MENU

小学生でも分かる商標法|商標法第7条の2 地域団体商標 ― 「地名+品物の名前」を、地域のなかまみんなの目じるしにするしくみ

小学生でもわかる商標法 第11回「地域団体商標」。地域のなかまで使う目じるし。

小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #11

PR この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

「ミナト浜みかん」のような「地名+品物の名前」は、ふつうは1人が登録することができません。でも、地域の組合(くみあい)がメンバーみんなで使い、まわりの県の人にもよく知られるようになったら、組合の名前で登録できます。これが地域団体商標(ちいきだんたいしょうひょう)です。この記事では、だれが・どんな名前を・どれくらい知られていれば登録できるのか、そして登録したあとの特別ルールまでを、3つのレベルで説明します。

条文:商標法第7条の2(第1項〜第4項)審査基準:商標審査基準〔改訂第17版〕 第7 第7条の2(地域団体商標)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「地名+品物の名前」は、ふつうは1人じめできない

商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしを特許庁(とっきょちょう)という国の役所に登録すると、自分だけが使える強い権利(けんり)になります。

ここに、「ミナト浜」という海ぞいの町があるとします(この記事のための作り話の町です)。ミナト浜ではむかしからみかん作りがさかんで、農家のみんなが「ミナト浜みかん」という名前で売っています。

この「ミナト浜みかん」を、農家のAさん1人が登録しようとしても、ふつうは登録してもらえません。「ミナト浜でとれたみかん」という説明にしか見えず、「だれのみかんか」を見分ける目じるしにならないからです。それに、ミナト浜のほかの農家も同じ名前を使いたいはずです。

日本じゅうのだれもが知っているくらい有名になれば、登録できる道はあります。でも、そこまで有名になる前に、よその人に名前をまねされたら困ります。

組合が「みんなの目じるし」として登録できる

そこで商標法は、特別なしくみを用意しました。ミナト浜の農家が集まって作った組合(くみあい)が、メンバーみんなに使わせる名前として出願(しゅつがん=役所に申しこむこと)し、その名前がまわりの県の人たちにもよく知られているなら、組合の名前で登録できます。これが「地域団体商標(ちいきだんたいしょうひょう)=地域のなかまの、みんなの目じるし」です。

「ミナト浜みかん」を登録したい 農家のAさんが1人で出願 「ミナト浜でとれたみかん」という 説明にしか見えない ほかの農家も使いたい名前 ミナト浜の組合が出願 メンバーみんなに使わせる名前 みんなで使ってきた結果、 まわりの県でもよく知られている 原則、登録してもらえない (全国で有名なら別の道あり) 地域団体商標として 登録してもらえる 町の名前・品物の名前・組合は、すべてこの記事のための架空の例です

図は左右にスクロールできます。

【図1】1人で出願する場合と、組合が「みんなの目じるし」として出願する場合のちがい。地名・商品名・組合はすべて架空の例です。単純化した図で、正確な条件はレベル2・レベル3で説明します。

登録できるのは、こんな形の名前だけ

地域団体商標にできるのは、文字だけでできた、次のような名前です。絵やマークが入ったものは、このしくみの対象ではありません。

① 地名+品物のふつうの名前(例:「ミナト浜みかん」)② 地名+その品物によく使われるよび名(例:「ミナト浜焼」=やきもの)③ ①か②に「本場」「特産」などをつけたもの(例:「本場ミナト浜つむぎ」)

登録したあとも「みんなのもの」

登録されると、権利を持つのは組合です。でも、組合のメンバーは、組合の決まりにしたがって、その名前を使うことができます。また、この権利は「地域のみんなのため」のものなので、組合はこれをよその人に売ることができません。

もうひとつ大事なことがあります。組合に入っていないこぐま農園さんが、組合が出願するより前から、ずるい気持ちなしに「ミナト浜みかん」の名前でみかんを売っていたとします。こぐま農園さんは、そのまま同じ名前を使いつづけることができます。もともと、だれが使ってもよかった名前だからです。

ミナト浜みかんの組合 権利を持つのは組合 メンバーの農家 組合の決まりにしたがって 名前を使える こぐま農園さん 出願より前から使っていた → 使いつづけられる よその会社 「その権利を売って」 → 組合は売れない × 新しくみかん作りを始めた人も、組合に入れば使えるように、 「正当な理由なく加入をことわらない」決まりのある組合だけが登録できる

図は左右にスクロールできます。

  • 橙のベタ塗り:権利を持つ組合
  • 橙の枠:組合の決まりにしたがって名前を使えるメンバー
  • 青緑の枠:出願より前から使っていて、そのまま使いつづけられる人
  • 赤の枠:求めても認められない相手(よその会社)
  • 赤の破線と×:できないこと(組合は権利を売れない)

【図2】登録したあとの関係。農園名・組合はすべて架空の例です。本記事作成者が模式化したもの。

レベル1のまとめ
  • 「地名+品物の名前」は、ふつうは説明にしか見えないので、1人じめの登録は原則できません。
  • 地域の組合が、メンバーみんなに使わせる名前として出願し、みんなで使ってきた結果よく知られていれば、「地域団体商標」として登録できます。
  • 登録できるのは文字だけの名前です。権利は組合のもので、売ることはできません。メンバーは組合の決まりにしたがって使えます。
  • 出願より前から、ずるい気持ちなしに同じ名前を使っていた人は、使いつづけることができます。

