小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #23
意匠登録を受けると、そのデザインを独りじめできる意匠権が生まれます。ところが、自分のデザインが先に出願された他人のデザインや発明を「利用」しているときや、他人の権利と「ぶつかる(抵触する)」ときは、意匠権をもっていても、他人の許しなしには自分のデザインを商売に使えません(意匠法第26条)。その代わり、話し合いがまとまらないときは特許庁長官に「使わせてください」と裁定を求める道があります(意匠法第33条)。この記事では、特許法第72条・第92条と比べながら、この2つの条文を読みます。意匠法には、特許法にある「不実施の場合の裁定」「公共の利益のための裁定」がない点も、あわせて確認します。
レベル2条文の骨格 ― 第26条第1項・第2項(利用・抵触)、第33条第1項〜第7項(協議と裁定)
レベル3要件・例外・試験での問われ方 ― 特許法第72条・第92条との対比、意匠法にない裁定、拒絶・無効理由との関係
LEVEL 1イメージでつかむ
「利用」― 他人のデザインを土台にして、自分のデザインを作ったとき
Aさんは「持ち手が星の形をしたコップ」のデザインを考えて、先に意匠登録をしました。あとからBさんが、「持ち手が星の形で、コップの胴体にしましま模様がついたコップ」のデザインを考えて、これも意匠登録を受けたとします(しましま模様のおかげで、Aさんのコップとは「似ていない」と判断されて登録された、と考えてください)。
Bさんのコップを作ると、どうしても「星の持ち手」も一緒に作ることになります。つまり、BさんのコップはAさんのデザインを土台にして、その上に飾りを足したものです。こういう関係を、意匠法では「利用」といいます。
Bさんは自分の意匠権をもっています。でも、Bさんのコップを売ると、Aさんの「星の持ち手」のデザインも勝手に使うことになってしまいます。だから意匠法は、「Bさんは、Aさんの許しがないかぎり、自分のコップを商売として作ったり売ったりしてはいけない」と決めています。これが意匠法第26条です。
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【図1】「利用」のイメージ。Bさんのコップを作ると、Aさんの「星の持ち手」も必ず一緒に作ることになる。図の物品は架空のもの。
「抵触」― 自分の権利のなわばりと、他人の権利のなわばりが重なるとき
「利用」は、土台と飾りのように一方が他方を含む関係でした。もう一つ、お互いのなわばりが一部だけ重なる関係もあります。これを「抵触(ていしょく)」といいます。
たとえば、Bさんのコップのデザインが、たまたま先に出願されていたCさんの商標(お店のマークなど)とそっくりで、コップを売るとCさんの商標権を侵してしまう、という場合です。デザイン(意匠権)とマーク(商標権)は別の種類の権利ですが、重なることがあります。このときも、Bさんは自分の意匠権があっても、Cさんの許しなしには商売に使えません。
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【図2】「利用」と「抵触」の違いをベン図で示したもの。どちらも、自分の権利があっても他人の権利を侵してしまう関係。網かけの部分を実施すると他人の権利を侵す(「利用」では他人の範囲の全部が網かけになる)。図の物品・権利は架空の例。
それでも使いたいときは ― 話し合い、だめなら特許庁長官に「裁定」を頼む
Bさんはまず、Aさんに「星の持ち手を使わせてください」とお願いします(協議)。Aさんが「いいよ」と言えば解決です。でも、Aさんが断ったり、そもそも話し合いができなかったりすることもあります。
そのとき、Bさんは特許庁長官に「Aさんのデザインを使う権利(通常実施権)を、私に設定してください」と頼むことができます。これを「裁定(さいてい)」といいます(意匠法第33条)。裁定は、いわば国が出す「使ってよいという許可」で、Aさんに払うお金の額なども一緒に決めてもらえます。
逆に、Aさんの側からも「それなら、Bさんのしましまコップを私にも使わせてください」とお願いできます。お互いさまのしくみです。
抵触=自分の権利と他人の権利のなわばりが重なること
裁定=話し合いがだめなときに、特許庁長官が出す「使ってよい」という判断
- 自分の登録意匠が、先に出願された他人のデザインや発明を「利用」しているか、他人の権利と「抵触」しているときは、自分の意匠権があっても、他人の許しなしに商売として使えない(意匠法第26条)。
- 話し合いがまとまらないときは、特許庁長官に「使わせてもらう権利(通常実施権)」を設定する裁定を求められる(意匠法第33条)。相手側からもお返しの裁定を求められる。
- 特許法にある「3年以上使われていない発明を使わせてもらう裁定」や「みんなのために必要なときの裁定」は、意匠法にはない。
※「先に出願された」の正確な基準、対象になる他人の権利の種類(意匠権・特許権・実用新案権・商標権・著作権)、裁定を頼める人の範囲、裁定が認められない場合などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第26条第1項 ― 「登録意匠」の実施についての制限
意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。
