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小学生でも分かる商標法|商標法第25条・第37条第1号 商標権の効力 ― 「自分だけが使える範囲」と「他人を止められる範囲」はちがう

小学生でもわかる商標法 第24回「商標権の効力」。使える範囲と止められる範囲。

小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #24

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商標権(しょうひょうけん)をもつ人は、登録した目じるしを、決めた商品について自分だけが使えます。さらに、よく似た目じるしを他人が使うのを止めることもできます。でも、この2つの範囲は同じ広さではありません。この記事では、「自分だけが使える範囲」と「他人を止められる範囲」のちがいを、4マスの図でつかみます。

条文:商標法第25条、第37条第1号(関連:第70条)審査基準:商標審査基準〔改訂第17版〕に本条の独立項目なし(類否は 第3 十 第4条第1項第11号)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「ほしぞらパン」を登録すると、何ができる?

町に「ほしぞらパン」というパン屋さんがあるとします(架空のお店です)。お店の人は、「ほしぞらパン」という名前を、パンという商品の目じるしとして、国の役所(特許庁=とっきょちょう)に登録しました。お店や商品の目じるしのことを、法律では商標(しょうひょう)といいます。登録してもらうと、商標権(しょうひょうけん)という権利が生まれます。

商標権があると、できることが2つあります。

  • ① 自分だけが使える。「ほしぞらパン」という名前を、パンに使えるのは、このお店だけです。
  • ② 他人を止められる。ほかの人がまぎらわしい名前を使っていたら、「やめてください」と言えます。

ここで大事なのは、①と②では、とどく範囲(はんい)の広さがちがうということです。

4マスの図で見てみよう

名前が「同じ」か「にている」か。商品が「同じ」か「にている」か。この2つを組み合わせると、4つのマスができます。ここでは、「ほしそらパン」は「ほしぞらパン」ににている名前、「おかし」はパンににている商品だと、仮に決めて話を進めます(本当ににているかどうかは、決まった考え方で判断します→レベル3)。

「ほしぞらパン」(商品:パン)を登録したとき(架空の例) 商品が同じ パン 商品がにている おかし(にていると仮に決める) 名前が同じ 「ほしぞらパン」 名前がにている 「ほしそらパン」 ◎ 自分だけが使える + 他人を止められる ここだけが「使える」マス △ 他人を止められるだけ 自分だけが使える、とは決まっていない △ 他人を止められるだけ 自分だけが使える、とは決まっていない △ 他人を止められるだけ 自分だけが使える、とは決まっていない 4マスの外(名前も商品もにていない)は、この商標権ではとどかない

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:たて・よこの見出し(名前がどうか、商品がどうか)
  • 橙の太い枠:自分だけが使えるマス(他人も止められる)
  • 赤の枠:他人を止められるだけのマス

【図1】商標権の4マス図。「自分だけが使える」のは左上の1マスだけ。「他人を止められる」のは4マス全部。店名・商品の関係は架空の例で、本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

二重の輪で考える

4マスの図を、二重の輪にかきなおしてみます。内がわの輪は「自分だけが使える場所」。外がわの輪は「他人が入ってきたら止められる場所」です。家にたとえると、内がわは自分の家、外がわは「立入禁止のさく」で囲った空き地のようなものです。空き地は、他人が入るのを止められますが、「そこは自分だけの土地だ」と法律が決めてくれているわけではありません。

同じ名前を 同じ商品に にている名前・にている商品 内がわの輪 自分だけが使える + 他人を止められる (受験生の言葉では「専用権」→レベル2) 外がわの輪 他人を止められるだけ (受験生の言葉では「禁止権」→レベル2) 輪の外:この商標権ではとどかない

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の実線の輪・枠:内がわの輪=自分だけが使える範囲
  • 赤の破線の輪・赤の枠:外がわの輪=他人を止められるだけの範囲

【図2】二重の輪の模式図。内がわ=自分だけが使える範囲、外がわ=他人を止められるだけの範囲。本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

なぜ外がわの輪があるの?

