MENU

小学生でも分かる商標法|商標法第32条・第32条の2 先使用による商標の使用をする権利 ― 前から使っていて、みんなが知っている目じるしは、使いつづけられる

小学生でもわかる商標法 第32回「先使用による権利」。前から使っている人を守る。

小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #32

PR この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

商標は、先に出願した人が登録を受けるのが原則です。では、登録をしないまま、ずっと前から同じ名前でお店をしてきた人は、あとから他人が登録したら名前を使えなくなるのでしょうか。商標法第32条は、一定の条件を満たす人に「そのまま使いつづける権利」をみとめています。第32条の2は、地域団体商標についての特別ルールです。この記事では、6つの要件と効果、特許法第79条との違いを3つのレベルで整理します。

条文:商標法第32条第1項・第2項、第32条の2第1項・第2項対比:特許法第79条、意匠法第29条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

ずっと前からある、町のパン屋さん

ある町に「こぐま堂」というパン屋さんがあります(この記事の店名は、ぜんぶ作り話です)。こぐま堂は、30年前からこの名前でパンを売ってきました。町の人は、みんな「こぐま堂のパン」を知っています。でも、こぐま堂は、名前を国に登録していませんでした。

商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしは、国(特許庁(とっきょちょう))に登録すると、自分だけが使えるようになります。そして、登録は先に申しこんだ人が受けるのが決まりです。

ある日、遠くの町の会社「ミナトベーカリー」が、「こぐま堂」という名前をパンの目じるしとして国に申しこみ、登録されました。ミナトベーカリーは、こぐま堂に言いました。「その名前は、うちが登録しました。もう使わないでください」。

こぐま堂は、30年つづけた看板(かんばん)を下ろさないといけないのでしょうか。

前から使っていた人と、あとから登録した人(架空の例) こぐま堂 30年前からこの名前 町のみんなが知っている でも、登録はしていない ミナトベーカリー 登録のしるし 「こぐま堂」(パン) あとから申しこんで 国に登録された 「その名前、使わないで」 でも…前から使っていて 町の人に知られている → 使いつづけてよい ○ こぐま堂は、今までどおり「こぐま堂」の名前でパンを売りつづけられる。 △ ただし、今まで使ってきた商品(パン)と、今まで使ってきた名前だけ。 △ ミナトベーカリーから「見分けの札(ふだ)をつけて」とお願いされることがある。 × こぐま堂が、ミナトベーカリーに「使うな」と言えるようになるわけではない。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:前から使っていた側(こぐま堂)と、その結論
  • 青緑の枠:あとから登録した側(ミナトベーカリー)
  • 赤の矢印:登録した側からの「その名前、使わないで」という申入れ

【図1】前から名前を使っていた町のお店と、あとから登録した会社の模式図。店名・会社名は架空の例で、本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

答え:使いつづけてよい。ただし条件つき

法律は、こぐま堂のような人を守るしくみを用意しています。それが、商標法第32条の「前から使っていた人が、使いつづける権利」です。勉強をしている人たちは、これを「先使用権(せんしようけん)」と呼んでいます(この呼び名は条文には出てきません)。

なぜ守るのでしょう。こぐま堂の名前には、30年かけてつみ上げた「町の人の信用(しんよう)」がしみこんでいます。登録していないというだけで、それをぜんぶ取り上げるのは、きびしすぎるからです。

でも、だれでも守ってもらえるわけではありません。大事な条件は次の3つです。

条件こぐま堂の場合
① 相手が申しこむ前から、使っていたミナトベーカリーが国に申しこむより前、30年前から「こぐま堂」を使っていた
② ずるい気持ちで使っていたのではないだれかの名前の人気にただ乗りしようとしたのではなく、自分で考えてつけた名前だった
③ 相手が申しこんだ時に、もうお客さんに広く知られていたそのとき、町の人はみんな「こぐま堂のパン」を知っていた

〔表1〕使いつづけるための大事な条件(やさしく言いかえたもの。正確には6つの要件があります→レベル2)。

③がポイントです。きのう始めたばかりで、まだだれにも知られていないお店は、この権利では守ってもらえません。「前から使っていた」だけでは足りないのです。

できること・できないこと

こぐま堂は…
できる今まで使ってきた名前を、今まで使ってきた商品(パン)に、つづけて使う
できるお店の仕事をまるごと引きついだ人(たとえば、あとつぎの子ども)が、同じように使いつづける
できないミナトベーカリーに「その名前を使うな」と言う(それができるのは、登録した人です)
しなければならないことがあるミナトベーカリーから「お客さんがまちがえないように、見分けの札をつけてください」と求められることがある

