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小学生でも分かる意匠法|意匠法第27条・第28条・第34条・第35条 専用実施権・通常実施権・通常実施権の移転等・質権 ― 「自分のデザインを人に使わせる」「担保に入れる」しくみ

小学生でもわかる意匠法 25:実施権と質権(第27条・第28条・第34条・第35条)

小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #25

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意匠権は、自分で使うだけでなく、他人に「使っていいよ」と許すこともできますし、お金を借りるときの担保(質権)にすることもできます。「使っていいよ」には、貸し切りにする専用実施権(意匠法第27条)と、使う権利だけを与える通常実施権(第28条)の2種類があり、通常実施権を他人にゆずるときのルールが第34条、質権のルールが第35条です。基本は特許法とそっくりですが、意匠法には「関連意匠の専用実施権は、基礎意匠と全ての関連意匠についてまとめて同じ人に同時に設定しなければならない」という意匠法だけの決まりがあります。

条文:意匠法第27条(第1項〜第4項)、第28条(第1項〜第3項)、第34条(第1項〜第4項)、第35条(第1項〜第3項)準用される特許法:第73条第1項、第77条第3項〜第5項、第96条、第97条第2項・第3項、第98条第1項第2号・第3号・第2項、第99条関連:意匠法第10条第6項・第7項、第22条、第33条、第36条、第44条第4項、特許法第77条・第78条・第94条・第95条、実用新案法第18条・第19条・第24条・第25条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「貸し切り」と「使っていいよ券」

Aさんは、持ち手が猫のしっぽの形をしたコップのデザインを考えて、意匠権をとりました。意匠権があると、そのデザインのコップを作って売れるのは、原則としてAさんだけです。

でも、Aさんは工場を持っていません。そこで、コップ工場を持つB社に「私のデザインを使って作っていいよ」と許すことにしました。このとき、許し方は大きく2つあります。

  • 貸し切りにする(=専用実施権):「B社だけがこのデザインを使える。Aさん自身も、その範囲では作れなくなる」という強い約束。B社は、まねをした人を自分で止めることもできます。
  • 「使っていいよ券」を渡す(=通常実施権):「B社も使っていいよ。でもAさんも使えるし、C社にも同じ券を渡せる」という、ゆるやかな約束。
意匠権者 Aさん 猫のしっぽコップのデザイン 貸し切りにする 「使っていいよ券」を渡す 専用実施権(第27条) B社だけが使える(独占) Aさん自身もその範囲では使えない まねをした人をB社が止められる 特許庁に登録して初めて効力が出る 通常実施権(第28条) B社は使える(独占ではない) Aさんも使えるし、C社にも券を渡せる まねをした人を止めるのはAさんの仕事 約束だけで効力が出る(登録はいらない) 実線+塗り=独占(登録が効力発生要件) 破線+白地=独占でない(登録は不要)

図は左右にスクロールできます。

【図1】意匠権者が他人にデザインを使わせる2つの方法。左が「貸し切り」(専用実施権)、右が「使っていいよ券」(通常実施権)。法定通常実施権・裁定通常実施権(第29条〜第33条)はこの図では扱っていません。2026年9月時点の条文による。

兄弟デザインは「セットで」貸し切りにする

Aさんは、猫のしっぽコップの「基本の形」のほかに、しっぽの曲がり方を少し変えた「兄弟デザイン」もいくつか登録していました。意匠法では、この兄弟デザインを関連意匠といい、最初の基本の形を基礎意匠といいます(→ 第10条の記事)。

もしAさんが、基本の形はB社に貸し切り、兄弟デザインの1つはC社に貸し切り……とバラバラに貸し切ったら、どうなるでしょう。兄弟デザインはどれもよく似ているので、B社が作ったコップがC社の貸し切り範囲にも入ってしまい、「どちらが独占なのか」が分からなくなってしまいます。

そこで意匠法は、基礎意匠と全ての関連意匠を、同じ人に、同時に貸し切りにする場合だけ、貸し切り(専用実施権の設定)を認めることにしました。「兄弟はセットで、まとめて同じ人に」がルールです。

バラバラに貸し切り → できない 基礎意匠 → B社 関連意匠1 → C社 関連意匠2 → 貸さない 似たデザイン同士で「誰の独占か」が重なってしまう セットで同じ人に同時に → できる 基礎意匠 関連意匠1 関連意匠2 全部まとめてB社へ 「使っていいよ券」(通常実施権)には、このセットのルールはありません。 基礎意匠だけをC社に使わせる、ということもできます(→レベル3)。 できない例 できる例 意匠権(基礎意匠・関連意匠) まとめて同時に設定する範囲

図は左右にスクロールできます。

【図2】関連意匠の「貸し切り」(専用実施権)は、基礎意匠と全ての関連意匠をまとめて、同じ人に、同時に設定するときだけできる。関連意匠を2つにした例で、基礎意匠の意匠権が消滅している場合(第27条第3項)は図示していません(→レベル2)。2026年9月時点の条文による。

「使っていいよ券」を人にゆずる、担保に入れる

B社がもらった「使っていいよ券」を、勝手にD社にゆずってよいでしょうか。Aさんは「B社だから」許したのに、知らない会社が使い始めたら困ります。そこで、券をゆずるには原則としてAさんの承諾が必要です(例外あり。工場ごとゆずる場合や、会社を引き継ぐ場合など)。

また、Aさんがお金を借りるとき、意匠権を「借金のかた」(担保)にすることができます。これを質権といいます。質権をもった銀行は、Aさんが返せなくなったら意匠権を売ってお金に換えられますが、ふだんは意匠権のデザインを自分で使うことはできません(例外あり)。