もし止められるのが「まったく同じ名前を、まったく同じ商品に使う」場合だけだったら、どうなるでしょう。だれかが一文字だけ変えた「ほしそらパン」でパンを売りはじめても、止められません。お客さんは、まちがえて買ってしまうかもしれません。それでは、目じるしを登録した意味がなくなってしまいます。だから、まぎらわしい範囲まで、他人を止められるようになっています。

では、なぜ外がわの輪は「自分だけが使える」にならないのでしょう。よくされる説明は、こうです。外がわの輪は、ほかのお店の輪と重なることがあります。重なったところを両方のお店が「自分だけのもの」と言いだしたら、けんかになります。じっさいに法律は、「自分だけが使える」と決める場所を、内がわの輪だけにしています(理由の説明は、わかりやすくするための一般的なものです→レベル3)。

場所自分で使う他人が使っていたら
内がわの輪(同じ名前 × 同じ商品)自分だけが使えると、法律が決めている止められる
外がわの輪(名前か商品が「にている」)自分だけが使えるとは、決められていない。ほかのお店の権利にぶつかることもある止められる
輪の外(名前も商品もにていない)この商標権とは関係なしこの商標権では止められない

〔表1〕3つの場所と、できること。

① 使えるのは1マス② 止められるのは4マス③ 外がわの輪は、ほかの人の輪と重なることがある
レベル1のまとめ
  • 商標権があると、「同じ名前を同じ商品に使うこと」は自分だけのものになる。
  • 「にている名前」「にている商品」の範囲は、他人を止められるだけ。
  • 止められる範囲を広くしているのは、お客さんがまちがえないようにするため。

※ 「にている」かどうかの決め方、色だけがちがう名前のあつかい、権利を人に貸したとき、止められない場合(ふつうの名前として使う場合など)は、正確には条件があります(→レベル3)。「商品」と書いたところは、サービス(法律の言葉で役務=えきむ)でも同じです。

LEVEL 2条文の骨格

第25条 ― 「使用をする権利を専有する」

商標法第25条(商標権の効力)(原文) 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

「専有(せんゆう)する」とは、ひとりじめにする、という意味です。条文をよく見ると、ひとりじめにできるのは「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」です。「類似する」という言葉は、どこにも出てきません。つまり、第25条がカバーするのは図1の左上の1マスだけです。

部品文言意味
だれが商標権者は商標権をもっている人
どの商品・サービスに指定商品又は指定役務について出願のときに指定した商品・サービス(「類似する商品」は入っていない)
どの商標を登録商標の登録を受けた商標そのもの(「類似する商標」は入っていない。色彩だけがちがうものは第70条第1項→レベル3)
どうする権利を使用をする権利を「使用」の中身は商標法第2条第3項が決めている
どうなる専有するひとりじめにする
例外(ただし書)専用使用権を設定したときは…この限りでない専用使用権者がひとりじめにする範囲では、商標権者もひとりじめにしない

〔表2〕商標法第25条の部品分解。

第37条第1号 ― 「類似」の範囲は「侵害するものとみなす」

商標法第37条 柱書・第1号(侵害とみなす行為)(原文) 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。第2号から第8号までは別記事(#34)。

第1号は長い一文ですが、「又は」で前半と後半に分かれます。分けると、図1の残り3マスがちょうど出てきます。

第1号の部分文言商標商品・役務図1のマス
前半指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用類似同一左下
後半指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用同一類似右上
類似類似右下

〔表3〕商標法第37条第1号の分解(「前半」「後半」は本記事での呼び方)。

商標の同一・類似 × 商品役務の同一・類似 指定商品・指定役務(同一) 類似する商品・役務 登録商標 (同一) 類似する商標 第25条 使用をする権利を専有 講学上「専用権」 色彩のみ異なるものを含む(第70条第1項) 第37条第1号(後半) 侵害するものとみなす 講学上「禁止権」 第37条第1号(前半) 侵害するものとみなす 講学上「禁止権」 第37条第1号(後半) 侵害するものとみなす 講学上「禁止権」

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:たて・よこの見出し(商標/商品・役務の同一・類似)
  • 橙の太い枠:商標法第25条の範囲(講学上の専用権)
  • 赤の枠:商標法第37条第1号の範囲(講学上の禁止権)

