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小学生でも分かる意匠法|意匠法第23条 意匠権の効力 ― 「そっくり」だけでなく「似ている」デザインまで止められる

小学生でもわかる意匠法 20:意匠権の効力(第23条)

小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #20

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意匠権をもつ人は、登録したデザインを独りじめして使えます。しかも意匠法では、登録したデザインとまったく同じものだけでなく、似ているもの(類似する意匠)まで独りじめの範囲に入ります。ここが、特許権・実用新案権と大きくちがうところです。この記事では、意匠権の効力を定める意匠法第23条を、特許法第68条と比べながら読みます。

条文:意匠法第23条(本文・ただし書)関連条文:意匠法第24条、第36条、特許法第68条、実用新案法第16条審査基準:第III部 第2章 第1節(類否判断の観点)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「同じ」だけ守るのか、「似ている」まで守るのか

たとえば、あなたが「持ち手が星の形をしたコップ」のデザインを考えて、意匠登録をしたとします。ほかの会社が、そっくり同じコップを売ったら、もちろん止められます。

では、ほかの会社が「持ち手が星の形だけれど、星の角が少し丸いコップ」を売ったらどうでしょう。まったく同じではありません。でも、お店で見た人は「あ、あの星のコップだ」と思うでしょう。意匠法は、こういう「似ているデザイン」まで意匠権のなわばりに入れることにしています。

特許では、こうはいきません。特許権は「特許発明」そのものを独りじめする権利で、条文には「これに類似する発明」という言葉がありません(特許法第68条)。意匠のなわばりが「外側の円」まで広がっているのは、デザインは少し変えただけの「まね」がとても簡単だからです。

外側の円まで「なわばり」 登録意匠 (同一) これに類似する意匠 ① ② ③ 意匠権(意匠法第23条)

まん中の円が「なわばり」 特許発明 (技術的範囲) 「これに類似する発明」という 文言が条文にない ④ 特許権(特許法第68条)

①そっくり同じコップ(登録意匠の中) ②星の角が丸いコップ(類似する意匠) ③四角い持ち手のコップ(円の外) ④特許発明そのもの(技術的範囲の中)

濃い塗り=登録意匠そのもの(同一) 薄い塗り+破線の円=これに類似する意匠 点=個々のデザイン

図は左右にスクロールできます。

【図1】意匠権のなわばりは「登録意匠」(まん中の濃い円)と「これに類似する意匠」(外側の薄い円)の二重の円で、個々のデザインはその中の点として置かれる。特許権の側は、特許法第68条に「これに類似する発明」という文言がないため、外側の円にあたる範囲が条文上は書かれていない(細い点線で示した)。図は第23条の構造を示す模式図で、個々のデザインの位置は架空の例。

「似ている」かどうかは、だれが決める?

「似ている」かどうかは、デザインを作った人の気持ちではなく、そのコップを買う人(需要者)が見てどう感じるかで決めます(意匠法第24条第2項)。買う人が「同じような見た目だな」と感じるなら「類似」、「ぜんぜんちがう」と感じるなら「非類似」です。くわしくは第24条の記事で扱いますが、第23条の「類似する意匠」を読むときはこの決め方とセットで覚えてください。

「なわばり」を人に貸したときは

意匠権をもつ人は、「この範囲は君だけが使っていいよ」と、他の人に強い使用権(専用実施権)をあげることができます。そうすると、貸した範囲については、意匠権をもつ本人でも自分で使えなくなります。これが第23条のただし書です。

星の持ち手のコップ → 星の角が丸いコップ(似ている=なわばりの中)
星の持ち手のコップ → 四角い持ち手のコップ(似ていない=なわばりの外)
星の持ち手のコップ → 星の模様のお皿(物がちがう=原則なわばりの外)
レベル1のまとめ

  • 意匠権をもつ人は、登録したデザインと「似ているデザイン」まで、仕事として独りじめして使える。
  • 「似ている」かどうかは、作った人ではなく、買う人の目で決める。
  • 専用実施権をあげた範囲では、本人でも使えなくなる(ただし書)。

