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小学生でも分かる意匠法|意匠法第39条〜第41条 損害の額の推定等・過失の推定・特許法の準用 ― 「いくら払ってもらえるか」の計算ルールと、秘密意匠だけの例外

小学生でもわかる意匠法 29:損害額と過失の推定(第39条〜第41条)

小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #29

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意匠権を侵害されたとき、権利者は「やめて」(差止め・意匠法第37条)と言えるだけでなく、「損したぶんを払って」(損害賠償)と言えます。でも、デザインをまねされて「いくら損したか」を証明するのはとても難しいことです。そこで意匠法第39条は損害額の計算ルールを、第40条は「まねした人には落ち度(過失)があったことにする」推定ルールを置き、第41条は裁判の進め方に関する特許法の条文を準用しています。特許法第102条〜第106条とほぼ同じ作りですが、秘密意匠には過失の推定が働かない(第40条ただし書)という意匠法だけの例外があります。

条文:意匠法第39条(第1項〜第5項)・第40条・第41条準用される条文:特許法第104条の2〜第105条、第105条の2の12〜第105条の6、第106条関連条文:意匠法第14条、第20条第3項、第23条、第37条第3項、特許法第102条〜第106条、実用新案法第29条〜第30条、民法第709条改正解説書:令和元年法律改正(令和元年法律第3号)解説書 第1部 第1章「損害賠償額算定方法の見直し」参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「いくら損したか」を証明するのはむずかしい

「星の形の持ち手がついたコップ」のデザインで意匠権をもっている甲さんが、そっくりなコップを1万個売った乙社に「損したぶんを払って」と言うとします。ふつうのルール(民法)では、甲さんが「乙社のせいで、私はこれだけ損しました」と自分で証明しなければなりません。でも、「乙社が売らなかったら、私のコップが何個売れていたか」なんて、だれにも正確には分かりません。

そこで意匠法は、証明を楽にするために3つの物差しを用意しました。甲さんはこの中から選んで(組み合わせて)請求できます。

物差し① 売れたはずの数 乙社が売った数(1万個) × 甲さんのコップ1個のもうけ 第39条第1項 物差し② 相手のもうけ 乙社がそっくりコップで もうけたお金を 甲さんの損した額と「推定」 第39条第2項 物差し③ 使用料 「そのデザインを使わせて あげるなら、いくらもらうか」 = 最低ラインの損害額 第39条第3項 甲さんは、証明しやすい物差しを選んで「損した額」を主張できる (正確な計算式・条件はレベル2・レベル3)

図は左右にスクロールできます。

【図1】損害額を計算する3つの物差し(意匠法第39条第1項〜第3項)。数値は説明のための架空の例。※①は、甲さんが作れる数(実施相応数量)を超えた分を「使用料」で計算する(→レベル2)。②は「推定」なので、乙社が反対の証明をすればくつがえる。③は、これより多くもらえることを証明できればその額も請求できる。

まねした人は「うっかりでした」では済まない

お金を払ってもらうには、ふつう「相手にわざと(故意)か、うっかり(過失)があったこと」を、払ってもらう側が証明しなければなりません。でも、登録されたデザインは意匠公報という本に載っていて、だれでも見られます。だから意匠法は、「意匠権を侵害した人には、うっかり(過失)があったものと推定する」と決めました。「公報を見れば分かったはずでしょう」という考え方です。乙社が「私にはうっかりもありませんでした」と証明できれば別ですが、ふつうはとても難しいです。

ひみつにしたデザインだけは、この推定が働かない

ところが、意匠法には登録したデザインを最長3年間ひみつにできる制度があります(秘密意匠・意匠法第14条)。ひみつのあいだは、公報にデザインの絵が載りません。それなのに「公報を見れば分かったはず」と言うのはおかしいですよね。そこで、秘密意匠については「過失があったものと推定する」ルールを使わないことにしました。これが第40条の「ただし」の部分で、意匠法だけにあるルールです。