※ 「組合」は、正確には法律で決められた種類の団体(組合のほか、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人など)に限られます。「よく知られている」の程度、「地名」と品物の関係、登録できる名前の形にも、正確には条件があります(→レベル3)。「前から使っていた人」が使いつづけられる条件も、正確には条文で決まっています(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第1項柱書 ― だれが・何を・どんなときに

商標法第7条の2第1項柱書(原文) 事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る。)、商工会、商工会議所若しくは特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人又はこれらに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)は、その構成員に使用をさせる商標であつて、次の各号のいずれかに該当するものについて、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

1つの文がとても長いので、5つの部品に分けます。

部品条文の文言やさしく言うと
① だれが(主体)「事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(…)、商工会、商工会議所若しくは…特定非営利活動法人又はこれらに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)」法律で決められた種類の団体だけ。個人や会社は出願できない。組合には「法人格があること」「正当な理由なく加入をことわらない決まりが、その組合を作るもとになった法律にあること」という条件がつく
② だれに使わせる商標か「その構成員に使用をさせる商標であつて」団体のメンバー(構成員)に使わせる商標
③ どんな形の商標か「次の各号のいずれかに該当するもの」第1号〜第3号のどれかに当たる、文字だけの商標(下の〔表2〕)
④ どれくらい知られているか「その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」使ってきた結果、「あの団体やそのメンバーの商品(サービス)だ」と、お客さんなどに広く知られている
⑤ どうなる(効果)「第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。」識別力(見分ける力)のルールである第3条があっても、登録を受けられる。ただし、第3条第1項第1号(普通名称)・第2号(慣用商標)に当たる場合は別

〔表1〕商標法第7条の2第1項柱書の分解。出典:e-Gov法令検索(商標法第7条の2第1項)、2026年9月参照。「やさしく言うと」の欄は本記事作成者による要約です。

第1項各号 ― 登録できる商標の3つの形

商標法第7条の2第1項第1号〜第3号(原文) 一 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
二 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
三 地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であつて、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
号組み立て架空の例
第1号地域の名称 + 商品・役務の普通名称「ミナト浜みかん」(商品:みかん)
第2号地域の名称 + 商品・役務を表示するものとして慣用されている名称「ミナト浜焼」(商品:やきものの茶わん)、「ミナト浜温泉」(役務:温泉浴場施設の提供)
第3号地域の名称 + 普通名称又は慣用されている名称 + 産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字「本場ミナト浜つむぎ」(商品:絹織物)、「ミナト浜特産みかん」
共通どの号も「普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標」。図形・記号が入ったもの、特殊なデザイン文字にしたものは、各号に当たらない

〔表2〕第7条の2第1項各号の組み立て。例はすべて架空です。第2号・第3号の例は、商標審査基準〔改訂第17版〕第7が「慣用されている名称」の例として挙げる「織」「紬」「焼」「温泉」、産地等を表示する際に付される文字の例として挙げる「特産」「本場」等を参考に、本記事作成者が作ったものです。

登録できる商標の3つの形(すべて文字のみ) 第1号 ミナト浜 みかん 第2号 ミナト浜 焼 第3号 本場 ミナト浜 つむぎ 地域の名称+普通名称 地域の名称+慣用名称 第1号・第2号の形に 「本場」等を加えた形

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:地域の名称(第2項)
  • 橙の枠:商品又は役務の普通名称(第1号)
  • 藍の枠:商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称(第2号)
  • 赤の枠:産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字(第3号)

【図3】第7条の2第1項各号の商標の組み立て(模式図)。商標の例はすべて架空です。本記事作成者が条文を図にしたもの。

第2項〜第4項 ― 「地域の名称」の意味と、出す書類

商標法第7条の2第2項〜第4項(原文) 2 前項において「地域の名称」とは、自己若しくはその構成員が商標登録出願前から当該出願に係る商標の使用をしている商品の産地若しくは役務の提供の場所その他これらに準ずる程度に当該商品若しくは当該役務と密接な関連性を有すると認められる地域の名称又はその略称をいう。
3 第一項の場合における第三条第一項(第一号及び第二号に係る部分に限る。)の規定の適用については、同項中「自己の」とあるのは、「自己又はその構成員の」とする。
4 第一項の規定により地域団体商標の商標登録を受けようとする者は、第五条第一項の商標登録出願において、商標登録出願人が組合等であることを証明する書面及びその商標登録出願に係る商標が第二項に規定する地域の名称を含むものであることを証明するため必要な書類を特許庁長官に提出しなければならない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。項番号の「2」「3」「4」は読みやすさのために付したものです。
項・号役割ひとことで
第1項柱書主体・商標の性質・周知性・効果組合等が、構成員に使用をさせる商標について、広く認識されていれば、第3条にかかわらず登録を受けられる
第1項第1号商標の構成①地域の名称+普通名称
第1項第2号商標の構成②地域の名称+慣用されている名称
第1項第3号商標の構成③①又は②+産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字
第2項「地域の名称」の定義出願前から使用をしている商品の産地・役務の提供の場所、これらに準ずる程度に密接な関連性がある地域の名称、又はその略称
第3項第3条第1項の読替え第3条第1項(第1号・第2号に係る部分)の「自己の」を「自己又はその構成員の」と読む
第4項出願時の書類「組合等であることを証明する書面」と「地域の名称を含むものであることを証明するため必要な書類」を特許庁長官に提出

