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小学生でも分かる商標法|商標法第30条〜第34条の2 専用使用権と通常使用権 ― 目じるしを「貸す」ルールと、持ち主が替わったときの守られ方

小学生でもわかる商標法 第31回「専用使用権と通常使用権」。目じるしを貸すルール。

小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #31

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お店の名前などの「目じるし」の権利は、持ち主が自分で使うだけでなく、ほかの人に貸すこともできます。貸し方には「ひとりじめで貸す」と「ふつうに貸す」の2つがあります。この記事では、貸し方のルールと、借りた人が特許庁の帳簿(ちょうぼ)に書いてもらう意味を、やさしい順に説明します。とくに「持ち主が替わったら、借りていた人はどうなるか」は、特許と商標で答えが分かれる大事なところです。

条文:商標法第30条・第31条・第31条の2・第34条・第34条の2審査基準:商標審査基準に対応する章なし(登録後の権利関係の規定)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

目じるしは「貸す」こともできる

商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。「ほしぞらパン」という名前を特許庁(とっきょちょう)に登録すると、パンについてその名前を使えるのは、持ち主のほしぞらパンだけになります。

でも、となり町のこぐま堂が「うちでも『ほしぞらパン』の名前でパンを売りたい」とたのんできたら、どうでしょう。持ち主が「いいよ」と言えば、こぐま堂もその名前を使えます。これが、目じるしを貸すということです(店名はどれも架空の例です)。

貸し方は2つあります。

① ひとりじめで貸す (専用使用権・せんようしようけん) 持ち主 ほしぞらパン 自分も使えない 借りた人 こぐま堂 この人だけが使える 特許庁の帳簿に書いてもらって、 はじめて貸したことになる (約束だけでは、まだ生まれない) まねをする人が出てきたら、 借りた人が自分で「やめて」と言える ※貸す範囲(商品・地域・期間)は決められる ② ふつうに貸す (通常使用権・つうじょうしようけん) 持ち主 ほしぞらパン 自分も使える こぐま堂も使える ミナトベーカリーも 約束だけで貸せる。でも、 帳簿に書いてもらわないと 新しい持ち主には「借りてます」と言えない 何人にでも貸せる 借りた人は「使える」だけ ※貸す範囲(商品・地域・期間)は決められる

図は左右にスクロールできます。

  • 藍の枠:①ひとりじめで貸す(専用使用権)の側
  • 橙の枠:②ふつうに貸す(通常使用権)の側
  • 赤の枠:帳簿に書いてもらわないと、そもそも権利が生まれない
  • 青緑の枠:約束だけで権利が生まれる

【図1】目じるしの2つの貸し方(店名は架空の例)。本記事作成者が条文を整理して模式化したもの。

持ち主が替わったら、借りていた人はどうなる?

ここがいちばん大事なところです。ほしぞらパンが、目じるしの権利を別の会社(ミナトえんぴつ)に売ったとします。「ふつうに貸してもらっていた」こぐま堂は、そのまま名前を使いつづけられるでしょうか。

答えは、帳簿に書いてもらっていたかどうかで決まります。特許庁の帳簿に「こぐま堂が借りています」と書いてあれば、新しい持ち主にも「わたしは借りています」と言えます。書いていなければ、言えません。

じつは、発明(はつめい)の権利である特許(とっきょ)では、ここが逆です。特許では、帳簿に書いていなくても、新しい持ち主に「借りています」と言えます。目じるしの権利だけ、きびしいルールになっているのです。

もとの持ち主 ほしぞらパン 目じるしの権利を売る 新しい持ち主 ミナトえんぴつ 帳簿に書いてあった借り手 新しい持ち主にも 「借りています」と言える そのまま名前を使いつづけられる 帳簿に書いていなかった借り手 新しい持ち主には 「借りています」と言えない 新しい持ち主に、あらためてたのむ必要がある

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:目じるしの権利の持ち主(もとの持ち主・新しい持ち主)
  • 橙の枠と○:帳簿に書いてあった借り手=新しい持ち主にも言える
  • 赤の枠と×:帳簿に書いていなかった借り手=新しい持ち主には言えない

【図2】「ふつうに貸す」場合に、持ち主が替わったときのちがい(店名は架空の例)。本記事作成者が条文を整理して模式化したもの。

なぜ目じるしだけ、きびしいの?

目じるしは、「この名前のパンなら、あの店の、あの味」とお客さんが信じるためのものです。新しい持ち主が知らないうちに、知らない人がその名前でパンを売っていたら、お客さんが信じている「あの味」が守れなくなるかもしれません。だから、だれが借りているかを帳簿で見えるようにしておく、という考え方です(特許庁の改正法の解説書にある説明を、やさしく言いかえたものです。→レベル3)。

やさしい言い方法律のことば条文
ひとりじめで貸す専用使用権(せんようしようけん)の設定商標法第30条
ふつうに貸す通常使用権(つうじょうしようけん)の許諾(きょだく)商標法第31条
グループのなかまが使える団体構成員(だんたいこうせいいん)等の権利商標法第31条の2
お金を借りるときの「かた」に入れる質権(しちけん)商標法第34条
権利を手放す商標権の放棄(ほうき)商標法第34条の2
特許庁の帳簿に書いてもらう登録(とうろく)各条

