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小学生でも分かる意匠法|意匠法第36条 特許法の準用(効力が及ばない範囲・共有・相続・放棄・登録の効果) ― 意匠権にも「届かない場所」と「みんなで持つときのルール」がある

小学生でもわかる意匠法 27:権利の制限・共有と・特許法の準用(第36条)

小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #27

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意匠法第36条は、たった1つの文で、特許法の5つの条文(第69条第1項・第2項、第73条、第76条、第97条第1項、第98条第1項第1号・第2項)を意匠権に「準用」しています。準用とは「特許権を意匠権と読み替えて、そのまま使う」という意味です。この記事では、準用される各条文の中身は特許法シリーズの記事にゆずり、意匠法ではどう読み替えるのか、意匠法が特許法のどの条文を準用していないのか(なぜか)、そして実用新案法第26条との違いに紙幅を割きます。

条文:意匠法第36条準用される条文:特許法第69条第1項・第2項、第73条、第76条、第97条第1項、第98条第1項第1号・第2項関連条文:意匠法第23条、第24条、第25条、第27条第4項、第29条〜第32条、第35条第3項、実用新案法第26条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

意匠権は強いけれど、「届かない場所」がある

「星の形の持ち手がついたコップ」のデザインで意匠権をもっている人は、ほかの人がそっくりなコップを作ったり売ったりするのを止められます。とても強い権利です。でも、どんな場面でも止められるわけではありません。意匠法は「ここには意匠権は届きませんよ」という場所を決めています。それが、特許法から借りてきているルールです。

  • 試験や研究のために使うとき……たとえば、コップの持ち手の強さを調べるために試作して実験する、というような場合です。
  • 日本をただ通りすぎるだけの船や飛行機にのっている物……外国の船が日本の港に立ち寄っただけで、その船の中の物にいちいち意匠権が働いたら、船が自由に通れなくなってしまいます。
  • 意匠登録出願をした時から、もう日本にあった物……出願より前から日本にある物には、あとから意匠権を主張できません。
意匠権のかさ 星の持ち手のコップ(似ているものもふくむ)を業として作る・売る…を止められる 試験・研究のため 持ち手の強さを調べる実験 → 意匠権は届かない 通りすぎる船・飛行機 外国の船が港に寄っただけ → 船で使う物には届かない 出願の時からある物 出願前から日本にあったコップ → その物には届かない 意匠権の効力が及ぶ範囲(かさの中) 効力が及ばない範囲(かさの外)

図は左右にスクロールできます。

【図1】意匠権の「かさ」と、かさが届かない3つの場所(特許法第69条第1項・第2項を意匠権に準用)。3つの箱は同じ大きさで並べており、優先順位や広さの差を表すものではありません。2026年9月時点の条文による。

意匠権を「みんなで持つ」ときのルール

友だち2人で一緒にデザインを考えて、2人で意匠権をもつこともあります(これを共有といいます)。このとき、次のようなルールになります。

自分の分(持分)を人にゆずる → 相手の同意がいる
自分でコップを作って売る → 同意はいらない(約束があれば別)
ほかの会社に「作っていいよ」と許す → 相手の同意がいる

別段の契約がなければ、自分で使うことができます。持分をゆずったり、他人に使う許可を出したりするときは、他の共有者の同意が必要です。

「なくなる」ときと、「登録しないと効かない」こと

意匠権をもっていた人が亡くなって、受けつぐ人(相続人)が決まった期間の中でだれも出てこなかったら、その意匠権は消えます。国のものになるのではなく、みんなが自由に使える状態になります。

また、意匠権をもっている人が「もういらない」と放棄することもできます。ただし、その意匠権を使わせてもらっている人(専用実施権者)や、担保にとっている人(質権者)がいるときは、その人たちの承諾がいります。勝手に手放すと、その人たちが困るからです。

そして、意匠権を人にゆずったり、放棄したりしたときは、特許庁の登録簿に登録しないと効力が出ません。意匠権は目に見えないので、「だれのものか」を登録簿で決めておく必要があるのです。

みんなで持つ (共有) 自分で使う:原則自由 契約で別の定めがなければ 譲渡・許諾には他共有者同意 受けつぐ人がいない (相続人不存在) 決まった期間に だれも名乗り出ない → 意匠権は消える いらないと手放す (放棄) 専用実施権者・質権者が いるときは、その人の いれば承諾がいる 登録が必要 (登録の効果) ゆずる・放棄は 登録しないと 効力が出ない

