小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #34
お店の目じるしをまねされたとき、「やめてください」と言える権利が商標法第36条です。そして、にせものを売る前の「じゅんび」の段階でも止められるようにしたのが商標法第37条です。この記事では、2つの条文を、パン屋さんのたとえから始めて、条文の部品、号ごとの一覧、特許法との構造のちがいまで、はしごをのぼるように見ていきます。
LEVEL 1イメージでつかむ
目じるしをまねされたら、「やめて」と言える
町に「ほしぞらパン」というパン屋さんがあります。ふくろには、星のマークと「ほしぞらパン」の名前がついています。これがお店の「目じるし」です。ほしぞらパンは、この目じるしを国に登録(とうろく)しています。登録した目じるしのことを、法律では「登録商標(とうろくしょうひょう)」とよびます。
ある日、べつの人が、そっくりの目じるしをつけたパンを売りはじめました。お客さんは「ほしぞらパンのパンだ」とまちがえて買ってしまいます。このように、人の登録した目じるしを勝手に使って、持ち主の権利をふみにじることを「侵害(しんがい)」といいます。
このとき、ほしぞらパンは、相手に次の3つのことを言えます。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:①やめて(法律のことば:停止)
- 青緑の枠:②やらないで(法律のことば:予防)
- 藍の枠:③すてて(法律のことば:廃棄・除却)。①か②といっしょにだけ言える
【図1】差止請求権の3つの中身(商標法第36条をもとに本記事作成者が作成した模式図。「ほしぞらパン」は架空のお店です)。
川の下流で止めるだけでは、おそい
にせもののパンがお店にならぶまでには、いくつかの「じゅんび」があります。にせのシールを作る。シールを持っておく。ふくろにはる。はったパンを、売るために持っておく。そして売る。これは、川が上流から下流へ流れていくのに似ています。
「売る」ところ(下流)だけを止めても、上流ににせシールが山ほど残っていたら、またすぐに、にせものが流れてきます。そこで商標法は、上流の「じゅんび」も、「侵害したのと同じにあつかう」と決めました。これが商標法第37条です。
図は左右にスクロールできます。
- 青緑の枠:にせものを売る前の「じゅんび」の段階
- 橙の枠:売るまであと一歩の段階
- 赤の枠:にせものを売る段階(お客さんにとどく)
【図2】にせものができるまでの流れと、商標法第37条が止める「上流」(本記事作成者が作成した模式図。シール・型は架空の例で、条文の言葉を単純化しています)。
「そっくり」だけでなく「にている」も止められる
もうひとつ大事なことがあります。まねをする人は、まったく同じ目じるしではなく、少しだけ変えた「にている目じるし」を使うことがあります。たとえば「ほしぞらパン」に対して「ほしそらパン」のような名前です(どちらも架空の名前です)。商標法第37条は、この「にている目じるし」を「にている商品」に使うことも、侵害したのと同じにあつかいます。くわしくは、この連載の#24(商標権の効力)で説明しています。
- 登録した目じるしをまねされたら、「やめて」「やらないで」と言える。いっしょに「すてて」とも言える(商標法第36条)。
- にている目じるしを使うことや、にせものの「じゅんび」も、侵害したのと同じにあつかう(商標法第37条)。
- 上流で止めるから、にせものがお客さんにとどく前にふせげる。
※ 「やめて」と言えるのはだれか、「すてて」だけを単独で言えるか、どの「じゅんび」が当てはまるか(「売るために」などの目的が必要です)は、正確には条件があります(→レベル3)。また、目じるしとして使っていない場合や、本物の商品を外国から持ってきた場合など、侵害にならないこともあります(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第36条 ― 差止請求権は2つの項でできている
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
第2項
商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
| 部品 | 第1項の文言 | 意味(中学生向け) |
|---|---|---|
| だれが | 「商標権者又は専用使用権者」 | 商標権を持っている人、または、その商標を独占して使える権利(専用使用権)をもらった人 |
| だれに | 「侵害する者又は侵害するおそれがある者」 | いま侵害している人と、これから侵害しそうな人の両方 |
| 何を | 「その侵害の停止又は予防」 | いまの侵害をやめさせること(停止)と、これからの侵害をふせぐこと(予防) |
| どうなる | 「請求することができる」 | 相手に求めることができる。応じなければ裁判所に訴えることになる |
〔表1〕商標法第36条第1項を部品に分けた表。
| 項 | 役割 | 請求の中身 | 注意する文言 |
|---|---|---|---|
| 第1項 | 差止請求の本体 | 侵害の「停止」、侵害の「予防」 | 「侵害するおそれがある者」もふくむ |
