小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #4
目じるし(商標)は、ほかの目じるしと見分けがつけば何でも登録できる、というわけではありません。国旗のような「国のしるし」、だれもが使うはずの「みんなのもの」、お客さんをだます「うそをつく名前」は、社会全体のために登録できないことになっています。この記事では、商標法第4条第1項のうち、社会全体の利益を守るための号(第1号〜第7号、第9号、第16号、第18号)を、やさしい言葉から順に見ていきます。
LEVEL 1イメージでつかむ
見分けがつく名前でも、登録できないことがある
商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしは、特許庁(とっきょちょう)という国の役所に登録(とうろく)すると、その人だけが使えるようになります。
では、パン屋さんの「ほしぞらパン」が、日本の国旗(こっき)とそっくりなマークを、自分の店だけの目じるしにしたいと考えたら、どうでしょう。
国旗は、国をあらわす大切なしるしです。ひとつのお店が「これはうちだけのマークです」とひとりじめしてよいものではありません。そこで商標法は、「社会(しゃかい)全体のために、登録させない目じるし」を決めています。
大きく分けると、次の3つのイメージです。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:① 国のしるし
- 青緑の枠:② みんなのもの(商品がもともと持っている形・色・音)
- 藍の枠:③ うそをつく名前
- 赤の帯:3つに共通する結論(社会全体のために登録できない)
【図1】社会全体のために登録できない目じるしの3つのイメージ。「ほしぞらりんご」は架空の商品名、旗は架空の図です。本記事作成者が条文の内容を単純化して3つにまとめたもので、条文がこの3つに分けているわけではありません。
① 国のしるし ― ひとりじめしてはいけない
国旗、国のマーク、世界の国々が集まる団体(だんたい)のマーク、けがをした人を助ける活動のしるし、県や市の有名なマーク。こうしたしるしは、国や社会のためのものです。ひとつのお店の目じるしにすると、しるしの大切さがきずつきますし、お客さんは「国や市がやっているお店かな」とまちがえてしまいます。
もうひとつ、社会のきまりや思いやりに反(はん)する名前も、登録できません。たとえば、見た人がとてもいやな気持ちになる言葉や、ほかの国の人をばかにするような名前です。
② みんなのもの ― もともとの形・色・音
目じるしには、文字や絵だけでなく、形や色や音もあります。でも、サッカーボールが「丸い」のは、ボールとして使うために当たり前の形です。もし「丸い形」をだれかが目じるしとしてひとりじめしたら、ほかの会社はボールを作れなくなってしまいます。
だから、商品がもともと当たり前に持っている形・色・音だけでできた目じるしは、どんなに有名になっても登録できません。
③ うそをつく名前 ― お客さんをだまさない
りんごが入っていないジュースに「ほしぞらりんご」という名前がついていたら、お客さんは「りんごのジュースだ」と思って買ってしまいます。このように、商品の中身をまちがえさせるおそれがある名前は、登録できません。
博覧会(はくらんかい)でもらう「賞(しょう)」のマークも同じです。賞をもらっていない人が、賞とそっくりなマークを目じるしに入れると、お客さんは「賞をとった商品だ」とまちがえてしまいます。
- ほかの目じるしと見分けがつく名前でも、社会全体のために登録できないものがある。
- イメージは3つ。①国のしるし(と、社会のきまりに反する名前)、②みんなのもの(商品がもともと持っている形・色・音)、③うそをつく名前。
- これらは、お店どうしの争いを防ぐためというより、社会全体を守るためのきまり。
※「国のしるし」は、正確には条件があります。どのしるしが対象か、国の大臣が指定したものに限られるか、どんな商品に使う場合か、などが号ごとにちがいます(→レベル2・レベル3)。
※ 県や市、公益(こうえき)の団体が自分で自分のマークを出願する場合は、登録できる例外があります(→レベル2)。
※ 賞をもらった本人が、目じるしの一部にその賞のマークを使う場合は、例外があります(→レベル2)。
※「もともと持っている形・色・音」は、正確には政令(せいれい=国が決める細かいきまり)で決められた特徴「だけ」でできた目じるしに限られます(→レベル3)。
※ ①〜③の3分類は、本記事作成者が分かりやすさのために単純化したものです。
LEVEL 2条文の骨格
柱書 ― 「前条の規定にかかわらず」がカギ
商標法第4条第1項は、はじめの文(柱書=はしらがき)と、第1号から第19号までの号でできています(第13号は削除されています)。まず柱書を見ます。
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
| 部品 | 文言 | 意味 |
|---|---|---|
| 何を | 「次に掲げる商標については」 | 第1号〜第19号のどれかに当たる商標が対象。 |
| どんな関係で | 「前条の規定にかかわらず」 | 「前条」は商標法第3条。第3条は「見分ける力(識別力)」のきまり。第3条をクリアしても、第4条第1項に当たれば登録できない、という意味。第3条には第2項(使用によって見分けられるようになった商標)も含まれる。 |
| どうなる | 「商標登録を受けることができない」 | 審査で拒絶(きょぜつ)される。まちがって登録されても、あとで取り消されたり無効(むこう)にされたりする理由になる(→レベル3)。 |
〔表1〕商標法第4条第1項柱書の分解。「意味」の欄は本記事作成者による説明です。
10個の号の原文
この記事であつかう10個の号の原文です。第2号の長いかっこ書き(パリ条約の定義)だけは、読みやすさのため表の外に分けて示します。
| 号 | 原文(「」内は条文のとおり) | ひとことで |
|---|---|---|
| 第1号 | 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標 | 日本の国旗・菊のご紋・勲章・褒章、外国の国旗 |