専用実施権=貸し切り(独占。登録が必要)
通常実施権=使っていいよ券(独占ではない)
関連意匠の貸し切りは「セットで同じ人に同時に」
券をゆずるには原則として意匠権者の承諾
質権=借金のかた。質権者はふつう自分では使えない
レベル1のまとめ

  • 意匠権者は、他人に「貸し切り」(専用実施権)か「使っていいよ券」(通常実施権)を出せる。
  • 関連意匠(兄弟デザイン)の貸し切りは、基礎意匠と全ての関連意匠を、同じ人に、同時に設定するときだけ。
  • 「使っていいよ券」を他人にゆずるには、原則として意匠権者の承諾がいる。
  • 意匠権や実施権は担保(質権)にできる。質権者は、原則として自分ではデザインを使えない。

※「貸し切り」の効力が出る時期、承諾がいらない場合、通常実施権の「当然対抗」、裁定でもらった通常実施権の特別ルール、質権の物上代位などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第27条 ― 専用実施権

意匠法第27条第1項(原文)
意匠権者は、その意匠権について専用実施権を設定することができる。ただし、基礎意匠又は関連意匠の意匠権についての専用実施権は、基礎意匠及び全ての関連意匠の意匠権について、同一の者に対して同時に設定する場合に限り、設定することができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第27条第2項(原文)
専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。
意匠法第27条第3項(原文)
基礎意匠の意匠権が第四十四条第四項の規定により消滅したとき、無効にすべき旨の審決が確定したとき、又は放棄されたときは、当該基礎意匠に係る関連意匠の意匠権についての専用実施権は、全ての関連意匠の意匠権について同一の者に対して同時に設定する場合に限り、設定することができる。
意匠法第27条第4項(原文)
特許法第七十七条第三項から第五項まで(移転等)、第九十七条第二項(放棄)並びに第九十八条第一項第二号及び第二項(登録の効果)の規定は、専用実施権に準用する。
項 内容 特許法との違い
第1項本文 意匠権者は専用実施権を設定できる 特許法第77条第1項と同じ構造
第1項ただし書 基礎意匠・関連意匠の意匠権の専用実施権は、「基礎意匠及び全ての関連意匠の意匠権について、同一の者に対して同時に設定する場合に限り」設定できる 意匠法固有 特許法にはない
第2項 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内で「登録意匠又はこれに類似する意匠」の実施を専有する 特許法第77条第2項は「その特許発明の実施」。意匠法は類似する意匠まで及ぶ(第23条と同じ幅)
第3項 基礎意匠の意匠権が①第44条第4項(登録料不納による遡及消滅)、②無効審決の確定、③放棄で消滅したときは、関連意匠の専用実施権は「全ての関連意匠の意匠権について同一の者に対して同時に」設定する場合に限る 意匠法固有 第22条第2項(移転)と同じ3事由
第4項 特許法第77条第3項〜第5項(移転・質権・通常実施権の許諾・共有)、第97条第2項(放棄)、第98条第1項第2号・第2項(登録の効果)を準用 実用新案法第18条第3項と同じ準用構成

〔表1〕意匠法第27条の項ごとの分解。第1項ただし書と第3項が意匠法固有のルール。

flowchart TB
  A["専用実施権を設定したい意匠権"] --> B{"基礎意匠又は関連意匠に当たるか?
(第10条第7項の定義)"} B -- "はい" --> D{"基礎意匠の意匠権は生きているか?"} B -- "いいえ(単独の意匠)" --> C["第1項本文:設定できる"] D -- "はい" --> E["第1項ただし書:
基礎意匠+全ての関連意匠を
同一の者に同時に設定する場合に限る"] D -- "いいえ(第44条第4項の消滅・無効審決の確定・放棄)" --> F["第3項:
全ての関連意匠を
同一の者に同時に設定する場合に限る"] C --> G["特許法第98条第1項第2号の準用:
登録しなければ効力を生じない"] E --> G F --> G style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F style F fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図3】第27条の分岐図。関連意匠がからむと「同一の者に同時に」の縛りがかかる。設定はいずれも登録が効力発生要件。二択の分岐は「はい」(主経路)を先に、「いいえ」を後に置いています。凡例:緑=縛りのない場合(第1項本文)/橙=「同一の者に同時に」の縛りがかかる場合(第1項ただし書・第3項)。2026年9月時点の条文による。

第28条 ― 通常実施権

意匠法第28条第1項(原文)
意匠権者は、その意匠権について他人に通常実施権を許諾することができる。
意匠法第28条第2項(原文)
通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をする権利を有する。
意匠法第28条第3項(原文)
特許法第七十三条第一項(共有)、第九十七条第三項(放棄)及び第九十九条(通常実施権の対抗力)の規定は、通常実施権に準用する。
比べる点 専用実施権(第27条) 通常実施権(第28条)
発生のさせ方 「設定」する 「許諾」する
権利の中身 実施をする権利を「専有する」(独占) 実施をする権利を「有する」(独占ではない)
範囲を決めるもの 設定行為 「この法律の規定により」(法定通常実施権・裁定通常実施権)又は設定行為
及ぶ意匠 登録意匠又はこれに類似する意匠 登録意匠又はこれに類似する意匠
関連意匠の縛り あり(第1項ただし書・第3項) 条文上なし
効力発生に登録が必要か 必要(特許法第98条第1項第2号の準用) 不要(登録の効果の規定を準用していない)
あとから意匠権等を取得した者への対抗 登録により対抗 特許法第99条の準用(当然対抗 →レベル3)
準用される特許法 第77条第3項〜第5項、第97条第2項、第98条第1項第2号・第2項 第73条第1項、第97条第3項、第99条