| 第2項 | 本体にくっつく請求 | 「侵害の行為を組成した物の廃棄」「侵害の行為に供した設備の除却」「その他の侵害の予防に必要な行為」 | 「前項の規定による請求をするに際し」 |
〔表2〕商標法第36条の項ごとの役割。
flowchart TB
A["商標権者 又は 専用使用権者"] --> B{"相手は
侵害する者 か
侵害するおそれがある者 か"}
B -- "侵害する者" --> C["第36条第1項
侵害の停止を請求"]
B -- "侵害するおそれがある者" --> D["第36条第1項
侵害の予防を請求"]
B -- "どちらでもない" --> X["差止請求はできない"]
C --> E["第36条第2項
第1項の請求をするに際し"]
D --> E
E --> F["侵害の行為を組成した物の廃棄"]
E --> G["侵害の行為に供した設備の除却"]
E --> H["その他の侵害の予防に必要な行為"]
style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:差止請求ができる結論
- 赤の箱:差止請求ができない結論
【図3】商標法第36条の請求の流れ(条文を整理して本記事作成者がフロー化したもの)。
第37条 ― 8つの号を原文で読む
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
第1号
指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
第2号
指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
第3号
指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
第4号
指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
第5号
指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
第6号
指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
第7号
指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
第8号
登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
「みなす」とは、「本当は別のものだが、法律上は同じものとしてあつかう」という意味です。第37条の行為は、第25条の「登録商標を指定商品・指定役務に使用する」そのものではありません。それでも、商標権(又は専用使用権)の侵害として同じようにあつかう、というのが柱書の役割です。
| 号 | 対象になる物 | 目的を示す文言 | 行為 | ひとことで |
|---|---|---|---|---|
| 第1号 | ―(商標の使用そのもの) | ― | 類似範囲での「使用」 | いわゆる禁止権(講学上の呼称。詳細は#24) |
| 第2号 | 商標を付した商品(商品の包装に付したものをふくむ) | 「譲渡、引渡し又は輸出のために」 | 所持 | 売るため・輸出するために持っている |
| 第3号 | 役務の提供を受ける者の利用に供する物に商標を付したもの | 「これを用いて当該役務を提供するために」 | 所持、輸入 | 自分がサービスに使うために持つ・輸入する |
| 第4号 | 同上 | 「これを用いて当該役務を提供させるために」 | 譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための所持、輸入 | 他人のサービスに使わせるためにわたす等 |
| 第5号 | 商標を表示する物 | 「使用をするために」 | 所持 | 自分が使うために表示物を持つ |
| 第6号 | 商標を表示する物 | 「使用をさせるために」 | 譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための所持 | 他人に使わせるために表示物をわたす等 |
| 第7号 | 商標を表示する物 | 「使用をし、又は使用をさせるために」 | 製造、輸入 | 表示物を作る・輸入する |
| 第8号 | 商標を表示する物を「製造するためにのみ用いる物」 | ―(かわりに「のみ」「業として」) | 製造、譲渡、引渡し、輸入 | 表示物を作る専用の道具を作る・わたす等 |
〔表3〕商標法第37条 全8号の一覧(原文の文言を本記事作成者が整理。各号とも、商標は「登録商標又はこれに類似する商標」、商品・役務は指定商品・指定役務とその類似範囲が対象。正確な範囲は原文参照)。
8つの号を3つのグループに分ける
| グループ(本記事での呼び方) | 号 | 何についての「じゅんび」か | たとえ(架空) |
|---|---|---|---|
| 使用そのもの | 第1号 | じゅんびではなく、類似範囲での使用 | 「ほしそらパン」の名前でパンを売る |