〔表3〕商標法第7条の2の項・号ごとの役割一覧。出典:e-Gov法令検索(商標法第7条の2)、2026年9月参照。

登録までの判断の流れ

flowchart TB
  A["地域団体商標の商標登録出願"] --> B{"出願人は『組合等』か
(第1項柱書)"} B -- "はい" --> C{"構成員に使用をさせる商標か"} B -- "いいえ" --> X["第7条の2第1項の要件を満たさない"] C -- "はい" --> D{"第1号〜第3号のいずれかの形か
(文字のみ)"} C -- "いいえ" --> X D -- "はい" --> E{"『地域の名称』は第2項の
定義に当たるか"} D -- "いいえ" --> X E -- "はい" --> F{"使用をされた結果
需要者の間に広く認識されているか"} E -- "いいえ" --> X F -- "はい" --> G{"第3条第1項第1号又は
第2号に係る場合か"} F -- "いいえ" --> X G -- "はい" --> Y["第3条第1項第1号・第2号は
乗りこえられない"] G -- "いいえ" --> H["第3条の規定にかかわらず
地域団体商標の商標登録を
受けることができる
(第4条第1項など他の拒絶理由は別に審査)"] style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style Y fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:第7条の2第1項により商標登録を受けることができる結論
  • 赤の箱:第7条の2第1項によっては商標登録を受けられない結論

【図4】第7条の2第1項〜第2項の要件を順に確かめる流れ。条文を整理して本記事作成者がフロー化したもの(審査の実際の順序を示すものではありません)。

レベル2のまとめ
  • 主体は「組合等」(特別の法律により設立された組合、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人、これらに相当する外国の法人)に限られます。組合には、法人格と、設立根拠法における加入の自由の定めが必要です。
  • 商標は「その構成員に使用をさせる商標」で、第1号〜第3号のどれかの形をした「文字のみからなる商標」です。
  • 「使用をされた結果…需要者の間に広く認識されているとき」に、第3条の規定(第1項第1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず登録を受けられます。
  • 第2項は「地域の名称」の定義、第3項は第3条第1項の読替え、第4項は出願時の証明書類です。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 制度の趣旨と沿革

地域団体商標の制度は、平成17年法律改正(平成17年法律第56号)で設けられました。同改正の解説書(特許庁「地域団体商標」)は、改正前の問題として、おおむね次の2点を説明しています。

  • 地域の名称と商品名からなる文字商標は、全国的な知名度を獲得して第3条第2項の適用を受けるまで登録できず、それまでの間、他人の便乗使用を排除できなかったこと。
  • 図形を加えれば登録できるが、他人が文字部分は同一でも図形部分が異なる商標を使用した場合、原則として類似とは認められず、便乗使用を有効に排除できなかったこと。

そこで、第3条第2項よりも緩やかな要件で、団体による登録を認めたのがこの制度である、と同解説書は説明しています(立法担当者の説明であり、条文解釈を確定するものではありません)。

timeline
  title 地域団体商標制度の沿革
  平成17年法律改正(平成17年法律第56号) : 第7条の2を新設 : 主体は特別の法律により設立された組合とこれに相当する外国の法人
  平成18年4月1日 : 平成17年法律改正の施行
  平成26年法律改正(平成26年法律第36号・平成26年5月14日公布) : 主体に商工会、商工会議所、特定非営利活動法人とこれらに相当する外国の法人を追加
  平成26年8月1日 : 主体の拡充の施行

図は左右にスクロールできます。

【図5】地域団体商標制度の沿革。出典:特許庁 平成17年法律改正(平成17年法律第56号)解説書「地域団体商標」(施行期日の記載)、特許庁「平成26年法改正の施行状況」(平成27年6月、産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会 配布資料。法律番号・公布日・施行日の記載)。いずれも2026年9月参照。本記事作成者がタイムライン化したもの。時間軸に縮尺はありません。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』は、地域団体商標制度を、地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として、いわゆる地域ブランドとして用いられることが多い地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる文字商標について、登録要件を緩和するものである、と説明しています。各要件の趣旨についての説明は、おおむね次のとおりです。
・主体要件(加入の自由):地域団体商標の対象となる商標は、元々地域における商品の生産者や役務の提供者等が広く使用を欲するものであり、一事業者による独占に適しない等の理由から第3条第1項に該当するとして登録が認められなかったものであることから、当該商標の使用を欲する事業者が団体の構成員となって使用をする途が可能な限り妨げられないように措置したものである。
・平成26年改正による主体の追加:平成17年の制度導入時は、法人格を有する事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合のみを登録主体として規定していたが、その後、地域ブランドの普及に主体的に取り組んでいる団体として、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人といった団体が新たに登場してきたことを受け、平成26年の一部改正において、これらの団体も地域団体商標制度を利用できるよう登録主体に追加した。これらの追加した団体についても、それぞれの設立根拠法において、構成員資格を有する者の団体への加入を不当に妨げてはならないとの義務が規定されており(商工会法第14条第1項、商工会議所法第16条第1項、特定非営利活動促進法第2条第2項第1号イ)、当該義務の履行は、義務違反に対する所管官庁による監督等によって間接的に担保されると考えられる。
・文字商標に限った理由:図形等と組み合わされた商標や特殊な文字により表示された商標のように元々識別力を有する商標については、そもそも第3条第1項に該当しないため、平成17年の一部改正前においても登録を受けることが可能であり、この制度によって登録を認める必要性が乏しいこと。
・密接関連性の要件:出願された商標が単に地域の名称から想起されるイメージを利用しただけであり、実際には当該地域と関連しない商品(役務)について使用されているような場合は、地域団体商標制度の趣旨に合致せず、そのような場合に緩和された登録要件で登録を認めることは妥当でないことから設けられた。密接な関連性の有無は、商品(役務)の種類、取引者・需要者層、取引の実情等に応じて、商標中にその地域の名称を用いることが社会通念上、妥当なものと認められるか否かといった観点から判断される。
・周知性の要件:登録を認めるためには、少なくとも第三者による自由な使用を制限してまでも地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる商標を保護すべきであるといえる程度に、当該商標に信用が蓄積されていることが必要である。また、制度の目的の一つが第三者による商標に化体した信用への便乗を排除し得るように措置することにある以上、保護対象とする商標は、第三者による便乗使用のおそれが生じ得る程度に信用の蓄積がされているものに限定すべきである。要求される周知性の程度は、需要者の広がり及びその認知度において、第3条第2項に基づき登録を受ける場合に実務上要求されるものよりも狭く、又は低いもので足りる。なお、日本国内において周知となっていることが要件とされる。
・地域の名称のみからなる商標を対象としなかった理由:同解説は2つ挙げています。⑴ 一般に、地域ブランドについては、地域の名称と商品又は役務の名称を組み合わせた商標が用いられることが多く、地域の名称のみの商標が用いられることはまれであること。⑵ 地域の名称のみの商標についても登録を認めると、類似商品(役務)に地域の名称のみの商標を使用したときには権利侵害となり、同一又は同名の地域において他の商品(役務)を生産・販売、提供等する者による地域の名称の正当な使用を過度に制約し、その事業活動を萎縮させるおそれがあること。
出典:逐条解説〔第22版〕1579頁〜1585頁。