| 要素 | 第1項の内容 | 読み方 |
|---|---|---|
| だれが(主体) | 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者 | 権利をもつ側の3者すべて。通常実施権者も含まれる。 |
| 何について | その登録意匠 | 第1項は「登録意匠そのもの(同一の範囲)」を扱う。類似の範囲は第2項。 |
| 利用の相手方の権利 | 他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案 | 他人の意匠については「類似する意匠」まで含む。特許・実用新案は「発明」「登録実用新案」そのもの。 |
| 抵触の相手方の権利 | 他人の特許権、実用新案権若しくは商標権、または他人の著作権 | 第1項の抵触の相手方には「意匠権」が挙げられていない(→レベル3)。 |
| 先後の基準 | 「その意匠登録出願の日前の出願に係る」他人の権利/「その意匠登録出願の日前に生じた」他人の著作権 | 自分の意匠登録出願の日を基準に、それより前の出願(著作権は「前に生じた」)に係る権利だけが相手方になる。 |
| 効果 | 業としてその登録意匠の実施をすることができない | 意匠権が無効になるのではなく、「業としての実施」ができなくなる。 |
〔表1〕意匠法第26条第1項の分解。
第26条第2項 ― 「登録意匠に類似する意匠」の実施についての制限
意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠に類似する意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の意匠権、特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠に類似する意匠の実施をすることができない。
第2項は、第1項の「登録意匠」を「登録意匠に類似する意匠」に置き換えたものです。意匠権の効力は登録意匠に類似する意匠にまで及ぶ(意匠法第23条)ので、その「類似する意匠」の実施についても、同じように制限をかけています。ただし1か所だけ、第1項と違う点があります。
| 項目 | 第1項(登録意匠) | 第2項(登録意匠に類似する意匠) |
|---|---|---|
| 主体 | 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者 | 同じ |
| 利用の相手方 | 他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案 | 同じ |
| 抵触の相手方 | 他人の特許権、実用新案権若しくは商標権、著作権 | 他人の意匠権、特許権、実用新案権若しくは商標権、著作権 |
| 効果 | 業として登録意匠の実施ができない | 業として登録意匠に類似する意匠の実施ができない |
〔表2〕第1項と第2項の対比。抵触の相手方に「意匠権」が加わるのは第2項だけ。
図は左右にスクロールできます。
【図3】意匠法第26条の相関図。自分の意匠権の「登録意匠(同一)」と「類似する意匠」のそれぞれについて、利用・抵触の相手方となる他人の権利が定められている。矢印の①②は説明用の番号(条文の号ではない)。
第33条 ― 通常実施権の設定の裁定
意匠権者又は専用実施権者は、その登録意匠又はこれに類似する意匠が第二十六条に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対しその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をするための通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
前項の協議を求められた第二十六条の他人は、その協議を求めた意匠権者又は専用実施権者に対し、これらの者がその協議により通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾を受けて実施をしようとする登録意匠又はこれに類似する意匠の範囲内において、通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
第一項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、意匠権者又は専用実施権者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。
第二項の協議が成立せず、又は協議をすることができない場合において、前項の裁定の請求があつたときは、第二十六条の他人は、第七項において準用する特許法第八十四条の規定によりその者が答弁書を提出すべき期間として特許庁長官が指定した期間内に限り、特許庁長官の裁定を請求することができる。
特許庁長官は、第三項又は前項の場合において、当該通常実施権を設定することが第二十六条の他人又は意匠権者若しくは専用実施権者の利益を不当に害することとなるときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。
