小学生でも分かる商標法 / A. 登録要件・商標 #6
まだ登録していなくても、たくさんの人に知られている目じるしがあります。それを他の人が先に登録してしまうと、お客さんがまちがえたり、育ててきた人が困ったりします。商標法は、これを3つの号で段階的に防いでいます。この記事では、その「階段」の上り方を、やさしい言葉から順に見ていきます。
LEVEL 1イメージでつかむ
登録していなくても、有名な目じるしがある
商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。目じるしは、特許庁(とっきょちょう)という国の役所に登録(とうろく)すると、その人だけが使えるようになります。
でも、世の中には、登録していないのに有名な目じるしもあります。たとえば、町でだれもが知っているパン屋さん「ほしぞらパン」。店長さんは、登録の手続きをまだしていませんでした。
そこへ、別の人がやってきて、「ほしぞらパン」という名前を先に登録しようとしました。これをゆるすと、どうなるでしょう。お客さんは、にせものの「ほしぞらパン」を本物だと思って買ってしまいます。長い時間をかけて信用(しんよう)を育ててきた店長さんも困ります。
そこで商標法は、「みんなが知っている他人の目じるし」を勝手に登録できないようにしています。そのきまりは、3だんの階段(かいだん)になっています。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:1だん目(商標法第4条第1項第10号)
- 青緑の枠:2だん目(同項第15号)
- 藍の枠:3だん目(同項第19号)
- 赤い文字:どのだんに当たっても登録できない、という結論
【図1】有名な目じるしを守る3だんの階段(イメージ)。「ほしぞらパン」は架空の店名です。1だん目が商標法第4条第1項第10号、2だん目が第15号、3だん目が第19号に当たります。要件を単純化しています。
3つのだんを、ひとつずつ
1だん目。「ほしぞらパン」が有名なのは、パンです。別の人が、パンやパンに近い商品に、同じ名前やそっくりな名前を登録しようとしても、登録できません。
2だん目。では、パンとはちがう商品ならよいのでしょうか。たとえばジャムです。お客さんが「あのパン屋さんが作ったジャムだ」とか「あのパン屋さんのなかまの会社のジャムだ」とまちがえそうなら、やはり登録できません。
3だん目。お客さんがまちがえる心配がなくても、だめな場合があります。外国で有名な目じるしを、日本でだれも登録していないのをいいことに先に登録し、あとで本人に高く買い取らせようとする場合などです。このような「悪いねらい」があるときも、登録できません。
- 登録していなくても、たくさんの人に知られている他人の目じるしは、勝手に登録できない。
- きまりは3だん。①同じなかまの商品でそっくり、②ちがう商品でもまちがえそう、③まちがえなくても悪いねらい。
- 下のだんに当たらないものを、上のだんが受け止めるしくみになっている。
※「有名」「みんなが知っている」は、正確には条件があります。条文の言葉は「需要者の間に広く認識されている」で、どのくらいの広さで知られていればよいか、いつの時点で有名である必要があるか、などのきまりがあります(→レベル3)。
※「悪いねらい」は、条文では「不正の目的」といい、意味が条文の中で決められています(→レベル2・レベル3)。
※2だん目は、正確には「有名であること」そのものが条文の条件になっているわけではありません(→レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
まず原文を読む
商標法第4条第1項は、「登録を受けることができない商標」を第1号から第19号まで並べた規定です(第13号は現行の条文では「削除」となっています)。このうち、他人の有名な商標を守る役目をもつのが、第10号・第15号・第19号の3つです。
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。商標法第4条第1項第10号(原文)
他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの商標法第4条第1項第15号(原文)
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)商標法第4条第1項第19号(原文)
他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
需要者の間に広く認識されているです。「周知」「著名」は、これを短く言いかえた講学上・実務上の呼び方です(商標審査基準も見出しに「他人の周知商標」という語を使っています)。答案で条文の要件を書くときは、条文の文言を使います。なお、第15号の条文には「広く認識されている」という文言自体がありません。
3つの号を部品に分ける
| 部品 | 第10号 | 第15号 | 第19号 |
|---|---|---|---|
| だれの商標を守るか | 他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標 | (商標の限定なし)他人の業務に係る商品又は役務 | 他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標 |