2. 主体要件 ―「組合等」と、団体商標(第7条)とのちがい

第7条の2第1項柱書の主体は、①事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合、②商工会、③商工会議所、④特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人、⑤これらに相当する外国の法人、です。①の組合には括弧書で2つの限定がかかります。「法人格を有しないものを除き」と、設立根拠法に加入の自由の定め(正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定め)が「あるものに限る」です。

ポイント:条文の構造上、加入の自由の定めを求める括弧書は「特別の法律により設立された組合」の直後に置かれています。平成17年法律改正の解説書は、主体を組合に限り加入の自由を要件とした理由について、地域ブランドは地域の事業者が広く使用を欲するもので一事業者による独占に適さず、商標の使用を欲する事業者が団体の構成員となって使用をする途が妨げられないようにするため、と説明しています。
団体商標(商標法第7条第1項)地域団体商標(商標法第7条の2第1項)
主体「一般社団法人その他の社団(法人格を有しないもの及び会社を除く。)若しくは事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除く。)又はこれらに相当する外国の法人」事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、加入の自由の定めのあるものに限る。)、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人、これらに相当する外国の法人
一般社団法人その他の社団含まれる列挙されていない
加入の自由の定め条文上の要件でない組合について条文上の要件
商標の性質「その構成員に使用をさせる商標」「その構成員に使用をさせる商標」であって第1号〜第3号のいずれかに該当するもの
第3条との関係第3条は通常どおり適用(第7条第2項で第3条第1項の「自己の」を「自己又はその構成員の」と読替え)「第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず」。第1号・第2号に係る部分は第3項で読替え
周知性要件でない要件(需要者の間に広く認識されているとき)
出願時の証明書面第7条第1項に規定する法人であることを証明する書面(第7条第3項)組合等であることを証明する書面+地域の名称を含むものであることを証明するため必要な書類(第7条の2第4項)

〔表4〕団体商標と地域団体商標の比較。出典:e-Gov法令検索(商標法第7条、第7条の2)、2026年9月参照。

一般社団法人については別法の特例があります。地域未来投資促進法第23条第1項又は第2項の要件を満たす法人は「組合等」とみなされます。したがって、上表の「列挙されていない」は、一般社団法人が一切出願できないという意味ではありません。出典:特許庁・一般社団法人の特例。

審査での確認方法について、商標審査基準〔改訂第17版〕第7の一 1.は、出願の際に提出された登記事項証明書その他の公的機関が発行した書面で法人格を有する組合であることを確認する、としています。商工会・商工会議所・特定非営利活動法人はそれぞれの設立の根拠となる法律による法人であることを、外国の法人は対応する類型に応じた要件を満たすことを、提出書類で確認する旨が定められています。

3. 「その構成員に使用をさせる商標」と周知性 ― 審査基準の9項目

商標審査基準〔改訂第17版〕第7の「一、第7条の2第1項柱書」は、9つの項目で構成されています。

項目見出し(要旨)内容の要点
1.主体要件について登記事項証明書その他の公的機関が発行した書面で確認
2.「構成員に使用をさせる商標」について設立根拠法からして構成員に商標を使用させることが想定されない組合が出願人である場合など、構成員に使用させないことが明らかな場合は、「構成員に使用をさせる商標」ではないと判断
3.「…需要者の間に広く認識されている」に該当するかどうか提出書類も参照し、4.から9.を確認
4.商標の同一性について出願商標と使用商標が、外観において同一であることを要する。(同視できる程度の相違の例として書体のちがい、縦書きと横書き。同一と認めない例として平仮名と片仮名、平仮名と漢字、片仮名と漢字の相違)
5.「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するもの」について出願人又は構成員の業務に係るものとして認識されているかを確認
6.「需要者の間に広く認識されている」について全国的な需要者の間に認識されるには至っていなくとも、一定範囲の需要者に認識されている場合を含む(下の〔表6〕)
7.立証方法及び判断について使用の事実、営業に関する事実、広告宣伝の事実、記事掲載の事実などを、例示された提出資料で確認
8.出願人及びその構成員以外の者が出願商標を使用している場合他の使用者の存在により、出願人又はその構成員のみの使用によって広く認識されていると認められない場合は、認めない
9.地域の名称が第2項の「地域の名称」に該当しない場合第1項各号のいずれにも該当しないことになり、第1項柱書の規定により登録を受けることができない

