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小学生でも分かる商標法|商標法第53条 使用権者の不正使用取消審判 ― 「貸した目じるし」の使われ方にも、持ち主は責任を負う

小学生でもわかる商標法 第45回「使用権者の不正使用」。貸した商標の使われ方と責任。

小学生でも分かる商標法 / D. 登録異議・審判・訴訟 #45

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登録した目じるし(商標)は、ほかの人に貸して使わせることができます。でも、借りた人がお客さんをだますような使い方をしたら、どうなるでしょう。商標法第53条は、そのとき「貸した持ち主の登録そのもの」を取り消せるようにした決まりです。この記事では、フランチャイズのお店を例に、商標権者自身の不正使用を定める商標法第51条との違いを中心に整理します。

条文:商標法第53条(第1項〜第3項)特許庁資料:審判便覧(第20版)53―02 登録商標の不正使用による取消審判参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

かんばんを貸すお店、借りるお店

「ほしぞらパン」は、町で人気のパン屋さんです。「ほしぞらパン」という名前は、国の役所(特許庁(とっきょちょう))に登録してある目じるしです。目じるしのことを、法律では商標(しょうひょう)といいます。

ほしぞらパンは、自分のお店を増やすかわりに、ほかの人に「うちのかんばんを使ってお店を開いていいですよ」と約束することにしました。かんばんを貸すほうを「本部(ほんぶ)」、借りてお店を開くほうを「加盟店(かめいてん)」とよびます。こういうしくみをフランチャイズといいます。

お客さんは、「ほしぞらパン」のかんばんを見て、「いつものおいしいパンだ」と安心して買います。お客さんには、そのお店が本部のお店か、加盟店かは、ふつう分かりません。

本部「ほしぞらパン」 (目じるしの持ち主) 登録ずみ「ほしぞらパン」 「かんばんを使って いいですよ」 貸したあとも、 使われ方を見はる役目 貸す 加盟店「みどり町店」 (かんばんを借りた人) 「ほしぞらパン 天然こうぼ100%」 本当は、天然こうぼを 使っていない 中身をかんちがいさせる 使い方 売る お客さん 「ほしぞらパンの 天然こうぼパン なんだ!」 だまされて 買ってしまう

図は左右にスクロールできます。

【図1】かんばんを借りたお店が、お客さんに中身をかんちがいさせる使い方をした場面のイメージ。店名・商品名はすべて架空の例です。

借りた人のせいで、持ち主の登録が消える

このとき、だれでも国の役所に「この目じるしの登録を取り消してください」とお願いできます。取り消されるのは、借りた人の約束だけではありません。本部がもっている登録そのものです。

「悪いことをしたのは加盟店なのに、本部がかわいそう」と思うかもしれません。でも、目じるしは、お客さんが安心して買うためのものです。かんばんを人に貸すなら、貸したあとも、きちんと使われているかを見はる役目があります。見はりをさぼった持ち主は、登録を失ってもしかたがない、という考え方です。

ただし、助かる道もあります。本部がその使い方を知らなかったうえに、ふだんからきちんと見はっていた(法律の言葉では「相当の注意(そうとうのちゅうい)をしていた」)ときは、取り消されません。

加盟店が悪い使い方をしたとき、本部の登録はどうなる? ① 知っていた ② 知らなかったが、ほったらかしだった ③ 知らなかった +きちんと見はっていた 悪い使い方を知りながら止めなかった お店を見に行かない、ルールも決めていない ルールを決め、お店をたしかめていたのに、かくれてやられた 取り消される取り消される取り消されない