〔表2〕使いつづける権利でできること・できないこと(やさしく言いかえたもの)。

① 相手の申しこみより前から使っていた② ずるい気持ちではなかった③ 申しこみの時に、もう広く知られていた④ そのまま使いつづけている
レベル1のまとめ
  • 目じるしの登録は、先に申しこんだ人が受けるのが原則。
  • でも、相手の申しこみより前から使っていて、その時にもうお客さんに広く知られていた人は、そのまま使いつづけることができる。
  • 使いつづけられるのは、今まで使ってきた名前と商品だけ。登録した人から「見分けの札をつけて」と求められることがある。

※ 「前から」「ずるい気持ちでない」「広く知られていた」「使いつづける」には、正確には条件があります(→レベル3)。「どのくらい広く知られていればよいか」は、条文に数字では書かれていません(→レベル3)。地域の名前と商品の名前を組み合わせた特別な登録(地域団体商標)については、「広く知られていた」がいらない別のルールがあります(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

条文を読む

商標法第32条の見出しは「先使用による商標の使用をする権利」です。「先使用権」という言葉は条文にはなく、講学上の呼称(勉強や実務で使われている呼び名)です。第1項はとても長い1文ですが、あとで部品に分けるので、まずは原文を見てください。

商標法第32条第1項(原文) 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第32条第2項(原文) 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

第1項を6つの要件と効果に分ける

第1項は「〜していた結果、〜ときは、その者は、〜場合は、〜権利を有する」という形です。要件を①〜⑥に分けます(番号は本記事での整理用で、条文にはありません)。

部品条文の文言意味
① いつから「他人の商標登録出願前から」相手(他人)が商標登録出願をする前から
② どこで「日本国内において」日本の中で
③ どんな気持ちで「不正競争の目的でなく」不正競争の目的がないこと
④ 何を「その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた」相手の出願の指定商品・指定役務か、それに類似する商品・役務について、相手の出願の商標か、それに類似する商標を使用していた
⑤ その結果「その商標登録出願の際(…)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」相手の出願の時に、自分の商品・役務の目じるしとして、現に需要者に広く知られている
⑥ これからも「継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は」その商品・役務について、その商標を継続して使用する
効果「その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する」その商品・役務について、その商標を使用する権利がある(商標権者から「やめろ」と言われない)
承継「当該業務を承継した者についても、同様とする。」その業務を引きついだ人も同じ

〔表3〕商標法第32条第1項の部品分解(本記事作成者が条文を整理したもの。①〜⑥の番号は整理用)。

時間の流れで見る

どの時点で何が必要かを、時間の流れにそって並べます。大事な時点は「他人の商標登録出願の際」です。

タイムチャート:いつ、何が必要か(商標法第32条第1項) 時間 先に使用していた者(先使用者) ①〜④ 出願前から不正競争の目的でなく使用 ⑥ 継続して使用 ⑤ 現に広く認識 使用開始 他人の商標登録出願の際 商標権の設定の登録 他人(出願人 → 商標権者) 出願〜審査 商標権 ⑤の判断時点は「出願の際」。出願より後に広く認識されるようになっても、⑤の文言には当たらない。 出願日が繰り下がる場合の括弧書は、レベル3で扱います。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:先に使用していた者(先使用者)の側
  • 青緑の枠:他人(出願人 → 商標権者)の側
  • 赤の枠:⑤「現に広く認識」(周知性)の要件
  • 赤の実線の縦線:⑤を判断する時点「他人の商標登録出願の際」
  • 破線:時点の目印(使用開始・設定の登録)と、まだ商標権が発生していない段階(出願〜審査)

【図2】商標法第32条第1項のタイムチャート。①〜⑥は表3の整理用番号。本記事作成者が条文を図にしたもの。時間軸に縮尺はありません。

だれが、だれに、何を言えるか

権利関係の相関図(商標法第32条) 登録した側 商標権者 専用使用権者 第32条第2項の請求権者は この二者(通常使用権者は 挙げられていない) 前から使っていた側 第32条第1項の 使用をする権利を有する者 その業務を承継した者 対価を支払う旨の定めは 第32条にはない 「使用をやめよ」× 通らない 混同を防ぐのに適当な表示を 付すべきことを請求 ○(第2項) 第1項は「使用をする権利」を与えるだけで、先使用者に、他人の使用をやめさせる権利を与えるものではない。

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:登録した側(商標権者・専用使用権者)
  • 橙の枠:前から使っていた側(第32条第1項の使用をする権利を有する者・その業務を承継した者)
  • 実線の矢印:条文上できる請求(第32条第2項の混同防止表示請求)
  • 破線の矢印:条文上できない請求(「使用をやめよ」という差止め)