| 出願された商標との関係 | その商標又はこれに類似する商標 | (類似の文言なし) | その商標と同一又は類似の商標 |
| 商品・役務の関係 | その商品・役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの | (文言なし) | (文言なし) |
| 決め手になる要件 | 上の3つがそろうこと | 混同を生ずるおそれがあること | 不正の目的をもって使用をするものであること |
| かっこ書き | なし | 第10号から前号(第14号)までに掲げるものを除く | 前各号(第1号〜第18号)に掲げるものを除く |
| どうなる | 商標登録を受けることができない(商標法第4条第1項柱書) | ||
〔表1〕3つの号の部品分解。条文の文言をもとに本記事作成者が整理したもの。「役務(えきむ)」はサービスのことです。
かっこ書きがつくる「階段構造」
第15号には「第10号から前号までに掲げるものを除く」、第19号には「前各号に掲げるものを除く」というかっこ書きがあります。つまり、下の号に当たる商標は下の号で処理し、そこからこぼれたものを上の号が受け止める、という順番が条文に書きこまれています。
図は左右にスクロールできます。
- 橙の帯:第10号(【図1】の1だん目)
- 青緑の帯:第15号(【図1】の2だん目)
- 藍の帯:第19号(【図1】の3だん目)
- 灰色の下向き矢印:かっこ書きによる絞り込み(第10号 → 第15号 → 第19号の順に進むこと)
- 右下の灰色の文字:その号のかっこ書き
【図2】かっこ書きがつくる階段構造。条文の文言をもとに本記事作成者が図にしたもの。
| 条・項・号 | 役割 | ひとことで |
|---|---|---|
| 商標法第4条第1項第10号 | 他人の広く認識されている商標と同一・類似で、商品・役務も同一・類似のものを登録させない | 同じ土俵での横取りを防ぐ |
| 商標法第4条第1項第15号 | 他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標を登録させない(第10号〜第14号に当たるものを除く) | 土俵がちがっても、まちがえるなら防ぐ |
| 商標法第4条第1項第19号 | 日本国内又は外国で広く認識されている他人の商標と同一・類似で、不正の目的をもって使用をするものを登録させない(前各号に当たるものを除く) | まちがえなくても、悪いねらいなら防ぐ |
| 商標法第4条第3項 | 第8号・第10号・第15号・第17号・第19号は、商標登録出願の時に該当しないものには適用しない | 「出願の時」にも当たっていることが必要 |
〔表2〕本記事で扱う項・号の役割一覧。「ひとことで」の欄は本記事作成者による言いかえ。
「いつ」有名である必要があるか ― 商標法第4条第3項
第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号又は第十九号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
出願した人から見ると、出願した時には問題がなかったのに、審査を待っている間に他人の商標が有名になって拒絶されるのでは、予測ができません。そこで、この3つの号(と第8号・第17号)は、「出願の時」にも当たっていなければ適用しない、とされています。
図は左右にスクロールできます。
- 赤の枠:その時点で号に該当する
- 青緑の枠:その時点で号に該当しない
- 右向きの実線の矢印:時間の流れ
- 灰色の縦の破線:判断の時点(商標登録出願の時・査定の時)
【図3】判断の時点のタイムチャート。商標法第4条第3項と、商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十八(第4条第3項)の「出願時及び査定時の両時点で該当することを要する」旨の記載をもとに、本記事作成者が図にしたもの。時間軸に縮尺はありません。
- 条文の文言は「需要者の間に広く認識されている」。「周知」「著名」は講学上・実務上の呼び方。
- 第10号=広く認識されている他人の商標+商標の同一・類似+商品・役務の同一・類似。
- 第15号=混同を生ずるおそれ。かっこ書きで第10号〜第14号に当たるものを除く。
- 第19号=日本国内又は外国で広く認識されている他人の商標+同一・類似+不正の目的。かっこ書きで前各号に当たるものを除く。
- 第4条第3項により、3つの号は「商標登録出願の時」にも該当していなければ適用されない。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 条文の文言と「周知」「著名」の対応
レベル1の「有名」を、ここで正確に回収します。商標法の中で、他人(又は自己)の商標が知られていることを要件とする規定は、いずれも「需要者の間に広く認識されている」という文言を使っています。どの程度の認識が必要かは規定ごとに解釈されており、条文の文言だけからは決まりません。
| 規定 | 条文の文言(原文の該当部分) | よく使われる呼び方 |
|---|---|---|
