小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #7
先にだれかが登録した目じるしと、そっくりな目じるしを、同じような商品に使おうとしても、登録はできません。お客さんが「同じお店のものだ」とまちがえてしまうからです。この記事では、「似ている」をどうやって決めるのか(類否=るいひ)と、先の人の「いいよ」があれば例外的に登録できる新しいしくみ(コンセント制度)を、3つのレベルで説明します。類否の考え方は、このシリーズのほかの記事でも何度も使う土台です。
LEVEL 1イメージでつかむ
先に登録された目じるしと「そっくり」はダメ
商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。パンのふくろに書いてあるお店の名前やマークが、それです。
Aさんが、パンの目じるしとして「ほしぞらパン」を先に登録していたとします(これは説明のために作った、実在しない名前です)。あとからBさんが、パンの目じるしとして「ほしそらパン」を登録したいと申しこみました。
2つはそっくりです。お客さんは「Aさんのお店のパンかな」とまちがえて買ってしまうかもしれません。それではAさんもお客さんもこまります。だから、Bさんの目じるしは登録できません。これが今回のルールです。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:先に登録している側(Aさん)
- 赤の枠:あとから申しこんで登録できない側(Bさん)
- 橙の丸:お客さん(買う人)
【図1】先に登録された目じるしと、そっくりな目じるしを同じような商品に使うと、お客さんがまちがえる。だから後からは登録できない。名前はすべて架空の例。
「似ている」は3つの見方でくらべる
2つの目じるしが似ているかどうかは、3つの見方でくらべます。
図は左右にスクロールできます。
【図2】見た目(外観=がいかん)・読み方(称呼=しょうこ)・意味(観念=かんねん)の3つでくらべる。例はすべて架空で、「似ていると言われやすい方向の例」として作ったもの。実際の判断は1件ごとに行われる。
3つのうち1つが似ていれば、すぐに「似ている」と決まるわけではありません。3つをあわせて考え、さらに「その商品は、ふだんどんなふうに売り買いされているか」も考えて、お客さんがお店をまちがえそうかどうかで決めます。
商品がぜんぜんちがえば、ぶつからない
目じるしが似ていても、使う商品がまったくちがえば、このルールには当たりません。たとえばAさんの「ほしぞらパン」がパンの目じるしで、Cさんが「ほしぞら」をえんぴつの目じるしにしたい場合です。パンとえんぴつでは、お客さんが同じお店のものだとまちがえる心配が小さいからです。
| Aさんの登録(先) | あとからの申しこみ | 目じるし | 商品 | このルールに当たる? |
|---|---|---|---|---|
| 「ほしぞらパン」/パン | 「ほしそらパン」/パン | 似ている | 同じ | 当たる |
| 「ほしぞらパン」/パン | 「ほしそらパン」/菓子(かし)パンのなかま | 似ている | 似ている | 当たる |
| 「ほしぞらパン」/パン | 「ほしぞら」/えんぴつ | 似ている | 似ていない | 当たらない |
| 「ほしぞらパン」/パン | 「こぐま堂」/パン | 似ていない | 同じ | 当たらない |
〔表1〕目じるしと商品の両方が「同じ・似ている」ときだけ、このルールに当たる。名前はすべて架空。商品どうしが似ているかどうかも、実際には決まった考え方で判断される(→レベル3)。
先の人の「いいよ」があれば登録できることもある(コンセント制度)
2024年4月から、新しいしくみが始まりました。先に登録していたAさんが「Bさんが登録してもいいよ」と言ってくれて、しかも、お客さんがお店をまちがえる心配がないときは、Bさんも登録できます。これを「コンセント制度」と呼びます(コンセント=英語で「同意」。法律の条文に出てくる言葉ではなく、実務での呼び名です)。
大事なのは、Aさんの「いいよ」だけでは足りないことです。お客さんを守るためのルールなので、「まちがえる心配がない」こともそろって、はじめて登録できます。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:そろえるべき2つの「かぎ」
- 青緑の枠:2つそろったときの結果
- 赤の文字:1つだけでは足りないことの注意
【図3】コンセント制度は「2つのかぎ」。先の人の「いいよ」と、お客さんがまちがえる心配がないこと。本記事作成者による模式図。
- 先に登録された目じるしと「同じ・似ている」目じるしを、「同じ・似ている」商品やサービスに使うものは、登録できない。
- 似ているかどうかは、見た目・読み方・意味の3つと、ふだんの売り買いのようすをあわせて考え、お客さんがお店をまちがえそうかで決める。
- 先の人の「いいよ」と「まちがえる心配がない」の2つがそろえば、例外として登録できる(コンセント制度)。
※「先に登録された」は、正確には「自分の出願の日より前に出願された、他人の登録商標」という条件があります(→レベル2・レベル3)。※「似ている」の決め方、長い名前の一部だけを取り出してくらべてよい場合、「まちがえる心配がない」の中身は、正確には細かい条件があります(→レベル3)。※コンセント制度は、2024年(令和6年)4月1日以後の出願に使えるしくみです(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
商標法第4条第1項第11号を読む
商標法第4条第1項は、「登録を受けることができない商標」を第1号から第19号までならべた条文です。その第11号が、先に出願されて登録された他人の商標とぶつかる場合を定めています。
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
| 部品 | 文言 | 意味(中学生向け) |
|---|---|---|
