小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #24
自分が考えたデザインを、他人が勝手に出願して意匠権をとってしまった(冒認出願)。あるいは、いっしょに考えた仲間が、自分をのけ者にして一人で出願してしまった(共同出願違反)。こんなとき、本当の持ち主は「その意匠権を私に移してください」と請求できます。これが意匠法第26条の2「意匠権の移転の特例」です。平成23年改正(平成24年4月1日施行)で特許法第74条とともに導入された制度で、意匠法には関連意匠についての特則(第2項)があり、さらに第29条の3(移転の登録前の実施による通常実施権)とセットで理解する必要があります。
レベル2条文の骨格 ― 第1項(移転請求)、第2項(関連意匠の特則)、第3項(遡及効)、第4項(共有の特則)
レベル3要件・例外・試験での問われ方 ― 第48条との連動、第29条の3との接続、特許法第74条・実用新案法第17条の2との対比
LEVEL 1イメージでつかむ
デザインを「盗まれて」意匠登録されてしまったら
Aさんは、背もたれが葉っぱの形をした椅子のデザインを考えました。ところが、そのスケッチを見たBさんが、Aさんに何も言わずに自分の名前で意匠登録出願をして、意匠権をとってしまいました。これを冒認出願(ぼうにんしゅつがん)といいます。「冒認」は「自分のものだとウソをつく」という意味です。
もう一つのパターンもあります。AさんとCさんがいっしょに考えたデザインなのに、Cさんが一人で出願して意匠権をとってしまった。これは共同出願違反です(いっしょに考えた人は、いっしょに出願しなければならないルールがあります)。
「消す」だけでは、Aさんは損をする
昔の考え方では、Aさんにできることは「Bさんの意匠登録は無効だ」と特許庁に言って消してもらうことでした。でも、消してしまうと、そのデザインはもう誰のものでもなくなります。しかも、Bさんが出願したせいでデザインは世の中に公開されているので、Aさんがあとから自分で出願しても「もう新しくない」と言われて登録できないことがあります。Aさんは、自分のデザインなのに何も残らない――これでは不公平です。
そこで今の意匠法は、Aさんが「その意匠権を私に移してください」とBさんに請求できるようにしました。移してもらうと、意匠権は最初からAさんのものだったことになります。
図は左右にスクロールできます。
【図1】「消す」道と「自分のものにする」道。意匠法第26条の2は道2を用意した条文。
「知らずに使っていた人」はどうなる?
意匠権がBさんからAさんに移ると、Bさんからライセンス(使う許可)をもらって椅子を作っていたDさんは困ります。Dさんは、Bさんが盗んだデザインだとは知らなかったのです。そこで意匠法は、そういう人がそのまま作り続けてよい(ただしAさんにお金を払う)というルールも用意しています(意匠法第29条の3)。これは別の記事(第29条〜第32条 法定通常実施権)でくわしく扱いますが、本記事でもレベル3で接続を説明します。
共同出願違反=仲間をのけ者にして出願
移転請求=「私に移して」と請求
移転登録があると最初から自分のもの
- 自分のデザインを他人が勝手に意匠登録したら、「消す」だけでなく「私に移して」と請求できる。
- 移してもらうと、意匠権は最初から本当の持ち主のものだったことになる。
- 知らずに使っていた人には、続けて使える道が別に用意されている(意匠法第29条の3)。
※誰が請求できるか、関連意匠のときの特別ルール、共有のときのルール、無効審判との関係は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第1項 ― 移転請求
意匠登録が第四十八条第一項第一号に規定する要件に該当するとき(その意匠登録が第十五条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当するときは、当該意匠登録に係る意匠について意匠登録を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その意匠権者に対し、当該意匠権の移転を請求することができる。
| 要素 | 条文の文言 | 意味 |
|---|---|---|
| 場面① | 「第四十八条第一項第一号に規定する要件に該当するとき(…特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)」 | 共同出願違反(意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条に違反した登録)。第48条第1項第1号には他の無効理由(第3条・第5条など)も並んでいるが、移転請求の対象は共同出願違反だけ |