【図3】条文版の4マス図。本記事作成者が商標法第25条・第37条第1号・第70条第1項を整理して図にしたもの。

「専用権」「禁止権」は条文の言葉ではない

受験勉強では、第25条の範囲を専用権、第37条第1号の範囲を禁止権と呼ぶのがふつうです。ただし、どちらも講学上の呼称(学習や解説のための呼び名)で、商標法の条文には「専用権」「禁止権」という言葉は出てきません。答案や口述では、呼び名だけでなく、条文の言葉(「使用をする権利を専有する」「侵害するものとみなす」)で説明できるようにしておくと安全です。

flowchart TB
  A["商標登録
登録商標と指定商品・指定役務が決まる"] --> B["商標法第25条
指定商品・指定役務について
登録商標の使用をする権利を専有"] A --> C["商標法第37条第1号
類似の範囲での他人の使用を
侵害するものとみなす"] B --> D["講学上の専用権
自分が使える+他人を排除できる"] C --> E["講学上の禁止権
他人を排除できるだけ"] D --> F["商標法第36条 差止請求など"] E --> F style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:商標法第25条から生まれる範囲(講学上の専用権)
  • 赤の箱:商標法第37条第1号から生まれる範囲(講学上の禁止権)
  • ※この図の緑・赤:専用権と禁止権の区別を表すもので、結論の可否(できる・できない)を表すものではありません

【図4】2つの条文から2つの範囲が生まれる流れ。本記事作成者が条文を整理してフロー化したもの。

条・項・号役割
商標法第25条 本文指定商品・指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する(講学上の専用権)
商標法第25条 ただし書専用使用権を設定した範囲では、商標権者は専有しない
商標法第37条 柱書各号の行為を、商標権又は専用使用権を「侵害するものとみなす」
商標法第37条第1号類似の範囲(3マス)での商標の使用(講学上の禁止権)
商標法第70条第1項第25条などの「登録商標」には、色彩だけが異なる類似商標を含む
商標法第70条第3項第37条第1号・第51条第1項の「登録商標に類似する商標」からは、その色彩だけが異なる商標を除く
商標法第70条第4項色彩のみからなる登録商標には、第70条第1項から第3項までを適用しない

〔表4〕項・号ごとの役割一覧。

レベル2のまとめ
  • 第25条が「専有する」と定めるのは、指定商品・指定役務 × 登録商標の1マスだけ。
  • 残り3マスは、第37条第1号が「侵害するものとみなす」と定める。商標権者が「専有する」とは書かれていない。
  • 「専用権」「禁止権」は講学上の呼称。条文の言葉ではない。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 専用権と禁止権の対比

レベル2で見たとおり、第25条は同一の範囲についてだけ「使用をする権利を専有する」と定め、類似の範囲について商標権者に使用をする権利を与える規定は置かれていません。ここから、次の対比が条文上導かれます。

項目専用権(講学上の呼称)禁止権(講学上の呼称)
根拠条文商標法第25条商標法第37条第1号
範囲指定商品・指定役務についての登録商標(色彩のみ異なるものを含む:第70条第1項)商標又は商品・役務のどちらか一方でも「類似」になる範囲(3マス)
条文の効果「使用をする権利を専有する」他人の使用を「侵害するものとみなす」
商標権者自身の使用権利として使用できる(ただし第29条などの制限あり)使用する権利を専有しない。他人の権利と抵触し得る。故意に混同等を生じさせると第51条第1項の対象
他人の使用の排除できる(第36条など)できる(第36条など)
使用権の設定第30条第2項・第31条第2項は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」と定める条文上、類似範囲について使用権を定める文言はない
刑事罰第78条:10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金、又は併科第78条の2:5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科(第78条の括弧書で第37条の行為は第78条から除かれる)

