれていることを挙げています)、②差止請求権は他人の権利を不当に制限するおそれもある強力な権利であるから、そのような規定を設けることについては問題があること、③他人が商標として使用しなければ、実際上、多くの場合は普通名称になることはないであろうこと、です。また、役務に係る商標権についても同様の見解があり得ると述べています。
逐条解説〔第22版〕商標法第36条の解説1682頁〜1683頁。
第36条第1項は商標権者と専用使用権者に差止請求権を認めています。専用使用権を設定して商標権者自身の使用が制限されること(第25条ただし書)と、侵害者への差止めとは区別します。参考となる最高裁平成17年6月17日判決は、特許権について、専用実施権設定後も特許権者の差止請求を認めています。ただし、これは特許法第100条を直接判断した判例です。一方、独占的に使用できる契約を結んだ通常使用権者を、その契約だけで第36条の「専用使用権者」と同じ地位に扱うことはできません。商標法第25条・第36条/最高裁判決(特許事件)

2. 「侵害」の3つの層 ― 第25条・第37条第1号・第37条第2号以下

第36条が前提とする「侵害」は、大きく3つの層に分けて考えると整理しやすくなります(この3層の呼び方は本記事での整理です)。「専用権」「禁止権」は講学上の呼称で、条文の用語ではありません。

第3層:第37条第2号〜第8号(使用の手前の行為) 第2層:第37条第1号(類似範囲での使用) いわゆる禁止権 第1層:第25条の範囲での使用 登録商標と同一の商標を 指定商品・指定役務に使用 いわゆる専用権の範囲 民事(第36条) 第1層〜第3層のすべてが 「侵害」として 差止請求の対象 第37条柱書「侵害するものとみなす」 刑事(罰則) 第1層 → 第78条 第2層・第3層 → 第78条の2 第78条かっこ書が第37条の 行為を除いている(→第9節)

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:第1層(第25条の範囲での使用)
  • 青緑の枠:第2層(第37条第1号)
  • 藍の枠:第3層(第37条第2号〜第8号)
  • 白い枠:民事・刑事でのあつかい

【図5】「侵害」の3つの層と、民事・刑事でのあつかい(商標法第25条・第37条・第78条・第78条の2を整理して本記事作成者が作成した模式図。層の呼び方は本記事でのもの)。

ポイント:第37条第1号も「みなし侵害」第37条第1号(類似範囲での使用)は、第2号以下と同じ柱書のもとに置かれています。したがって、罰則の場面では、類似範囲での使用も第78条ではなく第78条の2の対象になります(第78条のかっこ書は「第三十七条…の規定により…侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く」と、号を限定していません)。

3. 第37条第2号〜第8号の文言を横に並べる

号目的の文言所持譲渡・引渡し製造輸入「輸出」の語「業として」「のみ」
第2号譲渡、引渡し又は輸出のために○―――○(目的として)――
第3号役務を提供するために○――○―――
第4号役務を提供させるために○(譲渡・引渡しのため)○―○―――
第5号使用をするために○――――――
第6号使用をさせるために○(譲渡・引渡しのため)○―――――
第7号使用をし、又は使用をさせるために――○○―――
第8号(目的の文言なし)―○○○―○○