| 場面② | 「第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当するとき」 | 冒認出願(意匠登録を受ける権利を有しない者の出願に対する登録) |
| 誰が | 「当該意匠登録に係る意匠について意匠登録を受ける権利を有する者」 | 本当の権利者(真の権利者) |
| 誰に | 「その意匠権者に対し」 | 現在の名義人 |
| 何を | 「当該意匠権の移転を請求することができる」 | 移転の請求。手続は「経済産業省令で定めるところにより」 |
〔表1〕意匠法第26条の2第1項の分解。
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。
第2項 ― 関連意匠の特則
2 基礎意匠又は関連意匠の意匠権についての前項の規定による請求は、基礎意匠又は関連意匠の意匠権のいずれかの消滅後は、当該消滅した意匠権が第四十九条の規定により初めから存在しなかつたものとみなされたときを除き、することができない。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 基礎意匠または関連意匠の意匠権についての移転請求 |
| 原則 | 基礎意匠・関連意匠の意匠権のいずれかが消滅した後は、請求することができない |
| 例外 | 消滅した意匠権が「第四十九条の規定により初めから存在しなかつたものとみなされたとき」(=無効審決の確定による消滅)は、請求できる |
〔表2〕意匠法第26条の2第2項の分解。
第3項 ― 移転登録の効果(遡及)
3 第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録があつたときは、その意匠権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該意匠権に係る意匠についての第六十条の十二第一項の規定による請求権についても、同様とする。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| いつ効果が出るか | 「移転の登録があつたとき」(請求しただけでは移らない) |
| 効果 | 意匠権は「初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす」(遡及効) |
| いっしょに移るもの | 意匠法第60条の12第1項の請求権(国際意匠登録出願の国際公表後の警告による補償金請求権)も同様 |
〔表3〕意匠法第26条の2第3項の分解。
第4項 ― 共有のときの特則
4 共有に係る意匠権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、第三十六条において準用する特許法第七十三条第一項の規定は、適用しない。
特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
意匠権が共有のとき、持分を譲るには他の共有者の同意が必要です(特許法第73条第1項の準用)。しかし移転請求による持分の移転は、本来の権利者に戻す手続なので、他の共有者の同意は要りません。第4項はそのことを明記しています。
flowchart TB A["冒認出願・共同出願違反による意匠登録"] --> B["第1項:真の権利者が
意匠権者に移転を請求"] B --> F{"第2項:基礎意匠・関連意匠の意匠権が
いずれも消滅していない、又は
第49条により初めから存在しなかったとみなされた?
(後発的無効を除く)"} F -- "はい" --> C["移転の登録"] F -- "いいえ(放棄等で消滅済み)" --> G["請求できない(第2項)"] C --> D["第3項:意匠権は初めから真の権利者に帰属"] C --> E["第4項:共有持分でも他の共有者の同意は不要"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図2】意匠法第26条の2の4つの項の関係。凡例:緑=移転の登録による効果/赤=移転請求ができない場合。第2項は「意匠権の消滅後は請求できない。ただし第49条により初めから存在しなかつたものとみなされたときを除く」を、請求できる側から言い換えている。
- 第1項:共同出願違反(第48条第1項第1号のうち特許法第38条違反)または冒認(第48条第1項第3号)のとき、意匠登録を受ける権利を有する者が意匠権者に移転を請求できる。
- 第2項:基礎意匠・関連意匠のいずれかの意匠権が消滅した後は請求できない(無効審決で初めからなかったとみなされた場合を除く)。
- 第3項:移転の登録があると、意匠権は初めから移転を受けた者に帰属していたものとみなす。第60条の12第1項の補償金請求権も同様。