ふつうの登録意匠 意匠公報にデザインが載っている → だれでも見られる まねした人に「うっかり」が あったと推定(第40条本文) 秘密意匠(最長3年ひみつ) 公報にデザインの絵が載らない → 知りようがない 推定は働かない(第40条ただし書) → 権利者が「うっかり」を証明する 凡例: 実線の枠=過失の推定が働く(第40条本文) 破線の枠=推定が働かない(ただし書)

図は左右にスクロールできます。

【図2】過失の推定(第40条本文)と、秘密意匠の例外(第40条ただし書)。

裁判の進め方は特許のルールを借りる

「乙社のコップがどんな作り方をされているか」「乙社が何個売ったか」は、乙社しか知りません。そこで、裁判のときに相手に「本当のことを言わせる」「帳簿を出させる」「計算のプロ(鑑定人)に説明させる」といったルールが必要です。これらは特許の裁判とまったく同じでよいので、意匠法第41条は特許法の条文をそのまま借りています。

「まねしていない」と言うなら自分の作り方を説明する
帳簿や記録を裁判所に出す
裁判の中で見せた秘密を外に漏らさない命令
お金の代わりに(またはお金と一緒に)「信用を取り戻す」措置
レベル1のまとめ

  • 損害額は「売れたはずの数×1個のもうけ」「相手のもうけ」「使用料」の3つの物差しで計算できる(第39条)。
  • まねした人には「うっかり」があったと推定する。ただし秘密意匠は例外(第40条)。
  • 裁判の進め方のルールは特許法から借りる(第41条)。

※物差し①の「作れる数を超えた分」の扱い、推定がくつがえる条件、借りている特許法の条文の正確な一覧は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

意匠法第39条 ― 損害の額の推定等(5つの項)

意匠法第39条第1項 柱書(原文)
意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の意匠権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物品を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、意匠権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。以下の意匠法の条文も同じ。
意匠法第39条第1項第1号(原文)
意匠権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額に、自己の意匠権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物品の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該意匠権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(同号において「実施相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該意匠権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
意匠法第39条第1項第2号(原文)
譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(意匠権者又は専用実施権者が、当該意匠権者の意匠権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該意匠権又は専用実施権に係る登録意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
意匠法第39条第2項(原文)
意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の意匠権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、意匠権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
意匠法第39条第3項(原文)
意匠権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の意匠権又は専用実施権を侵害した者に対し、その登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
意匠法第39条第4項(原文)
裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する登録意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、意匠権者又は専用実施権者が、自己の意匠権又は専用実施権に係る登録意匠の実施の対価について、当該意匠権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該意匠権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該意匠権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
意匠法第39条第5項(原文)
第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。
この場合において、意匠権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
項 性質 内容(要旨) 覚え方
第1項 損害額とすることができる(算定規定) 第1号(逸失利益:単位数量当たりの利益×譲渡数量のうち実施相応数量まで、特定数量を控除)+第2号(超過分・特定数量分の実施料相当額)の合計 「売れたはずの数」+「あふれた分の使用料」
第2項 損害の額と推定する 侵害者が侵害行為により受けた利益の額 「相手のもうけ」
第3項 請求することができる 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額 「使用料」(最低ライン)
第4項 裁判所の考慮事項 第1項第2号・第3項の実施料相当額の認定に当たり、侵害を前提とした合意で得られたであろう対価を考慮できる 「侵害されたあとの交渉なら高くなる」
第5項 第3項の補足 第3項の額を超える賠償請求は妨げない。侵害者に故意・重過失がなければ裁判所は額の決定で参酌できる 「使用料は上限ではない」