※「業として」の意味、「類似」の判断手順、意匠権が及ばない場合(試験研究など)は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

条文の原文

意匠法第23条(意匠権の効力)(原文)
意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

本文を5つの部品に分ける

部品 条文の語 意味 くわしくは
①だれが 意匠権者は 意匠権をもつ人(設定登録で発生。意匠法第20条第1項) 第20条の記事
②どんなときに 業として 逐条解説は、家庭の主婦が電気洗濯機を使用することは「業として」に該当しないと説明している(下記「『業として』の意味」) レベル2の下部
③何を 登録意匠及びこれに類似する意匠 同一の意匠+類似する意匠。範囲の決め方は意匠法第24条 第24条の記事
④どうする 実施をする 「実施」の中身は意匠法第2条第2項(物品・建築物・画像で異なる) 第2条の記事
⑤どんな権利 権利を専有する 独占的・排他的に行える(自分は実施できる/他人には実施させない) レベル3の1.

〔表1〕意匠法第23条本文の5つの部品。

「登録意匠及びこれに類似する意匠」の4つのマス

意匠は「物品等(物品・建築物・画像)」と「形状等(形状・模様・色彩)」の組合せです。そこで、意匠の同一・類似は、物品等の同一・類似と、形状等の同一・類似をかけ合わせて考えます。

形状等が同一 形状等が類似 形状等が非類似
物品等が同一 同一の意匠(登録意匠そのもの) 類似する意匠 非類似
物品等が類似 類似する意匠 類似する意匠 非類似
物品等が非類似 非類似 非類似 非類似

〔表2〕意匠の同一・類似の4つのマス。緑の4マスが第23条の効力範囲。意匠審査基準 第III部 第2章 第1節 2.2.2.2 は、物品等の用途及び機能が同一又は類似であることを類似の前提としている。

ただし書 ― 専用実施権を設定したとき

flowchart TB
  A["意匠権者が登録意匠・類似意匠を実施したい"] --> B{"その範囲に専用実施権を
設定しているか?"} B -- "はい(設定している)" --> D["専用実施権者が専有する範囲では
意匠権者も実施できない(ただし書)"] B -- "いいえ(設定していない)" --> C["意匠権者が実施できる(本文)"] D -. "任意" .-> E["専用実施権者の許諾(通常実施権)を
得れば実施できる(意匠法第28条第2項)"] style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図2】ただし書の分岐図。専用実施権の設定範囲では意匠権者自身の実施も制限される。凡例:緑=意匠権者が自ら実施できる/赤=意匠権者が自ら実施できない。実線=当然にそうなる経路、点線=許諾を得たときの経路。

「業として」の意味 ― 逐条解説による説明

「業として」は意匠法に定義規定がありません。特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月刊。以下「青本〔第22版〕」)は、意匠法第23条の〔字句の解釈〕で〈業として〉は特許法第68条の〔字句の解釈〕を参照せよ、としています(青本〔第22版〕意匠法1314頁)。

そこで参照される特許法第68条の解説は、「業として」について、必ずしも営利を目的とする場合に限らないという点には争いがないとしたうえで、その他の要件としては反復継続性が必要であるとか、他人の需要に応じて生産・使用等をすることが必要であるなどといわれている、と説明しています。具体例としては、クリーニング店が電気洗濯機を使用するのは「業として」に当たり、公共事業としての干拓事業において浚渫機を使用するのも「業として」に当たるが、家庭の主婦が電気洗濯機を使用することは「業として」に該当しない、と挙げています(青本〔第22版〕特許法274〜275頁)。

また同解説は、特許法第68条の〔趣旨〕として、旧法では業としての実施以外の実施、すなわち個人的・家庭的な実施にも特許権の効力が及ぶこととされていたが、そこまで効力を及ぼすことは社会の実情から考えて行き過ぎであるとして改められた、と説明しています(青本〔第22版〕特許法274頁)。意匠法の逐条解説が特許法第68条の解説を参照させている以上、意匠法第23条の「業として」にもこの説明が当てはまることになります。