〔表1〕レベル1の言い方と法律のことばの対応。

① 貸し方は「ひとりじめ」と「ふつう」の2つ② ひとりじめは帳簿に書いてはじめて生まれる③ ふつうの貸し借りは、帳簿に書くと新しい持ち主にも言える④ 手放すときは借りている人の「いいよ」がいる
レベル1のまとめ
  • 目じるしの権利は、ほかの人に貸すことができます。「ひとりじめで貸す」と「ふつうに貸す」の2つがあります。
  • 「ひとりじめで貸す」と、持ち主も、その範囲では使えなくなります。特許庁の帳簿に書いてもらって、はじめて生まれます。
  • 「ふつうに貸す」は約束だけでできますが、帳簿に書いてもらわないと、あとから持ち主になった人に「借りています」と言えません。特許とは逆です。
  • グループ(団体)の目じるしは、グループのなかまが、グループの決まりにしたがって使えます。
  • 権利をお金を借りる「かた」に入れても、お金を貸した人は、ふつうはその目じるしを使えません。
  • 持ち主が権利を手放すには、借りている人や、「かた」に取っている人の「いいよ」が必要です。

※「ひとりじめで貸す」ことができない目じるし(市や県などの特別な目じるし、地域の名物の目じるし)があります。また、借りた権利をさらに人にゆずるときの条件など、正確には条件があります(→レベル3)。図1・図2は単純化したものです。

LEVEL 2条文の骨格

第30条 専用使用権 ― 「ひとりじめで貸す」

商標法第30条(原文) 商標権者は、その商標権について専用使用権を設定することができる。ただし、第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権及び地域団体商標に係る商標権については、この限りでない。
2 専用使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
3 専用使用権は、商標権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4 特許法第七十七条第四項及び第五項(質権の設定等)、第九十七条第二項(放棄)並びに第九十八条第一項第二号及び第二項(登録の効果)の規定は、専用使用権に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
部品文言意味
だれが商標権者は目じるしの権利の持ち主が
何を専用使用権を設定することができる「ひとりじめで使える権利」を、ほかの人のために作ることができる
できない場合第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権/地域団体商標に係る商標権国・地方公共団体などが自分の著名な標章を出願して得た商標権と、地域団体商標の商標権には、作れない
どうなる設定行為で定めた範囲内において…使用をする権利を専有する決めた範囲(商品・地域・期間など)の中では、その人だけが使える
ゆずるとき商標権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り持ち主の「いいよ」があるときか、相続・会社の合併などのときだけ
借りてくるルール特許法の規定を準用質権・また貸し・共有・放棄・登録の効果は、特許法のルールを借りる(→表8)

〔表2〕商標法第30条を部品に分けた表。「意味」の欄は本記事作成者による言いかえ。

「準用(じゅんよう)」とは、ほかの法律のルールを、言葉を読みかえて借りてくることです。第4項が借りてくる特許法第98条第1項第2号は、専用実施権の設定などは登録しなければ、その効力を生じないとするルールです。つまり、専用使用権は、契約書にサインしただけでは生まれず、特許庁の商標登録原簿に登録されて、はじめて生まれます。

第31条 通常使用権 ― 「ふつうに貸す」

商標法第31条(原文) 商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。
2 通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有する。
3 通常使用権は、商標権者(専用使用権についての通常使用権にあつては、商標権者及び専用使用権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4 通常使用権は、その登録をしたときは、その商標権若しくは専用使用権又はその商標権についての専用使用権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。
5 通常使用権の移転、変更、消滅又は処分の制限は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
6 特許法第七十三条第一項(共有)、第九十四条第二項(質権の設定)及び第九十七条第三項(放棄)の規定は、通常使用権に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
項役割中学生向けの説明
第1項許諾できる持ち主は、他人に「使っていいよ」と言える。第30条第1項のような「できない場合」のただし書は、現行の第31条第1項にはない
第2項権利の中身決めた範囲内で使用をする権利を「有する」。第30条第2項の「専有する」とちがい、ひとりじめではない
第3項移転の条件持ち主(専用使用権者から借りているときは、持ち主と専用使用権者の両方)の承諾があるとき、または一般承継のときだけ
第4項登録の効力登録をしておけば、あとから商標権や専用使用権を手に入れた人にも、通常使用権の効力がおよぶ
第5項第三者対抗要件通常使用権の移転・変更・消滅・処分の制限は、登録しないと第三者に主張できない
第6項特許法の準用共有のときの持分の譲渡、質権の設定、放棄のルールを借りる(→表8)

〔表3〕商標法第31条の項ごとの役割。

ポイント:第30条第2項は「専有する」、第31条第2項は「有する」。この一語のちがいが、「ひとりじめ」か「ふつう」かのちがいです。そして第31条第4項のその登録をしたときはが、特許法第99条とのちがい(→レベル3)の出発点です。

