小学生でも分かる意匠法 / B. 出願・審査・登録の手続 #17
意匠登録の「合格通知」(登録査定)をもらっただけでは、まだ意匠権はありません。第1年分の登録料を納め、特許庁の帳簿に「設定の登録」がされて、はじめて意匠権が生まれます。そして登録されたことは「意匠公報」で世の中に知らされます。意匠法第20条は、この「登録料→設定登録→公報」の流れと、公報に何を載せるか、秘密意匠のときはどう変わるかを定めた条文です。
レベル2条文の骨格 ― 第1項(権利の発生)、第2項(登録の条件)、第3項(公報掲載事項)、第4項(秘密意匠の特則)
レベル3要件・例外・試験での問われ方 ― 特許法・実用新案法との対比、出願公開がないこと、秘密意匠と公報、国際意匠登録出願の読替え
LEVEL 1イメージでつかむ
「合格」しただけでは、まだ権利はない
たとえば、あなたが「新しい形のコップ」のデザインを考えて、特許庁に「このデザインを登録してください」とお願いしたとします。特許庁の審査官がデザインを調べて「これは登録してよい」と決めると、「合格の通知」(登録査定)が届きます。
でも、ここで終わりではありません。合格の通知をもらってから30日以内に、最初の1年分のお金(登録料)を納めなければなりません。お金を納めると、特許庁は「登録ノート」(意匠原簿)に「このコップのデザインは、あなたのものです」と書き込みます。これが設定の登録です。この書き込みがされた瞬間に、はじめて意匠権という権利が生まれます。
登録されたら、みんなに知らせる
権利が生まれたら、特許庁は「登録されました」ということを、意匠公報という特別な新聞のようなものに載せて、世の中の人に知らせます。誰のデザインか、どんなデザインか(図面や写真)、いつ登録されたか、などが載ります。これを見れば、ほかの人は「このデザインは使えないんだな」と分かります。
図は左右にスクロールできます。
【図1】登録査定から意匠公報までの4ステップ。意匠権が生まれるのは③の瞬間。凡例は図中に記載。「30日以内」は、意匠登録をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があつた日から30日以内(意匠法第43条第1項。請求による延長・救済は→レベル3)。(2026年9月時点の意匠法による)
「秘密にしてほしい」とお願いしたデザインは?
お店の新しいコップを、発売までみんなに見せたくない、ということがあります。意匠法には「登録から最長3年間、デザインを秘密にしてください」とお願いできるしくみ(秘密意匠)があります。このお願いをしたデザインは、公報に「誰が、いつ登録したか」は載りますが、デザインの中身(図面や写真)だけは、秘密の期間が終わってから載せることになっています。
お金(第1年分の登録料)を納める→帳簿に登録→権利が生まれる
登録されたら意匠公報で世の中に知らせる
秘密意匠は、デザインの中身だけ後から載せる
- 意匠権は「設定の登録」で生まれる。合格通知(登録査定)ではまだ生まれない。
- 設定の登録は、最初の1年分の登録料を納めたときにされる。
- 登録されたことは意匠公報に載せて世の中に知らせる。
- 秘密意匠は、デザインの中身だけ、秘密の期間が終わってから公報に載せる。
※登録料を納める期間の延長や救済、公報に載せる事項の正確な一覧、国際出願の場合の扱いなどは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
意匠法第20条は4つの項からできています。まず全体の構造を表で確認します。
| 項 | テーマ | ひとことで |
|---|---|---|
| 第1項 | 意匠権の発生時期 | 意匠権は「設定の登録」で発生する |
| 第2項 | 設定の登録をする条件 | 第1年分の登録料の納付があったときに登録する |
| 第3項 | 意匠公報への掲載 | 登録があったら、第1号〜第5号の事項を意匠公報に掲載しなければならない |
| 第4項 | 秘密意匠の特則 | 秘密請求した意匠の「願書・図面等の内容」(第3項第4号)は、指定期間の経過後遅滞なく掲載 |
〔表1〕意匠法第20条の全体構造。
第1項 ― 意匠権は「設定の登録」で発生する
意匠権は、設定の登録により発生する。
「設定の登録」とは、特許庁に備える意匠原簿に意匠権の設定を登録することです(意匠法第61条第1項第1号は「意匠権の設定、移転、信託による変更、消滅、回復又は処分の制限」を意匠原簿に登録すると定めています)。登録査定(意匠法第18条)が出ても、登録料を納めても、それだけでは意匠権は発生せず、原簿への登録の時点で発生します。
