小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #3
「あまい」「東京」のような説明だけの名前は、ふつうは目じるしとして登録できません。でも、長いあいだ使われて、日本じゅうの人が「あのお店の商品だ」と分かるようになったら、話は変わります。この記事では、その「例外の入口」である商標法第3条第2項を、3つのレベルで説明します。入口が開くのは第3条第1項の第3号から第5号までだけ、という点が最大のポイントです。
LEVEL 1イメージでつかむ
「ふわふわ」というパンの名前は登録できる?
商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしは、国の役所(特許庁=とっきょちょう)に登録すると、自分だけが使えるようになります。
ただし、どんな名前でも登録できるわけではありません。たとえば、パンに「ふわふわ」という名前をつけたとします。「ふわふわ」は、パンのやわらかさを説明しているだけです。どのパン屋さんも使いたい言葉ですし、お客さんも「どのお店のパンか」を見分けられません。だから、ふつうは登録できません(これは前の記事「商標法第3条第1項 識別力」で学びました)。
ところが、です。「ほしぞらパン」というお店(この記事のために作った、架空のお店です)が、「ふわふわ」という名前のパンを30年間、日本じゅうで売りつづけたとします。テレビでも宣伝(せんでん)しました。すると、日本じゅうのお客さんが「『ふわふわ』といえば、ほしぞらパンのあのパンだ」と思うようになりました。
こうなると、「ふわふわ」は、ただの説明ではなくなっています。りっぱな「目じるし」に育ったのです。このように育った目じるしは、登録してもらえます。これが今日のルールです。
図は左右にスクロールできます。
- 赤の枠:使いはじめたばかりの状態(登録できない)
- 青緑の枠:長く・広く使われたあとの状態(登録できる)
- 橙の矢印:長い期間の販売・宣伝(目じるしの力が育つ過程)
【図1】同じ「ふわふわ」でも、使われ方しだいでお客さんの受けとめ方が変わる。「ほしぞらパン」「ふわふわ」は説明用の架空の例で、「30年」も例としての数字です(何年使えばよい、という決まりはありません)。
目じるしの力が「育つ」までの道のり
目じるしの力は、ある日とつぜん生まれるものではありません。売る・宣伝する・話題になる、を積み重ねて、少しずつ育ちます。
timeline title 「ふわふわ」が目じるしに育つまで(架空の例) 1年目 : ほしぞらパンが「ふわふわ」を売りはじめる : お客さんには、ただの説明に見える 5年目 : 町の人気商品になる : 町の人は「あの店のパン」と分かる 15年目 : 全国のお店で売り、テレビでも宣伝する : 知っている人が全国に広がる 30年目 : 日本じゅうの人が「ほしぞらパンのパン」と分かる : 目じるしとして登録してもらえる
図は左右にスクロールできます。
【図2】目じるしの力(識別力=しきべつりょく)が育つ過程のタイムライン。年数は説明用の架空の例で、法律に年数の決まりはありません。本記事作成者が図にしたもの。時間軸に縮尺はありません。
ただし、3つの注意
| くらべるところ | 使いはじめ | 長く・広く使われたあと |
|---|---|---|
| お客さんの受けとめ方 | 「やわらかいパン」という説明 | 「ほしぞらパンのあのパン」という目じるし |
| どのお店の商品か見分けられる? | 見分けられない | 見分けられる |
| 登録 | できない | できる(証拠を出して、みとめてもらう) |
〔表1〕使いはじめと、使われたあとのちがい(架空の例「ふわふわ」)。図2・表1は識別力についての説明です。登録には第4条など、ほかの登録要件も満たす必要があります。
- 説明だけの名前は、ふつう登録できない。
- でも、使いつづけて、日本じゅうの人が「あのお店の商品だ」と分かるようになれば、登録できる。
- 目じるしの力は、使うことで「育つ」。
※ このルールが使えるのは、正確には「説明だけの名前」「ありふれた名字など」「かんたんすぎるマーク」の3グループ(第3条第1項第3号〜第5号)に限られます。「同じ目じるし」「同じ商品」といえる範囲や、「日本じゅう」の意味にも、正確には条件があります(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
条文を読んでみよう
前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
「前項」とは第3条第1項のことです。「需要者(じゅようしゃ)」は、その商品を買ったりサービスを受けたりする人たち。「何人か(なんぴとか)」は「だれか特定の人」という意味です。だれなのか名前まで分からなくても、「いつものあの会社の商品だ」と分かればよい、という言い方になっています。
| 部品 | 条文の文言 | 意味 |
|---|---|---|
| どの商標が対象か | 「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても」 | 第3条第1項の第3号・第4号・第5号に当たる商標だけが対象。第1号・第2号・第6号は書かれていない |
