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小学生でも分かる商標法|商標法第4条第1項第8号 他人の氏名等 ― 「ひとの顔や名前」が入った目じるしは、勝手に登録できない

小学生でもわかる商標法 第05回「他人の氏名・肖像」。名前や肖像を含む商標の条件。

小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #5

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名前や顔は、その人自身のものです。だから、ほかの人の顔や名前が入った目じるしは、その人の「いいよ」がなければ登録できないのが基本です。ただし、名前には「同じ名前の人」がたくさんいます。そこで令和5年の法改正(令和6年4月1日施行)で、「他人の氏名」についてだけルールが見直されました。この記事では、改正前と現行をはっきり分けて、3つのレベルで説明します。

条文:商標法第4条第1項第8号、商標法施行令第1条、商標法第4条第3項審査基準:商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七 第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

同じ名前の人が他にもいるとき、勝手に登録していい?

商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしを国の役所(特許庁=とっきょちょう)に登録すると、その目じるしを自分だけが使えるようになります。

パン屋さんを開いたAさんの名前は「ほしぞら こむぎ」です(この記事の人や店の名前は、すべて作り話です)。Aさんは、自分の名前をそのまま店の目じるしにして、登録したいと考えました。

でも、日本には同じ名前の人が、ほかにもいるかもしれません。会社員のBさんも、となり町の小学生のCさんも、テレビによく出る有名なパン職人(しょくにん)のDさんも、みんな「ほしぞら こむぎ」さんだとしたら、どうでしょう。

Aさんのパン屋 お店の目じるし ほしぞら こむぎ 自分の名前を 目じるしにして 登録したい! Aさん=ほしぞら こむぎ さん 同じ名前の人が ほかにもいる 勝手に登録 してもいい? Bさん(同じ名前) 会社員。パンとは関係なし Cさん(同じ名前) となり町の小学生 Dさん(同じ名前) パンの世界で有名な職人 ※ 人の名前・店の名前はすべて架空(作り話)です

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:自分の名前を目じるしにして登録したい人(Aさん)
  • 青緑の枠:同じ名前の人のうち、パンの分野で有名ではない人
  • 赤の枠:同じ名前の人のうち、パンの分野で有名な人
  • 破線の矢印:Aさんの登録が、同じ名前の人にかかわることを示す

【図1】自分の名前を目じるしにしたいAさんと、同じ名前のBさん・Cさん・Dさん。人名・店名はすべて架空の例。本記事作成者が作成した模式図。

名前や顔は「その人自身のもの」

自分の顔の写真や名前が、知らないお店の目じるしに勝手に使われて、しかも登録までされたら、いやな気持ちになりますね。商標法(しょうひょうほう)という法律は、そういうことが起きないように、「ほかの人の顔や名前が入った目じるしは、その人が『いいよ』と言っていなければ登録できない」というルールを置いています。これが商標法第4条第1項第8号です。

① 顔(写真や似顔絵)② 名前(みょうじ+なまえ)③ 会社や学校などの名前④ 有名な芸名・ペンネーム⑤ 有名な「ちぢめた呼び名」

むかしのルールと、いまのルール

むかし(令和6年3月31日までに出した申込み)は、名前が入った目じるしを登録するには、同じ名前の人みんなから「いいよ」をもらう必要がありました。Bさん、Cさん、Dさん…と、日本じゅうの同じ名前の人を全員さがすのは、ほとんど無理です。自分の名前をブランドにしたいデザイナーさんたちが、とても困っていました。

そこで、いま(令和6年4月1日から後に出した申込み)は、「名前」についてだけルールが変わりました。

だれの「いいよ」が必要? そのほかに必要なこと その結果 むかしのルール 令和6年3月31日までの申込み 同じ名前の人 みんな 有名かどうかは関係なし どんな仕事の人かも関係なし とくになし 全員をさがすのは、ほぼ無理 → 自分の名前でも登録しにくい ↓ いまのルール 令和6年4月1日から後の申込み ① その分野で有名な 同じ名前の人だけ ② 申込む人と、その名前に ちゃんとした「つながり」がある ③ いやがらせなどの 「わるい目的」がない (②③とも新しく加わった) 有名な同じ名前の人が いなければ、「いいよ」は いらない ※「名前」だけの話。顔などは変わらない

図は左右にスクロールできます。

【図2】「他人の名前が入った目じるし」についての、むかしのルールといまのルール。単純化した図で、正確な条件はレベル2・レベル3で説明します。出典:特許庁ウェブサイト「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます」(2025年10月1日更新)、2026年9月参照。本記事作成者が図にしたもの。

図1のAさんの場合を考えてみましょう。パンの世界で有名なDさんがいるので、Aさんは、Dさんの「いいよ」がなければ登録できません(①)。BさんやCさんは、パンの世界で有名なわけではないので、2人の「いいよ」は、いまのルールではいりません。ただし、Aさんの申込みに「つながり」があること(②。自分の名前なので、つながりはあります)と、「わるい目的」がないこと(③)は必要です。

だれの名前?いまのルールでは
その分野で有名な、同じ名前の人がいるその人の「いいよ」が必要。さらに②③も必要。
同じ名前の人はいるが、その分野で有名な人はいない「いいよ」はいらない。ただし②「つながり」と③「わるい目的がない」が必要。
自分とは何のつながりもない、ひとの名前②を満たさないので、登録できない。
ひとを困らせるために、その人の名前を先に登録しようとする③を満たさないので、登録できない。