〔表2〕専用実施権と通常実施権の対比。第28条第2項の「この法律の規定により」は、第29条〜第32条の法定通常実施権や第33条の裁定通常実施権を指す。逐条解説は、特許法第78条第2項の通常実施権には許諾によるもののほか、先使用による通常実施権や裁定による通常実施権などその他の通常実施権の全てが含まれ、法律の規定による場合と設定行為による場合を並べて書いたのはそのためだと説明しており(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』295〜296頁)、意匠法第28条の解説はこの特許法第78条の解説を参照しています(青本〔第22版〕1324頁)。

第27条第4項・第28条第3項で準用される特許法の条文

特許法第77条第3項(原文)
専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。以下の特許法条文も同じ。
特許法第77条第4項(原文)
専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。
特許法第77条第5項(原文)
第七十三条の規定は、専用実施権に準用する。
特許法第97条第2項(原文)
専用実施権者は、質権者又は第七十七条第四項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権を放棄することができる。
特許法第97条第3項(原文)
通常実施権者は、質権者があるときは、その承諾を得た場合に限り、その通常実施権を放棄することができる。
特許法第98条第1項柱書・第2号・第2項(原文)
次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。
二 専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は特許権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
前項各号の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
特許法第99条(原文)
通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

特許法第73条(共有)は要旨で示します。第1項:共有に係る権利の持分の譲渡・持分を目的とする質権の設定には他の共有者の同意が必要。第2項:契約で別段の定めをした場合を除き、各共有者は他の共有者の同意なく実施できる。第3項:専用実施権の設定・通常実施権の許諾には他の共有者の同意が必要。第28条第3項は第1項のみを通常実施権に準用し、第27条第4項は特許法第77条第5項を通じて第73条全体を専用実施権に準用します。

準用される特許法の条文 中身(意匠法に読み替えたもの) 専用実施権
(第27条第4項)
通常実施権
(第28条第3項)
第73条第1項(共有) 共有の実施権の持分譲渡・持分への質権設定には他の共有者の同意が必要 準用(第77条第5項経由で第73条全体) 準用
第73条第2項・第3項(共有) 共有者の自己実施は契約に別段の定めがある場合を除き自由、実施権の設定・許諾には他の共有者の同意が必要 準用(第77条第5項経由) 準用なし
第77条第3項(移転) 実施の事業とともに/意匠権者の承諾/一般承継の場合に限り移転できる 準用 ―(意匠法第34条第1項に直接規定)
第77条第4項(質権・通常実施権) 意匠権者の承諾を得た場合に限り、質権の設定・通常実施権の許諾ができる 準用 ―(意匠法第34条第2項に直接規定)
第97条第2項・第3項(放棄) 質権者・(専用実施権者が許諾した)通常実施権者があるときは、その承諾を得た場合に限り放棄できる 第2項を準用 第3項を準用
第98条第1項第2号・第2項(登録の効果) 設定・移転(一般承継を除く)・変更・消滅(混同・意匠権の消滅を除く)・処分の制限は登録が効力発生要件。一般承継は遅滞なく届出 準用 準用なし
第99条(通常実施権の対抗力) 発生後に意匠権・専用実施権を取得した者に対しても効力を有する ― 準用

〔表3〕第27条第4項・第28条第3項の準用マップ。「意匠法に読み替えたもの」欄は本記事作成者による読み替えであり、明文の読替え文言の引用と、対応する意匠の制度に即した説明を区別しています。

第34条 ― 通常実施権の移転等

意匠法第34条第1項(原文)
通常実施権は、前条第三項若しくは第四項、特許法第九十二条第三項又は実用新案法第二十二条第三項の裁定による通常実施権を除き、実施の事業とともにする場合、意匠権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、意匠権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
意匠法第34条第2項(原文)
通常実施権者は、前条第三項若しくは第四項、特許法第九十二条第三項又は実用新案法第二十二条第三項の裁定による通常実施権を除き、意匠権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、意匠権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合に限り、その通常実施権について質権を設定することができる。
意匠法第34条第3項(原文)
前条第三項、特許法第九十二条第三項又は実用新案法第二十二条第三項の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該意匠権、特許権又は実用新案権が実施の事業とともに移転したときはこれらに従つて移転し、その意匠権、特許権又は実用新案権が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは消滅する。
意匠法第34条第4項(原文)
前条第四項の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該意匠権、特許権又は実用新案権に従つて移転し、その意匠権、特許権又は実用新案権が消滅したときは消滅する。
項 対象となる通常実施権 できること・ルール
第1項 裁定による通常実施権(第33条第3項・第4項、特許法第92条第3項、実用新案法第22条第3項)以外の通常実施権 ①実施の事業とともにする場合、②意匠権者(専用実施権についての通常実施権なら意匠権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合、③相続その他の一般承継の場合、に限り移転できる
第2項 同上 意匠権者(同上の場合は意匠権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合に限り、通常実施権に質権を設定できる
第3項 第33条第3項(自分から請求した利用・抵触の裁定)、特許法第92条第3項、実用新案法第22条第3項の裁定による通常実施権 自分の意匠権・特許権・実用新案権が実施の事業とともに移転したときはそれに従って移転し、事業と分離して移転したとき又は消滅したときは消滅する
第4項 第33条第4項(相手方から請求した裁定)による通常実施権 自分の意匠権・特許権・実用新案権に従って移転し、それらが消滅したときは消滅する(事業とともにするかどうかを問わない)

