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小学生でも分かる商標法|商標法第9条・第9条の2・第9条の3・第13条 出願時の特例と優先権 ― 「出した日」を早い者として扱ってもらえる場合

小学生でもわかる商標法 第15回「出願時の特例と優先権」。出願の順番に関わる特例。

小学生でも分かる商標法 / B. 出願・審査・登録の手続 #15

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商標(しょうひょう)は、原則として「先に出願した人」が優先されます。けれども、博覧会(はくらんかい)に出した商品に使った目じるしや、先に外国で出願した目じるしについては、あとから日本で出願しても「早い日」を基準にしてもらえるしくみがあります。この記事では、その二つのしくみと、出願した人が持つ「商標登録出願により生じた権利」のルールを、3つのレベルで説明します。

条文:商標法第9条、第9条の2、第9条の3、第13条審査基準:商標審査基準〔改訂第17版〕 第9 第9条(出願時の特例)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

商標は「早くならんだ人」が先

商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしを国に登録(とうろく)してもらうには、特許庁(とっきょちょう)という役所に「登録してください」という書類を出します。これを出願(しゅつがん)といいます。

同じような目じるしを二人が出願したら、原則として、先に出願した人が優先されます。行列と同じで、早くならんだ人が先です。

① 博覧会に出した商品の目じるし

パン屋の「ほしぞらパン」さんが、国が開いた「全国パンはくらんかい」(架空の博覧会)に、新しいパンを出しました。パンのふくろには「ほしぞらパン」という目じるしがついています。

博覧会にはたくさんの人が来ます。だれかが目じるしを見て、先に特許庁にならんでしまうかもしれません。そこで法律は、決まった博覧会に出した商品の目じるしについて、出した日から6か月以内に出願すれば、「博覧会に出した時に出願した」ものとして扱うことにしています。

時間の流れ → 博覧会にパンを出す 「ほしぞらパン」 (ほしぞらパンさん) 別の人が先に出願 「ほしそらパン」 (よく似た目じるし) ほしぞらパンさんが 出願 (出した日から6か月以内) 「博覧会に出した時」に出願した扱い この間が6か月以内 → 順番は「別の人」より前になる

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:ほしぞらパンさん(出品した本人)のできごと
  • 赤の枠:別の人のできごと
  • 橙の破線の矢印:出願の時が「博覧会に出した時」までさかのぼる扱い

【図1】博覧会に出した商品の目じるしの「順番取り」。店名・博覧会名は架空の例。どの博覧会でもよいわけではなく、書類の提出も必要です(→レベル2・3)。

② 先に外国で出願した目じるし

文房具の「ミナトえんぴつ」さんは、まず外国(A国)で目じるしを出願しました。そのあと日本でも登録したいのですが、書類をそろえるのに時間がかかります。

世界の多くの国は「パリ条約(じょうやく)」という約束を結んでいます。この約束では、ある国で先に出願した人は、決まった期間のうちにほかの国で出願すれば、先の出願の日を基準にして、不利にならないように扱ってもらえます。これを優先権(ゆうせんけん)といいます。商標の場合、この期間は6か月です(パリ条約第4条C(1)。特許庁ウェブサイト掲載の条約文、2026年9月参照)。

A国の役所 「ミナトえんぴつ」を出願 =最初の出願 「順番取りの券」をもらうイメージ 日本の特許庁 同じ目じるしを出願 出願と同時に「優先権を使います」 と書面で伝える 6か月以内 この間に別の人が日本で似た目じるしを出願していても、 「ミナトえんぴつ」さんは、そのことで不利にならない

図は左右にスクロールできます。

【図2】優先権のイメージ。店名は架空の例。「券」はたとえで、実際には書面と証明の書類を特許庁に出します(→レベル2)。

③ 出願した人の「立場」もゆずれる

出願すると、その人には「審査を受けて、登録してもらえるかもしれない立場」ができます。法律はこれを「商標登録出願により生じた権利」と呼びます。この立場は、ほかの人にゆずることができます。ただし、ゆずったことを特許庁に届け出ないと、ゆずったことになりません(相続(そうぞく)などを除く)。

① 博覧会 → 出した日から6か月以内に出願② 外国の出願 → 6か月以内に日本で出願③ 出願した人の立場はゆずれる(届出が必要)
レベル1のまとめ
  • 商標は、原則として先に出願した人が優先される。
  • 決まった博覧会に出した商品・サービスに使った目じるしは、出した日から6か月以内に出願すれば、「出した時」に出願したものとして扱われる。
  • 先に外国で出願した目じるしは、6か月以内に日本で出願して優先権を使えば、その間のできごとで不利にならない。
  • 出願した人の立場(商標登録出願により生じた権利)は、ゆずることができる。

※ 「決まった博覧会」の範囲、出願と同時に出す書面、あとから出す証明の書類とその期限、優先権を使える人と国の範囲は、正確には条件があります(→レベル3)。①は「出願の時」そのものを早い時とみなすしくみ、②は条約の効果として不利に扱われないしくみで、法律上のつくりは同じではありません(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

