MENU

小学生でも分かる特許法|特許法第33条・第34条 特許を受ける権利・承継 ― 特許になる「前」の権利は、だれのもので、どう移すのか

小学生でもわかる特許法:特許を受ける権利・承継(特許法第33条・第34条)

小学生でも分かる特許法 / A. 特許要件・発明 #7

PR この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

発明が生まれた瞬間、発明者には「特許を受ける権利」が生まれます。これはまだ特許権ではありませんが、譲ったり相続したりできる財産です。第33条はこの権利の性質を、第34条は権利を移したときに「だれが本当の権利者か」を決めるルールを定めています。

条文:特許法第33条、第34条関連:第29条第1項柱書、第35条(職務発明)、第38条(共同出願)、第49条第7号、第74条参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

発明した瞬間に生まれる「チケット」

発明が生まれると、その瞬間に、発明した人には「この発明について特許をもらえる」という権利が生まれます。これが特許を受ける権利です。特許権そのものではなく、「特許をもらいに行けるチケット」のようなものです。

このチケットは財産なので、人に譲ったり(売ったり)、亡くなったときに相続されたりします。会社が社員から譲り受けることもあります(職務発明の記事)。

発明 発明者に権利が発生 特許を受ける権利 譲渡・相続できる(第33条) 出願 審査 特許権 設定登録で発生 出願の「前」に譲るか「後」に譲るかで、ルールが変わる(第34条)

【図1】発明→特許を受ける権利→出願→特許権のライフサイクル。

チケットを2人に売ってしまったら?

発明者が、うっかり(またはわざと)同じチケットをAさんとBさんの2人に売ってしまったらどうなるでしょう。特許は1つしかあげられません。第34条は、こういうときに「先に特許庁に出願した人が勝ち」というルールで決着をつけます。出願する前の譲渡は、出願しないと他の人に「私が権利者だ」と主張できないのです。

出願した後の譲渡は、特許庁に届け出る

すでに出願した後で権利を譲るときは、特許庁に「出願人が変わりました」と届け出なければなりません。届け出ないと、譲渡そのものの効力が生じません。

レベル1のまとめ
  • 発明した瞬間に「特許を受ける権利」が発明者に生まれる。譲ったり相続したりできる。
  • 出願前に譲ったときは、譲り受けた人が出願しないと、他の人に対抗できない。
  • 出願後に譲ったときは、特許庁に届け出ないと効力が生じない。

※質権にできないこと、共有のときの制限、相続のときの扱い、権利のない人が出願した場合(冒認)などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第33条 ― 特許を受ける権利の性質

特許法第33条(原文) 1 特許を受ける権利は、移転することができる。
2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。
3 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。
4 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
項できる・できない理由・ポイント
第1項できる移転(譲渡・相続等)財産権としての性質
第2項できない質権の設定特許になるか不確定で、権利の内容も公示されていないため(特許権には質権を設定できる:第95条)
第3項同意が必要共有持分の譲渡誰と共有するかは他の共有者に重大な影響があるため
第4項同意が必要仮専用実施権の設定・仮通常実施権の許諾出願段階での実施権(仮専用実施権・仮通常実施権)にも共有者の同意が必要

〔表1〕第33条の整理。

第34条 ― 承継のルール(出願前・出願後)

項場面内容(要旨)性質
第1項出願前の承継承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗できない対抗要件=出願
第2項出願前の二重譲渡で同日に2以上の出願出願人の協議で定めた者以外の者の承継は、第三者に対抗できない同日は協議
第3項同日に特許出願と実用新案登録出願第2項と同様同日は協議
第4項出願後の承継(相続その他の一般承継を除く)特許庁長官に届け出なければ、効力を生じない効力要件=届出
第5項相続その他の一般承継承継人は遅滞なく届け出なければならない届出義務(効力要件ではない)
第6項出願後の二重譲渡で同日に2以上の届出届出をした者の協議で定めた者以外の者の届出は、効力を生じない同日は協議
第7項協議の手続第39条第6項・第7項(協議命令、届出がないときの不成立のみなし)を準用先願の記事参照

〔表2〕第34条の整理。「出願前=出願が対抗要件」「出願後=届出が効力要件」の対比が核。

flowchart TB
  A["特許を受ける権利を譲り受けた"] --> B{"譲渡の時期は?"}
  B -- "出願前" --> C{"一般承継(相続・合併)か?"}
  C -- "特定承継(売買等)" --> D["承継人が出願しなければ第三者に対抗できない(第1項)
二重譲渡なら先に出願した方が勝ち。同日なら協議(第2項・第3項)"] C -- "一般承継" --> D2["第1項の適用は同じ(承継人が出願)"] B -- "出願後" --> E{"一般承継(相続・合併)か?"} E -- "特定承継(売買等)" --> F["特許庁長官への届出が効力要件(第4項)
同日に2以上の届出なら協議(第6項)"] E -- "一般承継" --> G["承継の効力は当然に生じる。
遅滞なく届出(第5項:義務)"] style D fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F style F fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F