〔表5〕専用権と禁止権の対比。刑事罰の数値は商標法第78条・第78条の2(e-Gov法令検索、2026年9月参照)による。

ポイント:民事上は、第25条の範囲での使用も第37条第1号の使用も、どちらも「商標権…を侵害する」ものとして第36条の差止請求の対象になります。ちがいが条文に表れるのは、①商標権者自身が使えるか、②刑事罰の重さ、の2点です。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』は、第25条について、商標権者は指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利と、他人のその使用を禁止・排除する権利とをもつと説明しています(第26条・第29条等による制限は別であるとしています)。そして、これに加えて第37条第1号により、他人が類似範囲で商標の使用をすることを禁止・排除する権利をもつとし、この類似範囲は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をする権利という商標権の核心をなす部分を防護する機能をもつもので禁止権といわれる、と述べています。同書は、禁止権の効力は他人のその部分の使用を禁止・排除し得るだけで、積極的にその部分を使用する法律上の保護は何ら与えられていない、としています。そのうえで、他人の権利によって制限されない限り商標権者がその部分を事実上使用するのは自由であるが、その範囲が商標権同士相互に重なり合ったり、他人の著作権・著作隣接権・特許権・意匠権等と抵触したりした場合には使用はできず、使用をすれば権利侵害となる、と説明しています。さらに、意匠権が類似範囲を含めて一体として構成されているのと著しい対照をなすとし、商標法を意匠法と同様にすると商品又は役務の出所の混同を生ずる場合が多く、権利相互間の調整規定が複雑になるので異なる構成をとった、と述べています。
第37条については、同書は、本来的な商標権(第25条)の侵害を類似の商品及び商標に拡大するとともに、その予備的行為を侵害そのものとみなして商標権の保護に万全を期そうとするものであると説明し、商標権は特に侵害されやすく、登録商標に化体された信用の喪失を招きやすいうえにその回復も容易でないことから、禁止権を第25条の権利以上に拡大させている、としています。また、第1号は、第2号以下が予備的な行為の色彩をもつのに対して商標権の本来的な侵害と考えられる点で差があり、第2号以下と異なり目的を構成要件としない、とも述べています。
出典:逐条解説〔第22版〕1645頁〜1646頁(第25条)、1684頁〜1685頁(第37条)。

2. 「類似」はどう決めるか(概要のみ)

第37条第1号の「類似」の判断方法を直接定めた条文はありません。登録の場面(商標法第4条第1項第11号)について、特許庁の審査基準は次のように述べています。

  • 商標の類否:商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し…(商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十 第4条第1項第11号)
  • 商品・役務の類否:同一又は類似の商標を使用するときに同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断する(同上)

判例では、通称「氷山印事件」(最高裁判所第三小法廷 昭和43年2月27日判決、昭和39年(行ツ)第110号。登録出願の拒絶をめぐる事件)が、商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるとし、外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、取引の実情を明らかにしうるかぎり具体的な取引状況に基づいて判断すべき旨を述べています。

侵害事件の例では、最高裁平成9年3月11日判決(小僧寿し事件)が、外観・観念・称呼から生じる印象等を全体的に考察し、明らかにできる取引の実情も踏まえて類否を判断するとしています。見た目・呼び方・意味のどれか一つが似ているだけで、必ず類似になるわけではありません。同判決は類似商標を排他的に使用する権能と、他人の類似商標の使用を禁止する権能も区別しています。判決5〜6頁。

3. 他人の使用が第25条・第37条第1号に当たるかの判断手順

flowchart TB
  A["他人が商標を使用している"] --> B{"商標は登録商標と同一か
色彩のみ異なるものは同一に含む
第70条第1項"} B -- "同一" --> C{"商品・役務は
指定商品・指定役務と同一か"} C -- "同一" --> D["第25条の範囲
商標権の侵害"] C -- "同一でない" --> E{"商品・役務は類似か"} E -- "類似" --> F["第37条第1号 後半
侵害するものとみなす"] E -- "非類似" --> G["第25条にも第37条第1号にも
当たらない"] B -- "同一でない" --> H{"商標は類似か"} H -- "類似" --> I{"商品・役務は
同一又は類似か"} H -- "非類似" --> G I -- "同一" --> J["第37条第1号 前半
侵害するものとみなす"] I -- "類似" --> F I -- "非類似" --> G style D fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style J fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:第25条にも第37条第1号にも当たらない結論
  • 赤の箱:第25条の侵害、又は第37条第1号で侵害とみなされる結論