第31条の2 団体構成員等の権利 ― グループのなかまが使える

商標法第31条の2(原文) 団体商標に係る商標権を有する第七条第一項に規定する法人の構成員(以下「団体構成員」という。)又は地域団体商標に係る商標権を有する組合等の構成員(以下「地域団体構成員」という。)は、当該法人又は当該組合等の定めるところにより、指定商品又は指定役務について団体商標又は地域団体商標に係る登録商標の使用をする権利を有する。ただし、その商標権(団体商標に係る商標権に限る。)について専用使用権が設定されたときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
2 前項本文の権利は、移転することができない。
3 団体構成員又は地域団体構成員は、第二十四条の四、第二十九条、第五十条、第五十二条の二、第五十三条及び第七十三条の規定の適用については、通常使用権者とみなす。
4 団体商標又は地域団体商標に係る登録商標についての第三十三条第一項第三号の規定の適用については、同号中「又はその商標権若しくは専用使用権についての第三十一条第四項の効力を有する通常使用権を有する者」とあるのは、「若しくはその商標権若しくは専用使用権についての第三十一条第四項の効力を有する通常使用権を有する者又はその商標の使用をする権利を有する団体構成員若しくは地域団体構成員」とする。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
項役割中学生向けの説明
第1項本文構成員の使用をする権利団体・組合等のメンバーは、団体・組合等の決まりにしたがって、登録商標を使える。許諾の契約や登録がなくても、条文から直接生まれる権利
第1項ただし書専用使用権が設定されたとき団体商標の商標権に専用使用権が設定されると、その範囲ではメンバーも使えない。括弧書で「団体商標に係る商標権に限る。」とされているのは、地域団体商標には専用使用権を設定できない(第30条第1項ただし書)ことと対応している
第2項移転の禁止メンバーの権利は、ほかの人にゆずれない
第3項通常使用権者とみなす第24条の4、第29条、第50条、第52条の2、第53条、第73条の場面では、メンバーを通常使用権者と同じにあつかう
第4項第33条第1項第3号の読替え無効審判の請求登録前の使用による使用権(いわゆる中用権。講学上の呼称)の場面で、メンバーも対象にふくめる

〔表4〕商標法第31条の2の項ごとの役割。

第34条 質権、第34条の2 商標権の放棄

商標法第34条(原文) 商標権、専用使用権又は通常使用権を目的として質権を設定したときは、質権者は、契約で別段の定めをした場合を除き、当該指定商品又は指定役務について当該登録商標の使用をすることができない。
2 通常使用権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の制限は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
3 特許法第九十六条(物上代位)の規定は、商標権、専用使用権又は通常使用権を目的とする質権に準用する。
4 特許法第九十八条第一項第三号及び第二項(登録の効果)の規定は、商標権又は専用使用権を目的とする質権に準用する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第34条の2(原文) 商標権者は、専用使用権者、質権者又は通常使用権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その商標権を放棄することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
条・項役割中学生向けの説明
第34条第1項質権者は使用できない(原則)質権は、お金を返してもらえないときのための担保。質権者は、契約で特別に決めた場合をのぞき、その登録商標を使用できない
第34条第2項通常使用権を目的とする質権=登録が第三者対抗要件設定・移転・変更・消滅・処分の制限は、登録しないと第三者に主張できない
第34条第3項物上代位(特許法第96条の準用)権利の対価や、商標権者・専用使用権者が受け取るはずの金銭などにも質権を行使できる。ただし、払渡し・引渡しの前に差押えが必要
第34条第4項商標権・専用使用権を目的とする質権=登録が効力発生要件(特許法第98条第1項第3号・第2項の準用)設定などは登録しなければ効力を生じない。一般承継の場合は遅滞なく特許庁長官に届け出る
第34条の2放棄には承諾が必要専用使用権者・質権者・通常使用権者がいるときは、その全員の承諾がないと商標権を放棄できない

〔表5〕商標法第34条・第34条の2の役割。物上代位の説明は特許法第96条(e-Gov)の内容を要約したもの。

登場人物の関係

商標権者 第25条:使用をする権利を専有 設定(第30条第1項) 登録=効力発生要件 専用使用権者 範囲内で使用をする権利を専有 差止請求ができる(第36条) 許諾(第31条) 登録=後の取得者への効力 通常使用権者 範囲内で使用をする権利を有する 何人にでも許諾できる 質権の設定(第34条) 登録=効力発生要件 質権者 原則、登録商標の使用は不可 物上代位(特許法第96条準用) 商標権者の承諾を得て許諾 (特許法第77条第4項準用) 専用使用権についての通常使用権者 移転には商標権者と専用使用権者の承諾 団体構成員・地域団体構成員 第31条の2:法人・組合等の定めにより使用 商標権の放棄(第34条の2)=専用使用権者・質権者・通常使用権者がいれば、その承諾が必要

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑のベタ塗り:商標権者(権利の持ち主)
  • 藍の枠:専用使用権者(範囲内で専有する者)
  • 橙の枠:通常使用権者(範囲内で有する者)
  • 赤の枠:質権者(原則、登録商標の使用はできない)
  • 青緑の枠:団体構成員・地域団体構成員(第31条の2)
  • 白い枠:放棄(第34条の2)のときの承諾のまとめ

【図3】商標権者と使用権者・質権者・団体構成員の相関図。本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。団体構成員等は、商標権者が団体商標・地域団体商標の権利者である場合に限られます。

レベル2のまとめ
  • 専用使用権(第30条)は「専有する」権利。登録が効力発生要件(特許法第98条第1項第2号の準用)。第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権と地域団体商標に係る商標権には設定できません。
  • 通常使用権(第31条)は「有する」権利。登録をすれば、後に商標権・専用使用権を取得した者にも効力を生じます(第4項)。
  • 団体構成員・地域団体構成員(第31条の2)は、法人・組合等の定めにより使用をする権利を有し、移転はできません。
  • 質権者(第34条)は、契約で別段の定めをした場合を除き、登録商標の使用をすることができません。
  • 商標権の放棄(第34条の2)には、専用使用権者・質権者・通常使用権者の承諾が必要です。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 登録の要否 ― 効力発生要件か、対抗要件か