| 第2号 | パリ条約(…略…)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標 (…略…)の部分は下の枠に原文を示します。 | 外国の国の紋章など(大臣が指定したもの) |
| 第3号 | 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。) イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの | 国際機関のしるし(大臣が指定したもの)。イ・ロの例外あり |
| 第4号 | 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標 | 赤十字などの標章・名称、国民保護の特殊標章 |
| 第5号 | 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの | 国や自治体の「検査ずみ」「証明」の印(大臣が指定したもの)。同じ・似た商品役務に使う場合 |
| 第6号 | 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標 | 国・自治体・非営利の公益団体や公益事業の著名なしるし |
| 第7号 | 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標 | 公序良俗(こうじょりょうぞく)に反するおそれ |
| 第9号 | 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。) | 博覧会の賞のマーク。受賞者本人が商標の一部に使う場合は除く |
| 第16号 | 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標 | 中身をまちがえさせるおそれ |
| 第18号 | 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標 | 商品などが当然に備える特徴(政令で定めるもの)だけの商標 |
〔表2〕商標法第4条第1項第1号〜第7号・第9号・第16号・第18号の原文一覧。出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。「ひとことで」の欄は本記事作成者による要約で、要件を省略しています。
(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)
第4条第1項の全体地図 ― 2つのグループ
第4条第1項の号は、学習上、2つのグループに分けて説明されることがよくあります。社会全体の利益を守る号(公益的な不登録事由)と、特定の他人の利益を守る号(私益的な不登録事由)です。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:公益的と整理される号(本記事の範囲)
- 藍の枠:私益的と整理される号(別記事)
- 白い破線の枠:削除された号(第13号)
【図2】商標法第4条第1項の号の地図。グループ分けは条文上の区別ではなく講学上の整理で、ここでは特許庁の制度解説ページ「出願しても登録にならない商標」の見出しの分け方に合わせて本記事作成者が図にしたものです。
号ごとの役割 ― どこがちがうかを横にならべる
| 号 | 守られるしるし・内容 | 大臣・長官の指定や基準 | 商標のどの範囲がだめか | 商品・役務の限定 | 号の中の例外 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1号 | 国旗、菊花紋章、勲章、褒章、外国の国旗 | なし | 同一又は類似の商標 | なし | なし |
| 第2号 | パリ条約の同盟国・世界貿易機関の加盟国・商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(国旗を除く) | 経済産業大臣が指定 | 同一又は類似の商標 | なし | なし |
| 第3号 | 国際連合その他の国際機関を表示する標章 | 経済産業大臣が指定 | 同一又は類似の商標 | なし(ただしロは商品・役務との関係を見る) | イ(自己の周知な商標など)、ロ(略称で、関係があるとの誤認のおそれがない商品・役務) |
| 第4号 | 赤十字の標章・名称(法律第1条)、国民保護法の特殊標章 | なし(他の法律で特定) | 同一又は類似の商標 | なし | なし |
| 第5号 | 日本国・外国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号 | 経済産業大臣が指定 | 同一又は類似の標章を有する商標 | あり:その印章・記号が用いられている商品・役務と同一又は類似のもの | なし |
| 第6号 | 国、地方公共団体、これらの機関、非営利の公益団体、非営利の公益事業を表示する標章で著名なもの | なし | 同一又は類似の商標 | なし | 号の中にはなし。ただし商標法第4条第2項の例外あり |
| 第7号 | 公の秩序又は善良の風俗 | なし | 害する「おそれがある」商標 | なし | なし |
| 第9号 | 一定の博覧会の賞 | 政府等以外の者が開設する博覧会は、特許庁長官の定める基準に適合するもの | 同一又は類似の標章を有する商標 | なし | その賞を受けた者が商標の一部として使用をするもの |
| 第16号 | 商品の品質・役務の質についての需要者の信頼 | なし | 誤認を生ずる「おそれがある」商標 | 条文上の限定はないが、指定商品・指定役務との関係で判断される(→レベル3) | なし |
| 第18号 | 商品等が当然に備える特徴を、だれもが使えること | 政令(商標法施行令第1条の2)で特徴を定める | その特徴のみからなる商標 | なし | なし |
〔表3〕号ごとの役割一覧。条文の文言を本記事作成者が整理したもの。「同一又は類似の商標」(第1号〜第4号・第6号)と「同一又は類似の標章を有する商標」(第5号・第9号)、「のみからなる商標」(第18号)という書き分けに注意してください。
第4条第2項 ― 本人が出願するなら第6号は使わない(概要)
