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小学生でも分かる意匠法|意匠法第9条 先願 ― 「似ているデザイン」まで含めて早い者勝ち

小学生でもわかる意匠法 8:先願(第9条)

小学生でも分かる意匠法 / A. 登録要件・意匠 #8

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同じデザインを2人が別々に思いついて、2人とも出願したら、どちらが登録されるのでしょうか。意匠法の答えは「先に出願した人」です。ただし意匠法は特許法とちがい、まったく同じデザインだけでなく「似ているデザイン」同士でも早い者勝ちを決めます。同じ日に出願したら「話し合い」で決め、まとまらなければ2人とも登録できません。この記事では、第9条の条文を分解したうえで、第3条の2(先願の一部との同一・類似)や第10条(関連意匠)とどう使い分けるのか、特許法第39条と何がちがうのかを整理します。

条文:意匠法第9条(第1項〜第5項)、あわせて第3条の2・第10条第1項・第7項・第17条・第48条審査基準:意匠審査基準 第III部 第5章「先願」参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「先に出した人」が勝つ

たとえば、Aさんが「取っ手が星の形をしたコップ」をデザインして、4月1日に特許庁へ出願しました。Bさんも、Aさんのことを知らずに同じコップを考えて、4月10日に出願しました。どちらも自分で考えたのですが、登録できるのは先に出願したAさんだけです。これを「先願(せんがん)」といいます。「先に考えた人」ではなく「先に出願した人」が勝つのがポイントです。

「そっくりさん」でも早い者勝ち

特許の世界では、「まったく同じ発明」のときだけ早い者勝ちを決めます。ところが意匠(デザイン)の世界では、「似ているデザイン」同士でも早い者勝ちを決めます。Bさんのコップが、Aさんのコップと「星の角の数がちょっとちがう」くらいの、そっくりさんだったとしましょう。それでもBさんは登録できません。

なぜかというと、意匠の権利(意匠権)は、登録したデザインだけでなくそれに似ているデザインにまで力が及ぶからです(→意匠法第23条の記事)。もしAさんのそっくりさんをBさんに登録させたら、AさんとBさんの権利が重なってしまい、どちらのものか分からなくなってしまいます。

Aさんの コップ Aさんのコップに「似ている」範囲 4月1日に出願(先願)

B そっくりさん → 登録できない

B 同じ → 登録できない

C 似ていない → 第9条には ひっかからない

星の取っ手のコップ(架空)

「似ている」範囲に入ったら、後の人は負け

橙の破線の円=Aさんの意匠に「似ている」範囲 赤い丸=登録できない後願(B) 緑の角丸=第9条の対象外(C)

図は左右にスクロールできます。

【図1】先願のイメージ。Aさんの出願より後に出したBさんの意匠が、Aさんの意匠と「同じ」でも「似ている」でも登録できない。似ていないCさんの意匠には第9条は関係しない。物品は架空の例。

同じ日に出したら、話し合い

AさんとBさんが偶然、同じ日に出願したらどうなるでしょう。時刻では決めません。特許庁から「2人で話し合って、どちらか1人に決めてください」と命令が来ます。話し合いがまとまれば、決まった1人が登録できます。話し合いがまとまらない(または話し合いができない)ときは、2人とも登録できません。くじ引きはありません。

flowchart TB
  S["同じ(または似ている)意匠の出願が2つ以上"] --> D{"出願した日は同じか?"}
  D -- "はい(同じ日)" --> F["特許庁長官が「話し合って決めて」と命令"]
  D -- "いいえ(ちがう日)" --> E["いちばん先に出した人だけ登録できる"]
  F --> G{"話し合いはまとまったか?"}
  G -- "はい(まとまった)" --> H["決めた1人だけ登録できる"]
  G -- "いいえ(まとまらない・できない)" --> I["2人とも登録できない"]
  style E fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
  style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
  style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図2】先願のルールの分岐図(意匠法第9条第1項・第2項の要旨)。凡例:緑=登録できる人がいる/赤=どちらも登録できない。

先に「考えた」人ではなく、先に「出願した」人が勝つ
「同じ」だけでなく「似ている」も対象
同じ日なら話し合い。まとまらなければ2人ともダメ
レベル1のまとめ

  • 同じデザインや似ているデザインを2人以上が出願したら、先に出願した人だけが登録できる(先願)。
  • 意匠は「似ている」範囲まで権利が及ぶので、「似ているデザイン」同士でも早い者勝ちを決める。
  • 同じ日に出願したら話し合い。まとまらなければどちらも登録できない。