商標法第9条第1項 ― 出願時の特例

商標法第9条第1項(原文) 政府等が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するものに、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会に、又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国のいずれにも該当しない国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するものに出品した商品又は出展した役務について使用をした商標について、その商標の使用をした商品を出品した者又は役務を出展した者がその出品又は出展の日から六月以内にその商品又は役務を指定商品又は指定役務として商標登録出願をしたときは、その商標登録出願は、その出品又は出展の時にしたものとみなす。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

長い一文ですが、「どの博覧会に」「だれが」「いつまでに」「何を出願すると」「どうなる」に分けると読みやすくなります。

部品文言(要約)意味
どの博覧会に①政府等が開設する博覧会/②政府等以外の者が開設する博覧会で特許庁長官の定める基準に適合するもの/③パリ条約の同盟国・世界貿易機関の加盟国・商標法条約の締約国の領域内で、その政府等またはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会/④それらのいずれにも該当しない国の領域内で同様に開設される国際的な博覧会で、特許庁長官の定める基準に適合するものどんな展示会でもよいわけではない。②と④には「基準に適合」という条件が付く。
何について出品した商品または出展した役務について使用をした商標商品は「出品」、役務(サービス)は「出展」と書き分けられている。
だれがその商標の使用をした商品を出品した者、または役務を出展した者出品・出展した本人が出願する。
いつまでにその出品または出展の日から6月以内起点は出品・出展の日。
何を出願その商品または役務を指定商品または指定役務として商標登録出願出品・出展した商品・役務そのものを指定する。
どうなるその商標登録出願は、その出品または出展の時にしたものとみなす「出願の時」が早い時に動く(遡及)。

〔表1〕商標法第9条第1項の部品分解(本記事作成者が条文を整理したもの。文言欄は要約であり原文は上の引用のとおり)。

商標法第9条第2項〜第4項 ― 手続と救済

商標法第9条第2項(原文) 商標登録出願に係る商標について前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を商標登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、その商標登録出願に係る商標及び商品又は役務が同項に規定する商標及び商品又は役務であることを証明する書面(次項及び第四項において「証明書」という。)を商標登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。 商標法第9条第3項(原文) 証明書を提出する者が前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、その期間が経過した後であつても、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、その証明書を特許庁長官に提出することができる。 商標法第9条第4項(原文) 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により、前項の規定により証明書を提出することができる期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
項役割期間・方式
第1項効果(出願の時の遡及)と実体的な条件出品または出展の日から6月以内に出願
第2項手続①:適用を受けたい旨の書面/手続②:証明書書面=商標登録出願と同時。証明書=商標登録出願の日から30日以内
第3項証明書の期間を過ぎた場合の救済(理由を問わない形の規定)経済産業省令で定める期間内。商標法施行規則第6条の2第2項は同条第二項に規定する期間の経過後二月と定める。同条第3項により期間延長請求書の提出が必要
第4項責めに帰することができない理由がある場合の救済理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、第3項の期間の経過後6月以内

〔表2〕商標法第9条の項ごとの役割(e-Gov 商標法・商標法施行規則(法令ID 335M50000400013)、2026年9月参照)。証明書の様式は商標法施行規則第6条の2第1項(様式第10の2)。

flowchart LR
  A["博覧会に出品・出展
(商標を使用)"] -->|"6月以内"| B["商標登録出願
+適用を受けたい旨の書面
(出願と同時)"] B -->|"出願の日から30日以内"| C["証明書を提出
(第9条第2項)"] B -.->|"30日を過ぎた"| D["経過後2月以内に提出
(第9条第3項・
施行規則第6条の2)"] D -.->|"責めに帰することが
できない理由で不可"| E["理由がなくなった日から14日
(在外者2月)以内、かつ
期間経過後6月以内
(第9条第4項)"] C --> F["出品又は出展の時に
出願したものとみなす"] D --> F E --> F style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 実線の矢印:原則のルート
  • 点線の矢印:期間を過ぎた場合の救済のルート
  • 緑の箱:出願の時がさかのぼるという結論

【図3】商標法第9条のタイムライン(本記事作成者がフロー化したもの)。実線が原則、点線が救済のルート。

商標法第9条の2・第9条の3 ― 優先権を主張できる範囲を広げる

商標法第9条の2(原文) パリ条約の同盟国でされた商標(第二条第一項第二号に規定する商標に相当するものに限る。)の登録の出願に基づく優先権は、同項第一号に規定する商標に相当する商標の登録の出願に基づく優先権についてパリ条約第四条に定める例により、これを主張することができる。 商標法第9条の3(原文・柱書) 次の表の上欄に掲げる者が同表の下欄に掲げる国においてした出願に基づく優先権は、パリ条約第四条の規定の例により、商標登録出願について、これを主張することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。第9条の3の表は下の〔表3〕に原文を掲げる。

商標法第2条第1項第1号は商品についての商標、同項第2号は役務についての商標を定める号です。商標法第9条の2は、役務についての商標の出願に基づく優先権を、商品についての商標の場合と同じように、パリ条約第4条に定める例によって主張できるとしています。

