小学生でも分かる特許法 / A. 特許要件・発明 #5
「先に発表してしまったから、もう新しくない」。原則はそのとおりですが、発明者自身の行為による公開(または意に反する公開)なら、公開の日から1年以内に出願すれば、その公開は「なかったこと」にしてもらえます。ただし、手続と限界があります。
LEVEL 1イメージでつかむ
発表してから「しまった!」
第29条第1項(新規性)の記事で、「出願する前に世の中に知られてしまった発明は、特許を受けられない」という話をしました。
でも、こんなことはよくあります。学校の研究発表会で新しい発明を発表した。学会で論文を出した。展示会で見せた。そのあとで「特許を出しておけばよかった!」と気づく――。
こういうとき、原則どおりなら「もう新しくないからダメ」です。でも、それではあまりに気の毒だし、発表をためらう人が増えて、世の中の技術の進歩がおそくなってしまいます。
「1年以内なら、なかったことにする」カード
そこで特許法は、自分で発表してしまった場合(または自分の意に反して誰かにバラされた場合)に、発表した日から1年以内に出願すれば、その発表は「なかったこと」として扱ってくれます。これが新規性喪失の例外です。
【図1】救済カードのイメージ。発表の日から1年以内に出願し、「例外を使います」と申し出る。
でも、万能ではない
このカードには弱点があります。「なかったこと」になるのは自分の発表だけ。もし、あなたの発表を見た他の人が、自分より先に同じ発明を出願してしまったら、その人の出願には勝てません(出願日が発表の日までさかのぼるわけではないからです)。だから、発表してしまったら、できるだけ早く出願するのが正解です。
- 自分で発表してしまっても、発表の日から1年以内に出願すれば、その発表は「なかったこと」にしてもらえる。
- 「意に反して」バラされた場合も同じ。
- ただし出願日が早まるわけではない。他の人に先に出願されたら負ける。
※「申し出る」ための手続(書面の提出と期限)、公報に載った場合は使えないこと、などは正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
条文を読む ― 第1項と第2項
特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項各号のいずれかに該当するに至らなかつたものとみなす。
特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
部品に分解する
| 部品 | 第1項 | 第2項 |
|---|---|---|
| だれの発明か | 特許を受ける権利を有する者(の発明) | |
| どう公知になったか | その者の意に反して第29条第1項各号のいずれかに該当するに至った | その者の行為に起因して第29条第1項各号のいずれかに該当するに至った |
| 除外 | なし | 発明・実用新案・意匠・商標に関する公報に掲載されたことによる場合は除く |
| 期限 | 該当するに至った日から1年以内に、その者がした特許出願 | |
| 効果 | 第29条第1項および第2項の適用については、第29条第1項各号に該当するに至らなかったものとみなす | |
| 手続 | 条文上の手続要件なし | 第3項の手続が必要(書面+証明書) |
〔表1〕第1項と第2項の比較。「意に反して」か「行為に起因して」かの違いと、第2項だけに手続・公報掲載の除外がある点。
第3項・第4項 ― 手続とその救済
前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
timeline
title 第30条第2項の手続のタイムライン
公開(学会発表・販売など) : ここから1年以内に出願する(第2項)
特許出願 : 「適用を受けたい旨の書面」を出願と同時に提出(第3項)
出願の日から30日 : ここまでに「証明書」を提出(第3項)
30日経過後 : 責めに帰することができない理由があるときのみ救済(第4項)
【図2】第2項の手続のタイムライン。「1年」「同時」「30日」の3つの期限を区別する。
flowchart TB
A["出願前に発明が公知になった"] --> B{"だれの行為で?"}
B -- "権利者の意に反して
(盗まれた・約束を破られた等)" --> P1["第1項
手続不要"]
B -- "権利者自身の行為に起因
(発表・販売・公開等)" --> C{"公報への掲載によるものか?"}
C -- "はい" --> NG["第2項は使えない
(括弧書きで除外)"]
C -- "いいえ" --> P2["第2項
第3項の手続が必要"]
B -- "第三者が独自に公知にした" --> NG2["第30条の対象外
(新規性なし)"]
P1 --> D{"公知になった日から
1年以内の出願か?"}
P2 --> D
D -- "はい" --> OK["第29条第1項・第2項の適用について
公知にならなかったものとみなす"]
D -- "いいえ" --> NG3["適用なし"]
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style NG2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style NG3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
【図3】第30条の当てはめの分岐図。「だれの行為か」「公報掲載か」「1年以内か」の3つの分かれ道。
- 第1項=意に反する公知(手続不要)、第2項=自らの行為に起因する公知(公報掲載は除く。第3項の手続が必要)。
- どちらも「公知になった日から1年以内」の出願が条件。効果は「第29条第1項・第2項の適用について、公知にならなかったものとみなす」。
- 第2項の手続=出願と同時の書面+出願の日から30日以内の証明書。第4項に救済あり。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 平成30年改正 ― 「6月」から「1年」へ
猶予期間は平成30年改正で6月から1年に延長されました。特許庁の「平成30年改正法対応Q&A集」は、改正後の規定が適用されるのは原則として出願日が平成30年6月9日以降の出願であり、平成29年12月8日以前に公開された発明については改正後の規定は適用されない、と説明しています。
