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小学生でも分かる意匠法|意匠法第14条 秘密意匠 ― 登録したデザインを最長3年「ひみつ」にできる制度

小学生でもわかる意匠法 10:秘密意匠(第14条)

小学生でも分かる意匠法 / A. 登録要件・意匠 #10

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意匠登録をすると、ふつうはデザインが意匠公報で世の中に公開されます。でも「発売前に新商品のデザインを見られたくない」ということがあります。意匠法第14条は、意匠権の設定登録の日から3年以内の期間を決めて、そのデザインを秘密にしてもらえる制度(秘密意匠)です。ただし、ひみつにしている間は、権利を使うときに特別なルール(意匠法第37条第3項・第40条ただし書)がかかり、公報への掲載のしかたも変わります(意匠法第20条第4項)。

条文:意匠法第14条(第1項〜第4項)関連条文:意匠法第20条第3項・第4項、第37条第3項、第40条ただし書、第42条第1項、第60条の9審査基準:直接の該当節なし(意匠審査基準 第V部 関連意匠にも言及なし)参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「登録」と「公開」はセットが原則

あなたが「新しい形のスマホケース」のデザインを考えて意匠登録をしたとします。意匠権ができると、特許庁は「こういうデザインが登録されました」と意匠公報という本(今は電子データ)に図面をのせて、みんなに知らせます。これは「ここはこの人のなわばりですよ」と世の中に示すためです。

でも、あなたの会社は来年の春に発売する予定で、それまでデザインをライバルに見られたくないかもしれません。公報に図面がのると、発売前にデザインがばれてしまいます。

「3年までなら、ひみつにしていいよ」

そこで意匠法は、「登録はするけれど、図面などは最長3年間ひみつにしておいてください」とお願いできる制度を用意しました。これが秘密意匠です。ひみつにする期間は、意匠権ができた日(設定登録の日)から数えて3年以内で、自分で決めます。あとから「もっと長く」「もっと短く」に変えることもできます(ただし3年をこえることはできません)。

ふつうの意匠登録 意匠公報に掲載(図面等を含む) 出願 設定登録=意匠権発生

秘密意匠(第14条第1項の請求をした場合) 意匠公報に掲載(氏名・番号等のみ) 図面等を掲載(第20条第4項) 秘密期間(最長3年)図面等はのらない 出願 (請求のタイミング①) 設定登録=意匠権発生 (第1年分登録料納付と同時=②) 指定期間の経過

丸=時点(出願・登録・期間の経過) 帯=秘密期間 ひし形=意匠公報への掲載

図は左右にスクロールできます。

【図1】ふつうの意匠登録と秘密意匠のタイムライン。秘密意匠でも、意匠権は設定登録の日にできる。※秘密期間中でも「登録されたこと」(意匠権者の氏名又は名称、出願番号、登録番号等)は意匠公報に掲載される(意匠法第20条第3項第一号〜第三号・第五号。→レベル3)。(2026年9月時点の意匠法による)(時間軸は縮尺なし)

ひみつにしている間の「代わりのルール」

ひみつにしているデザインは、ほかの人には見えません。だから、まねした人に「やめろ」と言うときは、まず特許庁のはんこ(証明)つきの書類を見せて警告してからでないと、差止め(やめさせること)を求められません。また、ふつうは「まねした人は不注意(過失)だったはず」と決めつけられるのですが、秘密意匠ではそうなりません。見えないものをまねしないように気をつけろとは言えないからです。

発売前の新型スマホケース → 秘密意匠で発売まで図面を隠す
流行が変わりやすいバッグ → ライバルに先に見られないよう秘密に
秘密にしても意匠権は登録日からある(権利がなくなるわけではない)
レベル1のまとめ

  • 秘密意匠=登録はするけれど、図面などを設定登録の日から最長3年間ひみつにできる制度。
  • お願いできるタイミングは「出願のとき」か「1年目の登録料を払うとき」。
  • ひみつの間に権利を使うには、証明つき書類で警告してからでないと差止めできない。「不注意のはず」の決めつけもない。

※請求できる人、書面の記載事項、特許庁長官が秘密を開示する場合、公報にのる事項の区別は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第1項 ― 秘密にすることの請求