上欄(だれが)下欄(どの国でした出願か)
日本国民又はパリ条約の同盟国の国民(パリ条約第三条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む。)世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国
世界貿易機関の加盟国の国民(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一C第一条3に規定する加盟国の国民をいう。)又は商標法条約の締約国の国民パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国

〔表3〕商標法第9条の3の表(原文。e-Gov、2026年9月参照)。特許法第43条の3第1項の表と比べると、「商標法条約の締約国」(とその国民)が加わっている。

商標法第13条第1項 ― 優先権の手続(特許法の準用と読替え)

商標法第13条第1項(原文・前半) 特許法第四十三条第一項から第四項まで及び第七項から第九項まで並びに第四十三条の三第二項及び第三項の規定は、商標登録出願に準用する。この場合において、同法第四十三条第一項中「経済産業省令で定める期間内」とあるのは「商標登録出願と同時」と、同条第二項中「明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面」とあるのは「商標登録を受けようとする商標及び指定商品又は指定役務を記載したもの」と、「次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月」とあるのは「商標登録出願の日から三月」と、(以下、特許法第43条第7項〜第9項、第43条の3第2項・第3項の読替えが続く。〔表4〕参照)
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
準用される特許法の規定特許法での文言商標法第13条第1項による読替え後
特許法第43条第1項(優先権主張の書面)経済産業省令で定める期間内商標登録出願と同時
特許法第43条第2項(優先権証明書類等)明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面商標登録を受けようとする商標及び指定商品又は指定役務を記載したもの
次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月商標登録出願の日から三月
特許法第43条第7項(期間経過後の提出)前項の規定による通知を受けた者は優先権証明書類等を提出する者は、第二項に規定する期間内に優先権証明書類等を提出することができないときは、その期間が経過した後であつても
優先権証明書類等又は第五項に規定する書面経済産業省令で定めるところにより、優先権証明書類等
特許法第43条第8項(責めに帰することができない理由)第六項の規定による通知を受けた者ほか優先権証明書類等を提出する者ほか(「通知」と「第五項に規定する書面」に関する文言を除く読替え)
特許法第43条第9項優先権証明書類等又は第五項に規定する書面優先権証明書類等
特許法第43条の3第2項(特定国)又は世界貿易機関の加盟国/若しくは世界貿易機関の加盟国の国民、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国/、世界貿易機関の加盟国の国民若しくは商標法条約の締約国の国民
特許法第43条の3第3項前二条/前二項第四十三条/前項

〔表4〕商標法第13条第1項の読替え対照表(e-Gov 商標法第13条・特許法第43条・第43条の3、2026年9月参照。第8項の読替えは一部を省略して示した。第8項は責めに帰することができない理由による救済を定める)。

時間の流れ → 最初の出願 (外国) 優先期間 6箇月 日本へ商標登録出願 +優先権主張の書面 (「商標登録出願と同時」) 商標登録出願の日から3月 優先権証明書類等 の提出期限 経過後2月 救済の期限 (省令) ・3月以内に優先権証明書類等を提出しないと、優先権の主張は効力を失う(準用する特許法第43条第4項)。 ・3月を過ぎても、経過後2月以内は期間延長請求書とともに提出できる(商標法施行規則第7条の2)。 ・責めに帰することができない理由があるときは、さらに省令で定める期間内に提出できる。 ・これらの提出があれば、効力を失う旨の規定は適用されない(準用する特許法第43条第9項)。

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑:最初の出願と、パリ条約による優先期間(6箇月)
  • 橙:日本への商標登録出願と、そこから3月の提出期間
  • 赤:期間が過ぎた後の救済期間(経過後2月)とその期限

【図4】優先権主張のタイムチャート(本記事作成者が条文を整理して図にしたもの)。6箇月=パリ条約第4条C(1)(特許庁ウェブサイト掲載の条約文)、3月=商標法第13条第1項の読替え、経過後2月=商標法施行規則第7条の2第1項。いずれも2026年9月参照。時間軸に縮尺はありません。

商標法第13条第2項 ― 商標登録出願により生じた権利

商標法第13条第2項(原文) 特許法第三十三条第一項から第三項まで及び第三十四条第四項から第七項まで(特許を受ける権利)の規定は、商標登録出願により生じた権利に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標登録出願人 商標登録出願により 生じた権利 譲受人(特定承継) 特許庁長官に届け出なければ 効力を生じない 相続人等(一般承継) 遅滞なく届け出る 質権者 質権の目的とすることができない 移転できる(特許法第33条第1項) 届出=特許法第34条第4項 特許法第34条第5項 × 特許法第33条第2項 共有のとき(特許法第33条第3項) 他の共有者の同意がなければ 持分を譲渡できない

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:商標登録出願により生じた権利を持っている人
  • 橙の枠:権利を受け継ぐ相手
  • 赤の枠:権利の目的とすることができない相手
  • 白い枠:共有の場合の制限
  • 赤の破線と×:することができないこと

【図5】商標登録出願により生じた権利の相関図(商標法第13条第2項が準用する特許法第33条第1項〜第3項、第34条第4項・第5項を本記事作成者が図にしたもの)。同日に二以上の届出があった場合は特許法第34条第6項・第7項。

