小学生でも分かる特許法 / D. 審判・訴訟 #47
拒絶査定不服審判は、審査の「やり直し」ではなく「続き」です。審査でした手続はそのまま効力を持ち(第158条)、審査の規定(拒絶理由通知・補正却下・特許査定)が準用され(第159条)、審判官が「もう一度審査官に見てもらうべきだ」と考えれば差し戻せます(第160条)。当事者系審判の規定は適用されません(第161条)。
LEVEL 1イメージでつかむ
「もう一度見て」は、最初からやり直しではない
拒絶査定不服審判(第121条)は、審査官の「不合格」を審判官がもう一度見直す手続でした。でも「最初から全部やり直し」ではありません。審査で出した書類、通知された拒絶理由、した補正は、そのまま審判でも生きています(第158条)。審判は審査の続きなのです。
だから審判官は、審査官と同じルール(拒絶理由を通知して反論の機会を与える、ルール違反の補正は却下する、拒絶理由がなければ特許にする)で審理します。それを定めているのが第159条の「準用」です。
【図1】審査と審判の連続性。審判は審査の続きで、審査官に差し戻すこともできる。
- 審査でした手続は審判でも生きている(第158条)。
- 審判官は審査と同じルール(通知・却下・特許査定)で審理する(第159条)。
- 審判官は審査官に差し戻すこともできる(第160条)。
※準用の「読み替え」の中身、差戻しの効果、適用されない規定などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においても、その効力を有する。
拒絶査定不服審判において査定を取り消すときは、さらに審査に付すべき旨の審決をすることができる。
2
前項の審決があつた場合における判断は、その事件について審査官を拘束する。
3
第一項の審決をするときは、前条第三項の規定は、適用しない。
第百三十四条第一項から第三項まで、第百三十四条の二、第百三十四条の三、第百四十八条及び第百四十九条の規定は、拒絶査定不服審判には、適用しない。
第159条 ― 審査規定の準用
| 項 | 準用される規定 | 読み替えの要点 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 第1項 | 第53条(補正の却下) | 「第17条の2第1項第1号又は第3号」→「第1号、第3号又は第4号」。第1号・第3号の補正は「拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く」 | 審判請求と同時の補正(第4号)が要件違反なら審判で却下。審査段階の補正は蒸し返さない |
| 第2項 | 第50条(拒絶理由の通知)、第50条の2(同一の旨の通知) | 査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に準用。第50条ただし書の場面に「第4号に掲げる場合」を追加し、第1号・第3号は審判請求前の補正を除く | 新しい拒絶理由で拒絶審決をするには、通知して反論・補正の機会を与える |
| 第3項 | 第51条(特許査定)、第67条の3第2項〜第4項・第67条の7第2項〜第4項(延長登録の査定) | 審判の請求を理由があるとする場合に準用 | 拒絶理由がなければ特許審決(延長登録の拒絶査定不服審判も同様) |
〔表1〕第159条の準用と読み替え(e-Gov、2026年9月参照)。
flowchart TB A["拒絶査定不服審判の審理開始
(審査の手続は有効:第158条)"] --> B{"請求と同時の補正はあったか"} B -- "あった" --> P["前置審査(第162条〜第164条)を経て報告"] B -- "なかった" --> C P --> C{"審判官の判断"} C -- "補正が要件違反" --> D["補正を却下(第159条第1項で第53条を準用)
→ 補正前の明細書等で審理"] C -- "査定の理由と異なる拒絶理由を発見" --> E["拒絶理由通知(第159条第2項で第50条を準用)
→ 意見書・補正(第17条の2第1項第1号・第3号)"] C -- "査定の理由が妥当" --> F["拒絶審決"] C -- "拒絶理由なし" --> G["特許審決(第159条第3項で第51条を準用)"] C -- "査定を取り消して審査官に再審査させるべき" --> H["差戻し審決(第160条第1項)
判断は審査官を拘束(第2項)"] D --> C E --> C style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style H fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
【図2】拒絶査定不服審判の審理の分岐図。