| 商品系 | 第2号 | 商標を付した商品を、譲渡・引渡し・輸出する前の段階 | にせの目じるしをはったパンを、売るために倉庫に置いている |
| 役務系 | 第3号・第4号 | 商標を付した物を用いて、役務を提供する(させる)前の段階 | にせの目じるしを付けたトレーを、パン教室で使うために持っている(第3号)/ほかの教室に使わせるためにわたす(第4号) |
| 表示物系 | 第5号〜第8号 | 商標を表示する物(シール、ラベルなど)を用意する段階と、さらにその手前 | にせシールを持つ(第5号)・わたす(第6号)・作る/輸入する(第7号)・にせシール専用の型を作る(第8号) |
〔表4〕商標法第37条各号のグループ分け(「商品系」「役務系」「表示物系」は本記事での呼び方で、条文の用語ではありません。たとえは架空の例で、具体的な物がどの号に当たるかは個別の事案によります)。
行為の流れを上流にさかのぼる
商標法第2条第3項は、商品に標章を「付する行為」(第1号)、付したものを「譲渡し、引き渡し…輸出し、輸入し」等する行為(第2号)などを「使用」と定めています(詳細は#1)。第37条第2号以下は、この「使用」の手前にある行為を、上流へ向かって順につかまえていく形になっています。
図は左右にスクロールできます。
- 赤の枠:商標の「使用」(第2条第3項)。同一範囲は第25条、類似範囲は第37条第1号
- 藍の枠:表示物系の号(第5号〜第8号)=使用の手前
- 橙の枠:商品系の号(第2号)=使用の手前
- 青緑の枠:役務系の号(第3号・第4号)=使用の手前
【図4】商標法第37条第2号〜第8号を、行為の流れの上流から下流へ並べた模式図(商標法第2条第3項・第37条を整理して本記事作成者が作成。各号とも「登録商標又はこれに類似する商標」・指定商品(役務)とその類似範囲が対象。条文の文言は簡略化しており、正確には原文を参照)。
- 商標法第36条第1項=「停止」と「予防」。相手は「侵害する者」と「侵害するおそれがある者」。
- 商標法第36条第2項=廃棄・除却など。「前項の規定による請求をするに際し」という文言がついている。
- 商標法第37条は8つの号。第1号は類似範囲での使用、第2号は商品系、第3号・第4号は役務系、第5号〜第8号は表示物系(グループ名は本記事での呼び方)。
- 第2号〜第7号には「…のために」という目的を示す文言があり、第8号には「のみ」「業として」という文言がある。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 第36条の要件を条文の文言から整理する
| 項目 | 条文の文言 | 条文から直接言えること |
|---|---|---|
| 請求の主体 | 「商標権者又は専用使用権者」 | 条文が挙げているのはこの二者。通常使用権者は条文に挙げられていない |
| 相手方 | 「侵害する者又は侵害するおそれがある者」 | 現実の侵害が始まっていなくても、「おそれ」があれば予防を請求できる |
| 主観的要件 | (文言なし) | 第36条には、相手方の故意・過失を要件とする文言は置かれていない |
| 第2項の請求 | 「前項の規定による請求をするに際し」 | 第1項の請求と結びつけて規定されている |
| 第2項の範囲 | 「その他の侵害の予防に必要な行為」 | 廃棄・除却は例示で、しめくくりは「侵害の予防に必要な行為」 |
〔表5〕商標法第36条の要件(条文の文言から直接読み取れる範囲に限って本記事作成者が整理)。
逐条解説〔第22版〕商標法第36条の解説1682頁、特許法第100条の解説334頁〜335頁。
逐条解説〔第22版〕商標法第36条の解説1682頁〜1683頁。
2. 「侵害」の3つの層 ― 第25条・第37条第1号・第37条第2号以下
第36条が前提とする「侵害」は、大きく3つの層に分けて考えると整理しやすくなります(この3層の呼び方は本記事での整理です)。「専用権」「禁止権」は講学上の呼称で、条文の用語ではありません。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:第1層(第25条の範囲での使用)
- 青緑の枠:第2層(第37条第1号)
- 藍の枠:第3層(第37条第2号〜第8号)
- 白い枠:民事・刑事でのあつかい
【図5】「侵害」の3つの層と、民事・刑事でのあつかい(商標法第25条・第37条・第78条・第78条の2を整理して本記事作成者が作成した模式図。層の呼び方は本記事でのもの)。
3. 第37条第2号〜第8号の文言を横に並べる
| 号 | 目的の文言 | 所持 | 譲渡・引渡し | 製造 | 輸入 | 「輸出」の語 | 「業として」 | 「のみ」 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 第2号 | 譲渡、引渡し又は輸出のために | ○ | ― | ― | ― | ○(目的として) | ― | ― |
| 第3号 | 役務を提供するために | ○ | ― | ― | ○ | ― | ― | ― |
| 第4号 | 役務を提供させるために | ○(譲渡・引渡しのため) | ○ | ― | ○ | ― | ― | ― |