レベル2のまとめ
  • 商標法第9条第1項の効果は「その出品又は出展の時にしたものとみなす」。条件は、博覧会の種類・出品者または出展者本人・6月以内・出品または出展した商品役務を指定、の4つに分けて読む。
  • 商標法第9条の手続は、書面=商標登録出願と同時、証明書=商標登録出願の日から30日以内。第3項(経過後2月)と第4項(責めに帰することができない理由)の救済がある。
  • 優先権は、商標法第9条の2(役務の商標)と第9条の3(世界貿易機関の加盟国・商標法条約の締約国)で範囲を広げ、手続は商標法第13条第1項が特許法第43条等を読み替えて準用する。主張は「商標登録出願と同時」、証明書類は「商標登録出願の日から三月」。
  • 商標法第13条第2項は、特許法第33条第1項〜第3項、第34条第4項〜第7項を「商標登録出願により生じた権利」に準用する。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 商標法第9条の要件を細かく見る

レベル1で「決まった博覧会」と単純化した部分を回収します。商標法第9条第1項の博覧会は、条文上、次の4類型です(〔表1〕参照)。

類型開設者・場所「特許庁長官の定める基準に適合」の条件
①政府等が開設する博覧会条文上、この条件は付いていない
②政府等以外の者が開設する博覧会必要
③パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国または商標法条約の締約国の領域内で、その政府等またはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会条文上、この条件は付いていない
④上記のいずれにも該当しない国の領域内で、その政府等またはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会必要

〔表5〕商標法第9条第1項の博覧会の4類型(条文の構造を本記事作成者が整理したもの。「政府等」は第4条第1項第9号で定義される政府又は地方公共団体)。

ポイント:条文から直接読み取れる要件は、(a) 上の4類型の博覧会であること、(b) 出品した商品・出展した役務について使用をした商標であること、(c) 出願人が出品した者・出展した者であること、(d) 出品または出展の日から6月以内の出願であること、(e) その商品・役務を指定商品・指定役務とすること、(f) 商標法第9条第2項の書面(出願と同時)と証明書(原則として出願の日から30日以内)の提出、です。

特許庁長官の基準への適合を要する②・④の博覧会は、産業の発展に寄与する目的で物品等を公開・展示し、開催地・期間、参加資格、出品者数、展示の種類・数量等が制度の趣旨に照らして適当なものである必要があります。国内の対象博覧会は原則として政府等の協賛・後援又はこれに準ずるものが必要です。特例を受ける商標は出品商品・出展役務に実際に使用した商標であり、指定商品・指定役務もその商品・役務です。類似する商標や、出品・出展していない別の商品等へ当然に遡及が広がる制度ではありません。出品日と対象は、開催者の証明書やパンフレット等で証明します。出典:商標審査便覧16.01・16.04(平成24年特許庁告示第6号)、商標審査基準第9。

2. 商標法第9条は「新規性喪失の例外」ではない

特許法第30条・意匠法第4条と商標法第9条は、証明書の「30日以内」や救済規定の書きぶりが似ているため混同しやすい条文です。しかし効果がまったく違います。

比較項目商標法第9条特許法第30条意匠法第4条
条見出し出願時の特例発明の新規性の喪失の例外意匠の新規性の喪失の例外
対象となる事実所定の博覧会への出品・出展(商標の使用)意に反する公知等(第1項)/権利者の行為に起因する公知等(第2項。公報掲載を除く)同左(第1項・第2項)
効果その出品又は出展の時にしたものとみなす=出願の時が遡及する特許法第29条第1項各号に該当するに至らなかつたものとみなす=出願日は動かない意匠法第3条第1項第1号・第2号に該当するに至らなかつたものとみなす=出願日は動かない
期間出品または出展の日から6月以内該当するに至った日から1年以内該当するに至った日から1年以内
書面商標登録出願と同時特許出願と同時(第2項の場合)意匠登録出願と同時(第2項の場合)
証明書商標登録出願の日から30日以内特許出願の日から30日以内意匠登録出願の日から30日以内(最先の日の一の行為で足りる旨のただし書あり)
証明書の救済第3項(省令期間=経過後2月)+第4項(責めに帰することができない理由)の二段第4項(責めに帰することができない理由)のみ第4項(責めに帰することができない理由)のみ