【図5】第25条・第37条第1号の当てはめの分岐図。本記事作成者が条文を整理してフロー化したもの。使用権などの権原がある場合、商標権の効力が及ばない場合(第26条)、いわゆる商標的使用(実務上の呼称)でない場合などは、この図の後で別に検討する(例外あり)。

ポイント:図5で「当たらない」となっても、第37条第2号以下(予備的な行為)や、防護標章登録に基づく第67条が問題になる場合があります。これらは別記事です。

4. 禁止権の範囲では、商標権者も「専有」しない

禁止権の範囲は「他人を排除できる」だけで、商標権者が「使用をする権利を専有する」範囲ではありません。このことから、次の帰結が出てきます。

禁止権どうしが重なるとき(模式図) 甲の専用権 第25条 乙の専用権 第25条 甲の禁止権 乙の禁止権 重なる 部分 重なる部分は、甲も乙も「専有」していない 甲が使えば乙の禁止権にふれ、乙が使えば甲の禁止権にふれる 第三者の使用は、甲も乙も排除できる。

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑のベタ塗り:甲の専用権(第25条の範囲)
  • 青緑の破線の輪:甲の禁止権(第37条第1号の範囲)
  • 藍のベタ塗り:乙の専用権(第25条の範囲)
  • 藍の破線の輪:乙の禁止権(第37条第1号の範囲)
  • 2つの輪が重なった部分:甲の禁止権と乙の禁止権の両方が及ぶ範囲

【図6】禁止権が重なる場合の相関図(甲・乙は架空の商標権者)。本記事作成者が商標法第25条・第37条第1号から整理したもの。

関係する条文内容(条文で確認できる範囲)専用権・禁止権との関係
商標法第29条「指定商品又は指定役務についての登録商標の使用」が、使用の態様により、出願の日前の出願に係る他人の特許権・実用新案権・意匠権、又は出願の日前に生じた他人の著作権・著作隣接権と抵触するときは、抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない専用権の範囲であっても、使用できない場合があることを定める。条文の対象は「指定商品又は指定役務についての登録商標の使用」(=専用権の範囲)
商標法第51条第1項商標権者が故意に、第37条第1号と同じ類似範囲の使用であって、商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も取消審判を請求できる禁止権の範囲での商標権者自身の使用に対する制裁。専用権の範囲での使用は、条文上対象に入っていない
商標法第51条第2項取消審決の確定の日から5年を経過した後でなければ、商標権者であった者は、同一・類似の範囲で商標登録を受けることができない第15条第1号の拒絶理由に列挙されている
商標法第50条第1項継続して3年以上、各指定商品・指定役務についての「登録商標の使用」をしていないときの取消審判第70条第1項は第50条も列挙している(色彩のみ異なる商標の使用は登録商標の使用に含まれる)。詳細は別記事(#42)

〔表6〕禁止権の範囲での商標権者自身の使用に関係する条文。第51条第2項の期間は商標法第51条第2項(e-Gov法令検索、2026年9月参照)による。

flowchart TB
  A["商標権者が類似の範囲で商標を使用
第37条第1号と同じ3マス"] --> B{"故意か"} B -- "はい" --> C{"品質・質の誤認 又は
他人の業務に係る商品・役務と混同
を生ずるものか"} B -- "いいえ" --> Z["第51条第1項に当たらない"] C -- "はい" --> D["何人も取消審判を請求できる
第51条第1項"] C -- "いいえ" --> Z D --> E["取消審決の確定"] E --> F["確定の日から5年を経過するまで
同一・類似範囲で再登録不可
第51条第2項"] style Z fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:第51条第1項に当たらない結論
  • 赤の箱:取消審判の対象となる結論と、その効果