図は左右にスクロールできます。

【図2】意匠法第36条が特許法から借りている「4つの場面」(共有・相続人不存在・放棄・登録の効果)。

レベル1のまとめ

  • 意匠権は強いが、「試験・研究」「通りすぎる船・飛行機」「出願の時から日本にある物」には届かない。
  • みんなで持つ意匠権は、別段の契約がなければ自分で使えます。持分の譲渡や他人への実施許諾には、他の共有者の同意が必要です。
  • 受けつぐ人がいないと消える。手放す(放棄する)には関係者の承諾がいる。ゆずる・放棄は登録しないと効かない。

※「試験・研究」の範囲、共有で同意がいる行為の正確な一覧、放棄に承諾がいる人の範囲、登録が必要な事項の一覧は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

意匠法第36条 ― 1文で5つの条文を準用する

意匠法第36条(原文)
特許法第六十九条第一項及び第二項(特許権の効力が及ばない範囲)、第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、意匠権に準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

「準用する」とは、特許法の条文の中の「特許権」を「意匠権」に、「特許発明」を「登録意匠(及びこれに類似する意匠)」に、「特許出願」を「意匠登録出願」に読み替えて適用する、という意味です。意匠法第36条には明文の読替規定(「……とあるのは……と読み替える」)は置かれていないため、読み替えは準用の性質から当然に導かれるものとして扱われます。

flowchart LR
  A["意匠法第36条"] --> B["特許法第69条第1項・第2項
効力が及ばない範囲"] A --> C["特許法第73条
共有"] A --> D["特許法第76条
相続人がない場合の消滅"] A --> E["特許法第97条第1項
放棄"] A --> F["特許法第98条第1項第1号・第2項
登録の効果"] B --> B1["第1項:試験又は研究"] B --> B2["第2項第1号:通過船舶・航空機等"] B --> B3["第2項第2号:出願の時から日本国内にある物"] style A fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図3】意匠法第36条が準用する特許法の条文の相関図。凡例:緑=準用する側の条文(意匠法第36条)、白=準用される特許法の条文。2026年9月時点の条文による。

準用① 特許法第69条第1項・第2項(効力が及ばない範囲)の読み替え

特許法第69条第1項(原文)
特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。
特許法第69条第2項(原文)
特許権の効力は、次に掲げる物には、及ばない。
一 単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物
二 特許出願の時から日本国内にある物

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
特許法の文言 意匠法での読み方 意匠法での意味
特許権の効力 意匠権の効力 意匠法第23条の効力(登録意匠及びこれに類似する意匠の実施を専有)が及ばない
試験又は研究のためにする特許発明の実施 試験又は研究のためにする登録意匠(又はこれに類似する意匠)の実施 意匠の「実施」(意匠法第2条第2項)のうち、試験・研究目的のもの
単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物 (読み替えなし) 通過船舶・航空機そのもの、及びそれらに使用する物には意匠権が及ばない
特許出願の時から日本国内にある物 意匠登録出願の時から日本国内にある物 出願時に既に国内に存在していた「その物」には意匠権が及ばない

〔表1〕特許法第69条第1項・第2項の意匠法での読み替え表。

準用されない第3項:特許法第69条第3項(二以上の医薬を混合する医薬の発明等に係る特許権の効力の制限)は、意匠法第36条の準用対象に含まれていません。逐条解説(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1336頁)の意匠法第36条の解説には、第3項を準用しない理由についての記載は見当たりませんでした。特許法第69条第3項については、昭和50年改正で医薬の発明と医薬の混合方法の発明に特許を与えることにしたのに伴い、調剤に支障が生じないよう新設された規定だと説明されています(青本〔第22版〕278頁)。意匠では医薬の調剤行為が問題になる場面が想定しにくいため準用していない、というのは本記事作成者の整理です。

準用② 特許法第73条(共有)の読み替え

特許法第73条は3つの項からなります。以下は要旨です(原文は特許法シリーズ「特許法第73条 共有」をご参照ください)。

項 要旨(特許法) 意匠法での読み方
第1項 共有者は、他の共有者の同意を得なければ、持分の譲渡・持分を目的とする質権の設定ができない 意匠権の持分の譲渡・質権設定に他の共有者の同意が必要
第2項 共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないで特許発明の実施ができる 各共有者は、登録意匠及びこれに類似する意匠を、同意なしに実施できる(契約で別段の定めがあれば別)
第3項 共有者は、他の共有者の同意を得なければ、専用実施権の設定・通常実施権の許諾ができない 意匠権について専用実施権を設定し、又は通常実施権を許諾するには他の共有者の同意が必要

