MENU

小学生でも分かる商標法|商標法第24条の4 混同防止表示請求 ― そっくりな名前が別々の持ち主になったら「見分けの札」をつけてもらう

小学生でもわかる商標法 第29回「混同防止表示請求」。見分けがつく表示を求める。

小学生でも分かる商標法 / C. 商標権の効力・使用権・侵害 #29

PR この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

にている登録商標が、別々の人のものになることがあります。商標権をゆずったときや、先に登録した人の「いいですよ」という承諾を得て登録されたときです。そのままではお客さんがまちがえるかもしれません。そこで商標法第24条の4は、こまっている側が相手に「見分けがつく表示をつけてください」と求めることができると定めています。この記事では、この請求の「どの場合に・だれが・だれに・何を」を3つのレベルで整理します。

条文:商標法第24条の4(柱書・第1号〜第4号)関連:商標法第52条の2、第31条の2第3項参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

そっくりな名前のお店が、2つになった

「ほしぞらパン」というパン屋さんがあります(この記事の店名は、ぜんぶ作り話です)。店長さんは、パンには「ほしぞらパン」、おかしには「ほしぞらベーカリー」という目じるしを、それぞれ国に登録していました。商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。

あるとき店長さんは、おかしの仕事をやめることにしました。そして「ほしぞらベーカリー」の目じるしを、となり町のミナトさんにゆずりました。すると、どうなるでしょう。

町には、そっくりな名前の目じるしが2つ、べつべつの持ち主のものとしてならびます。どちらも、国に登録された正しい目じるしです。だから、どちらも使ってかまいません。でも、お客さんは「同じお店かな?」とまちがえるかもしれません。

そっくりな名前が、べつべつの持ち主に(架空の例) ほしぞらパン 店長さんのお店 パンを売っている お客さんがへって、こまる ほしぞらベーカリー ミナトさんのお店 おかしを売っている 見分けの札(ふだ) 「ミナトのお店です」など 同じお店かな? お客さん 「札をつけてください」 どちらも登録された目じるし。だから「使うな」とは言えない。 かわりに「見分けがつくようにしてください」とお願いできる。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:店長さんのお店(「札をつけて」とお願いする側)
  • 青緑の枠:ミナトさんのお店(お願いされる側)
  • 赤の破線の枠:これからつけてもらう「見分けの札」
  • 橙の矢印:「見分けがつく表示をつけてください」というお願い

【図1】そっくりな名前の目じるしが別々の持ち主のものになった場面の模式図。店名・人物は架空の例で、本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

「使うな」ではなく「札をつけて」

ミナトさんの「ほしぞらベーカリー」も、きちんと登録された目じるしです。だから店長さんは、「その名前を使うな」とは言えません。

そのかわり、法律は店長さんにこう言うことをみとめています。「お客さんがまちがえないように、見分けがつく表示をつけてください」。たとえば「ミナトのお店です」という札(ふだ)のようなものです。どんな札にするかは、法律に細かくは書かれていません。「まちがいをふせぐのにちょうどよい表示」と書かれているだけです。

ぎゃくに、ミナトさんの方がこまっているなら、ミナトさんから店長さんにお願いすることもできます。こまっている方が、相手にお願いするしくみです。

どんなときに、2つになるの?

そっくりな目じるしが別々の持ち主のものになるきっかけは、大きく分けて2つあります。

きっかけたとえば
① ゆずった店長さんが、2つ持っていた目じるしのうち1つを、ミナトさんにゆずった
② 「いいですよ」をもらって登録された先に「ほしぞらパン」が登録されていた。あとからミナトさんが「ほしぞらベーカリー」を出願した。ふつうは、にているので登録できない。でも、店長さんが「いいですよ」と言い、お客さんがまちがえるおそれもないと国がみとめたので、登録された

〔表1〕そっくりな目じるしが別々の持ち主になる2つのきっかけ(やさしく言いかえたもの。正確には4つの場合があります→レベル2)。

②は、登録のときには「まちがえるおそれはない」とみとめられています。でも、そのあとで、お店の仕事の広げ方が変わることもあります。そうなってからこまったときのために、「札をつけて」とお願いできるようにしてあるのです。