| 何があったか | 「使用をされた結果」 | 実際に使われた、その結果として |
| どうなったか | 「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」 | お客さんが「だれか特定の人の商品・サービスだ」と分かるようになった |
| どうなるか | 「同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」 | 第3条第1項でダメとされていても、登録を受けられる |
〔表2〕商標法第3条第2項の部品分解。文言は e-Gov法令検索(2026年9月参照)の原文。
6つの号のうち、橋がかかるのは3つだけ
図は左右にスクロールできます。
- 赤の枠:第3条第2項の対象外の号(第1号・第2号)
- 青緑の枠:第3条第2項の対象になる号(第3号〜第5号)
- 藍の枠:条文上は対象外だが、審査基準が別の整理をしている号(第6号)
- 青緑のベタ塗り:第3条第2項(対象の号から登録へ「橋」をかける規定)
【図3】第3条第1項の6つの号と第3条第2項の関係。条文(e-Gov、2026年9月参照)と商標審査基準の記載をもとに、本記事作成者が模式化したもの。
| 第3条第1項の号 | 内容(要約) | 第3条第2項の対象か | 理由・注意 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 | 対象外 | 条文が「前項第三号から第五号まで」と限定している |
| 第2号 | 慣用されている商標 | 対象外 | 同上 |
| 第3号 | 産地、販売地、品質、原材料などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 | 対象 | いわゆる記述的商標(講学上の呼称) |
| 第4号 | ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 | 対象 | |
| 第5号 | 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標 | 対象 | |
| 第6号 | 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標 | 対象外 | 条文上は対象外。ただし第6号の文言自体が「認識することができない商標」なので、認識できるようになれば第6号に当たらなくなる(審査基準の整理。→レベル3) |
〔表3〕号ごとの役割一覧。号の内容は要約であり、原文は関連記事「商標法第3条第1項 識別力」を参照。出典:e-Gov法令検索(商標法第3条)、2026年9月参照。
手続の中での出番
第3条第2項は、出願人が「うちの商標はもう目じるしに育っています」と主張し、証拠を出して認めてもらう場面で働きます。典型的には、審査官から「第3条第1項第3号に当たる」という拒絶理由の通知を受けたあと、意見書といっしょに使用の証拠を出す、という流れです。
flowchart TB
A["商標登録出願"] --> B["審査官の審査"]
B --> C{"第3条第1項第3号〜第5号に
該当する?"}
C -- "はい" --> D["拒絶理由の通知
(商標法第15条第1号)"]
C -- "いいえ" --> G["この点では拒絶されない
(他の要件の審査へ)"]
D --> E["出願人:意見書+使用の証拠を提出
(写真、取引書類、広告、記事、アンケート等)"]
E --> F{"使用をされた結果、需要者が
何人かの業務に係る商品・役務と
認識できる?(査定時で判断)"}
F -- "はい" --> H["第3条第2項により
第3条第1項の拒絶理由は解消"]
F -- "いいえ" --> I["拒絶の査定"]
style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:第3条第1項を理由には拒絶されない結論
- 赤の箱:拒絶の査定となる結論
【図4】審査の中で第3条第2項が働く場面。商標法第3条・第15条と商標審査基準(証拠方法、判断時期)の記載をもとに本記事作成者がフロー化したもの。出願と同時に証拠を出すこともでき、図は典型的な一例です。判断時期の扱いはレベル3の「5.」を参照。
- 対象は第3条第1項の第3号・第4号・第5号だけ。第1号(普通名称)・第2号(慣用商標)・第6号は条文に書かれていない。
- 要件は2つの部品:①「使用をされた結果」②「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」。
- 効果は「同項の規定にかかわらず」=第3条第1項だけを乗りこえる。ほかの条文(第4条第1項など)の拒絶理由は別に審査される。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 要件の全体像
商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項(使用による識別性)は、次の2本柱で整理しています。
| 審査基準の項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 1. 商標の「使用」について | (1) 出願商標と使用商標の同一性 (2) 指定商品・指定役務と、使用する商品・役務の同一性 |