〔表6〕商標法第37条第2号〜第8号の文言の有無(○=その語が条文にある、―=ない。e-Gov原文を本記事作成者が整理。2026年9月参照)。

この表から、条文上の帰結として次のことが言えます。

  • 第2号に「輸入」の語はありません。商標を付した商品を「輸入」する行為は、商標法第2条第3項第2号で「使用」そのものに当たるためです。第2号が定めるのは「譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為」です。
  • 第2号〜第7号は、すべて目的の文言つきです。単に「所持している」だけでは足りず、「譲渡…のために」「使用をするために」等の目的が条文上必要です。
  • 「業として」「のみ」の語があるのは第8号だけです。第8号には逆に、目的の文言がありません。
  • 第5号(自分が使用)と第6号(他人に使用させる)、第3号(自分が提供)と第4号(他人に提供させる)は対になっています。第7号は「使用をし、又は使用をさせるために」と両方をカバーします。
  • 第8号の行為に「所持」はありません。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):第37条は何のための規定か逐条解説〔第22版〕は、第37条について、本来的な商標権(指定商品又は指定役務について登録商標の使用を専有する権利=第25条)の侵害を類似の商品及び商標に拡大するとともに、その予備的行為を侵害そのものとみなして、商標権の保護に万全を期そうとするものだと説明しています。その理由として、産業財産権は侵害が行われやすく、その中でも特に商標権は侵害されやすいため、登録商標に化体された信用の喪失を招きやすいうえ、その回復も容易でないことを挙げています。また、第1号は第2号以下とニュアンスに差があるとして、第2号以下は何らかの意味で侵害と関係付けられる目的を構成要件とし、この目的がない限り可罰行為とはならないのに対し、第1号は目的を必要としない、と説明しています(第1号は、第25条の権利と類似関係にある範囲についての、いわゆる禁止権の規定だと位置づけられています)。
逐条解説〔第22版〕商標法第37条の解説1684頁〜1685頁。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):「商標を表示する物」「製造するためにのみ用いる物」の例逐条解説〔第22版〕は、第4号の説明のなかで、侵害する商標を表示する物の例としてラベル・包装紙等を挙げています。第8号については、登録商標又はこれに類似する商標を表示する物以外の物の製造ができない物、例えば商標印刷用の紙型等を業として製造・譲渡・引渡し・輸入する行為であり、いわば予備行為の予備行為だと説明しています。そのうえで、第8号はやや広過ぎるかもしれないが、商標権の保護に万全を期するためにはこの程度の保護が必要だと考えられた、と述べています。また、第6号について、ある人が自ら使用をする目的で譲り受けたときは直ちに第5号に該当すること、第7号について、他人に委託して製造させる場合に、その他人が事情を知らないで単なる受託者として製造するときは委託者が第7号に該当し、製造人はその手足として働くにすぎないことを説明しています。
逐条解説〔第22版〕商標法第37条の解説1686頁〜1687頁。
第37条第2〜7号に「業として」の文字がなくても、商標の定義(第2条第1項)と各号の目的・対象の条件を外して読むことはできません。令和3年改正解説は、事業を行っていない者が使う標章は商標法上の「商標」に該当せず、その者の輸入等も商標権侵害に当たらないと説明しています。各号の販売・使用などの目的も必要です。令和3年改正解説117頁

4. 特許法第101条との構造のちがい ― 「のみ」「知りながら」を原文で比べる

特許法第101条(いわゆる間接侵害。講学上の呼称)は、詳細を特許法シリーズの記事にゆずり、ここでは構造のちがいだけを原文で比べます。

特許法第101条第1号・第2号・第3号(原文) 第1号 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
第2号 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
第3号 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。第4号〜第6号は方法の発明・物を生産する方法の発明について同じ型の規定。
比べる点特許法第101条商標法第37条
型の数3つの型:「にのみ用いる物」型(第1号・第4号)/「不可欠なもの」+「知りながら」型(第2号・第5号)/所持型(第3号・第6号)類似範囲の使用(第1号)/目的つきの所持・譲渡・製造・輸入(第2号〜第7号)/「ためにのみ用いる物」型(第8号)
「のみ」第1号・第4号にある第8号だけにある
「知りながら」第2号・第5号にあるどの号にもない(かわりに第2号〜第7号は「…のために」という目的の文言)
「日本国内において広く一般に流通しているものを除く」第2号・第5号にあるどの号にもない
「業として」第1号〜第6号のすべてにある(第3号・第6号は「業としての譲渡等」)第8号だけにある
所持第3号・第6号「業としての譲渡等又は輸出のために所持」第2号「譲渡、引渡し又は輸出のために所持」。第3号〜第6号にも所持がある
類似範囲での実施・使用規定なし(特許権に「類似」の概念がない)第1号で侵害とみなす
「譲渡等の申出」ある第37条にはこの語はない

〔表7〕特許法第101条と商標法第37条の構造比較(両条のe-Gov原文を本記事作成者が対比。2026年9月参照)。

ポイント:商標法第37条は「特許法第101条の商標版」と一言でまとめられがちですが、条文の作りはかなりちがいます。商標法には「課題の解決に不可欠なもの」「知りながら」の型がなく、予備的な行為を目的の文言でしぼる型が中心です。逆に、特許法には類似範囲という発想がありません。