特許庁長官は、前項に規定する場合のほか、第四項の場合において、第三項の裁定の請求について通常実施権を設定すべき旨の裁定をしないときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。
特許法第八十四条、第八十四条の二、第八十五条第一項及び第八十六条から第九十一条の二まで(裁定の手続等)の規定は、第三項又は第四項の裁定に準用する。
| 項 | だれが | だれに | 何を | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 第1項 | 意匠権者又は専用実施権者 | 第26条の他人 | 通常実施権(意匠権・特許権・実用新案権について)の許諾の協議を求める | 主体に通常実施権者は含まれない。商標権・著作権についての通常実施権は挙げられていない。 |
| 第2項 | 第26条の他人 | 協議を求めた意匠権者又は専用実施権者 | 相手が実施しようとする登録意匠又はこれに類似する意匠の範囲内で、通常実施権の許諾の協議を求める | いわば「お返しの協議」。範囲が限定されている。 |
| 第3項 | 意匠権者又は専用実施権者 | 特許庁長官 | 裁定の請求 | 第1項の協議が成立せず、又は協議をすることができないとき。 |
| 第4項 | 第26条の他人 | 特許庁長官 | 裁定の請求(お返しの裁定) | 第2項の協議が不成立又は不能で、第3項の裁定請求があった場合に、答弁書を提出すべき期間として指定された期間内に限り請求できる。 |
| 第5項 | 特許庁長官 | ― | 通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない場合 | 相手方の利益を「不当に害する」とき。 |
| 第6項 | 特許庁長官 | ― | 第4項の裁定について、設定すべき旨の裁定をすることができない場合 | 第3項の裁定(本来の請求)を認めないときは、第4項の裁定(お返し)も認めない。 |
| 第7項 | ― | ― | 特許法の裁定手続規定の準用 | 特許法第84条、第84条の2、第85条第1項、第86条〜第91条の2。第85条第2項は準用されていない(→レベル3)。 |
〔表3〕意匠法第33条の各項の分解。
flowchart TB A["自分の登録意匠又はこれに類似する意匠が
第26条に規定する場合に該当"] --> B["第1項:意匠権者又は専用実施権者が
第26条の他人に協議を求める"] B -.-> B2["第2項:第26条の他人は
お返しの協議を求めることができる"] B --> C{"第1項の協議が成立せず、
又は協議をすることができない?"} C -- "はい" --> E["第3項:特許庁長官に裁定を請求"] C -- "いいえ(協議が成立)" --> D["契約で通常実施権の許諾"] E --> F["準用特許法第84条:
相手方に請求書副本を送達、答弁書提出の機会"] F -.-> G["第4項:第2項の協議が不成立又は不能のとき
第26条の他人は答弁書提出期間内に限り
お返しの裁定を請求できる"] F --> H{"第5項:通常実施権の設定が
相手方の利益を不当に害しない?"} H -- "はい" --> J["準用特許法第86条:文書・理由付記、
範囲・対価の額・支払方法と時期を定める"] H -- "いいえ(不当に害する)" --> I["設定すべき旨の裁定はできない"] J --> K["準用特許法第87条第2項:設定すべき旨の裁定の
謄本送達時に協議成立とみなす(通常実施権発生)"] K --> L{"準用特許法第89条:対価の支払又は供託を
定められた時期までにした?"} L -- "はい" --> M["通常実施権は存続する"] L -- "いいえ(支払・供託なし)" --> N["裁定は効力を失う"] style M fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図4】意匠法第33条による協議・裁定の流れ。準用される特許法の条文は第33条第7項による(条文は2026年9月時点)。凡例:緑=通常実施権は存続する/赤=設定されない・失効する。実線=主たる流れ、点線=条件を満たした場合に選べる手続。第4項の逆方向の裁定も第5項の利益侵害禁止に従い、第3項の主たる裁定で設定しないときは、第6項により逆方向にも設定できません。
- 第26条第1項:登録意匠が、先願の他人の登録意匠(類似を含む)・特許発明・登録実用新案を利用するとき、または意匠権のうち登録意匠に係る部分が先願の他人の特許権・実用新案権・商標権、先に生じた著作権と抵触するときは、業として登録意匠を実施できない。
- 第26条第2項:登録意匠に類似する意匠について同様の制限。抵触の相手方に「他人の意匠権」が加わる。
- 第33条:意匠権者又は専用実施権者は、第26条の他人に協議を求め、不成立なら特許庁長官に裁定を請求できる。他人側は答弁書提出期間内に限りお返しの裁定を請求できる。設定が相手方の利益を不当に害するときは裁定できない。手続は特許法第84条〜第91条の2(第85条第2項を除く)を準用。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 「利用」と「抵触」の意味
意匠法第26条は「利用」「抵触」という語を定義していません。もっとも、逐条解説は、それぞれについて次のように説明しています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1318〜1319頁)。
