小学生でも分かる特許法 / B. 出願・審査の手続 #15
外国の出願人が日本に出願するとき、翻訳が間に合わないことがあります。外国語書面出願は、明細書等を外国語のまま出願して出願日を確保し、翻訳文を後から出せる制度です。「外国語書面」が原文として基準になる点が、この制度のいちばん大事なところです。
LEVEL 1イメージでつかむ
翻訳している間に、誰かに先を越されたら?
アメリカの会社が、日本でも特許をとりたいと思いました。でも出願書類は英語です。日本語に翻訳するには時間がかかります。翻訳している間に、日本で誰かが同じ発明を出願したり、発明が公開されたりしたら、負けてしまいます(先願主義・新規性)。
英語のまま先に出して、日本語訳は後から
そこで外国語書面出願です。英語(経済産業省令で定める外国語)で書いた書類をそのまま出して、出願日を確保します。日本語の翻訳文は、後から(優先日等から1年4か月以内に)出せばよいのです。
【図1】外国語書面出願のタイムライン。
「本物」は英語の原文
後から出す日本語訳が、もし間違っていたら? その場合、正しいのは英語の原文です。翻訳の間違い(誤訳)は、原文の範囲内で直すことができます。逆に、原文に書いていないことを日本語訳に足すことはできません。
- 外国語のまま出願して出願日を確保し、翻訳文は後から出せる(外国語書面出願)。
- 翻訳文を出さないと出願は取り下げたことになる。
- 本物は外国語の原文。誤訳は原文の範囲で直せる。
※翻訳文の期限の起算、出し忘れの救済、誤訳の訂正の手続、原文が基準になる場面などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第36条の2の構造
| 項 | 役割 | 内容(要旨) |
|---|---|---|
| 第1項 | 何を出せるか | 明細書・特許請求の範囲・必要な図面・要約書に代えて、明細書・特許請求の範囲に記載すべき事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面と図面(外国語書面)、要約書に記載すべき事項を外国語で記載した書面(外国語要約書面)を願書に添付できる |
| 第2項 | 翻訳文の期限 | 外国語書面出願の出願人は、出願の日(優先権主張があれば優先日・最先の日)から1年4月以内に、外国語書面・外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出しなければならない。ただし、分割・変更・実用新案登録に基づく特許出願の場合は、1年4月経過後でも、その分割等の日から2月以内に限り提出できる |
| 第3項 | 通知 | 期間内に翻訳文の提出がなかったときは、特許庁長官が出願人に通知する |
| 第4項 | 救済① | 通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、翻訳文を提出できる |
| 第5項 | 取下げ擬制 | 第4項の期間内に外国語書面(図面を除く)の翻訳文の提出がなかったときは、出願は第2項本文の期間の経過の時に取り下げられたものとみなす |
| 第6項 | 救済②(回復) | 取下げ擬制された出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り翻訳文を提出できる。ただし故意に第4項の期間内に提出しなかったと認められる場合は除く |
| 第7項 | みなし提出時期 | 第4項・第6項により提出された翻訳文は、第2項本文の期間満了時に提出されたものとみなす |
| 第8項 | 翻訳文の地位 | 外国語書面の翻訳文は願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面と、外国語要約書面の翻訳文は要約書とみなす |
〔表1〕第36条の2の項ごとの内容(e-Gov法令検索、2026年9月参照、要旨)。現行条文は第8項までです。
条文を読む ― 第2項本文(期限)
……外国語書面出願……の出願人は、その特許出願の日(……優先権の主張を伴う特許出願にあつては、……最先の日。第六十四条第一項において同じ。)から一年四月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。ただし、当該外国語書面出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願である場合にあつては、本文の期間の経過後であつても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から二月以内に限り、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出することができる。
flowchart TB
A["外国語書面出願(第1項)"] --> B{"優先日等から1年4月以内に翻訳文を提出したか(第2項本文)
分割等なら分割等の日から2月以内(ただし書)"}
B -- "提出した" --> OK["翻訳文=明細書等とみなす(第8項)→ 審査へ"]
B -- "していない" --> C["特許庁長官が通知(第3項)"]
C --> D{"省令期間内に提出したか(第4項)"}
D -- "提出した" --> OK2["期間満了時に提出したものとみなす(第7項)"]
D -- "していない" --> E["出願は第2項の提出期間経過時に取り下げたものとみなす(第5項)"]
E --> F{"故意でなく、省令期間内に提出したか(第6項)"}
F -- "提出した" --> OK3["回復(第7項でみなし提出)"]
F -- "していない/故意" --> X["取下げ確定"]