| 2. 「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」について | (1) 需要者の認識(全国的に認識) (2) 考慮事由 (3) 証拠方法 (4) 他の商標と組み合わせている場合 (5) 団体商標 (6) 小売等役務の商標 |
| 3.〜8. | 立体商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標ごとの、適用が認められる例・認められない例 |
〔表4〕商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項の項目構成(特許庁ウェブサイト、2026年9月参照)。
2. 「使用」その1 ― 出願商標と使用商標の同一性
審査基準は、原則として出願商標と使用商標とが外観において異なる場合は、出願商標を使用しているとは認めない。
としています。そのうえで、外観上厳密には一致しない場合でも、外観上の差異の程度や指定商品又は指定役務における取引の実情を考慮して、商標としての同一性を損なわないものと認められるときは出願商標を使用しているものと認める。
というただし書を置いています。
| 区分 | 審査基準の例示 |
|---|---|
| 同一性が認められる場合(例1) | ① 出願商標と使用商標が文字の表記方法として縦書きと横書きの違いがあるにすぎない場合 |
| ② 出願商標と使用商標が共に一般的に用いられる字体であり、取引者又は需要者の注意をひく特徴を有せず、両者の字体が近似している場合 | |
| 同一性が認められない場合(例2) | ① 出願商標が草書体の漢字であるのに対し、使用商標が楷書体又は行書体の漢字である場合 |
| ② 出願商標が平仮名であるのに対し、使用商標が片仮名、漢字又はローマ字である場合 | |
| ③ 出願商標がアラビア数字であるのに対し、使用商標が漢数字である場合 | |
| ④ 出願商標と使用商標とで、文字の態様(デザイン)が異なる場合(審査基準は図入りの例で示しています。本表では図を省略) | |
| ⑤ 出願商標が平面商標であるのに対し使用商標が立体商標である場合 |
〔表5〕出願商標と使用商標の同一性の例示。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項 1.(1)(2026年9月参照)。例2④は原文が図を用いた例示のため、本記事作成者が言葉で言い換えています。
3. 「使用」その2 ― 指定商品・指定役務と使用商品・役務の同一性
審査基準は出願商標の指定商品又は指定役務と使用商標の使用する商品又は役務とが異なる場合には、指定商品又は指定役務について出願商標を使用しているとは認めない。
とし、ただし、厳密には一致しない場合でも取引の実情を考慮して、指定商品又は指定役務と使用する商品又は役務の同一性が損なわれないと認められるときは、指定商品又は指定役務について出願商標を使用しているものと認める。
としています(同 1.(2))。
つまり、識別力が「育った」と認めてもらえるのは、実際に使ってきた商品・役務の範囲です。パンについて使ってきた商標を、使っていない商品まで広げた指定で出願しても、その広げた部分については第3条第2項の適用を受けられません(出願人は、指定商品・指定役務の補正で対応することになります)。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠・○:出願商標を使用していると認められる区分
- 赤の枠・×:出願商標の使用とは認められない区分
【図5】「使用」の2つの同一性(商標×商品・役務)の4マス図。商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項 1.(1)(2) の記載をもとに本記事作成者が模式化したもの。「同一」には、審査基準のただし書にいう同一性を損なわない場合を含みます。
4. 「需要者が…認識することができるもの」 ― 全国的な認識・考慮事由・証拠方法
審査基準は、この要件を何人かの出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているものをいう。
と説明しています(同 2.(1))。条文には「全国的」という語はありません。「全国的に認識」は審査基準(実務上の取扱い)の整理である点を区別して覚えてください。
| 考慮事由(2.(2))― 「例えば、次のような事実を総合勘案して判断する。」 | 証拠方法(2.(3))― 「例えば、次のような証拠により立証する。」 |
|---|---|
| ① 出願商標の構成及び態様 | ① 商標の実際の使用状況を写した写真又は動画等 |
| ② 商標の使用態様、使用数量(生産数、販売数等)、使用期間及び使用地域 | ② 取引書類(注文伝票(発注書)、出荷伝票、納入伝票(納品書及び受領書)、請求書、領収書又は商業帳簿等) |
| ③ 広告宣伝の方法、期間、地域及び規模 | ③ 出願人による広告物(新聞、雑誌、カタログ、ちらし、テレビCM等)及びその実績が分かる証拠物 |