- 他人の登録意匠を利用する場合とは、ある物品の意匠Aがその意匠権の対象となっていた場合に、その意匠Aをそのまま実施することとなるような意匠であるときを指す。例として、他人がハンドルの意匠について意匠権を有する場合に、そのハンドルを用いた自転車の意匠について意匠登録を受けたような場合が挙げられている。この場合、ハンドルの意匠を実施しなければ自転車の意匠を実施できないので、自転車の意匠権者は、自己の意匠を実施しようとするときはハンドルの意匠権者から実施の許諾を受けなければならない。特許発明・登録実用新案を利用する場合もこれに準じて考えることができる、とされている。
- 意匠権が特許権あるいは実用新案権と抵触する場合とは、ある物品の形状が技術的効果もあり同時に美的でもあるという場合に、技術的効果の面について特許権あるいは実用新案権が、美的な面について意匠権が、それぞれ設定されているときをいう。
- 意匠権と商標権との抵触は、ある物品の形状や模様が意匠でもあり商標でもある場合に生ずることがある。
- 意匠権が著作権と抵触する場合とは、著作権の対象である彫刻を置物のようにある物品の形状として用いたときなどが考えられる。
また逐条解説は、許諾を受けて実施する方法と、第33条の裁定の仕組みを説明しています。ただし、第33条の対象となる権利は意匠権・特許権・実用新案権であり、商標権・著作権との抵触まで裁定で解決できるという意味ではありません(青本〔第22版〕1319頁)。沿革については、旧法(大正10年法)は実用新案権・商標権との抵触、登録実用新案との利用について規定しているにすぎなかったが、利用抵触の関係が生ずるのはこれらの場合に限られないので、現行法(昭和34年法)でさらに登録意匠・特許発明を利用する場合、意匠権・特許権・著作権と抵触する場合を新たに規定した、と説明されています(青本〔第22版〕1318頁)。
特許法側でも同様の説明がされています。逐条解説は、特許法第72条について、特許された発明は全て何らの制約もなく実施することができるものと思われがちだがそうではない、として、甲が合金Xを生産する機械の特許を受け、その後乙がその機械によって合金Yを生産する方法の特許を受けたとしても、乙は自己の特許発明を実施するためには甲から機械を使用することについての実施許諾を得なければならない、という例を挙げています。そして、そのままでは発明が実施できないまま埋もれてしまい技術の進歩にとって好ましくないので、特許庁長官に通常実施権の設定の裁定を請求することができる場合があることとしている(特許法第92条)、と述べています(青本〔第22版〕286〜287頁)。
| 観点 | 利用 | 抵触 |
|---|---|---|
| 関係の形 | 自分の意匠が他人の権利の対象を丸ごと含み、それに何かを加えている(土台と飾り) | 自分の権利の範囲と他人の権利の範囲が一部重なる |
| 条文上の相手方(第1項) | 他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案 | 他人の特許権、実用新案権若しくは商標権、著作権 |
| 条文上の相手方(第2項) | 同上 | 他人の意匠権、特許権、実用新案権若しくは商標権、著作権 |
| 条文の主語 | 「その登録意匠(に類似する意匠)が……利用するものであるとき」 | 「その意匠権のうち登録意匠(に類似する意匠)に係る部分が……抵触するとき」 |
| 裁定の可否 | 第33条の対象(意匠権・特許権・実用新案権についての通常実施権) | 第33条の対象は意匠権・特許権・実用新案権についての通常実施権のみ。商標権・著作権については第33条の裁定の対象として挙げられていない。 |
〔表4〕「利用」と「抵触」の整理。「関係の形」欄は本記事作成者の整理(→確認先:青本)。
2. なぜ第1項の抵触の相手方に「意匠権」がないのか
第1項(登録意匠そのもの)の抵触の相手方には、特許権・実用新案権・商標権・著作権が挙げられ、意匠権が挙げられていません。第2項(類似する意匠)では意匠権が加わります。この違いは、次のように整理できます(本記事作成者の整理)。
- 自分の登録意匠が、先願の他人の登録意匠と同一または類似であれば、本来は意匠法第9条第1項・第2項(先願)や第3条第1項第3号(新規性)により登録されないはずです。したがって「登録意匠そのもの」が他人の意匠権と抵触する場面は、条文上想定されていないと考えられます。
- 一方、自分の登録意匠と他人の登録意匠が互いに非類似であっても、それぞれの「類似する意匠」の範囲が一部重なることはあり得ます。この重なった部分について、後願の意匠権者が実施すると先願の意匠権を侵害してしまうため、第2項では抵触の相手方に「意匠権」が加えられています。
このうち後半(第2項に意匠権が加わる理由)は、逐条解説でも同じ説明がされています。逐条解説は、意匠法第26条第2項について、意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分が先願の他人の意匠権と抵触するときとは、二つの登録意匠の類似範囲が重なり合う場合をいい、出願が後である意匠権者はその重複する部分について実施をすることができない旨の規定である、と述べています(青本〔第22版〕1319頁)。また第23条の解説でも、出願日が先である意匠権を優先させることにし、二つの登録意匠の類似範囲が重なり合う場合には、出願日が後である意匠権はその重複する部分については実施をする権利を有しないことになるという構成をとった(第26条第2項)、と説明されています(青本〔第22版〕1314頁)。