① そっくりな登録ずみの目じるしが、別々の持ち主のものになった② 相手が使うことで、こちらの仕事がこまりそう③ 「見分けの札をつけて」とお願いできる
レベル1のまとめ
  • そっくりな登録ずみの目じるしが、別々の人のものになることがある(ゆずったとき、先の人の「いいですよ」で登録されたとき)。
  • どちらも正しい目じるしなので、「使うな」とは言えない。
  • そのかわり、こまっている方は、相手に「見分けがつく表示をつけてください」とお願いできる。

※ 「こまっている」「お願いできる人」「お願いされる人」には、正確には条件があります(→レベル3)。わざとお客さんをまちがえさせる使い方をした場合には、登録を取り消してもらう別のしくみもあります(→レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

条文を読む

商標法第24条の4は、長い柱書(はしらがき)と4つの号からできています。見出しは「商標権の移転等に係る混同防止表示請求」です。

商標法第24条の4(原文) 次に掲げる事由により、同一の商品若しくは役務について使用をする類似の登録商標又は類似の商品若しくは役務について使用をする同一若しくは類似の登録商標に係る商標権が異なつた商標権者に属することとなつた場合において、その一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の指定商品又は指定役務についての登録商標の使用により他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者の業務上の利益(当該他の登録商標の使用をしている指定商品又は指定役務に係るものに限る。)が害されるおそれのあるときは、当該他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者は、当該一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者に対し、当該使用について、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。
一 第四条第四項の規定により商標登録がされたこと。
二 第八条第一項ただし書、第二項ただし書又は第五項ただし書の規定により商標登録がされたこと。
三 商標登録をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があつた日以後に商標登録出願により生じた権利が承継されたこと。
四 商標権が移転されたこと。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

4つの部品に分ける

条文では、請求する側を「他の登録商標」の側、請求される側を「一の登録商標」の側と呼んでいます。どちらが「一」でどちらが「他」かは決まっていません。利益が害されるおそれのある側が「他」になります。

部品条文の文言意味
① どの場合に「次に掲げる事由により、…登録商標に係る商標権が異なつた商標権者に属することとなつた場合」第1号〜第4号のどれかがきっかけで、類似の関係にある2つの登録商標が、別々の商標権者のものになった
② どんなときに「その一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の指定商品又は指定役務についての登録商標の使用により…業務上の利益…が害されるおそれのあるとき」一方の側が登録商標を使うことで、もう一方の側の業務上の利益が害されるおそれがある。括弧書により、その利益は「当該他の登録商標の使用をしている指定商品又は指定役務に係るもの」に限られる
③ だれが「当該他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者」利益が害されるおそれのある側の、商標権者または専用使用権者(通常使用権者は挙げられていない)
④ だれに「当該一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者」使用をしている側の、商標権者・専用使用権者・通常使用権者
⑤ 何を「当該使用について、…混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる」その使用について、相手の商品・役務と自分の商品・役務との混同を防ぐのに適当な表示をつけるよう求める

〔表2〕商標法第24条の4の部品分解(本記事作成者が条文を整理したもの)。

だれが、だれに請求できるか(商標法第24条の4) 「他の登録商標」の側 (業務上の利益が害されるおそれのある側) 商標権者 請求できる 専用使用権者 請求できる 通常使用権者 請求権者に挙げられていない 利益は「使用をしている 指定商品・指定役務」に係るものに限る 「一の登録商標」の側 (指定商品・指定役務に登録商標を使用する側) 商標権者 請求の相手方 専用使用権者 請求の相手方 通常使用権者 請求の相手方 団体構成員・地域団体構成員は 通常使用権者とみなす(第31条の2第3項) 混同を防ぐのに 適当な表示を 付すべきことを 請求 どちらが「一」でどちらが「他」かは固定されない。立場が入れかわれば、逆向きの請求もありうる。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:「他の登録商標」の側(請求する側)
  • 青緑の枠:「一の登録商標」の側(請求される側)
  • 灰色の破線の枠:条文に挙げられていない者(請求権者にならない)
  • 青緑の矢印:混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことの請求

