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小学生でも分かる商標法|商標法第8条 先願 ― 同じような「目じるし」は早い者勝ち。同じ日なら話し合い、だめなら「くじ」

小学生でもわかる商標法 第12回「先願」。先に出した人と同日の出願。

小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #12

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よく似た「目じるし」を、2人がべつべつに役所へ申しこんだら、どちらが登録してもらえるのでしょうか。商標法第8条は、その順番のルールです。ちがう日なら早い人、同じ日なら話し合い、話し合いがまとまらなければ「くじ」で決めます。さらに令和5年の改正で、「先の人がOKと言い、お客さんがまちがえないなら、あとの人も登録できる」という例外が加わりました。

条文:商標法第8条(第1項〜第6項)審査基準:商標審査基準〔改訂第17版〕 第8 第8条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「目じるし」の申しこみは、早い者勝ち

商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしを自分だけのものにしたいときは、特許庁(とっきょちょう)という国の役所に「登録してください」と申しこみます。この申しこみを「出願(しゅつがん)」といいます。

ある町に、「ほしぞらパン」という名前でパンを売りたい人が2人いたとします。こぐま堂さんは4月1日に、ミナトベーカリーさんは4月10日に申しこみました。同じパンに、そっくりな名前が2つ登録されたら、お客さんはどちらのお店のパンか分からなくなります。そこで法律は、「先に申しこんだ人だけが登録してもらえる」と決めています。これが「先願(せんがん)=先に願い出た人が勝ち」というルールです。

ちがう日に申しこんだとき 日にち 4月1日 こぐま堂さん 「ほしぞらパン」を出願 4月10日 ミナトベーカリーさん 「ほしぞらパン」を出願 いちばん早い → 登録してもらえる あとから → 原則、登録してもらえない

図は左右にスクロールできます。

【図1】ちがう日に申しこんだときは早い者勝ち。店名・商品名はすべて架空の例です。

同じ日だったら? ― まず話し合い、だめなら「くじ」

では、2人が同じ日に申しこんだらどうなるでしょう。朝に出したか夕方に出したかは関係ありません。同じ日なら「同時」としてあつかいます。

このときは、まず役所が「2人で話し合って、どちらが登録するか決めてください。結果を知らせてください」と言います。話し合いで1人に決まれば、その人が登録してもらえます。話し合いがまとまらなかったり、決められた日までに知らせがなかったりしたら、役所が公平な「くじ」をします。くじで1番になった人が登録してもらえます。

同じ日に申しこんだとき こぐま堂さん 4月1日に出願 ミナトベーカリーさん 4月1日に出願 ① 話し合い 役所が「話し合って 知らせて」と命じる 1人に決まった → その人が登録 まとまらない/知らせがない ② くじ 役所が公平な方法で 順番を決める くじで1番の人 → その人が登録

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:申しこんだ人(出願人)
  • 青緑の枠:①話し合い(協議)の段階
  • 藍の枠:②くじの段階
  • 橙のベタ塗り:登録してもらえるという結論

【図2】同じ日に申しこんだときの流れ(本記事作成者が模式化したもの)。店名は架空の例です。発明(特許)やデザイン(意匠)では、話し合いがだめだと「だれも登録できない」のに対し、目じるし(商標)だけが「くじ」です。

なぜ商標だけ「くじ」なの?

発明やデザインは、同じ日の2人の話し合いがまとまらないと、どちらも登録してもらえません。ところが商標は「くじ」で1人を決めます。商標は、新しく考え出したことへのごほうびではなく、商売で使う目じるしをえらんで登録するものです。だれも登録できないままにするより、1人に決めて使えるようにするしくみになっています(逐条解説〔第22版〕1587頁の趣旨をやさしく説明しています。詳しくはレベル3)。

新しい例外 ― 「いいよ」と言ってもらえて、まちがえられないなら

令和5年(2023年)に法律が変わり、例外ができました。先に申しこんだ人が「あなたも登録していいよ」と言ってくれて(これを承諾(しょうだく)といいます)、しかもお客さんが2つのお店をまちがえる心配がないときは、あとの人も登録してもらえます。このしくみは、実務では「コンセント制度」と呼ばれています(法律に書いてある名前ではなく、呼び名です)。

場面だれが登録してもらえる?レベル2・3での言い方
ちがう日に申しこんだいちばん早い人だけ異日出願・最先の商標登録出願人
同じ日に申しこんだ話し合いで決めた1人だけ同日出願・協議
話し合いがだめ/知らせがない役所のくじで1番の人だけ特許庁長官が行う公正な方法によるくじ
先の人の「いいよ」+まちがえる心配なしあとの人も登録してもらえるただし書(コンセント制度)