〔表1〕意匠法第39条の項別分解。「できる」「推定する」の語尾の違いに注意。

flowchart TB
  A["意匠権・専用実施権の侵害
(故意又は過失)"] --> B{"侵害者が物品を
譲渡したか?(この図は物品の例)"} B -- "はい" --> C["第1項:単位利益×譲渡数量(実施相応数量まで・特定数量控除)
+ 超過分・特定数量分の実施料相当額"] B -- "はい・いいえを問わない" --> D{"侵害者が利益を
受けているか?"} D -- "はい" --> E["第2項:侵害者の利益の額を損害額と推定"] D -- "はい・いいえを問わない" --> F["第3項:実施料相当額を損害額として請求"] F --> G["第4項:侵害を前提とした合意対価を考慮できる"] F --> H["第5項:第3項を超える請求も可(故意・重過失なしは参酌)"] style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図3】意匠法第39条の各項の分岐図。第1項は「物品の譲渡」が前提、第2項・第3項はその限定がない。「はい・いいえを問わない」の枝は、前の問いの答えにかかわらずその項を使えることを示す。凡例:緑=損害額の算定に使える規定(第1項〜第3項)。

第1項の用語 定義(第1項第1号の括弧書き) 架空の例(甲:意匠権者、乙:侵害者)
譲渡数量 侵害者が譲渡した物品の数量 乙が売ったコップ 10,000個
実施相応数量 譲渡数量のうち、意匠権者等の実施の能力に応じた数量 甲の工場では 6,000個までしか作れない → 6,000個
特定数量 譲渡数量の全部又は一部を意匠権者等が販売することができないとする事情に相当する数量 乙の販売力・別の理由で買われた分などが 1,000個と認定
第1号の額 単位数量当たりの利益 ×(実施相応数量 − 特定数量) 1個あたり利益 500円 ×(6,000 − 1,000)= 250万円
第2号の額 実施相応数量を超える数量(4,000個)+特定数量(1,000個)に応じた実施料相当額(実施許諾をし得たと認められない場合を除く) 5,000個分の実施料相当額

〔表2〕第39条第1項の用語と計算の流れ(数値は説明のための架空の例)。

意匠法第40条 ― 過失の推定と秘密意匠の除外

意匠法第40条(原文)
他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
ただし、第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については、この限りでない。
部分 内容 効果
本文 意匠権・専用実施権を侵害した者は、侵害行為について過失があったものと推定 立証責任の転換。侵害者が「過失がなかった」ことを立証しない限り、過失があったものとして扱われる
ただし書 意匠法第14条第1項により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権・専用実施権の侵害には、本文を適用しない 民法第709条の原則に戻り、権利者側が侵害者の故意・過失を立証する

〔表3〕意匠法第40条の本文とただし書。

flowchart TB
  A["意匠権・専用実施権の侵害"] --> B{"秘密請求があり、意匠の内容が
まだ公報に掲載されていないか?"} B -- "はい" --> D["第40条ただし書:推定なし
権利者が故意・過失を立証"] D --> E["差止請求には第37条第3項の警告が前提
(証明を受けた書面の提示)"] E --> F["警告後の実施は、故意・過失の立証が容易になる"] B -- "いいえ" --> C["第40条本文:過失を推定
侵害者が無過失を立証しない限り過失あり"] style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#FDF3E1,stroke:#B27A1F,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図4】意匠法第40条の分岐図。秘密意匠では第37条第3項の警告制度とセットで理解する。凡例:緑=過失が推定される(権利者の立証負担が軽い)/橙=推定が働かず、権利者が故意・過失を立証する。

意匠法第41条 ― 特許法の準用

意匠法第41条(原文)
特許法第百四条の二から第百五条まで(具体的態様の明示義務、特許権者等の権利行使の制限、主張の制限及び書類の提出等)、第百五条の二の十二から第百五条の六まで(損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)及び第百六条(信用回復の措置)の規定は、意匠権又は専用実施権の侵害に準用する。
準用される特許法の条文 見出し(条文の括弧書き) 内容(要旨)
第104条の2 具体的態様の明示義務 権利者が主張する侵害物の具体的態様を否認する相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない(相当の理由があれば例外)
第104条の3 特許権者等の権利行使の制限 無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、権利行使できない(いわゆる無効の抗弁)。審理を不当に遅延させる目的の提出は却下できる
第104条の4 主張の制限 侵害訴訟の終局判決確定後に無効審決等が確定した場合、再審の訴えでそれを主張できない
第105条 書類の提出等 裁判所は、侵害の立証・損害の計算のため必要な書類又は電磁的記録の提出を命ずることができる(正当な理由があれば例外)。インカメラ手続
第105条の2の12 損害計算のための鑑定 裁判所が損害計算のため鑑定を命じたとき、当事者は鑑定人に必要な事項を説明しなければならない
第105条の3 相当な損害額の認定 損害額の立証が極めて困難なとき、裁判所は相当な損害額を認定できる
第105条の4 秘密保持命令 営業秘密について、訴訟の目的以外の使用・開示を禁じる命令
第105条の5 秘密保持命令の取消し 要件を欠くに至ったとき等の取消し
第105条の6 訴訟記録の閲覧等の請求の通知等 秘密記載部分の閲覧等の請求があったときの通知等
第106条 信用回復の措置 故意・過失による侵害で業務上の信用を害した者に、損害賠償に代え又はとともに、信用回復に必要な措置を命ずることができる