図は左右にスクロールできます。

【図2】本部(持ち主)が助かるのは、「知らなかった」と「きちんと見はっていた」の両方がそろうときだけ(本記事作成者が単純化して整理したもの。架空の例)。

もう一つ。登録が取り消されると、本部も、悪い使い方をした加盟店も、そのあと5年間は、同じ目じるしや、にた目じるしを登録しなおすことができません。

① 借りた人が悪い使い方をした② だれでも取消しをお願いできる③ 消えるのは持ち主の登録④ 知らなかった+見はっていた → セーフ⑤ 5年は登録しなおせない
レベル1のまとめ
  • 登録した目じるしは、人に貸して使わせることができます。
  • 借りた人が、中身をかんちがいさせたり、よそのお店の商品とまちがえさせたりする使い方をすると、だれでも、持ち主の登録の取消しをお願いできます。
  • 持ち主が「知らなかった」うえに「きちんと見はっていた」ときは、取り消されません。
  • 取り消されると、持ち主も、悪い使い方をした人も、5年間は登録しなおせません。

※ 「借りた人」の種類、「悪い使い方」の範囲、取消しをお願いできる期限、5年間登録しなおせない人の範囲には、正確には条件があります(→レベル3)。「わざとかどうか」が問われない点も、レベル3で説明します。

LEVEL 2条文の骨格

第1項本文 ― だれが、何をしたら、だれが請求できるか

商標を人に使わせる権利には、「専用使用権」(商標法第30条)と「通常使用権」(商標法第31条)の2種類があります。この記事では、2つをまとめて「使用権者」とよびます。商標法第53条に見出しはなく、「使用権者の不正使用による取消審判」は実務上・講学上の呼び名です。

商標法第53条第1項本文(原文) 専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
部品文言意味
だれが専用使用権者又は通常使用権者が商標を借りて使っている人。商標権者自身の行為は、商標法第51条の守備範囲です。
何について指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録のときに指定した商品・サービスと、それに似た商品・サービスの両方。
何を登録商標又はこれに類似する商標の使用登録商標そのものの使用も、似た商標の使用も含みます。
どんな使用商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの①中身(品質・質)をかんちがいさせる使用、または ②他人の商品・サービスとまちがえさせる使用。
だれが請求何人も利害関係がなくても請求できます。
どうなる当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる取り消されるのは、商標権者がもつ商標登録です。

〔表1〕商標法第53条第1項本文の部品分解(本記事作成者が整理したもの)。「故意に」という文言がないことに注意。

第1項ただし書 ― 商標権者が助かる場合

商標法第53条第1項ただし書(原文) ただし、当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において、相当の注意をしていたときは、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
部品文言意味
条件①当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において商標権者が、使用権者のその使用の事実を知らなかったこと。
条件②相当の注意をしていたとき使用権者の使用について、ふさわしい注意(監督)をしていたこと。
結果この限りでない本文の例外。①と②の両方がそろえば、取消しの対象になりません。

〔表2〕商標法第53条第1項ただし書の部品分解(本記事作成者が整理したもの)。「知らなかった」だけでは足りません。

商標権者 (審判の被請求人) 登録を失うのはこの人 使用権者 専用使用権者 通常使用権者 設定・ 許諾 相当の注意 (監督) 需要者 品質・質を誤認する/ 他人の商品等と混同する 不正使用 他人 混同される相手方の 業務に係る商品・役務 特許庁 (審判官の合議体) 請求人 「何人も」 利害関係は不要 請求 取消審決の確定 → 商標権は「その後消滅」(第54条第1項) 使用権者の使用権も、土台の商標権とともに失われる

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の枠:審判の当事者(被請求人=商標権者/請求人)
  • 青緑のベタ塗り:審判をする機関(特許庁)
  • 赤の枠:不正使用をする人(使用権者)
  • 白い枠:審判の当事者ではない人(需要者・他人)
  • 赤の矢印:不正使用と、それによって生じること
  • 青緑の破線の矢印:商標権者に求められる監督(「相当の注意」。第1項ただし書)