※取り下げた出願の扱い、「出願した日」がずれる場合、同じ人が「きょうだいデザイン」(関連意匠)として出す場合、先の出願の「一部」に似ている場合などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第9条第1項 ― 異なる日に出願された場合

意匠法第9条第1項(原文)
同一又は類似の意匠について異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
部品 条文の文言 意味
① 対象 「同一又は類似の意匠について」 同一の意匠だけでなく類似の意匠も対象。特許法第39条第1項の「同一の発明について」とのいちばん大きな違い(→レベル3)。
② 状況 「異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたとき」 出願の「日」で比べる。時刻は問わない。
③ 効果 「最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる」 いちばん先の出願人だけが登録を受けられる。後の出願は拒絶される(第17条第1号)。

〔表1〕意匠法第9条第1項の分解。

第9条の趣旨(逐条解説)。特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1274頁は、第9条が、同一又は類似の二以上の意匠登録出願があった場合にいずれを意匠登録するかについて規定したものであり、二以上の出願があった場合の取扱いは旧法(大正10年法)にも規定されていて、本条による取扱いもこれと変わらない、と説明しています。
第1項について同書1275頁は、ここでいう「最先の意匠登録出願人」とは最先の意匠登録出願に係る限りにおける出願人であって、その者が同一又は類似の意匠について後日再び出願した場合にまで、最先の出願人であるという理由で意匠登録を受けられる趣旨ではない、と説明しています(本条の例外規定が関連意匠制度〔第10条〕であることも同頁で指摘されています)。また、先願であるということだけでは意匠登録されず他の登録要件を具備していなければならないこと、本項により後願とされるものについても、その出願後に先願が放棄・取下げ・却下され、又は拒絶をすべき旨の査定・審決が確定する場合があり得ること(→第3項)も、同頁で述べられています。

第9条第2項 ― 同日に出願された場合(協議)

意匠法第9条第2項(原文)
同一又は類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があつたときは、意匠登録出願人の協議により定めた一の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その意匠について意匠登録を受けることができない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
部品 条文の文言 意味
① 状況 「同一又は類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があつたとき」 同じ日の出願同士。
② 前段(協議成立) 「意匠登録出願人の協議により定めた一の意匠登録出願人のみが…意匠登録を受けることができる」 出願人同士の協議で決めた1人だけが登録を受けられる。
③ 後段(協議不成立・不能) 「協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その意匠について意匠登録を受けることができない」 まとまらなければ全員登録不可。くじの規定はない。

〔表2〕意匠法第9条第2項の分解。

第2項について(逐条解説)。青本〔第22版〕1275頁は、第2項が同日に二以上の出願があった場合の規定であるから同日のうちの時間の前後は問わないこと、また、協議が成立せず又は協議をすることができないときはいずれも登録を受けることができない点は特許の場合(特許法第39条第2項)と同じであることを説明しています。さらに同頁は、平成10年改正で第10条の類似意匠を改めて本項の例外として関連意匠を新設したものの、その要件を具備しない限り、同一又は類似する意匠についての意匠登録出願が同日に二以上あったときは、出願人の異同にかかわらず協議の対象となるとしています。これは、同一又は類似する意匠について二以上の意匠権を認めないという意匠法の原則によるものだと説明されています。

第9条第3項 ― 「初めからなかったものとみなす」出願と、その例外

意匠法第9条第3項(原文)
意匠登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その意匠登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その意匠登録出願について前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
先の出願がこうなった 第9条第1項・第2項の適用上の扱い 根拠
放棄・取下げ・却下 初めからなかったものとみなす(後の出願の先願にならない) 第3項本文
拒絶査定・拒絶審決の確定(一般) 初めからなかったものとみなす 第3項本文
第2項後段(協議不成立・不能)を理由とする拒絶査定・拒絶審決の確定 なかったものとはみなさない(先願として残り、第三者の後の出願を排除し続ける) 第3項ただし書

