MENU

小学生でも分かる特許法|1つの出願を、2つに分ける

小学生でもわかる特許法:出願の分割(特許法第44条)
44条 特許出願の分割

小学生でも分かる特許法 ②

PR この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

特許法第44条 ― 特許出願の分割

理系弁理士ラボ 参照時点:2026年9月17日 根拠:特許法(e-Gov)/特許・実用新案審査基準(特許庁)

この記事は3つのレベルに分かれています。必要なところまで読んでください。

レベル1イメージだけつかみたい人へ。たとえ話で全体像を示します。
レベル2条文の形を知りたい人へ。第44条の骨格を分解します。
レベル3弁理士試験の受験生へ。要件・例外・条文相互の参照関係まで踏み込みます。
レベル 1

まずイメージでつかむ

小学生レベル / たとえ話で理解する

夏休みの自由研究で、1冊のノートに2つの研究を書いてしまったとします。ところが先生から「1冊につき1テーマだよ」と言われました。どうしますか。

ノートを2冊に分けて、片方に研究A、もう片方に研究Bを書き写せばいいですよね。このとき、「提出した日」は最初にノートを出した日のままにしてもらえる――もしそうなら、書き直しの時間で損をしません。

特許でも、同じことができます。1つの出願の中に2つの発明が入っているとき、それを2つの出願に分けることができます。これを分割出願といいます。

もとの特許出願(原出願) 発明 A 発明 B 分割 もとの特許出願 発明 A 新たな特許出願(分割出願) 発明 B どちらの出願日も もとの出願の日 (44条2項・原則)
【図1】分割出願のイメージ。1つの出願に含まれていた2つの発明を、2つの出願に分ける。分割出願は新しく出す出願なのに、出願日はもとの出願の日として扱われるのが原則。

分割のありがたみは、この日付にあります。特許の世界は、出願した日が早いほうが強いのが基本です。もし発明Bを今から新しく出し直すと、その間に他人が同じ発明を出していたら負けてしまいます。分割なら、新しい出願なのに日付はもとの出願の日のまま――ここが最大のメリットです。

押さえるのは3つ

  1. 分けられるのは「もとの出願に書いてあったこと」だけ。分割のときに新しい発明を付け足すことはできません。
  2. いつでも分けられるわけではない。法律で決められた時期にだけ分割できます。
  3. 日付がもとに戻る(遡る)のが原則。ただし、戻らない場面があります。
⚠ ここでは条件を省いています

分かりやすさを優先して、正確な線引きを落としています。「いつ分割できるか」の細かい時期はレベル2で、「何を書けるか」の判断基準と「日付が戻らない場面」はレベル3で回収します。

レベル 2

条文の骨格をつかむ

中学生レベル / 条文の形を分解する

分割を定めているのは特許法第44条(見出し「特許出願の分割」)です。第44条は第1項から第7項まであります。まず骨格になる2つの項――第1項(できる場合)と第2項(その効果)――を見ます。

第1項 ― 分割できる場合

特許法第44条第1項 柱書

「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」

この一文には、分割の条件が4つ埋まっています。

  • 「特許出願人は」……分割できるのは出願人です。
  • 「次に掲げる場合に限り」……各号は限定列挙。時期の制限です。
  • 「二以上の発明を包含する」……もとの出願に、2つ以上の発明が入っていること。
  • 「一部を」「一又は二以上の新たな特許出願」……切り出すのは一部。そして分割出願は1つでも複数でもかまいません。

そして「次に掲げる場合」が、第1号から第3号です。

特許法第44条第1項 第1号〜第3号

一「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。」
二「特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。」
三「拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。」

〔表1〕第44条第1項各号の整理

号いつ期間条文が参照しているもの
第1号 明細書等について補正をすることができる時・期間内 補正ができる時期と同じ 第17条の2第1項(補正の時期)
第2号 特許査定の謄本の送達があった日から 30日以内 括弧書きで一部の特許査定を除外
第3号 最初の拒絶査定の謄本の送達があった日から 3月以内 ―