〔表4〕意匠法第41条で準用される特許法の条文一覧。「内容(要旨)」は本記事作成者の要約であり、第104条の2・第104条の3・第105条・第105条の2の12・第106条はe-Govで原文を確認、それ以外は見出しに基づく要旨です。原文は特許法シリーズの各記事をご参照ください。

読替規定がない点:意匠法第41条には「……とあるのは……と読み替える」という読替規定がありません(実用新案法第30条には特許法第104条の4に関する読替規定があります→レベル3)。準用の性質上、「特許権」を「意匠権」、「特許無効審判」を「意匠登録無効審判」と読み替えます。なお、特許法第104条の3第1項の「存続期間の延長登録……延長登録無効審判」の部分は、意匠法に延長登録制度がないため、意匠権では適用場面がありません。
レベル2のまとめ

  • 第39条:第1項(逸失利益+超過分の実施料相当額、「物品を譲渡したとき」が前提)、第2項(侵害者利益の推定)、第3項(実施料相当額)、第4項(侵害を前提とした合意対価の考慮)、第5項(第3項は上限でない・故意重過失なしの参酌)。
  • 第40条:過失を推定。ただし秘密意匠(第14条第1項)に係る意匠権・専用実施権の侵害には推定なし。
  • 第41条:特許法第104条の2〜第105条、第105条の2の12〜第105条の6、第106条を準用。読替規定なし。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 特許法第102条〜第106条との対比 ― 「自前」か「準用」か「なし」か

意匠法は、損害賠償に関する特許法の規定のうち、第102条・第103条は自前の条文(第39条・第40条)として書き直し、手続的な規定は第41条で準用し、意匠に合わないものは採用していません。この3分類を押さえると、条文番号の暗記が楽になります。

特許法 内容 意匠法での扱い 意匠法の条文 意匠固有の差異
第102条 損害の額の推定等 自前 第39条 第3項が「登録意匠又はこれに類似する意匠の実施」と規定(意匠法第23条の効力範囲に対応)
第103条 過失の推定 自前 第40条 秘密意匠を除外するただし書がある
第104条 生産方法の推定 なし ― 意匠に「方法」はないため対応規定なし
第104条の2〜第105条 具体的態様の明示義務・権利行使の制限・主張の制限・書類の提出等 準用 第41条 読替規定なし
第105条の2〜第105条の2の10 査証 準用なし ― 意匠権侵害訴訟では査証制度が使えない
第105条の2の11 第三者の意見(意見募集) 準用なし ― 実用新案法第30条は準用している
第105条の2の12〜第105条の6 損害計算のための鑑定・相当な損害額の認定・秘密保持命令・その取消し・閲覧等請求の通知等 準用 第41条 ―
第105条の7 当事者尋問等の公開停止 準用なし ― 実用新案法第30条は準用している(第41条の列挙は第105条の6まで)
第106条 信用回復の措置 準用 第41条 ―