意匠法第14条第1項(原文)
意匠登録出願人は、意匠権の設定の登録の日から三年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
要素 条文の語 ポイント
だれが 意匠登録出願人 請求権者は「出願人」(第3項の延長・短縮は「意匠登録出願人又は意匠権者」)
期間の起算点 意匠権の設定の登録の日から 出願日ではなく設定登録の日。請求は出願時にもできるが、期間は登録日から数える
期間の上限 三年以内の期間を指定して 上限3年。具体的な期間は請求人が指定する
何を その意匠を秘密にすること 秘密になるのは「意匠」(図面等の内容)。登録の事実自体は秘密にならない(→第20条第4項)

〔表1〕第14条第1項の要素分解。

第2項 ― 請求の時期と書面

意匠法第14条第2項柱書(原文)
前項の規定による請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した書面を意匠登録出願と同時に、又は第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付と同時に特許庁長官に提出しなければならない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。各号の原文は、第一号「意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所」、第二号「秘密にすることを請求する期間」。
請求できるタイミング 条文の語 だれが請求することになるか 備考
①出願時 意匠登録出願と同時に 意匠登録出願人 出願と「同時」。出願後・登録料納付前の中間の時期には請求できない(条文上、この2つの時期に限定されている)
②第1年分登録料納付時 第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付と同時に 意匠登録出願人(設定登録前なのでまだ意匠権者ではない) 登録査定後、設定登録の前。第1年分の登録料の納付期限は登録料の記事(B #19)参照

〔表2〕秘密請求ができる2つのタイミング。

出願 登録査定 第1年分の 登録料納付 設定登録 指定期間の 経過

秘密にすることの請求(第14条第2項) ①出願と同時に請求 (この間は請求できない) × ②第1年分の登録料納付と同時に請求

秘密期間(第14条第1項・第3項) 秘密期間(第14条第1項) 最長3年 延長・短縮の請求(第14条第3項) 任意

意匠公報への掲載(第20条第3項・第4項) 氏名・番号等(第1〜3号・第5号) 図面等(第4号)

丸=時点 帯=期間(できる範囲) × ×=請求できない期間 ひし形=公報掲載

図は左右にスクロールできます。

【図2】秘密意匠の請求時期と秘密期間(手続名を左、期間を横棒にしたガント型)。請求できるのは「①出願と同時」「②第1年分の登録料の納付と同時」の2つの時点だけで、その中間の時期には請求できない(意匠法第14条第2項)。延長・短縮の請求(第14条第3項)は秘密期間中の場面を示したもので、請求権者は「意匠登録出願人又は意匠権者」(→本文)。凡例は図中に記載。(2026年9月時点の意匠法による)(時間軸は縮尺なし)

第3項 ― 期間の延長・短縮

意匠法第14条第3項(原文)
意匠登録出願人又は意匠権者は、第一項の規定により秘密にすることを請求した期間を延長し又は短縮することを請求することができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

延長後の期間も、第1項の「設定の登録の日から三年以内」の枠の中に収まる必要があります。逐条解説も、第1項が期間を3年以内という短期間に限定したのは余りに長い期間を認めると権利者に過度の保護を与えることになるからであり、この期間は第3項によって延長・短縮することができるものの、意匠を秘密にすることは設定登録の日から3年以内の期間に限られる、と説明しています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1295頁)。なお第3項の請求権者は「意匠登録出願人又は意匠権者」であり、第1項の「意匠登録出願人」より広い点に注意してください。

第4項 ― 特許庁長官が秘密意匠を示さなければならない場合

意匠法第14条第4項柱書(原文)
特許庁長官は、次の各号の一に該当するときは、第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠を意匠権者以外の者に示さなければならない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
号 原文 場面
第一号 「意匠権者の承諾を得たとき。」 権利者自身がよいと言った場合
第二号 「その意匠又はその意匠と同一若しくは類似の意匠に関する審査、審判、再審又は訴訟の当事者又は参加人から請求があつたとき。」 争いの当事者・参加人が、内容を知らないと手続を進められない場合
第三号 「裁判所から請求があつたとき。」 裁判所が必要とする場合
第四号 「利害関係人が意匠権者の氏名又は名称及び登録番号を記載した書面その他経済産業省令で定める書面を特許庁長官に提出して請求したとき。」 利害関係人が所定の書面を提出した場合