| 第5号 | 使用をするために | ○ | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 第6号 | 使用をさせるために | ○(譲渡・引渡しのため) | ○ | ― | ― | ― | ― | ― |
| 第7号 | 使用をし、又は使用をさせるために | ― | ― | ○ | ○ | ― | ― | ― |
| 第8号 | (目的の文言なし) | ― | ○ | ○ | ○ | ― | ○ | ○ |
〔表6〕商標法第37条第2号〜第8号の文言の有無(○=その語が条文にある、―=ない。e-Gov原文を本記事作成者が整理。2026年9月参照)。
この表から、条文上の帰結として次のことが言えます。
- 第2号に「輸入」の語はありません。商標を付した商品を「輸入」する行為は、商標法第2条第3項第2号で「使用」そのものに当たるためです。第2号が定めるのは「譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為」です。
- 第2号〜第7号は、すべて目的の文言つきです。単に「所持している」だけでは足りず、「譲渡…のために」「使用をするために」等の目的が条文上必要です。
- 「業として」「のみ」の語があるのは第8号だけです。第8号には逆に、目的の文言がありません。
- 第5号(自分が使用)と第6号(他人に使用させる)、第3号(自分が提供)と第4号(他人に提供させる)は対になっています。第7号は「使用をし、又は使用をさせるために」と両方をカバーします。
- 第8号の行為に「所持」はありません。
逐条解説〔第22版〕商標法第37条の解説1684頁〜1685頁。
逐条解説〔第22版〕商標法第37条の解説1686頁〜1687頁。
4. 特許法第101条との構造のちがい ― 「のみ」「知りながら」を原文で比べる
特許法第101条(いわゆる間接侵害。講学上の呼称)は、詳細を特許法シリーズの記事にゆずり、ここでは構造のちがいだけを原文で比べます。
特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
第2号
特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
第3号
特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
| 比べる点 | 特許法第101条 | 商標法第37条 |
|---|---|---|
| 型の数 | 3つの型:「にのみ用いる物」型(第1号・第4号)/「不可欠なもの」+「知りながら」型(第2号・第5号)/所持型(第3号・第6号) | 類似範囲の使用(第1号)/目的つきの所持・譲渡・製造・輸入(第2号〜第7号)/「ためにのみ用いる物」型(第8号) |
| 「のみ」 | 第1号・第4号にある | 第8号だけにある |
| 「知りながら」 | 第2号・第5号にある | どの号にもない(かわりに第2号〜第7号は「…のために」という目的の文言) |
| 「日本国内において広く一般に流通しているものを除く」 | 第2号・第5号にある | どの号にもない |
| 「業として」 | 第1号〜第6号のすべてにある(第3号・第6号は「業としての譲渡等」) | 第8号だけにある |
| 所持 | 第3号・第6号「業としての譲渡等又は輸出のために所持」 | 第2号「譲渡、引渡し又は輸出のために所持」。第3号〜第6号にも所持がある |
| 類似範囲での実施・使用 | 規定なし(特許権に「類似」の概念がない) | 第1号で侵害とみなす |
| 「譲渡等の申出」 | ある | 第37条にはこの語はない |
〔表7〕特許法第101条と商標法第37条の構造比較(両条のe-Gov原文を本記事作成者が対比。2026年9月参照)。
5. 「輸入」と第2条第7項
第37条第3号・第4号・第7号・第8号には「輸入」の語があります。商標法第2条第7項は、この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。
と定めています(令和3年法律第42号で新設。→#1)。「この法律において」とあるので、第2条第3項第2号の「輸入」だけでなく、第37条各号の「輸入」にもこの定義が及びます(条文上の帰結)。
| 「輸入」が出てくる場所 | 輸入されるもの | 位置づけ |
|---|---|---|
| 第2条第3項第2号 | 商標を付した商品 | 「使用」そのもの(第25条・第37条第1号の問題) |
| 第37条第3号・第4号 | 役務の提供を受ける者の利用に供する物に商標を付したもの | 侵害とみなす行為 |
| 第37条第7号 | 商標を表示する物 | 侵害とみなす行為 |
| 第37条第8号 | 商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物 | 侵害とみなす行為 |
〔表8〕商標法の「輸入」と第2条第7項が及ぶ場面(本記事作成者が整理)。
6. 防護標章の「侵害とみなす行為」(第67条)とのちがい