逐条解説は、本条を意匠権の設定の登録について規定したものとし、第1項が意匠権は設定の登録により発生する旨を、第2項が設定登録は第1年分の登録料の納付後に行われるべき旨を、第3項が意匠公報に掲載すべき事項を、第4項が秘密意匠に関する事項を、それぞれ定めたものだと整理しています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1309頁)。
第2項 ― 第1年分の登録料の納付が「登録のスイッチ」
第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付があつたときは、意匠権の設定の登録をする。
ここで引用されている意匠法第42条第1項は登録料の額を、意匠法第43条第1項はその納付期間を定めています。
前条第一項の規定による第一年分の登録料は、意匠登録をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があつた日から三十日以内に納付しなければならない。
flowchart TB A["審査官の登録査定
(意匠法第18条)
または登録審決"] --> B["査定・審決の謄本の送達"] B -- "送達日から30日以内
(意匠法第43条第1項)" --> C["第1年分の登録料の納付
(意匠法第42条第1項)"] C -- "納付があったとき
(意匠法第20条第2項)" --> D["意匠権の設定の登録
=意匠権の発生
(意匠法第20条第1項)"] D -- "登録があったとき
(意匠法第20条第3項)" --> E["意匠公報に掲載"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図2】登録査定から公報掲載までのフロー(分岐のない一本道のため、上から下に並べた)。凡例:緑=意匠権が発生する時点(設定の登録)。30日の期間は請求により30日以内を限り延長できる(意匠法第43条第3項)。不責事由による救済(同条第4項)もある(→レベル3)。(2026年9月時点の意匠法による)
第3項 ― 意匠公報に載せる5つの事項
前項の登録があつたときは、次に掲げる事項を意匠公報に掲載しなければならない。
一 意匠権者の氏名又は名称及び住所又は居所
二 意匠登録出願の番号及び年月日
三 登録番号及び設定の登録の年月日
四 願書及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本の内容
五 前各号に掲げるもののほか、必要な事項
図は左右にスクロールできます。
【図3】意匠法第20条第3項各号を「公報の紙面」に見立てた模式図。第4号(願書・図面等の内容)だけが秘密意匠の特則(第4項)の対象で、図では破線の枠にしている。凡例は図中に記載。紙面の体裁・記載例は架空のもので、実際の意匠公報の様式とは異なる。(2026年9月時点の意匠法による)
| 号 | 掲載事項(原文) | 中身のイメージ | 秘密意匠のとき |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 「意匠権者の氏名又は名称及び住所又は居所」 | 誰の権利か | 設定登録後に掲載 |
| 第2号 | 「意匠登録出願の番号及び年月日」 | どの出願か、いつ出願したか | 設定登録後に掲載 |
| 第3号 | 「登録番号及び設定の登録の年月日」 | 何番の権利か、いつ発生したか | 設定登録後に掲載 |
| 第4号 | 「願書及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本の内容」 | 物品名・創作者等の願書の記載と、意匠そのもの | 指定期間の経過後遅滞なく掲載(第4項) |
| 第5号 | 「前各号に掲げるもののほか、必要な事項」 | その他 | 設定登録後に掲載 |
〔表2〕意匠法第20条第3項各号の掲載事項と、秘密意匠の場合の掲載時期。
第4項 ― 秘密意匠の特則
第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に関する前項第四号に掲げる事項は、同項の規定にかかわらず、第十四条第一項の規定により指定した期間の経過後遅滞なく掲載するものとする。
意匠登録出願人は、意匠権の設定の登録の日から三年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができる。
ポイントは3つです。
- 後回しになるのは第4号だけ。第1号〜第3号・第5号は秘密意匠でも設定登録後に掲載されます。したがって「誰が・いつ・何番で登録したか」は秘密になりません。
- 掲載時期は「指定した期間の経過後遅滞なく」。指定できる期間は「設定の登録の日から三年以内」です(意匠法第14条第1項)。
- 秘密請求の期間は延長・短縮の請求ができます(意匠法第14条第3項)。短縮されれば、その分早く第4号が掲載されることになります。
