小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #34
特許権者がライセンスを拒んでも、①長年実施されていない特許、②自分の特許を実施するのに他人の特許が必要な場合(利用・抵触)、③公共の利益のため特に必要な場合、には特許庁長官または経済産業大臣の裁定で通常実施権を設定できます。実際の裁定例はほとんどありませんが、試験では3つの裁定の比較が定番です。
LEVEL 1イメージでつかむ
「独り占め」の権利には、責任もある
特許は「発明を独り占めしていい」という権利です。でも、特許をとっておきながら、その発明をまったく使わず、他の人にも使わせないとしたら、社会にとって損です。発明は使われてこそ役に立つからです。
そこで特許法は、次の3つの場合に、話し合いがまとまらなければ国が「使わせなさい」と決めるしくみを用意しています。これを裁定といい、裁定で生まれる実施権を裁定実施権といいます。
【図1】3つの裁定の相関図。①②は特許庁長官、③は経済産業大臣。
- 特許権者がライセンスを拒んでも、①不実施、②利用・抵触、③公共の利益、の場合には裁定で通常実施権を設定できる。
- まず協議、それがダメなら裁定の請求。
※各裁定の詳しい要件、裁定できない場合、対価、裁定実施権の移転などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第83条 ― 不実施の場合の裁定
特許発明の実施が継続して三年以上日本国内において適当にされていないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。ただし、その特許発明に係る特許出願の日から四年を経過していないときは、この限りでない。
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前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。
第92条 ― 利用・抵触の場合の裁定
| 項 | 内容(要旨) |
|---|---|
| 第1項 | 第72条の場合に該当する特許権者・専用実施権者は、第72条の他人に対し、通常実施権(実用新案権・意匠権についての通常実施権を含む)の許諾について協議を求めることができる |
| 第2項 | 協議を求められた他人は、逆に、協議を求めた特許権者等に対し、その者が許諾を受けて実施しようとする特許発明の範囲内で、通常実施権の許諾について協議を求めることができる(逆協議) |
| 第3項 | 第1項の協議が成立しない・できないとき、特許権者等は特許庁長官の裁定を請求できる |
| 第4項 | 第2項の協議が成立しない・できない場合に第3項の裁定請求があったときは、他人は答弁書提出期間内に限り裁定を請求できる(逆裁定) |
| 第5項 | 通常実施権の設定が他人または特許権者等の利益を不当に害することとなるときは、設定の裁定をすることができない |
| 第6項 | 第3項の裁定請求について設定の裁定をしないときは、第4項の逆裁定もできない |
| 第7項 | 第84条・第84条の2・第85条第1項・第86条〜第91条の2を準用(第85条第2項は除く) |
〔表1〕第92条の整理(e-Gov、2026年9月参照)。逆協議・逆裁定と、第5項・第6項の制限がポイント。
第93条 ― 公共の利益のための裁定
特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
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前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる。
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第八十四条、第八十四条の二、第八十五条第一項及び第八十六条から第九十一条の二までの規定は、前項の裁定に準用する。
| 第83条 不実施 | 第92条 利用・抵触 | 第93条 公共の利益 | |
|---|---|---|---|
| 請求できる者 | 特許発明の実施をしようとする者 | 第72条の特許権者・専用実施権者(逆裁定は第72条の他人) | 特許発明の実施をしようとする者 |
| 実体要件 | 継続して3年以上日本国内で適当に実施されていない+出願の日から4年経過 | 自分の特許発明が第72条の利用・抵触に該当 | 公共の利益のため特に必要 |
| 裁定する者 | 特許庁長官 | 特許庁長官 | 経済産業大臣 |
| 裁定できない場合 | 第85条第2項:正当な理由があるとき | 第92条第5項:相手または自分の利益を不当に害するとき | ―(第85条第2項は準用されていない) |
| 逆裁定 | なし | あり(第4項) | なし |
| 裁定実施権の移転 | 実施の事業とともにのみ(第94条第3項) | 第92条第3項の裁定は権利と事業とともに移転(第94条第4項)。逆裁定は権利に従って移転(第5項) | 実施の事業とともにのみ(第94条第3項) |
〔表2〕3つの裁定の比較。第85条第2項・第94条も現行条文と照合。
- 第83条:3年不実施+出願から4年→特許庁長官。第92条:利用・抵触→特許庁長官、逆協議・逆裁定あり。第93条:公共の利益→経済産業大臣。