登録防護標章についても、商標法第67条が「侵害とみなす行為」を定めています(詳細は#13)。第37条と並べると、次のちがいがあります。
| 比べる点 | 商標法第37条 | 商標法第67条 |
|---|---|---|
| 号の数 | 第1号〜第8号 | 第1号〜第7号 |
| 第1号 | 類似範囲での使用 | 「指定商品又は指定役務についての登録防護標章の使用」 |
| 「類似」の語 | 各号に「これに類似する商標」「類似する商品」等 | 確認した第1号・第2号・第7号には「類似」の語なし |
| 「製造するためにのみ用いる物」の号 | 第8号にある | 対応する号なし(第7号まで) |
〔表9〕商標法第37条と第67条の比較(e-Gov原文、2026年9月参照。第67条第3号〜第6号も各号の行為・目的に限定される)。
7. 侵害の成否の判断枠組み
形式的に第25条または第37条に当たる行為でも、ほかの条文や判例により侵害が否定される場合があります。下の図は、条文と既刊記事の内容を、考える順番の一例として並べたものです。この順番自体は条文や判例が定めたものではありません。
flowchart TB
S["相手の行為"] --> A{"商標が登録商標と
同一 又は 類似か
かつ 商品・役務が
同一 又は 類似か"}
A -- "はい" --> B{"行為は
使用(第2条第3項)か
第37条第2号〜第8号の行為か"}
A -- "いいえ" --> N1["第25条・第37条に当たらない"]
B -- "当たる" --> C{"第26条の場面か
例:第26条第1項第6号
いわゆる商標的使用でない"}
B -- "どちらでもない" --> N1
C -- "はい" --> N2["商標権の効力が及ばない"]
C -- "いいえ" --> D{"相手に使用の権原があるか
使用権・先使用による
使用をする権利 等"}
D -- "はい" --> N3["侵害にならない"]
D -- "いいえ" --> E{"権利行使が制限されるか
第39条で準用する
特許法第104条の3 等"}
E -- "はい" --> N4["権利行使できない"]
E -- "いいえ" --> F{"真正商品の並行輸入として
実質的違法性を欠くか"}
F -- "はい" --> N5["侵害としての
実質的違法性を欠く"]
F -- "いいえ" --> G["侵害 → 第36条の差止請求"]
style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style N1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style N2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style N3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style N4 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style N5 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:差止請求が認められない方向の結論
- 赤の箱:侵害となり第36条の差止請求ができる結論
【図6】侵害の成否を考える順番の一例(条文・判例を整理して本記事作成者がフロー化したもの。検討の順番は便宜上のもので、実際の訴訟での主張・立証の順序を示すものではありません)。
| 検討事項 | 根拠 | くわしい記事 |
|---|---|---|
| 商標・商品役務の同一・類似 | 商標法第25条、第37条第1号、第70条 | #24、#7、#27 |
| 「使用」に当たるか | 商標法第2条第3項・第4項 | #1 |
| いわゆる商標的使用(実務上の呼称)でない場合ほか、効力が及ばない範囲 | 商標法第26条(第1項第6号ほか) | #25 |
| 使用権、先使用による商標の使用をする権利、中用権 等 | 商標法第30条、第31条、第32条、第33条 等 | #31、#32、#33 |
| 無効理由がある場合等の権利行使の制限 | 商標法第39条で準用する特許法第104条の3第1項・第2項 | #35 |
| 真正商品の並行輸入 | 最高裁判所第一小法廷 平成15年2月27日判決(次節) | 本記事 第8節 |
〔表10〕侵害の成否に関係する主な検討事項と参照先(網羅的ではありません。例外あり)。
8. 真正商品の並行輸入 ― 通称フレッドペリー事件
外国で適法に商標が付された本物の商品を、日本の商標権者の許諾なく輸入する行為(いわゆる並行輸入)は、形式的には商標法第2条第3項第2号の「輸入」に当たります。これについて最高裁判所は、一定の場合に侵害としての実質的違法性を欠くと判断しました。事件名の「フレッドペリー事件」は通称です。
商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,(3) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く。
| 要件 | 裁判要旨の文言(要約) | キーワード |