- 第4項:共有持分の移転に、他の共有者の同意(特許法第73条第1項の準用)は不要。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 導入の経緯 ― 平成23年改正(平成24年4月1日施行)
平成23年法律改正(平成23年法律第63号)解説書 第2章「冒認出願等に係る救済措置の整備」は、改正前の制度では、真の権利者の救済手段として特許無効審判請求、損害賠償請求、新規性喪失の例外を利用した再出願、出願人名義変更などがあったものの、新規性喪失の例外には期間制限があり、真の権利者が自ら出願していない場合には特許権の移転登録請求が認められない可能性があるという課題があった、と説明しています(解説書は最高裁平成13年6月12日判決に言及しています)。そこで、真の権利者が自ら出願していたか否かを問わず移転を請求できる制度(特許法第74条)を創設し、意匠法にも同様に第26条の2を置いた、と述べています。
施行日について解説書は、改正法の公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める日から施行するとされ(改正法附則第1条)、平成23年政令第369号により平成24年4月1日と定められた、と説明しています(平成23年改正解説書 第2章 61頁)。
意匠法についての経過措置は、改正法附則第4条第1項に置かれています。解説書が掲げる同項は、改正後の意匠法(新意匠法)第4条第2項、第9条、第17条及び第26条の2、新意匠法第41条において準用する新特許法第104条の3第3項並びに新意匠法第48条第1項第3号及び第2項の規定は、この法律の施行の日以後にする意匠登録出願について適用し、施行の日前にした意匠登録出願についてはなお従前の例による、という内容です(同解説書 62頁)。解説書は、その理由として、冒認出願に先願の地位を認めることや、移転請求権の行使により権利が初めから真の権利者に帰属していたものとみなすことなど、移転請求制度の導入に係る改正を施行日前の出願にまで適用すると、従前の制度を前提に出願等を行っていた者に不測の損害を与えるおそれがあることを挙げています(同 63頁)。
| 改正前(平成24年3月31日以前の出願) | 現行(平成24年4月1日以後の出願) | |
|---|---|---|
| 冒認・共同出願違反の登録に対して真の権利者ができること | 意匠登録無効審判の請求など(移転請求の明文規定なし) | 意匠登録無効審判の請求または移転請求(意匠法第26条の2) |
| 冒認・共同出願違反を理由とする無効審判の請求人 | 「利害関係人」。平成23年改正の政府提出法案第3条とJPO改正解説書57頁は、旧第48条第2項ただし書のこの語を、意匠登録を受ける権利を有する者に限る規定へ改めたことを示しています(衆議院・第177回閣法45号) | 「意匠登録を受ける権利を有する者に限り」(意匠法第48条第2項ただし書) |
| 移転登録前の善意実施者の保護 | 明文規定なし | 意匠法第29条の3(通常実施権+相当の対価) |
〔表4〕平成23年改正の前後の対比。改正前の欄は改正解説書の「従来の制度」の説明に基づく整理。
最高裁平成13年6月12日判決(平成9年〔オ〕第1918号・生ゴミ処理装置事件)は、真の権利者が共同出願した後、無断で作成された譲渡証書により名義を変えられた特許権の持分について、移転登録請求を認めました。元の出願と登録された特許権の連続性、無効にすると他の共有者も権利を失うこと、訴訟中に登録された経緯などを踏まえた判断です。意匠の事件でも、あらゆる冒認に一般的な移転請求権を認めた判決でもありません。その後の平成23年改正は、法律に移転請求の制度を設けました。最高裁判決・3〜4頁。
2. 第48条(無効審判)との連動 ― 3か所で「移転の登録があつたときを除く」
第26条の2は、意匠登録無効審判の条文(意匠法第48条)と3か所で連動しています。
一 その意匠登録が第三条、第三条の二、第五条、第九条第一項若しくは第二項、第十条第六項、第十五条第一項において準用する特許法第三十八条又は第六十八条第三項において準用する同法第二十五条の規定に違反してされたとき(その意匠登録が第十五条第一項において準用する同法第三十八条の規定に違反してされた場合にあつては、第二十六条の二第一項の規定による請求に基づき、その意匠登録に係る意匠権の移転の登録があつたときを除く。)
三 その意匠登録がその意匠について意匠登録を受ける権利を有しない者の意匠登録出願に対してされたとき(第二十六条の二第一項の規定による請求に基づき、その意匠登録に係る意匠権の移転の登録があつたときを除く。)
2 意匠登録無効審判は、何人も請求することができる。ただし、意匠登録が前項第一号に該当すること(その意匠登録が第十五条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は前項第三号に該当することを理由とするものは、当該意匠登録に係る意匠について意匠登録を受ける権利を有する者に限り請求することができる。
