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小学生でも分かる特許法|特許法第79条・第79条の2 先使用権・中用権 ― 先に使っていた人、知らずに使っていた人を守る

小学生でもわかる特許法:先使用権・中用権(特許法第79条・第79条の2)

小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #32

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他人が特許をとる前から同じ発明を実施していた人が、特許が成立したとたんに侵害者になるのは不公平です。第79条(先使用権)は、そうした人に無償の通常実施権を与えます。第79条の2(中用権)は、冒認等を理由に特許権が真の権利者に移転した場合に、それまでの権利者等を保護します。どちらも「法定通常実施権」の代表例です。

条文:特許法第79条、第79条の2関連:第69条第2項第2号、第74条、第80条〜第82条、第94条、第99条参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

同じ発明を、別々に思いついた2人

Aさんは新しい消しゴムを発明して、工場で作り始めました。でも特許は出願しませんでした。その後、Bさんがまったく別に同じ発明をして、特許を出願し、特許をとりました。

ここでBさんが「私の特許だから、Aさんは消しゴムを作ってはいけない」と言えたら、どうでしょう。Aさんは先に作っていたのに、工場を止めなければなりません。それはあまりに気の毒です。

そこで特許法は、Bさんの出願の時点ですでに事業をしていた(またはその準備をしていた)Aさんに、そのまま続けてよいという権利(先使用権)を与えます。

Aが事業(準備)を開始 Bの発明を知らずに自ら発明 Bが特許出願 この時点で国内の事業・準備あり Bの特許成立 Aはその範囲で続けてよい(先使用権:無償の通常実施権) 「出願の際」に事業(準備)をしていたことが決め手

【図1】先使用権のタイムライン。

「知らずに使っていた人」も守る(中用権)

もう1つの場面。Cさんが他人の発明を盗んで(冒認)特許をとり、Dさんはそれを知らずにCさんからライセンスを受けて事業を始めました。後で真の発明者Eさんが特許権を取り戻したとき、Dさんが急に侵害者になるのは気の毒です。そこでDさんには、対価を払うことを条件に、続けてよい権利(中用権)が与えられます。

レベル1のまとめ
  • 他人の出願の時点で、その発明を知らずに事業(準備)をしていた人は、その範囲で無償で続けられる(先使用権)。
  • 冒認特許が真の権利者に移った場合、それを知らずに事業をしていた元の権利者・実施権者は、対価を払って続けられる(中用権)。

※「知らないで」「準備」「範囲」の意味、権利の移転などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

特許法第79条(原文)特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
#要件条文の部分ポイント
①善意の発明・知得特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、または知らないでその発明をした者から知得して独自に発明したか、独自に発明した者から知得したこと。出願時の知不知ではなく知得経路が問題
②時期特許出願の際現に基準時は出願時(優先権主張があれば優先日:第41条第2項等)
③場所日本国内において外国での事業は該当しない
④事業または準備その発明の実施である事業をしている、またはその事業の準備をしている「準備」の程度が争点(→レベル3)
効果通常実施権その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において無償。範囲は「発明」と「事業の目的」の両面で画される

〔表1〕第79条の要件と効果。

特許法第79条の2(原文)1 第七十四条第一項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その特許権の移転の登録前に、特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当すること(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。
2 当該特許権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
先使用権(第79条)中用権(第79条の2)
場面他人の出願前から実施していた冒認・第38条違反の特許が第74条で真の権利者に移転した
誰が善意で発明・知得して事業(準備)をしていた者移転登録の際に特許権者・専用実施権者・通常実施権者であって、冒認等を知らずに事業(準備)をしていた者
基準時特許出願の際特許権の移転の登録の際
対価無償相当の対価(第2項)
範囲実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内
導入旧法から平成23年改正(第74条の移転請求とセット)

〔表2〕先使用権と中用権の比較。

レベル2のまとめ
  • 先使用権:善意で発明・知得+出願の際現に国内で事業または準備→その範囲で無償の通常実施権。
  • 中用権:第74条の移転登録の際の権利者等で、冒認等を知らずに事業または準備→その範囲で有償の通常実施権。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 「事業の準備」の意味 ― ウォーキングビーム事件

最高裁昭和61年10月3日判決〔ウォーキングビーム式加熱炉事件〕は、「事業の準備」とは、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様・程度において表明されていることを意味する、と判示しました(要旨)。また、先使用権の範囲は、出願の際に実施していた具体的な実施形式に限定されず、その実施形式に具現された発明と同一性を失わない範囲で変更した実施形式にも及ぶ、としています。