〔表5〕特許法第102条〜第106条と意匠法第39条〜第41条の対応表。「準用なし」は意匠法第41条の条文の列挙に含まれていないことを意味します。

準用しない理由(逐条解説の説明):逐条解説は、第41条の〔参考〕として、①意匠権は方法について与えられるものではないため特許法第104条(生産方法の推定)は準用されないこと、②特許法第105条の7(当事者尋問等の公開停止)は意匠の性質上準用されないこと、③令和元年改正で新設された査証制度(特許法第105条の2〜第105条の2の10)は、意匠権侵害訴訟において専門家による強制的な証拠収集が必要であるとのニーズが企業から寄せられなかったことから準用していないこと、を挙げています。また、令和3年改正で新設された第三者意見募集制度(特許法第105条の2の11)についても、同制度が準用されないよう形式的な改正を行ったと説明しています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1348〜1349頁)。青本〔第22版〕は令和4年10月刊であり、同版時点の説明です。
特許法 意匠法 第102条 損害額の推定等 第103条 過失の推定 第104条 生産方法の推定 第104条の2〜第105条 第105条の2〜の2の11 査証・意見 第105条の2の12〜第105条の6 第105条の7 公開停止 第39条(自前) 第40条(自前・秘密意匠除外) 第41条(準用) 第104条の2〜第105条 第105条の2の12〜第105条の6 第106条 「書き直し」 「そのまま準用」 凡例: 実線の枠=意匠法に対応あり(自前の規定または準用) 点線の枠=意匠法に対応なし

図は左右にスクロールできます。

【図5】特許法第102条〜第106条と意匠法第39条〜第41条の相関図。特許法第106条は図中の第41条の枠内に含めた。点線の枠は、第104条(生産方法の推定)・第105条の2〜の2の11(査証・第三者意見)・第105条の7(公開停止)で、意匠法に対応する規定がないもの。参照時点:2026年9月。

2. 第39条の要件の詳細 ― 意匠法だから気をつける点

論点 内容 根拠・区別
「故意又は過失により」 第39条は民法第709条の不法行為責任を前提に、損害額の算定・推定を定める規定。故意・過失は要件のまま(第40条で過失が推定される) 条文上明らか
第1項の「物品を譲渡したとき」 第1項は侵害の行為を組成した「物品」の「譲渡」を前提とする。建築物・画像の実施一般を、そのまま物品の譲渡数量に置き換えない。第2項の侵害者利益・第3項の実施料相当額には、この物品譲渡の限定はない 第39条第1項〜第3項の文言の比較。第1項の計算を使わないことと、損害賠償を請求できないことを区別する
第2項の「推定」 侵害者が「利益の額が損害額でない」ことを立証すればくつがえる(推定規定)。第1項は「損害の額とすることができる」であり推定規定ではない 条文の語尾の違い
第3項の「登録意匠又はこれに類似する意匠の実施」 意匠権の効力が類似意匠まで及ぶ(意匠法第23条)ことに対応し、類似意匠の実施に対する実施料相当額も対象 意匠法第23条との対応
第4項の考慮 令和元年改正で新設。侵害を前提とした合意で得られたであろう対価を考慮「できる」(義務ではない) 改正解説書 第1部 第1章
第5項後段の参酌 侵害者に故意・重過失がなかったとき、裁判所は賠償額の決定で参酌「できる」。軽過失の場合に減額の余地 条文上明らか

〔表6〕意匠法第39条の要件・解釈上の注意点。

3. 令和元年改正 ― 改正前と現行の区別

逐条解説は、第39条の趣旨については特許法第102条の解説を参照するよう示しています(青本〔第22版〕1346頁)。令和元年法律改正(令和元年法律第3号)の解説書は、特許法第102条第1項・第4項の改正と同様の改正が実用新案法第29条・意匠法第39条・商標法第38条にもされたと説明しています。改正のポイントは次のとおりです。

項目 改正前 現行(令和元年改正後)
第1項の構造 単位数量当たりの利益×譲渡数量(実施の能力に応じた数量まで、販売できない事情に相当する数量を控除)のみ 第1号(従来の逸失利益)+第2号(実施相応数量を超える数量・特定数量に応じた実施料相当額)の合計
実施能力超過分の扱い 条文上明示なし。改正解説書は、学説の多数が実施料相当額の賠償を肯定する一方、裁判例では否定する傾向が強まっていたと説明 第1項第2号で実施料相当額を加算できることを明文化(実施許諾をし得たと認められない場合を除く)
実施料相当額の認定 条文上明示なし 第4項を新設し、侵害を前提とした合意対価を考慮できることを明文化