【図7】禁止権の範囲での商標権者の使用と商標法第51条。本記事作成者が条文を整理してフロー化したもの。請求できる期間の制限など、審判の詳細は別記事(例外あり)。

Q. 商標権者は、登録商標に類似する商標を使ってはいけないのですか。
A. 条文上、類似範囲での使用そのものを禁止する規定はありません。ただし、「使用をする権利を専有する」範囲ではないので、他人の商標権の禁止権・専用権と抵触すれば侵害の問題になり得ます。また、故意に混同等を生じさせる使用は、第51条第1項の取消審判の対象になります。

5. 第70条 ― 色彩のみ異なる類似商標

商標法第70条第1項・第3項・第4項(原文) 第二十五条、第二十九条、第三十条第二項、第三十一条第二項、第三十一条の二第一項、第三十四条第一項、第三十八条第一項第二号若しくは第三項から第五項まで、第五十条、第五十二条の二第一項、第五十九条第一号、第六十四条、第七十三条又は第七十四条における「登録商標」には、その登録商標に類似する商標であつて、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含むものとする。(第1項)
第三十七条第一号又は第五十一条第一項における「登録商標に類似する商標」には、その登録商標に類似する商標であつて、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含まないものとする。(第3項)
前三項の規定は、色彩のみからなる登録商標については、適用しない。(第4項)
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。第2項(登録防護標章)は省略。
場面色彩のみ異なる類似商標のあつかい根拠
第25条の「登録商標」含む → 専用権の範囲に入る第70条第1項
第37条第1号の「登録商標に類似する商標」含まない → 禁止権ではなく専用権の側で処理第70条第3項
第51条第1項の「登録商標に類似する商標」含まない → 色違いの使用は第51条第1項の対象外第70条第3項
第29条、第30条第2項、第31条第2項、第50条 など「登録商標」に含む第70条第1項
色彩のみからなる登録商標上の特則を適用しない第70条第4項

〔表7〕商標法第70条と専用権・禁止権の関係(概要)。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕・平成26年法律改正解説書):逐条解説〔第22版〕は、第70条第1項について、色彩の点を除外してみるときには同一である商標は全て「登録商標」に含まれるものとみることとしたものであるとし、色彩については、本来は禁止権の範囲にあるべき類似部分と、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をする権利(商標権の中核)とが一致するのであって、その意味でその中核が拡大していると説明しています。ただし、色彩についての同一性はあくまで類似範囲内に限られ、本項は登録商標がその全ての色彩について登録されたものとみなすわけではない、としています。第3項については、第37条第1号では、色彩が異なることによって類似となっている部分は、第25条に第1項が適用されることで既に同一の部分とみられ本来的な商標権の侵害となるから、あえて類似部分に含ませる必要がないとし、第51条第1項では、そのような特則を設けないと色違いの商標を使用しても同項の取消審判の適用を受けることとなって不都合である、と説明しています。第4項については、平成26年の一部改正で色彩のみからなる商標が保護対象に追加されたことに伴い新設された規定であり、色彩のみからなる商標に第1項から第3項までを適用すると、登録商標(登録防護標章)と同一の商標(標章)とされる範囲が過度に拡大するおそれがあることから、これを適用しないこととしたものである、としています。特許庁「平成26年 特許法等の一部改正 産業財産権法の解説」も、同じ趣旨を述べています。
出典:逐条解説〔第22版〕1866頁〜1867頁。平成26年改正解説書 第4章「商標法の保護対象の拡充等」177頁。いずれも第70条の詳細は別記事で扱います。