〔表1〕「他人の名前が入った目じるし」のいまのルール(単純化したもの。正確な条件はレベル3)。本記事作成者の整理。

レベル1のまとめ
  • ほかの人の顔や名前が入った目じるしは、その人の「いいよ」がなければ登録できないのが基本。
  • 「名前」は同じ名前の人が多いので、いまは「その分野で有名な人」の「いいよ」だけでよくなった。
  • そのかわり、名前との「つながり」があることと、「わるい目的」がないことが必要になった。
  • 自分の名前であっても、同じ名前のほかの人から見れば「ひとの名前」。だからこのルールがかかわる。

※「有名」の程度、「つながり」「わるい目的」の中身、「いいよ」(承諾)がいつ必要か、どの時点で判断するかは、正確には条件があります(→レベル3)。また、会社などの名前、芸名、ちぢめた呼び名にも別の条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

まず原文を読む

商標法第4条第1項は、「登録を受けることができない商標」を第1号から第19号まで並べた条文です(第13号は削除されています)。その柱書(はしらがき=各号の前に置かれた共通の文)と第8号の原文は次のとおりです。

商標法第4条第1項 柱書(原文) 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第4条第1項第8号(現行の原文) 他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。令和5年法律第51号による改正後の文言。

文の中ほどにある「又は」で、第8号は大きく2つに分かれます。この記事では、「又は」より前を前半、後ろを後半と呼びます(本記事での呼び方で、条文上の用語ではありません)。後半の「政令で定める要件」は、商標法施行令第1条に書かれています。

商標法施行令第1条(政令で定める要件)(原文) 商標法第四条第一項第八号の政令で定める要件は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 商標に含まれる他人の氏名と商標登録出願人との間に相当の関連性があること。
二 商標登録出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものでないこと。
出典:e-Gov法令検索(商標法施行令、法令ID 335CO0000000019)、2026年9月参照。号の番号「一」「二」は本記事で付したもの(原文は号として列記)。

第8号を部品に分解する

第4条第1項第8号 前半(「又は」より前) a 他人の肖像 b 他人の氏名 (その分野の需要者の間に広く認識されている氏名に限る) c 他人の名称(会社・団体などの名前) d 他人の「著名な」雅号、芸名、筆名 e これら(b〜d)の「著名な」略称 a〜e のどれかを「含む商標」→ 登録できない 例外:その他人の承諾を 得ているものは除く 後半(「又は」より後) 他人の氏名を含む商標 (知名度の限定は書かれていない) であって 政令で定める要件 (商標法施行令第1条) ① 氏名と出願人との間に 相当の関連性があること ② 不正の目的でないこと ①②の「いずれにも該当」 しなければ → 登録できない

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:前半(「又は」より前)の部分
  • 藍の枠:後半(「又は」より後)の部分
  • 赤の枠:条文に知名度の限定(その分野で需要者の間に広く認識されていること)が書かれている部分
  • 橙の枠:前半から除かれる例外(その他人の承諾を得ているもの)

【図3】商標法第4条第1項第8号の構造(前半と後半)。「前半」「後半」、a〜e、①②の記号は本記事での呼び方。条文(e-Gov、2026年9月参照)を本記事作成者が図にしたもの。

部品条文の文言やさしい意味「有名さ」の条件(条文上)
a 肖像他人の肖像人の顔や姿。写真、絵、似顔絵など。書かれていない
b 氏名他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)みょうじ+なまえ(フルネーム)。あり:その商標を使う商品・サービスの分野で、需要者(お客さん)に広く知られていること
c 名称他人の…名称会社、学校、団体などの名前。書かれていない
d 雅号・芸名・筆名著名な雅号、芸名若しくは筆名雅号(がごう)=書家や画家などが使う別の名前。芸名、ペンネーム。あり:「著名な」
e 略称これらの著名な略称氏名・名称・雅号・芸名・筆名をちぢめた呼び名。あり:「著名な」
含む…を含む商標商標の全部が名前である場合だけでなく、一部に入っている場合も対象。―
承諾(その他人の承諾を得ているものを除く。)本人の「いいよ」があれば、前半には当たらない。―

〔表2〕第8号前半の部品分解。「有名さ」の条件の列は条文の文言の有無を示したもの。bの知名度の限定は令和5年法律第51号による改正で入った(→レベル3)。

対象登録できない場合承諾の括弧書
前半a〜e(肖像、広く認識されている氏名、名称、著名な雅号・芸名・筆名、著名な略称)を含む商標その他人の承諾を得ていないときあり
後半他人の氏名を含む商標(知名度の限定なし)政令で定める要件(相当の関連性/不正の目的でないこと)のいずれかを満たさないとき条文上、後半には付いていない

〔表3〕前半と後半の役割。政令の要件は「次の各号のいずれにも該当すること」なので、片方でも欠ければ「政令で定める要件に該当しないもの」になる。条文の文言を本記事作成者が整理したもの。

だれが何をいつどうなる
商標登録出願人(登録を申し込む人)他人の肖像・氏名・名称などを含む商標を出願出願の時と、査定(さてい=審査官の結論)の時の両方で第8号に当たる場合(商標法第4条第3項)商標登録を受けることができない(拒絶される)。まちがって登録されても、登録異議の申立てや商標登録無効審判の対象になる。

〔表4〕第8号の骨格を「だれが/何を/いつ/どうなる」で示したもの。

審査の中での位置づけ

flowchart TB
  A["商標登録出願"] --> B["審査官による審査"]
  B --> C{"商標に 他人の肖像・氏名・名称などが
含まれているか"} C -- "含まれている" --> E{"第8号の前半 または 後半に
当たるか"} C -- "含まれていない" --> D["第8号には当たらない
(他の号の審査へ)"] E -- "当たる" --> F["拒絶理由の通知
(意見書を出す機会)"] E -- "当たらない" --> D F --> G{"承諾書の提出などで
解消したか"} G -- "解消した" --> H["他に拒絶理由がなければ 登録査定"] G -- "解消しない" --> I["拒絶の査定
(商標法第15条第1号)"] style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図4】審査の中での第8号の位置づけ(大づかみの流れ)。条文を本記事作成者がフロー化したもの。拒絶理由の通知から査定までの手続の詳細は、関連記事(商標法第15条〜第17条)を参照。

timeline
  title 「他人の氏名」のルールの見直し(令和5年法律第51号)
  令和5年6月14日 : 改正法(不正競争防止法等の一部を改正する法律)の公布
  令和5年11月29日 : 施行期日を定める政令など(政令第337号・第338号)
  令和6年4月1日 : 施行 : この日以後にした出願に 現行の第8号を適用