〔表1〕レベル1の言葉と、法律の言葉の対応。

① ちがう日 → 早い者勝ち② 同じ日 → 話し合い③ だめなら → くじ④ 例外 →「いいよ」+まちがえない
レベル1のまとめ
  • よく似た目じるしを、よく似た商品に使うための申しこみが重なったら、先に申しこんだ人だけが登録してもらえる。
  • 同じ日なら、まず話し合い。まとまらなければ、役所が公平なくじで1人を決める。
  • 先の人が「いいよ」と言い、お客さんがまちがえる心配がなければ、あとの人も登録してもらえる。

※「よく似た」かどうか、「まちがえる心配がない」かどうかは、正確には判断の基準があります(→レベル3)。
※ 先の申しこみが取り下げられたりすると、順番が変わります(→レベル2・レベル3)。
※ 役所の審査で実際に使われる条文は、この第8条だけではありません(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第1項 ― ちがう日の出願は「最先の商標登録出願人のみ」

商標法第8条第1項(原文) 同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なつた日に二以上の商標登録出願があつたときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。ただし、後の日に商標登録出願をした商標登録出願人(以下この項において「後出願人」という。)が、商標登録を受けることについて先の日に商標登録出願をした商標登録出願人(当該商標登録出願人が複数あるときは、当該複数の商標登録出願人。以下この項及び第六項において「先出願人」という。)の承諾を得ており、かつ、当該後出願人がその商標の使用をする商品又は役務と当該先出願人がその商標の使用をする商品又は役務(当該商標が商標登録された場合においては、その登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務)との間で混同を生ずるおそれがないときは、当該後出願人もその商標について商標登録を受けることができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
部品文言意味
何について同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標商標が同じか似ていて、しかも商品・役務(サービス)も同じか似ている場合。どちらかが似ていなければ、第8条の問題にならない。
いつ異なつた日に二以上の商標登録出願があつたとき比べるのは「日」。時刻は条文に出てこない。
だれが最先の商標登録出願人のみいちばん早い日に出願した人だけ。
どうなるその商標について商標登録を受けることができる本文(原則)。
例外(ただし書)先出願人の承諾を得ており、かつ、…混同を生ずるおそれがないとき①承諾と②混同のおそれなし、の両方がそろえば、後出願人「も」登録を受けられる。先出願人の登録が消えるわけではなく、両方が並んで登録される。

〔表2〕商標法第8条第1項の部品分解。

第2項〜第6項 ― 同じ日の出願、協議、くじ

商標法第8条第2項(原文) 同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について同日に二以上の商標登録出願があつたときは、商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。ただし、全ての商標登録出願人が、商標登録を受けることについて相互に承諾しており、かつ、それぞれの商標の使用をする商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないときは、当該全ての商標登録出願人がそれぞれの商標について商標登録を受けることができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第8条第3項・第4項(原文) 商標登録出願が放棄され取り下げられ若しくは却下されたとき、又は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときは、その商標登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。(第3項)
特許庁長官は、第二項本文の場合は、相当の期間を指定して、同項本文の協議をしてその結果を届け出るべき旨を商標登録出願人に命じなければならない。(第4項)
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第8条第5項(原文) 第二項本文の協議が成立せず、又は前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないとき(第二項ただし書に規定するときを除く。)は、特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた順位における最先の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができる。ただし、当該くじにより定めた順位における後順位の商標登録出願人(以下この項において「後順位出願人」という。)が、商標登録を受けることについて先順位の商標登録出願人(当該商標登録出願人が複数あるときは、当該複数の商標登録出願人。以下この項及び次項において「先順位出願人」という。)の承諾を得ており、かつ、当該後順位出願人がその商標の使用をする商品又は役務と当該先順位出願人がその商標の使用をする商品又は役務(当該商標が商標登録された場合においては、その登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務)との間で混同を生ずるおそれがないときは、当該後順位出願人もその商標について商標登録を受けることができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第8条第6項(原文) 第一項ただし書又は前項ただし書の場合において、先出願人又は先順位出願人の商標が商標登録され、その登録商標に係る商標権が移転されたときは、その登録商標に係る商標権者を先出願人又は先順位出願人とみなして、これらの規定を適用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
項場面本文(原則)ただし書
第1項異なった日の出願最先の商標登録出願人のみ先出願人の承諾+混同を生ずるおそれなし → 後出願人も
第2項同日の出願協議により定めた一の商標登録出願人のみ全員が相互に承諾+混同を生ずるおそれなし → 全員がそれぞれ
第3項出願がなくなった・決着した放棄・取下げ・却下、査定又は審決の確定 → 第1項・第2項の適用については初めからなかったものとみなすなし
第4項同日の出願(第2項本文の場合)特許庁長官が相当の期間を指定して、協議とその結果の届出を命じなければならないなし
第5項協議不成立/期間内に届出なし特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた順位における最先の商標登録出願人のみ先順位出願人の承諾+混同を生ずるおそれなし → 後順位出願人も
第6項先の商標が登録され、商標権が移転された移転後の商標権者を先出願人・先順位出願人とみなす(承諾をもらう相手が変わる)なし