〔表4〕意匠法第34条の項ごとの分解。第3項と第4項は「裁定による通常実施権」だけの特別ルール。

flowchart TB
  A["通常実施権を移転したい"] --> B{"どんな通常実施権か?"}
  B -- "許諾による通常実施権
法定通常実施権(第29条〜第32条)" --> C{"次のどれかに当たるか?"} C -- "実施の事業とともに" --> Y1["移転できる(第1項)"] C -- "意匠権者(+専用実施権者)の承諾" --> Y1 C -- "相続その他の一般承継" --> Y1 C -- "どれにも当たらない" --> N1["移転できない"] B -- "第33条第3項・特許法第92条第3項・
実用新案法第22条第3項の裁定" --> D{"自分の意匠権等が
実施の事業とともに移転したか?"} D -- "はい" --> Y2["それに従って移転(第3項)"] D -- "いいえ(事業と分離して移転・消滅)" --> N2["通常実施権は消滅(第3項)"] B -- "第33条第4項の裁定" --> Y3["自分の意匠権等に従って移転。
意匠権等が消滅すれば消滅(第4項)"] style Y1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style Y2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style Y3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図4】通常実施権の移転の分岐図(第34条)。法定通常実施権が第1項の対象に含まれるかは条文の文言(裁定によるものだけを除外)から本記事作成者が整理したもの。先使用権など個々の法定通常実施権の移転は第29条〜第32条の記事もご参照ください。凡例:緑=移転できる(又は移転に従う)終点/赤=移転できない・消滅する終点。2026年9月時点の条文による。

第35条 ― 質権

意匠法第35条第1項(原文)
意匠権、専用実施権又は通常実施権を目的として質権を設定したときは、質権者は、契約で別段の定をした場合を除き、当該登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をすることができない。
意匠法第35条第2項(原文)
特許法第九十六条(物上代位)の規定は、意匠権、専用実施権又は通常実施権を目的とする質権に準用する。
意匠法第35条第3項(原文)
特許法第九十八条第一項第三号及び第二項(登録の効果)の規定は、意匠権又は専用実施権を目的とする質権に準用する。
特許法第96条(原文)
特許権、専用実施権又は通常実施権を目的とする質権は、特許権、専用実施権若しくは通常実施権の対価又は特許発明の実施に対しその特許権者若しくは専用実施権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行うことができる。ただし、その払渡又は引渡前に差押をしなければならない。
特許法第98条第1項第3号(原文)
三 特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
項 質権の目的(何を担保に入れるか) ルール
第1項 意匠権・専用実施権・通常実施権 質権者は、契約で別段の定めをした場合を除き、登録意匠又はこれに類似する意匠を実施できない
第2項 意匠権・専用実施権・通常実施権 物上代位(特許法第96条の準用):実施権の対価や実施に対して受けるべき金銭その他の物にも質権を行使できる。ただし払渡・引渡前に差押えが必要
第3項 意匠権・専用実施権のみ 質権の設定・移転(一般承継を除く)・変更・消滅(混同・被担保債権の消滅を除く)・処分の制限は登録が効力発生要件。一般承継は遅滞なく届出(特許法第98条第1項第3号・第2項の準用)

〔表5〕意匠法第35条の項ごとの分解。第3項の「登録の効果」は通常実施権を目的とする質権には及ばない(条文の文言からの帰結)。

レベル2のまとめ

  • 第27条:専用実施権は「設定」し、登録意匠と類似意匠の実施を「専有」する。基礎意匠・関連意匠の専用実施権は「基礎意匠及び全ての関連意匠」に同一の者へ同時に設定する場合に限る(第1項ただし書)。基礎意匠が第44条第4項・無効審決確定・放棄で消滅したあとは「全ての関連意匠」に同一の者へ同時に(第3項)。第4項で特許法第77条第3項〜第5項・第97条第2項・第98条第1項第2号・第2項を準用。
  • 第28条:通常実施権は「許諾」し、実施をする権利を「有する」。第3項で特許法第73条第1項・第97条第3項・第99条を準用。
  • 第34条:通常実施権の移転は、事業とともに/承諾/一般承継に限る(裁定通常実施権を除く)。質権設定は承諾が必要。裁定通常実施権は意匠権等に従って移転・消滅(第3項・第4項)。
  • 第35条:質権者は原則として実施できない。物上代位あり。意匠権・専用実施権を目的とする質権は登録が効力発生要件。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 関連意匠の専用実施権 ― 「同一の者に同時に」の趣旨と第22条・第10条第6項との連動

第27条第1項ただし書と第3項は、第22条(基礎意匠と関連意匠の意匠権は分離して移転できない)と完全に平行した構造をもっています。関連意匠は基礎意匠に類似する意匠であり(第10条第1項)、意匠権の効力は類似の範囲まで及ぶ(第23条)ため、基礎意匠と関連意匠の意匠権は権利範囲が重なり合います。重なり合う権利を別々の者が独占(専用実施権)すると、同じ意匠の実施について複数の独占権者が生じ、権利関係が混乱します。分離移転の禁止(第22条)と専用実施権の同時設定(第27条)は、この混乱を防ぐための一対のルールです。

逐条解説は、第27条第1項ただし書について、基礎意匠とその関連意匠の意匠権の一部だけに専用実施権が設定されたり、別々の者に設定されたりすると、専用実施権の重なり合う部分について二以上の者に排他権が成立し、関連意匠制度の趣旨に反することになるため、同一の者に同時に設定し、その設定された状態を維持すべきことを定めたと説明しています(青本〔第22版〕1323頁)。第3項については、存続期間の満了以外の理由で基礎意匠の意匠権が消滅した場合に、一度設定された権利関係の安定を図るための規定だと説明しています(同頁)。第22条についても、一部だけの移転や別々の者への移転を認めると重複部分について二以上の者に排他権が成立し、同一の意匠権者の下でのみ権利の重複を認める関連意匠制度の趣旨に反する、と同じ考え方が示されています(青本〔第22版〕1312〜1313頁)。