【図3】商標法第53条の登場人物の相関図(本記事作成者が条文を整理して作図したもの)。不正使用をしたのは使用権者ですが、審判で登録を失うのは商標権者です。

第2項・第3項 ― 取り消されたあと、いつまで請求できるか

商標法第53条第2項(原文) 当該商標権者であつた者又は専用使用権者若しくは通常使用権者であつた者であつて前項に規定する使用をしたものは、同項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から五年を経過した後でなければ、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について、その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
商標法第53条第3項(原文) 第五十二条の規定は、第一項の審判に準用する。
出典:同上。
準用される商標法第52条(原文) 前条第一項の審判は、商標権者の同項に規定する商標の使用の事実がなくなつた日から五年を経過した後は、請求することができない。
出典:同上。商標法第53条に準用するときは、「使用権者の第53条第1項に規定する使用の事実がなくなった日」と当てはめることになります(本記事作成者の整理)。
項役割キーワード
第1項本文取消審判を請求できる場合使用権者/登録商標又は類似商標/品質の誤認・混同/何人も
第1項ただし書商標権者の免責知らなかった + 相当の注意
第2項取消し後の再登録の禁止審決が確定した日から5年/同一・類似の範囲
第3項除斥期間(商標法第52条の準用)使用の事実がなくなった日から5年

〔表3〕商標法第53条の項ごとの役割一覧(期間はe-Gov掲載の商標法第52条・第53条、2026年9月参照)。

flowchart TB
  A["使用権者による
品質の誤認・混同を生ずる使用"] --> B["何人も 審判を請求
(商標法第53条第1項)"] B --> C["審判長が専用使用権者等に通知
(商標法第55条→第46条第4項)"] C --> D["審判官の合議体が審理
(被請求人=商標権者)"] D --> E{"要件を満たし
ただし書にも当たらない?"} E -- "はい" --> F["商標登録を取り消すべき旨の審決"] E -- "いいえ" --> G["請求は成り立たない旨の審決"] F --> H["審決の確定"] H --> I["商標権は その後消滅
(商標法第54条第1項)"] H --> J["5年間の再登録禁止
(商標法第53条第2項)"] style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style I fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style J fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style G fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の箱:商標登録が取り消される方向の結論と、その効果
  • 緑の箱:商標登録が取り消されない結論

【図4】商標法第53条の審判の流れ(条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの)。

レベル2のまとめ
  • 行為者は使用権者(専用使用権者・通常使用権者)。対象は「登録商標又はこれに類似する商標」の、指定商品・指定役務とその類似範囲での使用です。
  • 条文に「故意に」の文言はありません。代わりに、商標権者が「知らなかった」かつ「相当の注意をしていた」ときの例外(ただし書)があります。
  • 請求は何人もできます。取消審決が確定すると、商標権はその後消滅します(商標法第54条第1項)。
  • 取消し後5年の再登録禁止(第2項)と、使用の事実がなくなった日から5年の除斥期間(第3項→商標法第52条)があります。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 趣旨 ― 使用許諾を自由にした代わりの「担保」

商標法は、商標権者が専用使用権を設定し(商標法第30条第1項)、通常使用権を許諾する(商標法第31条第1項)ことを認めています。条文上、設定・許諾にあたって、使用権者の商品の品質などについての審査や許可の手続は置かれていません。

特許庁の審判便覧(第20版)53―02「登録商標の不正使用による取消審判」は、現行法が商標権者のみでなく専用使用権者又は通常使用権者による行為をも規制する規定を設けたことについて、使用権の設定を何らの制約なしに認めることにしたことに対する使用権者の責任を担保するためである旨を説明しています(同便覧 2.(6)。要約)。