〔表3〕商標法第8条 全6項の役割一覧(条文の文言を本記事作成者が整理)。

flowchart TB
  S["商標も商品・役務も
同一又は類似の出願が2つ以上"] --> D{"出願の日は同じ?"} D -- "同日" --> C2{"全員が相互に承諾
かつ混同を生ずるおそれなし?"} C2 -- "はい" --> OK2["第2項ただし書
全員がそれぞれ登録を受けられる"] C2 -- "いいえ" --> P4["第4項
特許庁長官の協議命令"] P4 --> K{"協議は成立し
届出があった?"} K -- "成立" --> OK3["第2項本文
協議で定めた一の出願人のみ"] K -- "不成立/届出なし" --> L["第5項本文
くじで定めた順位の最先の出願人のみ"] L --> C5{"先順位者全員の承諾+混同を生ずるおそれなし?"} C5 -- "はい" --> OK5["第5項ただし書:後順位の出願人も登録を受けられる"] C5 -- "いいえ" --> NG5["後順位の出願人は登録を受けられない"] D -- "異なった日" --> P1["第1項本文
最先の商標登録出願人のみ"] P1 --> C1{"先出願人の承諾あり
かつ混同を生ずるおそれなし?"} C1 -- "はい" --> OK1["第1項ただし書
後出願人も登録を受けられる"] C1 -- "いいえ" --> NG1["後出願人は
登録を受けられない"] style OK1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style NG1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:登録を受けられる結論
  • 赤の箱:登録を受けられない結論

【図3】商標法第8条の全体像(条文を本記事作成者がフロー化したもの)。くじの後のただし書の詳しい条件は図7でも扱います。

第3項 ― 先の出願が消えると、順番がくり上がる

第3項は、先の出願が「なくなった」ときのルールです。先の出願が取り下げられたり、却下されたりすると、その出願は第1項・第2項を当てはめるうえでは「初めからなかつたもの」とみなされます。すると、2番目だった人が「最先」になります。

(ア)はじめの状態 出願A(4月1日) 最先 出願B(4月10日) 2番目 出願C(4月20日) 3番目 (イ)出願Aが取り下げられた後(第3項) 出願A(取下げ) 初めからなかったものとみなす 出願B(4月10日) 最先にくり上がる 出願C(4月20日) 2番目

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の丸:そのときの最先の出願
  • 灰色の丸:2番目以降の出願
  • 赤の破線の丸:取り下げられ、初めからなかったものとみなされる出願

【図4】出願日の時系列図(本記事作成者が模式化したもの)。先の出願が第3項に当たると、後の出願の順位がくり上がります。商標も指定商品・指定役務も、互いに同一又は類似であることが前提です(架空の例)。時間軸に縮尺はありません。

第3項が挙げる場合条文の文言どうなる
放棄商標登録出願が放棄されその商標登録出願は、前二項(第1項・第2項)の規定の適用については、初めからなかったものとみなす
取下げ取り下げられ
却下若しくは却下されたとき
査定の確定商標登録出願について査定…が確定したとき
審決の確定…若しくは審決が確定したとき

〔表4〕商標法第8条第3項の5つの場合。「拒絶をすべき旨の」という限定が条文にないことに注意(→レベル3の4.)。

レベル2のまとめ
  • 第8条が働くのは、商標が同一又は類似で、かつ商品・役務も同一又は類似の出願が重なったとき。
  • 異なった日=最先の商標登録出願人のみ(第1項)。同日=協議(第2項)→協議命令(第4項)→くじ(第5項)。
  • 第1項・第2項・第5項には、それぞれ「承諾+混同を生ずるおそれなし」のただし書がある。第6項は、先の商標権が移転されたときに承諾の相手を読み替える規定。
  • 放棄・取下げ・却下、査定又は審決の確定があった出願は、第1項・第2項の適用については初めからなかったものとみなされる(第3項)。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 最重要の条文構造 ― 第8条第1項は拒絶理由に挙がっていない

商標法第15条第1号は拒絶理由を限定して列挙していますが、そこに挙がっている第8条の規定は第2項と第5項だけです。第8条第1項は挙がっていません。一方、登録異議の申立ての理由(商標法第43条の2)と商標登録の無効の理由(商標法第46条第1項)には、第8条第1項も含まれます(いずれもe-Gov法令検索で確認、2026年9月参照)。

規定拒絶理由
(商標法第15条)
異議理由
(商標法第43条の2)
無効理由
(商標法第46条第1項)
除斥期間
(商標法第47条第1項)
第8条第1項(異日出願)非該当該当該当対象(設定の登録の日から5年)
第8条第2項(同日出願・協議)該当該当該当対象
第8条第5項(くじ)該当該当該当対象
(参考)第4条第1項第11号該当該当該当対象