〔表7〕意匠法第39条の令和元年改正前後の比較。改正解説書 第1部 第1章の説明に基づく。

損害賠償額算定の見直しは令和2年4月1日施行です。改正解説第1部第3章68頁はこの日を明記しています。意匠法の附則第2条第1項は第39条を施行前出願の旧法適用の列挙に含めていません。出願日だけで算定方法を決めず、損害が発生した侵害行為の時点に応じて適用法を区別します。改正解説・施行日68頁/意匠法改正の経過措置157頁

4. 第40条ただし書 ― 秘密意匠の過失推定除外を掘り下げる

観点 通常の登録意匠 秘密意匠(第14条第1項の請求あり)
意匠公報への掲載 設定登録後、願書・図面等の内容が掲載される(意匠法第20条第3項) 秘密期間中は図面等の内容が掲載されない(意匠法第20条第4項)
差止請求(第37条第1項) 警告なしで請求できる 第37条第3項:第20条第3項各号の事項を記載し特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告した後でなければ請求できない
損害賠償請求における過失 第40条本文で推定 第40条ただし書で推定されない。権利者が故意・過失を立証
推定除外の期間 ― 青本1347頁は、意匠の内容が直ちに公告されない「その間」の侵害者に過失を推定するのは酷であると説明。秘密期間満了日と公報の発行日を区別し、公報公開前の侵害について故意・過失の立証を要する場面を整理する

〔表8〕秘密意匠と通常の登録意匠の、侵害場面での取扱いの対比。

逐条解説は、第40条ただし書について、秘密意匠は意匠権が発生しても直ちにその内容が公告されない(第20条第4項)ため、その間に意匠権を侵害した者に過失があったと推定するのは酷であることから例外としたものであり、民法の一般原則によって権利者が過失を立証することになる、と説明しています(青本〔第22版〕1347頁)。

青本1347頁は、秘密意匠の内容が直ちに公告されないため、「その間」の侵害者に過失を推定するのは酷であると説明しています。この趣旨に沿って、図面等の公報公開前の侵害は権利者が故意又は過失を立証する場面として扱います。秘密期間満了と公報発行は同じ時点とは限りません。公報公開後まで、秘密請求をした過去の事実だけで推定除外が永続するという説明はしません。青本第22版・意匠法1347頁/特許庁・秘密意匠の公報掲載
「推定」と「みなす」の違い:第40条本文は「推定する」であり「みなす」ではありません。推定は反証によりくつがえりますが、みなし規定は反証を許しません。短答式では、この語の入れ替えが正誤のポイントになり得ます。

5. 実用新案法第29条〜第30条との対比 ― 過失の推定がない法律

実用新案法第30条(原文)
特許法第百四条の二から第百五条まで(具体的態様の明示義務、特許権者等の権利行使の制限、主張の制限及び書類の提出等)及び第百五条の二の十一から第百六条まで(第三者の意見、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し、訴訟記録の閲覧等の請求の通知等、当事者尋問等の公開停止及び信用回復の措置)の規定は、実用新案権又は専用実施権の侵害に準用する。
この場合において、同法第百四条の四中「次に掲げる決定又は審決が確定した」とあるのは「第一号に掲げる審決が確定した又は第三号に掲げる訂正があつた」と、「当該決定又は審決が確定した」とあるのは「当該審決が確定した又は訂正があつた」と、同条第三号中「訂正をすべき旨の決定又は審決」とあるのは「実用新案法第十四条の二第一項又は第七項の訂正」と読み替えるものとする。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000123)、2026年9月参照。
項目 特許法 意匠法 実用新案法
損害額の算定・推定 第102条 第39条(自前) 第29条(自前)
過失の推定 第103条 第40条(秘密意匠を除外) 規定なし(無審査登録のため。代わりに第29条の2の技術評価書提示警告、第29条の3の権利者等の責任)
生産方法の推定 第104条 なし なし(考案は物品の形状等に限られる)
第104条の2〜第105条の準用 ― 第41条 第30条
第104条の4の読替規定 ― なし(意匠法に訂正制度がない) あり(実用新案法第14条の2の訂正に読み替え)
査証(第105条の2〜第105条の2の10) ― 準用なし 準用なし(第30条の列挙は第105条の2の11から)
第三者の意見(第105条の2の11) ― 準用なし 準用
当事者尋問等の公開停止(第105条の7) ― 準用なし 準用
信用回復の措置(第106条) ― 第41条で準用 第30条で準用