ポイント:「商標権者の監督義務」という言葉は条文にはありません。ただし書が「相当の注意をしていたとき」を免責の条件にしていることから、商標権者は使用権者の使用を監督する立場に置かれている、と説明されるのが一般的です(講学上の説明)。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(令和4年10月。以下「逐条解説〔第22版〕」)は、商標法第53条について次のように説明しています。
  • 制裁としての性格:使用権者が登録商標又は類似商標を不当に使用して、需要者に品質・質の誤認や出所の混同を生じさせた場合の制裁規定であり、いわば現行法(昭和34年法)が使用許諾を自由に認めたことに対する弊害防止の規定である、としています。
  • 需要者の保護:商標権者は通常、自己の信用を守るため使用許諾に十分注意を払うだろうが、そうでない場合には取消しという制裁を課すことで、使用許諾制度の濫用による一般需要者への弊害を防ぐ手段としている、と説明しています。そのため、第51条では問題としない指定商品・指定役務についての登録商標の使用も対象とし、使用権者が商標権者の商品・役務より劣悪な商品・役務を提供して需要者の期待を裏切った場合にも適用がある、としています。
  • 商標権者の監督責任:使用許諾は事前に何の制限もなく自由に行えるが、許諾の後は、この規定によって間接的に、商標権者は使用権者に対して相当の監督責任を負うことになる、と説明しています。その意味で、使用権者だけでなく商標権者をも対象とした規定といえる、としたうえで、法文のとおりただし書に当たる場合には適用がないと述べています。
  • 商標登録そのものを取り消す理由:取消しの対象を専用使用権・通常使用権にしなかった理由として、次の3点を挙げています(〔参考〕)。①私的契約で生じる使用権を行政行為で取り消すことは法律的に不明確で、立法例にも乏しいこと。②使用権を取り消すことにしても、審判が請求されたときに設定契約を解除すれば、審判は対象を失って棄却され、制度が無意味になること。③商標登録自体を取り消すことで、使用許諾に伴う商標権者の責任を明確にすること。
逐条解説〔第22版〕1755頁〜1756頁。

2. 商標法第51条との比較(この記事の核)

商標法第51条は商標権者自身の不正使用、商標法第53条は使用権者の不正使用を定めます。両者はよく似ていますが、主観的要件と使用の範囲が異なります。

商標法第51条第1項(原文・比較用) 商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
比較項目商標法第51条商標法第53条
行為の主体商標権者専用使用権者又は通常使用権者
主観的要件「故意に」が必要使用権者の故意は要件でない(文言なし)
商標権者側の免責規定なし商標権者が事実を知らず、かつ相当の注意をしていたときは取消しの対象外(第1項ただし書)
使用の範囲指定商品・指定役務についての登録商標に類似する商標の使用/類似する商品・役務についての登録商標・類似商標の使用(=いわゆる禁止権の範囲のみ)指定商品・指定役務又は類似する商品・役務についての登録商標又は類似商標の使用(=いわゆる専用権の範囲も含む)
使用の態様品質・質の誤認、又は他人の業務に係る商品・役務との混同を生ずるもの同じ
請求人何人も何人も
被請求人商標権者商標権者(使用権者ではない)
除斥期間使用の事実がなくなった日から5年(商標法第52条)同じ(商標法第53条第3項で第52条を準用)
再登録禁止の対象者商標権者であった者(第2項)当該商標権者であった者+不正使用をした使用権者であった者(第2項。読み方は第6節)
効果取消審決の確定により、商標権はその後消滅する(商標法第54条第1項)

〔表4〕商標法第51条と第53条の比較(e-Gov掲載の条文、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。「専用権」「禁止権」は条文にない講学上の呼称です。

審判便覧53―02も、商標法第53条が第51条と異なる点として、使用権者の故意を要件としていないこと、登録商標を指定商品に使用した場合にも誤認混同を生じさせたときは適用があること、の2点を挙げています(同便覧 2.(6)。要約)。

商標法第51条(商標権者) 商標法第53条(使用権者) 登録商標類似商標 登録商標類似商標 指定商品・役務 類似商品・役務 指定商品・役務 類似商品・役務 対象外(専用権の範囲) 対象 対象 対象 対象対象対象対象 (ここが第51条との差) 禁止権の範囲の3マスのみ +「故意に」 4マスすべて。故意は不要

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の枠のマス:その条の取消審判の対象になる使用
  • 白い枠のマス:その条の取消審判の対象にならない使用
  • 太い赤の枠:商標法第53条だけが対象にするマス(右の図の左上)

【図5】使用の範囲の4マス図(条文をもとに本記事作成者が作図)。商標法第53条は、登録商標を指定商品・指定役務に使用する場合(左上のマス)も対象にします。どのマスでも、「品質・質の誤認」又は「他人の業務に係る商品・役務との混同」を生ずる使用であることが必要です。