〔表3〕意匠法第9条第3項による「先願としての地位」の消滅と、その例外。

なぜただし書があるのか。もし協議不成立で拒絶された2つの出願が「なかったもの」になると、第三者がその後に同じ意匠を出願して登録できてしまい、協議を拒んだ側が第三者を立てて登録させるといった抜け道が生じます。ただし書は、協議不成立で拒絶された出願を先願として残すことで、この事態を防いでいます。この趣旨説明は本記事作成者の整理です。青本〔第22版〕1275〜1276頁の第3項の解説には、第3項が特許の場合(特許法第39条第5項)と同様に旧法の運用において行われていたことを明確にする意味で規定されたこと、平成8年改正で第3項中の「無効」が「却下」に改められたこと、平成10年改正により、意匠権の設定登録がされた出願と、互いに類似する同日出願間の協議が成立しなかったことにより拒絶査定・拒絶審決が確定した出願のみが先後願の判断において先願として取り扱われることになったことが説明されていますが、ただし書を置いた理由そのものについての記述は見当たりませんでした。

第9条第4項・第5項 ― 協議命令と、届出がないときのみなし

意匠法第9条第4項(原文)
特許庁長官は、第二項の場合は、相当の期間を指定して、同項の協議をしてその結果を届け出るべき旨を意匠登録出願人に命じなければならない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第9条第5項(原文)
特許庁長官は、前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、第二項の協議が成立しなかつたものとみなすことができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
timeline
    title 同日出願のときの流れ(意匠法第9条第2項・第4項・第5項)
    同じ日に2以上の出願 : 同一又は類似の意匠
    特許庁長官の協議命令(第4項) : 「相当の期間」を指定。命じ「なければならない」(義務)
    指定期間内 : 協議して結果を届け出る
    届出がないとき(第5項) : 協議不成立とみなす「ことができる」(裁量)
    協議不成立・不能 : いずれも登録不可(第2項後段)。先願の地位は残る(第3項ただし書)

図は左右にスクロールできます。

【図3】同日出願のときの手続の流れ。第4項は「命じなければならない」、第5項は「みなすことができる」と、語尾がちがう点に注意。(時間軸は縮尺なし)

項 主語 内容 語尾(義務か裁量か)
第4項 特許庁長官 相当の期間を指定し、協議して結果を届け出るよう出願人に命じる 「命じなければならない」=義務
第5項 特許庁長官 指定期間内に届出がないとき、協議不成立とみなす 「みなすことができる」=裁量

〔表4〕第9条第4項・第5項の対比。

第4項・第5項について(逐条解説)。青本〔第22版〕1276頁は、第4項が第2項の場合に協議をしてその結果を届け出るべき旨を命ずることを規定し、第5項がその命令に対する届出が指定期間内にされないときは協議が成立しなかったものとみなすことができる旨を規定したものだと説明しています。あわせて同頁は、平成23年改正で一部改正前の第4項が削除され、特許法と同様に冒認出願について先願の地位を認めることとされた経緯を述べています。
レベル2のまとめ

  • 第1項:「同一又は類似の意匠」について異なる日に出願があれば、最先の出願人のみ登録できる。
  • 第2項:同日なら協議で決めた1人のみ。協議不成立・不能ならいずれも登録できない。
  • 第3項:放棄・取下げ・却下・拒絶確定の出願は初めからなかったものとみなす。ただし協議不成立で拒絶確定した出願は残る。
  • 第4項:長官は協議命令を「しなければならない」。第5項:届出がなければ不成立と「みなすことができる」。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. なぜ「類似」まで先後願を決めるのか ― 第23条との対応

意匠権の効力は「登録意匠及びこれに類似する意匠」に及びます(意匠法第23条。→第23条の記事)。もし後願の類似意匠に別の意匠権を与えると、先願の意匠権の類似範囲と後願の意匠権の類似範囲が重なり、権利の抵触が生じます。第9条第1項・第2項が「同一又は類似の意匠」を対象にしているのは、この重なりを登録の段階で防ぐためだと整理できます(条文上の効力範囲からの本記事作成者の整理です。青本〔第22版〕1274〜1276頁の第9条の解説には、「類似」の意匠までを先後願の対象とした理由そのものについての記述は見当たりませんでした。なお同書1254頁は、第3条第1項第3号が類似の意匠を新規性のないものとした理由について、意匠の新規性の判断は外形的な物品の形状・模様等を比較して行うものであるから全く同一の意匠に限らず類似のものまで新規性がないとした、と説明しています)。