6. ただし書 ― 専用使用権を設定した範囲

第25条ただし書により、専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、商標権者は専有しません。第30条第2項は、専用使用権者が設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有すると定めています。第37条柱書と第36条第1項は「商標権又は専用使用権」「商標権者又は専用使用権者」と並べて規定しています。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第25条ただし書について、専用使用権を設定した範囲では商標権者といえどもその部分の使用ができなくなるとし、その理由を、専用使用権が物権的効力をもつと考えられているからであると説明しています。ただし、その商標権について第31条第4項の規定によって登録をした通常使用権を有する者は、その後も使用をすることができる、としています。
また、同書は特許法第68条の解説の中で、最高裁判所が、特許権者は専用実施権を設定したときであっても差止請求権を失わないと判示したものとして、最高裁判所平成17年6月17日判決(民集59巻5号1074頁。通称「生体高分子(リガンド分子)事件」)を挙げています。
出典:逐条解説〔第22版〕1646頁(商標法第25条)、274頁(特許法第68条)。上記の特許事件の最高裁判決は、リンク先の判決原文2頁に該当判断があります。
最高裁平成17年6月17日判決は、専用実施権設定後の特許権者にも差止請求権があると判断しました。特許法第100条第1項の文言、実施料収入や専用実施権消滅後の利益を理由としています。判決2頁。商標について同判決が直接判断したわけではありませんが、商標法第36条第1項も請求主体に商標権者を挙げています。第25条ただし書による自己使用の制限と、侵害差止請求の主体を区別して読みます。

7. 第69条との関係(概要のみ)

第69条は、指定商品又は指定役務が二以上の商標登録又は商標権について、列挙された規定の適用上、指定商品又は指定役務ごとに商標登録がされ、又は商標権があるものとみなすと定めています。列挙されているのは、第20条第4項、第33条第1項、第46条第3項、第54条、第59条、第60条などで、第25条と第37条は列挙されていません(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。専用権・禁止権の範囲は、指定商品・指定役務の一つひとつについて図3の4マスを当てはめれば足ります。

8. 登録できない範囲との対応(拒絶・異議・無効・除斥期間)

第25条と第37条第1号は、権利の効力を定める規定で、登録要件ではありません。したがって、拒絶理由・異議理由・無効理由のどれにも当たりません。関連するのは、「他人の登録商標と同一・類似の範囲は登録しない」とする第4条第1項第11号と、第51条第2項です。

条文拒絶理由(第15条)異議理由(第43条の2)無効理由(第46条第1項)除斥期間(第47条第1項)
第25条・第37条第1号非該当非該当非該当―
第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標と同一・類似)該当該当該当対象
第51条第2項(取消し後5年の再登録禁止)該当(第15条第1号に列挙)該当(第43条の2第1号)該当(第46条第1項第1号)5年の除斥期間の対象外(第47条に列挙なし)

〔表8〕登録の場面との対応表。現行第4条・第8条・第25条・第37条と対応させています。

ポイント:第4条第1項第11号が登録を排除する範囲(他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、指定商品若しくは指定役務…又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの)は、図3の4マス全体、つまり専用権+禁止権の範囲と同じ形をしています。登録の入口で4マスの重なりをできるだけ防ぎ、それでも残る重なりは図6のように処理される、という関係です(この対応関係は条文の文言を対比した整理です)。

9. 特許法・実用新案法・意匠法との比較

「専有する」範囲はどこまでか(三法の帯グラフ風の模式図) 登録されたものと同一 類似 特許法第68条 実用新案法第16条も同形 特許発明の実施を専有 「業として」の文言あり 条文に「類似」の区分なし 意匠法第23条 登録意匠及びこれに類似する意匠の実施を専有 類似まで「専有」。「業として」の文言あり 商標法第25条 +第37条第1号 登録商標の使用を専有 「業として」の文言なし 専有しない 他人の使用は侵害とみなす(第37条第1号)

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:特許法・意匠法が「専有する」と定める範囲
  • 橙の枠:商標法第25条が「専有する」と定める範囲
  • 赤の枠:「専有する」と定めていない範囲(他人の使用は第37条第1号で侵害とみなす)
  • 灰色の破線の枠:条文に「類似」の区分がない部分

【図8】特許法第68条・意匠法第23条・商標法第25条の「専有」範囲の比較。本記事作成者が各条の原文を整理して図にしたもの。

項目特許法第68条実用新案法第16条意匠法第23条商標法第25条
本文(原文)特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有する。意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
「業として」ありありありなし(第2条第1項の「商標」の定義に含まれる)
行為実施実施実施使用
類似範囲区分なし区分なし類似まで専有専有しない。第37条第1号で侵害とみなす
ただし書専用実施権を設定した範囲専用実施権を設定した範囲専用実施権を設定した範囲専用使用権を設定した範囲