場面 意匠権の移転(第22条) 専用実施権の設定(第27条)
基礎意匠の意匠権が存続しているとき 基礎意匠及びその関連意匠の意匠権は分離して移転できない(第1項) 基礎意匠及び全ての関連意匠の意匠権について、同一の者に同時に設定する場合に限る(第1項ただし書)
基礎意匠の意匠権が第44条第4項の規定により消滅したとき、無効審決が確定したとき、放棄されたとき その基礎意匠に係る関連意匠の意匠権は分離して移転できない(第2項) 全ての関連意匠の意匠権について、同一の者に同時に設定する場合に限る(第3項)
基礎意匠の意匠権が存続期間満了で消滅したとき 第22条第2項・第27条第3項の事由に挙げられていない。関連意匠の存続期間は基礎意匠の出願日から25年(第21条第2項)で同時に満了するため、この場面を想定する必要がないと整理できる(本記事作成者の整理。青本〔第22版〕の第22条・第27条の解説は、第2項・第3項を存続期間の満了以外の理由で基礎意匠の意匠権が消滅した場合の規定と説明していますが、満了を除いた理由には触れていません。関連意匠の存続期間を基礎意匠の出願日から起算する点は同1311〜1312頁。→ 第21条の記事)

〔表6〕第22条(移転)と第27条(専用実施権)の平行関係。3つの消滅事由が両条で共通している。

さらに、第10条第6項は「本意匠の意匠権について専用実施権が設定されているときは、その本意匠に係る関連意匠については、第一項及び第四項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。」と定めています。すでに本意匠に専用実施権があると、あとから登録される関連意匠には同じ専用実施権者に同時に設定することができず、第27条第1項ただし書の状態を作れないためです。第10条第6項違反は拒絶理由(第17条第1号)であり無効理由(第48条第1項第1号)でもある点は、第10条の記事で整理しています。

設定のしかた 基礎意匠 関連意匠1 関連意匠2 可否 根拠
全部をB社に同時に設定 B社 B社 B社 可 第27条第1項ただし書の要件を満たす
基礎意匠だけをB社に設定 B社 ― ― 不可 「全ての関連意匠の意匠権について」同時に設定していない
関連意匠1だけをB社に設定 ― B社 ― 不可 関連意匠の専用実施権も「基礎意匠及び全ての関連意匠」に同時設定が必要
基礎意匠はB社、関連意匠はC社に同時に設定 B社 C社 C社 不可 「同一の者に対して」ではない
全部をB社に、ただし時期をずらして設定 B社(先) B社(後) B社(後) 不可 「同時に」ではない
基礎意匠の意匠権が放棄されたあと、関連意匠1・2をB社に同時に設定 (消滅) B社 B社 可 第27条第3項
基礎意匠だけをC社に通常実施権を許諾 C社(通常) ― ― 可 第28条には同時許諾の要件がない(条文の文言からの帰結)

〔表7〕基礎意匠と関連意匠への専用実施権設定パターンのマトリクス。関連意匠が2つある例で整理(本記事作成者の整理)。

改正前(令和2年3月31日以前の出願)と現行の区別
令和元年改正(令和2年4月1日施行。特許庁「令和元年意匠法改正特設サイト」、2026年9月参照)で関連意匠制度が拡充され、関連意匠にさらに関連意匠を連鎖して登録できるようになったことに伴い、第27条第1項ただし書・第3項は「基礎意匠」(第10条第7項で定義)を基準に書き直されました。逐条解説によれば、平成10年改正で新設された第27条第1項ただし書は、もともと本意匠と関連意匠との関係について規定していましたが、令和元年改正で関連意匠にのみ類似する意匠も登録できるようになり、本意匠のうち最初に選択されたものを基礎意匠と定義したことに伴い、基礎意匠とその関連意匠(連鎖する段階的な関連意匠を含む)について規定する形に改められました(青本〔第22版〕1322〜1323頁)。改正前の条文の文言そのものは本記事では掲載していません。改正法附則第2条第1項の旧法適用の列挙には第27条を含みません。直後に附則と旧条文の照合結果を示します。
令和元年改正では、関連意匠にのみ類似する意匠の登録を認めたことに伴い、第27条第1項ただし書・第3項の対象を「本意匠と関連意匠」から「基礎意匠とその関連意匠」に改めました。改正法附則第2条第1項は第10条等について令和2年4月1日以後の出願に新制度を適用すると定めていますが、第27条を旧法適用の列挙には含めていません。専用実施権について、出願日だけから第27条全体を旧法に戻す説明はしません。改正解説・第6章122頁/附則・157〜158頁

2. 専用実施権者ができること・できないこと(特許法第77条第3項〜第5項の準用)

専用実施権者の行為 要件 根拠(意匠法第27条第4項で準用) 効力発生に登録が必要か
専用実施権の移転 ①実施の事業とともにする場合、②意匠権者の承諾を得た場合、③相続その他の一般承継の場合、に限る 特許法第77条第3項 必要(一般承継を除く)。一般承継は遅滞なく届出(特許法第98条第1項第2号・第2項)
専用実施権を目的とする質権の設定 意匠権者の承諾を得た場合に限る 特許法第77条第4項 必要(意匠法第35条第3項で準用する特許法第98条第1項第3号)
他人への通常実施権の許諾 意匠権者の承諾を得た場合に限る 特許法第77条第4項 不要
専用実施権の放棄 質権者又は第77条第4項の通常実施権者があるときは、その承諾を得た場合に限る 特許法第97条第2項 放棄による消滅は登録が効力発生要件(特許法第98条第1項第2号の「消滅」。混同・意匠権の消滅によるものを除く)
共有の専用実施権の持分譲渡・持分への質権設定 他の共有者の同意が必要 特許法第77条第5項で準用する第73条(要旨) 移転は登録が必要
差止請求(第37条)・損害賠償請求 専用実施権者自身が請求できる 意匠法第37条第1項(→ 第37条・第38条の記事) ―