|---|---|---|
| (1) | 商標が、外国における商標権者又はその使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること | 適法に付された |
| (2) | 外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人、又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得る関係にあり、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示すること | 出所の同一 |
| (3) | 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に品質管理を行い得る立場にあり、登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価されること | 品質の実質的同一 |
〔表11〕通称フレッドペリー事件の3つの要件(裁判要旨1を本記事作成者が要約。「キーワード」は本記事での見出しで、判決の用語ではありません)。
flowchart TB A["登録商標と同一の商標を
付された 指定商品と同一の
商品の輸入"] --> B{"(1) 適法に
付されたか"} B -- "はい" --> C{"(2) 同一の出所を
表示するか"} B -- "いいえ" --> X["実質的違法性を
欠くとはいえない"] C -- "はい" --> D{"(3) 保証する品質に
実質的差異がないか"} C -- "いいえ" --> X D -- "はい" --> O["真正商品の並行輸入として
実質的違法性を欠く"] D -- "いいえ" --> X style O fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠く結論
- 赤の箱:実質的違法性を欠くとはいえない結論
【図7】通称フレッドペリー事件の3要件の当てはめの流れ(裁判要旨1を本記事作成者がフロー化したもの)。
同判決は、事案については、被許諾者が、製造等を許諾する国を制限し商標権者の同意のない下請製造を制限する旨の使用許諾契約の条項に違反して、商標権者の同意なく、許諾されていない国にある工場に下請製造させ商標を付したなど判示の事情の下では、真正商品の並行輸入として違法性を欠く場合に当たらない、としました(裁判要旨2)。結論は上告棄却です。
9. 刑事罰の概要(第78条・第78条の2・第82条)
| 条文 | 対象 | 法定刑(原文の数値) |
|---|---|---|
| 商標法第78条(侵害の罪) | 「商標権又は専用使用権を侵害した者(第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)」 | 「十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」 |
| 商標法第78条の2 | 「第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者」 | 「五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」 |
| 商標法第82条第1項第1号(両罰規定) | 法人の代表者、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が、業務に関し第78条・第78条の2等の違反行為をしたときの、その法人 | 「三億円以下の罰金刑」(人に対しては各本条の罰金刑) |
〔表12〕商標権侵害の罰則の概要(出典:e-Gov法令検索の商標法第78条・第78条の2・第82条第1項、2026年9月参照。罰則の詳細は本記事のスコープ外)。
10. 拒絶理由・異議理由・無効理由との関係
| 規定 | 第36条・第37条は該当するか | 補足 |
|---|---|---|
| 拒絶理由(商標法第15条) | 非該当 | 第36条・第37条は、登録後の権利行使に関する規定で、登録の可否を決める規定ではありません。逆向きの関係として、商標登録に無効理由があるときは、第39条で準用する特許法第104条の3により権利行使が制限される場合があります(→#35)。除斥期間(第47条)経過後の取扱いは、#35・#41および通称エマックス事件(最高裁判所第三小法廷 平成29年2月28日判決、平成27年(受)第1876号)を参照。 |
| 異議理由(商標法第43条の2) | 非該当 | |
| 無効理由(商標法第46条第1項) | 非該当 | |
| 除斥期間(商標法第47条) | 非該当 |
〔表13〕商標法第36条・第37条と拒絶・異議・無効理由の対応。
なお、商標法第70条第3項は、第37条第1号の「登録商標に類似する商標」には、色彩を登録商標と同一にすれば登録商標と同一と認められる商標を「含まないものとする」と定めています(→#27)。そのような色ちがいの商標の使用は、第70条第1項により第25条の「登録商標」の使用の側であつかわれます。