第2項 ― 分割の効果

特許法第44条第2項

「前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。」

前半(本文)が原則、「ただし」以下(但書)が例外です。この本文と但書の関係が、第44条でいちばん問われる構造です。

時間 もとの特許出願の日 分割出願を現実にした日 44条2項 本文 ― もとの特許出願の時にしたものとみなす 44条2項 但書 ― ここでは遡らない(現実の出願日で扱う) ✕ 29条の2 の「他の特許出願」に当たる場合 (実用新案法3条の2 に規定する特許出願も同じ) これらの規定の適用については遡及しない ✕ 30条3項 の適用 新規性喪失の例外を受けるための 書面・証明書の提出に関する規定
【図2】第44条第2項の本文と但書。原則として分割出願の出願日はもとの出願の日まで遡るが、但書が挙げる場面では遡らない。但書に挙がっているのは、第29条の2(および実用新案法第3条の2)の適用と、第30条第3項の適用の2つ。

第3項から第7項 ― 付随するルール

残りの5つの項は、第1項・第2項を動かすための細かい調整です。全体像だけ押さえておけば十分です。

〔表2〕第44条第3項〜第7項の役割

項何を定めているか
第3項分割出願をする場合の、第43条第2項(パリ条約の優先権の書類提出)に関する取扱い
第4項もとの出願について提出した書面・書類を、分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす(第30条第3項、第41条第4項、第43条第1項・第2項の書面が対象)
第5項第1項第2号の30日の期間は、第4条または第108条第3項により期間が延長されたとき、その延長された期間だけ延長されたものとみなす
第6項第1項第3号の3月の期間は、第4条により第121条第1項の期間が延長されたとき、その延長された期間だけ延長されたものとみなす
第7項責めに帰することができない理由で第2号・第3号の期間内に分割できないときの救済(理由がなくなった日から14日/在外者は2月、かつ期間経過後6月以内)
読み方のコツ

第4項は「書面を出し直さなくてよい」というルール、第2項但書のうち第30条第3項に関する部分は「期間の起算は遡らない」というルールです。対象が同じ第30条第3項でも、第2項但書と第4項は別のことを言っています。混同しやすいところです。

レベル 3

要件・例外・条文相互の参照関係

受験生レベル / 時期的要件と実体的要件を分けて詰める

分割の要件は、時期的要件(いつ分割できるか=第44条第1項各号)と実体的要件(何を分割できるか=審査基準)に分かれます。条文に書いてあるのは前者、審査基準が整理しているのが後者です。ここを最初に切り分けると、以下の議論が整理しやすくなります。

なお、審査基準は分割制度の位置づけについて、「公開の代償として一定期間独占権を付与するという特許制度の趣旨を踏まえ、特許出願に含まれる、発明の単一性の要件を満たさない発明等にもできるだけ保護の道を開くべき」ものとして説明しています(第VI部 第1章 第1節「1. 概要」)。

3-1 時期的要件 ― 第1項各号を分解する

第1号 ― 補正ができる時又は期間

第1号は自前で時期を定めず、補正の時期にそのまま乗っかる形をとっています。したがって第1号を理解するには、第17条の2第1項を読む必要があります。

特許法第17条の2第1項(見出し「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」)

「特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。」

〔表3〕補正ができる時期(第17条の2第1項)― 第44条第1項第1号が参照する範囲

局面補正ができるか根拠
出願後、最初の拒絶理由通知を受けるまで 特許査定の謄本の送達前であれば、いつでもできる 第17条の2第1項 柱書
最初に拒絶理由通知を受けた場合 第50条により指定された期間内 同項 第1号
拒絶理由通知の後、第48条の7の通知を受けた場合 同条により指定された期間内 同項 第2号
拒絶理由通知の後、更に拒絶理由通知を受けた場合 最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の指定期間内 同項 第3号
拒絶査定不服審判を請求する場合 審判の請求と同時にするとき 同項 第4号
出願 最初の拒絶理由通知 最後の拒絶理由通知 査定 審判請求 第1号 補正ができる時・期間 査定謄本の送達前は随時 指定期間 指定期間 請求と同時 第2号 特許査定のとき 30日以内 謄本の送達日から 第3号 最初の拒絶査定のとき 3月以内 ※ 横軸の長さは実際の期間の長短に比例しません。第2号と第3号は、査定の内容に応じてどちらか一方が働きます。
【図3】第44条第1項各号の時期的要件。第1号は補正ができる時期にそのまま連動するため、審査の進行に応じて窓が開いたり閉じたりする。第2号と第3号は、査定の謄本の送達を起点に一定期間だけ開く。

