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小学生でも分かる意匠法|意匠法第29条〜第32条 法定通常実施権(先使用・先出願・中用権・満了後) ― 「先に使っていた人」「途中で権利が動いた人」を守るしくみ

小学生でもわかる意匠法 26:法定通常実施権(第29条〜第32条)

小学生でも分かる意匠法 / C. 意匠権の効力・実施権・侵害 #26

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意匠権はとても強い権利で、登録意匠と似ている意匠を業として使う人を止められます(意匠法第23条)。でも、意匠権ができる前から自分で考えて使っていた人まで止められるのは不公平です。意匠法第29条から第32条は、こうした人に「意匠権者の許可がなくても続けてよい」という権利(法定通常実施権)を法律が自動的に与える条文です。第29条の2「先出願による通常実施権」は特許法にはない意匠法だけの制度で、試験でもよく比較されます。

条文:意匠法第29条・第29条の2・第29条の3・第30条・第31条・第32条関連:意匠法第28条第3項・第34条、特許法第79条〜第82条・第99条参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

「先に売っていたのに、あとから権利ができた」

コップ屋さんのAさんは、自分で考えた「星の形の持ち手」がついたコップを作って、お店で売り始めました。同じころ、Aさんのことを何も知らないBさんも、たまたま同じような星形のコップを考えて、特許庁に「意匠登録出願」を出しました。あとでBさんの意匠が登録されると、Bさんは「星形コップを売ってはダメ」と他の人に言えるようになります(意匠権)。

でも、AさんはBさんが出願するより前から、自分で考えたコップをまじめに売っていました。それなのに「今日からやめて」と言われたら、かわいそうですよね。そこで意匠法は、こういうAさんに「Bさんの許可がなくても、今までどおり続けてよい」という権利を自動的にあげることにしました。これが「先使用による通常実施権」(意匠法第29条)です。「通常実施権」は「使ってよい権利」、「法定」は「法律が自動的に決める」という意味です。

Aさん 自分で考えて星形コップを売り始める

Aさんは、そのまま続けてよい(第29条)

Bさんが出願 Aさんのことは知らない

Bさんの意匠権が発生 他の人には「やめて」と言える 時間 →(縮尺なし)

時点(その日に起きたこと) 期間(Aさんが実施を続けられる範囲) 時点と説明の対応

図は左右にスクロールできます。

【図1】先使用による通常実施権(意匠法第29条)のイメージ。Bさんが出願したとき、Aさんがもう事業をしていた(または準備をしていた)ことがポイント。丸=時点、帯=期間で統一しています。2026年9月時点の条文による。(時間軸は縮尺なし)

ほかにも「守ってあげたい人」が3種類ある

意匠法は、Aさんのような「先に使っていた人」のほかにも、あとから状況が変わって困る人を3つのタイプに分けて守っています。

タイプ1:Bより先に出願したのに、その出願がダメになった人(第29条の2)
タイプ2:持ち主が変わる・登録が取り消されると分かる前から使っていた人(第29条の3・第30条)
タイプ3:自分の権利が期限切れになったが、相手の権利とぶつかっていた人(第31条・第32条)
法律が自動的にくれる 「使ってよい権利」(法定通常実施権) 先に使っていた人 第29条 相手の出願のときに もう事業(か準備)を していた お金:いらない 先に出願した人 第29条の2 自分の出願は「新しくない」 で拒絶された。相手の登録 のときに事業(か準備) お金:いらない 途中で権利が動いた 第29条の3・第30条 持ち主が変わる/登録が 消えると知らずに 事業(か準備)をしていた お金:はらう(相当の対価) 自分の権利が期限切れ 第31条・第32条 ぶつかっていた相手の 権利がまだ残っている → 元の範囲で使える お金:元権利者は不要/ 実施権者は必要

図は左右にスクロールできます。

【図2】意匠法が自動的に「使ってよい権利」をくれる4つの場面。「お金」の欄は「相当の対価」を払う定めがあるかどうか(→レベル3〔表9〕)。

「使ってよい」には限界がある

Aさんがもらえるのは「今までやっていたこと」の範囲だけです。星形コップを売っていたなら星形コップを売り続けてよいのですが、まったく別の意匠に広げたり、「Bさんの意匠権を消してしまう」ことはできません。Bさんの意匠権はそのまま残り、Aさんだけが「例外的に続けてよい」という関係です。