〔表3〕第14条第4項各号。「示さなければならない」=長官の義務。

第4項第四号の「経済産業省令で定める書面」:意匠法施行規則第12条は「意匠法第十四条第四項第四号の経済産業省令で定める書面は、利害関係人であることを証明する書面とする。」と定めています。出典:e-Gov法令検索(意匠法施行規則、法令ID 335M50000400012)、2026年9月参照。
手続の細目(意匠法施行規則):秘密意匠に関する手続の細目は、意匠法施行規則に次のように置かれています。いずれも e-Gov法令検索(法令ID 335M50000400012)、2026年9月参照。

  • 第9条第1項:「意匠登録出願について意匠法第十四条第一項の規定による請求をしようとする者は、当該意匠登録出願の願書に必要な事項を記載して同条第二項各号に掲げる事項を記載した書面の提出を省略することができる。」つまり出願と同時に請求する場合は、願書への記載で第2項の書面を省略できます。
  • 第10条(見出し「秘密意匠」):「意匠法第十四条第一項の規定による請求をするときは、願書に添付すべき図面その他の物件を密封し、かつ、「秘密意匠」と朱書しなければならない。」
  • 第11条:「意匠法第十四条第三項の規定による秘密にすることを請求した期間を延長し又は短縮することの請求は、様式第十によりしなければならない。」
flowchart LR
  A["意匠登録出願人"] -- "第1項:3年以内の期間を指定して請求
(出願時 or 第1年分登録料納付時)" --> B["秘密意匠"] A2["意匠登録出願人
又は意匠権者"] -- "第3項:延長・短縮の請求" --> B B -- "第4項:長官が示す
(承諾/当事者等/裁判所/利害関係人)" --> C["意匠権者以外の者"] B -- "第20条第4項:期間経過後
遅滞なく図面等を公報掲載" --> D["一般公開"]

図は左右にスクロールできます。

【図3】第14条の各項の相関図。

レベル2のまとめ

  • 第1項:出願人が、設定登録の日から3年以内の期間を指定して秘密を請求できる。
  • 第2項:書面を「出願と同時」又は「第1年分の登録料の納付と同時」に長官へ提出。
  • 第3項:出願人又は意匠権者が期間の延長・短縮を請求できる。
  • 第4項:承諾・当事者等の請求・裁判所の請求・利害関係人の書面請求の4つの場合、長官は秘密意匠を示さなければならない。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 公報掲載の特則(意匠法第20条第3項・第4項)

意匠法第20条第3項柱書・各号(原文)
前項の登録があつたときは、次に掲げる事項を意匠公報に掲載しなければならない。

一「意匠権者の氏名又は名称及び住所又は居所」/二「意匠登録出願の番号及び年月日」/三「登録番号及び設定の登録の年月日」/四「願書及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本の内容」/五「前各号に掲げるもののほか、必要な事項」
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第20条第4項(原文)
第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に関する前項第四号に掲げる事項は、同項の規定にかかわらず、第十四条第一項の規定により指定した期間の経過後遅滞なく掲載するものとする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
第20条第3項の事項 通常の意匠 秘密意匠
第一号 意匠権者の氏名等 設定登録時に掲載 設定登録時に掲載(秘密にならない)
第二号 出願番号・年月日 設定登録時に掲載 設定登録時に掲載(秘密にならない)
第三号 登録番号・設定登録年月日 設定登録時に掲載 設定登録時に掲載(秘密にならない)
第四号 願書及び図面等の内容 設定登録時に掲載 指定期間の経過後遅滞なく掲載(第20条第4項)
第五号 その他必要な事項 設定登録時に掲載 設定登録時に掲載

〔表4〕秘密意匠で掲載が遅れるのは第20条第3項第四号(願書・図面等の内容)だけ。第三者は「誰の、何番の意匠が登録されたか」は知ることができる。

gantt
    title 秘密意匠の公報掲載(秘密期間を3年と指定した例)
    dateFormat YYYY-MM
    axisFormat %Y-%m
    section 公報掲載
    第1〜3号・第5号(氏名・番号等)の掲載 :milestone, m1, 2026-04, 0d
    第4号(図面等)を掲載 :milestone, m2, 2029-04, 0d
    section 秘密期間
    指定期間(設定登録の日から3年) :a1, 2026-04, 2029-04
    section 権利
    意匠権(設定登録日から発生・存続) :a2, 2026-04, 2030-04