【図2】第34条の分岐図。出願前は「対抗要件」、出願後は「効力要件」という言葉の違いに注意。

レベル2のまとめ
  • 第33条:特許を受ける権利は移転できる、質権にはできない、共有なら持分譲渡・仮実施権に同意が必要。
  • 第34条:出願前の承継は出願が対抗要件(第1項)、出願後の承継は届出が効力要件(第4項)。一般承継は届出義務のみ(第5項)。同日の競合は協議(第2項・第3項・第6項、第39条第6項・第7項を準用)。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 「対抗要件」と「効力要件」の違い

出願前の承継(第1項)出願後の承継(第4項)
要件の性質対抗要件:当事者間では承継は有効。第三者に主張するには出願が必要効力要件:届け出るまで、当事者間でも承継の効力が生じない
二重譲渡の処理先に出願した承継人が優先。同日なら協議(第2項)先に届け出た承継人が優先。同日なら協議(第6項)
一般承継同じ(承継人が出願する)届出なしで効力発生。遅滞なく届出(第5項)
対応する特許権の規定―第98条第1項第1号(特許権の移転は登録が効力要件。一般承継を除く)

〔表3〕対抗要件と効力要件の比較。特許権の移転(第98条)との対応も押さえる。

出願前の二重譲渡(第34条第1項・第2項) 発明者 4/1 譲渡 4/5 譲渡 A B 5/10 出願 5/1 出願 Aは先に譲り受けたが負け Bが先に出願 → Bが対抗できる 譲渡の先後ではなく、出願の先後で決まる

【図3】二重譲渡の例。譲渡日ではなく出願日の先後で対抗関係が決まる。

2. 特許を受ける権利と特許権の比較

特許を受ける権利特許権
発生発明の完成(発明者に原始的に帰属。第29条第1項柱書「発明をした者」)設定登録(第66条)
移転可(第33条第1項)可(第98条第1項第1号:登録が効力要件)
質権不可(第33条第2項)可(第95条)
共有持分の譲渡他の共有者の同意(第33条第3項)他の共有者の同意(第73条第1項)
共有での実施権設定仮専用実施権・仮通常実施権に同意(第33条第4項)専用実施権・通常実施権に同意(第73条第3項)
共有者の自己実施―(出願段階では実施の問題は生じない)契約で別段の定めがなければ同意不要(第73条第2項)
承継の要件出願前:出願が対抗要件/出願後:届出が効力要件(第34条)登録が効力要件(第98条)

〔表4〕特許を受ける権利と特許権の比較。第73条・第95条・第98条の条文は各記事で確認。

3. 権利を持たない者が出願したら ― 冒認出願

特許を受ける権利を持たない者(発明者でも承継人でもない者)がした出願を冒認出願といいます。冒認出願は拒絶理由(第49条第7号)、無効理由(第123条第1項第6号)です。平成23年改正により、真の権利者は冒認者が得た特許権の移転を請求できるようになりました(第74条)。

flowchart LR
  A["権利のない者が出願(冒認)"] --> B["審査段階:拒絶理由(第49条第7号)"]
  A --> C["登録後:無効理由(第123条第1項第6号)
請求できるのは特許を受ける権利を有する者のみ(第123条第2項)"] A --> D["登録後:真の権利者が特許権の移転を請求(第74条)
→ 移転登録により初めから真の権利者に帰属"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

【図4】冒認出願への対処の相関図。

根拠と補足:真の権利者は、冒認又は共同出願違反の特許について、第74条第1項による特許権の移転を請求できます。冒認は第123条第1項第6号の無効理由ですが、その移転登録があった場合は除かれ、請求人も特許を受ける権利を有する者に限られます。第74条・第123条第1項第6号/第2項。

4. 共同発明と第38条

複数人で発明した場合、特許を受ける権利は共有になります(各共有者が持分を持つ)。共有の場合、出願は全員でしなければなりません(第38条)。第33条第3項・第4項の同意要件と、第38条の共同出願要件は、セットで問われます。

5. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「特許を受ける権利に質権を設定できるか(不可)」「出願前の譲渡の対抗要件」「出願後の譲渡で届出をしない場合の効力」「相続の場合の届出」「同日に2つの届出があった場合」「共有持分の譲渡に同意は必要か」〔表1〕〔表2〕〔表3〕
論文式二重譲渡・共同発明・冒認の事例で、誰が特許を受けられるか、どの手段で救済されるかを論じさせる【図2】【図3】【図4】
口述「出願前の承継の対抗要件は」「出願後の承継の効力要件は」第34条第1項・第4項を原文で

〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

根拠と補足:令和8年度短答式(特許・実用新案)問4では、肢イで共同職務発明の持分譲渡、肢ロで承継後の二重譲渡と対抗要件が扱われています。問4全体の公式正解は2です。公式問題/公式解答。
レベル3のまとめ
  • 出願前の承継=出願が対抗要件(当事者間では有効)。出願後の承継=届出が効力要件(届出まで無効)。一般承継は届出義務のみ。
  • 二重譲渡は出願(または届出)の先後で決まり、同日なら協議(第39条第6項・第7項を準用)。
  • 特許を受ける権利には質権を設定できない(特許権には可)。共有の持分譲渡・仮実施権は同意要(特許権の第73条と対応)。
  • 冒認は拒絶理由・無効理由。真の権利者は第74条で移転請求できる。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人