〔表8〕専用実施権者の処分行為と要件。「承諾」は意匠権者の承諾。承諾なしに通常実施権を許諾できるか、という形で問われやすい(令和8年度短答(意匠)問5 枝(ロ)参照。→ 本記事末尾)。

3. 放棄の承諾関係 ― 「下の人の承諾がいる」の連鎖

意匠権・専用実施権・通常実施権を放棄すると、その上に乗っている権利(質権や、専用実施権者が許諾した通常実施権)も基礎を失います。そこで、放棄には「自分の権利の上に権利をもつ人」の承諾が必要です。意匠権の放棄については第36条で特許法第97条第1項を準用し、専用実施権・通常実施権の放棄については第27条第4項・第28条第3項で第97条第2項・第3項を準用しています。

意匠権者 放棄:第36条→特許法第97条第1項 専用実施権者 放棄:第27条第4項→同第97条第2項 通常実施権者 放棄:第28条第3項→同第97条第3項 放棄するときに承諾を得なければならない相手 ・専用実施権者 ・質権者 (通常実施権者の承諾は不要) ・質権者 ・自分が許諾した通常実施権者 (特許法第77条第4項の通常実施権者) ・質権者 (相手は質権者のみ ※) 共通の考え方:自分の権利を土台にして権利をもっている人の承諾がいる。 実線+塗り=放棄する側 破線+白地=承諾を得る相手

図は左右にスクロールできます。

【図5】放棄の承諾関係の相関図。第36条・第27条第4項・第28条第3項で準用される特許法第97条第1項〜第3項を並べたもの。特許法第97条第1項の原文は第36条の記事に掲載。※通常実施権には再許諾の制度がないため、通常実施権者が放棄するときの相手は質権者のみです。意匠権者が放棄するときに通常実施権者の承諾が条文上不要である点は、特許法第97条第1項の文言どおりです。2026年9月時点の条文による。

放棄する権利 承諾が必要な相手 準用の根拠 登録の要否
意匠権 専用実施権者、質権者 意匠法第36条→特許法第97条第1項 放棄による消滅は登録が効力発生要件(第36条→特許法第98条第1項第1号)
専用実施権 質権者、専用実施権者が許諾した通常実施権者 意匠法第27条第4項→特許法第97条第2項 同上(第27条第4項→特許法第98条第1項第2号)
通常実施権 質権者 意匠法第28条第3項→特許法第97条第3項 登録制度なし

〔表9〕放棄と承諾の対応表。特許法第98条第1項第1号の文言は第36条の記事でご確認ください。

4. 通常実施権の「当然対抗」(特許法第99条の準用)

第28条第3項が準用する特許法第99条は、「通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。」と定めます。意匠法に読み替えると、通常実施権者は、その通常実施権の発生後に意匠権や専用実施権を取得した者(意匠権の譲受人、新たに専用実施権の設定を受けた者など)に対しても、登録などの手続なしに、自分の通常実施権を主張できることになります。これを一般に「当然対抗」と呼びます。

条文の文言上、対抗できる相手は「発生後に……取得した者」であり、「発生」の先後で決まる点、また対抗のために登録が要求されていない点(第28条第3項は特許法第98条を準用していない)を押さえてください。

権利 設定・許諾の効力発生 第三者(後から意匠権等を取得した者)への対抗 条文
専用実施権 登録が効力発生要件 登録されているので当然に対抗できる 第27条第4項→特許法第98条第1項第2号
通常実施権(許諾) 許諾(契約)で発生。登録不要 発生後に意匠権・専用実施権を取得した者にも効力を有する(当然対抗) 第28条第3項→特許法第99条
通常実施権(法定・裁定) 法律の規定・裁定で発生 同上(逐条解説は、特許法第99条の「発生後」は許諾・法定・裁定のいずれの発生原因の通常実施権も包含すると説明。青本〔第22版〕333頁) 同上
質権(意匠権・専用実施権を目的) 登録が効力発生要件 登録により対抗 第35条第3項→特許法第98条第1項第3号
質権(通常実施権を目的) 登録制度の規定なし 条文に定めなし 第35条第3項は「意匠権又は専用実施権を目的とする質権」に限定

〔表10〕効力発生と対抗の整理。「通常実施権(法定・裁定)」の行は特許法第99条の逐条解説(青本〔第22版〕333頁)に基づきます。

改正前(平成24年3月31日まで)と現行の区別
当然対抗制度は平成23年法律改正(平成23年法律第63号)で導入されました。特許庁の同改正の解説書(『産業財産権法の解説』第1章「通常実施権等の対抗制度の見直し」)によると、改正前は、許諾による通常実施権を第三者に対抗するには特許庁への登録が必要でした(登録対抗制度)。しかし登録には手間とコストがかかり、実務では通常実施権を登録しないことが一般化していたことなどから、通常実施権を適切に保護し、企業の事業活動の安定性・継続性を確保するため、登録なしに対抗できる当然対抗制度を導入し、あわせて通常実施権の登録制度を廃止しました。法定通常実施権は改正前から登録なしに対抗できるとされていた、とも説明されています。実用新案法と意匠法にも特許法と同様に当然対抗制度が導入されました(同解説書 第1章1.〜3.)。逐条解説も、意匠法第28条第3項について、平成23年改正により特許法と同様に通常実施権に当然対抗制度を導入したと説明しています(青本〔第22版〕1324頁。特許法第99条について同332〜333頁)。

施行日は平成24年4月1日です(同改正法附則第1条、平成23年政令第369号。同解説書 第1章5.)。意匠法については、改正後の第28条第3項で準用する特許法第99条が、施行の際現に存する通常実施権にも適用されるとの経過措置が置かれています(同改正法附則第4条第3項。同解説書 第1章5.)。