〔表6〕商標法第9条と特許法第30条・意匠法第4条の比較(e-Gov 各法、2026年9月参照。実用新案法は第11条第1項で特許法第30条を準用)。

ポイント:商標には「新規性」という登録要件がありません。博覧会で商標を使ったこと自体で登録できなくなるわけではないので、商標法第9条は「公開をなかったことにする」規定ではなく、「出願の時」を出品・出展の時に動かす規定になっています(条文上の帰結)。このため、出品・出展から出願までの間に他人が出願していた場合の先後(商標法第8条第1項など、出願の先後が問題になる場面)に影響します。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕)― 第9条:特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(以下「逐条解説〔第22版〕」)は、商標法第9条第1項の趣旨を、博覧会に出品した者がその出品した商品または出展した役務に使用した商標について、他人が先に商標登録出願をした場合に、正当な商標登録出願者であるべき出品(展)者を保護しようとするものである、と説明しています。
改正の経緯としては、当初は対象が政府または地方公共団体の開催する博覧会に限られていたところ、実態に即しないとして昭和40年に、政府または地方公共団体以外の者が開催する博覧会で特許庁長官が指定するものも対象とするよう改正されたこと、平成3年の一部改正でサービスマーク登録制度が導入された際、パリ条約上は博覧会への出展に係るサービスマークを保護する義務はないものの、商品に係る商標と役務に係る商標で保護に差を付ける必要はないため本条を役務に係る商標まで拡大したこと、平成6年の一部改正で世界貿易機関の加盟国の領域内の博覧会を、平成8年の一部改正で商標法条約の締約国の領域内の博覧会を対象に加えたことが説明されています。平成23年の一部改正では、政府または地方公共団体以外の者が開催する博覧会について、開設者の申請に基づく特許庁長官の指定がなければ出品(展)者が出願時の特例を主張できず、出品(展)を見た第三者の出願に劣後して商標登録を受けられないおそれがあり利便性が高いといえなかったことから、特許庁長官による博覧会の指定を廃止し、特許庁長官の定める基準に適合する博覧会について特例の主張を可能とした、と説明されています。
第3項は、ユーザーフレンドリーな手続の導入等を目的とした商標法に関するシンガポール条約(STLT)に整合した制度とすべく、平成27年の一部改正で新たに導入されたものと説明されています。同条約第14条(2)が、官庁に対して手続をすべき期間内に手続をすることができなかった場合に、期間の経過後であっても同条約に基づく規則に規定する期間内に限りその手続をすることを認める旨を規定しなければならないとしていることに倣ったものであり、期間および手続手段の詳細は規則に規定されているため、特許法第5条第3項と同じ理由により経済産業省令に委ねられた、とされています。第4項は平成26年の一部改正で追加されたもので、特許法第30条第4項の規定と同趣旨により第3項の期間について救済規定を整備したものと説明されています。
出典:逐条解説〔第22版〕1589頁〜1591頁(商標法第9条の解説)。

3. 優先権 ― 商標法での4つの違い

優先権制度そのもの(パリ条約第4条、特許法第43条の手続)は特許法シリーズの記事に譲り、ここでは商標法での違いに絞ります。

特許法の規定商標法第13条第1項での扱い意味
特許法第43条第1項〜第4項準用(読替えあり)主張は「商標登録出願と同時」。優先権証明書類等は「商標登録出願の日から三月」。提出しなければ主張は効力を失う(第4項)
特許法第43条第5項(電磁的方法による事項の交換)準用なし第7項〜第9項の読替えで「第五項に規定する書面」の文言が除かれている
特許法第43条第6項(特許庁長官による通知)準用なし第7項・第8項の読替えで「通知を受けた者」が「優先権証明書類等を提出する者」に置き換えられている。つまり通知を前提としない
特許法第43条第7項〜第9項準用(読替えあり)期間経過後も省令で定める期間内(商標法施行規則第7条の2第1項:経過後2月)に提出可。責めに帰することができない理由がある場合は同条第3項の期間
特許法第43条の2(優先期間経過後の優先権主張)準用なし商標法第13条第1項は、特許法第43条の3第3項中の前二条を第四十三条と読み替えている
特許法第43条の3第1項準用なし代わりに商標法第9条の3が固有の表を置く(商標法条約の締約国を追加)
特許法第43条の3第2項・第3項準用(読替えあり)特定国の国民等の優先権。商標法条約の締約国(の国民)を加える読替え

〔表7〕特許法第43条〜第43条の3のうち商標法第13条第1項が準用する項・しない項(e-Gov、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。

ポイント(期間の数値):優先期間は、パリ条約第4条C(1)で優先期間は、特許及び実用新案については12箇月、意匠及び商標については6箇月とする。とされ、同条C(2)で最初の出願の日から開始し出願の日は期間に算入しないとされています(特許庁ウェブサイト掲載の「パリ条約」、2026年9月参照)。商標法自体には「6月」と書かれておらず、商標法第9条の2・第9条の3の「パリ条約第四条…の例により」を通じて決まります。

商標法施行規則第7条の2第3項は、責めに帰することができない理由がある場合の期間を次のように定めています(e-Gov、2026年9月参照)。

場面期間根拠
商標法第9条:出品・出展から出願まで6月以内商標法第9条第1項
商標法第9条:証明書商標登録出願の日から30日以内商標法第9条第2項
同:期間経過後の提出30日の期間の経過後2月商標法第9条第3項、商標法施行規則第6条の2第2項
同:責めに帰することができない理由理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、上記期間の経過後6月以内商標法第9条第4項
優先権:優先期間6箇月パリ条約第4条C(1)
優先権:主張の書面商標登録出願と同時商標法第13条第1項(特許法第43条第1項の読替え)
優先権:優先権証明書類等商標登録出願の日から3月商標法第13条第1項(特許法第43条第2項の読替え)
同:期間経過後の提出3月の期間の経過後2月商標法施行規則第7条の2第1項
同:責めに帰することができない理由①発行すべき政府の事務の遅延による場合:入手した日から1月(在外者は2月)/②それ以外:理由がなくなった日から14日(在外者は2月)。ただし末日が上記期間の経過後6月を超えるときは経過後6月商標法施行規則第7条の2第3項第1号・第2号