逐条解説は、第4項について、秘密意匠の意匠権が発生したときは第3項第1号から第3号までの事項を意匠公報に掲載し、願書及び願書に添付した図面・写真・ひな形・見本の内容は秘密とされるとしたうえで、これは秘密意匠制度の目的からみて当然のことであるが、独占権の対象が公開されない状態を永続させるのは望ましくないので、秘密にすることを請求した期間が経過したときは遅滞なく意匠公報に掲載することにした、と説明しています(青本〔第22版〕1309頁)。
なお、同書は第3項第5号について、平成10年の一部改正で、部分意匠についての意匠権の設定の登録があった場合にその旨を意匠公報に掲載する必要があること等により、他法(特許法第66条第3項第7号、実用新案法第14条第3項第7号、商標法第18条第3項第6号)に倣って新設したものと説明しています。ただし、平成31年の意匠法施行規則等の一部改正により、同年5月1日以降の意匠登録出願では部分意匠の旨の記載は意匠公報に掲載しないこととされた旨も付記されています(青本〔第22版〕1309頁)。
- 第1項:意匠権は設定の登録により発生する。
- 第2項:第1年分の登録料(意匠法第42条第1項)の納付があったときに設定の登録をする。納付期間は査定・審決の謄本送達日から30日以内(意匠法第43条第1項)。
- 第3項:登録があったら、①意匠権者、②出願番号・出願日、③登録番号・設定登録日、④願書・図面等の内容、⑤その他必要な事項を意匠公報に掲載しなければならない。
- 第4項:秘密意匠については、④だけを指定期間の経過後遅滞なく掲載する。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 三法対比 ― 「設定の登録」の条文構造
特許法第66条・実用新案法第14条・意匠法第20条は、いずれも「権利は設定の登録により発生する」(第1項)→「登録の条件」(第2項)→「公報掲載事項」(第3項)→「掲載に関する特則」(第4項)という同じ骨組みです。違いは第2項の「登録の条件」と、第3項・第4項の中身に現れます。
| 特許法第66条 | 実用新案法第14条 | 意匠法第20条 | |
|---|---|---|---|
| 第1項:権利の発生 | 「特許権は、設定の登録により発生する。」 | 「実用新案権は、設定の登録により発生する。」 | 「意匠権は、設定の登録により発生する。」 |
| 第2項:登録の条件 | 第1年から第3年までの各年分の特許料の「納付又はその納付の免除若しくは猶予があつたとき」 | 出願があったときは、「放棄され、取り下げられ、又は却下された場合を除き」登録する(登録料は出願と同時に納付:実用新案法第32条第1項) | 「第一年分の登録料の納付があつたとき」(納付のみを規定。「免除・猶予」の文言はない) |
| 納付すべき年分・時期 | 第1〜3年分を、査定・審決の謄本送達日から30日以内に一時に(特許法第108条第1項) | 第1〜3年分を、出願と同時に一時に(実用新案法第32条第1項) | 第1年分のみを、査定・審決の謄本送達日から30日以内(意匠法第43条第1項) |
| 第3項:公報掲載事項の号数 | 7号(権利者/出願番号・年月日/発明者/明細書・特許請求の範囲・図面/要約書/特許番号・登録日/その他)+ただし書(出願公開済みなら要約書は掲載不要) | 7号(特許法とほぼ同じ構造。「考案者」「実用新案登録請求の範囲」) | 5号(権利者/出願番号・年月日/登録番号・登録日/願書・図面等の内容/その他)。創作者・要約書の号はない |
| 第4項:特則 | 要約書の掲載に特許法第64条第3項を準用(長官が自ら作成した事項に代えられる) | 同左(特許法第64条第3項を準用) | 秘密意匠の第4号事項は指定期間経過後遅滞なく掲載 |
〔表3〕特許法第66条・実用新案法第14条・意匠法第20条の対比。原文引用部分は「」、それ以外は要旨。
現行の第42条〜第45条を照合しても、特許法第109条の減免・猶予に相当する制度はありません。ただし国には登録料の納付を要しない特則があり、国との共有にも持分に応じた規定があります(第42条第2項・第3項)。
2. 第1年分の登録料の納付期間 ― 三法対比と救済
| 特許法第108条 | 実用新案法第32条 | 意匠法第43条 | |
|---|---|---|---|
| 原則の納付期限 | 査定・審決の謄本送達日から30日以内(第1〜3年分を一時に)(第1項) | 出願と同時(第1〜3年分を一時に)(第1項) | 査定・審決の謄本送達日から30日以内(第1年分)(第1項) |
| 第2年(第4年)以後 | 第4年以後は前年以前に納付(第2項本文) | 第4年以後は前年以前に納付(第2項) | 第2年以後は前年以前に納付(第2項) |