Q. なぜ商標法第53条は、登録商標そのものの使用(専用権の範囲)まで対象にするのですか。
A. 条文上は、商標法第53条第1項が「登録商標又はこれに類似する商標」と定めていることの帰結です。理由については、商標権者と使用権者は別の事業者なので、同じ登録商標を同じ指定商品に使っていても、使用権者の商品の品質が商標権者のものと異なれば需要者が品質を誤認しうるから、と説明されるのが一般的です(講学上の説明。逐条解説〔第22版〕の説明は第1節の「立法趣旨」の枠を参照)。

3. 第1項本文の要件

要件内容注意点
① 主体専用使用権者又は通常使用権者団体構成員・地域団体構成員は通常使用権者とみなされます(第4節)。使用権をもたない者の無断使用は、この条ではなく商標権侵害の問題です。
② 商品・役務指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務非類似の商品・役務についての使用は文言上含まれません。
③ 商標登録商標又はこれに類似する商標登録商標そのものの使用も含みます。
④ 態様品質・質の誤認、又は他人の業務に係る商品・役務との混同を生ずる使用どちらか一方で足ります(「又は」)。
⑤ 主観使用権者の故意は要件でない商標権者側の事情はただし書で考慮されます。

〔表5〕商標法第53条第1項本文の要件(本記事作成者が整理したもの)。

使用権者は、設定行為で定めた範囲内で「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」をもつにとどまります(商標法第30条第2項、第31条第2項)。類似商標や類似商品・役務についての使用は、もともと使用権の範囲の外です。商標法第53条は、使用権の範囲の内か外かを問わず、使用権者の地位にある者の誤認・混同を生ずる使用を取消しの原因にしています(条文の文言からの整理)。

知財高裁平成25年12月18日判決(平成25年(行ケ)第10043号)は、第53条について、類似する商標の適正な使用から当然生じる混同のおそれだけで不正使用とせず、具体的な使用態様を検討しました。この事案では、広義の混同のおそれがあるとしても、不正な使用行為がないとして取消しを認めていません。混同のおそれだけを切り離した一律の判断はできません。判決本文「第5 当裁判所の判断」

4. 「使用権者」に含まれる者 ― 団体構成員・地域団体構成員

団体商標・地域団体商標では、構成員が法人・組合等の定めるところにより登録商標を使用する権利をもちます(商標法第31条の2第1項)。この構成員は、使用許諾を受けた通常使用権者ではありませんが、次の規定で商標法第53条の適用を受けます。

商標法第31条の2第3項(原文) 団体構成員又は地域団体構成員は、第二十四条の四、第二十九条、第五十条、第五十二条の二、第五十三条及び第七十三条の規定の適用については、通常使用権者とみなす。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
行為者商標法第53条の「使用権者」か根拠
専用使用権者該当商標法第53条第1項
通常使用権者該当商標法第53条第1項
団体構成員・地域団体構成員該当(みなす)商標法第31条の2第3項
商標権者自身非該当商標法第51条の問題
使用権をもたない第三者非該当商標権侵害の問題(商標法第25条、第37条等)

〔表6〕行為者ごとの当てはめ(本記事作成者が整理したもの)。団体構成員の不正使用によって、団体の商標登録が取り消されることがあります。

通常使用権は商標権者との許諾によって生じ、第53条はその登録を適用要件としていません(第31条第1項・第53条第1項)。ただし、単に他人の商標を使っているだけで通常使用権者になるわけではなく、許諾の有無と範囲を区別します。第31条・第53条

5. ただし書 ― 「知らなかった」+「相当の注意」

ただし書は、当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において、相当の注意をしていたときに限って取消しを免れさせます。条文の構造上、次の3通りに分かれます。

商標権者の状態ただし書結論
事実を知っていた非該当取消しの対象(相当の注意をしていても同じ)
知らなかったが、相当の注意をしていなかった非該当取消しの対象
知らなかった + 相当の注意をしていた該当取消しの対象外