※逐条解説は立法担当者による解説であり、有権解釈ではありません。上記は青本原本PDFの該当頁と照合したうえでの要約です(2026年9月21日照合)。

レベル2のまとめ

  • 本文:意匠権者は「業として」「登録意匠及びこれに類似する意匠」の「実施」を「専有」する。
  • 「類似する意匠」=物品等と形状等の組合せで決まる(〔表2〕)。判断基準は意匠法第24条第2項。
  • ただし書:専用実施権を設定した範囲では、意匠権者も実施できない。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 特許法第68条・実用新案法第16条との対比

特許法第68条(特許権の効力)(原文)
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
実用新案法第16条(実用新案権の効力)(原文)
実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有する。ただし、その実用新案権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録実用新案の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000123)、2026年9月参照。
比較項目 意匠法第23条 特許法第68条 実用新案法第16条
専有の対象 「登録意匠及びこれに類似する意匠」 「特許発明」 「登録実用新案」
「類似」への言及 あり(条文明記) なし なし
権利範囲の決め方 願書の記載・図面等に基づく(意匠法第24条第1項)。類否は需要者の視覚を通じて起こさせる美感(同条第2項) 願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づく(特許法第70条第1項) 願書に添付した実用新案登録請求の範囲の記載に基づく(実用新案法第26条が特許法第70条から第71条の2までを準用。e-Gov法令検索・法令ID 334AC0000000123、2026年9月参照)
「業として」 あり あり あり
ただし書(専用実施権) あり(同じ構造) あり あり
「実施」の定義 意匠法第2条第2項(物品・建築物・画像で区別) 特許法第2条第3項(物・方法・物を生産する方法) 実用新案法第2条第3項

〔表3〕三法の「権利の効力」条文の対比。構造はほぼ同じで、違いは「類似する意匠」の有無に集約される。

2. 「専有する」の2つの側面

側面 内容 根拠となる条文
積極的効力(自分が実施できる) 意匠権者は登録意匠及び類似意匠を業として実施できる。ただし専用実施権設定範囲を除く(ただし書)。また他人の先願意匠権等と利用・抵触する場合は実施できない(意匠法第26条)(例外あり) 意匠法第23条本文・ただし書、第26条
消極的効力(他人の実施を排除できる) 権原のない第三者が業として登録意匠又は類似意匠を実施すれば侵害。差止請求(意匠法第37条)、損害賠償請求(民法第709条、意匠法第39条・第40条)等の対象 意匠法第37条〜第41条

〔表4〕「専有」の2つの側面。侵害の効果はC #28・#29の記事で扱う。

逐条解説が説明する第23条の趣旨:青本〔第22版〕は、第23条について次のように説明しています(青本〔第22版〕意匠法1313〜1314頁)。
旧法(大正10年法)の下では、自己の登録意匠と類似する意匠が他人の登録意匠とも類似している場合には、意匠権者はその類似する意匠の実施をすることができなかったが、第23条のように規定した結果、自己の登録意匠に類似する意匠については、他人の登録意匠と類似する場合でも実施をすることができることになった、とされます。
ただし、出願日が先である意匠権を優先させることとし、2つの登録意匠の類似範囲が重なり合う場合には、出願日が後である意匠権はその重複する部分については実施をする権利を有しないという構成をとった、と説明されています(意匠法第26条第2項)。逐条解説は、意匠権者甲の登録意匠Aと意匠権者乙の登録意匠Bの両方に類似する意匠をCとし、甲が乙よりも先に出願したと仮定すると、甲が独占的に実施できるのはAとC、乙の意匠権の範囲はB(BとCではない)であり、甲と乙の出願が同日の場合には相互に関係なく類似の意匠Cを実施することができる、という設例を挙げています。
この説明は、〔表8〕の「効力(第23条)と実施可否(第26条)を混同しない」というポイントの背景に当たります。