図は左右にスクロールできます。

【図4】秘密期間と公報掲載のタイムチャート(設定登録を2026年4月、秘密期間3年とした架空の例。意匠権は出願日から25年で満了するため図の右端は省略)。凡例:ひし形(milestone)=公報掲載の時点/横棒=期間。(2026年9月時点の意匠法による)(時間軸は縮尺なし)

2. 侵害場面の特則① ― 差止請求の警告要件(意匠法第37条第3項)

意匠法第37条第1項(原文)
意匠権者又は専用実施権者は、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
意匠法第37条第3項(原文)
第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権者又は専用実施権者は、その意匠に関し第二十条第三項各号に掲げる事項を記載した書面であつて特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、第一項の規定による請求をすることができない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
要件 内容 注意点
主体 秘密意匠に係る意匠権者又は専用実施権者 通常実施権者は差止請求権をもたない(第37条第1項の主体ではない)
書面の内容 第20条第3項各号に掲げる事項(氏名・番号・図面等の内容を含む)を記載した書面 秘密のため公報に図面がないので、書面で内容を示す
書面の証明 特許庁長官の証明を受けたもの 権利者が勝手に作った書面では足りない
行為 提示して警告した後でなければ 警告が差止請求の前提要件。警告前の差止請求は認められない
対象となる請求 第1項の規定による請求(差止め・予防) 第2項の廃棄等の請求は「前項の規定による請求をするに際し」行うものなので、条文構造上、第1項の請求ができなければ行えない(第37条第2項は第1項の請求に際して廃棄・除却等を請求する規定)

〔表5〕第37条第3項の要件分解。

3. 侵害場面の特則② ― 過失の推定の除外(意匠法第40条ただし書)

意匠法第40条(過失の推定)(原文)
他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。ただし、第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
請求の種類 通常の意匠 秘密意匠(秘密期間中)
差止請求(第37条第1項) 侵害又はそのおそれがあれば請求可 長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければ請求できない(第37条第3項)
廃棄・除却等の請求(第37条第2項) 第1項の請求に際して請求可 第1項の請求ができる状態(警告後)で請求可(要旨)
損害賠償請求(民法第709条) 過失が推定される(第40条本文) 過失は推定されない(第40条ただし書)。権利者側が相手方の故意・過失を立証する必要がある
損害額の推定(第39条) 適用あり 条文上、秘密意匠を除外する規定はない(過失の立証が別途必要)
侵害の成否(第23条の効力) 登録意匠・類似意匠の業としての実施は侵害 同じ。秘密でも意匠権の効力自体は制限されない

〔表6〕秘密意匠の侵害場面での取扱いの対比。秘密なのは「意匠の内容」であり、権利の効力(第23条)は同じである点に注意。

青本〔第22版〕1338頁は、秘密意匠の内容が公示されていないのに善意の実施者へいきなり差止めを請求するのは酷であるため、第37条第3項の警告を必要としたと説明しています。同1347頁は、内容が直ちに公告されない間の侵害について過失を推定するのも酷であるため、第40条ただし書が例外を設けたと説明しています。秘密意匠では、権利者が過失を立証することになります。

4. 国際意匠登録出願には適用されない(意匠法第60条の9)

ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際意匠登録出願については、意匠法第60条の9(秘密意匠の特例)の「国際意匠登録出願の出願人については、第十四条の規定は、適用しない。」により、第14条の規定は適用されません(出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照)。その理由について逐条解説は、ジュネーブ改正協定第10条の規定により国際登録はWIPO国際事務局による国際公表がされるため、国際意匠登録出願もその審査の前に国際公表されることが前提となるところ、既に国際公表されている以上その内容を秘密にすることはそもそも不可能であるから、国際意匠登録出願の出願人については第14条を適用しないこととした、と説明しています(青本〔第22版〕1392頁)。