〔表2〕特許法第73条の各項の要旨と、意匠法での読み替え。

準用③ 特許法第76条(相続人がない場合の消滅)

特許法第76条(原文)
特許権は、民法第九百五十二条第二項の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、消滅する。

意匠権に読み替えると、「意匠権は、民法第952条第2項の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、消滅する」となります。民法上は相続人不存在の財産は最終的に国庫に帰属しますが(民法第959条)、特許法第76条はその例外として権利を消滅させる規定です。逐条解説は、特許権を消滅させて一般公衆に公開し、その特許発明の実施を容易にすることが政策上適切と考えられるからだと説明しています(青本〔第22版〕292頁)。意匠法第36条の解説には第76条の準用についての個別の説明は見当たりませんでしたが(同1336頁)、意匠権についても同じ規定が準用されます。

準用④ 特許法第97条第1項(放棄)

特許法第97条第1項(原文)
特許権者は、専用実施権者又は質権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その特許権を放棄することができる。

逐条解説は、令和3年改正で特許法第97条第1項が改正され、特許権の放棄に通常実施権者の承諾が不要になったことに伴い、同項を準用する意匠法でも意匠権の放棄に通常実施権者の承諾が不要になったと説明しています(青本〔第22版〕1336頁。改正の理由は特許法第97条の解説、同329頁)。

意匠法第36条が準用するのは第1項のみです。第2項(専用実施権の放棄)は意匠法第27条第4項で、第3項(通常実施権の放棄)は意匠法第28条第3項で、それぞれ別途準用されています(第28条第3項の準用内容は「意匠法第27条・第28条・第34条・第35条 専用実施権・通常実施権」の記事をご参照ください)。

準用⑤ 特許法第98条第1項第1号・第2項(登録の効果)

特許法第98条第1項第1号(原文)
特許権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、信託による変更、放棄による消滅又は処分の制限
特許法第98条第2項(原文)
前項各号の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。

第98条第1項の柱書は、各号に掲げる事項は「登録しなければ、その効力を生じない」と定めています(要旨。原文は特許法シリーズ「特許法第98条 登録の効果」をご参照ください)。意匠法第36条が準用するのは第1号(意匠権そのものについての事項)だけです。第2号(専用実施権)は意匠法第27条第4項で、第3号(質権)は意匠法第35条第3項で、それぞれ準用されています。

flowchart TB
  A["特許法第98条第1項の各号"] --> B["第1号:特許権の移転・信託による変更・放棄による消滅・処分の制限"]
  A --> C["第2号:専用実施権の設定・移転・変更・消滅・処分の制限"]
  A --> D["第3号:質権の設定・移転・変更・消滅・処分の制限"]
  B --> B1["意匠法第36条で意匠権に準用"]
  C --> C1["意匠法第27条第4項で専用実施権に準用"]
  D --> D1["意匠法第35条第3項で質権に準用"]
  style B1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
  style C1 fill:#FDF3E1,stroke:#B27A1F,color:#22303F
  style D1 fill:#FDF3E1,stroke:#B27A1F,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図4】特許法第98条第1項各号を、意匠法のどの条文が準用しているかの分岐図。凡例:緑=意匠法第36条が準用する部分(本記事の範囲)/橙=第36条以外の条文(第27条第4項・第35条第3項)が準用する部分。2026年9月時点の条文による。

意匠法第36条の準用 効果 例外・注意
特許法第69条第1項 試験又は研究のための実施に意匠権は及ばない 「試験又は研究」の範囲は解釈問題(→レベル3)
特許法第69条第2項第1号 通過船舶・航空機等に意匠権は及ばない 「単に……通過するに過ぎない」ことが要件
特許法第69条第2項第2号 出願の時から日本国内にある物に意匠権は及ばない その「物」に限られ、同じデザインの新たな製造には及ぶ
特許法第73条 共有者間の持分譲渡・質権設定・実施権設定には同意、実施は自由 実施の自由は契約で別段の定めが可能
特許法第76条 相続人不存在のとき意匠権は消滅 民法第952条第2項の期間内に権利主張者がない場合
特許法第97条第1項 専用実施権者・質権者がいれば承諾がないと放棄できない 通常実施権者の承諾は要件ではない(条文上)
特許法第98条第1項第1号・第2項 移転(一般承継を除く)等は登録が効力発生要件、一般承継は届出 専用実施権・質権は第27条第4項・第35条第3項