5. 裁定による通常実施権の特則(第34条第3項・第4項)と第1項・第2項の除外

第34条第1項・第2項は、「裁定による通常実施権」を移転・質権設定のルールから除外しています。裁定による通常実施権は、当事者の信頼関係にもとづく許諾ではなく、利用・抵触関係にある権利同士の調整のために特許庁長官が設定するものなので、「自分の権利」とセットでしか動かせないように第3項・第4項で別のルールを置いています。

裁定の種類 誰の請求による裁定か 移転のルール 消滅のルール 質権設定
第33条第3項の裁定 意匠権者・専用実施権者が、自分の登録意匠が他人の権利を利用・抵触する場合に請求(第26条の他人に対する裁定) 自分の意匠権・特許権・実用新案権が実施の事業とともに移転したときに従って移転(第3項) 権利が事業と分離して移転したとき、又は権利が消滅したときに消滅(第3項) 条文上、第2項の対象から除外(設定の規定なし)
特許法第92条第3項・実用新案法第22条第3項の裁定 特許権者・実用新案権者等が、自分の権利が他人の意匠権等を利用・抵触する場合に請求 同上(第3項) 同上(第3項) 同上
第33条第4項の裁定 第26条の他人(利用・抵触される側)が、第3項の裁定請求があったときに答弁書提出期間内に限り請求 自分の意匠権・特許権・実用新案権に従って移転(事業とともにするか否かを問わない)(第4項) 権利が消滅したときに消滅(第4項) 同上

〔表11〕裁定による通常実施権の移転・消滅の特則。裁定制度そのものは第26条・第33条の記事をご参照ください。

特許法第94条との構造の違い。特許法第94条第3項は「第八十三条第二項又は前条第二項の裁定による通常実施権」(不実施の裁定・公共の利益のための裁定)について「実施の事業とともにする場合に限り、移転することができる」と定めますが、意匠法には不実施裁定(特許法第83条)・公益裁定(特許法第93条)に当たる制度がないため、第34条にはこれに対応する項がありません。意匠法第34条は特許法第94条第1項・第2項・第4項・第5項に対応し、第94条第3項・第6項に対応する項がない構造です(第6項の共有規定は意匠法第28条第3項が担っています)。

6. 質権(第35条)の要点と物上代位

flowchart TB
  A["意匠権者が銀行から借入れ"] --> B["意匠権に質権を設定
(第35条第3項:登録が効力発生要件)"] B --> C{"ふだんの実施について
契約で別段の定めがあるか?"} C -- "はい" --> E["契約に従う(第1項の除外)"] C -- "いいえ(別段の定めなし)" --> D["質権者(銀行)は実施できない
意匠権者が実施を続ける(第1項)"] B --> F["意匠権者が通常実施権の対価(ライセンス料)を受け取る"] F --> F2{"払渡又は引渡の前に
差押をしたか?"} F2 -- "はい" --> G["質権者はその金銭にも権利行使できる
物上代位(第2項→特許法第96条)"] F2 -- "いいえ(払渡後)" --> H["物上代位できない
(ただし書:払渡又は引渡前に差押をしなければならない)"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style H fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図6】質権の効力の分岐図。物上代位は「払渡又は引渡前に差押」が条件。二択の分岐は「はい」(主経路)を先に、「いいえ」を後に置いています。凡例:緑=原則どおりの帰結/赤=ただし書により物上代位ができない場合(白=途中の経過と、契約による例外)。2026年9月時点の条文による。

質権の目的 設定に必要な承諾 登録の効果(効力発生要件) 質権者の実施 物上代位
意匠権 不要(共有なら他の共有者の同意:第36条→特許法第73条第1項) あり(第35条第3項) 原則不可(第35条第1項) あり(第35条第2項)
専用実施権 意匠権者の承諾(第27条第4項→特許法第77条第4項) あり(第35条第3項) 原則不可 あり
通常実施権 意匠権者(専用実施権についての通常実施権なら意匠権者及び専用実施権者)の承諾(第34条第2項)。裁定通常実施権は除外 規定なし 原則不可 あり

〔表12〕質権の目的ごとの整理。「原則不可」は「契約で別段の定をした場合を除き」の意味(例外あり)。

7. 特許法・実用新案法・意匠法の対比表

項目 特許法 実用新案法 意匠法
専用実施権の設定 第77条第1項 第18条第1項 第27条第1項本文
関連する権利のセット設定の縛り なし なし あり 第27条第1項ただし書・第3項(基礎意匠・関連意匠)
専用実施権の効力の範囲 「その特許発明の実施」(第77条第2項) 「その登録実用新案の実施」(第18条第2項) 「その登録意匠又はこれに類似する意匠の実施」(第27条第2項)
専用実施権の移転・質権・通常実施権許諾・共有 第77条第3項〜第5項 第18条第3項で第77条第3項〜第5項を準用 第27条第4項で第77条第3項〜第5項を準用
専用実施権の放棄・登録の効果 第97条第2項、第98条第1項第2号・第2項 第18条第3項で準用 第27条第4項で準用
通常実施権の許諾・効力 第78条 第19条第1項・第2項 第28条第1項・第2項
通常実施権の共有・放棄・対抗力 第94条第6項(第73条第1項)、第97条第3項、第99条 第19条第3項で第73条第1項・第97条第3項・第99条を準用 第28条第3項で第73条第1項・第97条第3項・第99条を準用
通常実施権の移転・質権(一般) 第94条第1項・第2項 第24条第1項・第2項 第34条第1項・第2項
不実施裁定・公益裁定による通常実施権の移転 第94条第3項(事業とともにする場合に限る) 第24条第3項(第21条第2項・第23条第2項の裁定) 規定なし(制度自体がない)
利用・抵触の裁定による通常実施権の移転・消滅 第94条第4項・第5項 第24条第4項・第5項 第34条第3項・第4項
質権者の実施の制限 第95条 第25条第1項 第35条第1項
物上代位 第96条 第25条第2項で第96条を準用 第35条第2項で第96条を準用
質権の登録の効果 第98条第1項第3号・第2項 第25条第3項で準用 第35条第3項で準用
仮専用実施権・仮通常実施権 第34条の2〜第34条の5 仮通常実施権のみ(第4条の2) 制度なし(→ 第15条の記事)