この考え方は、同じ人が出す類似意匠だけを例外的に認める関連意匠制度(第10条)と表裏の関係にあります(→本記事5.)。

2. 「出願の日」はいつか ― 補正・新出願で日がずれる場合

第9条は「日」で先後を決めるので、出願日がずれる場面を押さえておく必要があります。

意匠法第9条の2(原文)
願書の記載(第六条第一項第一号及び第二号に掲げる事項並びに同条第二項の規定により記載した事項を除く。第十七条の二第一項及び第二十四条第一項において同じ。)又は願書に添付した図面、写真、ひな形若しくは見本についてした補正がこれらの要旨を変更するものと意匠権の設定の登録があつた後に認められたときは、その意匠登録出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
場面 第9条の適用上の「出願の日」 根拠
通常の出願 現実の出願日 第9条第1項・第2項
要旨変更の補正が設定登録後に認められた 手続補正書を提出した時 第9条の2
補正却下後の新出願(第17条の3) 手続補正書を提出した時(要旨。第17条の3第1項は本記事では逐語引用していません。→補正の記事) 第17条の3
分割出願・変更出願 もとの出願の時(要旨。例外あり。→分割・変更の記事) 第10条の2・第13条
パリ条約による優先権主張を伴う出願 第9条の適用については第一国出願日(要旨。第15条第1項で準用する特許法第43条等。→第15条の記事) 第15条第1項

〔表5〕第9条の適用上の「出願の日」がずれる場面。審査基準第III部第5章5.〜7.と、そこに掲げる条文による要約。

timeline
    title 先願(第9条)と新規性(第3条第1項)の守備範囲(先の出願が全体意匠の場合)
    先の出願(甲) : 出願日T1
    後の出願(乙)がT1より後・公報発行前 : 甲は未公開 → 第9条第1項で乙を拒絶
    甲の設定登録・意匠公報発行 : ここから甲の意匠は公知
    後の出願(乙)が公報発行後 : 甲は公知意匠 → 第3条第1項も検討

図は左右にスクロールできます。

【図4】販売等による別の公開がなく、秘密意匠ではない例。公報発行前は第9条、公報で意匠の内容が公知となった後は新規性(第3条第1項)も検討する。第9条の適用が当然に消えるわけではない。(時間軸は縮尺なし)

出願公開がない、という意匠法の特徴。特許法とちがい、意匠法には出願公開制度がありません。ただし、出願人による販売や展示等で公報より先に公知になる場合はあります。公報で意匠の内容が公開される時期も、秘密意匠では通常と異なります。後の出願が、先の出願の公報発行より前にされたときに、後願を排除する条文が第9条(全体同士の同一・類似)と第3条の2(先願の一部との同一・類似)です。

3. 第3条の2との使い分け ― 「全体同士」か「一部」か

意匠法第3条の2(原文)
意匠登録出願に係る意匠が、当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であつて当該意匠登録出願後に第二十条第三項又は第六十六条第三項の規定により意匠公報に掲載されたもの(以下この条において「先の意匠登録出願」という。)の願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠の一部と同一又は類似であるときは、その意匠については、前条第一項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。ただし、当該意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であつて、第二十条第三項の規定により先の意匠登録出願が掲載された意匠公報(同条第四項の規定により同条第三項第四号に掲げる事項が掲載されたものを除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願があつたときは、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

第9条(先願) 先の出願の意匠「全体」と、後の出願の意匠「全体」

先願:コップ全体 ≒ 後願:コップ全体 同一又は類似 → 後願は登録不可 同日なら協議。出願人が同じでも適用(例外:第10条)

第3条の2(先願の一部) 先の出願の意匠の「一部」と、後の出願の意匠「全体」 先願:コップ全体(取っ手は一部) ≒ 後願:取っ手だけ 一部と同一又は類似 → 後願は登録不可 先願が後願の後に公報掲載されたことが前提。同一人はただし書で救済

全体同士=第9条 / 先願の「一部」=第3条の2 (どちらも先願が未公開の間に後願がされた場面)