| いつの | 「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る」 | 自分の出願の「日」より前に出願されたもの。くらべるのは出願の「日」。同じ日の出願どうしは第11号ではなく、商標法第8条第2項の問題になる。 |
| だれの | 「他人の」 | 自分以外の人のもの。自分自身の登録商標とは、ぶつからない。 |
| どんな状態の | 「登録商標」 | すでに登録されている商標。まだ登録されていない先の出願は、この号の「登録商標」ではない(登録されれば当たることになる。商標法第15条の3が手当てしている)。 |
| 商標が | 「又はこれに類似する商標であつて」 | 同じ商標か、似ている商標。 |
| 商品・役務が | 「その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務…又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」 | 相手の登録で指定されている商品・役務(えきむ=サービス)と同じか、似ている商品・役務に使うもの。 |
| どうなる | 柱書「商標登録を受けることができない」 | 登録できない。審査では拒絶の理由になる(商標法第15条第1号)。 |
〔表2〕商標法第4条第1項第11号を部品に分解したもの。「意味」の欄は本記事作成者による説明。
商標と商品・役務の「4マス図」
第11号に当たるのは、「商標が同一又は類似」かつ「商品・役務が同一又は類似」のときです。どちらか一方でも「類似しない」なら、第11号には当たりません。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑のベタ塗り:たて・よこの見出し(くらべる組み合わせ)
- 赤の枠:第11号に該当する(登録できない)
- 青緑の枠:第11号に該当しない
【図4】商標と商品・役務の類否の組み合わせ。本記事作成者が商標法第4条第1項第11号の文言を図にしたもの。第11号に当たらないマスでも、ほかの号(たとえば商標法第4条第1項第15号)に当たることはある。
「先」かどうかは出願の日でくらべ、「登録」されているかは相手を見る
図は左右にスクロールできます。
【図5】第11号と時間の関係。本記事作成者が商標法第4条第1項第11号・第15条の3第1項の文言をタイムチャートにしたもの。商標法第15条の3第1項は「通知…することができる」という定め方である。時間軸に縮尺はありません。
商標法第4条第4項(コンセント制度)を読む
第一項第十一号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。
| 部品 | 文言 | 意味(中学生向け) |
|---|---|---|
| 前提 | 「第一項第十一号に該当する商標であつても」 | 第11号に当たることが出発点。ほかの号の例外ではない。 |
| 要件① 承諾 | 「商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており」 | 先の登録商標の持ち主(他人)が、「登録を受けること」をみとめている。 |
| つなぎ | 「かつ」 | ①と②の両方が必要。 |
| 要件② 混同のおそれなし | 「…商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがない」 | 先の商標の持ち主だけでなく、その商標を使うことをみとめられた人(専用使用権者・通常使用権者)の商品・役務とも、まぎれるおそれがない。 |
| 効果 | 「同号の規定は、適用しない」 | 第11号では拒絶されない。 |
〔表3〕商標法第4条第4項を部品に分解したもの。「意味」の欄は本記事作成者による説明。
審査の中での位置づけ
flowchart TB
A["商標登録出願"] --> B{"出願の日前に出願された
他人の登録商標と
商標・商品役務とも同一又は類似か"}
B -- "はい" --> C["拒絶理由の通知
(商標法第15条の2)"]
B -- "いいえ" --> OK1["第11号には当たらない
ほかの要件の審査へ"]
C --> D{"出願人の対応"}
D -- "意見書で類似しないと主張" --> E{"審査官の判断"}
D -- "指定商品・指定役務を補正して
重なりをなくす" --> E
D -- "他人の承諾+混同のおそれなしを主張
(商標法第4条第4項)" --> E
E -- "拒絶理由が解消" --> OK2["登録査定
(商標法第16条)"]
E -- "解消しない" --> NG["拒絶査定
(商標法第15条第1号)"]
style OK1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図6】第11号の拒絶理由が通知されたときの流れ。本記事作成者がフロー化したもの。出願人の対応はここに挙げたものに限られない(例外あり)。
| 条・項・号 | 役割 |
|---|---|
| 商標法第4条第1項第11号 | 出願の日前の出願に係る他人の登録商標と、商標・商品役務とも同一又は類似のものは登録できない。 |
| 商標法第4条第3項 | 第8号・第10号・第15号・第17号・第19号について「出願の時に該当しないものには適用しない」と定める。第11号は挙がっていない。 |
| 商標法第4条第4項 | 第11号の例外。他人の承諾+混同を生ずるおそれがない(コンセント制度)。 |
| 商標法第6条第3項 | 前項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない。区分が同じかどうかで類否は決まらない。 |
| 商標法第15条の3 | 先の出願がまだ登録されていないときの通知。 |
| 商標法第8条 | 先願。出願どうしの優先関係。ただし書にコンセント制度。 |
〔表4〕第11号のまわりの条文と役割の一覧。各条はe-Gov法令検索で2026年9月に確認。
- 第11号の部品は「出願の日前の出願」「他人の」「登録商標」「商標が同一又は類似」「指定商品・指定役務が同一又は類似」。
- 商標と商品・役務の両方が同一又は類似の「4マス」だけが第11号に当たる。