| 請求による延長 | 30日以内を限り(第3項) | 30日以内を限り(第3項) | 30日以内を限り(第3項) |
| 不責事由による救済 | 理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、期間経過後6月以内(第4項) | 理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、期間経過後6月以内(第4項) | 理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で、期間経過後6月以内(第4項) |
〔表4〕第1年分(特許・実用新案は第1〜3年分)の登録料納付期間の対比。意匠は「第1年分のみ」で足りる点が特徴。
gantt title 意匠:登録査定の謄本送達を0日目としたときの納付期間(模式) dateFormat YYYY-MM-DD axisFormat %m/%d section 原則 第1年分の納付期間(30日) :a1, 2026-01-01, 30d section 延長請求あり 延長(最大30日・意匠法第43条第3項) :a2, after a1, 30d section 不責事由 期間経過後6月以内の納付可能枠(意匠法第43条第4項) :a3, after a1, 181d
図は左右にスクロールできます。
【図4】意匠法第43条による第1年分登録料の納付期間のタイムチャート(日付は模式・架空。「6月」は181日として描画)。凡例:横棒=納付できる期間。3本の横棒は「原則」「請求により延長したとき」「不責事由による救済」の3つの場面を上から並べたもので、同時に足し合わせて使えることを示すものではない。第4項の救済は「理由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内」という要件も同時に満たす必要がある。(2026年9月時点の意匠法による)(時間軸は縮尺なし)
第1年分の登録料が納付期間内に納付されなかった場合は、設定の登録はされません。手続としては、特許法第18条第1項(手続の却下)が意匠法第68条第2項により準用されています。
3. 意匠法に「出願公開」がないこと
特許法では、出願の日から1年6月を経過したときに出願公開がされ(特許法第64条第1項)、公開後は補償金請求権(特許法第65条)が生じます。実用新案法では無審査で設定登録がされ、実用新案公報が発行されるため出願公開は不要です。これに対し意匠法には出願公開制度がありません。意匠が世の中に知らされるのは、原則として設定の登録後の意匠公報(意匠法第20条第3項)が最初です。
flowchart TB
subgraph P["特許法"]
P1["出願"] --> P2["出願公開
(出願日から1年6月:特許法第64条第1項)"] --> P3["審査請求・審査"] --> P4["特許料納付→設定登録
(特許法第66条第2項)"] --> P5["特許掲載公報
(特許法第66条第3項)"]
end
subgraph U["実用新案法"]
U1["出願(登録料も同時納付)"] --> U2["設定登録
(実用新案法第14条第2項)"] --> U3["実用新案公報
(実用新案法第14条第3項)"]
end
subgraph D["意匠法"]
D1["出願"] --> D2["審査(審査請求なし)"] --> D3["登録料納付→設定登録
(意匠法第20条第2項)"] --> D4["意匠公報
(意匠法第20条第3項)"]
D4 -. "秘密意匠:図面等は
指定期間経過後(第4項)" .-> D5["図面等の掲載"]
end
style P2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style D4 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
【図5】三法の「公開のタイミング」の相関図(レーン=法域ごと)。特許法だけに「出願公開」の段階がある。意匠法では設定登録後の意匠公報が原則として最初の公開。凡例:赤=登録前に内容が公になる段階(特許法の出願公開)/緑=意匠法で最初に内容が公になる段階(意匠公報)。実線=必ず経る段階/点線=秘密意匠の請求があった場合の掲載。色は「登録前の公開があるかどうか」を示すもので、制度の良し悪しを表すものではない。(2026年9月時点の各法による)
| 観点 | 特許法 | 実用新案法 | 意匠法(国内出願) | 意匠法(国際意匠登録出願) |
|---|---|---|---|---|
| 登録前の公開 | あり(出願公開:特許法第64条) | なし(無審査で登録→公報) | なし | 国際公表がある(ハーグ協定に基づく) |