根拠と補足:最高裁昭和61年10月3日(昭和61年(オ)第454号)は、事業の準備について、即時に実施する意思が客観的に分かる形で表れていることを要求しました。最終製作図や完成品が必ず必要ということではありません。また、先使用権は当初の実施形式だけに固定されず、そこに具現された発明との同一性を失わない変更にも及びます。証拠の保存方法は特許庁の先使用権資料で案内されています。出典:ウォーキングビーム判決・4〜8頁、特許庁・先使用権制度。
flowchart TB
  A["出願の際の状態"] --> B{"事業をしていたか"}
  B -- "していた" --> Y["先使用権あり"]
  B -- "していない" --> C{"事業の準備をしていたか
=即時実施の意図が客観的に認識される態様・程度で表明"} C -- "していた(設備発注、設計図完成、見積提出など)" --> Y C -- "研究開発の段階、構想のみ" --> N["先使用権なし"] Y --> D["範囲:出願時の実施形式に具現された発明と同一性を失わない範囲
+事業の目的の範囲内"] style Y fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

【図2】「事業の準備」と範囲の分岐図。準備の具体例は裁判例の集積による。

2. 範囲の2つの軸

軸内容例
発明の範囲実施(準備)していた実施形式に具現された発明と同一性を失わない範囲。実施形式の変更は同一性の範囲内で可出願時に製造していた製品の設計変更・改良品にも及びうる
事業の目的の範囲出願時の事業の目的。生産規模の拡大は認められるが、別種の事業への利用まで当然に含むわけではない工場を増設して生産量を増やすことは可(一般的理解)

〔表3〕先使用権の範囲。

3. 先使用権の移転・対抗・立証

論点内容根拠
移転実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾、一般承継に限り移転できる(法定通常実施権も第94条第1項の対象)第94条第1項
対抗登録なしで、特許権の譲受人等に対抗できる第99条
立証先使用権を主張する者が要件事実を立証する。証拠の事前確保(公証、タイムスタンプ等)が実務上重要特許庁・先使用権制度事例集第3章
第69条第2項第2号との違い第69条は「出願時から国内にある物」への効力制限(新たな生産は不可)。先使用権は事業の継続(新たな生産も可)第69条の記事〔表2〕

〔表4〕先使用権の周辺論点。

4. 他の法定通常実施権との位置づけ

条文名称場面対価
第35条第1項使用者の法定通常実施権従業者が職務発明について特許を受けた無償
第79条先使用権出願前から事業(準備)無償
第79条の2中用権(移転登録前の実施による)冒認特許の移転有償
第80条中用権(無効審判請求登録前の実施による)同一発明の二重特許等が無効になり他方が残る有償
第81条・第82条意匠権満了後の通常実施権抵触する意匠権の満了第81条は無償、第82条は有償
第176条再審により回復した特許権の効力の制限に伴う通常実施権再審で特許権が回復無償

〔表5〕法定通常実施権の一覧。第80条〜第82条は次の記事で扱う。第176条には対価請求の規定がなく無償。根拠:第176条。

5. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「出願人から発明を知得した者に先使用権はあるか(なし)」「外国で事業をしていた者」「準備の程度」「先使用権は有償か(無償)」「中用権の対価」「先使用権の移転」「先使用権に登録は必要か(不要)」〔表1〕〔表2〕〔表4〕
論文式侵害事例で先使用権の抗弁の成否(要件と範囲)を論じさせる。ウォーキングビーム事件の規範【図2】〔表3〕
口述「先使用権の要件を述べよ」「範囲は」第79条を原文で

〔表6〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

過去問との対応:令和8年度短答式試験について、問17イは、自ら発明した者が出願時点で出願人の発明を知っていたことだけで先使用権を否定できるかという論点です。発明を得た経路と出願時の国内事業・準備を区別します。問17の正解番号は3です。 出典:公式問題・特許/実用新案の部、公式正解。公式正解は問題単位の番号です。個々の肢の論点説明は条文との照合によります。
レベル3のまとめ
  • 先使用権の要件:善意の発明・知得/出願の際現に/国内/事業または準備。効果は無償の通常実施権、範囲は「発明の同一性」と「事業の目的」で画す(ウォーキングビーム事件)。
  • 中用権(第79条の2)は第74条の移転登録の際の善意の権利者等に有償で。
  • 移転は第94条、対抗は第99条(登録不要)。第69条第2項第2号(物の効力制限)と区別する。

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