国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者が前項第六号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない。
| 部品 | 文言 | 意味 |
|---|---|---|
| だれが | 「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者」 | 第6号で守られている本人たち。 |
| 何を | 「前項第六号の商標について商標登録出願をするとき」 | 第6号に当たる商標を出願するとき。 |
| どうなる | 「同号の規定は、適用しない」 | 第6号では拒絶されない。外れるのは第6号だけで、ほかの号や商標法第3条の審査は別に行われる。 |
〔表4〕商標法第4条第2項の分解。詳しい解説は関連記事(第4条第2項〜第4項)に回します。
審査での位置づけ
flowchart TB
A["商標登録出願"] --> B{"商標法第3条
見分ける力(識別力)はあるか"}
B -- "ある
(第3条第2項で認められる場合を含む)" --> C{"商標法第4条第1項の各号に
当たるか
(柱書「前条の規定にかかわらず」)"}
B -- "ない" --> X["拒絶の理由になる
(商標法第15条第1号)"]
C -- "当たる" --> X
C -- "当たらない" --> D["ほかの拒絶の理由がなければ
登録をすべき旨の査定"]
style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:登録をすべき旨の査定に向かう結論
- 赤の箱:拒絶の理由になる結論
【図3】商標法第3条と第4条第1項の関係。条文(第4条第1項柱書、第15条第1号)を本記事作成者がフロー化したもの。実際の審査は第3条と第4条を順番に1つずつ見るとは限らず、図は関係を示すために単純化しています。
- 柱書の「前条の規定にかかわらず」により、商標法第3条(第2項を含む)をクリアしても、第4条第1項の号に当たれば登録できない。
- 第2号・第3号・第5号は「経済産業大臣が指定するもの」、第9号の一部は「特許庁長官の定める基準に適合するもの」に限られる。第1号・第4号・第6号にはこうした指定の仕組みがない。
- 第5号・第9号は「標章を有する商標」、第18号は「のみからなる商標」。第5号だけは商品・役務の同一・類似も要件。
- 例外:第3号イ・ロ、第9号かっこ書き(受賞者本人)、第6号に対する第4条第2項(本人の出願)。
- 「公益的/私益的」は条文上の区別ではなく講学上の整理。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 拒絶・異議・無効・除斥期間・後発的無効理由の対応表
第4条第1項の各号は、号の区別なくまとめて「第四条第一項」として、拒絶の理由(商標法第15条第1号)、登録異議の申立ての理由(商標法第43条の2第1号)、商標登録の無効の審判の理由(商標法第46条第1項第1号)に挙げられています。号によって差が出るのは、次の3点です。
- 判断の時点の特則(商標法第4条第3項)の対象かどうか
- 除斥期間(商標法第47条第1項)の対象かどうか
- 後発的無効理由(商標法第46条第1項第6号)の対象かどうか(「後発的無効理由」は講学上の呼称です)
商標登録がされた後において、その登録商標が第四条第一項第一号から第三号まで、第五号、第七号又は第十六号に掲げる商標に該当するものとなつているとき。
第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号又は第十九号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
| 号 | 整理(講学上) | 拒絶 第15条第1号 | 異議 第43条の2第1号 | 無効 第46条第1項第1号 | 除斥期間 第47条第1項 | 後発的無効理由 第46条第1項第6号 | 出願時も要件 第4条第3項 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 第1号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | ○ | ― |
| 第2号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | ○ | ― |
| 第3号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | ○ | ― |
| 第4号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | × | ― |
| 第5号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | ○ | ― |
| 第6号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | × | ― |
| 第7号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | ○ | ― |
| 第8号 | 私益 | ○ | ○ | ○ | 対象(5年) | × | ○ |
| 第9号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | × | ― |
| 第10号 | 私益 | ○ | ○ | ○ | 対象(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く) | × | ○ |
| 第11号・第12号・第14号 | 私益 | ○ | ○ | ○ | 対象(5年) | × | ― |
| 第15号 | 私益 | ○ | ○ | ○ | 対象(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く) | × | ○ |
| 第16号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | ○ | ― |