【図3】商標法第32条の権利関係の相関図。本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

第32条の2 ― 地域団体商標の特別ルール

商標法第32条の2(原文) 他人の地域団体商標の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
2 当該商標権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。項番号「2」は読みやすさのため付したもの。

第32条第1項とくらべてください。「使用をしていた結果、…需要者の間に広く認識されているときは、その者は」の部分がなく、「使用をしていた者は」となっています。つまり、要件⑤(広く認識されていること)がありません。地域団体商標とは、「地域の名前+商品の名前」のような商標を、組合などの団体が登録できる制度です(商標法第7条の2)。

項ごとの役割一覧

条・項役割ひとことで
第32条第1項前段先使用による商標の使用をする権利の要件と効果出願前から使用+出願の際に周知+継続使用 → 使用をする権利
第32条第1項後段業務を承継した者業務を引きついだ人も同様
第32条第2項混同防止表示請求商標権者又は専用使用権者 → 先使用者へ「適当な表示を」
第32条の2第1項地域団体商標についての使用をする権利要件⑤(周知性)の文言なし。後段で業務の承継者も同様
第32条の2第2項混同防止表示請求(地域団体商標)請求権者は「当該商標権者」のみ。混同の対象は「自己又はその構成員」の業務に係る商品・役務

〔表4〕商標法第32条・第32条の2の項ごとの役割一覧(本記事作成者が整理したもの)。

レベル2のまとめ
  • 第32条第1項の要件は6つ:①他人の出願前から ②日本国内で ③不正競争の目的でなく ④指定商品・指定役務又は類似のものについて、その商標又は類似の商標を使用 ⑤出願の際、現に需要者の間に広く認識 ⑥継続して使用。
  • 効果は「その商品又は役務についてその商標の使用をする権利」。業務を承継した者も同様。
  • 第2項:商標権者又は専用使用権者は、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できる。
  • 第32条の2(地域団体商標)には⑤の文言がない。第2項の請求権者は「当該商標権者」。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 6つの要件を細かく見る

レベル1で単純化した「前から」「ずるい気持ちでない」「広く知られていた」「使いつづける」を、条文の文言にそって回収します。

要件条文の文言注意点
① 時期「他人の商標登録出願前から」基準は他人の出願であって、設定の登録や使用開始ではない。出願日が繰り下がる場合は括弧書による(次の2.)
② 場所「日本国内において」外国でだけ使用していた場合は文言に当たらない
③ 主観「不正競争の目的でなく」文言は「不正競争の目的」であり、「不正の目的」ではない。また、特許法第79条のような「知らないで」(善意)という文言でもない
④ 使用の対象「その商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた」商標権者の禁止権(商標法第37条第1号の範囲を指す講学上の呼称)を含む、同一・類似の範囲での使用。この範囲の外の使用は、そもそも商標権の効力と衝突しない
⑤ 周知性「その商標登録出願の際(…)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」「使用をしていた結果」として広く認識されていること。判断時点は出願の際。「現に」とあるので、過去に周知だったが出願の際には周知でなくなっていた場合は文言に当たらない。程度については4.
⑥ 継続「継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は」権利を有するのは、継続して使用をする場合。どの程度の中断で「継続」でなくなるかは、条文に定めがない

〔表5〕商標法第32条第1項の要件の詳細(本記事作成者が条文の文言を整理したもの)。

flowchart TB
  A["他人の登録商標と同一・類似の範囲で
商標を使用している"] --> B{"① 他人の商標登録出願前から
使用をしていたか"} B -- "はい" --> C{"② 日本国内での使用か"} B -- "いいえ" --> X1["第32条第1項に当たらない"] C -- "はい" --> D{"③ 不正競争の目的でなく
使用をしていたか"} C -- "いいえ" --> X1 D -- "はい" --> E{"④ 指定商品・指定役務又は類似の商品・役務について
その商標又は類似の商標の使用か"} D -- "いいえ" --> X1 E -- "はい" --> F{"他人の登録商標は
地域団体商標か"} E -- "いいえ" --> X2["同一・類似の範囲外
(そもそも商標権の効力と衝突しない)"] F -- "はい" --> H{"⑥ 継続してその商品・役務について
その商標の使用をするか"} F -- "いいえ" --> G{"⑤ 出願の際 現に 自己の業務に係る商品・役務を
表示するものとして 需要者の間に広く認識されているか"} G -- "はい" --> H G -- "いいえ" --> X1 H -- "はい" --> OK["その商品・役務について
その商標の使用をする権利を有する
(第32条第1項/第32条の2第1項)"] H -- "いいえ" --> X1 OK --> P["商標権者側から 混同防止表示請求を
受けることがある(各第2項)"] style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style X1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style X2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:使用をする権利が認められる結論
  • 赤の箱:第32条第1項による使用をする権利が認められない結論