【図2】商標法第24条の4の請求権者と相手方の相関図。本記事作成者が条文を整理して図にしたもの。

第1号〜第4号の役割

号きっかけ(事由)やさしく言うと時期
第1号商標法第4条第4項の規定により商標登録がされたこと先に登録されている他人の類似商標があったが、その商標権者の承諾を得て、混同を生ずるおそれもないとして登録された(実務上「コンセント制度」と呼ばれるしくみ)設定の登録の時
第2号商標法第8条第1項ただし書、第2項ただし書又は第5項ただし書の規定により商標登録がされたこと類似の出願どうし(先願・同日出願)の関係で、相手の承諾を得て登録された設定の登録の時
第3号商標登録をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があつた日以後に商標登録出願により生じた権利が承継されたこと登録してよいという判断が出たあと、登録の前に、出願人の地位が別の人に移った査定・審決の謄本の送達以後、設定の登録の前
第4号商標権が移転されたこと登録されたあとに、商標権が別の人に移った(商標法第24条の2第1項により、指定商品・指定役務ごとに分割して移転することもできる)設定の登録の後

〔表3〕商標法第24条の4各号の役割一覧。「やさしく言うと」の列は本記事作成者による言いかえ。第4条第4項・第8条ただし書の要件は各関連記事を参照。

timeline
  title 類似の登録商標が別々の商標権者のものになる4つのきっかけ
  商標登録出願 : 出願が特許庁に係属している
  登録をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達 : この日以後に 商標登録出願により生じた権利が承継された(第3号)
  商標権の設定の登録 : 第4条第4項の規定により登録された(第1号) : 第8条第1項ただし書 第2項ただし書 第5項ただし書の規定により登録された(第2号)
  登録後 : 商標権が移転された(第4号)

図は左右にスクロールできます。

【図3】第24条の4各号の事由を、手続の時期にそって並べたタイムライン。本記事作成者がフロー化したもの。時間軸に縮尺はありません。

レベル2のまとめ
  • きっかけは4つ:第4条第4項による登録(第1号)、第8条第1項・第2項・第5項の各ただし書による登録(第2号)、査定・審決の謄本の送達以後の出願により生じた権利の承継(第3号)、商標権の移転(第4号)。
  • 請求できるのは、利益が害されるおそれのある側の「商標権者又は専用使用権者」。相手方は、使用をする側の「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者」。
  • 求められるのは使用の中止ではなく、「混同を防ぐのに適当な表示を付すべきこと」。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 要件を細かく見る

レベル1で「こまっている方がお願いできる」と単純化した部分を、条文の文言にそって回収します。

要件条文上の内容注意点
(a) 事由第1号〜第4号のいずれかの事由「により」各号に当たらない経緯で類似の登録商標が併存している場合は、この条の文言には当たらない
(b) 2つの登録商標の関係「同一の商品若しくは役務について使用をする類似の登録商標」又は「類似の商品若しくは役務について使用をする同一若しくは類似の登録商標」商標と商品・役務の両方が同一である組合せは、文言に挙げられていない
(c) 別々の商標権者「商標権が異なつた商標権者に属することとなつた」2つの商標権が同じ人に属している間は問題にならない
(d) 相手方の使用「指定商品又は指定役務についての登録商標の使用」相手方の使用は、登録商標を指定商品・指定役務に使用するもの(講学上「専用権」と呼ばれる範囲の使用)と書かれている
(e) 利益が害されるおそれ「業務上の利益(当該他の登録商標の使用をしている指定商品又は指定役務に係るものに限る。)が害されるおそれ」請求する側の利益は、現に登録商標の使用をしている指定商品・指定役務に係るものに限られる。「害された」ではなく「害されるおそれ」
(f) 請求権者「当該他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者」通常使用権者は挙げられていない
(g) 相手方「当該一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者」団体構成員・地域団体構成員は通常使用権者とみなされる(第31条の2第3項。後述)
(h) 請求の内容「当該使用について、…混同を防ぐのに適当な表示を付すべきこと」使用の差止めではない。どのような表示が「適当」かは条文に定めがない