| 登録前の実施に対する金銭請求 | 補償金請求権(特許法第65条) | — | なし | 補償金請求権(意匠法第60条の12第1項:国際公表後の警告等が要件) |
| 最初に内容が公になる公報 | 公開特許公報 | 実用新案公報(登録後) | 意匠公報(登録後) | 国際公表 |
| 登録の条件(第2項相当) | 第1〜3年分の特許料の納付等 | 出願(放棄・取下げ・却下を除く) | 第1年分の登録料の納付 | 「意匠登録をすべき旨の査定又は審決」に読み替え(意匠法第60条の13) |
| 秘密意匠 | — | — | 請求できる(意匠法第14条) | 請求できない(意匠法第60条の9) |
〔表5〕「登録前の公開」の有無を軸にした対比表。国際意匠登録出願の列は意匠法第60条の3以下の特例による。
4. 国際意匠登録出願の読替え(意匠法第60条の13)
国際意匠登録出願についての第二十条第二項の規定の適用については、同項中「第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付」とあるのは、「意匠登録をすべき旨の査定又は審決」とする。
国際意匠登録出願では、登録料に相当する手数料は国際事務局に納付する仕組みのため、日本の特許庁への第1年分の登録料の納付が設定登録の「スイッチ」になりません。そこで、「意匠登録をすべき旨の査定又は審決」があったときに設定の登録をすると読み替えられています。
| 国内の意匠登録出願 | 国際意匠登録出願 | |
|---|---|---|
| 設定登録のトリガー(意匠法第20条第2項) | 第1年分の登録料の納付 | 意匠登録をすべき旨の査定又は審決(意匠法第60条の13による読替え) |
| 秘密意匠の請求(意匠法第14条) | 可能 | 不可(意匠法第60条の9)→ 意匠法第20条第4項の適用場面もない |
| 登録前の公開 | なし | 国際公表あり(補償金請求権:意匠法第60条の12) |
〔表6〕国内出願と国際意匠登録出願における第20条まわりの違い。
5. 秘密意匠と意匠公報 ― 第4項が他の条文とどうつながるか
第4項によって「図面等の内容」が一定期間公にならないため、意匠法は秘密意匠について、権利行使や過失推定の面でバランスをとる規定を置いています。
timeline title 秘密意匠(指定期間3年の例)のタイムライン 出願 : 秘密請求(出願と同時) / 意匠法第14条第2項 登録査定・謄本送達 : 30日以内に第1年分登録料納付 / (このときに秘密請求することも可) 設定の登録 : 意匠権発生(第1項) / 公報に第1号〜第3号・第5号を掲載(第3項) 秘密期間中 : 図面等は非掲載(第4項) / 差止請求には証明付書面の提示による警告が必要(意匠法第37条第3項) / 過失の推定なし(意匠法第40条ただし書) 指定期間の経過(登録日から最長3年) : 遅滞なく第4号(願書・図面等の内容)を掲載(第4項)
図は左右にスクロールできます。
【図6】秘密意匠のタイムライン(指定期間3年の架空の例。各段の見出しが時点、その右の記述がその時点で起きること)。第4項の「後回し」が、意匠法第37条第3項・第40条ただし書の前提になっている。「設定の登録の日から三年以内」は意匠法第14条第1項による。(2026年9月時点の意匠法による)(時間軸は縮尺なし)
| 条文 | 内容(要旨。「」内は原文) | 第20条第4項との関係 |
|---|---|---|
| 意匠法第14条第1項 | 設定登録の日から3年以内の期間を指定して秘密請求できる | 第4項の「指定した期間」の根拠 |
| 意匠法第14条第2項 | 秘密請求の書面は「意匠登録出願と同時に、又は第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付と同時に」提出 | 請求のタイミングは出願時か第1年分登録料納付時の2回。設定登録後は請求できない |
| 意匠法第14条第3項 | 指定期間の延長・短縮の請求ができる | 短縮されれば第4号の掲載も早まる |
| 意匠法第14条第4項 | 意匠権者の承諾があるとき、審査・審判等の当事者等の請求、裁判所の請求、利害関係人の所定書面による請求のいずれかがあれば、長官は秘密意匠を意匠権者以外の者に示さなければならない | 公報には載らないが、一定の者は内容を知ることができる |
| 意匠法第37条第3項 | 秘密意匠の意匠権者等は、「第二十条第三項各号に掲げる事項を記載した書面であつて特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ」差止請求できない | 公報で内容が分からない相手方への配慮。書面の内容が「第20条第3項各号の事項」と定義されている |