3. 効力範囲の外縁 ― 「類似」の判断手順(意匠審査基準)

第23条の「これに類似する意匠」がどこまでかは、第24条第2項の基準に従って判断します。意匠審査基準 第III部 第2章 第1節(新規性)は、審査における類否判断の手順を次のように段階化しています。侵害場面の類否判断も同じ観点が参照されるのが実務の一般的な理解ですが、審査基準はあくまで審査の基準であり、裁判所を拘束するものではありません。

段階 観点(意匠審査基準 第III部 第2章 第1節 2.2.2.1) 対応する節
(ア) 意匠に係る物品等の用途及び機能の認定・類否判断 2.2.2.2
(イ) 部分意匠の場合の当該部分の用途及び機能の認定 2.2.2.3
(ウ) 部分意匠の場合の位置・大きさ・範囲の認定 2.2.2.4
(エ) 形状等の認定(肉眼による視覚観察を基本) 2.2.2.5
(オ) 形状等の共通点・差異点の認定 2.2.2.5
(カ) 共通点・差異点の個別評価(注意を引く部分か、ありふれた態様か) 2.2.2.6
(キ) 総合的な類否判断(意匠全体として異なる美感を起こさせるか) 2.2.2.7

〔表5〕類否判断の7段階。判断主体は「取引者を含む需要者」とされている(同節 2.2.2.1)。

flowchart TB
  A["被疑侵害品(イ号)"] --> B{"物品等の用途・機能が
登録意匠と同一又は類似か?"} B -- "はい" --> C{"形状等が需要者に
共通の美感を起こさせるか?
(意匠法第24条第2項)"} B -- "いいえ" --> N1["非類似 → 第23条の効力外"] C -- "はい" --> D{"業としての実施であり、かつ
正当な権原・効力制限に
当たらないか?"} C -- "いいえ" --> N2["非類似 → 第23条の効力外"] D -- "はい" --> Y["侵害成立 → 意匠法第37条等"] D -- "いいえ(権原あり又は効力制限)" --> N3["侵害不成立(例外あり)"] style Y fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図3】第23条を起点にした侵害成否の分岐図(本記事作成者の整理。実際の判断は事案ごとに異なる)。凡例:赤=侵害が成立する結末/緑=第23条の効力が及ばず侵害が成立しない結末。(2026年9月参照の条文・審査基準による)

4. 効力が及ばない場合・効力が制限される場合(例外の一覧)

意匠法第36条(特許法の準用)(原文)
特許法第六十九条第一項及び第二項(特許権の効力が及ばない範囲)、第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、意匠権に準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
類型 内容(要旨) 条文
効力が及ばない範囲 試験又は研究のためにする実施、単に日本国内を通過するに過ぎない船舶・航空機等、出願時から国内にある物(特許法第69条第1項・第2項の準用)。特許法第69条第3項(医薬の調剤)は準用されていない 意匠法第36条→特許法第69条第1項・第2項
ただし書 専用実施権の設定範囲 意匠法第23条ただし書
利用・抵触 他人の先願の登録意匠等を利用する場合、他人の先願の特許権・実用新案権・商標権・著作権等と抵触する場合は業として実施できない 意匠法第26条
法定通常実施権 先使用者等は一定範囲で実施できる 意匠法第29条、第29条の2、第30条〜第32条
裁定通常実施権 利用・抵触関係にある場合の裁定 意匠法第33条
秘密意匠の特則 効力自体は制限されないが、差止請求に警告要件(意匠法第37条第3項)、過失の推定が働かない(意匠法第40条ただし書) 意匠法第14条、第37条第3項、第40条ただし書