- 商標法第4条第4項は、第11号に当たることを前提に、「承諾」と「混同を生ずるおそれがない」の両方がそろえば第11号を適用しないとする。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 第11号の要件を一つずつ確認する
| 要件 | 条文上の帰結 | 注意点 |
|---|---|---|
| 「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る」 | 比較の単位は「日」。同日の出願どうしは第11号の対象外で、商標法第8条第2項・第5項が扱う。 | 引用商標の「登録」が自分の出願より前である必要は、文言上ない。先に出願されていればよい(図5のケース2)。 |
| 「他人の」 | 出願人自身の登録商標は引用されない。 | 登録商標の名義人と出願人とが一致しているかで決まる。改正前の実務で用いられていた、名義を一時的に一致させる手法(いわゆるアサインバック。実務上の呼称)は、この「他人の」を外すためのものだった(→5.)。 |
| 「登録商標」 | 商標登録を受けている商標(商標法第2条第5項の定義による)。未登録の先願商標そのものは第11号の引用商標にならない。 | 先願が未登録の段階では、商標法第15条の3第1項の通知ができる。通知ずみで先願が登録されたときは、あらためて商標法第15条の2の通知をする必要はない(商標法第15条の3第2項)。 |
| 「又はこれに類似する商標」 | 商標の同一又は類似。 | 判断手法は2.〜3.。 |
| 「指定商品若しくは指定役務…又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」 | 商品・役務の同一又は類似。商品と役務のあいだの類似もある(商標法第2条第6項)。 | 判断手法は4.。区分は類似の範囲を定めない(商標法第6条第3項)。 |
〔表5〕第11号の要件の整理。「条文上の帰結」は条文の文言から直接いえる範囲にとどめた。
逐条解説〔第22版〕1554頁〜1555頁。
逐条解説〔第22版〕1560頁。
審査基準第3十八・1は、第11号などは査定時に判断し、第8号・第10号・第15号・第17号・第19号は出願時と査定時の両方で該当することを要すると定めています。第11号には、出願時に引用商標が未登録だったことだけを理由とする救済はありません。出典:商標審査基準第3十八・1。
存続期間が切れた引用商標はどう扱われるか(審査基準)
商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号の「12. 存続期間経過後の引用商標の取扱いについて」は、引用商標の商標権の存続期間が経過した後も、6月の期間は「本号に該当すると判断する」とし、その6月の経過後は、商標原簿で存続期間の満了が確定された場合は本号に該当しないが、商標法第21条第1項の規定に基づく更新登録の申請がされているときは本号に該当すると判断する、と整理しています(実務上の取扱い。国際登録に基づく登録商標についても同旨の記載があります)。
通常の更新申請期間は存続期間満了前6月から満了日までです(第20条第2項)。満了後も6月以内は申請でき、割増登録料が必要です(第20条第3項・第43条第1項、施行規則第10条第2項)。その期間を過ぎても、故意による不申請でなければ、申請できるようになった日から2月以内、かつ満了後6月の期間が経過してから6月以内に、回復理由書を添えて申請できます(第21条第1項、施行規則第10条第3項・第4項)。出典:商標法第20条・第21条・第43条、商標法施行規則第10条。
2. 商標の類否 ― 最高裁判決と審査基準
(1)出発点となる最高裁判決(通称「氷山印事件」)
最高裁判所第三小法廷 昭和43年2月27日判決(昭和39年(行ツ)第110号、民集22巻2号399頁。「氷山印事件」は通称)は、旧商標法下の拒絶査定に関する事件で、商標の類否について次のように述べました。
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。
商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。
同判決の裁判要旨(裁判所ウェブサイト掲載)は、糸一般を指定商品とし「しようざん」の称呼をもつ商標と、硝子繊維糸のみを指定商品とし「ひようざん」の称呼をもつ商標について、外観・観念が著しく異なり、かつ硝子繊維糸の取引では称呼のみによって商標を識別して出所を知ることがほとんど行われないのが実情であるときは、両者は類似でないと認めるのが相当である、としています。
(2)審査基準の枠組み
商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号は、商標の類否を、外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する、としています。
| 要素 | 審査基準の定義 | 類否の見方(審査基準の要旨) |
|---|---|---|
| 外観 | 「外観とは、商標に接する需要者が、視覚を通じて認識する外形をいう」 | 需要者に強く印象付けられる両外観を比較し、外観全体の印象が紛らわしいかを考察する。 |
| 称呼 | 「称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音をいう」 | 音質・音量・音調・音節の各要素で共通・近似するところがあるか、称呼全体の印象が紛らわしいかを考察する。 |
| 観念 | 「観念とは、商標に接する需要者が、取引上自然に想起する意味又は意味合いをいう」 | 需要者が想起する意味又は意味合いが、互いにおおむね同一であるかを考察する。 |
〔表6〕外観・称呼・観念の定義。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号「2.」「3.」(2026年9月参照)。右列は要旨であり原文ではない。
| 観点 | 審査基準の内容(要旨) |
|---|---|
| 全体観察と分離観察 | 全体観察のみならず、商標の構成部分の一部を他人の商標と比較して類否を判断する場合がある(→3. 結合商標)。 |