11. 四法比較 ― 差止請求権・侵害とみなす行為・罰則
| 比べる点 | 特許法 | 実用新案法 | 意匠法 | 商標法 |
|---|---|---|---|---|
| 差止請求権 | 特許法第100条 | 実用新案法第27条 | 意匠法第37条 | 商標法第36条 |
| 第1項の型 | 四法とも同じ型:「侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」 | |||
| 第2項「侵害の行為を組成した物」のかっこ書等 | 「(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。…)」 | 「(プログラム等…を含む。以下同じ。)」 | 「物品、建築物若しくは画像(…)若しくは…一般画像記録媒体等…又はプログラム等…」と列挙 | かっこ書なし。「侵害の行為を組成した物」 |
| 権利行使前の警告の規定 | ― | 実用新案法第29条の2(実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ権利を行使できない) | 意匠法第37条第3項(秘密意匠は、所定の書面を提示して警告した後でなければ第1項の請求ができない) | ―(第36条に警告を前提とする項はない) |
| 侵害とみなす行為 | 特許法第101条(第1号〜第6号) | 実用新案法第28条(第1号〜第3号) | 意匠法第38条(第1号〜第9号) | 商標法第37条(第1号〜第8号) |
| 「にのみ用いる」型 | ○ | ○ | ○ | ○(第8号。「ためにのみ用いる物」) |
| 「不可欠」+「知りながら」型 | ○ | ○ | ○(「視覚を通じた美感の創出に不可欠なもの」) | ― |
| 所持型 | ○(譲渡等又は輸出のため) | ○(譲渡、貸渡し又は輸出のため) | ○(第3号。建築物は「所有」(第6号)、画像は「保有」(第9号)) | ○(第2号〜第6号) |
| 類似範囲を「みなす」規定 | ― | ― | ―(意匠権の効力自体が類似する意匠に及ぶ。→意匠法第23条の記事) | ○(第1号) |
| 侵害の罪 | 特許法第196条:10年以下の拘禁刑・1000万円以下の罰金(第101条の行為を除く)/第196条の2:5年以下・500万円以下 | 実用新案法第56条:5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金 | 意匠法第69条:10年以下・1000万円以下(第38条の行為を除く)/第69条の2:5年以下・500万円以下 | 商標法第78条:10年以下・1000万円以下(第37条・第67条の行為を除く)/第78条の2:5年以下・500万円以下 |
〔表14〕四法の差止請求権・侵害とみなす行為・侵害の罪の比較(各法のe-Gov原文を本記事作成者が要約して対比。罰則はいずれも「又はこれを併科する」。数値はe-Gov法令検索、2026年9月参照)。
12. 改正の経緯(確認できた範囲)
| 改正 | 内容 | 確認できた資料 |
|---|---|---|
| 平成18年法律第55号 | 商標法第2条第3項第2号の「使用」に「輸出し」を追加(→#1) | 特許庁「平成18年法律改正(平成18年法律第55号)解説書」第4部第1章 産業財産権の効力の拡大(#1で確認) |
| 令和3年法律第42号 | 商標法第2条第7項(輸入する行為)の新設。第37条各号の「輸入」にも及ぶ | 特許庁ウェブサイト「海外からの模倣品流入への規制強化について」(#1で確認) |
〔表15〕商標法第36条・第37条に関係する改正のうち、一次資料で確認できたもの。
逐条解説〔第22版〕商標法第37条の解説1685頁〜1687頁。改正の法律番号は青本掲記の改正沿革(平成3年法律第65号、平成18年法律第55号)による。
試験での問われ方
短答式では、第37条各号の文言(目的の文言の有無、「所持」「輸入」の有無、「のみ」「業として」の位置)を正確に覚えているかが問われやすい形式の条文です。論文式では、侵害の成否を検討する問題の中で、第25条・第37条第1号・第26条・第36条を組み合わせて論じる形が考えられます。いずれも出題を断定するものではありません。
- 第36条の主体は「商標権者又は専用使用権者」。相手方の故意・過失の文言はない。第2項は「前項の規定による請求をするに際し」。
- 「侵害」は、第25条の範囲の使用/第37条第1号(類似範囲の使用)/第37条第2号〜第8号(使用の手前)の3層で整理できる(本記事の整理)。罰則は第1層が第78条、第2・第3層が第78条の2。
- 第37条第2号〜第7号は目的の文言つき。「のみ」「業として」は第8号だけ。「知りながら」はどの号にもない。特許法第101条とは型がちがう。
- 第2条第7項の「輸入」の定義は「この法律において」なので第37条の「輸入」にも及ぶ。
- 形式的に侵害に当たっても、第26条、使用の権原、第39条(特許法第104条の3準用)、真正商品の並行輸入(通称フレッドペリー事件の3要件)により否定される場合がある。
- 第67条(防護標章)には第37条第8号に対応する号がない。