5. 「輸入」と第2条第7項

第37条第3号・第4号・第7号・第8号には「輸入」の語があります。商標法第2条第7項は、この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。と定めています(令和3年法律第42号で新設。→#1)。「この法律において」とあるので、第2条第3項第2号の「輸入」だけでなく、第37条各号の「輸入」にもこの定義が及びます(条文上の帰結)。

「輸入」が出てくる場所輸入されるもの位置づけ
第2条第3項第2号商標を付した商品「使用」そのもの(第25条・第37条第1号の問題)
第37条第3号・第4号役務の提供を受ける者の利用に供する物に商標を付したもの侵害とみなす行為
第37条第7号商標を表示する物侵害とみなす行為
第37条第8号商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物侵害とみなす行為

〔表8〕商標法の「輸入」と第2条第7項が及ぶ場面(本記事作成者が整理)。

この改正は2022年10月1日に施行されました。海外の事業者が運送業者等に依頼して模倣品を国内に持ち込む行為も「輸入」に含まれます。国内の個人が自分で使う目的で受け取る行為自体を新たに商標権侵害とするものではありませんが、その荷物は海外事業者の侵害行為に係る物品として税関の取締り対象となります。特許庁の改正説明

6. 防護標章の「侵害とみなす行為」(第67条)とのちがい

登録防護標章についても、商標法第67条が「侵害とみなす行為」を定めています(詳細は#13)。第37条と並べると、次のちがいがあります。

比べる点商標法第37条商標法第67条
号の数第1号〜第8号第1号〜第7号
第1号類似範囲での使用「指定商品又は指定役務についての登録防護標章の使用」
「類似」の語各号に「これに類似する商標」「類似する商品」等確認した第1号・第2号・第7号には「類似」の語なし
「製造するためにのみ用いる物」の号第8号にある対応する号なし(第7号まで)

〔表9〕商標法第37条と第67条の比較(e-Gov原文、2026年9月参照。第67条第3号〜第6号も各号の行為・目的に限定される)。

7. 侵害の成否の判断枠組み

形式的に第25条または第37条に当たる行為でも、ほかの条文や判例により侵害が否定される場合があります。下の図は、条文と既刊記事の内容を、考える順番の一例として並べたものです。この順番自体は条文や判例が定めたものではありません。

flowchart TB
  S["相手の行為"] --> A{"商標が登録商標と
同一 又は 類似か
かつ 商品・役務が
同一 又は 類似か"} A -- "はい" --> B{"行為は
使用(第2条第3項)か
第37条第2号〜第8号の行為か"} A -- "いいえ" --> N1["第25条・第37条に当たらない"] B -- "当たる" --> C{"第26条の場面か
例:第26条第1項第6号
いわゆる商標的使用でない"} B -- "どちらでもない" --> N1 C -- "はい" --> N2["商標権の効力が及ばない"] C -- "いいえ" --> D{"相手に使用の権原があるか
使用権・先使用による
使用をする権利 等"} D -- "はい" --> N3["侵害にならない"] D -- "いいえ" --> E{"権利行使が制限されるか
第39条で準用する
特許法第104条の3 等"} E -- "はい" --> N4["権利行使できない"] E -- "いいえ" --> F{"真正商品の並行輸入として
実質的違法性を欠くか"} F -- "はい" --> N5["侵害としての
実質的違法性を欠く"] F -- "いいえ" --> G["侵害 → 第36条の差止請求"] style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N4 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N5 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:差止請求が認められない方向の結論
  • 赤の箱:侵害となり第36条の差止請求ができる結論

【図6】侵害の成否を考える順番の一例(条文・判例を整理して本記事作成者がフロー化したもの。検討の順番は便宜上のもので、実際の訴訟での主張・立証の順序を示すものではありません)。