使用権・質権まわりの「登録」は、①登録しなければ効力を生じないもの(効力発生要件)、②登録しなければ第三者に対抗できないもの(第三者対抗要件)、③登録がそもそも問題にならないもの、の3つに分かれます。条文ごとに整理します。

対象事項登録の位置づけ根拠条文
専用使用権設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は商標権の消滅によるものを除く。)、処分の制限効力発生要件商標法第30条第4項で準用する特許法第98条第1項第2号
専用使用権相続その他の一般承継登録は効力発生要件でない。遅滞なく特許庁長官に届出商標法第30条第4項で準用する特許法第98条第2項
通常使用権許諾(発生)登録を効力発生要件とする規定はない。ただし、登録をしたときに限り、後に商標権・専用使用権を取得した者に効力を生ずる商標法第31条第1項・第4項
通常使用権移転、変更、消滅、処分の制限第三者対抗要件商標法第31条第5項
商標権・専用使用権を目的とする質権設定、移転(一般承継を除く。)、変更、消滅(混同又は担保する債権の消滅によるものを除く。)、処分の制限効力発生要件商標法第34条第4項で準用する特許法第98条第1項第3号
通常使用権を目的とする質権設定、移転、変更、消滅、処分の制限第三者対抗要件商標法第34条第2項
団体構成員・地域団体構成員の権利発生登録の規定なし(法人・組合等の定めるところにより条文上当然に有する)。移転は不可商標法第31条の2第1項・第2項
(参考)商標権移転(一般承継を除く。)、放棄による消滅等効力発生要件商標法第35条で準用する特許法第98条第1項第1号(詳細は#28)

〔表6〕登録の要否の比較(効力発生要件/第三者対抗要件)。括弧書は特許法第98条第1項各号の文言を商標法の用語に置きかえて示したもの(現行第35条の準用・読替えと照合)。

当事者の間で権利が生まれるには 後の商標権取得者に主張するには 専用使用権 (第30条) 登録が必要 登録しなければ効力を生じない (特許法第98条第1項第2号準用) 設定の登録がすでにある 登録がなければ、そもそも 専用使用権が存在しない 通常使用権 (第31条) 登録は不要 許諾(第31条第1項)で足りる 登録を効力発生要件とする規定なし 登録が必要 「その登録をしたときは」効力を生ずる (第31条第4項)

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の帯:列の見出し(どの場面を問題にしているか)
  • 藍のマス:専用使用権(第30条)の行
  • 橙のマス:通常使用権(第31条)の行
  • 赤の文字「登録が必要」:登録がなければ、その場面での効力がない
  • 橙の文字「登録は不要」:登録がなくても効力が生じる

【図4】専用使用権と通常使用権の「登録」の意味の4マス図。本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

2. 最重要:特許法第99条の当然対抗制度は、商標法に導入されていない

特許法第99条(通常実施権の対抗力)(原文) 通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。

特許法第99条には「登録」の文言がありません。通常実施権は、その発生後に特許権等を取得した者に、登録なしで効力を有します(講学上・実務上「当然対抗制度」と呼ばれます)。これに対し、商標法第31条第4項はその登録をしたときはという条件を置いています。2つの条文を並べます。

比較項目特許法第99条商標法第31条第4項
条文の条件その発生後にその登録をしたときは…その後に
登録の要否不要必要
効力がおよぶ相手その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者その商標権若しくは専用使用権又はその商標権についての専用使用権をその後に取得した者
述語その効力を有するその効力を生ずる
移転・変更・消滅・処分の制限特許法第99条に規定なし(1項のみの条)登録が第三者対抗要件(商標法第31条第5項)
実用新案法・意匠法実用新案法第19条第3項、意匠法第28条第3項は、特許法第99条を準用(=当然対抗)。商標法第31条第6項の準用列挙に特許法第99条はない

〔表7〕特許法第99条と商標法第31条第4項の比較。いずれもe-Govの現行条文による。

3. なぜ商標法には導入されなかったのか ― 平成23年法律改正解説書の説明

特許法第99条が現在の形になったのは、平成23年法律第63号による改正です。特許庁「平成23年法律改正(平成23年法律第63号)解説書」第1章「通常実施権等の対抗制度の見直し」は、商標法について次のように説明しています(同章「⑵ 商標法」の項)。

観点解説書の説明(引用)
登録が困難という事情の有無商標においては、特許と異なり、実務上、一つの製品について多数の商標ライセンス契約が締結されているといった複雑な状況は考えられず通常使用権が登録できない決定的な事情は見当たらない。
譲受人への影響商標法においては、第三者(譲受人)が、意に反して通常使用権の付いた商標権を取得してしまった場合、当該商標が出所識別機能や品質保証機能等を発揮できなくなるおそれがあること等、通常使用権の商標権に対する制約は、特許権の場合と比較してはるかに大きいと考えられる。
結論そのため、今回の改正において、商標法へは通常使用権についての当然対抗制度を導入しないこととし、今後の検討課題とした。
実用新案法・意匠法実用新案法及び意匠法にも、仮通常実施権制度を整備し、通常実施権と同様、当然対抗制度を導入することとした。
施行期日改正法の公布の日から 1 年を超えない範囲で政令で定める日(平成23年政令第369号により平成24年 4 月 1 日)から施行する