〔表9〕四法の効力規定の比較。各条の原文はe-Gov法令検索(特許法 334AC0000000121、実用新案法 334AC0000000123、意匠法 334AC0000000125、商標法 334AC0000000127)、2026年9月参照。

10. 「業として」はどこへ行ったか

特許法第68条・実用新案法第16条・意匠法第23条には「業として」がありますが、商標法第25条にはありません。商標法では、「商標」の定義そのものに「業として」が入っています。

商標法第2条第1項 柱書・第1号・第2号(原文) この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
法律「業として」の置き場所効力規定の書きぶり
特許法・実用新案法・意匠法効力規定(特許法第68条、実用新案法第16条、意匠法第23条)「業として…実施をする権利を専有する」
商標法定義規定(商標法第2条第1項第1号・第2号)「登録商標の使用をする権利を専有する」「類似する商標の使用」― 「商標」という語を通じて「業として」が入る
商標法第37条第8号号の中に直接「業として」がある「…製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為」(商標の使用ではなく物の製造等を対象とする号。詳細は#34)

〔表10〕「業として」の所在。

11. 改正前/現行

2026年9月時点のe-Gov法令検索で確認した現行の第25条・第37条第1号は、上に引用したとおりです。刑事罰の「拘禁刑」は現行の文言です。

改正の経緯(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第37条第1号の現在の文言が平成3年法律第65号による一部改正によるものであるとし、同改正について、役務に係る商標を保護することをもってサービス業者の保護、あるいはサービス取引における公正な競争秩序の維持や需要者の保護を図る観点から、役務に係る登録商標の類似範囲での使用を権利侵害とみなし、その侵害行為に対して差止請求権等を認める規定を設けたものであると説明しています。さらに、商品に係る商標と役務に係る商標との間についても、商品間の類似・役務間の類似と同様に商品と役務の間の類似関係を認めることとしたので、相互に禁止権が拡大した、と述べています。第70条第4項は、平成26年法律第36号による一部改正で追加された規定です(上記5.参照)。
出典:逐条解説〔第22版〕1685頁(第37条)、1867頁(第70条第4項)。
本記事は現行の第25条と第37条第1号によって、登録商標・指定商品役務の使用と、類似範囲への侵害の扱いを区別しています。青本の改正沿革は刊行時点の説明であり、現在の条文と混同しません。2026年度試験の対象は各試験実施日の施行法です。現行第25・37条/2026年度受験案内

試験での問われ方

試験問われ方の型(一般的な整理。出題を予想するものではありません)使う条文
短答式「商標権者は、類似範囲についても使用をする権利を専有する」型の正誤/色彩のみ異なる商標が第25条・第37条第1号・第51条第1項のどちらに入るか第25条、第37条第1号、第70条第1項・第3項・第4項
論文式他人の使用が侵害に当たるかの当てはめ(図5の順)。商標権者自身の類似範囲での使用と第51条第25条、第37条第1号、第36条、第51条
口述第25条の文言、意匠法第23条とのちがい、「専用権」「禁止権」を条文の言葉で説明できるか第25条、第37条第1号、意匠法第23条

〔表11〕試験での問われ方の型(本記事作成者による一般的な整理)。

令和8年度【商標】問5は第37条の「侵害とみなす行為」を問う問題です。公式正解は1(誤り1つ)です。主に第2号以下が対象で、第1号の類似範囲の使用とは分けて読む問題です。 公式問題・公式解答。
レベル3のまとめ
  • 第25条=同一×同一の1マスだけを「専有」。第37条第1号=類似の3マスを「侵害するものとみなす」。
  • 禁止権の範囲では商標権者も専有しない。他人の権利と抵触し得るし、故意の混同等は第51条第1項の対象。
  • 色彩のみ異なる類似商標は、第70条第1項で第25条の側、第70条第3項で第37条第1号・第51条第1項から除外。色彩のみからなる登録商標には適用なし(第70条第4項)。
  • 意匠法第23条は類似まで専有。商標法第25条は同一のみ。「業として」は商標法第2条第1項の定義に入っている。
  • 刑事罰は第78条と第78条の2で重さがちがう。

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