〔表3〕意匠法第36条の準用一覧(効果と例外)。

レベル2のまとめ

  • 意匠法第36条は、特許法第69条第1項・第2項、第73条、第76条、第97条第1項、第98条第1項第1号・第2項を意匠権に準用する。明文の読替規定はなく、「特許権→意匠権」等と読み替える。
  • 準用されるのは「意匠権そのもの」に関する部分。専用実施権・質権に関する部分は第27条第4項・第35条第3項が別に準用する。
  • 特許法第69条第3項(医薬の調剤)は準用されない。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 準用「しない」条文から見える意匠法の構造

受験生にとって重要なのは、「何を準用しているか」だけでなく「特許法の隣接条文のうち、何を準用していないか」です。意匠法は、特許法の条文のうち意匠に合わないものは準用せず、必要なものは自前の条文を置いています。

特許法の条文 内容 意匠法第36条での扱い 意匠法での対応
第69条第1項・第2項 試験研究・通過船舶等・出願時から国内にある物 準用 ―
第69条第3項 医薬の混合に係る調剤行為 準用なし 対応条文なし(意匠に医薬の調剤は想定されない)
第70条 特許発明の技術的範囲 準用なし 意匠法第24条(登録意匠の範囲等)が自前で規定
第71条 判定 準用なし 意匠法第25条(判定)が自前で規定
第71条の2 鑑定の嘱託 準用なし 意匠法第25条の2が自前で規定
第72条 他人の特許発明等との関係(利用・抵触) 準用なし 意匠法第26条が自前で規定
第73条 共有 準用 ―
第76条 相続人がない場合の消滅 準用 ―
第79条・第79条の2・第80条・第81条・第82条 先使用権・移転登録前の実施・中用権・満了後の通常実施権 準用なし 意匠法第29条・第29条の3・第30条・第31条・第32条が自前で規定(第29条の2は意匠法固有)
第97条第1項 特許権の放棄 準用 第2項・第3項は意匠法第27条第4項・第28条第3項で準用
第98条第1項第1号・第2項 特許権に関する登録の効果 準用 第2号・第3号は意匠法第27条第4項・第35条第3項で準用

〔表4〕特許法第69条〜第98条のうち、意匠法第36条が準用するもの・しないもの・意匠法の自前規定。「意匠法での対応」欄の対応関係は、逐条解説の意匠法第24条〜第26条・第29条〜第32条の解説(青本〔第22版〕1314〜1333頁。各条の趣旨で対応する特許法の条文を参照)で確認しました。

自前規定を置く理由(逐条解説の説明):意匠法第36条の解説自体は、特許法の準用条文を定めた規定であることと令和3年改正の影響を述べるにとどまり、準用する条文を選んだ理由の一般的な説明は見当たりませんでした(青本〔第22版〕1336頁)。個々の自前規定の解説には、次の説明があります。

  • 第24条(登録意匠の範囲):特許発明の範囲は特許請求の範囲の文言の記載に基づいて定められるが、意匠は意匠登録請求の範囲を文言で記載する方法をとっておらず、願書の記載と図面等に表された意匠に基づいて定められる(同1315頁)。
  • 第25条(判定):意匠権者は登録意匠に類似する意匠も実施できるので、類似する意匠の範囲についても判定を求めることができる(同1316頁)。
  • 第31条(意匠権等の存続期間満了後の通常実施権):特許法第81条と同趣旨だが、類似範囲も権利の内容に含む意匠権の特殊性から、意匠権相互間の抵触について規定している(同1332頁)。
  • 第29条の2(先出願による通常実施権):平成10年改正で追加された意匠法固有の規定(同1326〜1328頁。「意匠法第29条〜第32条 法定通常実施権」の記事参照)。

2. 「試験又は研究」の意匠権での位置づけ

特許法第69条第1項の「試験又は研究」の解釈は、特許法シリーズ「特許法第69条 特許権の効力が及ばない範囲」の記事に委ねます。意匠権に固有の論点として、次の点を押さえておきます。