第2号 ― 括弧書きで除かれる特許査定

第2号は「特許をすべき旨の査定」と書いたうえで、括弧書きで2つを除いています。条文の括弧書きを外して並べると次のとおりです。

〔表4〕第44条第1項第2号の括弧書きが除外する特許査定

除かれるもの条文の表現
前置審査における特許査定 「第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定」
審判で審査に差し戻された(審査に付された)出願についての特許査定 「第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定」

つまり、第2号の30日の窓が開くのは、これら以外の特許査定――通常の審査における特許査定の謄本の送達があった場合ということになります。

第3号 ― 「最初の」拒絶査定

第3号の文言は「拒絶をすべき旨の最初の査定」です。「最初の」が付いている点は、条文を読む際に落としやすいところです。

第5項・第6項・第7項 ― 期間の伸縮

第2号の30日、第3号の3月は、それぞれ第5項・第6項によって、関連する期間の延長に連動して延長されたものとみなされます。さらに第7項が、責めに帰することができない理由による救済を置いています。

特許法第44条第7項

「第一項に規定する新たな特許出願をする者がその責めに帰することができない理由により同項第二号又は第三号に規定する期間内にその新たな特許出願をすることができないときは、これらの規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でこれらの規定に規定する期間の経過後六月以内にその新たな特許出願をすることができる。」

第7項が対象としているのは第2号と第3号の期間だけで、第1号は含まれていません。条文の文言から直接読める点です。なお、第121条第2項(拒絶査定不服審判の請求についての同種の救済)も、「その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内」という同じ形をとっています。

なぜこの時期に分割できるのか ― 立法の経緯

第1項第2号・第3号は、はじめからあった規定ではありません。以下は特許庁の改正解説書(立法担当者による解説)の説明です。条文解釈を確定させるものではありませんが、条文の形が決まった理由はここに書かれています。

平成18年法律第55号による新設。解説書は、この改正項目を第2部 第3章「分割の時期的制限の緩和」として立てています。改正前、分割できるのは明細書等について補正ができる期間内――現在の第1号に当たる場面だけでした。改正の理由として挙げられているのは、①実効的な権利の取得の支援、②手続の無駄の解消の2点です。

期間を30日とした理由は、次のように説明されています。

平成18年法律改正解説書 第2部 第3章「分割の時期的制限の緩和」

「特許料納付期限及び拒絶査定不服審判の請求可能期間はいずれも30日に設定されており、出願を分割するか否かを判断するための期間についても、30日に設定することが適切と考えられる」

つまり第2号・第3号の期間は、それ自体に独立した意味があるのではなく、隣接する手続の期限をそのまま写したものです。

第2号の括弧書きが除外する理由。同じ章は、改正の範囲について「分割時期・権利化時期を先延ばしする目的で審判を請求するといった制度濫用のおそれ」があるとして、「審決が出された後や、審判請求後に特許査定・拒絶査定がなされた後については、分割可能時期への追加は行わない」と述べています。第2号の括弧書きが前置審査での特許査定と第160条第1項の審査に付された出願についての特許査定を除いているのは、この方針に対応するものと読めます。

平成20年法律第16号による改正 ― 第3号だけが3月になった理由。拒絶査定不服審判の請求期間が30日から3月に拡大された際、第44条も併せて改正されました。

平成20年法律改正解説書 第2章「不服審判請求期間の拡大」

「ⅲは、平成18年の意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)により追加されたものであるが、同号の規定における『30日』は、拒絶査定不服審判の請求可能期間と同一となるように設定されたものであることから、今回の拒絶査定不服審判の請求期間に関する改正と併せて、本条第1項第3号及び同条第6項における『30日』も『3月』と改正した。」

第2号が30日、第3号が3月という非対称は、覚え分けるべき例外ではありません。それぞれが対応する手続の期限を写した結果です。

〔表5〕第2号・第3号の期間が対応しているもの

号期間対応する手続その期間を定める条文
第2号30日特許料の納付期限第108条第1項(30日)
第3号3月拒絶査定不服審判の請求期間第121条第1項(3月)

