小学生でも分かる特許法 / B. 出願・審査の手続 #16
外国で先に出願した人は、12か月以内に日本に出願すれば、外国の出願日を基準に新規性などを判断してもらえます(パリ条約の優先権)。第43条は、その優先権を日本で主張するための「書面」と「証明書」の手続、期限、出しそこねたときの扱いを定めています。
LEVEL 1イメージでつかむ
外国で先に出願した人の悩み
アメリカで4月1日に出願した人が、日本でも特許がほしいと思ったとします。でも、日本語に翻訳したり、日本の弁理士に頼んだりするには時間がかかります。その間に、日本で誰かが同じ発明を出願したり、発明が公開されたりしたら、日本では「新しくない」と言われてしまいます。
パリ条約の「12か月の切符」
そこで、世界の多くの国が入っているパリ条約は、こう決めています。「最初の国で出願してから12か月以内に別の国に出願すれば、その国でも最初の出願日を基準にしてあげる」。これが優先権です。アメリカで4月1日に出願した人は、翌年の4月1日までに日本に出願すれば、日本でも「4月1日に出願した」ものとして新規性などを判断してもらえます。
【図1】パリ条約の優先権のイメージ。12か月以内なら、最初の出願日を基準にしてもらえる。
「切符」を使うには、手続がいる
ただし、黙っていても使えるわけではありません。日本の特許庁に「アメリカで4月1日に出願した発明です。優先権を主張します」という書面を出し、さらに「本当にアメリカで出願した」ことを示す証明書(アメリカ特許庁がくれる書類)を期限までに出さなければなりません。期限に遅れると、切符は無効になります。
- 外国で最初に出願してから12か月以内に日本に出願すれば、最初の出願日を基準にしてもらえる(パリ条約の優先権)。
- 使うには、「主張します」の書面と、外国の特許庁の証明書を、期限までに出す必要がある。
※書面・証明書の期限、遅れたときの救済、12か月を過ぎてしまったときの回復などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第43条の全体像 ― 「主張」「証明」「失効」「救済」
| 項 | 役割 | 内容(要旨) |
|---|---|---|
| 第1項 | 主張 | 優先権を主張しようとする者は、その旨、最初の出願をしたパリ条約の同盟国の国名、出願の年月日を記載した書面を、経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出する |
| 第2項 | 証明 | 最初の出願の日等から1年4月以内に、その同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、出願の際の書類の謄本、または公報・証明書(優先権証明書類等)を提出する |
| 第3項 | 証明(補足) | 最初の出願の番号を記載した書面を提出する。番号を知ることができない場合は、理由を記載した書面を出し、番号を知ったときに遅滞なく提出する |
| 第4項 | 失効 | 第2項の期間内に優先権証明書類等を提出しないときは、優先権の主張は効力を失う |
| 第5項 | 証明(代替) | 電磁的方法により優先権証明書類等の交換ができる同盟国での出願については、必要事項を記載した書面の提出をもって、優先権証明書類等の提出に代えることができる(DAS等) |
| 第6項 | 救済① | 期間内に提出がなかったときは、特許庁長官が出願人に通知する |
| 第7項 | 救済② | 通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、優先権証明書類等を提出できる |
| 第8項 | 救済③ | 責めに帰することができない理由により第7項の期間内に提出できないときは、経済産業省令で定める期間内に提出できる |
| 第9項 | 救済の効果 | 第7項・第8項により提出があったときは、第4項(失効)は適用しない |
〔表1〕第43条の項ごとの内容(e-Gov法令検索、2026年9月参照、要旨)。第2項の「1年4月」が中心の期限。
timeline
title パリ条約優先権の手続のタイムライン(第43条)
最初の出願(外国) : ここが「最先の日」
12月(優先期間) : ここまでに日本へ出願(パリ条約第4条C)
最先の日から1年4月 : ここまでに優先権主張の書面(第1項・省令)と優先権証明書類等(第2項)を提出
未提出 : 特許庁長官が通知(第6項)→ 省令期間内に提出できる(第7項・第8項)→ 提出すれば失効しない(第9項)
それでも未提出 : 優先権の主張は効力を失う(第4項)。出願自体は残る
【図2】第43条の手続のタイムライン。「12月」は出願の期限、「1年4月」は書面・証明書の期限。
条文を読む ― 第4項(失効)
第二項に規定する期間内に優先権証明書類等を提出しないときは、当該優先権の主張は、その効力を失う。
失うのは「優先権の主張の効力」だけで、日本の出願自体は残ります。ただし、優先日ではなく日本の出願日を基準に新規性・進歩性・先願が判断されるので、その間に公開された先行技術や他人の出願に負ける可能性があります。
- 主張の書面(第1項)と優先権証明書類等(第2項、最先の日から1年4月以内)。証明書類の未提出は主張の失効(第4項)。
- 未提出なら特許庁長官が通知し(第6項)、省令期間内に提出すれば失効しない(第7項〜第9項)。
- 電子的交換(DAS等)が可能な国の出願は、書面の提出で証明書類に代えられる(第5項)。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 優先権の「実体」と「手続」の切り分け
| 実体(優先権そのもの) | 手続(日本での主張) | |
|---|---|---|
| 根拠 | パリ条約第4条(優先期間12月、優先権の効果、複合優先・部分優先など) | 特許法第43条(書面・証明書・期限・失効・救済) |
| だれが | 同盟国で正規の出願をした者またはその承継人(パリ条約第4条A) | 優先権を主張しようとする者(第43条第1項) |
| いつまでに | 最初の出願の日から12月以内に日本へ出願(パリ条約第4条C) | 書面・証明書類は最先の日から1年4月以内(第43条第2項) |