検討事項根拠くわしい記事
商標・商品役務の同一・類似商標法第25条、第37条第1号、第70条#24、#7、#27
「使用」に当たるか商標法第2条第3項・第4項#1
いわゆる商標的使用(実務上の呼称)でない場合ほか、効力が及ばない範囲商標法第26条(第1項第6号ほか)#25
使用権、先使用による商標の使用をする権利、中用権 等商標法第30条、第31条、第32条、第33条 等#31、#32、#33
無効理由がある場合等の権利行使の制限商標法第39条で準用する特許法第104条の3第1項・第2項#35
真正商品の並行輸入最高裁判所第一小法廷 平成15年2月27日判決(次節)本記事 第8節

〔表10〕侵害の成否に関係する主な検討事項と参照先(網羅的ではありません。例外あり)。

8. 真正商品の並行輸入 ― 通称フレッドペリー事件

外国で適法に商標が付された本物の商品を、日本の商標権者の許諾なく輸入する行為(いわゆる並行輸入)は、形式的には商標法第2条第3項第2号の「輸入」に当たります。これについて最高裁判所は、一定の場合に侵害としての実質的違法性を欠くと判断しました。事件名の「フレッドペリー事件」は通称です。

最高裁判所第一小法廷 平成15年2月27日判決(平成14年(受)第1100号、民集57巻2号125頁)裁判要旨1 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,(3) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く。
出典:裁判所ウェブサイト 裁判例結果詳細(事件名:損害賠償,商標権侵害差止等請求事件)、2026年9月参照。
要件裁判要旨の文言(要約)キーワード
(1)商標が、外国における商標権者又はその使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること適法に付された
(2)外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人、又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得る関係にあり、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示すること出所の同一
(3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に品質管理を行い得る立場にあり、登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価されること品質の実質的同一

〔表11〕通称フレッドペリー事件の3つの要件(裁判要旨1を本記事作成者が要約。「キーワード」は本記事での見出しで、判決の用語ではありません)。

flowchart TB
  A["登録商標と同一の商標を
付された 指定商品と同一の
商品の輸入"] --> B{"(1) 適法に
付されたか"} B -- "はい" --> C{"(2) 同一の出所を
表示するか"} B -- "いいえ" --> X["実質的違法性を
欠くとはいえない"] C -- "はい" --> D{"(3) 保証する品質に
実質的差異がないか"} C -- "いいえ" --> X D -- "はい" --> O["真正商品の並行輸入として
実質的違法性を欠く"] D -- "いいえ" --> X style O fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠く結論
  • 赤の箱:実質的違法性を欠くとはいえない結論

【図7】通称フレッドペリー事件の3要件の当てはめの流れ(裁判要旨1を本記事作成者がフロー化したもの)。

同判決は、事案については、被許諾者が、製造等を許諾する国を制限し商標権者の同意のない下請製造を制限する旨の使用許諾契約の条項に違反して、商標権者の同意なく、許諾されていない国にある工場に下請製造させ商標を付したなど判示の事情の下では、真正商品の並行輸入として違法性を欠く場合に当たらない、としました(裁判要旨2)。結論は上告棄却です。

射程についての注意:裁判要旨1は、「指定商品と同一の商品」に「登録商標と同一の商標」を付されたものの「輸入」について述べています。類似範囲の場合や、第37条第2号以下の行為にこの考え方がどう及ぶかは、裁判要旨からは直接には分かりません。

9. 刑事罰の概要(第78条・第78条の2・第82条)

条文対象法定刑(原文の数値)
商標法第78条(侵害の罪)「商標権又は専用使用権を侵害した者(第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)」「十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」
商標法第78条の2「第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者」「五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」
商標法第82条第1項第1号(両罰規定)法人の代表者、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が、業務に関し第78条・第78条の2等の違反行為をしたときの、その法人「三億円以下の罰金刑」(人に対しては各本条の罰金刑)

〔表12〕商標権侵害の罰則の概要(出典:e-Gov法令検索の商標法第78条・第78条の2・第82条第1項、2026年9月参照。罰則の詳細は本記事のスコープ外)。

10. 拒絶理由・異議理由・無効理由との関係

規定第36条・第37条は該当するか補足
拒絶理由(商標法第15条)非該当第36条・第37条は、登録後の権利行使に関する規定で、登録の可否を決める規定ではありません。逆向きの関係として、商標登録に無効理由があるときは、第39条で準用する特許法第104条の3により権利行使が制限される場合があります(→#35)。除斥期間(第47条)経過後の取扱いは、#35・#41および通称エマックス事件(最高裁判所第三小法廷 平成29年2月28日判決、平成27年(受)第1876号)を参照。
異議理由(商標法第43条の2)非該当
無効理由(商標法第46条第1項)非該当
除斥期間(商標法第47条)非該当