〔表7〕商標法第53条第1項ただし書の当てはめ(条文の文言からの整理)。

「相当の注意」の具体的な中身は条文に書かれていません。審判便覧53―02にも、「相当の注意」の判断基準についての記載は見当たりません。

ライセンス契約との関係(一般論):実務上、商標の使用許諾契約やフランチャイズ契約には、使用態様の指定(商標の表示方法を定めたマニュアル)、品質基準、報告・検査・立入り、違反時の是正・解除といった品質管理条項が置かれることが多いです。こうした条項は、ただし書の「相当の注意」を基礎づける事情の一つになりえます。ただし、条項を置くだけで足りるか、実際の監督がどこまで必要かは、個別の事案ごとの判断であり、条文から一律には導けません(実務上の一般論であり、条文上の要件ではありません)。
ただし書で取消しを免れるには、商標権者が不正使用を知らなかったことと、相当の注意をしていたことの両方が必要です。知らなかったという説明だけでは足りません。青本は、使用許諾後の監督責任を担保しつつ、相当の注意を払っても知らなかった場合を除く制度と説明しています。青本1755〜1756頁

6. 第2項 ― 5年間の再登録禁止

取消審決が確定した日から5年を経過するまで、一定の者は、同一・類似の範囲で商標登録を受けることができません(商標法第53条第2項。期間はe-Gov掲載の条文、2026年9月参照)。

規定再登録できない者起算点・期間禁止される範囲
商標法第51条第2項商標権者であった者取り消すべき旨の審決が確定した日から5年を経過するまでその商標登録に係る指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について、その登録商標又はこれに類似する商標
商標法第52条の2第2項(第51条第2項を準用)商標権者であった者
商標法第53条第2項当該商標権者であった者/専用使用権者・通常使用権者であった者であって第1項に規定する使用をしたもの

〔表8〕取消し後の再登録禁止の比較(e-Gov掲載の条文、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの)。

読み方:商標法第53条第2項の「前項に規定する使用をしたもの」は、使用権者であった者にかかり、不正使用をしていない他の使用権者であった者は禁止の対象にならない、と読むのが一般的です。商標権者であった者は、自ら不正使用をしていなくても対象になります(一般的な理解)。

審判便覧53―02は、取消しを受けた者の再登録は制限されるが、他人が登録を受けた後にこれを譲り受けることは妨げられない旨を記載しています(同便覧 2.(5)。要約)。

この第2項に違反する出願・登録は、次のように扱われます。

場面商標法第53条第2項違反は理由になるか根拠(e-Govで原文確認)
拒絶理由該当商標法第15条第1号
登録異議の申立ての理由該当商標法第43条の2第1号
無効理由該当商標法第46条第1項第1号
無効審判の除斥期間(商標法第47条)非該当商標法第47条第1項の列挙に第53条第2項は含まれません(除斥期間の適用なし)。

〔表9〕商標法第53条第2項と拒絶・異議・無効の対応(本記事作成者が整理したもの)。商標法第51条第2項(第52条の2第2項で準用する場合を含む)も同じ扱いです。

なお、商標審査基準〔改訂第17版〕の目次には、商標法第51条第2項・第53条第2項を独立して扱う項目は見当たりません。

7. 第3項(除斥期間)と効果 ― 2つの「5年」

商標法第53条には「5年」が2回出てきます。起算点が異なるので、区別して覚えます。

商標法第53条のタイムチャート(2つの「5年」) 不正使用の期間 不正使用の開始 使用の事実がなくなった日 審判の請求 取消審決の確定 確定から5年 ① 請求できる期間:5年(第3項) (5年を経過した後は請求不可) ② 再登録の禁止:5年(第2項) 商標権は「その後消滅」 (第54条第1項。さかのぼらない)

図は左右にスクロールできます。

  • 藍の枠:① 審判を請求できる期間(除斥期間。第3項→第52条)
  • 赤の枠:不正使用が行われていた期間と、② 再登録が禁止される期間(第2項)
  • 破線の縦線:その期間の始まり・終わりが、時間軸のどの時点に当たるかを示す補助線