- いずれも「協議→不成立→裁定請求」の順。手続は第84条以下を準用。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 裁定手続の流れ(第84条〜第91条の2)
flowchart TB
A["協議を求める(第83条第1項・第92条第1項・第93条第1項)"] --> B{"協議成立?"}
B -- "成立" --> OK["契約による通常実施権(第78条)"]
B -- "不成立・不能" --> C["裁定の請求(第83条第2項・第92条第3項・第93条第2項)"]
C --> D["請求書の副本送達+答弁書提出の機会(第84条)
実施権者への通知・意見(第84条の2)"]
D --> E["工業所有権審議会の意見聴取(第85条第1項)
(第83条では正当な理由があれば裁定しない:第85条第2項)"]
E --> F["裁定(第86条:文書・理由。設定するときは範囲・対価・支払方法等を定める)"]
F --> G["裁定の謄本送達(第87条)→ 送達時に協議が成立したものとみなす(第87条第2項)"]
G --> H["対価の供託(第88条)/裁定の失効(対価不払い:第89条)/裁定の取消し(第90条)/不服申立ての制限(第91条・第91条の2)"]
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style F fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F
【図2】裁定手続の流れ(第84条〜第91条の2の要旨)。
2. 第83条の「適当に実施されていない」と「正当な理由」
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 継続して3年以上 | 不実施の状態が3年以上続いていること。一時的な実施では中断しないかは事案による |
| 適当に | 需要を満たす十分な実施かを検討する。輸入も第2条第3項の実施に含まれ、国内生産がないだけで直ちに不実施とはしない |
| 出願から4年 | パリ条約第5条A(4)(出願から4年または特許付与から3年のいずれか遅い方の経過前は強制実施権を請求できない)に対応 |
| 正当な理由(第85条第2項) | 不実施に正当な理由が認められれば設定裁定をしない。事情ごとの判断であり、承認待ち等だけで一律に決まらない |
〔表3〕第83条の論点。根拠:パリ条約第5条A(4)。不実施・不十分な実施による強制実施権には、出願から4年または付与から3年の遅い方の期間と、正当な理由による拒絶の条件がある。
3. 第92条の逆裁定と「不当に害する」
flowchart LR A["後願の特許権者X
(Yの先願特許を利用)"] -- "①協議(第1項)" --> B["先願の特許権者Y"] B -- "②逆協議(第2項)
Xの特許発明の範囲内で" --> A A -- "③裁定請求(第3項)" --> C["特許庁長官"] B -- "④逆裁定請求(第4項)
答弁書提出期間内" --> C C --> D["⑤Xへの設定裁定をしないなら、Yへの逆裁定もしない(第6項)
いずれも利益を不当に害するなら裁定しない(第5項)"]
【図3】第92条の協議・裁定の相互関係。利用発明の実施を認める代わりに、先願権利者にも後願発明の実施を認めるクロスライセンス的構造。
4. 裁定実施権の性質
| 論点 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 種類 | 通常実施権(専用実施権の裁定はない) | 各条 |
| 対価 | 裁定で定める(第86条第2項)。不払いなら裁定は失効(第89条) | 第86条・第89条・第90条 |
| 移転 | 第83条・第93条は事業とともに移転。第92条第3項は権利と事業がともに移るときに移転し、別々の移転では消滅。第92条第4項の逆裁定は権利に従う | 第94条第3項〜第5項 |
| 質権 | 設定できない(第94条第2項「裁定実施権を除き」) | 第94条第2項 |
| 取消し | 裁定の理由の消滅等により取り消せる(第90条) | 第86条・第89条・第90条 |
〔表4〕裁定実施権の性質。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「第93条の裁定は誰がするか(経済産業大臣)」「第83条の要件(3年・4年)」「第92条の逆裁定の時期(答弁書提出期間内)」「元の設定裁定がされない場合の逆裁定の可否(第6項)」「裁定実施権の移転・質権」「専用実施権の裁定はあるか(ない)」 | 〔表1〕〔表2〕〔表4〕 |
| 論文式 | 利用発明の事例で、第72条→第92条の協議・裁定・逆裁定の流れを論じさせる | 【図3】 |
| 口述 | 「裁定実施権の3類型と裁定者は」 | 〔表2〕 |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 3類型:不実施(3年不実施+出願4年、特許庁長官、正当な理由があれば不可)/利用・抵触(特許庁長官、逆協議・逆裁定、利益を不当に害するなら不可)/公共の利益(経済産業大臣)。
- 手続は協議→裁定請求→答弁→審議会意見→裁定→みなし協議成立。対価不払いで失効、事情変更で取消し。
- 裁定実施権は通常実施権のみ。質権不可。移転は第94条第3項〜第5項で類型ごとに異なる。