| 離隔的観察 | 2つの商標を並べて見くらべるのではなく、時と場所を異にして接した場合を前提に判断する。 |
| 注意力の基準 | 指定商品・指定役務の主たる需要者層(専門的知識、年齢、性別等の違い)と取引の実情(日用品と贅沢品、大衆薬と医療用医薬品等の違い)を考慮し、需要者が通常有する注意力を基準とする。 |
| 考慮する取引の実情 | 指定商品・指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮する。当該商標が現在使用されている商品・役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しない。 |
〔表7〕観察方法と注意力の基準。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号「1.」の要旨(2026年9月参照)。
(3)外観・称呼・観念の架空例
| 要素 | 架空の引用商標 | 架空の出願商標 | どこが共通・近似するか | 見るべき点 |
|---|---|---|---|---|
| 外観 | KOGUMA | KOGUNA | 6文字中5文字が同じ位置で共通。差は「M」と「N」の1文字。 | 時と場所を変えて接したとき、外観全体の印象が紛らわしいか。 |
| 称呼 | ホシゾラ | ホシソラ | 4音中3音が共通。差は濁音「ゾ」と清音「ソ」。 | 相違する音が中間にあり、濁音と清音の差にとどまる。全体の語調・語感が近似するか。 |
| 称呼 | ミナト | ミナード | 長音の有無と、語尾の清音・濁音の差。 | 音数が少ない称呼では、1音の差が全体に与える影響が相対的に大きい。 |
| 観念 | 「こぐま」の文字 | 子どものクマの図形 | どちらからも「子どものクマ」の意味合いが想起されうる。 | 需要者が自然に想起する意味が、おおむね同一か。 |
| 観念 | 「星空」の文字 | 需要者になじみのない外国語で「星空」を意味する語 | 辞書上の意味は同じ。 | 審査基準は、需要者が直ちに理解できない外国語からはその意味の観念は生じないとする。 |
〔表8〕外観・称呼・観念の架空例。すべて本記事作成者が説明用に作った架空の商標で、類似・非類似の結論を示すものではない。実際の判断は、3要素の総合と取引の実情による。
| 判断要素 | 着目点(審査基準の要旨) | 審査基準が挙げる例(一部) |
|---|---|---|
| 音質 | 相違する音の母音が共通か、子音が共通か(50音図の同行)、清音・濁音・半濁音の差にすぎないか。 | 「ダイラマックス」と「ダイナマックス」/「ビュープレックス」と「ビューフレックス」 |
| 音量 | 相違が長音の有無、促音の有無、長音と促音の差などにすぎないか。 | 「モガレーマン」と「モガレマン」/「コロネート」と「コロネット」 |
| 音調 | 相違する音が弱音か、中間又は語尾に位置するか、語頭・語尾の強音が共通か。 | 「ダンネル」と「ダイネル」/「アプロトン」と「アクロトン」 |
| 音節 | 音数が多いか少ないか、一つのまとまった感じとしての語の切れ方が共通か。 | 「ビプレックス」と「ビタプレックス」 |
〔表9〕称呼の類否の判断要素。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号「3.(2)」の要旨(2026年9月参照)。例は審査基準が「類似すると判断する」方向の参考例として挙げるものの一部。審査基準は、語頭音に著しい差がある場合や少数音の称呼の場合など、類似しない方向の要素も挙げている(表では省略)。
この表の例は、商標全体の類否を決める例ではなく、称呼が類似する例です。音質・音量・音調・音節を比較したうえで、聴いたときの全体的な印象が紛らわしいかを考えます。1音の差でも、語頭か語尾か、全体が短いか長いかなどで評価が変わります。出典:商標審査基準第3十・3(2)。
flowchart TB A["出願商標と引用商標を特定する"] --> B["それぞれの外観・称呼・観念を認定する
(結合商標は分離観察の可否も検討)"] B --> C["外観・称呼・観念の
共通点と相違点を比較する"] C --> D["需要者に与える印象・記憶・連想等を
総合して全体的に観察する"] D --> E["指定商品・指定役務の
一般的・恒常的な取引の実情と
需要者が通常有する注意力を考慮する"] E --> F{"出所の混同を生ずる
おそれがあるか"} F -- "ある" --> G["商標は類似
商品・役務の類否の検討へ"] F -- "ない" --> H["商標は類似しない
第11号に当たらない"] style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:商標が類似しない(第11号に当たらない)結論
- 赤の箱:商標が類似する(商品・役務の類否の検討へ進む)結論
【図7】審査における商標の類否判断の手順。本記事作成者が商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十「1.」〜「3.」をフロー化したもの。実際の判断は段階を行き来する総合判断である。
3. 結合商標 ― 一部だけを取り出してくらべてよいか
「図形+文字」「文字+文字」のように複数の部分からなる商標(結合商標。講学上・実務上の呼称)では、一部だけを取り出して引用商標とくらべること(分離観察。同じく実務上の呼称)が許されるかが問題になります。
(1)最高裁判決
最高裁判所第二小法廷 平成20年9月8日判決(平成19年(行ヒ)第223号、集民228号561頁。「つつみのおひなっこや事件」は通称)は、結合商標と解されるものについて、構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、
その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである
と述べました。同判決はこの箇所で、最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁と、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁を参照しています。