前提として ― 出願が特許庁に係属していること

平成18年改正の解説書は、条文には書かれていない前提にも触れています。

平成18年法律改正解説書 第2部 第3章

「特許出願が特許庁に係属していなければ出願を分割することができない」/「特許権の設定登録又は拒絶査定の確定により特許出願は特許庁に係属しなくなるため、特許査定後30日の期間内であっても、特許料を速やかに納付して特許権の設定登録がされた場合には、それ以降に出願を分割することはできない」

第1項第2号の30日は上限であって、常に30日まるごと使えるという意味ではありません。条文だけを読んでいると見落とすところです。

3-2 実体的要件 ― 何を分割できるか

時期を守っていても、中身が条件を満たさなければ分割として扱われません。審査基準は、実体的要件を3つに整理しています。

〔表6〕分割の実体的要件(審査基準 第VI部 第1章 第1節)

要件内容(審査基準の文言)比べる相手
要件1 「原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと」 分割直前の明細書等
要件2 「分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること」 原出願の出願当初の明細書等
要件3 「分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること」 原出願の分割直前の明細書等

要件2と要件3は、よく似た文言でありながら比較の基準時が違います。要件2は「出願当初」、要件3は「分割直前」。ここが読み分けの勘所です。要件1は、第44条第1項の「一部を」という文言に対応しており、全部を分割出願にしてしまうことを排除しています。

実体的要件を満たす場合

分割出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされます(第44条第2項本文、但書の場合を除く)。

実体的要件を満たさない場合

審査基準によれば、分割出願は「原出願の時にしたものとはみなされずに、現実の出願時にしたものとして取り扱われる」とされています。

なお、形式的要件を満たさない場合は、審査基準によれば出願自体が却下されるとされています。

3-3 遡及効の例外 ― 第2項但書をどう読むか

第2項但書が挙げているのは、次の2つの場面です。

  1. 分割出願が、第29条の2に規定する「他の特許出願」または実用新案法第3条の2に規定する特許出願に該当する場合における、これらの規定の適用
  2. 第30条第3項の規定の適用

但書が働くと何が変わるのか。それぞれの条文に戻って確かめます。

① 第29条の2の「他の特許出願」となる場面

特許法第29条の2(抜粋)

「特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に……特許掲載公報……の発行若しくは出願公開……がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面……に記載された発明又は考案……と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」

第29条の2は、先行する出願が「当該特許出願の日前の他の特許出願」であることを要求しています。つまり、この規定を適用するには「他の特許出願」の側の出願日を確定させなければなりません。

ここで第44条第2項本文がそのまま働けば、分割出願はもとの出願の時にしたものとみなされ、原出願の日を基準として第29条の2の「他の特許出願」の地位を持つことになります。但書は、この場面についてだけ本文の適用を外しています。したがって、分割出願を第29条の2(および実用新案法第3条の2)の「他の特許出願」として扱う場面では、分割出願を現実にした日が基準となります。

② 第30条第3項の適用場面

特許法第30条第3項

「前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。」

第30条第3項は、証明書の提出期限を「特許出願の日から三十日以内」と定めています。ここでも起算点は出願日です。第44条第2項但書によりこの場面で本文が働かないため、分割出願についての30日は、分割出願を現実にした日から起算されることになります。

第2項但書と第4項の切り分け

第30条第3項は、第2項但書にも第4項にも登場します。同じ条項を指しながら、言っていることは別です。

第2項 但書 ― 期間の起算

第30条第3項の適用について遡及効を認めない。証明書の提出期間は、分割出願の現実の出願日から数える。

第4項 ― 書面のみなし提出

もとの出願について提出済みの書面・書類は、分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。出し直しは不要。

「いつから数えるか」の話と「出し直しがいるか」の話――対象条文が重なるだけに、両者を分けて読む必要があります。

結果として何が起きるか ― 審査基準の扱い

この2つが組み合わさると、分割出願で第30条の適用を受けられるかどうかは、もとの出願の段階で証明する書面を出していたかどうかで分かれます。審査基準が、第30条の側でこれを明示しています。

審査基準 第III部 第2章 第5節「発明の新規性喪失の例外」4.3「各種出願における留意事項」導入文

「(要件1)発明が公開された日から1年以内に特許出願をしたこと」を満たしているか否かの判断に当たっては、各種出願の「特許出願をした」日は、以下のように取り扱われる。