〔表5〕商標審査基準〔改訂第17版〕第7「一、第7条の2第1項柱書」の項目構成。かぎかっこの原文引用(項目4.の1文)以外は本記事作成者による要約です。出典:特許庁 商標審査基準(32_7-2.pdf)、2026年9月参照。

類型(審査基準 第7 一 6.)求められる認識の範囲(審査基準の記載の要旨)
(ア) 比較的低価格で、日常的に消費される商品など地域が属する都道府県を越える程度の範囲における多数の需要者の間に広く認識されていれば足りる
(イ) 高価で、生産地では販売されず主に大消費地で販売され尽くす商品など少なくとも販売地が属する一都道府県における多数の需要者の間に広く認識されていることを要する
(ウ) 主として生産地でのみ販売される商品、その地でのみ提供される役務など少なくとも地域が属する一都道府県における多数の需要者の間に広く認識されていることを要する
(エ) 工芸品など少なくとも地域が属する一都道府県における多数の需要者の間に広く認識されていることを要する
テレビ放送等を利用した大規模な宣伝・販売による場合複数の都道府県における相当程度の需要者の間に広く認識されていることを要する

〔表6〕「需要者の間に広く認識されている」の類型別の目安。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第7 一 6.(2026年9月参照)。類型は取引の実情による目安であり、例外と証拠の扱いは次段落のとおりです。

表6は商品等の名前だけで機械的に振り分ける表ではありません。低価格の日用品でも高額・少量取引なら(イ)又は(ウ)、工芸品でも日常の食器や箸なら(ア)の取引実情を確認します。例として、(ア)は日常の野菜・米・食肉、(イ)は高級魚、(ウ)は伝統野菜・消費期限の短い生菓子、(エ)は地域産の箪笥・壺が挙げられています。メディア販売の場合も、各類型の範囲での周知又は地域の需要者等を含む複数都道府県での周知のいずれかで判断する取扱いがあります。立証には使用写真、パンフレット、売上や出荷の伝票、広告資料、報道記事、適切な認識度調査等を用います。出典:商標審査基準第7・一6及び7。

4. 第3条第2項との周知性の程度差

同じ「地域の名称+商品名」の文字商標でも、登録への道は2つあります。第3条第2項(使用による識別力)の道と、第7条の2第1項(地域団体商標)の道です。

「地域の名称+商品名」の文字商標 ― 2つの道 需要者の認識の広がり 第3条第2項の道 主体の限定なし 全国的に認識されているもの (審査基準 第2 2.(1)) 「何人かの業務に係る商品…で あることを認識することができる」 通常の商標権(譲渡・専用使用権 についての特則なし) 第7条の2第1項の道 主体は組合等に限る 全国的でなくとも、一定範囲の 需要者の認識を含む(審査基準 第7) 譲渡不可・専用使用権不可などの特則 ↑ ここまでの広がりは求められない 箱の高さは「求められる認識の広がり」のイメージ。数量的な基準を示すものではありません

図は左右にスクロールできます。

【図6】第3条第2項と第7条の2第1項の位置づけ。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第2・第7、e-Gov法令検索(商標法第3条第2項、第7条の2第1項)。本記事作成者が模式化したもの。

商標法第3条第2項商標法第7条の2第1項
条文の文言「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」「その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」
主体限定なし組合等
対象となる商標第3条第1項第3号〜第5号に該当する商標第7条の2第1項第1号〜第3号のいずれかに該当する文字のみからなる商標
求められる認識の範囲需要者の間で全国的に認識されているもの(商標審査基準 第2 2.(1))全国的な需要者の間に認識されるには至っていなくとも、一定範囲の需要者に認識されている場合を含む(商標審査基準 第7 一 6.)。平成17年法律改正の解説書は、第3条第2項に基づき登録を受ける場合に実務上要求されるものよりも狭く、また低いもので足りると説明し、例として隣接都道府県に及ぶ程度を挙げています
乗りこえられない号第3条第1項第1号・第2号・第6号は対象外「同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。」
登録後に認識が失われたら後発的無効理由(第46条第1項第5号〜第7号)に第3条は挙げられていない第46条第1項第7号の無効理由

〔表7〕第3条第2項と第7条の2第1項の比較(既刊「商標法第3条第2項 使用による識別力」の〔表11〕と同じ整理)。出典:e-Gov法令検索(商標法第3条第2項、第7条の2第1項、第46条第1項)、商標審査基準〔改訂第17版〕第2・第7、特許庁 平成17年法律改正(平成17年法律第56号)解説書「地域団体商標」。いずれも2026年9月参照。

ポイント(第1号・第2号が外されている意味):「地域の名称+普通名称」の全体が、それ自体、商品の普通名称(第3条第1項第1号)や慣用商標(同第2号)になってしまっている場合は、周知であっても地域団体商標として登録を受けることができません。平成17年法律改正の解説書は、その理由を、普通名称と慣用商標は何人も使用できるようにしておく必要性が特に高くと説明しています。なお、第3項の読替えにより、この場面の第3条第1項の「自己の」は「自己又はその構成員の」と読みます。

5. 各号の商標の構成と「地域の名称」(第1項各号・第2項)