【図4】先使用による商標の使用をする権利の要件充足の分岐図。地域団体商標の場合は⑤を通らない(第32条の2第1項)。本記事作成者が条文をフロー化したもの。

2. 「出願の際」の括弧書 ― 出願日が繰り下がる場合

要件⑤の判断時点「その商標登録出願の際」には、長い括弧書があります。商標登録出願が「手続補正書を提出した時にしたものとみなされた」場合の手当てです。

括弧書が挙げる規定どんな場面か確認した条文
商標法第9条の4指定商品・指定役務又は商標についてした補正が要旨を変更するものと、商標権の設定の登録があった後に認められたとき。出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされる商標法第9条の4(見出し「指定商品等又は商標登録を受けようとする商標の補正と要旨変更」)
商標法第17条の2第1項において準用する意匠法第17条の3第1項審査で補正が決定をもって却下された(商標法第16条の2第1項)場合に、却下の決定の謄本の送達があった日から3月以内に補正後の商標について新たな商標登録出願をしたとき。その出願は、手続補正書を提出した時にしたものとみなされる商標法第17条の2第1項、意匠法第17条の3第1項(見出し「補正後の意匠についての新出願」)
商標法第55条の2第3項(第60条の2第2項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第17条の3第1項拒絶査定に対する審判(及び再審)の段階で、同じく補正後の商標についての新出願がされたとき括弧書の文言による(第55条の2・第60条の2の詳細は関連記事)

〔表6〕商標法第32条第1項の括弧書が挙げる「出願日が繰り下がる場面」(e-Gov法令検索、2026年9月参照。「3月」は意匠法第17条の3第1項の文言)。

これらの場合、周知性の判断時点はもとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際となります。「又は」なので、条文の文言上、どちらかの時点で現に広く認識されていれば足ります。出願日が繰り下がっても、先使用者が不利にならないようにする方向の手当てと読めます(本記事作成者による整理)。

ポイント:同じ形の括弧書は、意匠法第29条(先使用による通常実施権)にもあります(もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際)。特許法第79条には、この形の括弧書はありません。

3. 効果 ― 「使用をする権利」の範囲

効果はその商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有するです。要件④では「類似する商品若しくは役務」「これに類似する商標」という広い書き方でしたが、効果の部分は「その商品又は役務についてその商標」と書かれています。条文の文言からは、使用をする権利があるのは、現に使用をしてきた商品・役務と、使用をしてきた商標についてであり、類似の商品・役務や類似の商標にまで広がるとは書かれていません。

「その商品又は役務についてその商標」― 範囲は広がらない 使用してきた商品・役務 それに類似する商品・役務 使用してきた商標 それに類似する商標 使用をする権利あり (要件①〜⑥を満たす場合) 効果の文言に含まれない 例:パン → 洋菓子へ広げる 効果の文言に含まれない 例:名前を少し変える 効果の文言に含まれない 商標権者の専用権・禁止権(講学上の呼称)が登録商標の同一・類似の範囲に及ぶのとは、書き方が異なる。 例は架空。どこまでが「その商標」と同じといえるかの線引きは、条文に定めがない。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙のマス:効果の文言に含まれる(使用をする権利あり)
  • 赤のマス:効果の文言に含まれない

【図5】使用をする権利の範囲の4マス図。本記事作成者が効果の文言を整理して図にしたもの(例は架空)。

  • 使用をする権利にとどまる:第32条は、先使用者に、他人の使用を差し止める権利を与える規定ではありません。条文の用語も「通常使用権」ではなく「商標の使用をする権利」です。
  • 対価:第32条には、商標権者が対価を受ける権利の定めがありません。これに対し、第33条第2項は相当の対価を受ける権利を有すると定めています(7.の一覧表)。
  • 承継:第1項後段により、当該業務を承継した者も同様です。条文が挙げているのは「業務」の承継です。
  • 防護標章登録に基づく権利:商標法第68条第3項は、第32条から第33条の3までの規定を、防護標章登録に基づく権利に準用しています。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)は、第32条について、他人の商標登録出願後における自己の当該商標の使用の継続を要件としたのは、長く使用を中断すれば、その間に保護すべき信用が減少し、あるいは消滅すると考えたからである、と説明しています。あわせて〔字句の解釈〕で、本条にいう「継続」は、他人の商標登録出願の際から継続していることを要する、としています。権利の範囲についても、先使用権が認められる範囲は、その使用をしていた商品又は役務についてその商標だけである、と説明しています(要約)。
出典:逐条解説〔第22版〕1669頁〜1670頁。
先使用権の地域について、東京高裁のベークノズル事件は、周知性が認められた地域だけに効果が限られるとはしませんでした。判決8頁。また、ゼルダ事件では、警告を受け取引先への迷惑を避けるために一時使用を中止したものの、紛争解決後に再開する意思があるという事情から継続使用を認めています。判決5頁。この判断を、任意の長期中断や別の商標への変更まで常に許されるという意味に広げることはできません。使用してきた商標・商品等との同一性も必要です。