前者の昭和38年12月5日判決(「リラ宝塚事件」は通称)の判示事項は、裁判所ウェブサイトによれば、一個の商標から複数の称呼・観念が生じる場合の類否判定と、リラ抱琴の図形と「宝塚」の文字との結合からなる商標が「宝塚」の商標と類似するとされた事例、です。
リラ宝塚判決は、図形と文字が分離して観察するのが不自然なほど不可分に結合していない本件事情の下で、「宝塚」の称呼・観念も生じ、引用商標と類似するとしました。SEIKO EYE判決は、眼鏡に使用される場合の「SEIKO」の強い出所識別力に対し、「EYE」は一般的・普遍的な文字であると評価し、特段の事情のない本件では「EYE」だけから出所識別の称呼・観念は生じないとしました。結合商標の一部を取り出せるかは、その構成と識別力、商品との関係によって異なります。出典:リラ宝塚判決1〜2頁、SEIKO EYE判決3〜4頁。
(2)審査基準の整理
| 場面 | 審査基準の内容(要旨) | 審査基準の例(一部) |
|---|---|---|
| 結合の強弱 | 各構成部分が、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合していないときは、一部からも称呼・観念が生じうる。文字の大小、書体の相違、著しく離れた配置、長い称呼、観念上のつながりの有無などを考慮する。 | ― |
| 識別力のない文字との結合 | 指定商品・指定役務との関係で、品質・産地等を表示する文字や慣用される文字を結合した商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似する。 | 「銀座小判」と「小判」(せんべい)/「グリーンジャイス」と「ジャイス」(被服)/「黒潮観光ホテル」と「黒潮」(宿泊施設の提供) |
| 需要者の間に広く認識された登録商標との結合 | 需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字・図形等を結合した商標は、外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似する。ただし、その部分が既成語の一部となっているような場合など、類似しないとされる例も挙げられている。 | ―(実在の著名な商標を用いた例示のため、本記事では掲載を省略) |
| 商号商標 | 「株式会社」「商会」「CO.」「Ltd.」等の文字を含む場合、これらを除外した称呼・観念も生ずる。 | ― |
| 地域団体商標 | 地域団体商標として登録された商標は、全体の構成を不可分一体のものとして判断する。 | ― |
〔表10〕結合商標についての審査基準の整理。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号「4.」の要旨(2026年9月参照)。原文の例示は表より多い。
flowchart TB
A["複数の部分からなる商標"] --> B{"各部分が、分離して観察することが
取引上不自然なほど
強く結合しているか"}
B -- "はい" --> W["全体で一つの商標として
引用商標とくらべる"]
B -- "いいえ" --> C{"ある部分が出所識別標識として
強く支配的な印象を与えるか"}
C -- "はい" --> P["その部分を取り出して
引用商標とくらべることが許される"]
C -- "いいえ" --> D{"それ以外の部分から
出所識別標識としての
称呼・観念が生じないか"}
D -- "生じない" --> P
D -- "生じる" --> W
style W fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style P fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:商標全体どうしをくらべる結論
- 赤の箱:一部を取り出して引用商標とくらべることが許される結論
【図8】結合商標の分離観察の考え方。本記事作成者が、平成20年9月8日最高裁判決の上記判示と商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十「4.」をもとにフロー化したもの。判決は「場合など」としており、ここに挙げた場合に限る趣旨ではない。全体でくらべた結果として類似とされることもある。
4. 商品・役務の類否
最高裁判所第三小法廷 昭和36年6月27日判決(昭和33年(オ)第1104号、民集15巻6号1730頁。「橘正宗事件」は通称)の裁判要旨(裁判所ウェブサイト掲載)は、旧商標法(大正10年法律第99号)第2条第1項第9号について、商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するとき同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合には、類似の商品にあたると解するのが相当である、としています。旧法についての判断である点に注意してください。
商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十「11. 商品又は役務の類否判断について」も、同一又は類似の商標を使用するときに同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品・役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断するとし、原則として「類似商品・役務審査基準」によるとしています。
| 類否の場面 | 審査基準が挙げる考慮要素(要旨) |
|---|---|
| 商品どうし | ①生産部門が一致するか ②販売部門が一致するか ③原材料及び品質が一致するか ④用途が一致するか ⑤需要者の範囲が一致するか ⑥完成品と部品との関係にあるか |