- 第158条:審査の手続は審判でも有効。第159条:第53条・第50条・第50条の2・第51条を読み替えて準用。第160条:差戻し審決とその拘束力。第161条:答弁書・訂正の請求・参加の規定は適用しない(査定系のため)。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 読み替えの意味 ― 「審判請求前の補正を除く」
第159条第1項の読み替えは、審査段階でされた第1号・第3号の補正を、審判で改めて却下することを禁じる趣旨です。審査官が却下しなかった補正は、審判でも有効な前提として扱われます。審判で却下の対象になるのは、①審判請求と同時の補正(第4号)と、②審判で拒絶理由通知を受けた後の補正(第1号・第3号のうち審判請求後のもの)です。
| 補正の時期 | 審判での却下の可否 | 根拠 |
|---|---|---|
| 審査段階(最初の拒絶理由通知への応答等) | 却下しない(審査官の判断を尊重) | 第159条第1項の読み替え「拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く」 |
| 審判請求と同時(第17条の2第1項第4号) | 要件違反なら却下 | 第159条第1項の読み替え「又は第4号」 |
| 審判での拒絶理由通知への応答(第1号・第3号) | 要件違反なら却下(最後の拒絶理由通知等の場合)または拒絶理由 | 第159条第1項・第2項 |
〔表2〕審判における補正却下の対象。
2. 差戻し審決(第160条)の効果
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| いつ使うか | 査定を取り消すが、審判で特許審決をせず、審査官に改めて審査させるのが適当な場合(例:審査で審理されていない事項が多い) |
| 拘束力(第2項) | 差戻し審決における判断は、その事件について審査官を拘束する。同じ理由で再び拒絶査定はできない |
| 第159条第3項の不適用(第3項) | 差戻し審決は「請求を理由があるとする」審決だが、特許査定(第51条)の準用はしない(審決で特許にするのではなく、審査官に判断させる) |
| 差戻し後の審査 | 審査官は差戻し審決の判断に拘束されつつ、他の拒絶理由の有無を審査する。再度拒絶査定になれば再び拒絶査定不服審判 |
| 分割との関係 | 第44条第1項第2号の「審決」には差戻し審決も含まれ、差戻し後の審査段階で補正可能期間内なら分割できる(第44条第1項第1号の場面に戻る) |
〔表3〕差戻し審決の整理。第44条第1項第2号の括弧書きは分割の記事参照。
3. 第161条 ― 適用されない規定とその理由
| 適用されない規定 | 内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 第134条第1項〜第3項 | 請求書副本の送達・答弁書 | 拒絶査定不服審判は査定系(請求人 vs 特許庁)で、被請求人(相手方)がいないため、当事者系の規定は不要 |
| 第134条の2 | 訂正の請求 | |
| 第134条の3 | 訂正の請求に係る手続 | |
| 第148条 | 参加 | |
| 第149条 | 参加の申請 |
〔表4〕第161条で適用が除外される規定。「訂正の請求」の代わりに「補正」(第17条の2)を使う。
4. 前置審査(第162条〜第164条)との接続
審判請求と同時に補正があると、審判官の審理の前に前置審査(第162条)が入ります。前置審査で特許査定されれば拒絶査定は取り消され(第164条第1項)、そうでなければ報告を経て審判の審理に入ります。第163条は前置審査に審査の規定を準用する条文で、第159条と対応する構造です(前置審査の記事参照)。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「審査段階の補正を審判で却下できるか(不可)」「審判で新たな拒絶理由を発見したときの手続(通知)」「差戻し審決の拘束力」「差戻し審決に第51条は準用されるか(されない)」「拒絶査定不服審判に参加できるか(不可)」「審判で訂正の請求ができるか(不可、補正による)」 | 〔表1〕〔表2〕〔表3〕〔表4〕 |
| 論文式 | 拒絶査定後の手続を、補正の有無・前置審査・審判・差戻しの分岐で書かせる | 【図2】 |
| 口述 | 「拒絶査定不服審判に準用される審査の規定は」「差戻し審決の効果は」 | 第159条、第160条 |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 審判は審査の続き(第158条)。第53条・第50条・第50条の2・第51条を読み替えて準用(第159条)。審査段階の補正は審判で却下しない。
- 差戻し審決の判断は審査官を拘束し、第51条の準用はない(第160条)。
- 答弁書・訂正の請求・参加の規定は不適用(第161条)。訂正の代わりに補正を使う。