レベル1のまとめ

  • 意匠権ができる前から、自分で考えて事業(か準備)をしていた人は、そのまま続けてよい(第29条 先使用)。
  • 先に出願したのに「新しくない」で拒絶された人にも、続けてよい権利がある(第29条の2 先出願。意匠法だけの制度)。
  • 途中で権利の持ち主が変わったり、登録が消えたりしたときに、知らずに使っていた人も守られる(第29条の3・第30条)。ただしお金(相当の対価)を払う。
  • 自分の権利が期限切れになっても、ぶつかっていた相手の権利の下で、元の範囲で続けてよい(第31条・第32条)。

※「知らないで」「事業の準備」「事業の目的の範囲内」などの言葉の意味、どの時点を基準にするか、お金の有無は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第29条 ― 先使用による通常実施権

意匠法第29条(原文)
意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、又は意匠登録出願に係る意匠を知らないでその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠登録出願の際(第九条の二の規定により、又は第十七条の三第一項(第五十条第一項(第五十七条第一項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により、その意匠登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

一文がとても長いので、「だれが」「いつ」「何を」「どの範囲で」に分解します。

要素 条文の文言 意味
主観(知らないで) 「意匠登録出願に係る意匠を知らないで」 出願された意匠の内容を知らずに、という善意の要件
創作のルート 「自ら…創作をし、又は…創作をした者から知得して」 自分で創作した場合だけでなく、(出願意匠を知らずに)創作した人から知り得た場合も含む
対象となる意匠 「その意匠若しくはこれに類似する意匠」 同一意匠だけでなく類似意匠まで(意匠法第23条の効力範囲に対応)
基準時 「意匠登録出願の際」(括弧書きの例外あり) 相手の出願時点。補正で出願日が動く場合は括弧書きで調整(→レベル3・1)
場所・状態 「現に日本国内において…実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者」 基準時に日本国内で事業中、または事業の準備中であること
効果の範囲 「その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において」 実施(準備)していた意匠と、事業の目的の両方で範囲が限られる
効果 「その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」 その意匠権に対する通常実施権が法律上発生する。対価の定めなし

〔表1〕意匠法第29条の分解。

第29条の2 ― 先出願による通常実施権(意匠法固有)

意匠法第29条の2(原文)
意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、又は意匠登録出願に係る意匠を知らないでその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠権の設定の登録の際現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者(前条に該当する者を除く。)は、次の各号のいずれにも該当する場合に限り、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。
一 その意匠登録出願の日前に、自らその意匠又はこれに類似する意匠について意匠登録出願をし、当該意匠登録出願に係る意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者であること。
二 前号の自らした意匠登録出願について、その意匠登録出願に係る意匠が第三条第一項各号の一に該当し、拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した者であること。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

第29条と前半はほぼ同じですが、基準時が「意匠権の設定の登録の際」に変わり、さらに第1号・第2号の両方を満たすことが必要です。第29条に当たる人は除かれます(「前条に該当する者を除く。」)。

要件 条文の文言 第29条との違い
主観・創作ルート・対象意匠 第29条と同じ文言 同じ
基準時 「意匠権の設定の登録の際」 第29条は「意匠登録出願の際」。第29条の2はそれより後の時点
除外 「(前条に該当する者を除く。)」 第29条が成立する人は第29条の2の対象外
第1号(先の出願と事業) 「その意匠登録出願の日前に、自らその意匠又はこれに類似する意匠について意匠登録出願をし、当該意匠登録出願に係る意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者であること」 相手の出願日より前に、自分が同一・類似の意匠を出願していたこと、かつ、その出願意匠の事業(か準備)をしていること
第2号(拒絶の確定と理由) 「前号の自らした意匠登録出願について、その意匠登録出願に係る意匠が第三条第一項各号の一に該当し、拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した者であること」 自分の出願が、意匠法第3条第1項各号(新規性)を理由に拒絶され、それが確定していること
効果 「その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において…通常実施権を有する」 同じ。対価の定めなし

〔表2〕意匠法第29条の2の要件と、第29条との違い。

時間 → 甲の出願 甲の設定の登録 甲の意匠権があるときの出来事

(参考)この先で学ぶ条文の基準時 ― 要件の細部は〔表9〕で確認

第29条 先使用 対価なし 事業・準備 出願の際

第29条の2 先出願 対価なし(意匠法固有) 乙の出願(第1号) 事業・準備 設定の登録の際

第29条の3 対価あり 事業・準備(登録前) 移転の登録(第26条の2)