| 第17号 | 私益 | ○ | ○ | ○ | 対象(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く) | × | ○ |
| 第18号 | 公益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | × | ― |
| 第19号 | 私益 | ○ | ○ | ○ | 対象外 | × | ○ |
〔表5〕商標法第4条第1項各号 × 拒絶・異議・無効・除斥期間・後発的無効理由・判断時の特則の対応表。商標法第15条第1号、第43条の2第1号、第46条第1項第1号・第6号、第47条第1項、第4条第3項の原文(e-Gov、2026年9月参照)を本記事作成者が表にしたもの。「整理(講学上)」の列は条文上の区別ではありません。第47条第1項の「5年」は「商標権の設定の登録の日から五年」です。第13号は削除。
① 本記事の10個の号(第1号〜第7号・第9号・第16号・第18号)は、いずれも商標法第47条第1項の列挙に入っていません。つまり、設定の登録の日から5年を過ぎても、これらの号に違反して登録されたことを理由とする無効審判を請求できます。
② 逆に、第47条第1項に挙がっている第4条第1項の号(第8号、第10号〜第12号、第14号、第15号、第17号)は、すべて私益的と整理される号です。「公益的/私益的」という講学上の整理が、除斥期間の有無という条文上の違いとして現れている場面です。
③ ただし、第19号は私益的と整理されますが第47条第1項の列挙にありません。「私益的な号=除斥期間あり」と丸暗記すると誤ります(例外あり)。
④ 後発的無効理由(第46条第1項第6号)は、公益的な号のうち第1号〜第3号・第5号・第7号・第16号の6つだけです。第4号・第6号・第9号・第18号は入っていません。
① 後発的無効理由(第46条第1項第6号)が設けられた経緯:この号は平成8年の一部改正で新設されたもので、同改正において存続期間の更新時における公益的不登録事由についての実体審査(改正前の第21条第1項第1号)を行わないこととし、更新登録の無効審判制度(改正前の第48条)も廃止したことに伴う代替措置として設けられた。
② 請求人適格の例:後発的な公益的無効事由(第4条第1項第1号から第3号まで、第5号、第7号、第16号)を理由とする無効審判を請求できる利害関係人としては、第1号から第3号まで及び第5号については外国の大使館や国際機関等、第7号については市民団体等、第16号については商標権者の同業者等が例として考えられる。
③ 無効の効果をいつから及ぼすか(第46条の2第1項ただし書・第2項):第46条第1項第5号・第6号の場合は、ともに商標登録時においては何ら瑕疵がなかったのであるから、無効理由に該当することとなった時から無効の効果を及ぼすこととした。該当するに至った時を審判実務上特定できない場合(例として、ある商標が公序良俗に違反することとなった場合や品質の誤認を生ずるようになった場合が挙げられています)は、無効審判の請求の登録の日(予告登録の日)から存在しなかったものとみなすこととした。このようにしたのは、無効の効果を遡及させる時点について争訟化し、いたずらに審理が遅延するのを防止するためである。
④ 除斥期間(第47条)の趣旨:商標登録が過誤によってなされたときでも、一定の期間、無効審判の請求がなく平穏に経過したときは、その既存の法律状態を尊重し、維持するために、無効理由たる瑕疵が治癒したものとして、その理由によっては無効審判の請求を認めない。
⑤ 除斥期間を適用するかどうかの判断基準:その無効理由が公益的な見地から既存の法律状態を覆してまでも無効とすべきものであるかどうかによる。
⑥ 商標法において除斥期間を存置させた理由(〔参考〕):昭和62年の一部改正において特許法では除斥期間を全て廃止したのに対し、商標法においては従前どおりとされたのは、実体的に特許法が除斥期間を有することによる弊害が大きいのに対し、商標法にはそのような事態がなく、むしろ権利の安定化の点が重視されていることによる。
逐条解説〔第22版〕1735頁、1737頁、1738頁、1739頁〜1741頁。逐条解説は立法担当者による解説であって、有権解釈ではありません。
2. 判断の時点 ― 査定時
商標法第4条第3項は、第8号・第10号・第15号・第17号・第19号について「商標登録出願の時」にも該当していることを求めています。本記事の10個の号は、この第4条第3項に挙がっていません。
特許庁の制度解説ページ「出願しても登録にならない商標」(2024年8月26日更新)は、第4条第3項の対象となる号については出願時と登録(査定)時の両方で該当しなければ拒絶にならないこと、その他の事由は登録(査定)時のみが判断時となることを説明しています。したがって、実務上の取扱いとして、本記事の10個の号は査定時を基準に判断されます。出願の時には該当していなくても、査定の時に該当していれば拒絶の理由になります。
では、査定の時には該当しなかったのに、登録の後で該当するようになった場合はどうなるでしょうか。ここで後発的無効理由(商標法第46条第1項第6号)が働きます。
flowchart TB A["登録された商標について
無効審判を考える"] --> B{"登録の時点(査定時)に
第4条第1項の公益的な号に
当たっていたか"} B -- "当たっていた" --> C["商標法第46条第1項第1号
除斥期間なし(第47条第1項の列挙外)"] C --> C2["無効審決が確定
→ 商標権は初めから存在しなかったものとみなす
(第46条の2第1項本文)"] B -- "当たっていなかった" --> D{"登録の後に
第1号〜第3号・第5号・第7号・第16号に
当たるものとなっているか"} D -- "はい" --> E["商標法第46条第1項第6号"] E --> F{"当たるに至った時を
特定できるか"} F -- "できる" --> G["その時から存在しなかったものとみなす
(第46条の2第1項ただし書)"] F -- "できない" --> H["無効審判の請求の登録の日から
存在しなかったものとみなす