4. 「需要者の間に広く認識されている」の程度 ― 第4条第1項第10号との関係

「需要者の間に広く認識されている」という文言は、商標法第4条第1項第10号にも出てきます。

商標法第4条第1項第10号(原文) 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

文言は同じですが、2つの条の役割は異なります。第4条第1項第10号は、他人の出願の登録を阻む規定です。第32条第1項は、登録は有効なままで、先使用者の使用の継続だけを認める規定です。

比較項目商標法第4条第1項第10号商標法第32条第1項
文言「需要者の間に広く認識されている商標」「需要者の間に広く認識されているとき」
効果他人の出願は商標登録を受けることができない(拒絶理由・異議理由・無効理由)他人の商標登録はそのまま。先使用者が使用をする権利を有する
判断の場審査・登録異議の申立て・無効審判(特許庁)など主に商標権侵害訴訟での被告側の主張(実務上、抗弁として主張される)
時間の制約無効審判は、設定の登録の日から5年を経過した後は請求できない(商標法第47条第1項。不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く)第32条に期間の制限の文言はない

〔表7〕商標法第4条第1項第10号と第32条第1項の対比(e-Gov法令検索、2026年9月参照。「5年」は商標法第47条第1項による。本記事作成者が整理したもの)。

ポイント:先使用者の商標が第4条第1項第10号の意味で周知であれば、本来、他人の出願は登録されないはずです。それでも登録されてしまい、無効審判の除斥期間(商標法第47条第1項)も過ぎた場合、先使用者にとって第32条が使用を続けるための根拠になります。ここに第32条の独自の意味があります(本記事作成者による整理)。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第32条について、ここに広く認識された範囲は第4条第1項第10号の範囲と同様であると考えられるとしたうえで、これを要件としたのは、相当程度に周知でなければ保護に値する財産権的価値が生じないものとみられるからである、と説明しています(要約)。これは立法担当者の説明であって、有権解釈ではありません。
出典:逐条解説〔第22版〕1669頁。
ゼルダ事件の東京高裁判決は、第32条の周知性を第4条第1項第10号と同じ厳しさで解釈する必要はなく、取引の実情に応じて判断するとしています。同事件ではデザイナーブランドの取引で重要なバイヤー等の間での認識を検討しました。判決3〜4頁。また、ベークノズル事件は全国的な周知を必須とせず、相当範囲で知られていればよいとしています。判決8頁。いずれも、先に使った事実だけで足りるとした判断ではありません。

5. 第32条第2項 ― 混同防止表示請求

先使用者が使用を続けると、同じ範囲に「商標権者の商標」と「先使用者の商標」が並びます。需要者が出所を取り違えるおそれがあるので、第2項は、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことの請求を認めています。

項目第32条第2項第32条の2第2項
請求権者「当該商標権者又は専用使用権者」「当該商標権者」
相手方「前項の規定により商標の使用をする権利を有する者」同じ
何と何の混同か「その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同」「その者の業務に係る商品又は役務と自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務との混同」
請求の内容「混同を防ぐのに適当な表示を付すべきこと」(使用の中止ではない。どのような表示が「適当」かは条文に定めがない)
応じない場合の効果条文上の定めなし

〔表8〕混同防止表示請求の比較(第32条第2項/第32条の2第2項)。本記事作成者が条文を整理したもの。

ポイント:第32条の2第2項に専用使用権者が出てこないことは、商標法第30条第1項ただし書と整合します。同ただし書は、地域団体商標に係る商標権について専用使用権を設定することができない旨を定めています。また、地域団体商標を実際に使うのは団体の構成員であることが多いため、「自己又はその構成員」と書かれています(商標法第31条の2第1項参照)。

6. 第32条の2 ― なぜ周知性がいらないのか

第32条の2は、地域団体商標制度を導入した平成17年法律改正(平成17年法律第56号)で設けられました。特許庁の同改正の解説書「地域団体商標」は、地域の名称と商品(役務)の名称からなる商標は、本来、何人も使用し得るものとされていた商標であること、同じ地域で同種の商品を扱う事業者が出願前から同一・類似の商標を使用していることが想定されることを挙げ、その使用する商標が周知となっているか否かを問わず、使用をする権利を認めることとした旨を説明しています(要約)。