2. 「効果」の正確な理解 ― みなされるのは何か
| 論点 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 何について効くか | 第29条第1項(新規性)および第2項(進歩性)の適用について | 第30条第1項「同項及び同条第二項の規定の適用については」 |
| 出願日は早まるか | 早まらない。出願日はあくまで現実の出願日 | Q&A集 Q4-9「第2項の規定の適用を受けても、出願日は遡りません」(要旨) |
| 第三者の独自の公開・出願 | 効かない。発表を見た第三者が独自に発明して先に出願すれば、その出願(第29条の2・第39条)で拒絶されうる | Q&A集 Q4-9(要旨) |
| 第29条の2・第39条への効果 | 条文上、第30条が効くのは第29条第1項・第2項のみ | 第30条第1項の文言 |
〔表2〕第30条の効果と限界。「出願日が遡らない」ことから、他人の先の出願には勝てない。
【図4】第30条が効かない場面。Bの出願がAの出願より先なら、Aの発表が「なかったこと」になっても、Bの出願との先後関係は変わらない。
3. 第2項の手続 ― 3つの期限と例外
| 期限 | 内容 | 過ぎたら |
|---|---|---|
| 公知の日から1年 | この間に出願すること(第2項) | 適用なし。延長・救済の規定なし |
| 出願と同時 | 適用を受けたい旨を記載した書面を提出(第3項)。願書の特記事項欄への記載で足りる運用 | Q&A集は後からの追加を認めていない(要旨) |
| 出願の日から30日 | 証明書を提出(第3項) | 原則却下。責めに帰することができない理由があれば第4項の救済(理由がなくなった日から14日〔在外者は2月〕以内かつ期間経過後6月以内) |
〔表3〕第2項の3つの期限。第4項の救済は「証明書」の30日についてだけ。
4. 複数回公開したとき
Q&A集は、原則として公開行為ごとに手続が必要としつつ、先の公開と「密接に関連する」後の公開については証明書の提出を不要としています(要旨)。
| 場面(Q&A集の例、要旨) | 扱い | Q番号 |
|---|---|---|
| 異なる学会でそれぞれ発表 | それぞれ手続が必要 | Q4-4 |
| 論文発表後、その論文が図書館で閲覧可能になった | 密接に関連 → 後の公開の手続は不要 | Q4-3 |
| 異なる取引先へそれぞれ販売 | それぞれ手続が必要 | Q4-5 |
| 卸業者への納品と、その卸業者から販売者への納品 | 密接に関連 → 一つの手続で足りる | Q4-6 |
| 自分の投稿を他者がSNSでリポスト | 密接に関連 → 提出不要 | Q4-10 |
| 先の公開について手続をしていない | 後の関連する公開の手続も無効 | Q4-8 |
〔表4〕複数回公開の扱い(特許庁 平成30年改正法対応Q&A集の要旨)。「最初の公開」を必ず手続の対象にする。
5. 優先権・分割・変更との関係
| 場面 | 「1年」の起算 | 手続 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 国内優先権(第41条)を伴う後の出願 | 先の出願当初の開示に含まれ、先の出願で証明書を提出済みなら先の出願日。いずれかを満たさなければ後の出願日が、公開日から1年以内であること | 後の出願でも書面の記載は必要。証明書は先の出願で提出したものを援用できる | Q&A集 Q5-1(要旨)、第41条第2項 |
| パリ条約優先権を伴う出願 | 外国出願ではなく日本への出願が公知の日から1年以内であることが必要 | — | Q&A集 Q5-4(要旨) |
| PCT国際出願の国内移行 | 国際出願日が公知の日から1年以内 | 国内処理基準時の経過後30日以内に書面・証明書を提出 | Q&A集 Q5-5〜Q5-7(要旨)、第184条の14 |
| 分割出願(第44条)・変更出願(第46条)・実用新案登録に基づく特許出願(第46条の2) | 原出願で証明書を提出済みなら原出願日、未提出なら現実の新出願日が、公開日から1年以内であること | 第30条第3項の適用については出願日が遡及しない(第44条第2項ただし書等)。ただし、もとの出願で第30条第3項により提出した書面・証明書は、新たな出願と同時に提出されたものとみなす(第44条第4項等)ので、出し直しは不要 | 第44条第2項ただし書・第4項、第46条第6項、第46条の2第2項・第5項 |
〔表5〕他の制度と組み合わさる場面。
6. 第1項(意に反して)の運用
Q&A集は、第1項については第3項の手続は不要で、審査で新規性がないと指摘されたときに、意に反して公開されたことを意見書等で説明し、契約書などで証明すればよい、としています(Q6-1〜Q6-3、要旨)。
7. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「書面は出願と同時か」「証明書は30日以内か」「公報掲載は対象か」「1項に手続は必要か」「進歩性にも効くか」「出願日は遡るか」の正誤 | 1年/同時/30日の3期限。第4項の救済は証明書のみ。第2項の公報掲載の除外 |
| 論文式 | 発表→第三者の出願→本人の出願、というタイムラインで、第30条・第29条の2・第39条の関係を論じさせる | 【図4】の構造。「第30条は出願日を遡らせない」を明記する |
| 口述 | 「第30条第2項の手続を述べよ」「第1項と第2項の違いは」 | 〔表1〕〔表3〕を口頭で言えるようにする |
〔表6〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 猶予期間は1年(平成30年改正)。効果は第29条第1項・第2項について「公知にならなかったものとみなす」だけで、出願日は遡らない。
- 第2項の手続は「出願と同時の書面」+「出願の日から30日以内の証明書」。救済(第4項)は証明書のみ。
- 複数回公開は原則それぞれ手続。密接に関連する後の公開は不要。最初の公開の手続を落とすと後も無効。
- 国内優先は先の開示範囲内かつ証明書提出済みなら先の出願日、それ以外は後の出願日が基準。分割等は原出願の証明書提出済みなら原出願日、未提出なら現実の出願日が1年の基準。提出済み書類にはみなし提出がある。