(第46条の2第2項)"] D -- "第4号・第6号・第9号・第18号
だけの問題" --> I["第46条第1項第6号の列挙になし"] style C2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style H fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 赤の箱:無効審決が確定したときの効果(商標権が存在しなかったものとみなされる範囲)。【図3】【図5】の赤とは意味がちがいます
【図4】公益的な号と無効審判の関係。商標法第46条第1項第1号・第6号、第46条の2第1項・第2項、第47条第1項の原文を本記事作成者がフロー化したもの。無効審判は利害関係人に限り請求できます(商標法第46条第2項)。
| 場面 | 根拠 | 対象となる号(本記事の範囲) | 無効審決確定の効果 |
|---|---|---|---|
| 登録の時点で違反していた | 商標法第46条第1項第1号 | 10個の号すべて | 商標権は初めから存在しなかったものとみなす(商標法第46条の2第1項本文) |
| 登録の後に該当するものとなった | 商標法第46条第1項第6号 | 第1号〜第3号、第5号、第7号、第16号 | 該当するに至った時から存在しなかったものとみなす(同項ただし書)。時を特定できないときは、無効審判の請求の登録の日から(商標法第46条の2第2項) |
〔表6〕原始的な無効理由と後発的無効理由の効果の違い(「原始的」「後発的」は講学上の呼称)。出典:商標法第46条・第46条の2(e-Gov、2026年9月参照)。
3. 第1号〜第6号・第9号 ― 国・国際機関・公益団体のしるし、博覧会の賞
特許庁の制度解説ページ「出願しても登録にならない商標」は、第2号〜第5号に当たるものの例として、国際原子力機関、赤十字、ジュネーブ十字、赤新月、赤のライオン及び太陽を挙げています。第6号については、「国」は日本国、「地方公共団体」は都道府県、市町村、特別区等を指すと説明し、例として都道府県・市町村などの標章を挙げています。また、国や団体等が自ら出願した場合は第6号では拒絶されないこと(商標法第4条第2項)も説明しています。
| 比べる点 | 第1号 | 第2号 | 第5号 | 第6号 |
|---|---|---|---|---|
| 日本の国旗 | 対象 | ― | ― | ― |
| 外国の国旗 | 対象(「外国の国旗」) | 対象外(かっこ書きで国旗を除く) | ― | ― |
| 外国の国の紋章その他の記章 | ― | 対象(経済産業大臣が指定するもの) | ― | ― |
| 監督用・証明用の印章・記号 | ― | ― | 対象(日本国・外国の政府又は地方公共団体のもの。経済産業大臣が指定するもの) | ― |
| 「著名」の要件 | なし | なし | なし | あり(「著名なもの」) |
| 商品・役務の同一・類似 | 要件でない | 要件でない | 要件 | 要件でない |
| 本人出願の例外 | なし | なし | なし | あり(商標法第4条第2項) |
〔表7〕第1号・第2号・第5号・第6号の書き分け。条文の文言を本記事作成者が整理したもの。第2号のかっこ書きが「国旗を除く」としているのは、外国の国旗が第1号で扱われているためと読めます(条文の構造からの整理)。
4. 第7号 ― 公序良俗。審査基準の5つの類型
第7号の条文は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
だけで、具体的な中身は書かれていません。商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 六 第4条第1項第7号(公序良俗違反)は、該当するものを5つの類型で示しています。次の表は、その要旨です(かぎかっこは審査基準で用いられている語句)。
| 類型 | 着目点 | 審査基準の要旨 |
|---|---|---|
| (1) | 商標の構成自体 | 構成自体が「非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような」文字、図形、記号、立体的形状、色彩やこれらの結合、音である場合。歴史的背景や社会的影響など、多面的な視野から判断する。 |
| (2) | 指定商品・指定役務への使用 | 構成自体はそうでなくても、指定商品・指定役務について使用をすることが「社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する」場合。 |
| (3) | 他の法律 | 「他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている」場合。 |
| (4) | 国際信義 | 「特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する」場合。 |
| (5) | 出願の経緯 | 出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるなど、「登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するもの」として到底容認し得ない場合。 |
〔表8〕第7号の5類型。商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 六 第4条第1項第7号(公序良俗違反)の要旨を本記事作成者が表にしたもの(逐語の引用ではありません)。
審査基準は、続けて本号に該当する例を7つ挙げています。要旨は次のとおりです。
| 例 | 要旨 | 対応すると考えられる類型(本記事作成者の整理) |
|---|---|---|
| ① | 「大学」等の文字を含み、学校教育法に基づく大学等の名称と誤認を生ずるおそれがある場合 | (3) または (2) |
| ② | 「○○士」などの文字を含み、国家資格等を表すものと誤認を生ずるおそれがある場合 | (2) |
| ③ | 周知・著名な歴史上の人物名で、その名称を使った公益的な施策に便乗し、施策の遂行を阻害するなど公共の利益を損なうおそれがある場合 | (5) または (2) |