特許庁ウェブサイトの「地域団体商標制度 Q&A」も、地域団体商標を出願する前から不正な目的でなく商標を使用していた者は、引き続き使用することが可能で、その使用を差し止めることはできないこと、ただし混同防止のための表示を求めることができることを説明しています。

比較項目商標法第32条商標法第32条の2
対象となる他人の出願他人の商標登録出願他人の地域団体商標の商標登録出願
①出願前から ②日本国内 ③不正競争の目的でなく ④同一・類似の範囲での使用必要必要(文言は同じ)
⑤出願の際、現に需要者の間に広く認識必要文言なし(不要)
出願日が繰り下がる場合の括弧書ありなし(⑤がないため、「出願の際」という判断時点自体が出てこない)
⑥継続して使用必要必要
効果その商品又は役務についてその商標の使用をする権利。業務を承継した者も同様
混同防止表示請求の請求権者商標権者又は専用使用権者商標権者

〔表9〕商標法第32条と第32条の2の比較(e-Gov法令検索、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕も、第32条の2について同旨の説明をしています。すなわち、地域団体商標として登録される地域の名称及び商品(役務)名からなる商標は、本来、何人も使用し得ることとされていた商標であり、特に同一の地域において同様の商品を生産・販売する者や役務を提供する者であれば、その商品(役務)について地域団体商標の出願前から同一又は類似の商標を使用していることが想定される、としています。そのうえで、第32条は、使用をしている商標が他人の商標登録出願の際に周知となっていないときを適用対象としていないところ、地域団体商標の出願時に他の事業者が同一又は類似の商標を使用していた場合に、その商標が周知性を獲得していないからといって先使用権を認めないとすると、団体に属しない事業者が現に当該商標を使用して業務を行っている場合に当該商標を使用して事業活動を行うことができないこととなり、権利者と第三者の利益の衡平を失すると考えられる、と説明しています。そこで第32条と異なり、使用する商標が周知となっているか否かを問わず先使用権を認めることとした、としています(要約)。
出典:逐条解説〔第22版〕1671頁。
青本1671頁と特許庁の地域団体商標Q&Aは、第32条の2が出願前からの継続使用を保護し、第32条と異なり周知性を要求しないことを説明しています。適用条文は、対象登録が地域団体商標か、各条の使用・目的・継続等の条件を満たすかで判断します。周知性がある場合に必ず一方しか主張できない、という排他的な関係は定められていません。青本1671頁/地域団体商標Q&A

7. 「登録していないのに使用をする権利」の一覧 ― 第32条・第32条の2・第33条・第33条の2

商標法には、登録商標と同一・類似の範囲で、商標権者でない者に「商標の使用をする権利」を認める規定がいくつかあります。要件(周知性がいるか、主観は何か)と、対価の有無がそれぞれ違います。

条文(見出し)だれに周知性主観の要件対価混同防止表示請求
第32条(先使用による商標の使用をする権利)他人の出願前から使用していた者必要(出願の際、現に)不正競争の目的でなく定めなし第2項(商標権者又は専用使用権者)
第32条の2(地域団体商標)他人の地域団体商標の出願前から使用していた者文言なし不正競争の目的でなく定めなし第2項(商標権者)
第33条(無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利)第1項第1号〜第3号の者(無効にされた商標登録の原商標権者、その専用使用権者・一定の通常使用権者)必要(「広く認識されていたとき」)無効審判の請求の登録前に、商標登録が無効理由に該当することを「知らないで」あり(第2項:相当の対価)第3項で第32条第2項を準用
第33条の2(特許権等の存続期間満了後の商標の使用をする権利)商標登録出願の日前又は同日の出願に係る特許権が商標権と抵触する場合の、存続期間満了後の原特許権者(第3項で実用新案権・意匠権に準用)文言なし「その使用が不正競争の目的でされない場合に限る。」定めなし第2項で第32条第2項を準用
第33条の3(同・実施権者)上の場合の、満了の際現に専用実施権・通常実施権を有する者文言なし同上あり(第2項で第33条第2項を準用)第2項で第32条第2項を準用