| ④ 出願人以外(団体商標の商標登録出願の場合は「出願人又はその構成員以外」とする。)の者による出願商標と同一又は類似する標章の使用の有無及び使用状況 | ④ 出願商標に関する出願人以外の者による紹介記事(一般紙、業界紙、雑誌又はインターネットの記事等) |
| ⑤ 商品又は役務の性質その他の取引の実情 | ⑤ 需要者を対象とした出願商標の認識度調査(アンケート)の結果報告書(ただし、実施者、実施方法、対象者等作成における公平性及び中立性について十分に考慮する。) |
| ⑥ 需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果 | ― |
〔表6〕考慮事由と証拠方法。左右の行は対応関係を示すものではなく、それぞれ審査基準の列挙順に並べたもの。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項 2.(2)(3)(2026年9月参照)。
審査基準は、考慮事由についてなお、商標の使用状況に関する事実については、その性質等を実質的に把握し、それによってその商標の需要者の認識の程度を推定する。
とも述べています。「○年使えばよい」「○個売ればよい」といった数値の基準は、条文にも審査基準にも置かれていません。
| 場面 | 審査基準の記載 |
|---|---|
| 他の商標と組み合わせて使用している場合(2.(4)) | 出願商標を他の商標と組み合わせて使用している場合は、出願商標部分のみで独立して識別力を有するに至っているかを判断する。 |
| 団体商標(2.(5)) | 団体商標については、特に、その構成員の使用に関する2.(2)の事実を勘案する。構成員の使用事実の立証は、その者が構成員であることの立証を含めて判断される |
| 小売等役務の商標(2.(6)) | 商標が商品や包装、価格表、取引書類、広告自体に表示されている場合、表示態様に応じて、個別具体的な商品の出所を表示しているのか、取扱商品に係る小売等役務の出所を表示しているのかを考察して、小売等役務についての使用か否かを判断する(要約) |
〔表7〕特別な場面の整理。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項 2.(4)〜(6)(2026年9月参照)。
5. 判断の時期
商標審査基準〔改訂第17版〕 第1 一 第3条第1項全体 は、第3条第1項について本項に該当するか否かの判断時期は、査定時とする。
なお、拒絶査定不服審判請求がなされた場合の判断時期は、審決時である。
としています。識別力は使用によって変化するものなので、出願の時ではなく、査定(審判では審決)の時の状態で判断される、という整理です。出願後・査定前の使用実績も、証拠として意味を持ち得ます。
出典:逐条解説〔第22版〕1544頁〜1545頁。逐条解説は立法担当者による解説であり、条文解釈を確定するものではありません。
6. 第1号・第2号・第6号はなぜ対象外か/第6号の特別な整理
条文上の帰結:第3条第2項は「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても」と限定しているので、第1号(普通名称)・第2号(慣用商標)・第6号に該当する商標には適用されません。
第6号についての審査基準の整理:商標審査基準〔改訂第17版〕 第1 八 第3条第1項第6号 は、その末尾(12.)で、同号に掲げる各類型の商標についても使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるに至っているものについては、本号に該当しないと判断する。
としています。第6号は「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」という文言ですから、認識できるようになった商標は、そもそも第6号の要件を満たさなくなる、という理屈です。
| 第3号〜第5号 | 第6号 | 第1号・第2号 | |
|---|---|---|---|
| 使用により識別力を獲得した場合 | 号には該当したまま、第3条第2項により「同項の規定にかかわらず」登録可 | 第6号に該当しないと判断される(審査基準)。第3条第2項は使わない | 第3条第2項の対象外。地域団体商標(第7条の2第1項)でも「第一号又は第二号に係る場合を除く」 |
| 根拠 | 条文(第3条第2項) | 第6号の文言+審査基準 第1 八 12. | 条文(第3条第2項、第7条の2第1項柱書) |
〔表8〕号ごとの「使用による識別力」の扱い。出典:e-Gov法令検索(商標法第3条、第7条の2第1項)、商標審査基準〔改訂第17版〕 第1 八(2026年9月参照)。
何人も使用できるようにしておく必要性が特に高くと説明しています。これは第7条の2についての立法担当者の説明です。第3条第2項について、青本1544頁は、使用によって識別力を得た第3号〜第5号の商標は特定の者に独占使用を認めることが妥当な場合もあるため登録を認めた、と説明しています。第1号・第2号を同項の対象に広げる説明ではありません。
7. 判断手順の分岐図
flowchart TB
S["識別力が問題になる商標"] --> Q1{"第3条第1項の
どの号に該当?"}
Q1 -- "第3号・第4号・第5号" --> Q2{"出願商標と使用商標は同一?