5. 関連意匠・他制度との関係

論点 整理 根拠
秘密意匠を本意匠とする関連意匠 本意匠が秘密意匠であっても、関連意匠の登録要件(本意匠の出願日以後・出願日から10年を経過する日前)を満たせば関連意匠の登録は可能。秘密であることは第10条第1項の要件に含まれていない 意匠法第10条第1項(原文は関連意匠の記事参照)
秘密意匠と新規性 秘密期間中は図面等が公報に掲載されないため、「刊行物に記載」(第3条第1項第二号)には当たらないと一般に理解される。ただし後願排除は第9条(先願)・第3条の2で別途判断される 意匠法第3条第1項、第3条の2、第9条(青本〔第22版〕意匠法第14条の解説には、秘密意匠と刊行物該当性についての記載は見当たりませんでした)
秘密意匠と出願公開 意匠法には出願公開制度そのものがない。秘密意匠は「登録後の公報掲載」を遅らせる制度であり、出願公開の話ではない 意匠法第20条
秘密意匠と登録料 秘密請求は登録料の減免・猶予とは無関係。請求時期の一つが「第1年分の登録料の納付と同時」であるにすぎない 意匠法第14条第2項、第42条第1項

〔表7〕秘密意匠と他制度の関係。

6. 特許法・実用新案法との対比

項目 意匠法 特許法 実用新案法
出願内容を秘密にする制度 あり(第14条 秘密意匠) なし なし
出願公開 なし あり(出願日から1年6月。特許法第64条) なし(無審査で設定登録・公報掲載)
権利発生後の内容公開 設定登録後に意匠公報。秘密意匠は図面等のみ遅延(第20条第4項) 特許公報(特許法第66条第3項) 実用新案公報(実用新案法第14条第3項)
過失の推定 あり。秘密意匠は除外(第40条ただし書) あり(特許法第103条) なし(過失の推定を定める特許法第103条は、特許法の準用を定める実用新案法第30条の準用対象に含まれていない)
差止請求の前提となる警告 秘密意匠のみ必要(第37条第3項) 不要 実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ権利行使できない(実用新案法第29条の2)

〔表8〕三法の対比。実用新案法第29条の2の「評価書提示警告」と意匠法第37条第3項の「証明書面提示警告」は、いずれも「警告が権利行使の前提」という点で似ているが、趣旨も対象も異なる。条文の裏付け:特許法第64条第1項(出願公開)、同第66条第3項(特許公報への掲載)、同第103条(過失の推定)、実用新案法第14条第3項(実用新案公報への掲載)、同第29条の2(実用新案技術評価書の提示)、同第30条(特許法の準用。第103条は含まれない)。いずれも e-Gov法令検索、2026年9月参照。

7. 試験での問われ方

試験種別 学習で整理したい論点 気をつける点
短答式 「請求権者は誰か(出願人/意匠権者)」「請求時期(出願と同時/第1年分登録料納付と同時)」「期間の上限(登録日から3年)」「延長・短縮の可否」「公報に何が載るか」「警告なしに差止請求できるか」「過失が推定されるか」「国際意匠登録出願に適用があるか」の正誤 起算点は「設定登録の日」。第1項の請求権者(出願人)と第3項の請求権者(出願人又は意匠権者)の違い。「登録の事実」は秘密にならない
論文式 侵害事例で被告が「秘密意匠なので過失がない」と主張する場面、原告が差止請求をする際の警告要件の検討 第37条第3項(差止め)と第40条ただし書(損害賠償)を分けて書く。第23条の効力自体は制限されないことを明示
口述 「秘密意匠制度の趣旨」「秘密意匠の権利行使の特則を述べよ」 第14条第1項を原文で言えるように。特則は「20条4項・37条3項・40条ただし書」の3点セット

〔表9〕学習時の論点整理。実際の出題例は下記の過去問紹介に示しています。

関連する過去問(令和8年度 弁理士試験 短答式〔意匠〕):

  • 問9は「包装用びんの本意匠と関連意匠についての登録に関し、正しいものはいくつあるか」を問う問題で、その枝(ハ)が本意匠が秘密意匠である場合に関する枝です。本記事の「秘密意匠を本意匠とする関連意匠」(表7)と合わせて確認してください。
  • 問3は「腕時計の意匠権侵害訴訟に関する説明として、正しいものはどれか」を問う問題で、その枝5が侵害行為についての過失に関する枝です。第40条ただし書との関係で確認してください。