| 連動箇所 | 内容 | ねらい(改正解説書の説明に基づく整理) |
|---|---|---|
| 第48条第1項第1号かっこ書 | 共同出願違反の登録は、移転の登録があったときは無効理由から除かれる | 真の権利者に移った後に無効にされては意味がない |
| 第48条第1項第3号かっこ書 | 冒認の登録は、移転の登録があったときは無効理由から除かれる | 同上 |
| 第48条第2項ただし書 | 共同出願違反・冒認を理由とする無効審判は「意匠登録を受ける権利を有する者に限り」請求できる | 第三者が無効にしてしまうと、真の権利者が移転請求で権利を取得する機会を失うため(解説書) |
〔表5〕第26条の2と第48条の連動関係。
flowchart TB
S["冒認・共同出願違反の意匠登録を見つけた"] --> W{"あなたは意匠登録を受ける権利を
有する者(真の権利者)か?"}
W -- "はい" --> T{"意匠権を自分のものにしたい?"}
W -- "いいえ(第三者)" --> X["冒認・共同出願違反を理由とする
無効審判は請求できない
(第48条第2項ただし書)"]
T -- "はい" --> M["移転請求(第26条の2第1項)"]
T -- "いいえ(消したい)" --> N["意匠登録無効審判(第48条第1項第1号・第3号)"]
M --> R["移転の登録"]
R --> R1["初めから真の権利者に帰属(第3項)"]
R --> R2["共同出願違反・冒認は無効理由でなくなる
(第48条第1項第1号・第3号かっこ書)"]
R --> R3["善意の実施者に通常実施権(第29条の3)"]
style M fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図3】真の権利者の選択肢と、第三者の請求人適格の分岐図(2026年9月時点の条文による)。凡例:緑=移転請求の道/赤=請求できない場合。※第三者であっても、他の無効理由(意匠法第3条など)を理由とする無効審判は請求できる(意匠法第48条第2項本文)。図では省略した。
3. 第2項(関連意匠の特則)の趣旨と、第22条(分離移転禁止)との関係
改正解説書は、第2項について、基礎意匠(改正当時の用語では本意匠)または関連意匠のいずれかが消滅した後は、消滅した意匠権が第49条により初めから存在しなかったものとみなされたときを除き移転請求ができないとし、その理由を、放棄等で消滅した意匠権が過去に存在していた期間について、二以上の者に重複した意匠権が生じることを防止するためと説明しています(平成23年改正解説書 第2章 48〜49頁)。
逐条解説も同じ趣旨を述べています。逐条解説は、本条が平成23年の一部改正により新たに創設された意匠権の移転の特例であるとしたうえで、第1項・第3項・第4項の趣旨は特許法第74条の趣旨を参照するよう案内し、第2項は第1項の規定による請求ができない場合について規定したものであるとしています。そして、基礎意匠及び関連意匠のうち一部の意匠権のみが冒認出願等であった場合に、仮に一部の意匠権についてのみ真の権利者による移転請求を認めると、結果的に二以上の者に重複した権利の登録がなされることとなるため、重複的な権利の登録を防止する必要がある、と説明しています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1320頁)。
意匠登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、意匠権は、初めから存在しなかつたものとみなす。ただし、意匠登録が前条第一項第四号に該当する場合において、その意匠登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、意匠権は、その意匠登録が同号に該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。
基礎意匠及びその関連意匠の意匠権は、分離して移転することができない。
2 基礎意匠の意匠権が第四十四条第四項の規定により消滅したとき、無効にすべき旨の審決が確定したとき、又は放棄されたときは、当該基礎意匠に係る関連意匠の意匠権は、分離して移転することができない。
図は左右にスクロールできます。
【図4】第2項の原則と例外のタイムライン比較(2026年9月時点の条文と、平成23年改正解説書の趣旨説明を本記事作成者が図化)。(時間軸は縮尺なし)
第22条との関係:逐条解説は、第2項と第22条(分離移転の禁止)の関係を次のように説明しています(青本〔第22版〕1320〜1321頁)。