(同一性を損なわない場合を含む)"}
Q1 -- "第1号・第2号" --> N1["第3条第2項の対象外
使用実績があっても同項では登録不可"]
Q1 -- "第6号" --> N6["第3条第2項の対象外
ただし使用により識別力を獲得していれば
第6号に該当しないと判断(審査基準)"]
Q2 -- "はい" --> Q3{"指定商品・役務と
使用商品・役務は同一?"}
Q2 -- "いいえ" --> NG["第3条第2項の適用なし"]
Q3 -- "はい" --> Q4{"需要者の間で全国的に
何人かの出所表示として
認識されている?(総合勘案)"}
Q3 -- "いいえ" --> NG2["その商品・役務については適用なし
(指定商品・役務の補正を検討)"]
Q4 -- "はい" --> OK["第3条第2項により
第3条第1項を理由には拒絶されない"]
Q4 -- "いいえ" --> NG
OK --> Q5{"第4条第1項各号など
他の拒絶理由は?"}
Q5 -- "あり(例:第4条第1項第18号)" --> NG3["拒絶の査定
第3条第2項では救われない"]
Q5 -- "なし" --> REG["登録査定へ"]
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style REG fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style N1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style NG2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style NG3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:第3条第2項により登録に進める結論
- 赤の箱:第3条第2項では登録できない結論(適用なし・拒絶)
- 白い箱:判断のステップ、および第3条第2項を使わずに整理される第6号の場合
【図6】第3条第2項の判断手順。商標法第3条・第4条第1項第18号と商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項、第1 八 12. をもとに本記事作成者がフロー化したもの。実際の審査がこの順序で行われるという意味ではありません。
8. 立体商標・色彩のみからなる商標などでの役割
商品の形そのものや、色だけの商標は、第3条第1項第3号(商品の形状などの特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)に当たるとされることが多く、登録への道は事実上、第3条第2項にかかっています。審査基準は、タイプごとに「本項の適用が認められる例/認められない例」を挙げています。
| タイプ | 適用が認められる例(審査基準) | 適用が認められない例(審査基準) |
|---|---|---|
| 立体商標(3.) | 出願商標が立体的形状のみで、使用商標は同一の形状に文字が付されているが、形状部分が需要者に強い印象を与え、独立して識別標識として認識される場合/特徴的部分が同一で、それ以外にわずかな違いが見られるにすぎない場合 等 | 立体的形状に大きな違いが見られる場合/出願商標が立体商標であるのに対し、使用商標が平面商標である場合 等 |
| 色彩のみからなる商標(6.) | 使用商標中に出願商標以外の標章が含まれているが、出願商標部分のみが独立して識別標識として認識される場合(例:筆箱の全面が青色で、蓋に小さな丸の図形がある場合で、青色が強い印象を与え独立して認識されるとき) | 色相(色合い)、彩度(色の鮮やかさ)や明度(色の明るさ)が全部又は一部異なる場合/色彩を組み合わせてなる商標で配色の割合が異なる場合/商品における色彩の位置が異なる場合 |
| 音商標(7.) | 厳密には同一でなくても、同一の音商標であると需要者が認識し得るときは同一と判断。音楽的要素からなる音商標では少なくともメロディーが同一であることを要する。例:バイオリンとビオラ(音色が近似)/数秒のサウンドロゴがCMの最後に流れ、独立して認識される場合 | メロディーが同一でも、リズム、テンポ又はハーモニーが異なり、全体の印象が大きく異なる場合/バイオリンに対しピアノやオーケストラで演奏された場合等 /音以外の要素を含み、音が独立して認識されない場合 |
| 動き商標(4.)・ホログラム商標(5.)・位置商標(8.) | 使用商標中に出願商標以外の要素・標章が含まれているが、出願商標部分のみが独立して識別標識として認識される場合 | 使用商標が出願商標と相違する場合(動き:時間の経過に伴う標章の変化の状態の相違等/ホログラム:視覚効果の相違等/位置:標章の位置の相違) |