出典:特許庁公表「令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験 問題」(2026年9月参照)。本記事では正解は記載していません。

8. 逐条解説(青本)が説明する第14条の趣旨

特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1294頁は、秘密意匠制度の趣旨を次のように説明しています。まず、自己の創作を社会に公開した代償として独占権が与えられるという産業財産権制度の本来の趣旨からすれば、秘密意匠を認めるのは疑問だという意見もある。しかし、意匠を創作したもののその実施化にまだ取りかからないという場合には、先願としての出願を確保しておく必要がある一方で、商品の販売前に意匠公報の発行によって意匠が公開されると商品の広告や販売計画に支障を来す場合があり、このような場合にこの規定が活用されている、と説明しています。また、意匠登録を受けて意匠公報に掲載されると、その出願をした業者の将来の意匠の傾向を他の業者に知られ、その意匠を基に転用したような意匠を作り出されるおそれがある、とも述べています。

三法の違いについて、青本〔第22版〕1294頁から1295頁は、技術の上に技術を積み重ねるという構成をとる特許法・実用新案法では独占権の対象を一般に秘密にしておくことは許されないが、意匠法は同じく産業の発達を目的としながら美的観点からその目的を達成しようとするものであるため、例外的に秘密意匠制度が認められると考えられる、と説明しています。表8で特許法・実用新案法に秘密制度がないことの背景にあたる説明です。

各項について、青本〔第22版〕1295頁は次のように説明しています。第1項が期間を3年以内という短期間に限定したのは、余りに長い期間を認めるのは権利者に過度の保護を与えることになるからであり、この期間は第3項で延長・短縮できるが、意匠を秘密にすることは設定登録の日から3年以内の期間に限られる。第2項が記載事項を出願人の氏名・住所と秘密にすることを請求する期間だけにしたのは、意匠についての詳細は既に提出されている願書の記載から明らかだからであり、重点は期間の記載にある。

第4項についても同じ頁で、第二号は例えば秘密意匠の後願であるとの理由により出願を拒絶された場合の出願人から請求があったときを指し、第三号はその例で出願人が拒絶をすべき旨の審決に不服で裁判所に出訴した場合に、審理の必要上裁判所が請求するときなどが該当する、と説明しています。第四号については、秘密を請求した意匠権者は第37条第3項により警告した後でなければ差止請求権を行使できないため、意匠権侵害であるとして警告を受けた者が秘密意匠の詳細を知ることができるようにするために設けられた、としています。さらに、第2項に「第1年分の登録料の納付と同時」が加えられた平成18年改正については、審査の早期化に伴い、審査が出願時の予想よりも早期に終了した結果、秘密意匠の請求の必要が生じたような事態に対処できるようにするためである、と説明しています。

なお、青本〔第22版〕の第14条の〔字句の解釈〕は、秘密意匠について、意匠公報の掲載事項に関しては第20条第4項・第66条第3項に、権利侵害に関しては第37条第3項に規定がある旨を示しています。第63条(証明等の請求)の〔字句の解釈〕(青本〔第22版〕1421頁)も、秘密意匠については第14条のほか第20条第4項・第37条第3項・第40条ただし書・第66条第3項を参照するよう案内しています。本記事の「3点セット」(第20条第4項・第37条第3項・第40条ただし書)は、これに第66条第3項(協議不成立等により拒絶が確定した出願の公報掲載の特例)を加えたものにあたります。

出典の時点:逐条解説〔第22版〕は令和4年10月刊行です。本記事の条文・手続の説明は、2026年9月の現行条文も照合しています。
レベル3のまとめ

  • 秘密になるのは第20条第3項第四号(願書・図面等の内容)だけ。氏名・番号等は設定登録時に公報掲載され、図面等は指定期間経過後遅滞なく掲載(第20条第4項)。
  • 差止請求は、第20条第3項各号の事項を記載し長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければできない(第37条第3項)。
  • 損害賠償では過失が推定されない(第40条ただし書)。損害額の推定(第39条)や意匠権の効力(第23条)自体は制限されない。
  • 国際意匠登録出願には第14条の適用がない(第60条の9)。
  • 特許法・実用新案法に秘密制度はない。実用新案法の評価書提示警告(第29条の2)とは趣旨が異なる。

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