第30条 中用権 対価あり 事業・準備(請求の登録前) 無効審判の請求の登録

第31条・第32条 第31条:対価なし 第32条:対価あり 善意・実施・準備は要件でない(帯なし) 先の権利の満了の際

基準時(条文が定める時点) 基準時以外の必要な時点 実施・準備が必要な期間 甲の手続の時点

図は左右にスクロールできます。

【図3】意匠法第29条〜第32条の「基準時」を1本の時間軸で比べた図。丸=時点、帯=期間で役割を統一しています。上の2行(第29条・第29条の2)が本節の内容、下の3行はこの先で扱う条文です。第31条・第32条は善意・実施・準備を要件としないため帯がありません。帯は「基準時に事業をしている/その準備をしている」状態を示すもので、条文が一定の継続期間を要求しているわけではありません。右側の出来事は行ごとに別の事案であり、相互の前後関係や甲の設定の登録との間隔を示すものではありません。第29条の2には、これに加えて乙の先の出願が第3条第1項各号(新規性)を理由に拒絶確定していること(第2号)が必要ですが、その確定時期は図示していません。第29条の括弧書き(第9条の2・第17条の3第1項で出願時が動く場合)は省略しています(→〔表6〕)。2026年9月時点の条文による。(時間軸は縮尺なし)

第29条の3 ― 意匠権の移転の登録前の実施による通常実施権

意匠法第29条の3(原文)
第二十六条の二第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録の際現にその意匠権、その意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その意匠権の移転の登録前に、意匠登録が第四十八条第一項第一号に規定する要件に該当すること(その意匠登録が第十五条第一項において準用する特許法第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は第四十八条第一項第三号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠権について通常実施権を有する。
2 当該意匠権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

意匠法第26条の2(意匠権の移転の特例)で、正当な権利者が意匠権を「自分のものにせよ」と請求して移転登録があったときの条文です。移転登録の前に、その意匠権が「冒認出願・共同出願違反」であることを知らずに使っていた元の意匠権者・専用実施権者・通常実施権者を守ります。

要件 内容
だれが 「第二十六条の二第一項の規定による請求に基づく意匠権の移転の登録の際現に」意匠権・専用実施権・通常実施権を「有していた者」
何を知らないで 意匠登録が第48条第1項第1号の要件に該当すること(共同出願違反=意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条違反の場合に限る)、又は同項第3号(冒認)に該当すること
いつまでに 「その意匠権の移転の登録前に」日本国内で実施事業(か準備)
効果の範囲 「その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において」
効果 「その意匠権について通常実施権を有する」(移転後の新しい意匠権者に対して)
対価 第2項:意匠権者は「相当の対価を受ける権利を有する」

〔表3〕意匠法第29条の3の分解。

第30条 ― 無効審判の請求登録前の実施による通常実施権(中用権)

意匠法第30条(原文)
次の各号のいずれかに該当する者であつて、意匠登録無効審判の請求の登録前に、意匠登録が第四十八条第一項各号のいずれかに該当することを知らないで、日本国内において当該意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、当該意匠権又はその意匠登録を無効にした際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
一 同一又は類似の意匠についての二以上の意匠登録のうち、その一を無効にした場合における原意匠権者
二 意匠登録を無効にして同一又は類似の意匠について正当権利者に意匠登録をした場合における原意匠権者
三 前二号に掲げる場合において、意匠登録無効審判の請求の登録の際現にその無効にした意匠登録に係る意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者
2 当該意匠権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
号 守られる人 場面
第1号 原意匠権者 「同一又は類似の意匠についての二以上の意匠登録のうち、その一を無効にした場合」(ダブル登録の一方が無効になった)
第2号 原意匠権者 「意匠登録を無効にして同一又は類似の意匠について正当権利者に意匠登録をした場合」(無効後に正当権利者が登録を受けた)
第3号 無効にされた意匠権の専用実施権者・通常実施権者 第1号・第2号の場面で、「意匠登録無効審判の請求の登録の際現に」実施権を有していた者
共通要件 「意匠登録無効審判の請求の登録前に」、無効理由(第48条第1項各号)該当を「知らないで」、日本国内で実施事業(か準備)
効果 残った方の「当該意匠権又はその意匠登録を無効にした際現に存する専用実施権」について通常実施権。第2項で相当の対価