| 効果 | 優先期間中の行為(他の出願・公開・実施)により不利な取扱いを受けない(パリ条約第4条B) | 手続を欠くと主張が効力を失う(第43条第4項) |
〔表2〕パリ条約(実体)と特許法第43条(手続)の役割分担。優先権の効果はパリ条約第4条B、期間は同条C(1)。
2. 失効と救済の分岐図
flowchart TB A["最先の日から1年4月以内に
優先権証明書類等を提出したか"] -- "提出した" --> OK["優先権の主張は有効"] A -- "提出していない" --> B["特許庁長官が通知(第6項)"] B --> C{"省令で定める期間内に提出したか(第7項)"} C -- "提出した" --> OK2["失効しない(第9項)"] C -- "提出していない" --> D{"責めに帰することができない理由があり
省令期間内に提出したか(第8項)"} D -- "提出した" --> OK2 D -- "提出していない" --> NG["優先権の主張は効力を失う(第4項)
出願は日本の出願日で判断される"] style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
【図3】優先権証明書類等の未提出の分岐図。平成27年改正で通知・救済の仕組み(第6項〜第9項)が整備された。
3. 第43条の2 ― 優先期間を過ぎてしまったときの回復
第43条の2は、パリ条約第4条D(1)の規定により優先権を主張しようとする者が、優先期間(12月)内に出願できなかった場合でも、経済産業省令で定める期間内に出願すれば、優先期間の経過後であっても優先権を主張できる、と定めています。ただし、故意に優先期間内に出願しなかったと認められる場合は除きます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 優先期間(12月)内に日本への出願ができなかった場合 |
| 要件 | 故意に優先期間内に出願しなかったと認められる場合でないこと(「故意でない」基準) |
| 期間 | 経済産業省令で定める期間内(優先期間の経過後2月以内) |
| 手続 | 第43条の規定を準用(第43条の2第2項:「前条の規定は……準用する」) |
〔表3〕第43条の2(優先権の回復)。令和3年改正で「正当な理由」基準から「故意でない」基準に変更。
4. 第43条の3 ― パリ条約の同盟国以外
| 項 | 出願人 | 基礎となる出願をした国 |
|---|---|---|
| 第1項 | 日本国民またはパリ条約の同盟国の国民 | 世界貿易機関(WTO)の加盟国 |
| WTO加盟国の国民 | パリ条約の同盟国またはWTO加盟国 | |
| 第2項 | 特定国(パリ条約同盟国でもWTO加盟国でもないが、日本国民に優先権を認める国)の国民 | 特定国 |
| 日本国民、パリ条約同盟国の国民、WTO加盟国の国民 | 特定国 | |
| 第3項 | 前二条(第43条・第43条の2)の規定を準用 | |
〔表4〕第43条の3の整理。パリ条約の優先権を、WTO加盟国・特定国に広げる規定。いずれも「パリ条約第4条の規定の例により」主張できる。
5. 国内優先権(第41条)との比較
| パリ条約による優先権(第43条) | 国内優先権(第41条・第42条) | |
|---|---|---|
| 基礎となる出願 | パリ条約同盟国・WTO加盟国・特定国での出願 | 日本での先の特許出願・実用新案登録出願 |
| 優先期間 | 12月(パリ条約第4条C) | 先の出願の日から1年以内(第41条第1項第1号) |
| 主張の手続 | 主張書面と証明書類等。通常期限は本文参照(両者は別) | 書面(第41条第4項。期間は省令)。証明書類は不要 |
| 先の出願の運命 | 影響なし(外国の出願はそのまま) | 先の出願は1年4月経過時に取り下げたものとみなす(第42条第1項) |
| 失効・回復 | 証明書類未提出で失効(第43条第4項)。優先期間徒過の回復(第43条の2) | 第41条第1項第1号括弧書き ※国内優先権の記事で扱う |
〔表5〕パリ優先と国内優先の比較。第41条・第42条の詳細は国内優先権の記事で扱います。
6. 分割・変更との関係 ― 証明書類の提出期限の特例
第44条第3項(第46条第6項で変更出願に準用)は、分割出願・変更出願をする場合、第43条第2項の「最先の日から1年4月以内」を「最先の日から1年4月又は新たな特許出願の日から3月のいずれか遅い日まで」と読み替えます。また第44条第4項により、もとの出願で提出した優先権証明書類等は新たな出願と同時に提出されたものとみなされます(分割・変更の記事参照)。
7. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「証明書類の期限」「未提出の効果(失効か、出願却下か)」「通知後の提出」「第43条の2の要件(故意でない)」「WTO加盟国の国民の優先権」「分割出願での証明書類の期限」 | 1年4月/12月/新出願から3月。失効するのは「主張」であり出願ではない |
| 論文式 | 外国出願→日本出願のタイムラインで、優先権主張の可否・手続・効果を論じさせる。国内優先権との複合も | 〔表2〕で実体と手続を分け、【図3】で失効・救済を書く |
| 口述 | 「パリ条約による優先権の主張の手続を述べよ」「優先権証明書類等を提出しないとどうなるか」 | 〔表1〕 |
〔表6〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 実体はパリ条約第4条、手続は第43条。書面(第1項)+優先権証明書類等(第2項、最先の日から1年4月)。未提出は主張の失効(第4項)だが、通知→省令期間内の提出で救済(第6項〜第9項)。
- 第43条の2:優先期間徒過の回復(故意でない場合、省令期間内)。第43条を準用。
- 第43条の3:WTO加盟国・特定国への拡張。第43条・第43条の2を準用。
- 分割・変更では証明書類の期限が「新出願から3月」まで延び、もとの出願の書類はみなし提出(第44条第3項・第4項)。