- 第22条では、基礎意匠及び関連意匠の意匠権は分離して移転することができないこととされているので、基本的には、真の権利者に基礎意匠及び関連意匠のうち一部の意匠権のみが移転されることにより二以上の者に重複した権利の登録がなされることはない。
- しかし、例えば基礎意匠又は関連意匠の中に放棄されて消滅した意匠権がある場合に、残りの全ての意匠権について移転請求が認められ、真の権利者が登録時に遡って意匠権者となると、放棄された意匠権が過去に存在していたときの意匠権者は冒認者等のままであるため、放棄されるまでの期間は二以上の者に重複した意匠権が存在していたことになる。
- そこで第2項は、このように過去分について重複した意匠権の登録が生ずることを防止するため、いずれかの意匠権の消滅後は、その意匠権が第49条により初めから存在しなかったものとみなされたときを除き、移転請求ができないこととした。
つまり、第22条は「今」の分離を防ぎ、第26条の2第2項は「過去」の重複を防ぐ、という役割分担です(この一文は本記事作成者の要約)。両方の意匠権が存続している場合も、第22条第1項の分離移転禁止が働きます。青本第22版1320頁は、この規定によって一部だけが真の権利者へ移転することを防ぐと説明しています。第26条の2は、関連意匠の一部だけを切り離して移転できる特例ではありません。
「本意匠」から「基礎意匠」への用語の変更:第2項は、平成23年改正の制定時には「本意匠又は関連意匠」という語を用いていました(平成23年改正解説書 第2章 48頁に掲げられた改正後条文)。逐条解説は、令和元年の一部改正において、関連意匠にのみ類似する意匠が登録可能となり、本意匠のうち最初に選択されたものを「基礎意匠」と定義したことに伴い、基礎意匠及びその関連意匠(当該基礎意匠の関連意匠及び当該関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠)の意匠権について規定するよう改正した、と説明しています(青本〔第22版〕1320頁。第26条の2の条文末尾にも「改正、令元法律三」の注記があります〔同1319頁〕)。令和元年改正の施行日は、改正規定のほとんどについて令和2年4月1日、残る一部の規定について令和3年4月1日です(特許庁「令和元年意匠法改正特設サイト」、2026年9月参照)。第26条の2第2項の改正は2020年4月1日施行です(令和元年法律第3号附則第1条本文)。関連意匠制度の拡充については、同附則第2条第1項により、2020年4月1日以後の出願に改正後の第10条を適用します。
4. 第29条の3 との接続 ― 移転登録前の善意実施者の通常実施権
第二十六条の二第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録の際現にその意匠権、その意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その意匠権の移転の登録前に、意匠登録が第四十八条第一項第一号に規定する要件に該当すること(その意匠登録が第十五条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠権について通常実施権を有する。
2 当該意匠権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
図は左右にスクロールできます。
【図5】第26条の2と第29条の3の時間関係。③移転の登録の時点で「現に」意匠権・専用実施権・通常実施権を有していた善意の者が第29条の3第1項の対象となり、その者は「実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において」通常実施権を有する(範囲の限定は図では省略)。条文は2026年9月時点のもの。(時間軸は縮尺なし)
| 第29条の3の要件 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 移転の登録の際「現に」その意匠権・専用実施権・通常実施権を有していた者(冒認者本人も条文上は「意匠権を有していた者」に含まれる文言だが、「知らないで」の要件を満たすかは事案による。本記事作成者の整理) |
| 主観 | 移転の登録前に、共同出願違反・冒認に該当することを「知らないで」(善意) |
| 行為 | 日本国内において、当該意匠またはこれに類似する意匠の実施である事業をしている、またはその事業の準備をしている |
| 効果 | 「その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において」通常実施権を有する |
| 対価 | 意匠権者(移転を受けた真の権利者)は「相当の対価を受ける権利」を有する(第2項)。無償ではない |