〔表9〕特許法・意匠法・実用新案法の損害賠償関連規定の三法対比。実用新案法第29条の2・第29条の3の内容は「実用新案法シリーズ」の記事をご参照ください。

三法の違いの覚え方:過失推定の有無は、特許法第103条、意匠法第40条、実用新案法第30条の準用範囲で確認できます。実用新案法第30条は特許法第103条を準用しません。意匠法では秘密意匠の例外があるため、実体審査の有無だけで過失の立証負担を決めないようにします。

6. 拒絶理由・無効理由との関係

規定 拒絶理由・無効理由か 備考
意匠法第39条〜第41条 該当しない いずれも侵害訴訟における損害賠償・手続に関する規定であり、登録要件ではない
(参考)第41条で準用する特許法第104条の3 侵害訴訟の中で「意匠登録無効審判により無効にされるべきもの」と認められるときに権利行使を制限する規定。無効理由そのもの(意匠法第48条第1項各号)は「意匠法第48条・第49条 意匠登録無効審判」の記事をご参照ください

〔表10〕意匠法第39条〜第41条と拒絶理由・無効理由の関係。

7. 試験での問われ方

試験種別 問われ方の傾向 気をつける点
短答式 「実施の能力を超える数量に応じた金銭の額は損害の額に含めることができない」の正誤(第39条第1項第2号)。「侵害者に過失があったものとみなす」の正誤(第40条:推定であってみなしではない)。「秘密意匠の侵害にも過失が推定される」の正誤。「意匠権侵害訴訟で査証が発令され得る」の正誤(第41条は査証を準用しない) 語尾(できる/推定する/みなす)と、第41条の準用リストに何が「入っていないか」
論文式 侵害事例で、権利者が採り得る損害賠償の主張(第39条第1項〜第3項の選択・併用)と、秘密意匠の場合の警告要件・過失立証 第37条第3項(警告)と第40条ただし書(推定除外)をセットで論じる
口述 「意匠法第40条ただし書の趣旨を述べよ」「意匠法第41条が準用しない特許法の規定を挙げよ」 秘密意匠は公報に図面等が掲載されないことを根拠に説明

〔表11〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

意匠問3の公式正解は1です。肢3は実施能力を超える数量についても第39条第1項第2号の実施料相当額が加算され得る点、肢4は査証制度が第41条で準用されない点、肢5は「みなす」でなく「推定する」点を問う誤った記述です。 令和8年度・問題PDF/公式解答PDF。肢の説明と公式の正解番号を区別して確認しています。
レベル3のまとめ

  • 特許法第102条・第103条は意匠法第39条・第40条として書き直し(第39条第3項は類似意匠を含む、第40条は秘密意匠を除外)。第104条(生産方法の推定)は意匠法に対応なし。
  • 第41条は特許法第104条の2〜第105条、第105条の2の12〜第105条の6、第106条を準用。査証(第105条の2〜第105条の2の10)、第三者の意見(第105条の2の11)、当事者尋問等の公開停止(第105条の7)は準用されない。実用新案法第30条は第三者の意見・公開停止を準用する点で異なる。
  • 令和元年改正で第39条第1項第2号・第4項が加わり、実施能力超過分の実施料相当額の加算と、侵害を前提とした合意対価の考慮が明文化された。
  • 秘密意匠:差止めは第37条第3項の警告が前提、損害賠償は第40条ただし書で過失推定なし。

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