〔表4〕商標法第24条の4の要件の詳細(本記事作成者が条文の文言を整理したもの)。

ポイント:相手方には「不正競争の目的」のような主観的要件は求められていません。不正競争の目的が要件になるのは、取消審判を定める商標法第52条の2第1項の方です(後述の「2段構え」)。
flowchart TB
  A["類似の関係にある2つの登録商標が
別々の商標権者に属している"] --> B{"第24条の4 第1号〜第4号の
いずれかの事由によるものか"} B -- "はい" --> C{"相手側(商標権者・専用使用権者・通常使用権者)が
指定商品又は指定役務について登録商標の使用をしているか"} B -- "いいえ" --> X1["第24条の4の文言に当たらない"] C -- "はい" --> D{"自分は 他の登録商標の
商標権者又は専用使用権者か"} C -- "いいえ" --> X2["第24条の4の文言に当たらない"] D -- "はい" --> E{"自分が登録商標の使用をしている指定商品・指定役務に係る
業務上の利益が害されるおそれがあるか"} D -- "いいえ(通常使用権者など)" --> X3["請求権者に挙げられていない"] E -- "はい" --> F["混同を防ぐのに適当な表示を
付すべきことを請求できる"] E -- "いいえ" --> X4["要件を満たさない"] style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style X1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style X2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style X3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style X4 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:混同防止表示請求ができる結論
  • 赤の箱:第24条の4による請求ができない結論

【図4】商標法第24条の4の請求ができるかどうかの分岐図。本記事作成者が条文をフロー化したもの。

2. 改正前/現行 ― 令和5年法律第51号

現行の各号の形は、令和5年法律第51号(不正競争防止法等の一部を改正する法律)によるものです。特許庁の「令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書」第7章(コンセント制度の導入)は、第24条の4の改正について、次のように説明しています。

  • コンセント制度による商標登録により、複数の類似する登録商標に係る商標権がそれぞれ異なる権利者に属することとなった場合においても、一方の権利者の使用により他の権利者の業務上の利益が害されるおそれのあるときは、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できる旨を規定することとした。
  • あわせて、実務上「アサインバック」と呼ばれる手法に基づく商標登録により、同様の状態になった場合を対象に追加することとした。解説書は、出願により生じた権利の承継が登録査定後、商標権の設定登録前までに行われる場合があり、その場合は設定登録後に権利が移転したとはいえないことから、改正前の第24条の4・第52条の2第1項の対象となっていなかった、と説明しています(現行の第3号に対応)。
  • 既存の「商標権が移転された結果」は、現行の第4号に当たる。
比較項目改正前(令和6年3月31日まで)現行(令和6年4月1日施行)
きっかけの書き方「商標権が移転された結果」(解説書が引用する改正前の文言)「次に掲げる事由により」+第1号〜第4号
第4条第4項による登録対象外(第4条第4項自体が改正で新設)第1号
第8条第1項ただし書・第2項ただし書・第5項ただし書による登録対象外(各ただし書自体が改正で新設)第2号
査定・審決の謄本の送達以後の、商標登録出願により生じた権利の承継対象外(解説書の説明による)第3号
商標権の移転対象第4号
商標法第52条の2第1項の書き出し(同じ改正で見直し)「第二十四条の四各号に掲げる事由により」

〔表5〕商標法第24条の4の改正前/現行の比較。出典:令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書 第7章、e-Gov法令検索、2026年9月参照。

timeline
  title 第24条の4に関する令和5年法律第51号の改正
  令和5年6月14日 : 改正法の公布
  令和6年4月1日 : 施行 : 第24条の4に第1号〜第4号を置く形に : 第52条の2第1項も 各号に掲げる事由 を受ける形に
  施行日以後の出願 : 第4条第4項 第8条ただし書の適用(改正法附則第5条第1項) : 第24条の4第1号 第2号の場面が生じうる

図は左右にスクロールできます。

【図5】第24条の4に関する改正のタイムライン。出典:令和5年法律改正(令和5年法律第51号)解説書 第7章。本記事作成者がタイムライン化したもの。時間軸に縮尺はありません。