図は左右にスクロールできます。

【図5】第8号の改正のタイムライン。出典:特許庁ウェブサイト「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます」(2025年10月1日更新)、2026年9月参照。本記事作成者がタイムライン化したもの。時間軸に縮尺はありません。

レベル2のまとめ
  • 第8号は「又は」で前半と後半に分かれる。前半は「肖像/広く認識されている氏名/名称/著名な雅号・芸名・筆名/これらの著名な略称」を含む商標で、承諾があれば除かれる。
  • 後半は「他人の氏名を含む商標」で、商標法施行令第1条の2つの要件(相当の関連性、不正の目的でないこと)のいずれにも該当するのでなければ登録できない。
  • 「有名さ」の条件が条文に書かれているのは、氏名(その分野で広く認識)、雅号・芸名・筆名(著名)、略称(著名)。肖像と名称には書かれていない。
  • 現行の第8号は、令和6年4月1日以後にした出願に適用される(特許庁ウェブサイトによる)。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 趣旨 ― 人格的利益の保護

第8号の趣旨について、最高裁判所は次のように述べています。

判決事件番号・出典第8号について述べた内容(判決文から)
最高裁判所第三小法廷 平成16年6月8日判決平成15年(行ヒ)第265号(裁判所ウェブサイト 裁判例ID 34323)第8号の趣旨は肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。とし、出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには,査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり,出願時に上記承諾があったとしても,査定時にこれを欠くときは,商標登録を受けることができないと解するのが相当である。と判示。
最高裁判所第二小法廷 平成17年7月22日判決(判示事項に登録商標「国際自由学園」と表示されている事件)平成16年(行ヒ)第343号、集民第217号595頁(同 裁判例ID 62612)第8号の趣旨を、人(法人等の団体を含む)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益の保護にあるとしたうえで、「著名な略称」に当たるかは、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきとし、常に指定商品・指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でないとした。結果は破棄差戻。
最高裁判所第二小法廷 昭和57年11月12日判決昭和57年(行ツ)第15号、民集第36巻11号2233頁(同 裁判例ID 55187)裁判要旨:株式会社の商号から株式会社の文字を除いた部分は商標法四条一項八号にいう「他人の名称の略称」にあたり、右のような略称を含む商標は、右略称が当該株式会社を表示するものとして「著名」であるときに限り、商標登録を受けることができない。

〔表5〕第8号に関する最高裁判決(裁判所ウェブサイトの個別ページ・判決文で確認できたもの。2026年9月参照)。いずれも令和5年法律第51号による改正前の第8号についての判断である。

ポイント:第8号は、商品・役務の出所の混同を防ぐ規定(商標法第4条第1項第10号・第11号・第15号など)とは保護するものが異なります。上の各判決は、第8号が保護するのは他人の「人格的利益」であるとしています。商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七も、判断の各所で「人格権保護の見地から」という表現を用いています。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)は、第8号について次のように説明しています(以下はすべて要約です)。第8号は旧法(大正10年法)第2条第1項第5号に相当する規定であり、旧法との相違は「著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を加えた点にある。その理由は、これらも氏名と同様に特定人の同一性を認識させる機能があるからであり、人格権保護の規定としてはこれらを保護することが妥当だからである。ただし、肖像や、戸籍簿で確定される氏名、登記簿に登記される名称と異なり、雅号等はある程度恣意的なものであるから全てを保護するのは行き過ぎであるので、著名なものに限った。また、氏名はフルネームを意味し、氏又は名のうちいずれか一方のときは本号の適用はない。「これらの著名な略称」とは、氏名、名称、雅号、芸名及び筆名の略称の意味である。自己の名称と他人の名称とが同一の場合は、自己の名称についても本号の適用があり、不登録になる。本号には外国人の氏名や名称も含まれる。さらに、第8号について、これは不正競争防止の規定であるから承諾に関する括弧書は不要であるとの説もあるが、立法の沿革としては人格権保護の規定と考えるべきである、としています。
逐条解説〔第22版〕1553頁。逐条解説〔第22版〕は令和4年10月刊であり、令和5年法律第51号による改正は反映されていません。上記は改正前の第8号についての説明です。
改正時の説明(令和5年改正解説書):特許庁「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」(以下「令和5年改正解説書」)第6章「他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し」は、改正前の制度について、第8号の趣旨は他人の人格権(人格的利益)の保護にあるとされると述べ、その注記で最高裁判所平成16年6月8日判決(判例タイムズ1159号135頁)を挙げています。そのうえで、近時の裁判例において本規定が厳格に解釈されており、特許庁の審査・審判実務においても同様の判断を行っていること、具体的には、出願に係る商標や他人の氏名の知名度等にかかわらず、同姓同名の他人(他人が複数存在する場合にはその全員)の承諾が得られなければ商標登録を受けることができないものとして出願を拒絶していたことを説明しています(要約)。同解説書は「近時の裁判例」として、知的財産高等裁判所令和元年8月7日判決〔KEN KIKUCHI事件〕と知的財産高等裁判所令和2年7月29日判決〔The Soloist.事件〕を注記で挙げています(事件番号は同解説書に記載がないため、本記事では示していません)。
令和5年改正解説書 第6章 41頁。
3判決はいずれも旧第8号の判断です。現行の審査基準も、①承諾は査定時に必要、②法人の種類を除いた名称は略称、③著名な略称等は指定商品・役務の需要者だけを基準にしない、と整理しています。一方、他人の氏名には改正で分野における知名度の条件と政令要件が加わりました。そのため、旧判決から「同姓同名者が一人でもいれば常に全員の承諾が必要」と現行法の結論を出すことはできません。氏名については新しい要件を、名称・略称等についてはそれぞれの要件を確認します。現行審査基準・第3七1〜8、PDF97〜99頁/承諾の最高裁判決/略称の最高裁判決/著名性の最高裁判決