| 商標法第4条第1項第10号 | 需要者の間に広く認識されている商標 | 周知商標(商標審査基準の見出しは「他人の周知商標」) |
| 商標法第4条第1項第15号 | 混同を生ずるおそれがある商標(「広く認識」の文言はない) | 商標審査基準の見出しは「商品又は役務の出所の混同」。考慮事由の一つとして「周知度」が挙がる |
| 商標法第4条第1項第19号 | 日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標 | 商標審査基準の見出しは「他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもつて使用をする商標」 |
| 商標法第32条第1項 | 自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき | 先使用権(講学上の呼称)の周知性要件 |
| 商標法第64条第1項 | 自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合 | 防護標章登録の要件。実務上「著名」と説明されることが多い |
〔表3〕条文の文言と呼び方の対応。条文はe-Gov法令検索(2026年9月参照)、見出しは商標審査基準〔改訂第17版〕による。「よく使われる呼び方」は条文上の用語ではありません。
2. 第10号の要件と商標審査基準
| 項目 | 商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 九 第4条第1項第10号 の整理(要旨) |
|---|---|
| 「需要者」の範囲 | 最終消費者まで広く認識されている商標だけでなく、取引者の間に広く認識されている商標を含む。 |
| 地域的な広がり | 全国的に認識されている商標だけでなく、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。 |
| 周知性の判断方法 | 商標法第3条第2項(使用による識別力)の基準の該当箇所を準用。あわせて、特定の市場においてのみ流通する商品・役務(例:医療用医薬品)の場合や、外国の商標の場合(外国において周知であること、数か国に商品が輸出されていること等)について、考慮すべき事項が示されている。 |
| 過去の認定 | 審決、異議決定又は判決で周知と認定された商標は、その認定された事実を十分に考慮して判断する。 |
| 商標の類否 | 第4条第1項第11号の基準を準用。周知な未登録商標と他の文字・図形等を結合した商標は、外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として類似と判断(既成語の一部となっている場合等を除く)。 |
| 商品・役務の類否 | 第4条第1項第11号の基準を準用。 |
| 判断時期 | 商標登録出願の時に、我が国内の需要者の間に広く認識されていなければならない(あわせて第3 十八を参照)。 |
〔表4〕第10号に関する商標審査基準の整理。要旨であり、逐語の引用ではありません。正確な文言は特許庁ウェブサイトの商標審査基準(19_4-1-10.pdf)で確認してください。
3. 第15号の要件 ― 「混同を生ずるおそれ」と広義の混同
第15号は、商標や商品・役務が類似しない場合でも、出所の混同を生ずるおそれがあれば登録を認めない規定です。ここでいう「混同」の広さについて、最高裁判所の判決があります。
一 商標法第4条第1項第15号にいう
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標は、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人との間に
いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ、すなわち、いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含する。
二
「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需用者の共通性その他取引の実状などに照らし、右指定商品等の取引者及び需用者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。
三 化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物等を指定商品とし「レールデュタン」の片仮名文字を横書きした登録商標について、判示の事情の下で、同号に規定する商標に該当するとされた事例(結果:破棄自判)。
| 観点 | 最高裁平成12年7月11日判決(裁判要旨二) | 商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十三 1.(2) の考慮事由 |
|---|---|---|
| 商標どうしの近さ | 当該商標と他人の表示との類似性の程度 | ① 出願商標とその他人の標章との類似性の程度 |
| 知られている程度 | 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度 | ② その他人の標章の周知度 |