〔表8〕平成23年法律改正解説書 第1章における商標法の扱い。引用は特許庁公表PDF(01syou.pdf)による。これは立法担当者の説明であり、条文解釈の確定根拠ではありません。

表8の引用は平成23年改正解説の原本28〜29・32頁と照合しました。実用新案法・意匠法については、仮通常実施権制度の整備も含む原文に合わせています。

同解説書は続けて、改正前の商標法が通常使用権について特許法の条文を準用していたため、特許法に当然対抗制度が入ることにともない、商標法において通常使用権の登録対抗制度を維持すべく必要な改正を行った、と説明しています。現行の商標法第31条第4項・第5項、第34条第2項が、特許法の準用ではなく商標法自身の条文として書かれているのは、この経緯によるものと同解説書は説明しています。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)も、商標法第31条の〔参考〕で「商標法において通常使用権の登録対抗制度を維持した理由」を説明しています。挙げられている理由は2つです。①商標においては、特許と異なり、実務上、一つの商品について多数の商標ライセンス契約が締結されているといった複雑な状況は考えられず、通常使用権が登録できない決定的な事情は見当たらないこと。②商標法においては、第三者(譲受人)が意に反して通常使用権の付いた商標権を取得してしまった場合、当該商標が出所識別機能や品質保証機能等を発揮できなくなるおそれがあるなど、通常使用権の商標権に対する制約が、特許権の場合と比較してはるかに大きいと考えられること。これらから、平成23年の一部改正においては当然対抗制度を導入しないこととした、と説明しています(要約)。
同書はさらに、第31条第4項・第5項について、平成23年の一部改正で特許法に通常実施権の当然対抗制度が導入されたことに伴い、従来準用していた特許法第99条第1項・第3項が改正されて商標法で準用することができなくなったため、当該規定に相当する規定を新設したものである、と説明しています。第4項は、民法第605条(不動産の賃貸借の登記)と同じような趣旨であり、通常使用権の登録をしておけば、その後に商標権若しくは専用使用権の移転又は新たな専用使用権の設定等がされても、通常使用権者の地位は覆し得ない旨を定めたもの、第5項は移転等について登録をもって第三者対抗要件とする旨を定めたものであり、通常使用権について登録を効力発生要件とせず第三者対抗要件としたのは、通常使用権が債権であることに基づく、と説明しています(要約)。同旨の説明は、第34条第2項(通常使用権を目的とする質権)についても置かれています。
出典:逐条解説〔第22版〕1662頁〜1665頁(第31条)、1679頁(第34条第2項)。
平成23年改正解説第1章29頁は、商標について当然対抗制度を導入しないとした理由を説明しています。32頁の施行期日と併せて、特許・実用新案・意匠の通常実施権と商標の通常使用権で、2012年4月1日以後の制度が分かれることを確認できます。商標の通常使用権は、成立自体に登録が必要なのではなく、後から権利を取得した第三者への対抗に登録が必要です。平成23年改正解説・第1章/第31条第4・5項

4. 分岐図:商標権が譲渡されたら、ライセンシーはどうなるか

flowchart TB
  S["権利者Aが通常実施権・通常使用権を許諾
その後、Aが権利を第三者Bに譲渡"] --> Q0{"どの法律の権利か"} Q0 -- "特許権・実用新案権・意匠権" --> P1["登録の有無を問わない
特許法第99条
実用新案法第19条第3項・意匠法第28条第3項で準用"] P1 --> P2["通常実施権はBに対しても効力を有する"] Q0 -- "商標権" --> Q1{"通常使用権の登録を
Bの取得より前にしていたか"} Q1 -- "登録していた" --> T1["商標法第31条第4項
通常使用権はBに対しても効力を生ずる"] Q1 -- "登録していなかった" --> T2["第31条第4項の効力は生じない
Bに対して通常使用権を主張する条文上の根拠がない"] T2 --> T3["使用を続けるには
Bからあらためて許諾を受ける必要がある"] style P2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style T1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style T2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style T3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:新しい権利者Bに対しても通常実施権・通常使用権の効力がある結論
  • 赤の箱:Bに対して通常使用権を主張できない結論

【図5】権利が譲渡された場合の通常実施権者・通常使用権者の地位の分岐図。条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの。未登録の通常使用権者と旧権利者Aとの間の契約上の責任(民法の問題)には立ち入っていません。

Q. 専用使用権者は、商標権が譲渡されたらどうなりますか。
A. 専用使用権は設定の登録が効力発生要件です(商標法第30条第4項で準用する特許法第98条第1項第2号)。したがって、有効に存在する専用使用権は、必ず商標登録原簿に登録されています。譲受人は、専用使用権の登録がある商標権を取得することになります。なお、専用使用権について「後の商標権取得者に対しても効力を生ずる」と直接に定めた条文は、第31条第4項のような形では置かれていません。この点は条文の文言ではなく、登録によって公示された権利であることからの説明です。
Q. 「通常使用権の登録をしたとき」の登録は、だれが申請するのですか。
A. 商標法第31条は申請の手続を定めていません。登録の手続は商標登録令等の下位法令と特許庁の手続案内の領域です。本記事では立ち入りません。
通常使用権の設定登録は、商標権者等を登録義務者、通常使用権者を登録権利者として申請します。特許庁の案内では、申請書に許諾証書等を添付し、登録免許税は1件30,000円です。これは特許印紙ではなく収入印紙で納める税です。登録する期間は商標権の存続期間内で記載し、更新後に延長する場合は変更登録を行います。特許庁の手続案内/申請書記載例