2. 「他人」とはだれか

商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七 1. は、「他人」を次のように説明しています。

商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七 1.「他人」について 「他人」とは、自己以外の現存する者をいい、自然人(外国人を含む。)、法人のみならず、権利能力なき社団を含む。
出典:特許庁「商標審査基準」第3 七 第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)、2026年9月参照。
ケース第8号の「他人」か根拠
出願人本人非該当「自己以外」の者でない(審査基準 第3 七 1.)。
出願人と同姓同名の別人該当自己以外の現存する者。自己の氏名に係る商標でも、他人の氏名にも当たる場合は第8号に当たり得る(審査基準 第3 七 6.)。
外国人該当自然人に外国人を含む(同1.)。
法人、権利能力なき社団該当同1.。
すでに亡くなった人非該当「現存する者」でない(同1.)。(例外あり:第8号に当たらなくても、他の号が問題になることがある。)

〔表6〕「他人」の範囲(商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七 1.・6. による実務上の取扱い)。

故人の氏名は第8号の「他人」の対象ではありませんが、それだけで登録できるとは限りません。現行の第7号の審査基準は、周知・著名な歴史上の人物名について、関連する公益的施策に便乗し、その遂行を妨げるなど公共の利益を損なうおそれがある場合を挙げています。単に故人の名前であることだけで第7号に該当するわけではなく、出願の経緯や使用の事情が問題になります。審査基準・第3六2③、PDF95頁/審査便覧42.107.04

3. 審査基準の整理(実務上の取扱い)

項目商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七 の内容
2.(1)「商標の使用をする商品又は役務の分野」判断にあたっては、人格権保護の見地から、当該商標の指定商品又は指定役務のみならず、当該他人と関連性を有する商品又は役務等をも勘案する。
2.(2)「需要者の間に広く認識されている氏名」人格権保護の見地から、その他人の氏名が認識されている地理的・事業的範囲を十分に考慮した上で、その商品又は役務に氏名が使用された場合に、当該他人を想起・連想し得るかどうかに留意する。
3.「略称」(1) 法人の「名称」から、株式会社、一般社団法人等の法人の種類を除いた場合には、「略称」に該当する。権利能力なき社団の名称は、法人等の種類を含まないため、「略称」に準じて取り扱う。
(2) 外国人の「氏名」について、ミドルネームを含まない場合には、「略称」に該当する。
4.「著名な」略称等他人の「著名な」雅号、芸名、筆名、又はこれら及び他人の氏名、名称の「著名な」略称に当たるかの判断にあたっては、人格権保護の見地から、必ずしも、当該商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは要しない。
5.「含む」他人の名称等を「含む」商標であるかは、当該部分が他人の名称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであるか否かにより判断する。(審査基準には例示が1つあるが、実在の名称を用いた例のため本記事では省略。)
6. 自己の氏名等に係る商標自己の氏名、名称、雅号、芸名、筆名又はこれらの略称に係る商標であっても、第8号前半の他人の氏名等にも該当する場合(承諾を得ているものを除く)、又は他人の氏名を含む商標であって出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものである場合には、当該他人の人格的利益を損なうものとして、本号に該当する。
7.「他人の承諾」「他人の承諾」は、査定時においてあることを要する。
8.(1)「相当の関連性」例えば、出願商標に含まれる他人の氏名が、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、出願前から継続的に使用している店名等である場合は、相当の関連性があるものと判断する。
8.(2)「不正の目的」でないこと例えば、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的が、公開されている情報や情報提供等により得られた資料から認められる場合は、不正の目的があるものと判断する。

〔表7〕商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七 第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)の整理。かぎかっこ内は審査基準からの引用、それ以外は要約。特許庁ウェブサイト、2026年9月参照。審査基準は審査実務上の取扱いであり、条文そのものではない。

ポイント(略称と「著名」):表7の3.(1)のとおり、「株式会社ほしぞらパン」(架空)から「株式会社」を除いた「ほしぞらパン」は、「名称」ではなく「略称」として扱われます。略称は「著名な」ものに限って第8号の対象になるので、法人の種類を除いた部分を含む商標は、その略称が著名でなければ第8号前半には当たりません。これは表5の昭和57年11月12日最高裁判決の裁判要旨と同じ整理です。逆に、法人の種類まで含めた正式な「名称」そのものを含む商標には、条文上、著名性の条件はありません。
審査便覧42.108.03は、出願人自身・業務との氏名の結び付きを調べ、願書の「その他」欄や上申書による説明も認めています。自己の芸名・筆名、所属芸能人の芸名、継続的な商品名等は関連性の例です。出願時にまだ使用していなくても相当程度の使用準備が進んでいる場合は関連性が認められ得ます。他人の氏名をたまたま思い付いた場合や、単なる私的な交友関係だけでは足りません。また、嫌がらせや先取りして買い取らせる目的は不正の目的の例で、公開情報や情報提供等から判断します。審査便覧42.108.03、1〜2頁