〔表5〕第8条各項と拒絶・異議・無効・除斥期間の対応。条文の列挙はe-Gov法令検索による(2026年9月参照)。除斥期間の年数は商標法第47条第1項による。

では、審査で「先に出願された似た商標」があるとき、審査官はどの条文を使うのでしょうか。条文を並べると、次の組合せで処理する構造になっています(本記事作成者の整理)。

  • 先の出願がすでに登録されている:商標法第4条第1項第11号(当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標…)で拒絶。
  • 先の出願がまだ登録されていない:商標法第15条の3第1項の通知。審査官は、当該他人の商標が商標登録されることにより当該商標登録出願が第十五条第一号に該当することとなる旨を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えることができる。先の商標が登録されたら、商標法第4条第1項第11号で拒絶する(同条第2項により、あらためて商標法第15条の2の通知をすることを要しない)。
  • 同日の出願:商標法第4条第1項第11号は「出願の日前」の出願が対象なので使えない。ここは商標法第8条第2項・第5項が拒絶理由として働く。
審査の段階(拒絶理由=商標法第15条) 先願が「異なった日」で、すでに登録済み → 商標法第4条第1項第11号で拒絶 例外:商標法第4条第4項(承諾+混同のおそれなし) 先願が「異なった日」で、まだ登録前 → 商標法第15条の3第1項の通知 先願が登録されたら第4条第1項第11号で拒絶 「同日」の出願 → 商標法第8条第4項の協議命令 → 商標法第8条第2項・第5項で拒絶 (第4条第1項第11号は「出願の日前」なので使えない) 登録の後 登録異議の申立て 商標法第43条の2 第8条第1項・ 第2項・第5項 第1項もここで登場 商標登録の無効の審判 商標法第46条第1項 第8条第1項・ 第2項・第5項 除斥期間あり (商標法第47条第1項)

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:出願の日が「異なった日」の場合の、審査でのあつかい
  • 藍の枠:出願の日が「同日」の場合の、審査でのあつかい
  • 赤の枠:登録の後の手続(登録異議の申立て・無効審判)

【図5】先願に関する条文の役割分担(条文の列挙をもとに本記事作成者が図にしたもの)。

ポイント:「後願が審査で拒絶される根拠は商標法第8条第1項である」という理解は、現行の商標法第15条の列挙と合いません。審査では商標法第4条第1項第11号(+商標法第15条の3)、登録後に誤りが見つかったときは商標法第8条第1項(異議・無効)、という役割分担を押さえます。
Q. 第8条第1項が実際に働くのはどんなとき?
A. 条文の構造からは、先の出願がまだ登録されていないのに、後の出願が先に登録されてしまった場合が典型です。このとき、後の出願の査定時には先の商標は「登録商標」でないため商標法第4条第1項第11号に当たらず、登録異議の申立て・無効審判の理由としては商標法第8条第1項が手がかりになります(本記事作成者の整理)。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』は、第8条第1項違反が無効理由であって拒絶理由ではないことについて、その理由を次のように説明しています。第8条第1項違反で拒絶すべき場合は必ず第4条第1項第11号違反になるから、第8条第1項違反を拒絶理由としておく意味がない。これに対し、これを無効理由にしておかないと、誤って後願が先に登録された場合にその後願に係る登録を無効にできない。
出典:逐条解説〔第22版〕1586頁〜1587頁。

第8条第3項は、放棄・取下げ・却下や査定・審決の確定があった出願を、第1項・第2項の適用上、初めからなかったものと扱います。登録された先願の権利まで消す規定ではありません。青本は、先願を理由とする拒絶では第4条第1項第11号で足りる一方、先後願を誤って後願が先に登録された場合には第8条が登録異議・無効の根拠として意味を持つと説明しています。出典:青本第22版・1586〜1587頁、商標法第8条・第43条の2・第46条。

2. 商標法第4条第1項第11号との使い分け

比較の観点商標法第4条第1項第11号商標法第8条第1項商標法第8条第2項・第5項
相手方の出願の時期当該商標登録出願の日前異なった日(先の日)同日
相手方の状態他人の登録商標商標登録出願(登録を問わない文言)商標登録出願
比べる対象登録商標と、その指定商品・指定役務(類似するものを含む)出願どうし(同一又は類似の商品・役務/商標)出願どうし
拒絶理由該当非該当該当
異議理由・無効理由該当該当該当
コンセント制度(呼称)の根拠商標法第4条第4項第8条第1項ただし書第8条第2項ただし書・第5項ただし書
類否判断の審査基準商標審査基準 第3 十(第4条第1項第11号)同基準 第8 第8条 1.が、第3の十(第4条第1項第11号)を準用