  • 条文上、意匠法第36条は特許法第69条第1項をそのまま準用しており、意匠権について「試験又は研究」を狭める・広げる特別の文言はありません。
  • 特許庁の特許戦略計画関連問題ワーキンググループ第7回資料5は、特許の試験研究を特許性の調査、機能の調査、改良・発展を目的とする試験に整理しています。意匠法でも第36条が特許法第69条第1項を準用しますが、個々の行為が試験又は研究に当たるかは、その目的・内容に即して判断します。
  • 試験・研究のためであっても、試作品を業として譲渡する段階に至れば、それは「試験又は研究のためにする実施」ではなく、通常の実施として意匠権が及びます。逐条解説は特許法第69条第1項について、効力が及ばないのは試験又は研究のためにする実施に対してのみであり、試験又は研究の結果生産された物を業として販売する等の行為には当然特許権の効力が及ぶと解されると説明しています(青本〔第22版〕277頁)。
  • 逐条解説は、特許法第69条第1項の趣旨を、試験又は研究はもともと特許に係る物の生産・使用・譲渡等を目的とするものではなく技術を次の段階に進歩させることを目的とするもので、これにまで特許権の効力を及ぼすとかえって技術の進歩を阻害することになるから、と説明しています。また、特許権の効力は業としての実施以外には及ばない(第68条)ので多くの試験研究はそもそも効力の外にあるが、業としての試験研究もあり得ると考えて第1項を置いた、とも説明しています(同277頁)。
第36条は特許法第69条第1項を準用し、試験又は研究のためにする実施を効力の範囲から除外します。特許については特許性調査・機能調査・改良発展のための試験という整理が特許庁審議会資料にあります。これは特許発明についての整理であり、意匠への具体的な当てはめが同じになるとまでは述べません。第36条/特許庁「試験又は研究」の例外について

3. 通過船舶等と「出願の時から日本国内にある物」

号 要件 意匠での具体例(架空) 意匠権が及ばない範囲
第2項第1号 「単に日本国内を通過するに過ぎない」船舶・航空機、又はこれらに使用する機械・器具・装置その他の物 外国籍の貨物船が寄港した。その船体の形状、船内の椅子、計器のデザインが日本の登録意匠に類似 その船舶・航空機、及びそれらに使用する物。「通過」にとどまらない場合(日本国内で譲渡する等)は除外されない
第2項第2号 「意匠登録出願の時から日本国内にある物」 出願前から国内で使われていたコップがある(新規性喪失の例外の適用を受けた出願など) その「物」自体。同じデザインの物を新たに製造すれば意匠権が及ぶ

〔表5〕特許法第69条第2項各号の意匠権への当てはめ。

パリ条約との関係:逐条解説は、特許法第69条第2項第1号について、パリ条約第5条の3にも規定されているところであるが、国際交通の便宜を考えて規定したものと説明しています(青本〔第22版〕277頁)。パリ条約第5条の3は文言上「特許」について定めており、意匠権については日本の意匠法が特許法の規定を準用することで同様の扱いを及ぼしています(特許庁掲載のパリ条約第5条の3は「特許権の侵害とならない場合」と題し、一時的又は偶発的に入った船舶・航空機・車両での所定の発明の使用を対象としています)。
第2号と先使用権の違い:第2号(出願の時から日本国内にある物)は「その物」に意匠権が及ばないとする物的な制限であり、先使用による通常実施権(意匠法第29条)のように「事業の継続」を保護するものではありません。詳細は「意匠法第29条〜第32条 法定通常実施権」の記事をご参照ください。逐条解説は特許法第69条第2項第2号について、出願の時に存在する物にまで効力を及ぼすのは苛酷に過ぎるための規定だが、その物が出願前から存在することで発明が公知とされる場合や、所有者が先使用による通常実施権を取得する場合が多く、存在理由があるのは、その物を秘密に所持していて、その所持が実施又は実施の準備に当たらないような場合だと説明しています(青本〔第22版〕277頁)。

4. 共有マトリクス ― 同意の要否と意匠法固有の論点

共有者の行為 他の共有者の同意 根拠(意匠法第36条で準用) 備考
登録意匠又はこれに類似する意匠の実施 不要 特許法第73条第2項 契約で別段の定めをした場合を除く
持分の譲渡 必要 特許法第73条第1項 相続その他の一般承継は「譲渡」に含まれず、他の共有者の同意を要しない(青本〔第22版〕289頁)
持分を目的とする質権の設定 必要 特許法第73条第1項 ―
専用実施権の設定 必要 特許法第73条第3項 関連意匠がある場合は意匠法第27条第1項の同時設定要件も
通常実施権の許諾 必要 特許法第73条第3項 ―
差止請求(意匠法第37条)を単独で行う 共有者は単独で差止めを求める訴えを提起できる。令和8年度短答・意匠問3肢1がこの内容を述べ、公式正解は1。