| 独創性 | ③ その他人の標章が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか | |
| 事業の広がり | (要旨に明示なし) | ④ ハウスマークであるか ⑤ 企業における多角経営の可能性 |
| 商品・役務の近さ | 指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度 | ⑥ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性 |
| 買う人の重なり | 取引者及び需用者の共通性その他取引の実状 | ⑦ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情 |
| 判断の基準となる人 | 指定商品等の取引者及び需用者において普通に払われる注意力 | (上記を総合的に考慮) |
〔表5〕第15号の「混同を生ずるおそれ」の考慮要素。判決は裁判所ウェブサイトの裁判要旨、審査基準は24_4-1-15.pdfによる。左右の対応づけは本記事作成者の整理。「ハウスマーク」は、審査基準で使われている語で、会社全体を表す商標を指す実務上の呼称です。
商標審査基準は、このほか次の点を示しています(要旨)。
- 「混同を生ずるおそれ」には、その他人の業務に係る商品等であると誤認する場合だけでなく、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認する場合も含む。
- ②の周知度は、必ずしも全国的に認識されていることを要しない。
- 外国において著名な標章が我が国内の需要者に広く認識されているときは、その事実を十分考慮する。
- 他人の著名な商標と他の文字・図形等を結合した商標は、原則として混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱う(既成語の一部となっている場合等を除く)。
- 防護標章登録を受けている商標、審決・異議決定・判決で著名と認定された商標は、その登録又は認定に従い著名な商標と推認して取り扱う。
第15号の文言上の要件は「混同を生ずるおそれ」であり、周知・著名性を独立した要件として列挙していません。審査基準第3・十三・1(2)は、標章の類似性、周知度、独創性、ハウスマークであるか、多角経営の可能性、商品役務の関連性、需要者の共通性等を総合勘案すると定めています。周知度は必ずしも全国的な認識を要しません。出典:商標審査基準第15号・1(2)。
4. 第19号の要件 ― 「日本国内又は外国」と「不正の目的」
| 項目 | 商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十七 第4条第1項第19号 の整理(要旨) |
|---|---|
| 本号に該当する例 | ① 外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標について、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したもの。 ② 日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても、出所表示機能を稀釈化させたり、その名声等を毀損させる目的で出願したもの。 |
| 「広く認識されている」の判断 | 第10号の基準(第3 九の1.)を準用。 |
| 「外国における需要者の間に広く認識されている商標」 | 我が国以外の一の国において周知であることは必要だが、必ずしも複数の国で周知であることを要しない。外国で周知であるときは、我が国における周知性は問わない。 |
| 「同一又は類似の商標」 | 周知な商標と他の文字・図形等を結合した商標は、原則として類似と判断(既成語の一部となっている場合等を除く)。 |
| 「不正の目的」の認定で勘案する資料 | ① その他人の商標が需要者の間に広く知られている事実 ② その周知商標が造語よりなるものか、構成上顕著な特徴を有するものか ③ 周知商標の所有者が我が国に進出する具体的計画(輸出、国内での販売等)を有している事実 ④ 周知商標の所有者が近い将来、事業規模の拡大の計画(新規事業、新たな地域での事業の実施等)を有している事実 ⑤ 出願人から商標の買取りや代理店契約締結等の要求がある事実、又は外国の権利者の国内参入を阻止しようとしている事実 ⑥ 出願人がその商標を使用した場合、周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあること |
| 不正の目的の推認 | ①一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するものであり、かつ、②その周知な商標が造語よりなるものであるか構成上顕著な特徴を有するものである場合は、他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱う。 |
| 該当性の判断 | 周知度、商標の同一又は類似性の程度、不正の目的のそれぞれの判断要素を総合的に勘案する。 |
〔表6〕第19号に関する商標審査基準の整理。要旨であり、逐語の引用ではありません。正確な文言は特許庁ウェブサイトの28_4-1-19.pdfで確認してください。