〔表13〕商標法第36条・第37条と拒絶・異議・無効理由の対応。

なお、商標法第70条第3項は、第37条第1号の「登録商標に類似する商標」には、色彩を登録商標と同一にすれば登録商標と同一と認められる商標を「含まないものとする」と定めています(→#27)。そのような色ちがいの商標の使用は、第70条第1項により第25条の「登録商標」の使用の側であつかわれます。

11. 四法比較 ― 差止請求権・侵害とみなす行為・罰則

比べる点特許法実用新案法意匠法商標法
差止請求権特許法第100条実用新案法第27条意匠法第37条商標法第36条
第1項の型四法とも同じ型:「侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」
第2項「侵害の行為を組成した物」のかっこ書等「(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。…)」「(プログラム等…を含む。以下同じ。)」「物品、建築物若しくは画像(…)若しくは…一般画像記録媒体等…又はプログラム等…」と列挙かっこ書なし。「侵害の行為を組成した物」
権利行使前の警告の規定―実用新案法第29条の2(実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ権利を行使できない)意匠法第37条第3項(秘密意匠は、所定の書面を提示して警告した後でなければ第1項の請求ができない)―(第36条に警告を前提とする項はない)
侵害とみなす行為特許法第101条(第1号〜第6号)実用新案法第28条(第1号〜第3号)意匠法第38条(第1号〜第9号)商標法第37条(第1号〜第8号)
「にのみ用いる」型○○○○(第8号。「ためにのみ用いる物」)
「不可欠」+「知りながら」型○○○(「視覚を通じた美感の創出に不可欠なもの」)―
所持型○(譲渡等又は輸出のため)○(譲渡、貸渡し又は輸出のため)○(第3号。建築物は「所有」(第6号)、画像は「保有」(第9号))○(第2号〜第6号)
類似範囲を「みなす」規定―――(意匠権の効力自体が類似する意匠に及ぶ。→意匠法第23条の記事)○(第1号)
侵害の罪特許法第196条:10年以下の拘禁刑・1000万円以下の罰金(第101条の行為を除く)/第196条の2:5年以下・500万円以下実用新案法第56条:5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金意匠法第69条:10年以下・1000万円以下(第38条の行為を除く)/第69条の2:5年以下・500万円以下商標法第78条:10年以下・1000万円以下(第37条・第67条の行為を除く)/第78条の2:5年以下・500万円以下

〔表14〕四法の差止請求権・侵害とみなす行為・侵害の罪の比較(各法のe-Gov原文を本記事作成者が要約して対比。罰則はいずれも「又はこれを併科する」。数値はe-Gov法令検索、2026年9月参照)。

12. 改正の経緯(確認できた範囲)

改正内容確認できた資料
平成18年法律第55号商標法第2条第3項第2号の「使用」に「輸出し」を追加(→#1)特許庁「平成18年法律改正(平成18年法律第55号)解説書」第4部第1章 産業財産権の効力の拡大(#1で確認)
令和3年法律第42号商標法第2条第7項(輸入する行為)の新設。第37条各号の「輸入」にも及ぶ特許庁ウェブサイト「海外からの模倣品流入への規制強化について」(#1で確認)