【図6】商標法第53条のタイムチャート(条文をもとに本記事作成者が作図。期間はe-Gov掲載の商標法第52条・第53条第2項、2026年9月参照)。図中の位置関係は模式的なもので、不正使用が続いている間の請求も可能です。時間軸に縮尺はありません。

① 除斥期間② 再登録禁止期間
根拠商標法第53条第3項 → 第52条商標法第53条第2項
起算点使用の事実がなくなった日取り消すべき旨の審決が確定した日
期間5年を経過した後は請求できない5年を経過した後でなければ登録を受けられない
だれに効くか請求人(何人も)当該商標権者であった者・不正使用をした使用権者であった者

〔表10〕2つの「5年」の区別(本記事作成者が整理したもの)。

審判便覧53―02は、旧法では不正使用の終了後に請求できるか、いつまで請求できるかが明らかでなかったところ、現行法は5年の期間を設け、期間内であれば不正使用が終わっていても請求できることにした旨を記載しています(同便覧 2.(3)。要約)。

商標法第54条第1項(原文) 商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。同条第2項(審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす)は、商標法第50条第1項の審判だけの特則です。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):商標法第53条第1項は「当該商標登録を取り消すこと」と定め、商標法第50条第1項のような「その指定商品又は指定役務に係る」という限定の文言がありません。逐条解説〔第22版〕は、第53条の制裁は商標登録の取消しであり、指定商品・指定役務ごとに取消しを請求することは認められず、多区分に係る登録ではその全区分についての取消しになる、と説明しています。
逐条解説〔第22版〕1755頁。

8. 判断手順(分岐図)

flowchart TB
  S["誤認・混同を生ずる使用があった"] --> Q1{"行為者は?"}
  Q1 -- "専用使用権者・通常使用権者
(団体構成員等を含む)" --> Q2{"指定商品・役務又は類似範囲での
登録商標又は類似商標の使用?"} Q1 -- "商標権者" --> X1["商標法第51条を検討
(故意・禁止権の範囲)"] Q1 -- "使用権をもたない第三者" --> X2["商標権侵害の問題
(取消審判の対象外)"] Q2 -- "はい" --> Q3{"品質・質の誤認 又は
他人の業務との混同を生ずる?"} Q2 -- "いいえ" --> N1["商標法第53条の対象外"] Q3 -- "はい" --> Q4{"使用の事実がなくなった日から
5年を経過した?"} Q3 -- "いいえ" --> N1 Q4 -- "はい" --> N2["請求できない
(第53条第3項→第52条)"] Q4 -- "いいえ" --> Q5{"商標権者は事実を知らず
かつ 相当の注意をしていた?"} Q5 -- "はい" --> N3["取消しの対象外
(第1項ただし書)"] Q5 -- "いいえ" --> Y["商標登録の取消し
→ 商標権はその後消滅
→ 5年の再登録禁止"] style Y fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の箱:商標法第53条により商標登録が取り消される結論
  • 緑の箱:商標法第53条では取り消されない結論

【図7】商標法第53条の判断手順(条文をもとに本記事作成者がフロー化したもの)。使用権者の故意を問う分岐がないことが、商標法第51条との違いです。

9. 審判手続と、ほかの取消審判との比較

手続の多くは、ほかの取消審判と共通です。審判の請求があったときの専用使用権者等への通知(商標法第46条第4項)は、商標法第55条により商標法第53条第1項の審判にも準用されます。審判便覧53―00「取消審判の審理の方式」は、取消審判は口頭審理による(商標法第56条第1項で準用する特許法第145条第1項)としつつ、書面審理によることができる場合を記載しています(要約)。