〔表9〕商標のタイプ別の例示(抜粋・要約。内のみ原文)。例示の全部は載せていません。出典:商標審査基準〔改訂第17版〕 第2 第3条第2項 3.〜8.(2026年9月参照)。
第4条第1項第18号との関係(条文上の帰結):第3条第2項の効果は「同項(=第3条第1項)の規定にかかわらず」です。第4条第1項各号はこれとは別の不登録事由なので、第3条第2項の要件を満たしても、第4条第1項第18号(商品等(…)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
)に当たれば登録されません。政令で定める特徴は、商標法施行令第1条の2で、立体的形状、色彩又は音(役務にあっては、役務の提供の用に供する物の立体的形状、色彩又は音)とされています(e-Gov、法令ID 335CO0000000019、2026年9月参照)。
裁判例(裁判所ウェブサイトで確認できたもの)
| 事件 | 対象 | 判決文が示した判断の枠組み(原文) | 結論 |
|---|---|---|---|
| 知的財産高等裁判所 平成23年4月21日判決 平成22年(行ケ)第10386号 審決取消請求事件 | 立体商標(香水の容器の形状) | 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、①当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否、②当該商標が使用された期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を、総合考慮して判断すべきであるまた、 使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する | 請求棄却(第3条第1項第3号に該当し、第3条第2項の要件を満たさないとした審決を維持) |
| 知的財産高等裁判所 令和5年1月24日判決 令和4年(行ケ)第10062号 審決取消請求事件 | 色彩のみからなる商標(単色)。指定商品は第16類「鉛筆(色鉛筆を除く。)」 | 単一の色彩のみからなる商標が第3条第2項に該当するというためには、当該商標が使用をされた結果、特定人の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり、さらに、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要する | 請求棄却 |
〔表10〕第3条第2項に関する知的財産高等裁判所の裁判例。事件番号・裁判年月日は裁判所ウェブサイトの裁判例検索(個別ページ)で確認(2026年9月参照)。いずれも個別事案についての判断であり、あらゆる立体商標・色彩商標に同じ結論が当てはまるという意味ではありません。
9. 3つの「広く知られている」をくらべる ― 第7条の2・第4条第1項第10号との違い
商標法には、知られている程度を問題にする条文がいくつもあります。文言も、求められる程度も、だれの商標についての話かも違います。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:第3条第2項(出願人自身の商標。登録を受けられるようにする)
- 橙の枠:第7条の2第1項(組合等とその構成員の商標。登録を受けられるようにする)
- 藍の枠:第4条第1項第10号(他人の商標。出願人の登録を妨げる)
【図7】3つの条文の位置づけ。出典は〔表11〕と同じ。本記事作成者が模式化したもの。第7条の2第1項と第4条第1項第10号の間の程度の上下を示す図ではありません。
| 第3条第2項 | 第7条の2第1項(地域団体商標) | 第4条第1項第10号 | |
|---|---|---|---|
| 条文の文言 | 「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」 | 「その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」 | 「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」 |
| だれの商標についてか | 出願人自身 | 出願人(組合等)又はその構成員 | 他人 |
| 求められる認識の範囲 | 需要者の間で全国的に認識されているもの(審査基準 第2 2.(1)) | 改正法解説書は、要求される周知性の程度について、第3条第2項に基づき登録を受ける場合に実務上要求されるものよりも狭く、また低いもので足りる。と説明し、需要者の広がりの例として隣接都道府県に及ぶ程度を挙げています | 最終消費者まで広く認識されている商標のみならず取引者の間に広く認識されている商標を含み、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。(審査基準 第3 九) |