〔表8〕この記事に出てくる期間の一覧(出典は各行の根拠欄。e-Govおよび特許庁ウェブサイト掲載のパリ条約、いずれも2026年9月参照)。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕)― 第9条の2・第9条の3:逐条解説〔第22版〕は、第9条の2について、パリ条約第6条の6がサービスマークを登録制度により保護することを義務付けていないため、役務に係る商標の出願についてパリ条約第4条に規定する優先権を認める義務はないが、商品に係る商標と役務に係る商標でその保護に差を付ける必要はないことから、本条を新設して役務に係る商標の出願についても優先権を認めたものである、と説明しています。この規定により、商品に係る商標の出願と同様、パリ条約の優先権の効果はパリ条約第4条Bにより(商標法第77条第4項で準用する特許法第26条)、その手続は商標法第13条第1項で準用する特許法第43条によることとなる、とされています。
第9条の3については、平成8年の一部改正で新設されたもので、商標法条約第15条の規定に従い、同条約の締約国の国民についてもパリ条約第4条の例による優先権を認めるため、改正前に商標法第13条第1項で準用していた特許法第43条の2第1項(平成26年の一部改正で第43条の3第1項へ移動)を新たに書き起こし、パリ条約の同盟国の国民または世界貿易機関の加盟国の国民およびパリ条約の同盟国または世界貿易機関の加盟国に、それぞれ商標法条約の締約国の国民および商標法条約の締約国を追加したものである、と説明されています。準用したまま読替えを置くと規定中に表を含むため複雑になることから書き起こしたものである、とも説明されています。
出典:逐条解説〔第22版〕1592頁〜1594頁(商標法第9条の2・第9条の3の解説)。

なお、国際商標登録出願については商標法第68条の15に優先権主張の手続の特例があります(関連記事参照)。

flowchart TB
  S["外国でした商標の出願を基礎に
日本で優先権を主張したい"] --> Q1{"最初の出願をした国は
パリ条約の同盟国?"} Q1 -- "はい" --> Q2{"基礎は役務についての
商標の出願?"} Q2 -- "はい(役務)" --> P2["商標法第9条の2
(パリ条約第4条に定める例による)"] Q2 -- "いいえ(商品)" --> P1["パリ条約第4条により主張"] Q1 -- "いいえ" --> Q3{"世界貿易機関の加盟国又は
商標法条約の締約国?"} Q3 -- "はい" --> P3["商標法第9条の3の表
(出願人の国籍との組合せを確認)"] Q3 -- "いいえ" --> Q4{"特許庁長官が指定する
特定国?"} Q4 -- "はい" --> P4["商標法第13条第1項で準用する
特許法第43条の3第2項"] Q4 -- "いいえ" --> N["優先権を主張できる
根拠規定が見当たらない"] P1 --> T["手続:商標登録出願と同時に書面
出願の日から3月以内に優先権証明書類等"] P2 --> T P3 --> T P4 --> T style T fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:優先権を主張できる場合に共通する手続
  • 赤の箱:優先権を主張する根拠規定が見当たらない場合

【図6】どの規定で優先権を主張するかの分岐図(本記事作成者がフロー化したもの。単純化のため、同盟国の国民とみなされる者などの人的範囲の細部は省略した。正確には商標法第9条の3の表とパリ条約第2条・第3条を確認)。

4. 三つの「さかのぼり」制度を区別する

商標法には、出願の時点が「早い時」を基準に扱われる制度が複数あります。条文の言い回しが違う点に注意してください。

比較項目出願時の特例(商標法第9条)優先権(パリ条約第4条、商標法第9条の2・第9条の3・第13条第1項)分割・変更(商標法第10条〜第12条)
基準となる時点博覧会への出品または出展の時最初の出願の日(第一国出願)もとの商標登録出願(または防護標章登録出願)の時
条文の言い回しその出品又は出展の時にしたものとみなすパリ条約第四条…の例により、これを主張することができる(「みなす」ではない)もとの商標登録出願の時にしたものとみなす(商標法第10条第2項本文。第11条第6項・第12条第3項で準用)
期間出品または出展の日から6月以内優先期間6箇月(パリ条約第4条C(1))分割:商標法第10条第1項の時期(審査・審判・再審係属中等)。変更:査定または審決の確定前(商標法第11条第4項、第12条第2項)
手続出願と同時の書面+30日以内の証明書出願と同時の書面+3月以内の優先権証明書類等新たな出願・出願の変更の手続
相互の関係分割に係る新たな出願では、商標法第9条第2項および準用する特許法第43条第1項・第2項の適用について遡及しない(商標法第10条第2項ただし書)。もとの出願で提出された書面・書類は、新たな出願と同時に提出されたものとみなされる(商標法第10条第3項)左のとおり