図は左右にスクロールできます。
【図5】互いに非類似の登録意匠でも、類似範囲同士は重なり得る。AとBの登録意匠は非類似(内側の塗り円は重ならない)だが、類似範囲(外側の破線円)は一部重なり得る。意匠イはAとBの両方の類似範囲に入る意匠、意匠ロはAの類似範囲だけに入る意匠。この重なり(網かけ)を扱うのが第26条第2項の「意匠権」との抵触。円の大きさ・重なりの広さは説明用で、実際の類似範囲の広狭を表すものではない。
3. 第26条の要件の細部
| 論点 | 条文上の帰結 | 注意点 |
|---|---|---|
| 「他人」の権利であること | 自己の権利との関係では第26条は働かない | 自分の先願意匠を利用する後願意匠は、関連意匠制度(意匠法第10条)とは別問題として、実施制限を受けない。 |
| 先後の基準 | 「その意匠登録出願の日前の出願に係る」(意匠・特許・実用新案・商標)/「その意匠登録出願の日前に生じた」(著作権) | 「出願の日前」なので、同日出願の他人の権利は第26条の相手方に含まれない。著作権は出願を要しない権利なので「生じた」という表現になっている。 |
| 相手方の権利が消滅した場合 | 条文は「他人の登録意匠」「他人の特許権」等と規定する | 相手方の権利が消滅した後の行為には、その権利による第26条の実施制限は及ばない。ただし、消滅前の侵害の責任や、登録料追納による権利の回復の有無は別に判断する(第21条・第23条・第44条の2、第44条の3) |
| 効果の範囲 | 「業として……実施をすることができない」 | 意匠権自体は消滅しない。業としてでない実施(個人的・家庭的な実施)は、意匠権の効力の対象外であり(意匠法第23条「業として」)、第26条の制限の対象でもない。 |
| 専用実施権者・通常実施権者 | 第26条の主体に含まれる | 意匠権者が制限を受けるのと同様に、その権利から実施権を得た者も制限を受ける。 |
〔表5〕第26条の要件の細部。
4. 特許法第72条・実用新案法第17条との対比
特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。
| 項目 | 特許法第72条 | 実用新案法第17条 | 意匠法第26条 |
|---|---|---|---|
| 条の構造 | 1項のみ | 1項のみ | 2項構成(登録意匠/類似する意匠) |
| 主体 | 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者 | 実用新案権者、専用実施権者又は通常実施権者 | 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者 |
| 利用の相手方 | 他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠 | 他人の登録実用新案、特許発明若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠 | 他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案 |
| 抵触の相手方 | 他人の意匠権若しくは商標権 | 他人の意匠権若しくは商標権 | 第1項:特許権、実用新案権、商標権、著作権 第2項:意匠権、特許権、実用新案権、商標権、著作権 |
| 著作権 | 挙げられていない | 挙げられていない | 挙げられている(「出願の日前に生じた」) |
| 特許権・実用新案権との抵触 | 挙げられていない(特許発明・登録実用新案は「利用」の相手方) | 同左 | 挙げられている |
| 裁定の根拠条文 | 特許法第92条 | 実用新案法第22条 | 意匠法第33条 |
〔表6〕特許法第72条・実用新案法第17条・意匠法第26条の対比(各条文はe-Gov法令検索で2026年9月に取得した原文に基づく)。
青本第22版1318〜1319頁は、物品の形状の技術的効果について特許権・実用新案権が、美的な面について意匠権が設定される場合を抵触の例としています。著作権との抵触の例は、著作物である彫刻を置物などの物品の形状として用いる場合です。青本・第26条の解説。
5. 第33条の裁定 ― 特許法第92条との対比と、意匠法に「ない」裁定
特許法には、通常実施権の設定の裁定が3種類あります。意匠法には、このうち1種類(利用・抵触の場合の裁定)しかありません。実用新案法には特許法と同じ3種類があります。
| 裁定の種類 | 特許法 | 実用新案法 | 意匠法 | 裁定をする者 |
|---|---|---|---|---|
| 不実施の場合の通常実施権の設定の裁定 | 第83条(継続して3年以上日本国内で適当に実施されていないとき。ただし出願の日から4年を経過していないときは請求不可) | 第21条 | なし | 特許庁長官 |
| 自己の特許発明等の実施をするための通常実施権の設定の裁定(利用・抵触) | 第92条 | 第22条 | 第33条 | 特許庁長官 |