論点商標審査基準〔改訂第17版〕第7 二 の記載(要旨)
「地域の名称」現在の行政区画単位の地名のほか、旧地名、旧国名、河川名、山岳名、海域名等の地理的名称も含まれる
「普通名称」第3条第1項第1号の基準を準用
「慣用されている名称」例:絹織物について「織」「紬」、茶碗について「焼」、役務「温泉浴場施設の提供」について「温泉」。普通名称に商品の特質を表示する文字を付したもの(例:「天然あゆ」「完熟トマト」)も含まれる
産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字(第3号)該当する例:「特産」「名産」「名物」「本場」。該当しない例:「特選」「元祖」「本家」「特級」「高級」
「普通に用いられる方法で表示する」取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊な態様のものは該当しない
地域団体商標として認められない商標の例①地域の名称のみ、②普通名称・慣用されている名称のみ、③各号に規定された文字以外の文字・記号・図形を含むもの、④図案化された文字、⑤商品・役務を表示する名称を含まないもの

〔表8〕第1項各号に関する審査基準の整理。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕第7 二(32_7-2.pdf)、2026年9月参照。要旨であり、正確な文言は原文で確認してください。

第2項の文言審査基準(第7 三)が挙げる例(要旨)架空の例
「商品の産地」農産物:生産された地域/海産物:水揚げ又は漁獲された地域/工芸品:主要な生産工程が行われた地域ミナト浜で生産されたみかんに「ミナト浜みかん」
「役務の提供の場所」温泉浴場施設の提供:温泉が存在する地域ミナト浜にある温泉の入浴施設に「ミナト浜温泉」
「これらに準ずる程度に…密接な関連性を有すると認められる地域」原材料の産地が重要性を有する加工品:原材料の産地/製法の由来地が重要性を有する工芸品:製法の由来地ミナト浜産のそば粉を主原料とするそばのめんに「ミナト浜そば」
「又はその略称」――
「商標登録出願前から当該出願に係る商標の使用をしている」第2項の定義には、出願前からの使用という時点の要素が入っている。これから使い始める商標の「地域の名称」は、この定義に当たらない

〔表9〕第2項「地域の名称」の分解。出典:e-Gov法令検索(商標法第7条の2第2項)、商標審査基準〔改訂第17版〕第7 三。2026年9月参照。架空の例は本記事作成者が審査基準の類型に当てはめて作ったものです。

6. 地域団体商標だけの特則一覧

地域団体商標は、登録のあとも通常の商標権とは異なる扱いを受けます。条文ごとに原文を確認して一覧にします。

条文内容原文(該当部分)
商標法第11条第1項〜第3項出願の変更(通常の商標登録出願・団体商標の商標登録出願との相互変更)第2項「商標登録出願人は、地域団体商標の商標登録出願を通常の商標登録出願又は団体商標の商標登録出願に変更することができる。」第3項「商標登録出願人は、通常の商標登録出願を団体商標の商標登録出願又は地域団体商標の商標登録出願に変更することができる。」
商標法第24条の2第4項譲渡の禁止「地域団体商標に係る商標権は、譲渡することができない。」
商標法第30条第1項ただし書専用使用権の設定不可「ただし、第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権及び地域団体商標に係る商標権については、この限りでない。」
商標法第31条の2第1項地域団体構成員の使用をする権利「…地域団体商標に係る商標権を有する組合等の構成員(以下「地域団体構成員」という。)は、当該法人又は当該組合等の定めるところにより、指定商品又は指定役務について団体商標又は地域団体商標に係る登録商標の使用をする権利を有する。」
商標法第31条の2第2項・第3項移転不可/通常使用権者とみなす場面第2項「前項本文の権利は、移転することができない。」第3項「団体構成員又は地域団体構成員は、第二十四条の四、第二十九条、第五十条、第五十二条の二、第五十三条及び第七十三条の規定の適用については、通常使用権者とみなす。」
商標法第32条の2先使用による商標の使用をする権利(周知性の要件なし)第1項前段「他人の地域団体商標の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなく…その商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。」
商標法第46条第1項第7号後発的無効理由「地域団体商標の商標登録がされた後において、その商標権者が組合等に該当しなくなつたとき、又はその登録商標が商標権者若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているもの若しくは第七条の二第一項各号に該当するものでなくなつているとき。」
商標法第47条第2項周知性の欠如に係る無効審判の請求制限(下の7.で原文引用)

〔表10〕地域団体商標の特則一覧。出典:e-Gov法令検索(商標法第11条、第24条の2、第30条、第31条の2、第32条の2、第46条、第47条)、2026年9月参照。「…」は引用の省略を示します。

組合等(商標権者) 地域団体商標に係る商標権 地域団体構成員 組合等の定めるところにより使用をする権利 (第31条の2第1項)移転不可(同第2項) 第50条等では通常使用権者とみなす 先使用者(構成員でない者) 出願前から不正競争の目的でなく使用 → 継続使用できる(第32条の2第1項) 周知性は要件でない 混同防止表示の請求(同第2項) 譲受けを希望する者 譲渡することができない (第24条の2第4項) × 専用使用権を希望する者 専用使用権は設定できない (第30条第1項ただし書) × 利害関係人 無効審判(第46条第1項第1号・ 第7号、第47条第2項の制限)

図は左右にスクロールできます。

  • 藍のベタ塗り:商標権者である組合等
  • 青緑の枠:組合等の構成員(地域団体構成員)
  • 橙の枠:構成員でない先使用者
  • 赤の枠:条文上認められない求めをする者
  • 白い枠:無効審判を請求する利害関係人
  • 実線の矢印:条文上認められる関係
  • 赤の破線と×:条文上認められない関係

【図7】地域団体商標をめぐる権利関係の相関図。出典:e-Gov法令検索(〔表10〕と同じ条文)。本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