経過措置:解説書は、第4条第4項・第8条ただし書等の改正規定は施行日(令和6年4月1日)以後にする商標登録出願について適用すること(改正法附則第5条第1項)、第24条の4第3号及び第4号並びに第52条の2第1項(第24条の4第3号及び第4号に係る部分に限る。)については経過措置を設けないこととしたことを説明しています。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)は、商標法第24条の4を、平成8年の一部改正において連合商標制度の廃止に伴って分離移転を認めたこと、及び類似関係にある商品・役務についても商標権の分割移転を認めたことに対応する、誤認混同防止のための担保措置の一つと説明しています。
解説はその仕組みを次のように説明しています。商標権者が有する2以上の商標権のうちの一つが分離して移転され、又は2以上の指定商品若しくは指定役務を指定する商標権が商標法第24条の2第1項の規定により分割して移転された結果、類似関係にある登録商標に係る商標権が異なった商標権者によって保有されることとなった場合において、一方の商標権者又は使用権者がその登録商標を指定商品又は指定役務について使用をし、他方の商標権者又は専用使用権者の業務上の利益を害することとなっても、当該他方は差止請求権等の商標権の権利行使をすることができない。そこで、業務上の利益が害されるおそれのあるときには混同防止表示請求を認めることにより、混同が生ずる事態を回避し、その商標権者又は専用使用権者の業務上の信用を保護するとともに、需要者の利益の保護を図ることとした、というものです。
「混同を防ぐのに適当な表示」:商標法第32条第2項(先使用による商標の使用をする権利を有する者に対する混同防止表示請求)等に規定する場合と同様に、一般需要者が取引上の通常の注意力をもって自他識別し得る程度のもの(例として、自己が業務を行っている地域の地名等を付して需要者の注意を促し得るもの)であればよいものと考えられる、とされています。
「業務上の利益が害されるおそれのあるとき」:その業務上の利益が現実に害されたことまでは必要とせず、利益を害される具体的危険性(例として、売上げの減少、得意先の喪失、業務上の信用や名声の毀損、登録商標の出所表示機能や品質・質の保証機能の毀損等についての具体的な危険性)があれば足りる、と説明されています。
逐条解説〔第22版〕1643頁〜1644頁。逐条解説〔第22版〕は令和4年10月刊で、令和5年法律第51号による改正前の第24条の4(「商標権が移転された結果」)を前提とした説明です。現行の第1号・第2号(コンセント制度)と第3号は、この説明の対象に含まれていません。
改正前の見出しは「商標権の移転に係る混同防止表示請求」でした。2022年版の全文では、商標権の移転で同一・類似の登録商標が異なる権利者に属する場合を対象としていました。現行第24条の4は、2024年4月1日のコンセント制度導入に伴い、対象を4類型に整理しています。各号の事情に加え、混同を生ずるおそれがあることが必要です。現行第24条の4/青本1643〜1644頁の旧条文

3. コンセント制度による登録のあとに、なぜ混同防止表示請求か

商標審査基準〔改訂第17版〕「第3 十九 第4条第4項(先願に係る他人の登録商標の例外)」は、「混同を生ずるおそれがない」の判断に関して、当事者間の合意の内容の例として、常に打消し表示(特定の他者の業務に係る商品等であることを否定する表示)を付加していることや、混同を生ずるおそれを認めたときは相手方に通知し、協議の上、混同の防止又は解消のための措置をとること、などを挙げています。

つまり、登録の時点では「混同を生ずるおそれがない」と判断されています。第24条の4第1号・第2号は、その登録の後に、一方の使用によって他方の業務上の利益が害されるおそれが生じた場面の手当てです。審査の段階(第4条第4項)と登録後の段階(第24条の4、第52条の2)で役割が分かれています。