条文上の帰結として押さえる点は3つです。第1に、第19号には商品・役務の類似も混同のおそれも要件として書かれていません。第2に、「外国における」周知でも足ります。第3に、「不正の目的」は第19号のかっこ書きで定義され、「以下同じ。」とあるので、これより後の条文(商標法第47条第1項など)の「不正の目的」も同じ意味になります。
① 新設:第19号は、平成8年の一部改正において、日本国又は外国で周知な商標と同一又は類似の商標を不正の目的で使用するものを不登録事由としたものである。
② 目的:主として、(ア)外国で周知な商標について、外国での所有者に無断で不正の目的をもってなされる出願・登録を排除すること、さらには(イ)全国的に著名な商標について、出所の混同のおそれがなくても出所表示機能の稀釈化から保護することを目的とする。
③ 周知性を要件とした理由:使用に基づく一定以上の業務上の信用を獲得していないような商標であって未登録のものについて他人が出願した場合に、不正の目的があるからという理由だけでこの出願を排除することとするのは、商標の使用をする者の業務上の信用を維持することを目的とし(商標法第1条)、かつ、先願登録主義を建前とする(同法第8条第1項)我が国法制の下では適切ではないからである。
④ 「不正の目的」の意味:定義規定にいう不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的とは、図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的のことをいう。その意義は、不正競争防止法第19条第1項第2号でいう不正の目的と同じである(現行の不正競争防止法第19条第1項第2号でも同じ定義を置いています)。
⑤ 適用される具体的な想定例(同書は3つ挙げています):(1)外国において周知な他人の商標と同一又は類似の商標について、我が国において登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせたり、外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取り的に出願した場合。(2)日本国内で商品・役務の分野を問わず全国的に知られているいわゆる著名商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声を毀損させる目的をもって出願した場合。(3)その他、日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合。
⑥ 改正前の取扱いとの関係:以上のような事例について、平成8年の一部改正前は第7号又は第15号に該当するとの解釈・運用を行ってきたものであるが、同改正では、このような規定の解釈・運用に頼らず、内外の周知・著名商標と同一又は類似の商標について不正の目的をもって使用をするものは登録しないことを明確化した。
逐条解説〔第22版〕1558頁〜1559頁。逐条解説は立法担当者による解説であって、有権解釈ではありません。
5. 3つの号の比較と、当てはめの順序
| 比較項目 | 第10号 | 第15号 | 第19号 |
|---|---|---|---|
| 他人の商標が知られている場所 | 条文は「需要者の間」。審査基準は我が国内の需要者、一地方でも可とする | 条文上の要件ではない(考慮要素) | 日本国内又は外国 |
| 商標の同一・類似 | 必要 | 条文上は不要(類似性の程度は考慮要素) | 必要 |
| 商品・役務の同一・類似 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 混同を生ずるおそれ | 条文上の要件ではない | 必要 | 不要 |
| 不正の目的 | 不要 | 不要 | 必要 |
| かっこ書きによる除外 | なし | 第10号〜第14号 | 前各号(第1号〜第18号) |
| 判断の時点(第4条第3項) | 出願の時にも該当していることが必要(審査基準:出願時及び査定時) | ||
〔表7〕3つの号の要件比較表。条文の文言と商標審査基準をもとに本記事作成者が整理したもの。
flowchart TB S["出願された商標について
他人の商標との関係を検討"] --> Q1{"他人の広く認識されている商標と
商標が同一・類似 かつ
商品・役務も同一・類似?"} Q1 -- "はい" --> R10["第10号に該当"] Q1 -- "いいえ" --> Q2{"第11号・第12号・第14号に
該当?"} Q2 -- "はい" --> R11["それぞれの号で処理
(関連記事へ)"] Q2 -- "いいえ" --> Q3{"他人の業務に係る商品・役務と
混同を生ずるおそれがある?
(広義の混同を含む)"} Q3 -- "はい" --> R15["第15号に該当"] Q3 -- "いいえ" --> Q4{"日本国内又は外国で
広く認識されている他人の商標と
同一・類似 かつ 不正の目的?"} Q4 -- "はい(第1号〜第18号に当たらない)" --> R19["第19号に該当"] Q4 -- "いいえ" --> OK["この3つの号には該当しない"] R10 --> T{"出願の時にも
該当していた?