4. 第8号該当性の判断手順(分岐図)

flowchart TB
  S["出願商標に 自己以外の現存する者の
肖像・氏名・名称・雅号・芸名・筆名・略称を
含むか"] -- "含む" --> K{"どの部品か"} S -- "含まない" --> OK0["第8号に当たらない"] K -- "肖像 / 名称" --> P1{"その他人の承諾が
査定時にあるか"} K -- "雅号・芸名・筆名 / 略称" --> P2{"著名か"} P2 -- "著名" --> P1 P2 -- "著名でない" --> OK0 K -- "氏名" --> N1{"商標の使用をする商品・役務の分野で
需要者の間に広く認識されている氏名か"} N1 -- "はい" --> N2{"その他人の承諾が
査定時にあるか"} N2 -- "ある" --> N3 N2 -- "ない" --> NG1["第8号前半に当たる"] N1 -- "いいえ" --> N3{"政令要件①
氏名と出願人との間に
相当の関連性があるか"} N3 -- "ある" --> N4{"政令要件②
不正の目的で登録を
受けようとするものでないか"} N3 -- "ない" --> NG2["第8号後半に当たる"] N4 -- "不正の目的でない" --> OK1["第8号に当たらない"] N4 -- "不正の目的がある" --> NG2 P1 -- "ある" --> OK1 P1 -- "ない" --> NG1 style OK0 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style NG1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style NG2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図6】第8号該当性の判断手順。条文と商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七を本記事作成者がフロー化したもの。「氏名」の枝で、承諾がある場合にも政令要件(後半)の確認へ進む形にしているのは、後半の文言に知名度の限定も承諾の括弧書も付いていないことによる本記事作成者の整理である。判断の時点(出願時・査定時)は次の5.を参照。

Q. 広く認識されている同姓同名の他人から承諾をもらえば、政令要件は問題にならないのか。
A. 条文の文言では、後半は「他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの」とされ、知名度の限定も承諾の括弧書も付いていません。文言どおり読めば、承諾を得て前半に当たらなくなった商標にも後半は適用され得ます(条文構造からの本記事作成者の整理)。審査基準 第3 七 6. も、前半に当たる場合と並べて「又は他人の氏名を含む商標であって商標登録出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものである場合」を第8号該当としています。令和5年改正解説書43頁は、一定の知名度のない氏名を一律に対象外とすると無関係な者による濫用的出願が懸念されるため、出願人側の事情も考慮する要件を加えた、と説明しています。審査便覧42.108.03では、承諾は関連性の判断材料となり、不正目的がないことを推認する取扱いも示されています。

5. 判断の時点 ― 商標法第4条第3項(出願時+査定時)と承諾の時期

商標法第4条第3項(原文) 第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号又は第十九号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十八(第4条第3項)は、第4条第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号を適用するには、その商標登録出願が、出願時において各号の規定に該当し、かつ、査定時においても該当しなければならない。としています。

出願時 査定時 ケース ア 両方の時点で該当 該当 該当 第8号を適用 イ 出願後に該当 (出願後に他人の氏名が 広く認識されるに至った等) 非該当 該当 第4条第3項により 適用しない ウ 査定までに非該当 (査定時までに承諾を得た等) 該当 非該当 適用しない エ 承諾が途中で消えた (出願時は承諾あり、 査定時に承諾なし) 本文に該当+承諾あり 本文に該当+承諾なし 登録を受け られない

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の枠:その時点で第8号に該当する状態
  • 青緑の枠:その時点で第8号に該当しない状態
  • 橙の枠:本文には該当するが、承諾があるため第8号には該当しない状態(ケースエの出願時)
  • 赤の文字/青緑の文字:その行の結論(赤=第8号が適用される、青緑=適用されない)
  • 破線の縦線:判断の時点(出願時・査定時)
  • 右向きの矢印:時間の流れ

【図7】第8号の判断時点のタイムチャート。ア〜ウは商標法第4条第3項と商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十八による。エは最高裁判所第三小法廷 平成16年6月8日判決(平成15年(行ヒ)第265号。改正前の第8号についての判断)による。本記事作成者が図にしたもの。時間軸に縮尺はありません。

論点内容性質
第8号該当性の基準時出願時に該当しなければ適用しない(商標法第4条第3項)。条文上の帰結
両時点での該当出願時において該当し、かつ、査定時においても該当しなければならない。商標審査基準 第3 十八(実務上の取扱い)
承諾の時期査定時においてあることを要する。出願時に承諾があっても、査定時に欠ければ登録を受けられない。最高裁判所第三小法廷 平成16年6月8日判決(改正前の第8号)/商標審査基準 第3 七 7.
第4条第3項と承諾の関係同判決は、第4条第3項を、出願時には第8号本文に該当しなかった商標が、その後査定時までの間に該当するようになった場合に関する規定と位置づけ、出願時に承諾があったことをもって同項により第8号の適用が排除されるとはしなかった。同判決(判決文の要約。原文は判決文で確認)

〔表8〕判断の時点と承諾の時期。「性質」の列は、条文上の帰結/審査基準/判例のどれによるかを示したもの。

第4条第3項と現行審査基準によれば、第8号を適用するには、出願時と査定時の両方で同号に該当することが必要です。これは第8号後段の政令要件違反も含む整理です。審査便覧は、相当の関連性について、出願時に相当程度の使用準備がある場合も認めています。「出願時だけ」「査定時だけ」と一方に限らず、各時点の事情を確認します。第4条第3項/審査基準・第3十八1(2)、PDF138頁/審査便覧42.108.03

6. 改正前/現行の比較(令和5年法律第51号)