| 役務どうし | ①提供の手段、目的又は場所が一致するか ②提供に関連する物品が一致するか ③需要者の範囲が一致するか ④業種が同じか ⑤当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じか ⑥同一の事業者が提供するものであるか |
| 商品と役務 | ①商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるか ②商品と役務の用途が一致するか ③商品の販売場所と役務の提供場所が一致するか ④需要者の範囲が一致するか |
〔表11〕商品・役務の類否の考慮要素。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十 第4条第1項第11号「11.」の要旨(2026年9月参照)。
類似商品・役務審査基準は、同じ類似群コードを付した商品・役務を原則として類似すると推定します。区分が同じかどうかとは別です。たとえば第16類の書籍(26A01)と鉛筆(25B01)は類似しないと推定され、第14類の宝石箱と第20類の家具は同じ20A01で類似すると推定されます。出典:特許庁「類似群コード」の説明・例。
5. コンセント制度(商標法第4条第4項)
(1)改正の経緯 ― 改正前と現行
コンセント制度は、令和5年法律第51号(不正競争防止法等の一部を改正する法律。特許庁ウェブサイトによれば令和5年6月14日公布)で導入されました。特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」第7章は、改正の必要性を次のように説明しています。商標権は一度登録されると更新により半永久的に独占可能な権利であるところ、消費者に受け入れられ得る、限りある文字列等の中から活用できる商標を選ぶことが徐々に難しくなる傾向にある。我が国でもコンセント制度の導入はこれまでも議論されてきたが、単に当事者間で合意がなされただけでは、併存する類似の商標に関して需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれを排除できない等の理由から、導入されてこなかった。しかし、中小・スタートアップ企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするためには、新規事業でのブランド選択の幅を広げる必要がある。また、諸外国・地域では既にコンセント制度が導入され、グローバルな包括コンセント契約(海外展開する企業が、先行して複数の国で商標権を有する他の企業から、複数の国で併存して商標権を取得できるよう包括的に承諾を得るもの)に基づく商標の使用が可能となっているところ、日本で同様の手続ができないことから、我が国の企業だけが劣後することのないよう、国際的な制度調和の観点からも制度を整備する必要がある。以上が、同解説書が挙げる改正の必要性です。
出典:同解説書第7章47頁〜49頁。
timeline title コンセント制度の導入(令和5年法律第51号) 令和5年6月14日 : 改正法の公布 令和6年4月1日 : コンセント制度の施行 : この日以後にする商標登録出願に適用
図は左右にスクロールできます。
【図9】コンセント制度の導入のタイムライン。出典:特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」第7章、特許庁ウェブサイト「コンセント制度の導入」(2026年4月1日更新)。2026年9月参照。時間軸に縮尺はありません。
| 項目 | 改正前(令和6年3月31日までの出願) | 現行(令和6年4月1日以後の出願) |
|---|---|---|
| 第11号に当たる場合に、引用商標権者の承諾で登録できるか | できない。承諾を理由に第11号の適用を外す規定はなかった。 | できる場合がある。承諾かつ混同を生ずるおそれがないこと(商標法第4条第4項)。 |
| 併存を実現する手段として解説書が挙げるもの | 出願人と引用商標権者の名義を一時的に一致させて拒絶理由を解消し、登録後に再び移転する手法(いわゆるアサインバック。実務上の呼称)。 | 商標法第4条第4項の主張。 |
| 出願どうしの関係(商標法第8条) | ただし書なし。 | 商標法第8条第1項・第2項・第5項にただし書(承諾+混同を生ずるおそれがない)。 |
| 登録後に混同が生じたときの手当て | 商標法第24条の4・第52条の2は、商標権の移転等により類似の登録商標が別々の商標権者に属することとなった場合を対象としていた。 | 商標法第24条の4第1号・第2号に、第4条第4項・第8条ただし書により登録された場合が加わった。商標法第52条の2第1項は「第二十四条の四各号に掲げる事由により」と定める。 |
〔表12〕コンセント制度の改正前/現行の比較。出典:特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」第7章、e-Gov法令検索(2026年9月参照)。施行日は令和6年4月1日、商標法第4条第4項・第8条ただし書は施行日以後にする商標登録出願に適用され、施行日前の出願はなお従前の例による(改正法附則第5条第1項。解説書による)。
施行期日(改正法の公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日=令和6年4月1日。改正法附則第1条本文)と経過措置(改正法附則第5条第1項)は、同解説書第7章58頁〜59頁の記載によるものです。
出典:同解説書第7章50頁。
令和8年度受験案内2頁は、各試験が実施される日に施行されている特許法等から出題すると定めています。令和8年度短答式試験は2026年5月17日です。コンセント制度は2024年4月1日以後にされた出願に適用されます。出典:令和8年度受験案内、特許庁「コンセント制度の導入」。
(2)2つの要件と審査基準
| 要件 | 審査基準の内容(要旨) |
|---|---|
| 「他人の承諾」 | 出願に係る商標の登録について承諾する旨の引用商標権者の意思表示であって、査定時においてあることを要する。 |
| 対象となる商品・役務 | 第11号の判断で互いに同一又は類似とされた指定商品・指定役務のうち、出願人が出願商標を現に使用し、又は使用する予定の商品・役務と、引用商標権者等が現に使用し、又は使用する予定の商品・役務。 |