| ④ | 国旗(外国のものを含む)の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合 | (1) または (4) |
| ⑤ | 音商標が、救急車のサイレン音を認識させる場合 | (2) |
| ⑥ | 音商標が、国歌(外国のものを含む)を想起させる場合 | (2) または (4) |
| ⑦ | 品種登録出願中の品種の名称と同一又は類似の商標で、その品種登録を阻害する目的の出願である場合 | (5) |
〔表9〕第7号の該当例①〜⑦の要旨。商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 六の要旨(逐語の引用ではありません)。右端の列は審査基準の記載ではなく、本記事作成者による整理です。正確な文言は審査基準でご確認ください。
5. 第16号 ― 品質・質の誤認と、第3条第1項第3号の関係
第16号は商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
です。商品の品質などを表す言葉は、商標法第3条第1項第3号(品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)でも問題になります。2つの号は、見ている点がちがいます。
| 比べる点 | 商標法第3条第1項第3号 | 商標法第4条第1項第16号 |
|---|---|---|
| 見ている点 | 見分ける力(識別力)があるか | 需要者が品質・質を誤認するおそれがあるか |
| 条文の文言 | 品質等を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」 | 「誤認を生ずるおそれがある商標」(「のみ」の限定なし) |
| 品質を表す部分+識別力のある部分の結合商標 | 「のみからなる」に当たらなければ、第3号には該当しない | 品質を表す部分があれば、指定商品・指定役務との関係で該当しうる |
| 典型的な場面(特許庁の制度解説ページの例) | 指定商品「シャツ」に「特別仕立」 | 指定商品「ビール」に「○○ウイスキー」/指定商品「菓子」に「パンダアーモンドチョコ」 |
| 商標法第3条第2項(使用による識別力)で救われるか | 救われうる(第3条第2項は第3条第1項第3号〜第5号が対象) | 救われない(第4条第1項柱書「前条の規定にかかわらず」) |
| 解消の方法 | 第3条第2項の主張・立証など | 指定商品・指定役務の補正で、誤認のおそれがない範囲に限定する |
| 後発的無効理由(第46条第1項第6号) | 対象外 | 対象 |
| 除斥期間(第47条第1項) | 対象(第3条) | 対象外 |
〔表10〕商標法第3条第1項第3号と第4条第1項第16号の対比。条文(e-Gov、2026年9月参照)と特許庁の制度解説ページ「出願しても登録にならない商標」(2024年8月26日更新)をもとに本記事作成者が整理したもの。
特許庁の同ページは、指定商品「菓子」に「パンダアーモンドチョコ」を出願した場合を例に、指定商品を「菓子」から「アーモンド入りチョコレート」に補正すれば第16号の理由が解消されることを説明しています。1つの商標が、ある指定商品との関係では第3条第1項第3号、別の指定商品との関係では第4条第1項第16号に当たる、という形で2つの号が同時に問題になることがあります。
flowchart TB A["商標の中に、商品の品質・役務の質を
表す部分がある
例:架空の商標「ほしぞらりんご」"] --> B{"指定商品は、その品質を
持つ商品だけか"} B -- "はい
例:りんごジュース" --> C{"商標は品質等の表示
『のみからなる』か"} C -- "はい" --> D["商標法第3条第1項第3号の問題
(第3条第2項の余地あり)"] C -- "いいえ
(識別力のある部分と結合)" --> E["第3条第1項第3号にも
第4条第1項第16号にも
当たらない方向"] B -- "いいえ
例:清涼飲料 全般" --> F["その品質を持たない商品
(例:みかんジュース)について
商標法第4条第1項第16号の問題"] F --> G["指定商品の補正で
誤認のおそれがない範囲に限定
→ 第16号の理由は解消"] style D fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style E fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 赤の箱:拒絶の理由になりうる方向
- 緑の箱:拒絶の理由にならない/解消する方向
【図5】第3条第1項第3号と第4条第1項第16号の振り分けのイメージ。「ほしぞらりんご」は架空の商標です。条文と特許庁の制度解説ページの補正の例をもとに本記事作成者がフロー化したもので、単純化しています。実際に「誤認を生ずるおそれ」があるかどうかは、審査基準に沿って個別に判断されます。
6. 第18号 ― 当然に備える特徴。意匠法第5条第3号・商標法第26条第1項第5号との対比
第18号の「政令で定めるもの」は、商標法施行令第1条の2に定められています。
商標法第四条第一項第十八号及び第二十六条第一項第五号の政令で定める特徴は、立体的形状、色彩又は音(役務にあつては、役務の提供の用に供する物の立体的形状、色彩又は音)とする。
商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十六 第4条第1項第18号(商品等が当然に備える特徴)は、まず、商品等が「当然に備える特徴」は原則として商標法第3条第1項第3号に該当する商品等の特徴に含まれるとしたうえで、審査で第18号を適用するかどうかが問題となるのは、第3条第1項第3号に該当するが実質的には第3条第2項に該当すると認められる商標についてである、という趣旨を述べています。つまり、第18号は、使用によって識別力を獲得した商標に対する、最後の関門として働きます。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:関門1(商標法第3条第1項第3号)
- 青緑の枠:関門2(商標法第3条第2項)