ポイント(特則の趣旨):平成17年法律改正の解説書は、譲渡を認めない理由を、自由な譲渡を認めると主体要件を定めた趣旨を没却するため、と説明し、団体の合併のような一般承継による移転は可能である旨を説明しています。専用使用権を認めない理由については、設定された範囲で構成員の使用も制限され、地域の生産者等の使用を確保しようとした趣旨が没却されるおそれがあるため、と説明しています。これらは立法担当者の説明です。条文の文言は、第24条の2第4項が「譲渡することができない」、第30条第1項ただし書が専用使用権の設定についての除外です。

第31条の2第1項ただし書は、専用使用権が設定された範囲について構成員の権利を制限していますが、括弧書で「団体商標に係る商標権に限る。」とされています。地域団体商標には専用使用権を設定できないこと(第30条第1項ただし書)と対応しています。なお、特許庁の説明資料「地域団体商標制度について」は、通常使用権の許諾は可能である旨を説明しています。

先使用による商標の使用をする権利 ― 第32条と第32条の2

商標法第32条(通常の先使用)商標法第32条の2(地域団体商標に対する先使用)
使用の開始他人の商標登録出願前から他人の地域団体商標の商標登録出願前から
場所・目的日本国内において不正競争の目的でなく日本国内において不正競争の目的でなく
周知性「現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」が必要条文に周知性の要件はない
継続使用継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合同じ
業務の承継人「当該業務を承継した者についても、同様とする。」同じ
混同防止表示の請求をすることができる者「当該商標権者又は専用使用権者」「当該商標権者」

〔表11〕第32条と第32条の2の比較。出典:e-Gov法令検索(商標法第32条、第32条の2)、2026年9月参照。

平成17年法律改正の解説書は、周知性を要件としなかった理由を、地域の名称と商品名からなる商標は本来何人も使用し得るとされていた商標であり、同一の地域で同様の商品を生産・販売する者が出願前から使用していることが想定されるため、と説明しています。

出願の変更(第11条)

flowchart LR
  A["通常の商標登録出願"] -- "第11条第3項" --> C["地域団体商標の
商標登録出願"] C -- "第11条第2項" --> A B["団体商標の
商標登録出願"] -- "第11条第1項" --> C C -- "第11条第2項" --> B A -- "第11条第3項" --> B B -- "第11条第1項" --> A C --> D["変更があったとき:もとの商標登録出願は
取り下げたものとみなす(第11条第5項)"] C --> E["査定又は審決が確定した後は
変更できない(第11条第4項)"]

図は左右にスクロールできます。

【図8】第11条による出願の変更の関係。出典:e-Gov法令検索(商標法第11条)、2026年9月参照。本記事作成者がフロー化したもの。第5項・第4項は3種類の出願のどの変更にも共通です。

第11条第6項は、第10条第2項及び第3項を出願の変更の場合に準用しています。詳しくは関連記事「商標法第10条〜第12条 出願の分割・変更」に回します。

7. 拒絶・異議・無効・除斥期間との対応

場面条文第7条の2第1項違反はメモ
拒絶理由商標法第15条第1号該当列挙に「第七条の二第一項」あり
登録異議の申立ての理由商標法第43条の2第1号該当列挙に「第七条の二第一項」あり
無効理由(登録時)商標法第46条第1項第1号該当列挙に「第七条の二第一項」あり
無効理由(後発的)商標法第46条第1項第7号該当①組合等に該当しなくなったとき、②広く認識されているものでなくなっているとき、③第7条の2第1項各号に該当するものでなくなっているとき
除斥期間商標法第47条第1項非該当第1項の列挙に第7条の2第1項はない
無効審判の請求制限商標法第47条第2項一部周知性を欠いていた場合に限り、5年経過+現に周知なら請求不可(下記)
第7条の2第4項(証明書類)―非該当第15条・第43条の2・第46条第1項の列挙は「第七条の二第一項」であり、第4項は挙げられていない

〔表12〕第7条の2と拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間の対応。出典:e-Gov法令検索(商標法第15条、第43条の2、第46条第1項、第47条)、2026年9月参照。

商標法第47条第2項(原文) 商標登録が第七条の二第一項の規定に違反してされた場合(商標が使用をされた結果商標登録出願人又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものでなかつた場合に限る。)であつて、商標権の設定の登録の日から五年を経過し、かつ、その登録商標が商標権者又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その商標登録についての第四十六条第一項の審判は、請求することができない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
flowchart TB
  A["地域団体商標の商標登録に対し
無効審判を請求したい"] --> B{"理由は何か"} B -- "登録時に第7条の2第1項違反
(第46条第1項第1号)" --> C{"違反の中身は
周知性を欠いていたことか"} B -- "登録後に要件を失った
(第46条第1項第7号)" --> K["第47条の対象外
請求できる"] C -- "はい" --> D{"設定の登録の日から
5年を経過したか"} C -- "いいえ(主体・各号の構成など)" --> K2["第47条の対象外
請求できる"] D -- "はい" --> E{"現在、需要者の間に
広く認識されているか"} D -- "いいえ" --> K3["請求できる"] E -- "はい" --> N["請求することができない
(第47条第2項)"] E -- "いいえ" --> K4["請求できる"] style K fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style K2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style K3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style K4 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:第46条第1項の審判を請求できる結論
  • 赤の箱:第46条第1項の審判を請求することができない結論