| 「混同を生ずるおそれ」の意味 | 出所についての混同だけでなく、引用商標権者と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認するおそれ(講学上「広義の混同」と呼ばれるもの)を含む。 |
| 時点・期間 | 査定時現在のみならず、将来にわたっても混同を生ずるおそれがないと判断できることを要する。 |
| 支配関係がある場合 | 引用商標権者が出願人の支配下にあるとき、出願人が引用商標権者の支配下にあるとき、両者が同一の者の支配下にあるときは、混同を生ずるおそれがないものとして取り扱う。 |
| 考慮事由 | ①両商標の類似性の程度 ②商標の周知度 ③商標が造語か、構成上顕著な特徴を有するか ④商標がハウスマークか ⑤企業における多角経営の可能性 ⑥商品間・役務間・商品と役務間の関連性 ⑦商品等の需要者の共通性 ⑧商標の使用態様その他取引の実情(使用する商標の構成、使用方法、使用する商品等、販売・提供方法、時季、地域、混同防止のための当事者間の取決め 等)。 |
| 同一商標・同一商品等 | 引用商標と同一の商標で、同一の指定商品・指定役務に使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いと判断する。 |
| 将来の混同を否定する方向の事情 | 査定後に変動しないと認められる事情が考慮される。将来にわたって変更しない旨の当事者間の合意(又はその要約)を記載した書類が提出された場合や、証拠から将来にわたって変動しないと認められる合理的な理由がある場合。 |
| 混同のおそれが認められるとき | 原則として、直ちに拒絶をすることなく、追加資料の提出等を求める。 |
〔表13〕商標法第4条第4項の要件と審査基準の整理。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十九 第4条第4項(先願に係る他人の登録商標の例外)の要旨(2026年9月参照)。
flowchart TB
A["出願商標が第11号に該当する"] --> B{"要件①
商標登録を受けることについて
引用商標権者の承諾があるか
(査定時)"}
B -- "ある" --> C{"出願人と引用商標権者に
支配関係があるか"}
B -- "ない" --> NG1["商標法第4条第4項は適用されない
第11号で拒絶"]
C -- "ある" --> OK["混同を生ずるおそれがないものとして扱う
第11号は適用しない"]
C -- "ない" --> D{"要件②
考慮事由を総合して、査定時も将来も
混同を生ずるおそれがないといえるか"}
D -- "いえる" --> OK
D -- "いえない" --> E["原則として追加資料の提出等を求める"]
E --> F{"追加資料をふまえて
混同を生ずるおそれがないといえるか"}
F -- "いえる" --> OK
F -- "いえない" --> NG2["第11号で拒絶"]
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style NG1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style NG2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図10】「承諾」と「混同を生ずるおそれがない」の2要件の分岐図。本記事作成者が商標法第4条第4項と商標審査基準〔改訂第17版〕第3 十九をフロー化したもの。
提出する資料は、引用商標権者が登録を承諾したことを確認できる書面と、現在・将来とも混同のおそれがないことを明らかにする資料です。前者には引用商標権者・登録番号、対象出願と商品役務、承諾する旨を記載し、後者には両商標の使用態様や合意内容などを示します。専用使用権者・通常使用権者がいる場合は、その使用との関係も対象です。承諾だけで混同の資料を省けるわけではありません。通常は拒絶理由通知への応答として提出しますが、引用登録商標が事前に明らかなら出願時や拒絶理由通知前の提出も可能です(Q&A・2-2)。適用を受けた登録は、公報の「同意併存登録」の表示やJ-PlatPatの同項目から確認できます。出典:商標審査便覧42.400.02、特許庁コンセント制度Q&A・4。
(3)第8条・第24条の4・第52条の2との関係
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:登録前の入口となる条文
- 橙の枠:2つの入口に共通する結果
- 藍の枠:登録後の手当て① 混同防止表示の請求
- 赤の枠:登録後の手当て② 商標登録の取消しの審判
【図11】コンセント制度をめぐる条文の相関図。本記事作成者が商標法第4条第4項・第8条・第24条の4・第52条の2(e-Gov法令検索、2026年9月参照)の文言をもとに作成したもの。商標法第24条の4第3号・第4号(査定等の謄本送達後の出願により生じた権利の承継、商標権の移転)は図では省略。
特許庁の改正解説書第7章は、コンセント制度により類似する登録商標が異なる権利者に属することとなった場合の手当てとして、商標法第24条の4(混同防止表示請求)と商標法第52条の2第1項の審判を挙げて説明しています。登録の後に混同が生じた場合は、これらの規定で対処する構造です。
| 比較項目 | 商標法第4条第1項第11号(+第4条第4項) | 商標法第8条第1項(+ただし書) |
|---|---|---|
| くらべる相手 | 出願の日前の出願に係る他人の登録商標 | 先の日にされた商標登録出願 |
| 拒絶理由(商標法第15条) | 該当(第15条第1号の「第四条第一項」) | 非該当(第15条第1号に第8条第1項は挙がっていない) |
| 異議理由・無効理由 | 該当 | 該当(商標法第43条の2・第46条第1項に第8条第1項が挙がっている) |
| 審査での処理 | 先願が登録されていれば第11号。未登録なら商標法第15条の3の通知。 | 審査では第11号で処理される構造。第8条第1項は、誤って後願が先に登録された場合などに異議・無効の場面で意味をもつ。 |