〔表15〕商標法第36条・第37条に関係する改正のうち、一次資料で確認できたもの。

改正の経緯(逐条解説〔第22版〕):第37条各号の沿革逐条解説〔第22版〕は、商標法第37条各号の沿革について次のように説明しています。第2号の輸出目的の所持は、平成18年の一部改正で使用行為に「輸出」を追加したことに伴って追加されたものです。第3号・第4号は平成3年の一部改正で新設されたもので、これに伴い改正前の第3号・第4号が第5号・第6号に繰り下がりました。第5号〜第8号は、平成3年の一部改正前の第3号〜第6号の文言中、商品の類似についての部分を、指定役務およびこれらに類似する商品・役務を含む形に改めたもので、これにより改正前の第3号〜第6号に列記する行為が役務に係る商標においても適用されることとなった、と説明されています。第1号については、平成3年の一部改正で、役務に係る登録商標の類似範囲での使用を権利侵害とみなし差止請求権等を認める規定を設けたこと、さらに商品に係る商標と役務に係る商標との間にも類似関係を認めたことにより、相互に禁止権が拡大した、と説明しています。第4号に、役務を提供させるために、および譲渡若しくは引渡しのために、という文言が加えられているのは、改正前の第3号〜第5号が、侵害する商標を表示する物について、使用をするために又は使用をさせるために、ということを要件とし、他人に使用させる場合をも侵害の対象としている点に倣ったものだとされています。
逐条解説〔第22版〕商標法第37条の解説1685頁〜1687頁。改正の法律番号は青本掲記の改正沿革(平成3年法律第65号、平成18年法律第55号)による。
輸出を権利保護の対象に加える平成18年法律第55号の改正は、2007年1月1日に施行されました。現在の罰則は拘禁刑を用い、第78条は10年以下又は1,000万円以下の罰金等、第78条の2は5年以下又は500万円以下の罰金等を定めています。拘禁刑への変更の施行日は2025年6月1日です。特許庁の施行説明/現行罰則/法務省の施行説明

試験での問われ方

短答式では、第37条各号の文言(目的の文言の有無、「所持」「輸入」の有無、「のみ」「業として」の位置)を正確に覚えているかが問われやすい形式の条文です。論文式では、侵害の成否を検討する問題の中で、第25条・第37条第1号・第26条・第36条を組み合わせて論じる形が考えられます。いずれも出題を断定するものではありません。

問5は第37条の列挙を問う問題で、正解は1(誤りは1つ)です。肢ホの「専用品を譲渡するために所持」は第8号の製造・譲渡・引渡し・輸入には列挙されていません。 公式問題/公式正解。肢の説明は条文による検証であり、公式解答が公表するのは問題全体の正解番号です。
Q1. 登録商標に類似する商標を付した、指定商品に類似する商品を、自宅の倉庫に置いているだけで、商標法第37条第2号に当たりますか。
A. 条文上、第2号は「譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為」です。目的の文言があるので、「所持している」という事実だけでは足りず、譲渡・引渡し・輸出のためであることが必要です。
Q2. 商標法第37条には、特許法第101条第2号のような「知りながら」の要件がありますか。
A. 商標法第37条のどの号にも「知りながら」の文言はありません。第2号〜第7号は「…のために」という目的の文言で、第8号は「のみ」「業として」の文言で範囲をしぼっています。
Q3. 登録商標に類似する商標を指定商品に使用した者は、商標法第78条(10年以下の拘禁刑等)の対象ですか。
A. 類似する商標の使用は商標法第37条第1号により侵害とみなされる行為です。第78条はかっこ書で第37条の行為を行った者を除いているので、条文上は第78条の2(5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科)の対象です(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。
Q4. 商標を付した商品を「輸入のために所持する行為」は、第37条第2号に書かれていますか。
A. 書かれていません。第2号の目的は「譲渡、引渡し又は輸出のために」です。商標を付した商品を輸入する行為そのものは、第2条第3項第2号の「使用」に当たります。
レベル3のまとめ
  • 第36条の主体は「商標権者又は専用使用権者」。相手方の故意・過失の文言はない。第2項は「前項の規定による請求をするに際し」。
  • 「侵害」は、第25条の範囲の使用/第37条第1号(類似範囲の使用)/第37条第2号〜第8号(使用の手前)の3層で整理できる(本記事の整理)。罰則は第1層が第78条、第2・第3層が第78条の2。
  • 第37条第2号〜第7号は目的の文言つき。「のみ」「業として」は第8号だけ。「知りながら」はどの号にもない。特許法第101条とは型がちがう。
  • 第2条第7項の「輸入」の定義は「この法律において」なので第37条の「輸入」にも及ぶ。
  • 形式的に侵害に当たっても、第26条、使用の権原、第39条(特許法第104条の3準用)、真正商品の並行輸入(通称フレッドペリー事件の3要件)により否定される場合がある。
  • 第67条(防護標章)には第37条第8号に対応する号がない。

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