〔表10〕商標法の「商標の使用をする権利」の一覧(e-Gov法令検索で各条を確認、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。第33条以下の詳細は関連記事を参照。

flowchart TB
  S["登録商標と同一・類似の範囲で
商標権者でない者が使用"] --> Q1{"使用の根拠は?"} Q1 -- "他人の出願前からの使用" --> Q2{"他人の登録は
地域団体商標か"} Q2 -- "はい" --> B["第32条の2
周知性の文言なし・対価の定めなし"] Q2 -- "いいえ" --> A["第32条
周知性が必要・対価の定めなし"] Q1 -- "自分の商標登録が無効にされた" --> C["第33条
善意+周知性・相当の対価あり"] Q1 -- "抵触する特許権等の
存続期間が満了した" --> D{"原権利者か
実施権者か"} D -- "原特許権者等" --> E["第33条の2
不正競争の目的でない場合に限る
対価の定めなし"] D -- "専用実施権者・通常実施権者" --> F["第33条の3
相当の対価あり"]

図は左右にスクロールできます。

【図6】商標法第32条〜第33条の3の使い分けの見取り図。本記事作成者が条文をフロー化したもの(各条の要件は簡略化。再審に関する第60条は省略)。

8. 特許法第79条・意匠法第29条との比較

特許法・意匠法にも「先使用」の規定がありますが、商標法第32条とは要件の組み立てが大きく異なります。

特許法第79条(原文) 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。見出しは「先使用による通常実施権」。
比較項目商標法第32条特許法第79条意匠法第29条
見出し先使用による商標の使用をする権利先使用による通常実施権先使用による通常実施権
得られる権利「商標の使用をする権利」(通常使用権とは書かれていない)その特許権について「通常実施権」その意匠権について「通常実施権」
主観「不正競争の目的でなく」発明の内容を「知らないで」自ら発明し、又は知らないで発明をした者から知得意匠を「知らないで」自ら創作し、又は知らないで創作をした者から知得
出願の際に必要な状態使用の結果、現に需要者の間に広く認識されていること現に日本国内で実施である事業をしている又はその事業の準備をしていること同左(意匠又は類似する意匠の実施である事業、又はその準備)
事業の準備で足りるか足りない(「使用をしていた結果」広く認識されていることが必要)足りる足りる
周知性必要不要不要
継続の要件「継続して…使用をする場合は」文言なし文言なし
範囲その商品又は役務についてその商標実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内
対価定めなし定めなし定めなし
出願日が繰り下がる場合の括弧書ありなしあり
混同防止表示請求あり(第2項)なしなし

〔表11〕商標法第32条・特許法第79条・意匠法第29条の比較(e-Gov法令検索で各条の原文を確認、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。実用新案法は第26条で特許法第79条を準用。

違いの根っこは、保護するものの違いにあります。特許法・意匠法の先使用は、独自に完成させた発明・創作した意匠についての事業設備などを保護する形で書かれています。だから「知らないで」と「事業又はその準備」が要件になります。商標は選んだ目じるしであって、それ自体に創作としての価値を認める制度ではありません。商標法第32条は、使用によって商標に蓄積された信用を保護する形で書かれており、だから「広く認識されている」ことが要件になります(青本1669〜1670頁の信用保護の説明と、各法の先使用条項に基づく整理)。

9. 拒絶・異議・無効の理由との関係

規定拒絶理由(第15条)異議理由(第43条の2)無効理由(第46条第1項)除斥期間(第47条)備考
商標法第32条・第32条の2非該当非該当非該当―登録後の商標権の効力と使用者の関係を定める規定で、登録の要件ではない。先使用者がいても、それだけでは他人の登録は妨げられない
商標法第4条第1項第10号(先使用者の商標が周知の場合に関係)該当(第15条第1号)該当(第43条の2第1号)該当(第46条第1項第1号)対象(第47条第1項。不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く)詳細は関連記事#6

〔表12〕拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間との対応(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。

10. 改正前/現行

  • 第32条の2:平成17年法律改正(平成17年法律第56号)で新設。地域団体商標制度の施行日は平成18年4月1日です(同改正の解説書による)。
  • 第32条:本記事の作成時点(2026年9月)で、e-Gov法令検索の現行条文を上に引用しました。
括弧書の沿革(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第32条第1項の括弧書の沿革を次のように説明しています。昭和60年の一部改正で特許法及び実用新案法において補正却下後の新出願の制度を廃止し、意匠法及び商標法において同制度を存続させることとしたことに伴い、意匠法第17条の3に同制度に関する規定を新設し、商標法第17条の2において同条を準用することとしたので、第32条第1項の括弧書において必要な改正を行った。この括弧書については、平成5年の一部改正で特許法第40条が廃止されたことに伴い、さらに平成8年の一部改正で第9条の3が第9条の4に、第55条の2第1項が同条第2項に改正されたことに伴い、それぞれ必要な改正を行った(要約)。なお同書は、第32条の〔旧法との関係〕として旧法(大正10年法)第9条を挙げています。
出典:逐条解説〔第22版〕1669頁〜1670頁。
サービスマークの登録制度は平成3年改正により1992年4月1日に導入され、商品に加えて役務の商標も保護対象となりました。現行第32条は商品・役務の双方について、出願前の使用と需要者への周知、継続使用等を要件としています。2026年度試験は各試験実施日の施行法を基準としています。特許庁の制度沿革/第32条/受験案内