改正前の商標法第4条第1項第8号(令和6年3月31日までの出願) 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
出典:特許庁「他人の氏名を含む商標の登録要件緩和に伴う商標審査基準の改訂について」(産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会 第33回商標審査基準ワーキンググループ 資料1)に引用された改正前条文、2026年9月参照。
項目改正前(令和6年3月31日までにした出願)現行(令和6年4月1日以後にした出願)
他人の氏名知名度の限定なし。他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾がない限り登録不可。特許庁ウェブサイトは、同姓同名の他人全員の承諾が必要で、知名度や業種を問わず一律に拒絶されていたと説明している。①「商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名」に限り、承諾が必要(前半)。②それとは別に、他人の氏名を含む商標は政令要件(相当の関連性/不正の目的でないこと)のいずれにも該当することが必要(後半)。
他人の肖像承諾がない限り登録不可。変更なし(文言上、接続詞が「又は」から「若しくは」に変わったのみ)。
他人の名称承諾がない限り登録不可。変更なし。
著名な雅号・芸名・筆名、これらの著名な略称承諾がない限り登録不可。変更なし。
政令への委任なし。あり(商標法施行令第1条)。
第4条第3項・第47条第1項の対象第8号は対象(表5の平成16年最高裁判決は改正前の第4条第3項と第8号の関係を判断)。第8号は対象(現行条文で確認)。

〔表9〕第8号の改正前/現行の比較。改正法=不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)。施行日(令和6年4月1日)と「施行日以後にした出願について適用」は、特許庁ウェブサイト「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます」(2025年10月1日更新)による。2026年9月参照。

改正の背景(特許庁の説明):特許庁ウェブサイトは、改正前は他人の氏名を含む商標について同姓同名の他人全員の承諾が必要とされ、知名度や業種を問わず一律に拒絶されていたこと、特にファッション業界から緩和の要望があったことを説明しています。上記ワーキンググループ資料は、改正により出願人が商標登録を受ける利益と他人の氏名に係る人格的利益との調整を図り、一定の知名度を有しない氏名については政令要件によって濫用的な出願を防ぐ、という考え方を示しています(いずれも特許庁の説明の要約)。
改正の必要性と概要(令和5年改正解説書):令和5年改正解説書 第6章は、改正の必要性として次の3点を挙げています(要約)。①近時、本規定が厳格に解釈されており、新興のブランドのみならず広く一般に知られたブランドまで、同姓同名の他人が存在すれば一律に出願を拒絶せざるを得ないことから、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に、要件緩和の要望がある。②中小・スタートアップ企業のブランド選択の幅を広げる観点からも、新興ブランドのデザイナーの氏名を含む商標であっても登録を受けやすくなるよう規定を整備する必要がある。③米国、韓国等の諸外国では他人の氏名について一定の知名度の要件が設けられており、諸外国では登録できる商標であっても我が国では登録が困難な場合があることから、国際的な制度調和の観点からも見直しが求められている。
改正の概要については、第8号に規定する「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課すとともに、一定の知名度を有しない「他人の氏名」が含まれる商標登録出願を一律に同号の対象外としてしまうと、出願に係る商標に含まれる氏名とは無関係な者による濫用的な出願が懸念されることから、出願人側の事情を考慮する規定を設けることとした、と説明しています(要約)。
令和5年改正解説書 第6章 41頁〜42頁。
知名度要件と政令要件の位置づけ(令和5年改正解説書):同解説書は、改正条文の解説として次のように述べています(要約)。第8号の対象となる「他人の氏名」を、他人による商標登録により人格権侵害が生ずる蓋然性が高い、商標を使用する特定の分野の需要者の間に広く知られている氏名とした。なお、同号にすでに規定している他人の雅号等については「著名」に相当する知名度を求めているところ、「他人の氏名」の知名度を特定の分野において需要者の間に広く知られている氏名とすることで、分野を問わず広く知られている他人の氏名についても当然に保護される(著名な他人の氏名を含む商標も拒絶の対象となる)。また、「他人の氏名」に一定の知名度の要件のみを設けた場合、一定の知名度を有しない「他人の氏名」を含む出願は一律に同号の対象外となり拒絶事由に当たらないこととなるため、氏名とは無関係な者による濫用的な出願が懸念される。その場合、当該「他人」の人格権侵害が生ずるおそれは否定できず、一方で、濫用的な出願に係る出願人の商標登録を受ける利益を保護する必要性は乏しい。そこで、出願人側の事情を考慮する要件を課すことで、無関係な者による濫用的な出願は拒絶できるよう規定することとし、その要件は「政令で定める要件」に該当することを求めることとして、具体的な内容は政令に委任した。
令和5年改正解説書 第6章 42頁〜43頁。
施行期日と経過措置(令和5年改正解説書):同解説書は、施行期日について、改正法の公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日(令和6年4月1日)から施行することとした(改正法附則第1条本文)と記載しています。
経過措置については、改正法附則第5条を挙げ、次のように説明しています(要約)。
① 第8号の改正規定は、施行日以後にした商標登録出願について適用し、施行日前にした商標登録出願についてはなお従前の例による(同条第1項)。
② 改正法の施行日前から、日本国内において不正競争の目的でなく、他人の登録商標に係る指定商品等について、その登録商標又はこれに類似する商標であって他人の氏名を含むものの使用をしていた者が、施行日以後も継続してその商品等についてその商標の使用をする場合は、改正法の施行の際現にその商標の使用をして業務を行っている範囲内(地理的範囲内)において、その商標の使用をする権利(継続的使用権)を有する。当該業務を承継した者も同様(同条第2項)。
③ ②のうち、改正法の施行の際すでにその商標が需要者の間に広く認識されているものについては、当該地理的範囲にとらわれない形で継続的使用権を有する(同条第4項)。
④ 継続的使用権により自己の商標権又は専用使用権の行使が制限される者は、継続的使用権を有する者に対し、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる(同条第3項・第5項)。
⑤ ②から④までの規定は、防護標章登録に基づく権利に準用する(同条第6項)。
令和5年改正解説書 第6章 44頁〜46頁。施行日2024年4月1日は施行令の令和5年政令第338号附則、経過措置は商標法に収録された令和5年法律第51号附則第5条の原文でも照合しています。
改正法附則第5条第1項の原文は、新第8号を施行日以後の出願に適用し、それより前の出願は従前の例によると定めています。施行日は2024年4月1日です。したがって2024年3月31日までの出願については、その後の無効審判でも旧第8号が問題になります。同条第2〜6項は、施行前からの不正競争目的でない国内使用についての継続使用権、混同防止表示、防護標章への準用を定めています。商標法に収録された令和5年法律第51号附則第5条/施行令に収録された令和5年政令第338号附則 令和8年の受験案内は、各試験の実施日に施行されている法令を出題の基準としています。短答試験は2026年5月17日でした。本記事の現行法の確認日(2026年9月21日)とは区別します。受験案内・表紙と冊子2頁