〔表9〕三つの「さかのぼり」制度の比較(e-Gov 商標法第9条〜第13条、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。

ポイント:商標法第10条第2項ただし書は、手続期間の起算にかかわる規定(商標法第9条第2項、準用する特許法第43条第1項・第2項)について遡及を否定するものです。もし遡及すると「出願と同時」「出願の日から30日/3月」という期限が、分割の時点ですでに過ぎていることになってしまうためです(条文構造からの説明)。

このほか、出願の時点が動く制度として、補正却下後の新出願(商標法第17条の2で準用する意匠法第17条の3)や、要旨変更の補正が登録後に判明した場合の商標法第9条の4があります。これらは「さかのぼり」ではなく、時点が後ろにずれる(またはずれないよう手当てする)制度です(例外あり。詳細は関連記事)。

なお、いずれの制度でも、商標権の存続期間の起算点は動きません。存続期間は設定の登録の日から10年です(商標法第19条第1項)。

flowchart TB
  A["出願の『時』が問題になった"] --> B{"所定の博覧会に
出品・出展した商品役務に
使用した商標?"} B -- "はい" --> C{"出品・出展の日から6月以内に
本人が出願し、書面と証明書を提出?"} C -- "はい" --> C1["商標法第9条第1項
出品又は出展の時にしたものとみなす"] C -- "いいえ" --> Z["実際の出願の時が基準"] B -- "いいえ" --> D{"外国の最初の出願から
6箇月以内で、出願と同時に
優先権を主張?"} D -- "はい" --> D1["優先権
(パリ条約第4条の効果)"] D -- "いいえ" --> E{"分割・変更による
新たな出願?"} E -- "はい" --> E1["商標法第10条第2項
もとの出願の時にしたものとみなす
(ただし書に注意)"] E -- "いいえ" --> Z style C1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style Z fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:出願の時が早い時にさかのぼる結論
  • 赤の箱:さかのぼらず、実際の出願の時が基準になる結論

【図7】どの「さかのぼり」制度に当たるかの判断手順(本記事作成者がフロー化したもの。要件は単純化してあり、正確には各条文による)。

5. 商標法第13条第2項 ― 準用されない規定の意味

特許法の規定内容(要約)商標法第13条第2項意匠法第15条第2項・実用新案法第11条第2項
第33条第1項移転することができる準用準用
第33条第2項質権の目的とすることができない準用準用
第33条第3項共有の場合、他の共有者の同意がなければ持分を譲渡できない準用準用
第33条第4項共有の場合の仮専用実施権の設定・仮通常実施権の許諾準用なし準用(第33条全体)
第34条第1項出願前の承継は、承継人が出願しなければ第三者に対抗できない準用なし準用
第34条第2項同一の者から承継した同一の権利について同日に二以上の出願があった場合準用なし準用
第34条第3項発明と考案にまたがる同日出願の場合準用なし準用なし
第34条第4項出願後の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ効力を生じない準用準用
第34条第5項一般承継があったときは遅滞なく届け出る準用準用
第34条第6項・第7項同日に二以上の届出があった場合の協議等(特許法第39条第6項・第7項の準用)準用準用

〔表10〕特許法第33条・第34条の準用関係(e-Gov 商標法第13条第2項、意匠法第15条第2項、実用新案法第11条第2項、2026年9月参照)。

ポイント(条文構造からの整理):特許法第34条第1項〜第3項は「出願前」の特許を受ける権利の承継を扱う規定です。商標法が準用するのは「出願後」の承継を扱う第4項以下だけで、対象となる権利の名前も「商標登録出願により生じた権利」です。つまり商標法は、出願の前に「商標登録を受ける権利」のような権利があることを前提にした規定を置いていません。特許法第33条第4項が準用されていない点は、同項が仮専用実施権・仮通常実施権に関する規定であることと対応しています。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕)― 第13条第2項:逐条解説〔第22版〕は、第2項が商標登録出願により生じた権利について特許法にいう特許を受ける権利の規定を準用するものであるとしたうえで、その沿革を次のように説明しています。旧法(大正10年法)では、特許を受ける権利は一種の財産権と考えられ自由に移転できたのに対し、商標登録出願により生じた権利はその営業とともにする場合に限り移転することができるとされていたため、権利の性質にかなり大きな相違があると考えられ、特許法の条文を準用できなかった。現行法(昭和34年法)ではその営業とともにする場合に限るという要件を削除したので、法律的性格としては、商標登録出願により生じた権利は特許出願をした後の特許を受ける権利と同じになり、その結果として本項の準用となった、とされています。
※上のポイント(第34条第1項〜第3項・第33条第4項が準用されない意味)は条文の準用範囲から本記事作成者が整理したもので、逐条解説がその点について述べた記載を引用したものではありません。
出典:逐条解説〔第22版〕1607頁(商標法第13条第2項の解説)。
Q. 商標登録出願により生じた権利を譲り受けた人は、契約を結んだだけで新しい出願人になれますか。
A. なれません。商標法第13条第2項で準用する特許法第34条第4項により、出願後の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければその効力を生じません(効力発生要件)。一般承継の場合は、承継の効力は届出を待たずに生じますが、同条第5項により遅滞なく届け出る必要があります。