| 乗りこえられる第3条第1項の号 | 第3号〜第5号 | 「第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず」=第1号・第2号以外 | ―(識別力の話ではない) |
| 出願できる主体 | 限定なし | 組合等(事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人、これらに相当する外国の法人) | ― |
| 登録後に認識が失われたら | 後発的な無効理由(第46条第1項第5号〜第7号)に第3条は挙げられていない | 第46条第1項第7号の無効理由になる | ― |
〔表11〕「知られている程度」を問う3つの条文の比較。出典:e-Gov法令検索(商標法第3条第2項、第4条第1項第10号、第7条の2第1項、第46条第1項)、商標審査基準〔改訂第17版〕 第2・第3 九、特許庁 平成17年法律改正(平成17年法律第56号)解説書「地域団体商標」(いずれも2026年9月参照)。
特許庁の説明資料「地域団体商標制度について」(特許庁 審査業務部 商標課 地域ブランド推進室)も、通常、「地域名+商品(サービス)名」の組み合わせからなる文字商標は、「全国的に周知」となっていなければ商標登録することができない。
と、第3条第2項ルートの高さを説明しています。地域団体商標は、この「全国的に周知になるまで保護されない」という問題に対応するために設けられた制度です。
出典:逐条解説〔第22版〕1579頁〜1580頁。逐条解説は立法担当者による解説であり、条文解釈を確定するものではありません。
10. 拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間との対応
第3条第2項は「登録を受けることができる」場合を定める規定で、それ自体に「違反」するというより、第3条第2項の要件を満たさないのに登録された=第3条第1項第3号〜第5号に違反して登録された、という形で問題になります。
| 場面 | 条文 | 第3条違反は該当するか | メモ |
|---|---|---|---|
| 拒絶理由 | 商標法第15条第1号 | 該当 | 第15条第1号に「第三条」が挙げられている |
| 登録異議の申立ての理由 | 商標法第43条の2第1号 | 該当 | 商標掲載公報の発行の日から2月以内 |
| 無効理由 | 商標法第46条第1項第1号 | 該当 | 登録時に第3条第2項の要件を満たしていなかったことを争う |
| 除斥期間 | 商標法第47条第1項 | 対象 | 第3条違反を理由とする無効審判は、商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は請求できない(出典:商標法第47条第1項、2026年9月時点のe-Gov) |
| 後発的無効理由 | 商標法第46条第1項第5号〜第7号 | 非該当 | 登録後に識別力が弱まっても、第3条は後発的無効理由に挙げられていない(地域団体商標の第7号と対比) |
〔表12〕第3条(第3条第2項の要件を満たさない登録)と各手続の対応。出典:e-Gov法令検索(商標法第15条、第43条の2、第46条第1項、第47条第1項)、2026年9月参照。各手続の詳細は関連記事で扱います。
11. 第26条との関係 ― 登録されても、他人の「普通の説明」までは止められない
第3条第2項で登録された商標も、ふつうの商標権と同じく、商標法第26条第1項の制限を受けます。第26条第1項第2号・第3号は、指定商品・指定役務やこれに類似する商品・役務の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格
などを普通に用いられる方法で表示する商標
には、商標権の効力が及ばないとしています。また同項第6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
にも効力が及ばないとしています。
| 他人の行為(架空の例) | 考える条文 | 整理 |
|---|---|---|
| 別のパン屋が、パンの説明として「ふわふわの食感です」と普通の書き方で表示する | 商標法第26条第1項第2号(品質等を普通に用いられる方法で表示する商標) | 商標権の効力が及ばない方向で検討される(条文上の帰結。個別の表示態様による) |
| 別のパン屋が、自分の商品名として「ふわふわ」を目立つロゴで大きく表示して売る | 商標法第25条・第37条(効力・侵害とみなす行為)と第26条第1項の各号 | 「普通に用いられる方法」といえるか、出所を示す態様の使用かが問題になる。結論は個別の事情による |