〔表6〕第23条の効力に対する例外・制限の一覧。各項目の詳細はC #23・#26・#27・#28・#29の記事で扱う。

特許法第69条第3項が準用されていない点:特許法第69条第3項が意匠権に準用されていないことは、意匠法第36条の文言(「第六十九条第一項及び第二項」)から読み取れます。もっとも、なぜ準用しないのかについての説明は、青本〔第22版〕の意匠法第36条の解説には見当たりませんでした。同条の解説は、本条が特許法の準用条文について規定したものであること、および令和3年の一部改正で特許法第97条第1項が改正されたことに伴い意匠権の放棄にも通常実施権者の承諾が不要となったこと、を述べるにとどまります(青本〔第22版〕意匠法1336頁)。なお、意匠法第41条の解説には、意匠権は方法について与えられるものではないため特許法第104条(生産方法の推定)は準用されない、といった準用しない理由の説明が置かれていますが(青本〔第22版〕意匠法1348〜1349頁)、第36条にはこれに当たる記述がありません。

5. 関連意匠との関係

本意匠に類似する意匠を関連意匠として登録できる制度(意匠法第10条)があります。本意匠の意匠権の効力は第23条により類似意匠に及ぶため、「類似する意匠は本意匠の効力に含まれるのに、なぜ別に登録する必要があるのか」という疑問が試験で問われやすい論点です。

青本〔第22版〕は、令和元年の一部改正において関連意匠にのみ類似する意匠が登録可能となり、本意匠のうち最初に選択されたものを基礎意匠と定義した、と説明しています(青本〔第22版〕意匠法1312頁)。関連意匠を登録することで、関連意匠にのみ類似する意匠(【図4】の③)まで意匠権の効力を確保できるのは、この改正によるものです。

また同解説は、関連意匠制度の制度趣旨を同一意匠権者の下でのみ権利の重複を認めるものと説明し、基礎意匠及びその関連意匠の意匠権を分離して移転できないこと(意匠法第22条第1項)について、一部のみが移転された場合や別々の者に移転された場合には重複部分について二以上の者に排他権が成立することになり、この制度趣旨に反するからである、としています(青本〔第22版〕意匠法1313頁)。

関連意匠の意匠権が本意匠と独立に存続しうる点についても、同解説は、本意匠の意匠権が存続期間の満了以外の理由、すなわち①意匠権の放棄、②登録料の不納付、③無効審決の確定を理由として消滅した場合については、本意匠と関連意匠の整理が便宜的なものであり、各々の意匠が同等の創作的価値を有することを踏まえ、関連意匠同士の関連性は維持しつつ、関連意匠の意匠権は存続するものとした、と説明しています(青本〔第22版〕意匠法1311頁)。

本意匠に類似する範囲 関連意匠に類似する範囲 本意匠 関連意匠

① ② ③ ④

①本意匠にのみ類似する意匠 ②本意匠にも関連意匠にも類似する意匠(重なり) ③関連意匠にのみ類似する意匠 ④どちらにも類似しない意匠(円の外)

紫の実線の円=本意匠を中心とする類似の範囲 緑の破線の円=関連意匠を中心とする範囲 点=個々の意匠

図は左右にスクロールできます。

【図4】本意匠と関連意匠の類似の範囲を、色違いの円の重なり(ベン図)で表した模式図。関連意匠は本意匠に類似するので2つの円は重なるが、関連意匠にのみ類似する範囲(③)が新たに生じる。関連意匠を登録すると、この③の範囲まで第23条の効力を確保できる。円の大きさ・重なりの度合いは説明のための模式で、実際の類似の範囲の広さを表すものではない。

6. 令和元年改正との関係

項目 改正前 現行(令和元年改正後)
第23条の文言 「登録意匠及びこれに類似する意匠」「専有する」の基本構造は改正前後で同じ。青本〔第22版〕(令和4年10月刊)は各条に改正法の付記を置いているが、第23条には改正の付記がない(直前の第21条・第22条には令和元年改正〔令和元年法律第3号〕等による改正の付記がある)。このことから、第23条本体は令和元年改正でも改正されていないことが確認できる(青本〔第22版〕意匠法1310〜1313頁)
「実施」の中身(第2条第2項) 物品の意匠のみ 物品・建築物・画像それぞれの実施行為が規定(令和元年法律第3号、令和2年4月1日施行)
効力の及ぶ客体 物品の意匠に限られる 建築物の意匠・画像の意匠にも第23条の効力が及ぶ