同 4.3.4「分割出願、変更出願及び実用新案登録に基づく特許出願」

「分割出願、変更出願及び実用新案登録に基づく特許出願の場合は、原出願の出願日である。ただし、原出願において『証明する書面』が提出されていない場合は、現実の出願日である。」

〔表7〕分割出願で第30条の適用を受ける場合の基準日(審査基準 第III部 第2章 第5節 4.3.4)

もとの出願での「証明する書面」1年以内かを判断する「特許出願をした」日働いている条文
提出していた 原出願の出願日 第44条第4項(書面のみなし提出)
提出していなかった 分割出願の現実の出願日 第44条第2項但書(遡及しない)

第44条第2項但書は、条文だけを読むと抽象的です。しかし第30条の側から見ると、もとの出願で手続をしていなかった発明について、分割によって期間を稼ぐことはできない――という具体的な帰結になります。但書の実務上の意味は、この形で現れます。

根拠と補足

第44条第2項ただし書のうち第30条第3項の部分は、書類の提出時期まで原出願日に戻すと、分割出願時には手続ができなくなる場合があるため、新たな出願を基準にする趣旨です。第29条の2・実用新案法第3条の2の部分は、分割時に初めて明細書に入った事項まで原出願日に遡って後願排除に使えるという不合理を防ぐため、昭和45年改正で追加されました。これは制定時の説明であり、現在の分割の実体要件は第VI部第1章第1節に従って判断します。青本第22版191〜192頁。

3-4 第50条の2の通知 ― 分割出願に固有の論点

分割出願はもとの出願の内容を引き継ぐため、もとの出願で通知された拒絶理由と同じ拒絶理由が、分割出願でも通知されることがあります。この場面を扱うのが第50条の2です。

特許法第50条の2(見出し「既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知」)

「審査官は、前条の規定により特許出願について拒絶の理由を通知しようとする場合において、当該拒絶の理由が、他の特許出願(当該特許出願と当該他の特許出願の少なくともいずれか一方に第四十四条第二項の規定が適用されたことにより当該特許出願と同時にされたこととなつているものに限る。)についての前条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定による通知(当該特許出願についての出願審査の請求前に当該特許出願の出願人がその内容を知り得る状態になかつたものを除く。)に係る拒絶の理由と同一であるときは、その旨を併せて通知しなければならない。」

括弧書きが二重に入って読みにくい条文ですが、審査基準が3つの要件に分解しています。

〔表8〕第50条の2の通知をするか否かの判断(審査基準 第VI部 第1章 第2節「2.」)

要件内容(審査基準の見出し)条文上の対応箇所
要件1 「本願と他の特許出願とが第44条第2項の規定により同時にされたこととなっていること」 第50条の2 第1括弧書き
要件2 「本願の拒絶理由が、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶理由と同一であること」 「拒絶の理由と同一であるとき」
要件3 「当該他の特許出願の拒絶理由通知が、本願の出願審査の請求前に本願の出願人が知り得る状態にあったこと」 第50条の2 第2括弧書き(除外規定)

要件1が「第44条第2項の規定により同時にされたこととなっている」という形で書かれている点に注目してください。分割の遡及効(第44条第2項)が、第50条の2の入口条件になっている――ここが第44条と第50条の2をつなぐ蝶番です。

1 もとの特許出願 A 拒絶理由通知(理由X) を受ける =第50条の2の「他の  特許出願」になりうる 2 分割 Aの一部を分割して 分割出願 B とする 44条2項により 同時にされたこととなる 3 Bの審査 理由Xと同一の拒絶理由 → 拒絶理由通知に併せて 50条の2の通知 (要件1〜3を満たす場合) 4 効果 最初の拒絶理由通知でも 17条の2第5項の目的制限 がかかる (削除・減縮・誤記訂正・釈明) ※ 第50条の2の通知それ自体は拒絶理由ではなく、「既に通知された拒絶理由と同一である旨」を併せて知らせる通知です。 ※ 要件3により、もとの出願の拒絶理由通知を分割出願の出願審査の請求前に出願人が知り得なかった場合は、通知されません。
【図4】第50条の2の通知の流れ。第44条第2項の遡及効によって「同時にされたこととなっている」ことが入口条件(要件1)になり、その先で第17条の2第5項の補正制限に接続する。