| 公共の利益のための通常実施権の設定の裁定 | 第93条 | 第23条 | なし | 経済産業大臣 |
〔表7〕三法の裁定制度の有無。特許法第83条・第92条・第93条、実用新案法第21条〜第23条、意匠法第33条(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。
図は左右にスクロールできます。
【図6】三法の裁定制度の比較図。意匠法には不実施の場合の裁定と公共の利益のための裁定がない(2026年9月時点の条文による)。
意匠法に置かれている裁定は、第33条の利用・抵触に関するものです。不実施裁定・公益裁定の有無は、政策上の理由を推測するのではなく、各法律に設けられた条文を区別して押さえます。
青本第22版1334頁は、第33条の趣旨について特許法第92条の解説を参照する構成です。
次に、意匠法第33条と特許法第92条の中身を比べます。両者はほぼ同じ構造ですが、対象となる権利の名前が入れ替わっています。
| 項 | 特許法第92条 | 意匠法第33条 | 相違点 |
|---|---|---|---|
| 第1項(協議) | 特許権者又は専用実施権者が、第72条の他人に、特許発明の実施をするための通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許諾の協議を求める | 意匠権者又は専用実施権者が、第26条の他人に、登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をするための通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾の協議を求める | 対象権利の名称のみ。意匠法は「登録意匠又はこれに類似する意匠」 |
| 第2項(お返しの協議) | 第72条の他人が、相手が実施しようとする特許発明の範囲内で協議を求める | 第26条の他人が、相手が実施しようとする登録意匠又はこれに類似する意匠の範囲内で協議を求める | 同旨 |
| 第3項(裁定請求) | 特許庁長官の裁定 | 特許庁長官の裁定 | 同じ |
| 第4項(お返しの裁定) | 答弁書提出期間内に限り | 答弁書提出期間内に限り | 同じ |
| 第5項(不当に害する場合) | 裁定できない | 裁定できない | 同じ |
| 第6項(本裁定なければお返し裁定なし) | 同じ | 同じ | 同じ |
| 第7項(準用) | 第84条、第84条の2、第85条第1項及び第86条から前条(第91条の2)まで | 特許法第84条、第84条の2、第85条第1項及び第86条から第91条の2まで | 準用範囲は同じ |
〔表8〕特許法第92条と意匠法第33条の項ごとの対比。
この構造がどうしてこうなっているのかは、逐条解説の特許法第92条の解説から読み取れます。要点は次のとおりです(青本〔第22版〕317〜320頁)。
- まず協議、次に裁定という順序をとったのは、なるべく当事者間の話合いで問題を解決しようとするためである、と説明されています。
- 「お返しの裁定」(第4項)は昭和50年の一部改正で加えられたものです。昭和34年法の制定時は、後願側が裁定を請求する場合のみを認めていましたが、後願側が裁定を請求した場合に先願側も後願側の発明を実施したいときは、一定の期間内に逆に裁定を請求することができるように改められました。逐条解説は、これは物質特許制度の採用を契機として裁定制度の円滑な運用を図ることが望まれていたことに応えるものであり、先願側と後願側の利害の調整を図ること、裁定がその調整の上で順調にできるようにすること、発明が相互に有効に利用されること等を狙いとするものだ、と説明しています。
- 第5項(利益を不当に害するときは裁定できない)について、逐条解説は意匠法第33条を直接名指しして例を挙げています。すなわち、意匠法にも同様の規定が置かれているとしたうえで、意匠法の例でいえば、極めて優れた基本発明に意匠を施した意匠権者が、その意匠を実施するためと称してその基本発明の特許権者に対して裁定の請求をした場合が考えられる、としています。なお逐条解説は、この第5項は政府提案の原案にはなく参議院の修正によって加えられたものだが、原案でも同様の場合は特許庁長官の裁量により請求を棄却すべきと考えていたものであり、修正はそれを明確にしたものといえる、と付け加えています。
- 第7項の準用の結果として、特許庁長官は、通常実施権を設定すべき旨の裁定をした後に、裁定の理由の消滅その他の事由により当該裁定を維持することが適当でなくなったとき、又は裁定を受けた者が適当にその発明の実施をしないときは、利害関係人の請求により又は職権で裁定を取り消すことができる、と説明されています。
逐条解説は意匠法第33条の解説そのものは置かず、特許法第92条の趣旨を参照するよう案内しています(青本〔第22版〕1334頁)。上記は、その案内先である特許法第92条の解説の内容です。
6. 第33条第7項で準用される特許法の裁定手続規定
| 準用条文 | 見出し | 内容の要点(読替え後のイメージ) |
|---|---|---|
| 特許法第84条 | 答弁書の提出 | 特許庁長官は、裁定の請求があったときは、請求書の副本を相手方(意匠権者等その他登録した権利を有する者)に送達し、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えなければならない。 |