- 藍の枠:関門3(商標法第4条第1項第18号)
- 赤の帯:3つの関門を通してはたらく柱書のルール
- 灰色の矢印:関門を通っていく順序
【図6】商標法第3条第1項第3号・第3条第2項・第4条第1項第18号の関係。条文と商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十六の趣旨を本記事作成者が模式図にしたもの。「独占を許さないための規定」は本記事作成者による説明で、条文の文言ではありません。
審査基準は、「当然に備える特徴」に当たるかどうかを、商標のタイプごとに次のように整理しています(要旨)。
| 商標のタイプ | (ア) 性質から通常備える/自然発生する | (イ) 機能を確保するために不可欠 |
|---|---|---|
| 立体商標 | 「商品等の性質から通常備える立体的形状のみからなるものであること」 | 「商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなるものであること」 |
| 色彩のみからなる商標 | 「商品等から自然発生する色彩のみからなるものであること」 | 「商品等の機能を確保するために不可欠な色彩のみからなるものであること」 |
| 音商標 | 「商品等から自然発生する音のみからなるものであること」 | 「商品等の機能を確保するために不可欠な音のみからなるものであること」 |
| (イ)の判断で考慮すること:「機能を確保できる代替的な立体的形状、色彩又は音が他に存在するか否か」、代替可能なものが存在する場合でも「同程度(若しくはそれ以下)の費用で生産できるものであるか否か」 | ||
〔表11〕第18号の「当然に備える特徴」の確認事項。商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十六 第4条第1項第18号(商品等が当然に備える特徴)の 2. の要旨を本記事作成者が表にしたもの。引用語句は同基準の本文(PDF134〜135頁)と照合済みです。
第18号と同じ文言は、商標権の効力が及ばない範囲を定める商標法第26条第1項第5号にも出てきます。また、意匠法第5条第3号にも、似た考え方の規定があります。
| 比べる点 | 商標法第4条第1項第18号 | 商標法第26条第1項第5号 | 意匠法第5条第3号 |
|---|---|---|---|
| 原文 | 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標 | 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標 | 物品の機能を確保するために不可欠な形状若しくは建築物の用途にとつて不可欠な形状のみからなる意匠又は画像の用途にとつて不可欠な表示のみからなる意匠 |
| 働く場面 | 登録の場面(登録を受けることができない) | 権利行使の場面(商標権の効力が及ばない) | 登録の場面(意匠登録を受けることができない) |
| 柱書 | 「前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない」 | 「商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない」 | 「第三条の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない」 |
| 対象 | 立体的形状、色彩、音(商標法施行令第1条の2) | 同左(同じ政令の規定) | 形状(物品・建築物)、表示(画像)。色彩・音は対象でない |
| キーワード | 「当然に備える特徴」「のみからなる」 | 同左 | 「不可欠な形状」「不可欠な表示」「のみからなる」 |
〔表12〕商標法第4条第1項第18号・第26条第1項第5号・意匠法第5条第3号の対比。出典:e-Gov法令検索(商標法 334AC0000000127、意匠法 334AC0000000125)、2026年9月参照。「働く場面」「キーワード」は本記事作成者の整理です。
① 新設の経緯(平成8年改正):第18号は、平成8年の一部改正において立体商標制度を導入したことに伴って政策的見地から新設された不登録事由である。商品の形状や商品の包装の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない立体商標は、自他商品の識別力を有しないとして商標法第3条第1項第3号により登録を受けることができないが、そのような商標であっても使用された結果識別力を獲得するに至った場合には同条第2項の適用により登録を受けることができることとなる。そこで本号は、そのような商標であっても、その商品又は商品の包装の機能を確保するために必ず採らざるを得ない不可避的な立体的形状のみからなる商標については商標登録を受けることができないこととしたものである。
② その理由:商標権は存続期間の更新を繰り返すことによって半永久的に所有できる権利であることから、このような商標について商標登録を認めることとすると、その商品又は商品の包装についての生産・販売の独占を事実上半永久的に許すこととなり、自由競争を不当に阻害するおそれがあることに基づく。
③ 平成26年改正:色彩のみからなる商標や音商標の保護を導入した際、新しく保護対象とされる商標のうち、商品等が当然に備える色彩や発する音といった特徴のみからなる商標についても同様に商標登録を排除できるよう、すでに規定されていた商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状(特徴)も包含される商品若しくは商品の包装又は役務が当然に備える特徴と改め、その具体的な特徴については政令に委任することとした。役務の特徴について限定が置かれているのは、不登録事由とする必要があるものとして想定される特徴が、役務の提供の際に使用される役務の提供の用に供する物の特徴に限られるためである。また、役務の提供の用に供する物の立体的形状は平成26年改正前は本号の適用対象となっていなかったが、本号の適用対象に含めるべきものも想定されるため、併せて対象とすることとした。