(第4条第3項)"} R15 --> T R19 --> T T -- "はい" --> NG["商標登録を受けることができない"] T -- "いいえ" --> OK2["その号は適用されない"] style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:この3つの号による拒絶にはならない結論
- 赤の箱:商標登録を受けることができないという結論
【図4】第10号・第15号・第19号の当てはめ順序。条文のかっこ書きをもとに本記事作成者がフロー化したもの。第13号は現行条文で「削除」のため図から省いています。第19号の「前各号」には第1号〜第9号、第16号〜第18号も含まれますが、図では省略しています。
6. 判断の時点 ― 第4条第3項と商標審査基準
| 第4条第1項の号 | 判断の時点(商標審査基準〔改訂第17版〕 第3 十八 第4条第3項) | 根拠 |
|---|---|---|
| 第1号〜第7号、第9号、第11号、第12号、第14号、第16号、第18号 | 査定時 | 審査基準の記載(第4条第3項に挙がっていない号) |
| 第8号、第10号、第15号、第17号、第19号 | 出願時及び査定時の両時点で該当することを要する | 商標法第4条第3項+審査基準の記載 |
| 国際商標登録出願の「商標登録出願の時」 | 国際登録の日又は事後指定の日(商標法第68条の10の特例の適用がある場合等の扱いは審査基準に別途記載あり) | 審査基準の記載 |
〔表8〕第4条第1項各号の判断時期。29_4-3.pdfの記載の要旨。
7. 拒絶理由・異議理由・無効理由・除斥期間との対応
| 号 | 拒絶理由(商標法第15条第1号) | 異議理由(商標法第43条の2第1号) | 無効理由(商標法第46条第1項第1号) | 除斥期間(商標法第47条第1項) |
|---|---|---|---|---|
| 第10号 | 該当 | 該当 | 該当 | 設定の登録の日から5年。ただし不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く |
| 第15号 | 該当 | 該当 | 該当 | 設定の登録の日から5年。ただし不正の目的で商標登録を受けた場合を除く |
| 第19号 | 該当 | 該当 | 該当 | 非該当第47条第1項の列挙に第19号はない(5年経過後も請求できる) |
〔表9〕手続ごとの対応表。商標法第15条第1号、第43条の2第1号、第46条第1項第1号はいずれも「第4条第1項」を号の限定なく掲げています。e-Gov法令検索、2026年9月参照。
商標登録が第三条、第四条第一項第八号若しくは第十一号から第十四号まで若しくは第八条第一項、第二項若しくは第五項の規定に違反してされたとき、商標登録が第四条第一項第十号若しくは第十七号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が同項第十五号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第四十六条第一項第四号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から五年を経過した後は、請求することができない。
原文のとおり、第47条第1項に第4条第1項第19号は列挙されていません。第19号はもともと「不正の目的」を要件とする号であり、除斥期間(じょせききかん。一定の期間が過ぎると審判を請求できなくなる制度の講学上の呼称)の対象に入っていない、というのが条文上の帰結です。
flowchart TB
A["商標権の設定の登録の日"] --> B["5年を経過"]
B --> C{"無効理由は
どの号の違反?"}
C -- "第10号" --> D{"不正競争の目的で
商標登録を受けた?"}
C -- "第15号" --> E{"不正の目的で
商標登録を受けた?"}
C -- "第19号" --> F["第47条第1項に列挙なし"]
D -- "はい" --> G["無効審判を請求できる"]
D -- "いいえ" --> H["請求することができない"]
E -- "はい" --> G
E -- "いいえ" --> H
F --> G
style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style H fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