7. 自分の名前をブランドにしたい人の分岐図

flowchart TB
  A["自分の氏名(フルネーム)を含む商標を
出願したい"] --> B{"出願は 令和6年4月1日以後か"} B -- "はい" --> C{"同姓同名の他人(現存する者)が
いるか"} B -- "いいえ(それより前の出願)" --> B2["改正前の第8号
同姓同名の他人の承諾が問題になる"] C -- "いる" --> D{"その他人の氏名は 商標を使う商品・役務の
分野(関連する商品・役務等も勘案)で
需要者の間に広く認識されているか"} C -- "いない" --> OK["第8号には当たらない"] D -- "広く認識されている" --> E{"その他人の承諾が
査定時にあるか"} E -- "ある" --> F E -- "ない" --> NG["第8号前半に当たる
(登録不可)"] D -- "広く認識されていない" --> F{"相当の関連性があるか
(審査基準の例:出願人の自己氏名、
創業者や代表者の氏名、出願前から
継続的に使用している店名等)"} F -- "ある" --> G{"不正の目的で登録を
受けようとするものでないか"} F -- "ない" --> NG2["第8号後半に当たる
(登録不可)"] G -- "不正の目的でない" --> OK2["第8号には当たらない
(他の登録要件の審査へ)"] G -- "不正の目的がある" --> NG2 style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style NG2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図8】自分の氏名をブランド名として出願したい人の分岐図。条文、商標法施行令第1条、商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 七を本記事作成者がフロー化したもの。第8号に当たらなくても、識別力(商標法第3条)など他の登録要件は別に審査される。

架空の場面第8号との関係(現行)根拠
デザイナーの「ほしぞら こむぎ」さんが、自分の氏名を洋服のブランドとして出願。同姓同名の他人はいるが、洋服に関連する分野で広く認識されている人はいない。前半には当たらない。後半は、自己氏名なので相当の関連性があると判断され、不正の目的がなければ当たらない。審査基準 第3 七 8.(1)
同じ出願だが、同姓同名で洋服の分野の需要者に広く認識されている他人がいる。その他人の承諾が査定時になければ、前半に当たる。第8号前半、審査基準 第3 七 7.
会社が、創業者の氏名を含む商標を出願。創業者の氏名は、相当の関連性があるものと判断する例として挙げられている。審査基準 第3 七 8.(1)
出願人と何の関係もない他人の氏名を、買い取らせる目的で先取りして出願。後半に当たる。相当の関連性を欠き、また「先取りして商標を買い取らせる目的」は不正の目的の例として挙げられている。商標法施行令第1条、審査基準 第3 七 8.(2)

〔表10〕架空の場面へのあてはめ(人名はすべて架空)。商標審査基準の例示にもとづく本記事作成者の整理で、個別の出願の結論を保証するものではない。

8. 拒絶・異議・無効・除斥期間との対応

場面条文第8号違反は理由になるかメモ
拒絶理由商標法第15条第1号該当第15条第1号は「第四条第一項」全体を挙げている。
登録異議の申立ての理由商標法第43条の2第1号該当商標掲載公報の発行の日から2月以内(商標法第43条の2柱書。e-Gov、2026年9月参照)。何人も申立て可。
商標登録無効審判の理由商標法第46条第1項第1号該当その商標登録が第三条、第四条第一項、…の規定に違反してされたとき。
除斥期間商標法第47条第1項対象商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は請求できない(e-Gov、2026年9月参照)。第8号には、第10号・第17号(不正競争の目的)や第15号(不正の目的)のような除外の括弧書が付いていない。
後発的な無効理由商標法第46条第1項第6号非該当第6号が挙げるのは第4条第1項第1号から第3号まで、第5号、第7号、第16号。第8号は入っていない。

〔表11〕第8号と拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間の対応。各条文はe-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

商標法第47条第1項(原文) 商標登録が第三条、第四条第一項第八号若しくは第十一号から第十四号まで若しくは第八条第一項、第二項若しくは第五項の規定に違反してされたとき、商標登録が第四条第一項第十号若しくは第十七号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が同項第十五号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第四十六条第一項第四号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から五年を経過した後は、請求することができない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
flowchart LR
  R["商標権の設定の登録"] --> K["商標掲載公報の発行"]
  K --> I["登録異議の申立て
公報発行の日から2月以内
(第43条の2第1号)"] R --> M["商標登録無効審判
(第46条第1項第1号)"] M --> J{"設定の登録の日から
5年を経過したか"} J -- "経過前" --> M1["第8号違反を理由に請求できる"] J -- "経過後" --> M2["第8号違反を理由とする請求は
できない(第47条第1項)"] style M1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style M2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:第8号違反を理由とする商標登録無効審判を請求できる
  • 赤の箱:その請求ができない
  • この図の緑・赤:無効審判を「請求できるか」を表す。登録の可否を表す図4・図6・図8とは観点が異なる