審判行為者・原因主観的要件請求人除斥期間再登録禁止
商標法第50条商標権者・使用権者のいずれもが継続して3年以上不使用―何人も――
商標法第51条商標権者の誤認・混同を生ずる使用(禁止権の範囲)故意何人も使用の事実がなくなった日から5年(第52条)あり(第51条第2項)
商標法第52条の2第24条の4各号の事由で類似商標が別人に属した後の、商標権者の混同を生ずる使用不正競争の目的何人も第52条を準用あり(第51条第2項を準用)
商標法第53条使用権者の誤認・混同を生ずる使用(専用権の範囲も含む)使用権者の故意は不要。商標権者の不知+相当の注意で免責何人も第52条を準用あり(第53条第2項)
商標法第53条の2代理人・代表者等による無断の登録(条文の要件は関連記事)当該商標に関する権利を有する者設定の登録の日から5年(第53条の3)―

〔表11〕商標登録の取消審判の比較(e-Gov掲載の条文、2026年9月参照。本記事作成者が整理したもの。各審判の詳細は関連記事へ。「―」は当該条に規定がないことを示します)。

防護標章登録については、商標法第68条第4項が準用する条文の列挙に商標法第53条は含まれていません。また、商標法第70条第3項が「登録商標に類似する商標」の読み方を定めているのは商標法第37条第1号と第51条第1項であり、商標法第53条は挙げられていません。

10. 特許法・実用新案法・意匠法との比較

法律審判の種類(審判の章で請求を定める条)使用権者・実施権者の行為を理由とする取消審判
商標法拒絶査定不服・補正却下決定不服・無効のほか、取消審判(第50条、第51条、第52条の2、第53条、第53条の2)あり(商標法第53条)
特許法第121条、第123条、第125条の2、第125条の3、第126条なし
実用新案法第37条(実用新案登録無効審判)なし
意匠法第46条、第47条、第48条なし

〔表12〕四法の比較(e-Gov掲載の各法の審判の章、2026年9月参照)。

特許・実用新案・意匠では、実施権者がどんな品質の製品を作っても、権利そのものが取り消されることはありません。商標は、需要者が出所や品質を見分けるための目じるしであり、商標法第1条が「需要者の利益を保護すること」を目的に掲げていることが、この違いの背景にあると説明されます(一般的な説明)。

試験での問われ方

形式問われやすい観点(本記事作成者の整理。出題を保証するものではありません)
短答式故意の要否/登録商標そのものの使用が含まれるか/ただし書の2条件(不知+相当の注意)/請求人(何人も)/除斥期間の起算点/再登録禁止の対象者/商標法第54条第1項の効果/団体構成員のみなし規定
論文式使用権者の不正使用の事例で、請求の可否・ただし書の当てはめ・取消し後の再出願の可否(商標法第15条第1号)を順に検討させる形が考えられます。
口述商標法第51条との相違点を条文に即して答える形が考えられます。

〔表13〕試験形式ごとの観点(本記事作成者の整理)。

問8肢ハは、第53条第1項の取消しが専用使用権者の故意の場合に限られるとする点が誤りです。第53条は使用権者の故意を要件とせず、商標権者の不知と相当の注意をただし書で扱います。問題全体の正解は2です。 公式問題/公式正解。肢の説明は条文による検証であり、公式解答が公表するのは問題全体の正解番号です。
レベル3のまとめ
  • 商標法第53条は、使用権者(団体構成員・地域団体構成員を含む)の誤認・混同を生ずる使用を理由に、商標権者の商標登録を取り消す審判です。
  • 商標法第51条との違いは、①使用権者の故意が不要、②登録商標そのものの使用(いわゆる専用権の範囲)も対象、③商標権者の不知+相当の注意による免責、④再登録禁止の対象者に不正使用をした使用権者であった者が加わる、の4点です。
  • 審判便覧53―02は、使用権の設定を制約なしに認めたことに対する使用権者の責任の担保、と説明しています。
  • 「5年」は2つ。除斥期間は使用の事実がなくなった日から、再登録禁止は審決確定の日から数えます。
  • 第2項違反は拒絶・異議・無効の理由になり、商標法第47条の除斥期間の対象ではありません。
  • 効果は商標法第54条第1項(その後消滅)。商標法第50条の審判のような遡及の特則はありません。

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