〔表6〕商標法第4条第1項第11号と第8条の使い分け。類否判断の中身は関連記事(商標法第4条第1項第11号)を参照。

flowchart TB
  A["審査中の出願Xと
同一又は類似の関係にある他人の出願Y"] --> B{"Yの出願日は?"} B -- "Xより後" --> N["Xの障害にならない
(Yの側で問題になる)"] B -- "Xと同日" --> D["第8条第4項の協議命令
第8条第2項・第5項の拒絶理由"] B -- "Xより前" --> C{"Yは登録済み?"} C -- "登録済み" --> E["第4条第1項第11号の拒絶理由
(第4条第4項の例外あり)"] C -- "登録前" --> F["第15条の3第1項の通知
(することができる)"] F --> G{"Yのその後"} G -- "登録された" --> E G -- "放棄・取下げ・却下
拒絶の確定" --> H["Yは障害でなくなる"] style N fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style D fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:他人の出願Yが、出願Xの障害にならない結論
  • 赤の箱:出願Xに拒絶理由が立つ(又は協議命令を受ける)結論

【図6】審査で使う条文の分岐図(条文を本記事作成者がフロー化したもの)。条番号はすべて商標法。

3. 同日出願の手続 ― 審査基準の整理

商標審査基準〔改訂第17版〕 第8 第8条は6項目からなります(特許庁ウェブサイト掲載PDFによる。2026年9月参照)。

項目見出し(要旨)内容の要旨
1.「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標」類否の判断は、同基準 第3 十(第4条第1項第11号)を準用。
2.協議命令と、第8条第2項・第5項の拒絶理由の通知同日に他人の出願と競合したときは、該当するすべての出願に対し、協議命令と拒絶理由の通知を同時に行う。事前に協議成立の書面が出ていれば、定めた一の出願人以外の出願に第8条第2項の拒絶理由を通知。不成立の書面が出ていれば、すべての出願に第8条第5項の拒絶理由を通知。
3.協議が成立した旨の書面が提出された場合協議により定めた一の出願人に係る商標が登録された後、他の出願について第8条第2項に基づき拒絶査定。
4.不成立の書面が提出された場合/いずれの書面も提出されない場合第8条第5項のくじの手続を行い、くじにより定めた一の出願人に係る商標が登録された後、他の出願について第8条第5項に基づき拒絶査定。
5.「一の商標登録出願人」に係る出願の拒絶査定等が確定した場合協議又はくじで定めた一の出願人の出願について、拒絶査定の確定又は取下げ、放棄等がされた場合には、他の出願人に係る出願が、商標登録を受けることができる出願となる。
6.第8条第1項、第2項及び第5項ただし書「承諾」の有無と「混同を生ずるおそれがないとき」の判断は、同基準 第3 十九(第4条第4項)2.及び4.を準用。

〔表7〕商標審査基準 第8 第8条の6項目(要旨は本記事作成者による要約。原文は特許庁ウェブサイトのPDFで確認)。

flowchart TB
  A["同日に、相互に同一又は類似の関係にある
他人の出願が競合"] --> B["すべての出願に対し
協議命令(第8条第4項)と
第8条第2項・第5項の拒絶理由を同時に通知"] B --> C{"指定期間内の届出"} C -- "協議成立の書面" --> D["協議で定めた一の出願人の商標を登録"] D --> E["他の出願は第8条第2項で拒絶査定"] C -- "全員の相互の承諾
+混同を生ずるおそれなし" --> F["第8条第2項ただし書
全員がそれぞれ登録を受けられる"] C -- "不成立の書面
又は書面の提出なし" --> G["特許庁長官が行う
公正な方法によるくじ(第8条第5項)"] G --> H["くじで定めた順位の最先の出願人の商標を登録"] H --> I{"後順位出願人が先順位出願人の承諾を得ており
かつ混同を生ずるおそれなし?"} I -- "はい" --> J["第8条第5項ただし書
後順位出願人も登録を受けられる"] I -- "いいえ" --> K["他の出願は第8条第5項で拒絶査定"] style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style J fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style K fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:その出願人の商標が登録を受けられる結論
  • 赤の箱:拒絶査定になる結論

【図7】同日出願の分岐図(商標法第8条と商標審査基準 第8 第8条 2.〜4.・6.を本記事作成者がフロー化したもの)。承諾が得られる時点は事案により前後します。

ポイント:第5項本文の柱書には「(第二項ただし書に規定するときを除く。)」という括弧書があります。全員の相互の承諾と混同のおそれなしがそろっている場合は、協議不成立・届出なしでもくじに進みません。また、第4項の協議命令は「第二項本文の場合」に限られています。

くじは、実施日の2週間以前に日時・場所を出願人に通知し、公開で行います。立会人は2人以上で、出願人の全部又は一部が欠席しても、ほかの者を立会人にして実施できます。くじ引き器を使い、結果は調書に記録します。出典:商標審査便覧44.01。第8条第5項の文言は「協議が成立せず、又は…届出がないとき」であり、特許法第39条第2項等の「協議をすることができないとき」とは書き方が異なります。