4. 第52条の2との2段構え

商標法第52条の2第1項(原文) 第二十四条の四各号に掲げる事由により、同一の商品若しくは役務について使用をする類似の登録商標又は類似の商品若しくは役務について使用をする同一若しくは類似の登録商標に係る商標権が異なつた商標権者に属することとなつた場合において、その一の登録商標に係る商標権者が不正競争の目的で指定商品又は指定役務についての登録商標の使用であつて他の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。第2項は第五十一条第二項及び前条の規定は、前項の審判に準用する。
類似の登録商標が別々の商標権者に属した後の2段構え 共通の前提:第24条の4各号の事由により 類似の登録商標に係る商標権が異なった商標権者に属した 1段目 第24条の4 混同防止表示請求 場面:相手側の登録商標の使用により    業務上の利益が害されるおそれ 主観:不正競争の目的は要件でない だれが:他の登録商標の商標権者・     専用使用権者 相手:商標権者・専用使用権者・    通常使用権者 効果:適当な表示を付すべきことの請求 2段目 第52条の2 商標登録の取消しの審判 場面:商標権者が、混同を生ずる    登録商標の使用をした 主観:不正競争の目的が必要 だれが:何人も 対象となる行為者:一の登録商標に係る    商標権者 効果:商標登録の取消し 条文上、1段目の請求をしたことは2段目の審判請求の要件とはされていない。

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:2つの制度に共通する前提
  • 橙の枠:1段目=第24条の4(混同防止表示請求)
  • 赤の枠:2段目=第52条の2(商標登録の取消しの審判)

【図6】商標法第24条の4と第52条の2の2段構え。「1段目・2段目」は本記事作成者による整理上の呼び方で、条文の用語ではありません。

比較項目商標法第24条の4商標法第52条の2第1項
前提となる事由第24条の4各号「第二十四条の四各号に掲げる事由」(同じ)
問題とされる使用一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用一の登録商標に係る商標権者の、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用であって、混同を生ずるもの
主観的要件定めなし「不正競争の目的で」
結果の程度業務上の利益が「害されるおそれ」「混同を生ずるものをしたとき」
保護される側他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者(使用をしている指定商品・指定役務に係る利益に限る)他の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品・役務との混同
請求できる者他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者何人も
効果混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことの請求商標登録の取消し(審判)
準用―第52条の2第2項により、第51条第2項(取消審決確定の日から5年を経過した後でなければ再度の商標登録を受けられない旨)及び第52条(使用の事実がなくなった日から5年を経過した後は請求できない旨)を準用

〔表6〕商標法第24条の4と第52条の2の比較(本記事作成者が条文を整理したもの)。第52条の2の詳細は関連記事#44を参照。

ポイント:「通常使用権者」の位置が2つの条で異なります。第24条の4では、通常使用権者は請求の相手方には入りますが、請求権者には入りません。第52条の2第1項では、通常使用権者は混同の相手として保護される側に入りますが、取消しの対象となる行為者は商標権者だけです。

5. 請求に応じない場合はどうなるか

商標法第24条の4には、相手方が請求に応じなかった場合の効果(たとえば、使用の差止め、商標登録の取消し、罰則)を定める文言は置かれていません。条文上の定めなしです。

商標法第52条の2第1項の取消審判も、その要件は「不正競争の目的で…混同を生ずるものをしたとき」であって、「第24条の4の請求に応じなかったこと」は要件に書かれていません。請求に応じなかったという事情が「不正競争の目的」の認定でどう扱われるかは、条文からは導けない解釈の問題です。

「不正競争の目的」の判断(逐条解説〔第22版〕の第52条の2の説明):逐条解説〔第22版〕は、商標法第52条の2が「不正競争の目的」を取消しの要件としたのは、需要者間に混同が生ずるような事態に至っている場合には、類似商標を有する両当事者の少なくとも一方が、混同状態を放置することにより何らかの利益(例として、一方が周知であって、もう一方がその名声にフリーライドしようとしている等)を得ようとしていることが想定され、不正競争の目的が認定されるものと考えられること、及び、これを要件としない場合には、利益を害されている側の商標まで混同を理由に取り消されかねず、妥当性を欠く結果を招くおそれがあることによる、と説明しています。
そのうえで、不正競争の目的であるかどうかは、使用の動機、使用の目的、使用の実態、周知性の程度、混同の有無等の要因を総合勘案して個別具体的に判断することとなる、としています。この列挙に「商標法第24条の4の請求に応じなかったこと」は挙げられていません。
逐条解説〔第22版〕1753頁〜1754頁。逐条解説〔第22版〕は令和4年10月刊で、令和5年法律第51号による改正前の第52条の2第1項(「商標権が移転された結果」)を前提とした説明です。
第24条の4は、混同を防ぐのに適当な表示を付すことを求める請求権を定めています。一方、第52条の2の取消しには、不正競争の目的による使用と実際の混同など、その条文の要件が必要です。混同防止表示の請求に応じなかったという一事だけで、自動的に登録が取り消される制度ではありません。第24条の4・第52条の2/青本1643〜1644・1753頁