紫の実線=第9条(全体どうしを比べる) 緑の破線=第3条の2(先願の「一部」) 太線=比べる対象の部分

図は左右にスクロールできます。

【図5】第9条と第3条の2の守備範囲の相関図。「取っ手だけ」は部分意匠などを想定した架空の例。条文はe-Gov法令検索、2026年9月参照。

観点 第9条(先願) 第3条の2(先願の一部と同一・類似)
比べる対象 「同一又は類似の意匠」=先後の出願の意匠全体同士 先の出願の「願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠の一部」と後の出願の意匠
先の出願に求められること 出願されていること(放棄・取下げ・却下・拒絶確定なら第3項でなかったものとみなす) 後の出願の後に「第二十条第三項又は第六十六条第三項の規定により意匠公報に掲載された」こと
同日出願 第2項(協議)で処理 「当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願」が対象なので、同日の出願は対象外
出願人が同一のとき 条文上の除外なし(同一人でも適用。例外は第10条の関連意匠) ただし書:出願人が同一で、先の出願の意匠公報(第20条第4項による秘密期間経過後の図面等の掲載を除く。基準は同条第3項の最初の公報)の発行の日前の出願なら適用しない
適用しない旨の明文 第10条第1項「第九条第一項又は第二項の規定にかかわらず」、第10条第7項 第10条第3項が秘密意匠の場合のただし書を読み替える
拒絶理由・無効理由 第17条第1号(第9条第1項・第2項)/第48条第1項第1号 第17条第1号/第48条第1項第1号

〔表6〕第9条と第3条の2の使い分け。第3条の2の詳細は同条の記事へ。

flowchart TB
  A["後の出願の意匠が、先の出願に関係して登録できないか?"] --> B{"後の出願の時点で、先の出願は
まだ意匠の内容が公知になっていないか?"} B -- "はい(未公開)" --> D{"先の出願の意匠「全体」と
同一又は類似か?"} B -- "いいえ(内容が公知)" --> C["第3条第1項・第2項も検討
第9条の検討を省略しない"] D -- "はい" --> E{"先の出願のほうが先の日か?"} E -- "はい" --> F["第9条第1項:後願は登録不可"] E -- "いいえ(同日)" --> G["第9条第2項:協議"] D -- "いいえ" --> H{"先の出願の意匠の「一部」と
同一又は類似か?"} H -- "はい" --> I{"先の出願が後の出願の後に
公報掲載されたか?"} I -- "はい" --> J{"出願人が同一で、
公報発行日前の出願か?"} J -- "はい" --> K["第3条の2ただし書:適用なし"] J -- "いいえ" --> L["第3条の2:後願は登録不可"] I -- "いいえ" --> M["第3条の2の対象外"] H -- "いいえ" --> N["第9条・第3条の2のいずれにも該当しない"] F -.->|"同一人の類似意匠なら"| O["第10条(関連意匠)で救済の余地"] style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style L fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style K fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style O fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図6】第9条・第3条の2・第10条の検討経路。販売等の別の公開と秘密意匠の公報時期にも注意。第3条と第9条は排他的な関係ではない。各分岐は「はい」で下(主経路)、「いいえ」で右へ進む。点線=別制度による救済の余地(手続の流れではない)。凡例:緑=後願を排除しない/赤=後願は登録不可。

4. 第10条(関連意匠)との関係 ― 同一人の類似意匠だけ例外

第9条は出願人が同じでも適用されます。同じ人が自分の意匠に類似する意匠を後から出願すれば、原則として第9条第1項で登録できません。この原則を「同一人」に限って外すのが関連意匠制度です。第10条第1項は「第九条第一項又は第二項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができる」と定め、第10条第7項は、同じ基礎意匠に係る関連意匠同士の出願について次のとおり定めています。

意匠法第10条第7項(原文)
関連意匠の意匠登録出願があつた場合において、当該意匠登録出願が基礎意匠(当該関連意匠に係る最初に選択した一の意匠をいう。以下同じ。)に係る関連意匠(当該基礎意匠の関連意匠及び当該関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠をいう。以下同じ。)にそれぞれ該当する二以上の意匠の意匠登録出願であつたときは、これらの意匠については、第九条第一項又は第二項の規定は、適用しない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
場面 第9条の扱い 根拠
他人同士の同一・類似意匠の出願 第9条第1項・第2項をそのまま適用 第9条
同一人が、本意匠に類似する意匠を関連意匠として出願(本意匠の出願日以後、本意匠の出願日から10年を経過する日前) 本意匠との間では「第九条第一項又は第二項の規定にかかわらず」登録できる 第10条第1項(→第10条の記事)
同一人が、同じ基礎意匠に係る関連意匠を2以上出願(関連意匠同士が類似) 関連意匠同士の間では第9条第1項・第2項を「適用しない」 第10条第7項
同一人が、本意匠と同一の意匠を出願 関連意匠は「類似する意匠」に限られるため第10条の救済はなく、第9条で処理(要旨。→第10条の記事) 第10条第1項の文言