4. 第3項の読み方 ― 「拒絶をすべき旨の」がない

特許法第39条第5項は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき、意匠法第9条第3項は意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときと定めます。これに対し、商標法第8条第3項は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときで、「拒絶をすべき旨の」という限定がありません(いずれもe-Gov法令検索、2026年9月参照)。

比較の観点商標法第8条第3項特許法第39条第5項意匠法第9条第3項
放棄・取下げ・却下初めからなかったものとみなす同左(実用新案登録出願も対象)同左
査定・審決の確定「査定若しくは審決が確定したとき」(限定なし)「拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき」「拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき」
ただし書なしあり(原文はe-Govで確認)あり:前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。
登録された先願のその後の扱い
(作成者の整理)
第8条第1項・第2項の適用からは外れ、登録商標として商標法第4条第1項第11号で後願を排除先願の地位が残る先願の地位が残る

〔表8〕「初めからなかったものとみなす」規定の比較。最下行は条文の文言からの本記事作成者の整理。

意匠法第9条第3項ただし書は、同日出願で協議不成立により両方が拒絶された場合に、先願の地位を残して第三者の後願を排除するための規定です。商標法は協議不成立でも「くじ」で1人が登録を受けるため、同じ形のただし書を置いていません(条文の比較からの本記事作成者の整理)。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第3項について、商標登録出願の放棄、取下げ若しくは却下又は査定若しくは審決の確定があった場合の第1項又は第2項についての効果を規定したものであり、この場合は出願が取り下げられたものとみなされ、その後の出願が順次繰り上がる、と説明しています。また第5項の解説では、商標法では先願が拒絶されても第3項の規定により先願権は残らない、と述べています。
出典:逐条解説〔第22版〕1587頁。

第8条第3項は、確定した査定・審決を「拒絶」に限定していません。青本は、このみなしにより後の出願順位が繰り上がること、拒絶された先願の先願権も残らないことを説明しています。登録済みの商標との抵触は、第4条第1項第11号などの別の要件を併せて判断します。出典:青本第22版・1586〜1587頁。

5. ただし書(コンセント制度) ― 3つのただし書と第6項

「コンセント制度」は実務上の呼称で、条文にこの語はありません。令和5年法律第51号により、商標法第4条第4項の新設とあわせて、第8条第1項・第2項・第5項にただし書が置かれ、第6項が新設されました。

規定承諾する者承諾を受ける者混同を生ずるおそれの対象効果
商標法第4条第4項第4条第1項第11号の他人(引用商標権者)商標登録出願人出願人の使用をする商品・役務 と 他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品・役務第4条第1項第11号を適用しない
第8条第1項ただし書先出願人(複数あるときは、その複数)後出願人後出願人の使用をする商品・役務 と 先出願人の使用をする商品・役務(登録された場合は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品・役務)後出願人も登録を受けられる
第8条第2項ただし書全ての商標登録出願人が相互に承諾それぞれの商標の使用をする商品・役務との間全ての出願人がそれぞれ登録を受けられる
第8条第5項ただし書先順位出願人(複数あるときは、その複数)後順位出願人第1項ただし書と同じ構造後順位出願人も登録を受けられる

〔表9〕承諾+混同を生ずるおそれなしの規定の比較(e-Gov法令検索の原文を本記事作成者が整理)。

  • 承諾の時期:商標審査基準 第3 十九(第4条第4項)2.は、承諾は査定時においてあることを要するとしています(第8 第8条 6.で準用)。
  • 混同を生ずるおそれがない:同基準 4.は、査定時を基準として、査定時現在のみならず、将来にわたっても混同を生ずるおそれがないと判断できることを要するとしています。広義の混同(経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であるとの誤認)も含まれます。考慮事由や支配関係の取扱い(4.(3))の詳細は関連記事(商標法第4条第1項第11号・第4条第4項)を参照。
  • 第6項:先出願人・先順位出願人の商標が登録され、その商標権が移転されたときは、移転後の商標権者を先出願人・先順位出願人とみなします。承諾をもらう相手は、査定時の商標権者になります。第2項ただし書は第6項の対象に挙がっていません。
  • 登録後の手当て:商標法第24条の4第2号は、第八条第一項ただし書、第二項ただし書又は第五項ただし書の規定により商標登録がされたこと。を混同防止表示請求の事由に挙げています。商標法第52条の2第1項の取消審判も「第二十四条の四各号に掲げる事由」を要件としています(詳細は関連記事)。
比較の観点改正前(令和6年3月31日までの出願)現行(令和6年4月1日以後の出願)
第8条第1項・第2項・第5項ただし書なし。承諾があっても併存登録は認められないただし書あり。承諾+混同を生ずるおそれなしで併存登録
第8条第6項なし(第8条は第5項まで)新設
商標法第4条第4項なし新設
適用関係令和5年法律第51号 附則第5条第1項:改正後の第8条第1項、第2項及び第4項から第6項までの規定は、施行日以後にする商標登録出願について適用し、施行日前にした商標登録出願については、なお従前の例による(特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」第7章による)