5. 専用使用権を設定できない商標権(第30条第1項ただし書)

flowchart TB
  A["商標権について
専用使用権を設定したい"] --> B{"第4条第2項に規定する
商標登録出願に係る商標権か"} B -- "はい" --> NG1["設定できない
第30条第1項ただし書"] B -- "いいえ" --> C{"地域団体商標に係る
商標権か"} C -- "はい" --> NG2["設定できない
第30条第1項ただし書"] C -- "いいえ" --> D{"商標権が共有か"} D -- "はい" --> E["他の共有者の同意が必要
第35条で準用する特許法第73条第3項"] D -- "いいえ" --> F["設定契約+設定の登録"] E --> F F --> OK["登録により専用使用権が発生
特許法第98条第1項第2号の準用"] style NG1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style NG2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:専用使用権が発生する結論
  • 赤の箱:専用使用権を設定できない結論(第30条第1項ただし書)

【図6】専用使用権を設定できるかの判断手順。条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの。団体商標に係る商標権は、ただし書の対象ではありません(第31条の2第1項ただし書が、団体商標に専用使用権が設定される場合を予定しています)。

第4条第2項に規定する商標登録出願とは、国・地方公共団体・これらの機関、営利を目的としない公益に関する団体、営利を目的としない公益に関する事業を行っている者が、第4条第1項第6号の商標について行う出願です(第4条第2項の要旨。詳細は#4)。

商標権の種類専用使用権の設定(第30条)通常使用権の許諾(第31条)譲渡・移転(第24条の2。詳細は#28)
通常の商標権可可可
第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権不可(第30条第1項ただし書)可(現行の第31条第1項に制限のただし書なし)第24条の2第2項・第3項の制限あり
団体商標に係る商標権可(第31条の2第1項ただし書が前提としている)可第24条の3(詳細は#28)
地域団体商標に係る商標権不可(第30条第1項ただし書)可(第31条第1項に制限なし)譲渡不可(第24条の2。詳細は#28)

〔表9〕商標権の種類と、専用使用権・通常使用権の可否。現行条文(2026年9月参照)による。

改正前/現行:特許庁「令和元年法律改正(令和元年法律第3号)解説書」には、第3部 商標法 第1章「通常使用権の許諾制限の撤廃」という章があります。現行の第31条第1項には、第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権についての制限のただし書はありません。一方、第30条第1項ただし書(専用使用権の設定の制限)は現行法に残っています。「専用使用権は不可、通常使用権は可」という非対称を、現行条文で確認しておきましょう。
改正の理由(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第31条第1項について、令和元年の一部改正において、特に大学において、産学連携から生じた研究成果の周知、大学のブランド・知名度の向上等を目的に、自身を表示する著名な標章に係る商標権の通常使用権を事業者に許諾し、ブランド展開を積極的に行いたいとのニーズが高まっていることに鑑み、同項のただし書を削除して、第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権に関する通常使用権の許諾制限を撤廃した、と説明しています(要約)。
出典:逐条解説〔第22版〕1662頁。
改正前の第31条第1項ただし書は、第4条第2項に規定する出願に係る商標権を通常使用権の許諾から除外していました。2019年5月27日にこのただし書が削除され、公益著名商標も通常使用権を許諾できるようになっています。施行前に登録された商標権も対象です。専用使用権の制限は第30条第1項ただし書に残ります。特許庁の改正案内/第30・31条

6. 特許法第77条・第78条・第94条との比較 ― 「事業とともにする移転」がない

比較項目特許法商標法
専用の権利の設定特許法第77条第1項(制限のただし書なし)商標法第30条第1項(ただし書で2類型を除外)
権利の内容業としてその特許発明の実施をする権利を専有する(特許法第77条第2項)指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する(商標法第30条第2項)
専用の権利の移転①実施の事業とともにする場合 ②特許権者の承諾を得た場合 ③相続その他の一般承継の場合(特許法第77条第3項)①商標権者の承諾を得た場合 ②相続その他の一般承継の場合(商標法第30条第3項)。「事業とともにする場合」がない
通常の権利の移転(裁定によるものを除き)①実施の事業とともにする場合 ②特許権者等の承諾 ③一般承継(特許法第94条第1項)①商標権者(及び専用使用権者)の承諾 ②一般承継(商標法第31条第3項)。「事業とともにする場合」がない
通常の権利の根拠この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において(特許法第78条第2項)設定行為で定めた範囲内において(商標法第31条第2項)。「この法律の規定により」の文言がない
後の権利取得者への効力登録不要(特許法第99条)登録が必要(商標法第31条第4項)
質権者の実施・使用契約で別段の定をした場合を除き不可(特許法第95条)契約で別段の定めをした場合を除き不可(商標法第34条第1項)
権利の放棄に承諾が必要な者専用実施権者又は質権者(特許法第97条第1項)専用使用権者、質権者又は通常使用権者(商標法第34条の2)