| 特許法第84条の2 | 通常実施権者の意見の陳述 | 通常実施権を有する者は、答弁書提出期間内に限り、裁定の請求について意見を述べることができる。 |
| 特許法第85条第1項 | 審議会の意見の聴取等 | 特許庁長官は裁定をしようとするときは、政令で定める審議会等の意見を聴かなければならない。 |
| (特許法第85条第2項) | ― | 準用されない。第85条第2項は「実施が適当にされていないことについて正当な理由があるとき」は裁定できないという不実施裁定固有の規定であるため、利用・抵触の裁定には準用されない(特許法第92条第7項でも同様)。 |
| 特許法第86条 | 裁定の方式 | 裁定は文書で行い理由を付す。設定すべき旨の裁定では、通常実施権を設定すべき範囲、対価の額並びにその支払の方法及び時期を定める。 |
| 特許法第87条 | 裁定の謄本の送達 | 裁定の謄本を当事者等に送達。設定すべき旨の裁定の謄本が当事者に送達されたときは、裁定で定めるところにより当事者間に協議が成立したものとみなす。 |
| 特許法第88条 | 対価の供託 | 対価の供託に関する規定。 |
| 特許法第89条 | 裁定の失効 | 裁定で定める支払の時期までに対価の支払又は供託をしないときは、設定すべき旨の裁定は効力を失う。 |
| 特許法第90条 | 裁定の取消し | 裁定の理由の消滅等により維持が適当でなくなったとき、又は設定を受けた者が適当に実施をしないときは、利害関係人の請求により又は職権で裁定を取り消すことができる。 |
| 特許法第91条 | (見出しなし) | 第90条により裁定が取り消されたとき、通常実施権はその後消滅する(第91条)。 |
| 特許法第91条の2 | 裁定についての不服の理由の制限 | 裁定についての行政不服審査法による審査請求では、裁定で定めた対価への不服を理由とすることができない(第91条の2)。対価の増減は第60条の訴えで争う。 |
〔表9〕意匠法第33条第7項による準用条文の一覧。各条の内容はe-Govの特許法原文で確認した要約。第88条は、弁済提供後の受領拒否、受領不能、対価について訴えを提起した場合、質権がある場合(質権者の承諾がある場合を除く)に供託を義務付ける。
7. 裁定による通常実施権のその後 ― 第34条第3項・第4項
第33条第3項の裁定(本来の請求)により設定された通常実施権と、第4項の裁定(お返しの裁定)により設定された通常実施権は、移転・消滅のルールが異なります。詳しくは第34条の記事(→c25)で扱いますが、要点だけ挙げておきます。
| 裁定の種類 | 移転 | 消滅 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 第33条第3項の裁定による通常実施権(本来の請求) | 通常実施権者の当該意匠権・特許権・実用新案権が実施の事業とともに移転したときは、これに従って移転する | その権利が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは消滅する | 意匠法第34条第3項 |
| 第33条第4項の裁定による通常実施権(お返しの裁定) | 通常実施権者の当該意匠権・特許権・実用新案権に従って移転する(事業とともにという限定なし) | その権利が消滅したときは消滅する | 意匠法第34条第4項 |
| (共通)任意の移転・質権設定 | 裁定による通常実施権は、第34条第1項・第2項の「承諾を得た場合」等の一般ルールの対象から除かれている | ― | 意匠法第34条第1項・第2項 |
〔表10〕裁定による通常実施権の移転・消滅(意匠法第34条第1項〜第4項、e-Gov法令検索 2026年9月参照)。
8. 拒絶理由・無効理由との関係
第26条に該当することは、拒絶理由にも無効理由にもなりません。意匠法第17条各号(拒絶の査定)と第48条第1項各号(無効理由)は限定列挙であり、いずれにも第26条は挙げられていません(2026年9月にe-Gov法令検索で確認した第17条・第48条の原文による)。利用・抵触関係にある意匠であっても、新規性・創作非容易性等の登録要件を満たせば登録され、登録後に「業としての実施」が制限されるにとどまります。
| 場面 | 第26条の位置づけ | 根拠 |
|---|---|---|
| 審査(拒絶理由) | 該当しない 第17条各号に第26条は掲げられていない | 意匠法第17条 |
| 無効審判(無効理由) | 該当しない 第48条第1項各号に第26条は掲げられていない | 意匠法第48条第1項 |
| 登録後の実施 | 該当する 業として実施することができない | 意匠法第26条 |
| 解決手段 | 意匠権・特許権・実用新案権については、第33条の要件を満たせば協議・裁定。商標権・著作権は第33条の対象外。許諾を得るか、相手方の権利の消滅等により制限が解消するかを検討 | 意匠法第33条 |
〔表11〕第26条と拒絶理由・無効理由の関係。
9. どの条文が働くかを見分ける分岐図
flowchart TB
A["自分の登録意匠(又は類似する意匠)を業として実施したい"] --> B{"他人の権利と関係があるか?"}
B -- "はい" --> C{"他人の権利は、自分の意匠登録出願の日前の出願に係るか?