〔表10〕改正前と現行の区別。施行日=令和6年4月1日(同解説書 第7章、2026年9月参照)。

逐条解説書の説明:令和5年法律改正解説書 第7章は、改正の必要性として、中小・スタートアップ企業等の新規事業展開を後押しするためブランド選択の幅を広げる必要があること、諸外国・地域では既にコンセント制度が導入されていることを挙げています。第5項ただし書については、くじにより順位が定まっているため、第1項ただし書と同様に、後順位の出願人が先順位の出願人から承諾を得ることとした、と説明しています。
改正の必要性(令和5年改正解説書):同解説書 第7章は、コンセント制度がこれまで導入されてこなかった理由を、単に当事者間で合意がなされただけでは、併存する類似の商標に関して需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれを排除できない等の理由による、と説明しています。そのうえで改正の必要性として、商標権は一度登録されると更新により半永久的に独占可能な権利であるところ、消費者に受け入れられ得る、限りある文字列等の中から活用できる商標を選ぶことが徐々に難しくなる傾向にあること、中小・スタートアップ企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするためには新規事業でのブランド選択の幅を広げる必要があること、諸外国・地域では既にコンセント制度が導入され、グローバルな包括コンセント契約に基づく商標の使用が可能となっているところ、日本で同様の手続ができないことから、我が国の企業だけが劣後することのないよう国際的な制度調和の観点からも整備する必要があること、を挙げています。
また、第4条第4項について同解説書は、過去の最高裁判決において第4条第1項第11号の類否判断に際して考慮することのできる取引の実情は一般的・恒常的な事情に限られてきたところ、同号の類否判断の方法は維持したまま、当事者間で将来にわたってその事情を変更しない旨の合意が行われていること等により登録査定後に当該事情が変動しないことを担保できるような場合には、これを一般的・恒常的な事情に準じたものとして同号の類否判断の枠外において考慮することが可能であると整理した、と説明しています。
出典:令和5年改正解説書 第7章 48頁〜50頁(PDF p.2〜p.4)。

コンセント制度では、承諾書に加えて、両商標の使用態様や取引の実情から現在・将来の混同のおそれがないことを示す資料が重要です。当事者間に合意があるだけで登録が決まる制度ではありません。審査基準第3・十九及び商標審査便覧42.400.01が判断方法を定めています。令和8年度の試験は実施日に施行されている法令が出題範囲で、短答実施日の2026年5月17日にはこの制度は施行済みです。出典:商標審査便覧、令和8年度受験案内。

6. 四法比較 ― 同日出願の結末がちがう

比較の観点特許法第39条実用新案法第7条意匠法第9条商標法第8条
対象同一の発明同一の考案同一又は類似の意匠同一又は類似の商品・役務について使用をする同一又は類似の商標
異日出願最先の特許出願人のみ(第1項)最先の実用新案登録出願人のみ(第1項)最先の意匠登録出願人のみ(第1項)最先の商標登録出願人のみ(第1項本文)
同日出願協議により定めた一の特許出願人のみ(第2項前段)いずれも登録を受けることができない(第2項。協議なし)協議により定めた一の意匠登録出願人のみ(第2項前段)協議により定めた一の商標登録出願人のみ(第2項本文)
協議不成立いずれも特許を受けることができない(第2項後段)―いずれも意匠登録を受けることができない(第2項後段)くじにより定めた順位における最先の出願人のみ(第5項本文)
協議命令第6項(届出がないときは協議不成立とみなすことができる=第7項)―第4項(みなし=第5項)第4項(届出がないときは第5項のくじへ)
他法域の出願との先後願実用新案登録出願との間であり(第3項・第4項)特許出願との間であり(第3項)なしなし
承諾による併存なしなしなしあり(第1項・第2項・第5項ただし書)
異日の先願規定は拒絶理由か各法の拒絶理由・無効理由等の条文は関連記事で確認第8条第1項は拒絶理由でない(商標法第15条)

〔表11〕先願規定の四法比較。特許法第39条、実用新案法第7条、意匠法第9条、商標法第8条の原文(e-Gov法令検索、2026年9月参照)を本記事作成者が整理。

同じ日の出願がぶつかったとき、最後はどうなる? 特許法第39条第2項 協議 → 不成立なら いずれも特許を受けられない (協議をすることができないときも同じ) 実用新案法第7条第2項 協議の規定なし いずれも登録を受けられない (同日というだけで) 意匠法第9条第2項 協議 → 不成立なら いずれも意匠登録を受けられない (協議をすることができないときも同じ) 商標法第8条第2項・第5項 協議 → 不成立・届出なしなら くじで定めた最先の1人が登録 (承諾+混同のおそれなしなら併存も)