【図9】地域団体商標の無効審判と第47条第2項。出典:e-Gov法令検索(商標法第46条第1項、第47条)、2026年9月参照。本記事作成者がフロー化したもの。無効審判は利害関係人に限り請求できます(第46条第2項)。期間「5年」は2026年9月時点の商標法第47条第2項によります。

ポイント:第47条第1項の除斥期間は「5年を経過した後は、請求することができない」という単純な構造ですが、第47条第2項は「5年経過」に加えて「現に広く認識されている」ことが重なったときに初めて請求が封じられます。平成17年法律改正の解説書は、登録時に周知性を欠いていても事後的に周知性を獲得している場合に、常に無効審判の対象とするのは必ずしも適当でない、という趣旨を説明しています。同解説書は制定当時の号番号で説明しています。現行法の後発的無効理由は第46条第1項第7号です。

登録後に組合等の資格や周知性等を失ったことを理由として、第46条第1項第7号の無効審決が確定した場合、商標権はその理由に該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます。その時を特定できない場合は、無効審判の請求の「登録の日」からです。出典:商標法第46条の2第1項ただし書・第2項。

8. 商標権の効力の制限(第26条)との関係

地域団体商標は「地域の名称+商品の普通名称」等からなるため、第三者が産地や普通名称を表示する行為との関係が問題になります。商標法第26条第1項第2号は、当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料…を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権の効力が及ばないと定めています(第3号は指定役務について同様の規定)。この規定は地域団体商標に係る商標権にも適用されます。平成17年法律改正の解説書は、第26条第1項第2号・第3号の適用について、取引者・需要者の認識を基準に、自他商品(役務)の識別機能を発揮する態様で使用されているかどうかがかかわる旨を説明しています。

Q. 組合に入っていないミナト浜の農家が、箱に小さく「産地:ミナト浜」「品名:みかん」と書くのは、地域団体商標「ミナト浜みかん」の商標権の侵害になりますか(架空の例)。
A. 条文上、産地や普通名称を「普通に用いられる方法で表示する商標」には商標権の効力が及びません(商標法第26条第1項第2号)。個別の表示がこれに当たるかは、表示の態様などの事情によります。また、出願前から不正競争の目的でなく使用をしていた者には、第32条の2の権利があり得ます。詳細は関連記事「商標法第26条 商標権の効力が及ばない範囲」に回します。

9. 特許法・実用新案法・意匠法との比較

商標法特許法・実用新案法・意匠法
団体が構成員に使用をさせるための登録制度団体商標(商標法第7条)、地域団体商標(商標法第7条の2)対応する制度は、本記事で確認した範囲の条文には見当たりません(商標法固有の制度)
権利の譲渡地域団体商標に係る商標権は譲渡不可(商標法第24条の2第4項)―(各法の移転の規定は親シリーズの記事を参照)
専用の権利の設定地域団体商標に係る商標権には専用使用権を設定できない(商標法第30条第1項ただし書)―(特許法の専用実施権等は親シリーズの記事を参照)
登録後に要件を失った場合の無効理由商標法第46条第1項第7号―

〔表13〕他の三法との比較。地域団体商標は商標法固有の制度であるため、他法の欄は条文番号を挙げていません。出典:e-Gov法令検索(商標法第7条、第7条の2、第24条の2、第30条、第46条)、2026年9月参照。

試験での問われ方

試験種別切り口(本記事作成者の整理。出題を予測するものではありません)
短答式主体(一般社団法人・会社・法人格のない組合は含まれるか、団体商標との対比)/商標の構成(文字のみ、図形入りは不可、地域の名称のみは不可)/除かれる号(第3条第1項第1号・第2号)/譲渡・専用使用権・構成員の権利の移転/第32条の2に周知性の要件がないこと/第47条第2項の要件の重なり/出願の変更(第11条)
論文式「地域の名称+商品名」の商標を保護したい団体への助言(第3条第2項との比較、主体要件、周知性の立証)/登録後の第三者の使用への対応(第26条、第32条の2)/無効審判を請求された場合の対応(第46条第1項第1号・第7号、第47条第2項)
口述条文の文言(「その構成員に使用をさせる商標」「需要者の間に広く認識されているとき」「第三条の規定(…除く。)にかかわらず」)、第2項の「地域の名称」の定義、特則の条文番号

〔表14〕試験での切り口の整理(本記事作成者による)。

令和8年度短答式【商標】全10問には、地域団体商標を直接問う肢はありません。同年度の問題は、地域団体商標の出題例としては扱いません。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。

レベル3のまとめ
  • 主体は「組合等」。組合には法人格と、設立根拠法における加入の自由の定めが必要です。商工会・商工会議所・特定非営利活動法人とこれらに相当する外国の法人は、平成26年法律改正(平成26年法律第36号)で加わりました。
  • 周知性は、審査基準上、全国的でなくとも一定範囲の需要者に認識されている場合を含みます。第3条第2項について審査基準が全国的な認識を求めているのと対比されます。
  • 「第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず」― 普通名称・慣用商標に当たる場合は乗りこえられません。
  • 特則:譲渡不可(第24条の2第4項)、専用使用権不可(第30条第1項ただし書)、地域団体構成員の権利(第31条の2)、周知性を要しない先使用(第32条の2)、後発的無効理由(第46条第1項第7号)、無効審判の請求制限(第47条第2項)、出願の変更(第11条)。
  • 第7条の2第1項違反は、拒絶理由(第15条第1号)・異議理由(第43条の2第1号)・無効理由(第46条第1項第1号)。第47条第1項の除斥期間の対象ではなく、第47条第2項の特別な制限だけがあります(例外あり:周知性を欠いていた場合に限る)。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次