(著作権:出願の日前に生じたか)"}
B -- "いいえ(自己の権利のみ)" --> Z["第26条の制限なし"]
C -- "はい(出願の日前)" --> D{"関係の種類は?"}
C -- "いいえ(同日以後)" --> Z2["第26条の相手方に該当しない"]
D -- "利用(他人の登録意匠・類似意匠・特許発明・登録実用新案)" --> E["第26条第1項/第2項:業として実施できない"]
D -- "抵触(特許権・実用新案権・商標権・著作権)" --> E
D -- "抵触(他人の意匠権)" --> F{"実施したいのは登録意匠に類似する意匠か?"}
F -- "はい" --> E
F -- "いいえ(登録意匠そのもの)" --> G["第1項の相手方に意匠権は挙げられていない
(本来は第9条・第3条第1項第3号の問題)"]
E --> H{"相手方の権利は意匠権・特許権・実用新案権か?"}
H -- "はい" --> I["第33条:意匠権者又は専用実施権者が協議
不成立・協議不能なら裁定を請求できる
裁定には法定の要件がある"]
H -- "いいえ(商標権・著作権)" --> J["第33条の裁定の対象外。契約等による"]
style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style I fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図7】第26条・第33条の適用を見分ける分岐図(2026年9月時点の条文の文言に基づく本記事作成者の整理)。凡例:赤=業として実施できない/緑=第33条の裁定による解決の道。
図の右上、「いいえ(同日以後)→ 第26条の相手方に該当しない」という枝のうち同日出願どうしの扱いについては、逐条解説の意匠法第23条の解説に説明があります。逐条解説は、意匠権者甲の登録意匠Aと意匠権者乙の登録意匠Bの双方に類似する意匠をCとし、甲が乙よりも先に出願したと仮定すると、甲が独占的に実施できるのはAとC、乙の意匠権の範囲はB(BとCではない)となる、とした上で、甲及び乙の出願が同日の場合には、相互に関係なく類似の意匠Cを実施することができる、と述べています(青本〔第22版〕1314頁)。第26条が「出願の日前の出願に係る」他人の権利を相手方としていることの帰結が、逐条解説でも確認できる、ということです。
10. 試験での問われ方
| 試験種別 | 学習用の問いの例 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「通常実施権者は第26条の主体か」「第1項の抵触の相手方に意匠権は含まれるか」「意匠法に不実施裁定はあるか」「裁定を請求できるのは誰か」「お返しの裁定はいつまで請求できるか」といった、条文の文言の正誤 | 主体(26条:3者/33条:意匠権者又は専用実施権者の2者)、相手方の権利の種類(1項と2項の違い、著作権の有無)、裁定の種類(意匠法は1種類)、期間(答弁書提出期間内)を条文どおり押さえる。 |
| 論文式 | 侵害事例で、後願意匠権者が先願意匠権者・特許権者との関係で実施できるか、できない場合の手段(協議・裁定・無効審判等)を問う | 第26条は拒絶理由・無効理由でないこと、第33条の裁定は意匠権・特許権・実用新案権が対象であること、裁定通常実施権の移転(第34条第3項・第4項)まで触れられると厚みが出る。 |
| 口述 | 「意匠法第26条の趣旨を述べよ」「意匠法にはどのような裁定制度があるか」 | 三法の裁定の違い(〔表7〕)と、意匠法に2種類の裁定がない理由の説明を用意する。 |
〔表12〕学習用の問いと確認点。出題実績や頻度の集計ではありません。
令和8年度短答式〔意匠〕問10(公式正解5)の枝2は先願の登録意匠を利用する後願意匠、枝3は後願意匠権のうち類似意匠に係る部分が先願意匠権と抵触する場合を扱います。「関連意匠」や「部分意匠」の問題ではなく、第26条の利用・抵触の問題です。出典:公式問題・公式解答。正解番号は問題全体の答えです。
- 第26条の主体は意匠権者・専用実施権者・通常実施権者の3者。第33条の裁定を請求できるのは意匠権者又は専用実施権者の2者。
- 第1項(登録意匠)の抵触の相手方に「意匠権」はない。第2項(類似する意匠)にはある。意匠法だけが著作権と特許権・実用新案権を抵触の相手方に挙げている。
- 第26条は拒絶理由(第17条)にも無効理由(第48条第1項)にも掲げられていない。効果は「業としての実施」の制限。
- 意匠法の裁定は利用・抵触の場合(第33条)の1種類のみ。不実施裁定(特許法第83条、実用新案法第21条)・公益裁定(特許法第93条、実用新案法第23条)に相当する規定はない。
- 第33条第7項の準用に特許法第85条第2項は含まれない(特許法第92条第7項と同じ)。裁定通常実施権の移転・消滅は第34条第3項(本裁定)と第4項(お返しの裁定)で扱いが異なる。
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