④ 「含む商標」ではなく「のみからなる商標」とした理由:商品等が当然に備える特徴をその構成の一部に含む商標が登録されたとしても、商標法第26条の規定により、他の商標の一部となっているような場合を含めて商品等が当然に備える特徴のみからなる商標には商標権の効力が及ばないとされているので、商品等の生産・販売や提供を商標権者に独占させることとはならない。一方で「含む商標」と規定すると、当然に備える特徴と識別力を有する文字、図形等が結合している商標(商標全体として識別力を有する商標)が全く保護されなくなるおそれがあるからである。
逐条解説〔第22版〕1557頁〜1558頁。なお、逐条解説〔第22版〕(令和4年10月刊)は政令の規定として「商標法施行令第1条」を挙げていますが、本記事が2026年9月にe-Gov法令検索で確認した現行の規定は上の表12のとおり商標法施行令第1条の2です(刊行時と現行法の条番号を区別)。
同解説書は、商標法第26条第1項第5号の改正についても、商標権の効力が及ばない範囲として同じ商品若しくは商品の包装又は役務が当然に備える特徴を規定し、その具体的な特徴を政令に委任したものであり、第4条第1項第18号の改正に対応するものであると説明しています。
平成26年改正解説書 第4章 166頁〜167頁、171頁〜172頁。同解説書には特許庁公表の正誤表がありますが、訂正箇所は序章の2頁・7頁で、第4章には及んでいません(2026年9月参照)。
7. 特許法・実用新案法・意匠法との比較
| 比べる点 | 特許法第32条 | 実用新案法第4条 | 意匠法第5条 | 商標法第4条第1項(公益的な号) |
|---|---|---|---|---|
| 柱書・本文の形 | 公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明については、第二十九条の規定にかかわらず、特許を受けることができない。 | 公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある考案については、第三条第一項の規定にかかわらず、実用新案登録を受けることができない。 | 柱書:次に掲げる意匠については、第三条の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。 | 柱書:次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。 |
| 公序良俗 | あり | あり | あり(第1号) | あり(第7号) |
| 「公衆の衛生」 | あり | あり | 文言なし | 文言なし |
| 国旗・国の紋章・国際機関などの個別の号 | なし | なし | なし | あり(第1号〜第6号) |
| 他人の業務との混同 | なし | なし | あり(第2号他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠) | 商標法では第15号など(私益的と整理される号。別記事) |
| 品質・質の誤認 | なし | なし | なし | あり(第16号) |
| 機能上不可欠な形状など | なし | なし | あり(第3号) | あり(第18号。立体的形状・色彩・音) |
〔表13〕不登録事由の四法比較。出典:e-Gov法令検索(特許法 334AC0000000121、実用新案法 334AC0000000123、意匠法 334AC0000000125、商標法 334AC0000000127)、2026年9月参照。「なし」は、その条に文言がないという意味で、他の条で同じ結論になる場合があるかどうかまでは示していません。
特許法・実用新案法は公序良俗・公衆の衛生の1か条だけですが、商標法は号が多くなっています。商標は商品や役務に付けて市場で使うしるしなので、国のしるしとの紛らわしさや、品質の誤認といった、使うことによって生じる弊害が問題になりやすいためと説明できます(各号の条文と審査基準の公益保護・品質誤認防止の説明を比較した本記事作成者の整理です)。
8. 試験での問われ方
| 形式 | 学習用の問いの例(本記事作成者の整理) | 本記事の対応箇所 |
|---|---|---|
| 短答式 | 号ごとの要件の書き分け(大臣の指定の有無、「著名」の要否、「有する」と「同一又は類似の商標」、商品・役務の限定、号の中の例外) | 〔表2〕〔表3〕〔表7〕 |
| 短答式 | 除斥期間・後発的無効理由・判断時の号ごとの違い | 〔表5〕〔表6〕【図4】 |
| 短答式 | 第3条第2項と第4条第1項(第16号・第18号)の関係 | 〔表10〕【図6】 |
| 論文式 | 拒絶理由への対応(第16号に対する指定商品・指定役務の補正など)、無効審判の可否(除斥期間の経過後、後発的事由) | 5.、1.、2. |
| 口述 | 条文の文言の正確な再現(第7号、第16号、第18号、柱書) | 〔表2〕 |
〔表14〕試験での問われ方の整理。出題を予想・保証するものではありません。
令和8年度短答式【商標】3は、枝3が品質・質の誤認、枝4が当然に備える立体的形状、枝5が菊花紋章を一部に含む商標を扱います。公式正解は5です。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。
- 第4条第1項の各号は、拒絶(第15条第1号)・異議(第43条の2第1号)・無効(第46条第1項第1号)のすべての理由になる。
- 本記事の10個の号は、第47条第1項の除斥期間の対象外。設定の登録の日から5年を過ぎても無効審判を請求できる。ただし「私益的な号はすべて除斥期間あり」ではない(第19号は列挙外)。
- 後発的無効理由(第46条第1項第6号)は第1号〜第3号・第5号・第7号・第16号。第4号・第6号・第9号・第18号は入っていない。効果は第46条の2第1項ただし書・第2項。
- 判断時は査定時(第4条第3項の対象外)。
- 第7号は審査基準の5類型、第16号は第3条第1項第3号との振り分けと補正による解消、第18号は第3条第2項でも越えられない関門で、政令(商標法施行令第1条の2)は立体的形状・色彩・音。
- 「公益的/私益的」は講学上の整理(例外あり)。条文上の違いは〔表5〕で確認する。