〔表10〕特許法と商標法の比較。いずれもe-Govの現行条文(2026年9月参照)による。特許法の各条の詳細は特許法シリーズの記事を参照。

ポイント:商標法第31条第2項に「この法律の規定により」がないことは、商標法に、特許法の裁定による通常実施権や職務発明による通常実施権のような「法律の規定により発生する通常使用権」の規定が置かれていないことと対応します。なお、商標法第32条・第32条の2・第33条等は「商標の使用をする権利」と規定しており、「通常使用権」という語を用いていません(詳細は各記事)。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第30条の〔参考〕〈移転〉で、第30条第3項の移転について、特許法(第77条第3項)の「実施の事業とともにする場合」を入れなかったのは、特許発明の実施の場合と異なり、商標法では既存設備の荒廃の防止ということが考えられないからである、と説明しています(要約)。第31条第3項(通常使用権の移転)については、同書は特許法第78条及び第94条第1項の〔趣旨〕を参照するようにとしているだけで、「事業とともにする場合」を入れなかった理由を商標法第31条の項で独立に述べてはいません。
出典:逐条解説〔第22版〕1661頁(第30条〔参考〕)、1662頁(第31条〔趣旨〕)。

7. 準用条文の整理

商標法の条項準用される特許法の規定商標法に置きかえた内容(要旨)
第30条第4項(専用使用権)特許法第77条第4項専用使用権者は、商標権者の承諾を得た場合に限り、専用使用権について質権を設定し、又は他人に通常使用権を許諾できる
特許法第77条第5項(特許法第73条の準用)専用使用権が共有に係るときの、持分の譲渡・質権設定、使用、使用権の設定・許諾のルール
特許法第97条第2項専用使用権者は、質権者又は専用使用権についての通常使用権者があるときは、その承諾を得た場合に限り、専用使用権を放棄できる
特許法第98条第1項第2号・第2項設定等は登録が効力発生要件。一般承継は遅滞なく届出
第31条第6項(通常使用権)特許法第73条第1項通常使用権が共有に係るとき、他の共有者の同意なく持分の譲渡・質権設定は不可
特許法第94条第2項通常使用権者は、商標権者(専用使用権についての通常使用権にあっては商標権者及び専用使用権者)の承諾を得た場合に限り、質権を設定できる
特許法第97条第3項通常使用権者は、質権者があるときは、その承諾を得た場合に限り、通常使用権を放棄できる
第34条第3項(質権)特許法第96条物上代位。払渡し又は引渡し前の差押えが必要
第34条第4項(質権)特許法第98条第1項第3号・第2項商標権・専用使用権を目的とする質権の設定等は登録が効力発生要件

〔表11〕準用条文の一覧。右欄は本記事作成者が特許法の条文(e-Gov)を商標法の用語に置きかえた要旨であり、原文そのものではありません。特許法第94条第2項の「裁定による通常実施権を除き」の部分は、商標法に裁定の制度がないため省略して示しています。

8. 放棄と承諾(第34条の2)― 3つの放棄を区別する

flowchart TB
  A["何を放棄するのか"] --> B{"放棄する権利"}
  B -- "商標権" --> C["承諾が必要な者
専用使用権者・質権者・通常使用権者
商標法第34条の2"] B -- "専用使用権" --> D["承諾が必要な者
質権者・専用使用権についての通常使用権者
特許法第97条第2項の準用"] B -- "通常使用権" --> E["承諾が必要な者
質権者
特許法第97条第3項の準用"] C --> F{"国際登録に基づく
商標権か"} F -- "はい" --> G["第34条の2は適用しない
商標法第68条の25第2項"] F -- "いいえ" --> H["承諾を得て放棄
放棄による消滅は登録が効力発生要件
第35条で準用する特許法第98条第1項第1号"] style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style H fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:第34条の2により承諾を得て放棄する結論
  • 赤の箱:第34条の2が適用されない場合(第68条の25第2項)

【図7】放棄の対象と承諾が必要な者。条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの。

特許法第97条第1項は、特許権の放棄について専用実施権者又は質権者があるときはと規定しており、通常実施権者を挙げていません。商標法第34条の2は専用使用権者、質権者又は通常使用権者があるときはと規定し、通常使用権者の承諾も必要としています。商標法第35条が準用する特許法の規定に第97条第1項は含まれておらず、商標権の放棄は商標法第34条の2という独自の条文で規律されています。

立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):逐条解説〔第22版〕は、第34条の2について、令和3年の一部改正前は第35条において特許法第97条第1項を準用していたが、同改正により特許権等の放棄において通常実施権者の承諾が不要となったことを受けて新設することとした、と説明しています(同書は本条を「本条追加、令三法律四二」としています)。そのうえで、特許権等とは異なり、通常使用権者の承諾を得ることなく商標権が放棄され、誰もがその商標を使用できる状態になった場合の不都合として、3つを挙げています。①これまで商標を使用してきた通常使用権者の信用が毀損されるおそれがあること。②商品・役務の出所について混同が生ずることにより需要者の利益も害されるおそれがあること。③その後、同一又は類似の商標について他者が権利を取得し、通常使用権者であった者が差止め等の請求を受けるといった不利益を被る可能性もあること。よって令和3年の一部改正後も、商標権の放棄においては、引き続き、専用使用権者又は質権者に加え、通常使用権者の承諾を要することとした、と説明しています(要約)。第35条についても、同改正で商標権の放棄を第34条の2に規定したことに伴う形式的な修正を行った、としています。
出典:逐条解説〔第22版〕1680頁〜1681頁(第34条の2)、1681頁(第35条)。
令和3年改正の承諾見直しは2022年4月1日に施行されました。特許権の放棄等で通常実施権者の承諾が不要になったことと、商標法第34条の2の扱いは異なります。商標権の放棄では、現在も通常使用権者の承諾が必要です。特許庁の施行案内/第34条の2