〔表4〕意匠法第30条第1項各号の整理。

flowchart TB
  A["意匠登録X(乙)と意匠登録Y(甲)
同一又は類似の意匠"] --> B["Xに無効審判が請求され
請求の登録"] B --> C["Xの意匠登録が無効に
(第48条第1項各号)"] C --> D{"乙は請求の登録前に
無効理由を知らずに
事業か準備をしていた?"} D -- "はい" --> E["乙(原意匠権者)は
Yの意匠権について通常実施権
(第30条第1項第1号)"] D -- "いいえ" --> F["第30条の通常実施権なし"] E --> G["甲は乙から
相当の対価を受ける権利
(第30条第2項)"] style E fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図4】第30条第1項第1号(ダブル登録の一方が無効になった場合)の流れ。第2号・第3号も「請求の登録前」「知らないで」「事業か準備」は共通。凡例:緑=通常実施権が発生する終点/赤=発生しない終点。2026年9月時点の条文による。

第31条・第32条 ― 意匠権等の存続期間満了後の通常実施権

意匠法第31条(原文)
意匠登録出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願に係る意匠権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該意匠権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
2 前項の規定は、意匠登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る特許権又は実用新案権がその意匠登録出願に係る意匠権と抵触する場合において、その特許権又は実用新案権の存続期間が満了したときに準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第32条(原文)
意匠登録出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願に係る意匠権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その満了の際現にその存続期間が満了した意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者は、原権利の範囲内において、当該意匠権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
2 前項の規定は、意匠登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る特許権又は実用新案権がその意匠登録出願に係る意匠権と抵触する場合において、その特許権又は実用新案権の存続期間が満了したときに準用する。
3 当該意匠権者又は専用実施権者は、前二項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。

2つの条文は「先に出願された(または同日出願の)権利」と「後の意匠権」がぶつかって(抵触して)いて、先の権利の方が先に期限切れになった場面です。先の権利があった間、後の意匠権者は先の権利者の意匠(類似部分)を実施できませんでした。逆に、先の権利が切れたあと、先の権利者が後の意匠権のせいで急に何もできなくなるのは不公平なので、「原意匠権(原権利)の範囲内」で通常実施権を認めます。

先の権利(出願日が前か同日) 乙の意匠権(第1項)/特許権・実用新案権(第2項) 満了 後の意匠権(甲) 甲の意匠権(登録意匠に類似する意匠に係る部分が乙の権利と抵触) 抵触(重なり) 乙の権利の満了後 原意匠権者(乙)→ 第31条:原意匠権の範囲内で通常実施権 乙の専用実施権者・通常実施権者 → 第32条:原権利の範囲内 対価:第31条なし/第32条あり(第3項)

権利の存続期間 満了の時点 抵触している関係 満了後に認められる通常実施権

図は左右にスクロールできます。

【図5】第31条・第32条のタイムチャート。先の権利(乙)が満了しても後の意匠権(甲)は残るため、乙側の人に「原権利の範囲内」で通常実施権を認める。丸=時点、帯=期間で【図1】【図3】と役割をそろえています。2026年9月時点の条文による。(時間軸は縮尺なし)

第31条 第32条
守られる人 「その原意匠権者」(第2項で準用:原特許権者・原実用新案権者) 満了の際に現に「専用実施権又は…通常実施権を有する者」
抵触の相手(第1項) 「意匠登録出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分」
抵触の相手(第2項) 「意匠登録出願の日前又はこれと同日の出願に係る特許権又は実用新案権」
効果の範囲 「原意匠権の範囲内において」 「原権利の範囲内において」
対象 「当該意匠権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権」
対価 定めなし 第3項:意匠権者又は専用実施権者は「相当の対価を受ける権利を有する」

〔表5〕第31条と第32条の対比。

レベル2のまとめ

  • 第29条:相手の「出願の際」に、知らないで創作(知得)し、日本国内で事業か準備をしていた人 → 通常実施権(対価なし)。
  • 第29条の2:相手の「設定の登録の際」に事業か準備をしていて、かつ自分が先に出願し、その出願が第3条第1項各号(新規性)で拒絶確定した人 → 通常実施権(対価なし)。第29条の人は除く。
  • 第29条の3:第26条の2の移転登録の際の元権利者・実施権者で、冒認・共同出願違反を知らずに事業か準備 → 通常実施権(対価あり)。
  • 第30条:無効審判の請求登録前に、無効理由を知らずに事業か準備をしていた原意匠権者・実施権者 → 残った意匠権等について通常実施権(対価あり)。
  • 第31条・第32条:先の権利(意匠権・特許権・実用新案権)が抵触していて満了 → 原権利者は対価なし、その実施権者は対価ありで、原権利の範囲内の通常実施権。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 第29条の括弧書き ― 補正で出願時が動くときの基準時

