小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #26
特許権の中身を一言でいえば「その発明を、仕事として、独り占めして使える権利」です。第68条は、たった1文でこの効力を定め、ただし書で専用実施権を設定した場合の例外を置いています。この1文の各語句が、侵害の成否を分ける出発点になります。
LEVEL 1イメージでつかむ
特許権は「使っていいのは自分だけ」という権利
特許権をとると、その発明を自分だけが使えるようになります。他の人が勝手にその発明で商品を作ったり売ったりしたら、「やめて」と言えますし、損害を賠償させることもできます。これが特許権の効力です。
ただし、「自分だけ」には条件があります。「仕事として」使う場合だけが対象です。家で趣味として作って自分で使うだけなら、特許権は及びません。
【図1】特許権の効力のイメージ。「業として」の実施を専有する。
「使う」の中身は決まっている
「使う」といっても、作る・売る・輸入する・貸すなど、いろいろあります。何が「使う」(実施)に当たるかは、第2条第3項で発明の種類ごとに決まっています(第2条の記事〔表2〕)。
- 特許権者は、その発明を「業として」独り占めして実施できる。
- 他人が業として実施すれば侵害。個人的な使用には及ばない。
※専用実施権を設定した場合の例外、効力が及ばない範囲、延長された特許権の効力などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
| 語句 | 意味 | 関連条文 |
|---|---|---|
| 特許権者 | 設定登録(第66条)を受けた者、またはその承継人(第98条) | 第66条、第98条 |
| 業として | 事業として。個人的・家庭内の実施は含まない。営利目的かどうかは問わない(特許庁逐条解説第22版274〜275頁) | ― |
| 特許発明 | 特許を受けている発明(第2条第2項)。その範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定める(第70条) | 第2条第2項、第70条 |
| 実施 | 第2条第3項各号の行為(物:生産・使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申出/方法:使用/物を生産する方法:使用+生産物の使用等) | 第2条第3項 |
| 専有する | 独占的・排他的に行える。他人の実施を排除できる(差止め:第100条、損害賠償:民法第709条・第102条) | 第100条、第102条 |
| ただし書 | 専用実施権(第77条)を設定した範囲では、特許権者自身も実施できなくなる | 第77条 |
〔表1〕第68条の語句の分解。
flowchart LR A["第68条 特許権の効力
業として特許発明の実施を専有"] --> B["第70条 技術的範囲
『特許発明』の範囲を決める"] A --> C["第2条第3項
『実施』の中身"] A --> D["第69条 効力が及ばない範囲
試験研究・通過船舶・出願時からある物・調剤"] A --> E["第72条 利用・抵触
他人の権利との関係で実施できない"] A --> F["第77条 専用実施権
設定した範囲は専用実施権者が専有(ただし書)"] A --> G["第100条・第102条
侵害への対抗手段"] style A fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F
【図2】第68条を中心とした相関図。第68条は「原則」で、周辺の条文が範囲・例外・救済を定める。
- 第68条本文:特許権者は業として特許発明の実施をする権利を専有する。
- ただし書:専用実施権を設定した範囲では、特許権者も実施できない。
- 「特許発明」の範囲は第70条、「実施」の中身は第2条第3項で決まる。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 「専有」の2つの側面
| 側面 | 内容 | 限界 |
|---|---|---|
| 積極的効力(自ら実施できる) | 特許権者は業として実施できる | 他人の特許発明を利用する場合(第72条)、専用実施権を設定した範囲(第68条ただし書)、他の法令による規制(薬事承認など)がある場合は、自らも実施できない |
| 消極的効力(他人の実施を排除できる) | 無断で業として実施する者に差止め(第100条)・損害賠償(民法第709条、第102条)・不当利得返還等を請求できる | 第69条の例外、先使用権(第79条)等の法定通常実施権、消尽、権利行使の制限(第104条の3) |
〔表2〕専有の2側面。「自分が実施できる」ことと「他人を排除できる」ことは別で、前者には他人の権利による制約がある。
2. 「業として」の意味
「業として」は、個人的・家庭的な実施を除く趣旨で、反復継続性や営利目的は必ずしも要求されないと一般に解されています。試験では「個人が家庭内で使用する行為には特許権の効力が及ばない」という形で問われます。
3. 第68条の2 ― 延長された特許権の効力
第六十七条第四項の規定により同条第一項に規定する存続期間が延長された場合(第六十七条の五第四項において準用する第六十七条の二第五項本文の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第四項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。
flowchart TB
A["処分に基づく延長(第67条第4項)で延長された期間中"] --> B{"実施している物は、延長の理由となった処分の対象となった物か
(用途も考慮。医薬品は一定の実質同一物を含む)"}
B -- "はい" --> Y["技術的範囲とその他の要件も満たせば効力が及ぶ"]
B -- "いいえ(実質同一の範囲にも入らない)" --> N["延長期間中は効力が及ばない(第68条の2)"]
style Y fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style N fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
【図3】第68条の2の分岐図。期間補償のための延長(第67条第2項)にはこの制限はない。
4. 共有の場合(第73条)
特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
2
特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
3
特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。
共有特許権では、各共有者は同意なく自己実施できますが(第2項)、持分譲渡・質権・実施権の設定には同意が必要です(第1項・第3項)。詳細は第73条の記事で扱います。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「専用実施権を設定した範囲で特許権者は実施できるか(できない)」「個人的使用に効力は及ぶか(及ばない)」「延長期間中の効力の範囲」「共有者の自己実施」 | 〔表1〕〔表2〕【図3】 |
| 論文式 | 侵害事例の冒頭で、第68条→第70条→第2条第3項→第69条等の順に当てはめる | 【図2】の順序 |
| 口述 | 「特許権の効力を述べよ」 | 第68条を原文で |
〔表3〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 専有=自ら実施できる(積極的効力)+他人を排除できる(消極的効力)。前者は第72条・第68条ただし書等で、後者は第69条・法定実施権・消尽等で制約される。
- 「業として」は個人的・家庭的実施を除く趣旨。
- 第68条の2:処分に基づく延長期間中の効力は、処分対象の物(用途)に限る。