〔表7〕令和元年改正の影響。第23条自体は変わらず、「実施」と「意匠」の定義拡大を通じて効力の及ぶ範囲が広がった。令和元年改正の改正規定の大半は令和2年4月1日に施行された(一部は令和3年4月1日。出典:特許庁「令和元年意匠法改正特設サイト」、2026年9月参照)。意匠の定義や第17条第1号などは、令和元年法律第3号附則第2条第1項により、2020年4月1日以後の出願に新規定を適用し、それより前の出願には従前の例を適用します(改正法附則)。

7. 試験での問われ方

試験種別 学習用の問いの例 気をつける点
短答式 「登録意匠に類似する意匠の実施は侵害となるか」「専用実施権設定後に意匠権者が実施できるか」「利用・抵触関係にある意匠の実施可否」の正誤 「類似」まで効力が及ぶことと、第26条による実施制限は別の話。効力(第23条)と実施可否(第26条)を混同しない
論文式 侵害事例で、イ号意匠が「類似する意匠」に当たるかを第24条第2項の基準で論じさせ、第23条で侵害を導く 物品等の類否→形状等の類否→総合判断の順で書く。「業として」の要件を落とさない
口述 「意匠権の効力の範囲を述べよ」「特許権の効力と何が違うか」 第23条本文を原文どおり暗唱し、「類似」の有無を対比で答える

〔表8〕学習用の問いと確認点。出題実績や頻度の集計ではありません。

過去問での登場例:令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験〔意匠〕(出典:特許庁公表の問題PDF、2026年9月参照)では、次の2問が第23条の効力を前提にしています。

  • 問3:腕時計の意匠権侵害訴訟に関する説明として正しいものを問う問題。枝1は共有者の単独の差止請求、枝2は他用途でも使用可能な部品とみなし侵害、枝3は実施能力を超える部分と損害、枝4は査証人の査証、枝5は侵害行為についての過失に関する枝です。
  • 問10:机の意匠と学習机の意匠に関し、誤っているものを問う問題。枝1は需要者の美感の共通性、枝2は先願登録意匠を利用する後願意匠の実施、枝3は後願意匠権のうち類似意匠に係る部分が先願意匠権と抵触する場合、枝4は登録部分が外観に現れない場合、枝5は非類似でも広く流通する物品を使用する場合に関する枝です。第23条の効力と第26条の利用・抵触の関係が問われています。令和8年度短答式〔意匠〕の公式正解は、問3が1、問10が5です。出典:公式問題・公式解答。正解番号は問題全体の答えです。

正解は特許庁公表の解答PDFでご確認ください(本記事では正解を記載していません)。

最高裁昭和49年3月19日判決(昭和45年〔行ツ〕第45号・可撓性伸縮ホース事件)は、類似する意匠にも権利の効力が及ぶことを踏まえ、一般需要者が受ける美感の類否と、当業者が容易に創作できたかという判断を区別しました。現在の第24条第2項も、需要者の視覚を通じて起こさせる美感を判断基準にしています。最高裁判決・2頁/現行意匠法第24条。

レベル3のまとめ

  • 第23条は特許法第68条・実用新案法第16条と同じ構造だが、「これに類似する意匠」まで専有する点だけが異なる。
  • 「類似」の外縁は意匠法第24条第2項(需要者の視覚を通じて起こさせる美感)で決まり、審査基準は7段階の観点を示す。
  • 効力の例外・制限:第36条で準用する特許法第69条第1項・第2項(第3項は準用なし)、第26条の利用・抵触、法定・裁定通常実施権、秘密意匠の特則(第37条第3項・第40条ただし書)。
  • 関連意匠(第10条)は「関連意匠にのみ類似する意匠」まで効力を確保する制度として位置づけられる。

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