6. 団体構成員・地域団体構成員(第31条の2第3項)

商標法第31条の2第3項(原文) 団体構成員又は地域団体構成員は、第二十四条の四、第二十九条、第五十条、第五十二条の二、第五十三条及び第七十三条の規定の適用については、通常使用権者とみなす。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。

団体商標・地域団体商標の構成員は、使用権の設定を受けているわけではなく、商標法第31条の2第1項により使用をする権利を有する者です。第3項により、第24条の4の適用については通常使用権者とみなされます。条文上の帰結として、①構成員の使用は「通常使用権者」の使用として混同防止表示請求の相手方になりえますが、②通常使用権者は第24条の4の請求権者に挙げられていないので、構成員自身が請求権者になるわけではありません(請求権者は商標権者である団体等)。

注意:地域団体商標に係る商標権は譲渡することができません(商標法第24条の2第4項)。

7. 商標法のほかの「混同防止表示請求」との比較

「混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる」という形の規定は、商標法のほかの条にもあります。違いは、相手方が商標権者等か、登録商標以外の使用をする権利を有する者かです。

条文場面請求権者相手方
商標法第24条の4同条各号の事由により、類似の登録商標が別々の商標権者に属した他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者
商標法第32条第2項先使用による商標の使用をする権利(第32条第1項)当該商標権者又は専用使用権者第32条第1項の規定により商標の使用をする権利を有する者
商標法第32条の2第2項地域団体商標についての先使用(第32条の2第1項)当該商標権者(専用使用権者は挙げられていない)。混同の対象は「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務」第32条の2第1項の規定により商標の使用をする権利を有する者
商標法第33条第3項無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利(第33条第1項)第32条第2項を準用(なお第33条第2項は相当の対価を受ける権利)
商標法第33条の2第2項特許権の存続期間満了後の、原特許権者の商標の使用をする権利(第3項で実用新案権・意匠権に準用)第32条第2項を準用
商標法第33条の3第2項特許権の存続期間満了後の、専用実施権者・通常実施権者の商標の使用をする権利(第3項で実用新案権・意匠権に準用)第32条第2項及び第33条第2項を準用
商標法第60条第2項再審により回復した商標権等についての使用をする権利(第60条第1項)第32条第2項を準用

〔表7〕商標法における混同防止表示請求の一覧(e-Gov法令検索で各条を確認、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。各条の要件の詳細は関連記事を参照。

ポイント:第32条第2項の系統は「商標権者側 → 登録を受けていないが使用をする権利を有する者」への一方向の請求です。これに対し第24条の4は、登録商標を持つ者どうしの請求で、どちらの側からも請求がありうる点が異なります。また、第32条第2項には「業務上の利益が害されるおそれ」の文言はありませんが、第24条の4にはこの要件が書かれています。
中用権の対価は第33条第2項、混同防止表示請求は同条第3項です。前者は金銭、後者は需要者が事業者を区別できる表示を求める制度であり、請求の目的が異なります。現行第33条。

8. 拒絶・異議・無効の理由との関係

規定拒絶理由(第15条)異議理由(第43条の2)無効理由(第46条第1項)備考
商標法第24条の4非該当非該当非該当登録後の当事者間の請求権を定める規定で、登録の要件ではない
商標法第52条の2第1項―――登録の取消しの審判(無効審判とは別の制度)
商標法第51条第2項(第52条の2第2項で準用)該当(第15条第1号に列挙)関連記事(第43条の2、第46条)で確認取消審決確定の日から5年を経過した後でなければ、商標権者であった者は同一・類似の範囲で商標登録を受けられない