〔表13〕三法の対比表。実用新案法第4条の2(見出し「仮通常実施権」)、特許法第34条の2(見出し「仮専用実施権」)・第34条の5(見出し「仮通常実施権の対抗力」)はe-Gov法令APIで確認(2026年9月参照)。

8. 拒絶理由・無効理由との関係

規定 拒絶理由(第17条) 無効理由(第48条第1項) 備考
第27条・第28条・第34条・第35条(実施権・質権の要件違反) 該当なし 該当なし 意匠権の設定登録後の権利処分に関する規定であり、出願の拒絶理由・登録の無効理由にはならない。要件を満たさない専用実施権は「設定することができ」ない(第27条第1項ただし書・第3項)にとどまる(条文の構造からの帰結)
第10条第6項(本意匠に専用実施権があるときの関連意匠登録の禁止) 該当(第17条第1号) 該当(第48条第1項第1号) 第27条第1項ただし書を実現できない場面をあらかじめ出願段階で排除する規定。第10条の記事参照

〔表14〕本記事の条文と拒絶理由・無効理由の関係。第17条第1号は第10条第1項・第4項・第6項を、第48条第1項第1号は第10条第6項を掲げている(e-Gov法令API、2026年9月参照)。

9. 試験での問われ方

試験種別 問われ方の傾向 気をつける点
短答式 「関連意匠のみに専用実施権を設定できるか」「基礎意匠に専用実施権を設定するとき関連意匠にも同時に設定しなければならないか」「専用実施権者は意匠権者の承諾なく通常実施権を許諾できるか」「通常実施権の移転に承諾が要るか」の正誤 「基礎意匠及び全ての関連意匠」「同一の者」「同時に」の3要素。第3項の3つの消滅事由。特許法第77条第4項の「承諾を得た場合に限り」
短答式(特許法・実用新案法との横断) 専用実施権の効力が「類似する意匠」まで及ぶこと、意匠法に第94条第3項相当の規定がないこと、仮実施権制度がないこと 三法対比表(〔表13〕)で違いのある行だけを押さえる
論文式 ライセンス事例で、専用実施権者・通常実施権者が差止請求できるか、意匠権の譲受人に通常実施権を対抗できるか(特許法第99条の準用) 設定登録の有無(特許法第98条)と当然対抗(第99条)を区別して書く
口述 「関連意匠の意匠権について専用実施権を設定する場合の要件を述べよ」「通常実施権を移転できる場合を述べよ」 第27条第1項ただし書・第34条第1項を条文どおりに言えるようにする

〔表15〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

意匠問5の公式正解は2(正しい肢は二つ)。肢ロの通常実施権許諾には意匠権者の承諾が必要(第27条第4項で準用する特許法第77条第4項)で、肢ハは基礎意匠と関連意匠への同時設定を問います。肢ホの先使用権は実施事業とともに移転できます(第34条第1項)。問9の公式正解は1で、肢ホは第22条の分離移転禁止に関係します。 令和8年度・問題PDF/公式解答PDF。肢の説明と公式の正解番号を区別して確認しています。
Q. 基礎意匠の意匠権にはすでに専用実施権が設定されている。あとから関連意匠を出願して登録を受け、同じ専用実施権者に追加で専用実施権を設定できるか。
A. そもそも本意匠の意匠権に専用実施権が設定されているときは、その本意匠に係る関連意匠は意匠登録を受けることができません(第10条第6項)。したがって、この問いの前提となる関連意匠の登録自体が拒絶されます(第17条第1号)。第27条第1項ただし書の「同時に」の要件は、あとから追加で設定する形では満たせない、という趣旨と整合しています(本記事作成者の整理)。
Q. 通常実施権者B社が、A社から意匠権を譲り受けたD社に対して「自分は通常実施権をもっている」と主張するには、何が必要か。
A. 通常実施権がD社の意匠権取得より前に発生していれば、登録などの手続なしにD社に対しても効力を有します(第28条第3項で準用する特許法第99条)。専用実施権の場合は、そもそも設定登録がなければ効力を生じません(第27条第4項で準用する特許法第98条第1項第2号)。
レベル3のまとめ

  • 第27条第1項ただし書・第3項は第22条(分離移転禁止)と平行する意匠法固有のルール。「基礎意匠及び全ての関連意匠」「同一の者」「同時に」の3要素、消滅事由は第44条第4項・無効審決確定・放棄の3つ。第10条第6項が出願段階で先回りして排除する。
  • 専用実施権者は、意匠権者の承諾を得た場合に限り質権設定・通常実施権許諾ができ、移転は事業とともに/承諾/一般承継に限る。設定・移転等は登録が効力発生要件。
  • 放棄には「自分の権利の上に権利をもつ者」の承諾が必要(特許法第97条第1項〜第3項の準用)。
  • 通常実施権は登録なしに、発生後に意匠権・専用実施権を取得した者に対抗できる(特許法第99条の当然対抗)。
  • 裁定による通常実施権は第34条第1項・第2項の対象から除外され、自分の意匠権等に従って移転・消滅する(第3項・第4項)。意匠法には特許法第94条第3項に当たる項がない。
  • 質権者は原則として実施できず、物上代位には払渡・引渡前の差押えが必要。意匠権・専用実施権を目的とする質権は登録が効力発生要件、通常実施権を目的とする質権には登録の規定がない。

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