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の枠:だれも権利を受けられない結末
  • 橙の枠:1人が登録を受けられる結末

【図8】同日出願の結末の4マス図(各法の原文を本記事作成者が図にしたもの)。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、同日出願で協議が成立しなかった場合に、特許法第39条第2項の規定と異なりくじで商標登録を受けるべき出願人を定めることとした理由を、次のように説明しています。商標法では先願が拒絶されても第3項の規定により先願権は残らない。したがって、拒絶になった商標と同一又は類似の商標についても、過去に先願があったという理由によっては拒絶されない。そのため、協議が成立しない場合に両方とも商標登録を受けられないものとすると、その直後に同様な商標登録出願をした者(当事者及び第三者を含めて)のほうに商標登録をしなければならない場合があるという不合理がある。また同解説は、くじで先後を定める立法例として鉱業法(昭和25年法律第289号)第27条第3項を挙げています。
出典:逐条解説〔第22版〕1587頁。特許法第39条第2項は協議が成立しない場合等の双方不特許、鉱業法第27条第3項は発送日時が同一で試掘出願地同士又は採掘出願地同士が重複する場合のくじを規定しています。出典:特許法第39条、鉱業法第27条。

7. 出願日が動く制度との関係(例外あり)

第8条は「出願の日」の先後で決まります。出願の日が、現実に書類を出した日と異なって扱われる制度(出願の分割、出願の変更、補正の却下後の新出願、優先権の主張、出願日の認定に関する規定など)が働くと、先後の関係も変わります。各制度の要件と効果は関連記事に回します(分割は第10条、変更は第11条・第12条、補正却下後の新出願は第17条の2で準用する意匠法第17条の3、優先権は第13条、出願日の認定は第5条の2)。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):同一人による複数の出願について、逐条解説〔第22版〕は、第1項に関し、類似関係にある商標についての商標登録出願において、それらが同一の出願人によるものである場合には第1項の適用はない、と説明しています。第2項についても、同一の出願人に係る類似関係にある商標の商標登録出願については第1項と同様に適用がない、としています。もっとも、第8条第1項の条文自体には「他人」の語がなく(商標審査基準 第8 第8条 2.は同日出願の場面を「他人の出願と競合したとき」と表現し、商標法第15条の3第1項も「他人の商標」としています)、この取扱いは条文上の帰結ではなく逐条解説の説明である点に注意してください。
出典:逐条解説〔第22版〕1586頁。

試験での問われ方

試験種別問われやすい切り口(本記事作成者の整理。出題を保証するものではありません)根拠の置き場所
短答式第8条第1項が拒絶理由か/異議・無効理由か。同日出願の結末(四法比較)。第3項の文言。ただし書の要件(承諾「かつ」混同のおそれなし)。第5項括弧書。第6項の対象に第2項ただし書がないこと。除斥期間の対象か。本記事 表3・表5・表8・表9・表11
論文式先願未登録の類似商標がある場合の審査の流れ(商標法第15条の3、第4条第1項第11号)と、出願人がとり得る対応(承諾の取得など)の条文への当てはめ。本記事 図5・図6
口述条文の文言の再現(「最先の商標登録出願人のみ」「特許庁長官が行う公正な方法によるくじ」など)、他法とのちがいの説明。本記事 レベル2の原文

〔表12〕試験での問われ方の整理(作成者の整理。断定ではありません)。

令和8年度短答式【商標】6の枝3は、同日になされた類似商標の出願の一方について補正が却下され、新出願をした場合を扱い、第8条第1項の無効理由が「常に」生じるかを問います。公式正解は3です。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。

レベル3のまとめ
  • 拒絶理由(商標法第15条第1号)に挙がるのは第8条第2項・第5項のみ。第8条第1項は拒絶理由でないが、異議理由(商標法第43条の2)・無効理由(商標法第46条第1項)であり、除斥期間(商標法第47条第1項)の対象でもある。
  • 異なった日の先願は、審査では商標法第4条第1項第11号(登録済み)と商標法第15条の3(登録前)で処理される。
  • 同日出願は、協議命令と拒絶理由の通知を同時に行い、協議成立なら一の出願人、不成立・届出なしならくじ。勝ち残った出願が登録された後に他の出願を拒絶査定(審査基準 第8 第8条 2.〜4.)。
  • 第3項は「査定若しくは審決が確定したとき」で、「拒絶をすべき旨の」の限定もただし書もない。
  • ただし書(コンセント制度=呼称)は令和6年4月1日以後の出願に適用。承諾は査定時に必要、混同のおそれは将来にわたって否定できることを要する(審査基準)。
  • 協議不成立の結末:特許・意匠は「いずれも受けられない」、実用新案は同日なら協議なく「いずれも受けられない」、商標は「くじ」。

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