〔表6〕意匠法第29条の3の要件と効果。詳細は「第29条〜第32条 法定通常実施権」の記事を参照。
5. 特許法第74条・実用新案法第17条の2との対比
特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。
実用新案登録が第三十七条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その実用新案登録が第十一条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は第三十七条第一項第五号に規定する要件に該当するときは、当該実用新案登録に係る考案について実用新案登録を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その実用新案権者に対し、当該実用新案権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく実用新案権の移転の登録があつたときは、その実用新案権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。
3 共有に係る実用新案権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、第二十六条において準用する特許法第七十三条第一項の規定は、適用しない。
| 観点 | 特許法第74条 | 実用新案法第17条の2 | 意匠法第26条の2 |
|---|---|---|---|
| 項数 | 3項 | 3項 | 4項(関連意匠の特則が加わる) |
| 対象となる無効理由(共同出願違反) | 特許法第123条第1項第2号(第38条違反に限る) | 実用新案法第37条第1項第2号(第11条第1項で準用する特許法第38条違反に限る) | 意匠法第48条第1項第1号(第15条第1項で準用する特許法第38条違反に限る) |
| 対象となる無効理由(冒認) | 特許法第123条第1項第6号 | 実用新案法第37条第1項第5号 | 意匠法第48条第1項第3号 |
| 請求権者 | 特許を受ける権利を有する者 | 実用新案登録を受ける権利を有する者 | 意匠登録を受ける権利を有する者 |
| 関連意匠の特則 | ― | ― | 第2項(一方消滅後は原則請求不可) |
| 遡及効 | 第2項(初めから帰属) | 第2項(初めから帰属) | 第3項(初めから帰属) |
| 遡及効といっしょに移る請求権 | 第65条第1項(出願公開後の補償金請求権)・第184条の10第1項(国際特許出願の補償金請求権) | 規定なし(実用新案法に出願公開・補償金請求権の制度がないため。本記事作成者の整理) | 第60条の12第1項(国際意匠登録出願の国際公表後の補償金請求権)のみ。国内の意匠登録出願には出願公開がないため補償金請求権がない |
| 共有持分の移転 | 第3項(第73条第1項不適用) | 第3項(第26条で準用する特許法第73条第1項不適用) | 第4項(第36条で準用する特許法第73条第1項不適用) |
| 移転登録前の善意実施者 | 特許法第79条の2 | 実用新案法第26条で特許法第79条の2を準用 | 意匠法第29条の3(意匠法に直接規定。「当該意匠又はこれに類似する意匠」の実施) |
| 無効審判の請求人適格の限定 | 特許法第123条第2項 | 実用新案法第37条第2項ただし書 | 意匠法第48条第2項ただし書 |
〔表7〕三法の移転の特例の対比。条文番号はe-Gov取得の原文に現れるものを記載(実用新案法第37条第2項は2026年9月にe-Govで原文を確認)。
逐条解説は、意匠法第26条の2の第1項・第3項・第4項の趣旨について特許法第74条の趣旨を参照するよう案内しています(青本〔第22版〕1320頁)。その特許法第74条の解説の要点は次のとおりです(青本〔第22版〕290〜291頁)。
- 「特許権者に対し」としている理由:冒認者等が特許権を第三者に譲渡していた場合には、その特許権を取得した者に対して、真の権利者が移転を請求できることとする趣旨である。
- 移転を請求できる範囲:移転請求権は特許を受ける権利に基づくものであるから、真の権利者が移転を請求できる範囲は、自らの有する特許を受ける権利の持分に応じた範囲である。そのため、特許権の移転の請求と特許を受ける権利の持分との関係は経済産業省令(特許法施行規則第40条の2)で規定した。
- 遡及効(意匠法では第3項)の理由:冒認者等は本来権利を取得することについて何らの権利も有していないこと、冒認等を理由に無効にされた場合には権利は初めから存在していなかったものとみなされること、また真の権利者は本来ならば当該権利を取得し得た者であり、発明が公開されたことにより産業の発達に寄与したともいえることを踏まえたものである。