〔表8〕拒絶理由・異議理由・無効理由との対応(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。

9. 特許法・実用新案法・意匠法との比較

法混同防止表示請求に当たる規定関連する規律
商標法第24条の4、第32条第2項ほか(表7)商標権は指定商品・指定役務ごとに分割して移転できる(第24条の2第1項)。類似の登録商標が別人に属しうることを前提に、混同防止表示請求と取消審判で手当て
特許法先使用による通常実施権を定める特許法第79条に、混同を防ぐ表示を求める文言はない―
意匠法商標法第24条の4と同じ混同防止表示請求の規定はない意匠法第22条第1項「基礎意匠及びその関連意匠の意匠権は、分離して移転することができない。」―類似する権利が別人に属すること自体を制限する方向の規律
実用新案法商標法第24条の4と同じ混同防止表示請求の規定はない―

〔表9〕四法の比較。e-Gov法令検索で確認できた条文のみ記載(2026年9月参照)。

商標は商品・役務の出所を示す目じるしであり、需要者が出所を取り違えること(混同)が問題になります。「混同を防ぐ表示」という手当ては、この商標の性質に対応したものと整理できます(本記事作成者による整理)。

10. 試験での問われ方

確認しておきたい点条文上の答えの所在
請求権者に通常使用権者が含まれるか第24条の4柱書「当該他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者は」
相手方に通常使用権者が含まれるか同「当該一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者に対し」
相手方の不正競争の目的が要件か第24条の4には文言なし。第52条の2第1項にあり
請求する側が登録商標の使用をしていない場合柱書の括弧書「当該他の登録商標の使用をしている指定商品又は指定役務に係るものに限る。」
コンセント制度による登録の場合も対象か第1号・第2号
第52条の2の請求人適格・行為者「何人も」/「その一の登録商標に係る商標権者が」
団体構成員の扱い第31条の2第3項

〔表10〕条文の文言で確認しておきたい点(本記事作成者による整理。出題の予測ではありません)。

Q. 商標権の移転により類似の登録商標が別々の商標権者に属した場合、一方の通常使用権者は、自己の業務上の利益が害されるおそれがあるとき、他方の商標権者に混同防止表示請求ができるか。
A. 第24条の4が請求権者として挙げるのは「当該他の登録商標に係る商標権者又は専用使用権者」です。通常使用権者は挙げられていません(相手方の側には通常使用権者が挙げられています)。
Q. 第24条の4の請求の相手方に、不正競争の目的があることは必要か。
A. 第24条の4の文言に不正競争の目的は含まれていません。不正競争の目的が要件となるのは、第52条の2第1項の取消審判です。
令和8年度【商標】全10問には、第24条の4を直接問う肢はありません。本条では、請求できる商標権者・専用使用権者と、請求の相手方に含まれる通常使用権者を区別し、取消審判を定める第52条の2と混同しないことが大切です。 公式問題・公式解答。
レベル3のまとめ
  • 第24条の4は、第1号〜第4号の事由により類似の登録商標が別々の商標権者に属した場合に、利益が害されるおそれのある側の商標権者・専用使用権者が、使用をする側の商標権者・専用使用権者・通常使用権者に、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できる規定。
  • 請求する側の利益は、現に登録商標の使用をしている指定商品・指定役務に係るものに限られる。相手方の不正競争の目的は要件でない。
  • 令和5年法律第51号(令和6年4月1日施行)により、コンセント制度による登録(第1号・第2号)と、査定・審決の謄本の送達以後の出願により生じた権利の承継(第3号)が加わった。従来からの商標権の移転は第4号。
  • 請求に応じない場合の効果は、第24条の4には定めがない。不正競争の目的で混同を生ずる使用を商標権者がしたときは、第52条の2の取消審判(何人も請求可)が別に用意されている。
  • 団体構成員・地域団体構成員は、第24条の4の適用について通常使用権者とみなされる(第31条の2第3項)。
  • 第32条第2項の系統の混同防止表示請求は、商標権者側から「使用をする権利を有する者」への請求。第24条の4は登録商標を持つ者どうしの請求。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次