6. 拒絶理由・異議理由・無効理由との関係

規定拒絶理由(商標法第15条)異議理由(商標法第43条の2)無効理由(商標法第46条)要件を欠いた場合の帰結
商標法第9条非該当非該当非該当出願の時が遡及しないだけで、実際の出願の時を基準に審査される
優先権(商標法第9条の2・第9条の3・第13条第1項)非該当非該当非該当優先権の主張が効力を失う(準用する特許法第43条第4項)等。実際の出願の日を基準に審査される
商標法第13条第2項非該当非該当商標法第46条第1項の各号を原文で確認(承継に関する号の有無)届出のない特定承継は効力を生じない

〔表11〕担当条文と拒絶・異議・無効理由の対応(商標法第15条各号に商標法第9条・第13条が列挙されていないことは、本シリーズで確認済みの第15条の列挙による。異議・無効理由の欄も各条の列挙に同条が挙がっていないことによる整理)。

出願によって生じた権利を承継していない者の出願に対してされた登録は、商標法第46条第1項第4号の無効理由です。出願段階の権利の承継を定める第13条第2項と、登録後の無効理由を区別して押さえます。出典:商標法第13条・第46条。

7. 四法比較

比較項目特許法実用新案法意匠法商標法
公開・展示に関する特例特許法第30条(新規性の喪失の例外。1年以内)実用新案法第11条第1項で特許法第30条を準用意匠法第4条(新規性の喪失の例外。1年以内)商標法第9条(出願時の特例。6月以内。出願の時が遡及)
優先期間(パリ条約第4条C(1))12箇月12箇月6箇月6箇月
優先権主張の書面経済産業省令で定める期間内(特許法第43条第1項)特許法第43条を準用(実用新案法第11条第1項)意匠登録出願と同時(意匠法第15条第1項の読替え)商標登録出願と同時(商標法第13条第1項の読替え)
優先権証明書類等最先の日から1年4月(特許法第43条第2項)同左を準用意匠登録出願の日から3月商標登録出願の日から3月
優先期間経過後の優先権主張(特許法第43条の2)あり準用あり(実用新案法第11条第1項)準用あり(意匠法第15条第1項)準用なし
世界貿易機関の加盟国等の優先権特許法第43条の3準用準用商標法第9条の3(固有の表。商標法条約の締約国を追加)+特許法第43条の3第2項・第3項の準用
出願に関する権利の名称特許を受ける権利実用新案登録を受ける権利意匠登録を受ける権利商標登録出願により生じた権利
出願前の承継の規定(特許法第34条第1項・第2項)あり準用あり準用あり準用なし

〔表12〕四法比較(e-Gov 特許法第30条・第33条・第34条・第43条〜第43条の3、実用新案法第11条、意匠法第4条・第15条、商標法第9条〜第13条、および特許庁ウェブサイト掲載のパリ条約第4条C(1)、2026年9月参照)。

試験での問われ方

短答式では、①商標法第9条の効果(出願の時の遡及)と新規性喪失の例外との違い、②期間の数値(6月、30日、3月)と「出願と同時」、③商標法第13条第1項・第2項で準用される項とされない項、④分割出願と商標法第10条第2項ただし書、といった条文の正確な知識が問われやすい形式です。論文式・口述では、先願(商標法第8条)や商標法第4条第1項第11号との関係で「どの時点を基準に判断するか」を説明させる形が考えられます(出題の有無・頻度を保証するものではありません)。

令和8年度短答式【商標】全10問には、博覧会の出願時特例、優先権の主張、出願により生じた権利の承継を直接問う肢はありません。同年度の問6や問10を、これらの制度の出題例として扱うことはしていません。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。

令和8年度の受験案内は、各試験が実施される日に施行されている特許法等を出題範囲としています。短答式の実施日は2026年5月17日です。出典:令和8年度受験案内・2頁。

レベル3のまとめ
  • 商標法第9条は新規性喪失の例外ではなく、出願の時を出品・出展の時にみなす規定。博覧会は4類型で、②④には「特許庁長官の定める基準に適合」の条件が付く。
  • 商標法第9条の証明書には、第3項(経過後2月)と第4項(責めに帰することができない理由)の二段の救済がある。特許法第30条・意匠法第4条の救済は第4項の一段のみ。
  • 優先権の手続は商標法第13条第1項。特許法第43条第5項・第6項、第43条の2、第43条の3第1項は準用されない。優先期間6箇月はパリ条約第4条C(1)による。
  • 「みなす」と書かれているのは商標法第9条第1項と第10条第2項。優先権は「パリ条約第四条…の例により…主張することができる」。分割出願では商標法第10条第2項ただし書・第3項に注意。
  • 商標法第13条第2項は、出願後の承継に関する規定だけを準用する。特定承継は届出が効力発生要件、質権の目的にはできない。
  • 商標法第9条・第13条は拒絶理由(商標法第15条)に列挙されていない。

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