9. 使用権者の使用と、審判との関係

第30条・第31条・第31条の2・第34条・第34条の2は、登録後の権利関係を定める規定です。拒絶理由・異議理由・無効理由とは直接の関係がありません。一方、取消審判とは深く関係します。

場面条文使用権者との関係
拒絶理由商標法第15条非該当(列挙に第30条〜第34条の2はない)
異議理由・無効理由・除斥期間商標法第43条の2・第46条第1項・第47条非該当
不使用による取消審判(講学上「不使用取消審判」)商標法第50条第1項商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用をしていないことが要件。使用権者の使用があれば取消しを免れうる。団体構成員・地域団体構成員は通常使用権者とみなされる(第31条の2第3項)。詳細は#42
使用権者の不正使用による取消審判商標法第53条第1項専用使用権者又は通常使用権者が、品質の誤認又は他人の業務に係る商品・役務との混同を生ずる使用をしたとき、何人も取消審判を請求できる。ただし、当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において、相当の注意をしていたときは、この限りでない。詳細は#45
差止請求商標法第36条請求できるのは商標権者又は専用使用権者。通常使用権者は条文上挙げられていない
混同防止表示請求商標法第24条の4団体構成員等は通常使用権者とみなされる(第31条の2第3項)。詳細は#29

〔表12〕担当条文と審査・審判・侵害の各場面との関係。

ポイント:ライセンスを出した商標権者は、使用権者の使い方に無関心ではいられません。第53条は、使用権者の不正な使用によって商標登録そのものが取り消されうる仕組みです。商標権者の側に「相当の注意」が求められる点を、#45で確認してください。

10. 独占的通常使用権は、条文にない契約上の類型

実務では、「ほかの者には許諾しない」という特約を付けた通常使用権を「独占的通常使用権」と呼ぶことがあります(実務上の呼称)。商標法には「独占的通常使用権」という語はなく、条文上は第31条の通常使用権の一つです。

比較項目専用使用権(第30条)通常使用権(第31条)いわゆる独占的通常使用権
条文上の根拠ありあり独自の条文なし(第31条の通常使用権+契約上の特約)
権利の内容使用をする権利を専有使用をする権利を有する条文上は「有する」。独占性は契約当事者間の約束
発生に登録が必要か必要不要不要
商標権者自身の使用専有する範囲では不可(第25条ただし書)可契約の定めによる
差止請求権(第36条)条文上あり条文上の規定なし条文上の規定なし

〔表13〕専用使用権・通常使用権・いわゆる独占的通常使用権の比較。「条文上」の帰結のみを示したもの。

東京地裁・平成14年(ワ)第10522号(花粉のど飴事件)は、唯一の許諾先として実際に登録商標を付した商品を販売している等の条件の下で、独占的通常使用権者にも固有の損害賠償請求を認め得るとしました。ただし当該事件では他社にも許諾されており、独占的通常使用権者であった期間の請求は否定されています。後に設定された専用使用権に基づく差止・賠償とは区別が必要です。第36条の差止請求主体は商標権者・専用使用権者であり、独占契約だけで専用使用権者になるわけではありません。判決13〜16頁。

試験での問われ方

  • 短答式:登録の位置づけ(効力発生要件か第三者対抗要件か)を、専用使用権・通常使用権・質権のそれぞれについて正確に区別できるかが問われやすい形式です(例外あり:相続その他の一般承継)。
  • 短答式:特許法との相違(当然対抗の有無、「事業とともにする場合」の有無、放棄の承諾権者)は、四法横断で条文を対比しておくと対応しやすい論点です。
  • 論文式・口述:第31条の2第3項の「通常使用権者とみなす」場面(第50条・第53条等)を条文から引けるようにしておくと、団体商標・地域団体商標の問題で使えます。
令和8年度【商標】問7の公式正解は5です。肢4は、専用使用権の設定には登録が効力発生要件であるのに対し、通常使用権の設定登録は第三者対抗要件である点を問う誤りの記述です。問10の肢4も誤りで、第68条の25により国際登録に基づく商標権には第34条の2を適用しません。問10の公式正解は2です。 公式問題・公式解答。
レベル3のまとめ
  • 専用使用権の設定・移転(一般承継を除く)等、商標権・専用使用権を目的とする質権の設定等は、登録が効力発生要件です(特許法第98条第1項第2号・第3号の準用)。
  • 通常使用権は許諾で発生しますが、後に商標権・専用使用権を取得した者に効力を生ずるのは「その登録をしたとき」だけです(商標法第31条第4項)。移転・変更・消滅・処分の制限は登録が第三者対抗要件です(同条第5項)。
  • 特許法第99条(実用新案法第19条第3項・意匠法第28条第3項で準用)の当然対抗制度は、商標法には導入されていません。平成23年法律改正解説書は、登録できない決定的な事情が見当たらないこと、譲受人への制約が特許権の場合よりはるかに大きいことを理由として説明しています。
  • 専用使用権は、第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権と地域団体商標に係る商標権には設定できません。現行の第31条第1項には同様のただし書はありません。
  • 商標法の使用権の移転には、特許法にある「実施の事業とともにする場合」に当たる類型がありません。
  • 商標権の放棄には、専用使用権者・質権者に加え、通常使用権者の承諾も必要です(商標法第34条の2)。国際登録に基づく商標権には第34条の2は適用されません(商標法第68条の25第2項)。
  • 独占的通常使用権は条文にない契約上の類型です。

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