- 共有の特則(意匠法では第4項)の理由:例えば甲と乙が共同で発明した後、甲に無断で乙と丙が出願して権利を取得した場合に、甲の丙に対する持分の移転請求が乙の同意がない限り認められないと解されるおそれがある。しかし当該権利は甲と乙の共有になることが適切であるから、特許法第73条第1項が適用されないことを確認的に規定した。
また逐条解説は、意匠法第26条の2第3項後段(第60条の12第1項の補償金請求権も初めから帰属していたものとみなす部分)について、平成26年の一部改正で国際意匠登録出願に補償金請求権制度を導入したことに伴い、特許法に倣って整備したものだと説明しています(青本〔第22版〕1321頁)。
二 その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされた場合にあつては、第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
2 特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。
6. 拒絶理由・無効理由への該当関係
| 段階 | 共同出願違反・冒認の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 審査(拒絶理由) | 共同出願違反(第15条第1項で準用する特許法第38条)と冒認(意匠登録を受ける権利を有しない者の出願)は拒絶理由 | 意匠法第17条第1号(第15条第1項において準用する特許法第38条)、同条第4号(冒認) |
| 登録後(無効理由) | 無効理由。ただし請求人は意匠登録を受ける権利を有する者に限られ、移転の登録があったときは無効理由から除かれる | 意匠法第48条第1項第1号・第3号、第2項ただし書 |
| 登録後(移転請求) | 意匠登録を受ける権利を有する者が移転を請求できる | 意匠法第26条の2 |
〔表8〕共同出願違反・冒認の段階ごとの扱い。
7. 試験での問われ方
| 試験種別 | 学習用の問いの例 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「冒認を理由とする意匠登録無効審判は何人も請求できる」の正誤 | 第48条第2項ただし書で「意匠登録を受ける権利を有する者に限り」 |
| 短答式 | 「移転を請求したときは、意匠権は初めから請求人に帰属していたものとみなす」の正誤 | 遡及するのは「移転の登録があつたとき」(第3項)。請求だけでは移らない |
| 短答式 | 「関連意匠の意匠権が放棄により消滅した後でも、基礎意匠の意匠権について移転を請求できる」の正誤 | 第2項:いずれかの消滅後は原則不可。例外は第49条により初めから存在しなかったとみなされた場合(後発的無効を除く) |
| 短答式 | 「共有に係る意匠権の持分の移転請求には他の共有者の同意が必要」の正誤 | 第4項で特許法第73条第1項の準用を排除 |
| 短答式 | 「移転の登録前から実施していた者は無償で通常実施権を有する」の正誤 | 第29条の3第2項:相当の対価を受ける権利がある |
| 論文式 | 冒認された真の権利者がとり得る手段(無効審判・移転請求・損害賠償など)と、第三者の実施の扱い | 第26条の2→移転登録→第48条かっこ書→第29条の3の順で書く |
| 口述 | 「意匠法第26条の2第2項の趣旨は」 | 重複した意匠権の発生防止(改正解説書) |
〔表9〕学習用の問いと確認点。出題実績や頻度の集計ではありません。
令和8年度短答式〔意匠〕全10問では、第26条の2の移転請求を直接問う肢はありません。関連する問9(公式正解1)の枝ホは、本意匠と関連意匠の分離移転を扱います。出典:公式問題・公式解答。正解番号は問題全体の答えです。
- 平成23年改正(平成24年4月1日施行)で導入。施行日前の出願には適用されない(改正解説書)。
- 対象は共同出願違反(第48条第1項第1号のうち特許法第38条違反)と冒認(第48条第1項第3号)だけ。他の無効理由では移転請求できない。
- 第48条とは3か所で連動:2つのかっこ書(移転登録後は無効理由から除外)と第2項ただし書(請求人適格の限定)。
- 関連意匠の特則(第2項)は、一方消滅後の重複した意匠権の発生を防ぐための規定。無効審決で初めからなかったとみなされたときだけ例外。
- 遡及効(第3項)とセットで、移転登録前の善意実施者を第29条の3が保護し、真の権利者は相当の対価を受ける。
- 特許法第74条・実用新案法第17条の2と骨格は同じだが、意匠法だけ第2項(関連意匠)があり、いっしょに移る補償金請求権は第60条の12第1項のみ。
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