〔表6〕意匠権が共有に係る場合の同意要否マトリクス。

意匠権(甲・丙の共有) 星の持ち手のコップ 共有者 甲 共有者 丙 甲が自分で製造販売 → 別段の契約がなければ同意不要 第三者 乙 通常実施権をもらいたい 甲が乙に許諾/甲が持分を譲渡 → 丙の同意が必要(第73条第1項・第3項) 甲が単独で差止請求 → 保存行為として単独請求可 条文で決まっている結論(特許法第73条) 意匠権の外にいる第三者 保存行為(民法第252条第5項)

図は左右にスクロールできます。

【図5】共有に係る意匠権の相関図。「自分で実施」は自由、「人に使わせる・ゆずる」は同意が必要。共有者は甲・丙の2名、第三者は乙1名に簡略化しており、3名以上の共有や持分割合は図示していません。2026年9月時点の条文による。

意匠法固有の論点 ― 関連意匠との関係:基礎意匠及びその関連意匠の意匠権は分離して移転できません(意匠法第22条第1項)。共有に係る意匠権の持分譲渡についても、基礎意匠と関連意匠の持分を分離して扱えるかは、意匠法第22条の趣旨との関係で検討が必要です。詳細は「意匠法第10条・第22条 関連意匠・その移転」の記事をご参照ください。
共有に係る意匠権でも、各共有者は単独で侵害の差止めを求める訴えを提起できます。令和8年度短答式・意匠問3はこの内容の肢1を正しいものとする公式解答を示しています。共有者全員でなければできない出願や拒絶審決取消訴訟と混同しないでください。公式問題・意匠問3肢1/公式解答・問3の正解1

5. 放棄・登録の効果 ― 「誰の承諾」「何を登録」の整理

場面 承諾が必要な者(条文上) 承諾が要件でない者 根拠
意匠権の放棄 専用実施権者、質権者 通常実施権者 意匠法第36条で準用する特許法第97条第1項
専用実施権の放棄 (意匠法第27条第4項で準用する特許法第97条第2項による。承諾を要する者の範囲は同項参照) ― 意匠法第27条第4項

〔表7〕放棄に承諾を要する者の整理。特許法第97条第1項は通常実施権者の承諾を放棄の要件としていない点に注意。

意匠権に関する事項 登録が効力発生要件か 根拠
移転(相続その他の一般承継によるものを除く) 要件 特許法第98条第1項第1号
相続その他の一般承継による移転 要件ではない(遅滞なく届出) 特許法第98条第2項
信託による変更 要件 特許法第98条第1項第1号
放棄による消滅 要件 特許法第98条第1項第1号
処分の制限 要件 特許法第98条第1項第1号
存続期間満了・登録料不納による消滅 登録は効力要件ではない 第98条第1項第1号に列挙されていない