〔表13〕第3条第2項で登録された商標と第26条第1項の関係。条文の読み比べによる本記事作成者の整理で、具体的な事件の結論を示すものではありません。出典:e-Gov法令検索(商標法第26条第1項)、2026年9月参照。
12. 改正の経過と、特許法・実用新案法・意匠法との比較
第3条第2項の文言自体について、2026年9月時点のe-Gov掲載条文で、施行待ちの改正は確認されませんでした。新しいタイプの商標(色彩、音など)の導入に伴い、審査基準には 4.〜8. のタイプ別の項目が置かれています。
「特別顕著性」は旧法(大正10年法)で用いられていた語で、現行法(昭和34年法)はこの字句を使わずにその具体的内容を第3条第1項各号に列挙した、というのが同書の説明です(第3条第1項の記事もあわせてご覧ください)。
出典:逐条解説〔第22版〕1540頁、1544頁。逐条解説は立法担当者による解説であり、条文解釈を確定するものではありません。
出典:平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書 第4章 161頁〜162頁・165頁、序章 8頁。改正法解説書は立法担当者による解説であり、条文解釈を確定するものではありません。
| 商標法 | 特許法 | 実用新案法 | 意匠法 | |
|---|---|---|---|---|
| 登録要件の基本条文 | 商標法第3条(識別力) | 特許法第29条 | 実用新案法第3条 | 意匠法第3条 |
| 保護の根拠 | 商標に化体した業務上の信用。使用によって変化する | 発明 | 考案 | 意匠 |
| 「使用を重ねた結果、要件を満たすようになる」という規定 | あり(商標法第3条第2項、第7条の2第1項) | 特許法第29条には置かれていない | 実用新案法第3条には置かれていない | 意匠法第3条には置かれていない |
| 出願前に世に出ていたことの扱い | 使用実績は、第3条第2項ではむしろ登録に有利に働く | 出願前に公然知られたこと等は、原則として登録を妨げる方向に働く(例外あり。各法の関連記事を参照) | ||
〔表14〕四法の比較。出典:e-Gov法令検索(商標法第3条、特許法第29条、実用新案法第3条、意匠法第3条)、2026年9月参照。「保護の根拠」欄は商標法第1条等の目的規定を踏まえた本記事作成者の整理です。
13. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われやすい切り口(条文・審査基準から導かれるもの) |
|---|---|
| 短答式 | 対象となる号(第3号〜第5号のみ)/第1号・第2号・第6号との組合せのひっかけ/地域団体商標(第7条の2第1項)で除かれる号(第1号・第2号)との対比/除斥期間(第47条第1項)の対象か |
| 論文式 | 記述的商標の拒絶理由通知への対応(意見書での第3条第1項第3号非該当の主張、第3条第2項の主張・立証、指定商品・指定役務の補正)を、要件に沿って書けるか |
| 口述 | 条文の文言(「使用をされた結果」「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」)を正確に言えるか、対象の号を即答できるか |
〔表15〕試験種別ごとの切り口。本記事作成者の整理であり、出題を予想・保証するものではありません。
令和8年度短答式【商標】2の肢(ニ)は、普通名称と産地名を普通に表示した商標について、使用による識別力の獲得と登録の関係を問います。問題全体の公式正解は1(正しいもの1つ)です。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。
- 対象は第3条第1項第3号〜第5号のみ。第6号は対象外だが、審査基準は「使用により識別力を獲得していれば第6号に該当しない」と整理。第1号・第2号は第7条の2でも除かれる。
- 「使用」は、①出願商標と使用商標の同一性、②指定商品・役務と使用商品・役務の同一性、の2軸で見る。平仮名と片仮名の違いは同一性が認められない例。
- 「認識することができるもの」=需要者の間で全国的に認識(審査基準)。考慮事由6つ、証拠方法5つは例示で、総合勘案。
- 第7条の2の周知性は第3条第2項より狭く低いもので足りる(改正法解説書の説明)。第4条第1項第10号は「他人」の商標で、一地方の周知も含む(審査基準)。
- 効果は第3条第1項を乗りこえるだけ。第4条第1項第18号などは別。登録後も第26条第1項の制限を受ける。
- 要件を満たさない登録は第3条違反として拒絶・異議・無効の理由になり、無効審判には5年の除斥期間がある(第47条第1項)。