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style OK3 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
【図2】翻訳文の提出と取下げ擬制・回復の分岐図。
- 外国語書面+外国語要約書面で出願できる(第1項)。翻訳文は優先日等から1年4月以内(分割等は2月)(第2項)。
- 未提出なら通知→省令期間内に提出可→それでもなければ取下げ擬制→故意でなければ回復(第3項〜第7項)。
- 翻訳文は明細書等とみなす(第8項)。ただし原文は外国語書面。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 「外国語書面」が基準になる場面
外国語書面出願の最大の特徴は、外国語書面(原文)が、通常の出願における「願書に最初に添付した明細書等」の役割を果たすことです。
| 場面 | 通常の出願 | 外国語書面出願 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 補正の範囲(新規事項) | 当初明細書等の範囲内 | 翻訳文の範囲内。ただし誤訳訂正書による補正は外国語書面の範囲内 | 第17条の2第3項括弧書き・第2項 |
| 拡大先願の引用(他の出願となるとき) | 当初明細書等 | 外国語書面 | 第29条の2括弧書き |
| 国内優先権の基礎 | 先の出願の当初明細書等 | 先の出願の外国語書面 | 第41条第1項・第2項括弧書き |
| 翻訳文が原文の範囲外 | ― | 拒絶理由(第49条第6号)・無効理由 | 第49条第6号 |
| 出願公開 | 明細書等を掲載 | 外国語書面・外国語要約書面も掲載 | 第64条第2項第6号 |
| 分割の基礎 | 原出願の当初明細書等 | 原出願の外国語書面 | 審査基準 第VI部 第1章 第1節2.2.2 |
〔表2〕外国語書面が基準になる場面。
【図3】原文・翻訳文・補正の関係の模式図。
2. 誤訳訂正書(第17条の2第2項)
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| いつ使うか | 外国語書面出願の出願人が、誤訳の訂正を目的として明細書等を補正するとき |
| 何を出すか | その理由を記載した誤訳訂正書(第17条の2第2項) |
| 効果 | 補正の範囲の基準が「翻訳文」から「外国語書面」になる(第17条の2第3項括弧書き)。誤訳訂正書で補正した後は、その補正後の明細書等も基準に加わる |
| 時期・目的の制限 | 第17条の2第1項(時期)、第4項〜第6項(シフト補正・目的・独立特許要件)は通常の補正と同じくかかる |
〔表3〕誤訳訂正書の整理。第17条の2の記事〔表1〕・レベル2を参照。
3. 期限の起算と特殊な出願
| 出願 | 翻訳文の期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 通常の外国語書面出願 | 出願の日から1年4月 | 第2項本文 |
| 優先権主張を伴う場合 | 優先日(複数なら最先の日)から1年4月 | 第2項括弧書き |
| 分割出願・変更出願・実用新案登録に基づく特許出願 | 上記経過後でも、分割等の日から2月以内 | 第2項ただし書 |
| 外国語でされた国際特許出願(PCT) | 別制度(第184条の4:優先日から2年6月〔国内書面提出期間〕)。第36条の2は適用されない | 第184条の4 |
〔表4〕翻訳文の期限の整理。
4. 図面の翻訳文の特則(第5項の括弧書き)
第5項は「外国語書面(図面を除く)」の翻訳文の提出がなかったときに取下げ擬制としています。図面中の説明の翻訳文が出されなくても、出願自体は取り下げられません(翻訳文を提出していない図面は、第36条の2第8項の願書添付図面とはみなされません)。
5. 通常の出願・PCTとの比較
| 通常の出願 | 外国語書面出願 | 外国語のPCT出願(国内移行) | |
|---|---|---|---|
| 出願時の書類 | 日本語の明細書等 | 外国語書面・外国語要約書面 | 国際出願(外国語) |
| 翻訳文 | 不要 | 優先日等から1年4月(分割等は2月) | 優先日から2年6月(国内書面提出期間) |
| 新規事項の基準 | 当初明細書等 | 翻訳文(誤訳訂正書なら外国語書面) | 翻訳文等(誤訳訂正書による場合は原文の範囲内) |
| 翻訳文未提出 | ― | 取下げ擬制(回復あり) | 取下げ擬制(回復あり) |
〔表5〕三者の比較。PCTの翻訳文提出は第184条の4、補正は第184条の12第2項。通常補正の基準は翻訳文等で、原文基準の誤訳訂正とは区別する。
6. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「翻訳文の期限の起算(優先日)」「分割出願の翻訳文の期限(2月)」「翻訳文未提出の効果(取下げ擬制と回復)」「誤訳訂正書による補正の範囲」「翻訳文が原文の範囲外の場合の拒絶理由(第49条第6号)」「第29条の2の引用は原文か翻訳文か」 | 〔表1〕〔表2〕〔表4〕 |
| 論文式 | 外国語書面出願で誤訳があった事例で、補正の可否・範囲・手続を論じさせる | 【図3】〔表3〕 |
| 口述 | 「外国語書面出願の翻訳文の提出期間は」「提出しないとどうなるか」 | 第2項・第5項 |
〔表6〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 原文=外国語書面。補正(誤訳訂正書)、拡大先願の引用、国内優先の基礎、第49条第6号の判断は原文が基準。
- 翻訳文の期限は優先日等から1年4月(分割等は2月)。未提出は通知→省令期間→取下げ擬制→故意でなければ回復。
- 第2項括弧書きの「第64条第1項において同じ」により、出願公開の起算も優先日基準であることが条文上確認できる。