- 緑の箱:5年を経過した後も無効審判を請求できる
- 赤の箱:5年を経過した後は請求することができない
【図5】設定の登録の日から5年を経過した後の無効審判の可否。商標法第47条第1項をもとに本記事作成者がフロー化したもの(2026年9月時点のe-Gov掲載条文による)。5年を経過する前は、いずれの号についても同項による制限はありません。
8. 「不正競争の目的」と「不正の目的」の使い分け
商標法は、この2つの語を条文ごとに使い分けています。定義があるのは「不正の目的」だけで、商標法第4条第1項第19号のかっこ書きが不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。
と定めています。「不正競争の目的」には、商標法の中に定義規定はありません。
| 文言 | 使われている規定(本記事でe-Govの原文を確認したもの) | 場面 |
|---|---|---|
| 不正の目的 (第4条第1項第19号に定義) | 商標法第4条第1項第19号 | 不登録事由の要件(不正の目的をもって使用をするもの) |
| 商標法第47条第1項(第15号違反の部分) | 除斥期間の例外(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く) | |
| 不正競争の目的 (商標法に定義規定なし) | 商標法第47条第1項(第10号・第17号違反の部分) | 除斥期間の例外(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く) |
| 商標法第32条第1項 | 先使用による商標の使用をする権利の要件(不正競争の目的でなく) | |
| 商標法第26条第2項 | 自己の氏名等についての商標権の効力の制限の例外(設定の登録後、不正競争の目的で用いた場合) | |
| 商標法第52条の2第1項 | 商標権の移転により分かれた商標権者の一方による、混同を生ずる使用についての取消審判 | |
| (例外あり:このほかにも「不正競争の目的」を用いる規定があります。網羅的な一覧ではありません) | ||
〔表10〕「不正競争の目的」と「不正の目的」の使い分け表。本記事で原文を確認した規定に限って掲載しています。
① 第4条第1項第19号について:ここで不正競争の目的とせず不正の目的としたのは、取引上の競争関係を有しない者による出願であっても、信義則に反するような不正の目的による出願については商標登録すべきでないからである。
② 第47条第1項の第15号に係る部分について:第15号は、第10号の場合(同一・類似の商品(役務)間、すなわち競争関係が存在する場合での問題として扱うことで足りる)とは異なり、非類似の商品(役務)の間、すなわち競争関係が存在しない同業者以外の者の間にも適用があるものであるから、単に不正競争の目的では狭いので、これをも含めた不正の目的の文言を使用した。
③ ②の経緯:平成8年の一部改正前は、第10号(周知商標)については不正競争の目的で登録を受けた場合に除斥期間を設けていないのに、第15号については除斥期間を設けていたところ、両者間に差異を設ける格別の理由も見いだせないので、第15号についてもいわゆる悪意で登録を受けた場合には除斥期間を除外することとした。なお、TRIPS協定第16条は、周知商標の保護についてのパリ条約第6条の2の規定を、非類似の商品(役務)間にも混同等が起こることを条件に適用すべきことを各加盟国に義務付けているところ、パリ条約第6条の2(3)は、他人の周知商標について悪意で登録を受けた場合には、この登録を無効にすることについて除斥期間を設けないこととしている。
逐条解説〔第22版〕1559頁、1740頁。パリ条約第6条の2(3)は悪意の登録・使用に対する無効・使用禁止請求に期間を設けないことを定め、TRIPS協定第16条(3)は権利者との関連性と利益侵害のおそれを条件に非類似商品・役務へ周知商標保護を拡張しています。出典:パリ条約第6条の2、特許庁・著名商標保護資料のTRIPS第16条(3)原文。
答案では、条文ごとの文言をそのまま書き分けることが安全です。
9. 第32条(先使用による商標の使用をする権利)・第64条(防護標章登録)との関係(概要)
図は左右にスクロールできます。
- 橙の枠:甲(広く認識されている商標を先に使っている人)
- 藍の枠:乙(後から同一・類似の商標を出願した人)
- 白い枠:場面ごとの手当て(①②③)
- 破線の矢印:乙の出願商標が甲の商標に近い、という関係