| 意匠法第40条ただし書 | 秘密意匠に係る意匠権等の侵害については過失の推定が働かない | 公報で内容が公になっていない以上、侵害者に過失を推定できない |
| 意匠法第60条の9 | 国際意匠登録出願の出願人には意匠法第14条を適用しない | 国際意匠登録出願では第4項の適用場面がない |
〔表7〕秘密意匠に関する規定の相関。第20条第4項は「公報で秘密を守る」規定であり、第37条第3項・第40条ただし書はその裏返しの「相手方保護」規定。
- 秘密意匠でも、意匠権者の氏名・出願番号・登録番号・設定登録日は設定登録後の公報に掲載される(秘密になるのは第4号だけ)。
- 第37条第3項の警告書面は「第二十条第三項各号に掲げる事項」を記載したもの。つまり秘密期間中に公報に載っていない第4号の事項(図面等)を含む書面で、長官の証明を受けたものを提示する。
- 意匠法第66条第3項後段では、意匠法第9条第2項後段(協議不成立・不能の場合の拒絶)により拒絶査定・審決が確定した出願についても公報掲載が定められ、その中に秘密請求した出願があるときは「願書及び図面等の内容」は拒絶確定日から指定期間(複数あるときは最も長い期間)の経過後遅滞なく掲載するとされている。第20条第4項と同じ発想が、拒絶確定出願の公報掲載にも現れている。
6. 拒絶理由・無効理由との関係
意匠法第20条は手続の効果を定める規定であり、それ自体は拒絶理由(意匠法第17条)でも無効理由(意匠法第48条第1項)でもありません。試験では、次のような「時点」の問題として出てきます。
| 論点 | 結論(条文から導かれる範囲) | 根拠 |
|---|---|---|
| 意匠権の発生時点 | 設定の登録の時。登録査定時でも登録料納付時でもない | 意匠法第20条第1項 |
| 存続期間の起算 | 存続期間は出願日から25年で満了するが、権利が存在するのは設定登録以降(→第21条の記事) | 意匠法第21条(本記事では詳述しない) |
| 秘密意匠の請求期限 | 出願と同時、または第1年分登録料の納付と同時まで。設定登録後は不可 | 意匠法第14条第2項 |
| 第1年分登録料の未納 | 設定の登録はされない。手続の却下(特許法第18条第1項の準用) | 意匠法第20条第2項、意匠法第68条第2項 |
| 公報掲載と新規性 | 意匠公報に掲載された意匠は、掲載後は公知となる(後願排除の資料になる)。秘密意匠の図面等は掲載されるまで公報上は公知にならない | 意匠法第3条第1項第2号との関係。ただし意匠法第3条の2の適用関係は別記事(3条の2)を参照 |
〔表8〕第20条が関わる「時点」の論点整理。
7. 試験での問われ方
| 試験種別 | 学習用の問いの例 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「意匠権は登録査定の時に発生する」「秘密意匠は意匠権者の氏名も掲載されない」「国際意匠登録出願も第1年分登録料の納付により設定登録される」といった正誤 | 発生時点=設定登録(第1項)/秘密になるのは第4号だけ(第4項)/国際出願は査定・審決がトリガー(第60条の13) |
| 短答式(横断) | 特許法第66条第2項の「免除若しくは猶予」の有無、納付する年分(3年分か1年分か)、要約書・発明者の号の有無の三法比較 | 〔表3〕〔表4〕で条文の文言レベルの差を押さえる |
| 論文式 | 秘密意匠に係る意匠権の行使(警告要件・過失推定の除外)を問う事例で、第20条第4項を前提として第37条第3項・第40条ただし書を論じさせる | 「公報に図面等が載っていない」ことを理由づけに使う |
| 口述 | 「意匠権はいつ発生するか」「意匠公報に掲載される事項を述べよ」「秘密意匠の場合はどうなるか」 | 第3項の5つの号を順番に言えるようにする |
〔表9〕学習用の問いと確認点。出題実績や頻度の集計ではありません。
- 三法とも「設定の登録により発生」。違いは登録のトリガー(特許:第1〜3年分の納付・免除・猶予/実用新案:出願/意匠:第1年分の納付)と公報掲載事項(意匠は5号で創作者・要約書の号がない)。
- 意匠法には出願公開制度がなく、原則として設定登録後の意匠公報が最初の公開。国際意匠登録出願は国際公表があり、補償金請求権(意匠法第60条の12)がある。
- 国際意匠登録出願では、第20条第2項の「第1年分の登録料の納付」が「意匠登録をすべき旨の査定又は審決」に読み替えられる(意匠法第60条の13)。秘密意匠の請求はできない(意匠法第60条の9)。
- 第4項で後回しになるのは第4号(願書・図面等の内容)のみ。これが意匠法第37条第3項(警告要件)・第40条ただし書(過失推定の除外)の前提になる。
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