〔表7〕第9条と第10条(関連意匠)の関係。

なお、同一人が同日に類似する2つの意匠を(関連意匠の出願としてではなく)出願した場合について、青本〔第22版〕1275頁は、関連意匠の要件を具備しない限り、同一又は類似する意匠についての意匠登録出願が同日に二以上あったときは出願人の異同にかかわらず協議の対象となると説明しています(→本記事レベル2の第2項の解説)。

審査基準第III部第5章4.4・4.7では、同日の同一・類似意匠を協議指令の対象とし、同一人の出願には協議指令と拒絶理由を同時に通知します。同一人の類似意匠は、第10条の全要件を満たし、他の拒絶理由がなければ関連意匠として登録できます。4.7.2では、指定期間内に本意匠・関連意匠とする補正や一方の取下げ・放棄により協議の理由が解消した場合、結果の届出がなくても協議不成立とはみなさない取扱いを定めています。 出典

5. 特許法第39条との対比

特許法第39条第1項(原文)
同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
観点 意匠法第9条 特許法第39条
対象の範囲 「同一又は類似の意匠」(第1項・第2項) 「同一の発明」(第1項・第2項)。類似(均等)は対象外
他の法域の出願との先後願 規定なし(意匠登録出願同士のみ) 第3項・第4項:特許出願と実用新案登録出願の間でも先後願を判断
同日・協議不成立の効果 「いずれも」登録を受けることができない(第2項後段) 特許出願同士:「いずれも」特許を受けることができない(第2項後段)。特許出願と実用新案登録出願の同日:「特許出願人は」特許を受けることができない(第4項後段)
なかったものとみなす 第3項(放棄・取下げ・却下・拒絶確定。協議不成立による拒絶確定は除く) 第5項(同旨。実用新案登録出願の放棄・取下げ・却下も含む。協議不成立による拒絶確定は除く)
協議命令 第4項(命じなければならない)/第5項(不成立とみなすことができる) 第6項/第7項(同旨)
同一人の後願を救う制度 第10条(関連意匠) なし(同一発明なら同一人でも第39条で拒絶)
未公開の先願の「一部」との関係 第3条の2(先願の意匠の一部と同一又は類似) 特許法第29条の2(要旨:先願の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一。本記事では原文未引用。→特許法第29条の2の記事)
出願公開との関係 出願公開なし。販売等で先に公知になる場合や秘密意匠を除き、公報で内容が公開される 出願公開あり(要旨)。先願が公開されれば第29条第1項の問題になる

〔表8〕意匠法第9条と特許法第39条の対比。「要旨」と記した欄は本記事で原文を引用していません。

実用新案法との関係。実用新案法にも先願の規定があります(実用新案法第7条、見出しは「先願」。e-Gov法令検索〔法令ID 334AC0000000123〕、2026年9月参照)。同条第2項は「同一の考案について同日に二以上の実用新案登録出願があつたときは、いずれも、その考案について実用新案登録を受けることができない。」と定めており、意匠法第9条第2項のような協議の規定はありません。また同条第3項は実用新案登録出願と特許出願との間の先後願を定めています。これに対し意匠法第9条は意匠登録出願同士だけを対象にしており、特許出願・実用新案登録出願との間の先後願は定めていません。意匠権と特許権・実用新案権が重なる場面は「抵触」として第26条・第31条・第32条で処理されます(→利用・抵触の記事、法定通常実施権の記事)。