【図6】甲と乙の関係と、関係する条文の位置づけ(概要)。条文番号はすべて商標法。甲・乙・「ほしぞらパン」は架空の例で、本記事作成者が図にしたもの。
| 規定 | だれの商標が「需要者の間に広く認識されている」か | 効果 | 第10号・第15号との関係 |
|---|---|---|---|
| 商標法第4条第1項第10号 | 他人(出願人から見て)の商標 | 出願人は商標登録を受けることができない | ― |
| 商標法第32条第1項 | 自己(先に使用していた者)の商標。他人の商標登録出願の際、現に広く認識されていること | 継続して使用をする場合、その商品・役務についてその商標の使用をする権利を有する。不正競争の目的でないことが必要。商標権者等は混同防止表示を請求できる(同条第2項) | 登録を阻止・無効にできなかった場合でも、使用者の側に残る手当て |
| 商標法第64条第1項・第2項 | 商標権者の登録商標 | 非類似の商品・役務について、混同を生ずるおそれがある範囲で、登録商標と同一の標章の防護標章登録を受けることができる | 第15号が個別の審査で混同のおそれを判断するのに対し、あらかじめ登録しておく制度。登録防護標章は第4条第1項第12号で他人の登録を排除し、審査基準上は第15号の著名性の推認にも使われる |
〔表11〕第10号と、第32条・第64条の関係(概要)。詳細はそれぞれの関連記事で扱います。
10. 特許法・実用新案法・意匠法との比較
周知・著名な目じるしを守るという発想は、業務上の信用を保護する商標法に固有のものです。近い文言をもつのは意匠法第5条第2号です。
| 法律 | 規定 | 文言(原文の該当部分) | ちがい |
|---|---|---|---|
| 商標法 | 第4条第1項第15号 | 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標 | かっこ書きで第10号〜第14号を除く。第4条第3項により出願の時にも該当が必要 |
| 意匠法 | 第5条第2号 | 他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠 | 混同の対象が「物品、建築物又は画像」。商標法第4条第1項第10号・第19号に当たる号は意匠法第5条にはない(同条は第1号〜第3号) |
| 特許法・実用新案法 | 特許法第32条・実用新案法第4条は公序良俗・公衆衛生を害するおそれを規定し、商標の出所混同を理由とする本記事の3号とは対象が異なる | 特許法第32条、実用新案法第4条 | |
〔表12〕他法との比較。商標法・意匠法の文言はe-Gov法令検索(2026年9月参照)による。
試験での問われ方
| 試験種別 | 問われやすい切り口(一般的な整理であり、出題を保証するものではありません) |
|---|---|
| 短答式 | 各号の文言の正誤(第10号に「混同」の文言があるか、第19号に商品・役務の類似が必要か、「外国」で足りるか)、かっこ書きによる適用順序、第4条第3項の対象となる号、第47条第1項の対象となる号と2つの「目的」の書き分け |
| 論文式 | 他人の未登録の商標を第三者が出願・登録した事例で、第10号→第15号→第19号の順に当てはめ、あわせて異議申立て・無効審判(除斥期間)・第32条を検討する構成 |
| 口述 | 条文の文言どおりに要件を述べられるか(「需要者の間に広く認識されている」「不正の目的」の定義) |
〔表13〕試験種別ごとの切り口。本記事作成者の整理。
令和8年度短答式【商標】3は、不登録事由のうち旧第13号に相当する記述、第12号、第16号、第18号、第1号を扱っています。本記事の第10号・第15号・第19号を直接の題材にした問題ではありません。問3の公式正解は5です。 出典:公式問題(商標1〜10)、公式解答。
- 条文の文言は「需要者の間に広く認識されている」。第15号にはこの文言がなく、周知・著名性は「混同を生ずるおそれ」の考慮要素。
- 第15号の「混同」は、最高裁平成12年7月11日判決(平成10年(行ヒ)第85号)により、いわゆる広義の混同を含む。
- 第19号は、外国のみで広く認識されている商標も対象。商品・役務の類似も混同も不要で、「不正の目的」が決め手。
- 3つの号はいずれも、出願時と査定時の両方で該当することが必要(第4条第3項、商標審査基準)。登録後に該当するようになっても第46条第1項第6号の無効理由にはならない。
- 除斥期間:第10号は「不正競争の目的」、第15号は「不正の目的」で登録を受けた場合を除き5年。第19号は第47条第1項に列挙がない。