11. 試験での問われ方

確認しておきたい点条文上の答えの所在
基準時は他人の「出願」か「設定の登録」か第32条第1項「他人の商標登録出願前から」「その商標登録出願の際」
主観的要件は「善意」か「不正競争の目的でなく」か第32条第1項「不正競争の目的でなく」(第33条第1項は「知らないで」)
使用の準備をしていただけで足りるか第32条第1項「使用をしていた結果…広く認識されているとき」(特許法第79条は「事業の準備」で足りる)
使用をする権利の範囲は類似範囲に及ぶか第32条第1項「その商品又は役務についてその商標の使用をする権利」
対価を支払う必要があるか第32条に定めなし。第33条第2項・第33条の3第2項にあり
混同防止表示請求の請求権者第32条第2項「当該商標権者又は専用使用権者」/第32条の2第2項「当該商標権者」
地域団体商標の場合に周知性が必要か第32条の2第1項(周知性の文言なし)
業務を承継した者第32条第1項後段、第32条の2第1項後段
防護標章登録に基づく権利との関係第68条第3項(第32条から第33条の3までを準用)

〔表13〕条文の文言で確認しておきたい点(本記事作成者による整理。出題の予測ではありません)。

Q. 甲は、乙の商標登録出願の前から、不正競争の目的でなく、乙の出願に係る指定商品について乙の商標に類似する商標を日本国内で使用していた。乙の出願の際には甲の商標は広く認識されていなかったが、乙の商標権の設定の登録の時には、需要者の間に広く認識されるに至っていた。甲は第32条第1項の権利を有するか。
A. 第32条第1項は、周知性の判断時点を「その商標登録出願の際」と定めています(括弧書の場合を除く)。設定の登録の時に広く認識されていたことは、同項の文言には当たりません。なお、乙の登録商標が地域団体商標である場合は、第32条の2第1項に周知性の文言がないので、結論が変わり得ます。
Q. 第32条第1項の権利を有する者に対し、通常使用権者は混同防止表示請求ができるか。
A. 第32条第2項が請求権者として挙げるのは「当該商標権者又は専用使用権者」です。通常使用権者は挙げられていません。
Q. 第32条第1項の権利を有する者は、商標権者に対価を支払わなければならないか。
A. 第32条に対価の定めはありません。相当の対価の定めがあるのは、第33条第2項(及びこれを準用する第33条の3第2項)です。
令和8年度【商標】全10問には、第32条・第32条の2の先使用を直接問う肢はありません。学習では、通常の先使用に必要な周知性と、地域団体商標に対する第32条の2には周知性を要しない点を比較します。 公式問題・公式解答。
レベル3のまとめ
  • 第32条第1項の要件は、①他人の出願前から ②日本国内で ③不正競争の目的でなく ④同一・類似の範囲で使用 ⑤出願の際、現に需要者の間に広く認識 ⑥継続して使用。「先使用権」は講学上の呼称。
  • ⑤の判断時点は出願の際。第9条の4や、補正却下後の新出願(意匠法第17条の3第1項の準用)で出願日が繰り下がるときは、「もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際」。
  • 効果は「その商品又は役務についてその商標の使用をする権利」。類似範囲に広がるとは書かれていない。対価の定めなし。業務を承継した者も同様。
  • 第2項の混同防止表示請求の請求権者は「商標権者又は専用使用権者」。第32条の2第2項は「商標権者」のみで、混同の対象に「その構成員」が入る。
  • 第32条の2(地域団体商標)には周知性の文言がない。
  • 特許法第79条・意匠法第29条は「知らないで」+「事業又はその準備」で通常実施権。商標法第32条は「不正競争の目的でなく」+「周知性」+「継続使用」で使用をする権利。
  • 第32条の周知性は出願時の使用実績等により判断する。使用地域、一時中断、標章変更の具体例は本文の裁判例で区別している。

関連記事

守半事件でも、出願当時の周知性を認める証拠がないことに加え、従来の「守半」を含む商号・標章と、後から使用を始めた「守半總本舗」が社会通念上同一とはいえないことから、先使用権が否定されています。以前使っていた文字を含めば、後からどんな表示へ変更しても保護されるわけではありません。判決・争点4
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次