6. 拒絶理由・無効理由への該当関係

規定 拒絶理由(第17条) 無効理由(第48条第1項) 備考
第9条第1項(異なる日) 該当第17条第1号 該当第48条第1項第1号 審査で見落とされても事後に無効審判で争える
第9条第2項(同日・協議) 該当第17条第1号 該当第48条第1項第1号 協議不成立で拒絶された出願は先願として残る(第3項ただし書)
第9条第3項〜第5項 ― ― それ自体は拒絶理由・無効理由ではなく、第1項・第2項の適用のための規定
第3条の2 該当第17条第1号 該当第48条第1項第1号 比較のため
第10条第1項・第4項・第6項 該当第17条第1号 第6項のみ該当第48条第1項第1号 第10条第1項・第4項違反は無効理由に挙げられていない(第48条第1項第1号の文言。→第10条の記事)

〔表9〕第9条関連の拒絶理由・無効理由への該当関係(第17条第1号・第48条第1項第1号の文言による)。

7. 審査基準 第III部 第5章「先願」について

審査基準第III部第5章2.は先願として扱う出願の類型、3.は全体・部分意匠の類否、4.は同日・異日の取扱いを定めています。5.では適法な分割・変更は原出願日、補正却下後の新出願は補正書提出日を基準とし、6.では効果の認められる優先権の第一国出願日、7.では原則として国際登録日を基準とします。第9条の比較は日単位です。組物・内装の固有の判断は第IV部第3章・第4章も併せて扱います。 出典

8. 試験での問われ方

試験種別 学習で整理したい論点 気をつける点
短答式 「類似の意匠にも第9条が適用されるか」「同日出願で協議不成立のときの扱い」「協議不成立で拒絶された出願は先願の地位を失うか」「同一人の出願にも適用されるか」の正誤 特許法第39条との違い(同一のみ/同一又は類似)、第3項ただし書、第10条第1項・第7項の「かかわらず」「適用しない」
短答式(事例型) 甲・乙の出願日、意匠の同一・類似、部分意匠か全体意匠か、本意匠・関連意匠かを組み合わせ、第9条・第3条の2・第10条のどれで処理するかを問う 図6の決定木で分岐を確定してから条文を当てる
論文式 甲乙の出願関係を与え、乙の出願が登録され得るかを論じさせる。第9条で拒絶される場合の乙の対応(第17条の3の新出願、関連意匠への変更など)まで整理する 「出願の日」がずれる場面(第9条の2、第17条の3)を落とさない
口述 「意匠法第9条と特許法第39条の違いを述べよ」「協議が成立しなかったときの効果は」 第2項後段と第3項ただし書をセットで答える

〔表10〕学習時の論点整理。実際の出題例は下記の過去問紹介に示しています。

直近の出題例(令和8年度 弁理士試験 短答式〔意匠〕)。問8は、同日出願となった類似の意匠についての協議命令に関し、正しいものがいくつあるかを問う形式の問題です。枝(イ)は協議により一方を関連意匠とした場合、枝(ロ)(ハ)は本意匠の登録後に相手方が登録を受ける場合、枝(ニ)は協議の結果と本意匠の登録、枝(ホ)は指定された期間内に協議の結果を届け出ない場合に関する枝です。また、問4の枝2は先願の全体意匠の一部に類似する部品の後出願に関する枝、問7の枝3は補正後の新出願と先の出願の拒絶理由に関する枝です。
出典:特許庁「令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験問題」(2026年9月参照)。枝の要旨は本記事作成者によるもので、枝の文言をそのまま引用したものではありません。公式正解は問8は3(正しいもの3つ)です。 問題PDF/公式解答
レベル3のまとめ

  • 第9条が「同一又は類似」を対象にするのは、意匠権の効力が類似範囲に及ぶ(第23条)ことと対応している。
  • 「出願の日」は第9条の2(要旨変更の補正)、第17条の3(補正却下後の新出願)などでずれることがある。
  • 先後願の全体同士なら第9条、先願の「一部」なら第3条の2の各要件を検討する。公報・販売等で内容が公知になれば新規性(第3条第1項)も検討する。
  • 同一人の類似意匠は第10条(関連意匠)で第9条の例外になる(第10条第1項「かかわらず」、第7項「適用しない」)。
  • 特許法第39条は「同一の発明」のみ。特許・実用新案の間の先後願(第3項・第4項)は意匠法にはない。
  • 第9条第1項・第2項違反は拒絶理由(第17条第1号)かつ無効理由(第48条第1項第1号)。

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