審査基準は、この通知の趣旨を、出願人に対しもとの出願等の審査で通知された拒絶理由を十分に精査することを促すことにより、「拒絶理由を解消しないまま出願を分割するといった行為を抑止することにある」と説明しています(同節「1. 概要」)。また、一の特許出願に由来する一連の分割出願(原出願・子出願・孫出願等)を「分割出願群」と呼んでいます。

なぜこの規定が置かれたか ― 平成18年改正

第50条の2は、平成18年法律第55号による改正で新設されました。改正解説書は、この改正項目を第2部 第2章「分割制度の濫用防止」として立てています。

解説書は、従来の制度について「分割出願制度の趣旨は、二以上の発明を含む特許出願について、すべての発明について特許を受ける途を設けたこと」にあるとしたうえで、拒絶理由は原則として最大2回まで通知されることとなっている、と整理しています。そのうえで改正の必要性を、「拒絶理由通知の内容や明細書等の記載内容を充分に精査せずに、同じ発明を繰り返し分割出願するといった分割出願制度の濫用がされている」との指摘があったことに求めています。

同章で改正された条文は、第17条の2・第50条の2・第53条です。第50条の2という新しい通知と、第17条の2第5項の補正制限は、同じ改正で一体として導入されたということになります。条文が離れた場所にあるため見落としやすいのですが、立法の経緯としては一つの仕組みです。

効果 ― 補正が制限される

第50条の2の通知を受けると、その後の補正が制限されます。条文の側では、第17条の2第5項の柱書の括弧書きがこれを担っています。

特許法第17条の2第5項 柱書

「前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。」

一「第三十六条第五項に規定する請求項の削除」
二「特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」
三「誤記の訂正」
四「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」

通常であれば、最初の拒絶理由通知(第17条の2第1項第1号)に対する補正には第5項の目的制限はかかりません。ところが、その拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知を受けた場合には、括弧書きによって第5項が適用されます。審査基準もこの効果を、「明細書等について補正をするときは、最後の拒絶理由通知後に補正をする場合と同様に、その補正は、第17条の2第3項から第6項までに規定された要件を満たす必要がある。これらの要件を満たしていない補正は、却下の対象となる。」と述べています(同節「4.」)。

構造でつかむ

第50条の2の通知それ自体は拒絶理由ではありません。「この拒絶理由は、もう通知済みのものと同じですよ」と併せて知らせる通知です。効くのはその先で、最初の拒絶理由通知であっても、最後の拒絶理由通知後と同じ補正制限がかかるという点にあります。

3-5 出題例 ― 令和8年度 短答式

直近の短答式試験に、分割を正面から扱う問題があります。全文を挙げます。

令和8年度 弁理士試験 短答式筆記試験 【特許・実用新案】16

「特許出願の分割・変更等に関し、次のうち、正しいものは、どれか。ただし、特に文中に示した場合を除いて、特許出願は、外国語書面出願、国際出願に係る特許出願、特許出願の分割に係る新たな特許出願、出願の変更に係る特許出願又は実用新案登録に基づく特許出願ではなく、取下げ、放棄又は却下されておらず、査定又は審決が確定しておらず、いかなる補正、訂正もされておらず、いかなる優先権の主張も伴わないものとする。また、実用新案登録出願についても同様とする。」

1「特許出願の分割に係る新たな特許出願については、その特許出願の分割の日から30日を経過した後には、出願審査の請求をすることができる場合はない。」
2「拒絶理由通知において指定された期間内に分割出願をしようとしたが、期間を徒過してしまった。期間の徒過が、分割出願をしようとした者の責めに帰することができない理由による場合には、その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては、2月)以内でその期間の経過後6月以内に、特許法第44条第7項の規定により、その分割出願をすることができる。」
3「特許出願について、一度も拒絶の理由が通知されることなく、特許をすべき旨の査定がされた場合、当該査定の謄本の送達があった日から30日以内であっても、当該特許出願の一部を分割して新たな特許出願とすることができない場合がある。」
4「甲は、自己の実用新案登録Yの請求項1に係る登録実用新案について、当該実用新案登録Yに係る実用新案登録出願の日から1年後に、実用新案技術評価の請求をした。乙は、その1年後に、当該実用新案登録Yの請求項2に係る登録実用新案について、実用新案技術評価の請求をした。甲は、特許庁長官より、実用新案技術評価の請求があった旨の通知を受け取った。この場合、甲は、当該通知から30日を経過する前に、特許請求の範囲に請求項2に係る登録実用新案と同じ内容の発明のみを記載すれば、当該実用新案登録Yに基づく特許出願をすることができる。」
5「特許出願Bは特許出願Aの一部を分割して新たな特許出願としたものである。この場合、特許出願Aについて、特許法第50条の2の通知がされることはない。」