【図9】第8号違反の登録を登録後に争う手段と期間。条文を本記事作成者がフロー化したもの。無効審判の請求人適格(利害関係人)などの詳細は関連記事(商標法第46条・第47条)を参照。

ポイント:第8号は「人格的利益」を保護する規定ですが、第47条第1項の除斥期間の対象です。一方、公序良俗に関する第4条第1項第7号は第47条第1項に挙げられていません。この違いは条文上の帰結です。

9. 商標法第26条第1項第1号との関係(登録後の場面)

第8号は「登録できるか」の規定です。これと対になるのが、「登録された他人の商標権の効力が、自分の氏名等の表示に及ぶか」を定める商標法第26条第1項第1号です。詳細は関連記事に回し、ここでは対比だけ示します。

商標法第4条第1項第8号商標法第26条第1項第1号・第2項
場面登録の可否(不登録事由)商標権の効力の制限
対象他人の肖像、氏名(広く認識されているもの)、名称、著名な雅号・芸名・筆名、これらの著名な略称を含む商標/他人の氏名を含む商標自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
氏名の知名度の限定あり(前半。令和5年法律第51号による改正)条文上、書かれていない
主観的要件後半の政令要件に「不正の目的」第2項:商標権の設定の登録があった後、「不正競争の目的」で用いた場合は第1項第1号を適用しない

〔表12〕第4条第1項第8号と第26条第1項第1号・第2項の対比。e-Gov法令検索、2026年9月参照。「不正の目的」と「不正競争の目的」は条文の文言どおり。

10. 特許法・実用新案法・意匠法との比較

法律不登録事由(不特許事由)の条文他人の肖像・氏名等に関する規定
商標法商標法第4条第1項(第1号〜第19号。第13号は削除)あり(第8号)
特許法特許法第32条(公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明)なし
実用新案法実用新案法第4条(公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある考案)なし
意匠法意匠法第5条(第1号 公序良俗、第2号 他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠、第3号 機能確保のために不可欠な形状のみからなる意匠等)なし(他人の肖像・氏名を直接の対象とする号はない)

〔表13〕四法の比較。各条文はe-Gov法令検索(特許法 334AC0000000121、実用新案法 334AC0000000123、意匠法 334AC0000000125)、2026年9月参照。意匠法第5条第3号は要約。

11. まちがえやすい点(対比表)

まちがえやすい理解条文・審査基準・判例では
「改正で、肖像や名称にも知名度の条件が付いた」知名度の限定(分野+広く認識)が入ったのは「他人の氏名」だけ。肖像・名称には条文上、有名さの条件がない。
「氏名の知名度は、指定商品・指定役務の需要者だけで判断する」審査基準 第3 七 2.(1)は、指定商品・指定役務のみならず、当該他人と関連性を有する商品又は役務等をも勘案するとしている。
「有名でない他人の氏名なら、だれでも自由に登録できる」後半がある。相当の関連性があり、かつ不正の目的でないことが必要(商標法施行令第1条)。
「承諾は出願時にあればよい」査定時にあることを要する(審査基準 第3 七 7.、最高裁平成16年6月8日判決)。
「会社名から『株式会社』を除いたものも『名称』だ」「略称」に当たり、著名なときに限り対象(審査基準 第3 七 3.(1)、最高裁昭和57年11月12日判決)。
「自分の氏名なら第8号は関係ない」同姓同名の他人がいれば「他人の氏名」にも当たる(審査基準 第3 七 6.)。
「第8号違反の登録は、いつでも無効審判を請求できる」設定の登録の日から5年の除斥期間の対象(商標法第47条第1項)。
「『著名な略称』かどうかは、指定商品・役務の需要者だけで決まる」その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かが基準(最高裁平成17年7月22日判決)。審査基準 第3 七 4. も同旨。

〔表14〕まちがえやすい点の対比表。右列の根拠は本記事の各項を参照。

試験での問われ方

試験種別問われ得る観点(本記事作成者の整理。出題を予想するものではない)
短答式部品ごとの「著名」「広く認識」の要否/政令要件の2つ/承諾の時期/第4条第3項の対象号/第47条第1項の対象と括弧書の有無/第46条第1項第6号に第8号が入っていないこと。
論文式氏名を含む商標の出願について、前半・後半の順にあてはめる。登録後は、異議(2月)・無効審判(5年の除斥期間)の選択。
口述第8号の趣旨(人格的利益の保護)、条文の文言(括弧書、政令への委任)を正確に言えるか。

〔表15〕試験種別ごとの観点(本記事作成者の整理)。

令和8年度短答式【商標】全10問には、氏名・肖像の保護や第8号の承諾を直接問う肢はありません。同年の問3は不登録事由の問題ですが、氏名を題材にした出題例ではありません。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。

レベル3のまとめ
  • 趣旨は他人の人格的利益の保護(最高裁平成16年6月8日判決、平成17年7月22日判決。いずれも改正前の第8号)。
  • 「他人」=自己以外の現存する者。自然人(外国人を含む)、法人、権利能力なき社団(審査基準)。
  • 現行の「他人の氏名」は二段構え:①その分野で広く認識されている氏名は承諾が必要(前半)、②他人の氏名を含む商標は政令要件(相当の関連性+不正の目的でないこと)が必要(後半)。
  • 判断は出願時+査定時(商標法第4条第3項、審査基準 第3 十八)。承諾は査定時に必要。
  • 拒絶理由・異議理由・無効理由に当たり、第47条第1項の除斥期間(5年)の対象。第46条第1項第6号(後発的無効理由)には入っていない。
  • 現行の第8号は2024年4月1日以後にした出願に適用(令和5年法律第51号附則第5条第1項)。2026年短答の基準日は試験実施日の5月17日。

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