〔表8〕意匠権について登録が効力発生要件となる事項(特許法第98条第1項第1号・第2項の準用)。

6. 実用新案法第26条との対比 ― 準用の「幅」がまったく違う

実用新案法にも同じ役割の条文(実用新案法第26条)があります。ところが、準用する特許法の条文の範囲が意匠法第36条よりはるかに広い点が、比較のポイントです。

実用新案法第26条(原文)
特許法第六十九条第一項及び第二項、第七十条から第七十一条の二まで(特許権の効力が及ばない範囲及び特許発明の技術的範囲)、第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第七十九条(先使用による通常実施権)、第七十九条の二(特許権の移転の登録前の実施による通常実施権)、第八十一条、第八十二条(意匠権の存続期間満了後の通常実施権)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、実用新案権に準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000123)、2026年9月参照。
特許法の条文 意匠法第36条 実用新案法第26条 違いの理由(整理)
第69条第1項・第2項(効力が及ばない範囲) 準用 準用 共通
第69条第3項(医薬の調剤) ― ― 意匠・考案(物品の形状等)には医薬の調剤が想定されない
第70条〜第71条の2(技術的範囲・判定・鑑定嘱託) ― 準用 意匠法は第24条・第25条・第25条の2に自前規定(意匠は意匠登録請求の範囲を文言で記載する方法をとらず、登録意匠の範囲は願書の記載と図面等で定まる。青本〔第22版〕1315頁)
第73条(共有) 準用 準用 共通
第76条(相続人不存在) 準用 準用 共通
第79条・第79条の2(先使用権・移転登録前の実施) ― 準用 意匠法は第29条・第29条の3に自前規定(第29条の3の趣旨は特許法第79条の2を参照。青本〔第22版〕1330頁)。これとは別に第29条の2(先出願による通常実施権)が意匠法固有
第81条・第82条(意匠権の存続期間満了後の通常実施権) ― 準用 意匠法は第31条・第32条に自前規定(類似範囲も権利の内容に含む意匠権の特殊性から、意匠権相互間の抵触も規定。青本〔第22版〕1332頁)
第97条第1項(放棄) 準用 準用 共通
第98条第1項第1号・第2項(登録の効果) 準用 準用 共通

〔表9〕意匠法第36条と実用新案法第26条の準用範囲の対比。「違いの理由」欄のうち青本の頁を付したものは逐条解説の説明、それ以外(第69条第3項の行)は本記事作成者の整理です。

覚え方のヒント:実用新案法は「特許法の親戚」なので、技術的範囲・判定・先使用権・中用権的な規定をまとめて準用します。意匠法は物品のデザインという別の対象を扱うため、これらを自前の条文で書き直し、第36条では「意匠に合わせて書き直す必要のないもの」だけを準用しています。ただし、実用新案法第26条は特許法第80条を準用していません。中用権は実用新案法第20条に独自規定を置いています。

7. 拒絶理由・無効理由との関係

意匠法第36条の準用規定 拒絶理由・無効理由か 備考
特許法第69条・第73条・第76条・第97条第1項・第98条の準用 該当しない いずれも設定登録後の意匠権の効力・帰属に関する規定であり、審査・審判で問題となる登録要件ではない
(参考)意匠登録を受ける権利が共有に係る場合の共同出願 拒絶理由・無効理由 意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条(拒絶理由は第17条第1号、無効理由は第48条第1項第1号に掲げられている。e-Gov法令API、2026年9月参照)。第36条ではなく第15条の問題(詳細は「意匠法第15条 特許法の準用」の記事)

〔表10〕意匠法第36条と拒絶理由・無効理由の関係。第36条自体は拒絶理由・無効理由を構成しない。

8. 試験での問われ方

試験種別 問われ方の傾向 気をつける点
短答式 「意匠権が共有に係る場合、各共有者は他の共有者の同意なく通常実施権を許諾できる」の正誤。「試験又は研究のための実施に意匠権は及ぶか」。「意匠法は特許法第70条を準用するか」 準用の有無を条文番号レベルで正確に。実用新案法第26条との違い(第70条〜第71条の2、第79条等)が問われやすい
論文式 共有意匠権者の一方が第三者に実施許諾した事例で、他の共有者が取り得る措置 同意のない許諾は特許法第73条第3項(準用)に反することを条文で示し、その後の効果(差止め等)に進む
口述 「意匠権の効力が及ばない範囲を挙げよ」「意匠法第36条が準用する特許法の条文を挙げよ」 5つの条文と、第69条第3項を準用しない点まで答えられるように

〔表11〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

意匠問3の公式正解は1です。肢1は、第三者と意匠権を共有する甲が、単独で侵害者に差止めの訴えを提起できるという記述です。 令和8年度・問題PDF/公式解答PDF。肢の説明と公式の正解番号を区別して確認しています。
レベル3のまとめ

  • 意匠法第36条は「意匠に合わせて書き直す必要のない」特許法の規定だけを準用し、技術的範囲・判定・法定通常実施権は意匠法第24条・第25条・第29条〜第32条に自前規定を置く。
  • 実用新案法第26条は特許法第70条〜第71条の2、第79条、第79条の2、第81条、第82条まで準用しており、意匠法第36条との差が短答式の狙い目になり得る。
  • 共有:実施は自由(契約で別段の定め可)、持分譲渡・質権設定・実施権の設定許諾は同意が必要。単独の差止請求の可否は第36条の外の問題。
  • 放棄には専用実施権者・質権者の承諾。移転(一般承継を除く)・放棄等は登録が効力発生要件、一般承継は届出。

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確認した関連一次資料:パリ条約第5条の3/特許戦略計画関連問題WG第7回資料5。

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