枝ごとに、本記事のどこと対応しているかを整理します。

〔表9〕各枝が問うている条文

枝主題参照すべき条文本記事の該当箇所
1分割出願の出願審査の請求の時期第48条の3第2項(分割出願の審査請求期間)本記事では扱っていません
2責めに帰することができない理由による救済第44条第7項3-1「第5項・第6項・第7項」
3特許査定後30日の窓が開かない場合第44条第1項第2号(括弧書き)、出願の係属、実体的要件3-1「第2号」「前提として」、3-2
4実用新案登録に基づく特許出願第46条の2(分割そのものではありません)本記事では扱っていません
5第50条の2の通知の対象第50条の2、第44条第2項3-4

枝2は第44条第7項の対象期間を拒絶理由通知の指定期間と取り違えた形、枝5は第50条の2の要件1(第44条第2項により同時にされたこととなっていること)を、もとの出願Aの側について問う形になっています。この問題だけでも、第44条が単独では完結せず、第48条の3・第46条の2・第50条の2へ広がっていることが見て取れます。

枝3は、条文の文言だけを追っていると手掛かりがつかみにくい枝です。3-1で見た括弧書きによる除外と出願が特許庁に係属していること、そして3-2の実体的要件――どれも「30日以内であっても分割できない」場面をつくります。条文の外側にある前提を拾えているかが問われる形になっています。

公式正解と解説

公式正解は3です。肢2の第44条第7項の救済は第1項第2号の期間が対象で、拒絶理由通知の指定期間には使えません。肢5のAもさらに別の原出願から分割した出願であれば、第50条の2の通知を受けることがあります。これらの説明は条文と審査基準による検証であり、公式解答PDFは選択番号を示す資料です。公式解答PDF。

3-6 学習上の位置づけ

  • 第44条は、条文だけでは完結しない条文です。第1項第1号は第17条の2第1項へ、第2項但書は第29条の2・第30条第3項へ、第5項・第6項は第4条・第108条第3項・第121条第1項へ、そして第2項は第50条の2へと飛びます。参照先をたどれる状態にしておくことが、そのまま得点力になります。
  • 時期的要件(条文)と実体的要件(審査基準)は、出どころが違います。どちらの話をしているのかを意識して整理すると、混乱しにくくなります。
  • 第2項は本文と但書、第1項第2号は本体と括弧書き、第50条の2は二重の括弧書きという構造になっています。原則だけを覚えると取りこぼす作りなので、条文を読むときに但書・括弧書きを外さないことが重要です。

出典(参照時点:2026年9月17日)

  • 特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第17条の2、第29条の2、第30条第3項、第44条、第50条の2 ― e-Gov法令検索
  • 特許・実用新案審査基準 第VI部「特殊な出願」第1章「特許出願の分割(特許法第44条)」第1節「特許出願の分割の要件」 ― 特許庁
  • 同 第2節「第50条の2の通知」 ― 特許庁
  • 特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 第5節「発明の新規性喪失の例外(特許法第30条)」4.3「各種出願における留意事項」 ― 特許庁
  • 特許・実用新案審査基準 目次 ― 特許庁
  • 平成18年法律改正(平成18年法律第55号)解説書 第2部 第2章「分割制度の濫用防止」 ― 特許庁
  • 同 第2部 第3章「分割の時期的制限の緩和」 ― 特許庁
  • 平成20年法律改正(平成20年法律第16号)解説書 第2章「不服審判請求期間の拡大」 ― 特許庁
  • 令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験問題 ― 特許庁/掲載ページ
  • 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕特許法編 ― 特許庁(第44条第2項但書の趣旨を191〜192頁で確認)

条文は2026年9月20日にe-Govの施行済み版と照合しました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人