| コンセント制度 | 商標法第4条第4項 | 商標法第8条第1項ただし書 |
〔表14〕第11号と商標法第8条第1項の使い分け。条文の列挙はe-Gov法令検索で確認(2026年9月参照)。「審査での処理」の行は条文の構造からの本記事作成者の整理。商標法第8条の詳細は関連記事を参照。
6. 拒絶・異議・無効・除斥期間との対応
| 場面 | 条文 | 第11号違反は該当するか | 補足 |
|---|---|---|---|
| 拒絶理由 | 商標法第15条第1号 | 該当 | 「第四条第一項」が挙がっている。商標法第4条第4項の要件を満たせば第11号は適用されず、拒絶理由とならない。 |
| 登録異議の申立ての理由 | 商標法第43条の2 | 該当 | 商標掲載公報の発行の日から2月以内、何人も申立て可(関連記事:登録異議の申立て)。 |
| 無効理由 | 商標法第46条第1項第1号 | 該当 | 「第四条第一項…の規定に違反してされたとき」。後発的無効理由を定める同項第6号に第11号は挙がっていない。 |
| 除斥期間 | 商標法第47条第1項 | 対象 | 第11号違反を理由とする無効審判は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は請求できない。第10号・第17号(不正競争の目的)や第15号(不正の目的)のような除外の定めは、第11号にはない。 |
〔表15〕第11号と商標法第15条・第43条の2・第46条・第47条の対応表。各条はe-Gov法令検索で確認(2026年9月参照。2026年9月時点の商標法第47条第1項による)。
前段は、登録査定時の第4条第4項の要件を欠くため第11号違反となる場合を、第43条の2第1号・第46条第1項第1号の文言に当てはめた整理です。登録時に適法で、後から混同が生じた場合と区別します。後者でも、取消しには第52条の2の不正競争の目的など、その条文固有の要件が必要です。出典:商標法第4条第4項・第43条の2・第46条・第52条の2。
7. 特許法・実用新案法・意匠法との比較
| 項目 | 特許法第39条 | 実用新案法第7条 | 意匠法第9条 | 商標法(第4条第1項第11号・第8条) |
|---|---|---|---|---|
| くらべる範囲 | 同一の発明 | 同一の考案 | 同一又は類似の意匠 | 同一又は類似の商標 × 同一又は類似の商品・役務 |
| 異なる日の出願 | 最先の出願人のみ | 最先の出願人のみ | 最先の出願人のみ | 最先の出願人のみ(第8条第1項本文)。審査では先願の登録後に第11号で処理。 |
| 同日の出願 | 協議。不成立・不能なら、いずれも特許を受けられない | 協議。不成立・不能なら、いずれも登録を受けられない | 協議。不成立・不能なら、いずれも登録を受けられない | 協議。不成立等なら、くじで定めた順位の最先の出願人(第8条第5項本文)。先順位者全員の承諾と混同のおそれなしの要件を満たせば後順位者も登録できる(同項ただし書) |
| 相手の承諾による併存 | 規定なし | 規定なし | 第9条には規定なし | あり(第4条第4項、第8条第1項・第2項・第5項ただし書)。混同を生ずるおそれがないことも必要。 |
〔表16〕四法の先後願関係の比較。各条はe-Gov法令検索で確認(2026年9月参照)。各法の詳細・例外は省略している(例外あり)。
特許法・実用新案法・意匠法が保護するのは創作の成果で、同じものに二重に権利を与えないことが先願の規定の中心です。商標法が第11号で防ごうとしているのは出所の混同であり、だからこそ「混同を生ずるおそれがない」ことを条件に併存を認める商標法第4条第4項のような規定が置かれうる、と整理できます(本記事作成者の整理)。
試験での問われ方
- 短答式:第11号の文言の部品(「出願の日前」「他人の」「登録商標」)、商標法第4条第3項に第11号が挙がっていないこと、商標法第4条第4項が「承諾」かつ「混同を生ずるおそれがない」であること、商標法第8条第1項が拒絶理由でないこと、除斥期間の対象であること、商標法第24条の4各号・第52条の2の要件(「不正競争の目的で」「何人も」)などは、条文の文言をそのまま確認できる論点です。
- 論文式:第11号の拒絶理由通知を受けた出願人の対応を問う形では、類否を争う意見書、指定商品・指定役務の補正、商標法第4条第4項の主張などを、条文の根拠とともに整理できるかが問われうる論点です(出題を予想するものではありません)。
- 口述:第11号と商標法第4条第4項の文言を、部品ごとに口頭で再現できるようにしておくと、関連する条文(第8条、第24条の4、第52条の2)への展開に対応しやすくなります。
令和8年度短答式【商標】4の枝1は、侵害訴訟で第4条第1項第11号の無効の主張がされた場合の類否判断と、取引の実情の勘案を問います。問題全体の公式正解は4です。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。
- 第11号は「出願の日前の出願」「他人の」「登録商標」と、商標・商品役務の同一又は類似が要件。商標法第4条第3項の対象ではない。
- 商標の類否は、外観・称呼・観念等を総合して全体的に考察し、取引の実情を考慮して、出所の誤認混同のおそれで決める(最高裁昭和43年2月27日判決)。外観・称呼・観念の類似は「一応の基準」。
- 結合商標の一部を抽出してくらべることは、その部分が強く支配的な印象を与える場合や、それ以外の部分から称呼・観念が生じない場合などを除き、許されない(最高裁平成20年9月8日判決)。
- 商品・役務の類否は、同一営業主の製造・販売・提供に係るものと誤認されるおそれで判断し、審査では原則として類似商品・役務審査基準による。
- コンセント制度(商標法第4条第4項)は令和6年4月1日以後の出願に適用。「承諾」かつ「混同を生ずるおそれがない(将来にわたって)」の2要件。登録後の手当ては商標法第24条の4と第52条の2。
- 第11号違反は拒絶理由・異議理由・無効理由で、無効審判には5年の除斥期間がある(2026年9月時点の商標法第47条第1項による)。