第29条の基準時は「意匠登録出願の際」ですが、意匠法では補正の扱いによって出願日が「手続補正書を提出した時」に動くことがあります。括弧書きは、その場合の基準時を定めています。

意匠法第9条の2(原文)
願書の記載(第六条第一項第一号及び第二号に掲げる事項並びに同条第二項の規定により記載した事項を除く。第十七条の二第一項及び第二十四条第一項において同じ。)又は願書に添付した図面、写真、ひな形若しくは見本についてした補正がこれらの要旨を変更するものと意匠権の設定の登録があつた後に認められたときは、その意匠登録出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第17条の3第1項(原文)
意匠登録出願人が前条第一項の規定による却下の決定の謄本の送達があつた日から三月以内にその補正後の意匠について新たな意匠登録出願をしたときは、その意匠登録出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
場面 出願日の扱い 第29条の基準時(括弧書き)
通常 実際の出願日 「意匠登録出願の際」
第9条の2(要旨変更の補正が登録後に判明) 「手続補正書を提出した時にしたものとみなす」 「もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際」
第17条の3第1項(補正却下後の新出願。第50条第1項・第57条第1項で準用する場合を含む) 「手続補正書を提出した時にしたものとみなす」 「もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際」

〔表6〕第29条括弧書きの整理。

括弧書きは「もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際」と定めています。逐条解説は、第9条の2の場合と第17条の3の補正却下後の新出願の場合には、もとの意匠登録出願の際か手続補正書を提出した際のいずれかの時点で第29条の要件が満たされれば先使用による通常実施権が認められると説明しています(特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』1325頁)。あわせて、特許法・実用新案法と異なり、意匠法では昭和60年改正の際に補正却下後の新出願制度が存置されたことにも触れています(同頁)。

2. 第29条の2 ― なぜ意匠法にだけあるのか

特許法には第29条の2に相当する「先出願による通常実施権」はありません(特許法第79条〜第82条を後掲〔表8〕で確認)。条文の構造から読み取れる場面は次のとおりです。

  • 乙は、甲の出願日より前に同一・類似の意匠を出願していた(第1号)。
  • 乙の出願は、第3条第1項各号(新規性)を理由に拒絶され、それが確定した(第2号)。
  • 乙は、甲の出願の際にはまだ事業も準備もしていなかった(していれば第29条で足りるので、第29条の2は「前条に該当する者を除く。」)。
  • 乙は、甲の意匠権の設定の登録の際には事業か準備をしていた。

第29条の2は、平成10年の一部改正で追加された規定です(青本〔第22版〕1326頁の改正注記)。逐条解説は、この規定を設けた理由を第9条第3項の改正との関係で次のように説明しています(青本〔第22版〕1326〜1328頁)。

  • 昭和34年の現行法制定当初は、拒絶の査定・審決が確定した意匠登録出願(拒絶確定出願)も先後願の判断では先願として扱われ、これと同一・類似の後願は登録されなかった。そのため、先に出願した者が拒絶確定出願の意匠を実施しても、類似する後願の意匠権で侵害とされることは起こり得なかった。
  • 平成10年改正で、拒絶確定出願は先後願の判断で先願として扱われないことになった。その結果、拒絶確定出願に類似する後願でも、他の登録要件を満たせば登録され得ることになり、先使用による通常実施権(第29条)が認められない場合には、先願者の実施が後願の意匠権によって後から制限され、不測の損害を受けるおそれが生じた。
  • そこで、後願の意匠権者と先願の拒絶確定出願の出願人との利害を調整するため、本条の要件を全て満たす場合に、後願の意匠権について通常実施権を認めることにした。

現行の第9条第3項は、意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、その出願は第9条第1項・第2項(先願)の適用については初めからなかったものとみなす、と定めています(同項ただし書の例外あり。e-Gov法令API、2026年9月参照)。

逐条解説は、ほかに次の点も説明しています。

  • 柱書の「前条に該当する者を除く。」は、本条の通常実施権が後願の出願から設定登録までの間に開始された実施等を対象とするものであり、後願の出願前からの実施等について複数の通常実施権を認めると後願の意匠権者の権利を不当に制約しかねないため、その場合は専ら先使用による通常実施権(第29条)によるべきことを定めたもの。したがって両条の要件をともに満たす場合は、第29条の通常実施権のみを主張できる(青本〔第22版〕1327〜1328頁)。
  • 第2号は、自らの出願について拒絶の査定・審決が確定しており、かつ、その意匠が客観的に第3条第1項各号に該当することを求めるもの(同1328頁)。
  • 先願者の実施等は後願の意匠権者の行為(出願・設定登録)より先になされているため、先使用による通常実施権と同様に対価を支払う必要はない(同1328頁)。
flowchart TB
  S["乙:甲の意匠権の設定登録の際に
日本国内で事業か準備をしている"] --> Q0{"甲の意匠を知らないで
自ら創作 or 創作者から知得?"} Q0 -- "はい" --> Q1{"甲の出願の際に
すでに事業か準備をしていた?"} Q0 -- "いいえ" --> N0["第29条・第29条の2とも不成立"] Q1 -- "はい" --> Y1["第29条(先使用)が成立
→ 第29条の2は「前条に該当する者を除く」"] Q1 -- "いいえ(甲の出願の際はまだ)" --> Q2{"第1号:甲の出願日前に
自ら同一・類似の意匠を出願し
その意匠の事業か準備をしている?"} Q2 -- "はい" --> Q3{"第2号:その自らの出願が
第3条第1項各号(新規性)を理由に
拒絶査定・審決が確定?"} Q2 -- "いいえ" --> N2["第29条の2 不成立"] Q3 -- "はい" --> Y2["第29条の2(先出願)が成立
対価の定めなし"] Q3 -- "いいえ(第3条第2項、第9条など他の理由)" --> N3["第29条の2 不成立"] style Y1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style Y2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N0 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図6】第29条と第29条の2の振り分け分岐図。第2号の拒絶理由は「第三条第一項各号の一」に限られる点に注意。二択の分岐はすべて「はい」(主経路)を先に、「いいえ」を後に置いています。凡例:緑=成立する終点/赤=不成立の終点。2026年9月時点の条文による。

第2号の拒絶理由の限定:条文は「第三条第一項各号の一に該当し」と定めています。したがって、乙の出願が意匠法第3条第2項(創作非容易性)や第9条(先願)など他の理由で拒絶された場合は、文言上、第29条の2の対象になりません。

3. 第29条の3 ― 第26条の2(移転の特例)とのセット

第29条の3は、意匠法第26条の2第1項の請求(冒認・共同出願違反の場合の意匠権の移転請求)に基づいて移転登録があったときの規定です。第26条の2第3項により、移転登録があると「その意匠権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす」ため、元の意匠権者やその実施権者は、さかのぼって無権利者だったことになります。そこで、移転登録の前に善意で事業か準備をしていた者に通常実施権を与え、その代わりに相当の対価を払わせるのが第29条の3です。

観点 第29条の3 第30条
引き金となる事件 第26条の2第1項の請求に基づく意匠権の移転の登録 意匠登録無効審判による無効(第48条第1項各号)
知らないでいる対象 第48条第1項第1号(共同出願違反の場合に限る)又は第3号(冒認)に該当すること 第48条第1項各号のいずれかに該当すること(理由の限定なし)
基準時(善意で事業か準備) 「その意匠権の移転の登録前に」 「意匠登録無効審判の請求の登録前に」
守られる人 移転登録の際の元の意匠権者・専用実施権者・通常実施権者 各号の原意匠権者、無効にされた意匠権の専用実施権者・通常実施権者(第3号)
通常実施権の対象 「その意匠権」(移転後の意匠権) 「当該意匠権又はその意匠登録を無効にした際現に存する専用実施権」(残った方の権利)
対価 第2項:意匠権者が相当の対価を受ける権利 第2項:意匠権者又は専用実施権者が相当の対価を受ける権利

〔表7〕第29条の3と第30条(いずれも「中用権」と呼ばれることがある)の対比。呼び方は講学上のもので条文の用語ではない。

第48条第1項第1号・第3号は、いずれも「第二十六条の二第一項の規定による請求に基づき、その意匠登録に係る意匠権の移転の登録があつたときを除く。」と定めています。つまり、冒認・共同出願違反は移転請求で解決すれば無効理由から外れ(第29条の3の場面)、無効審判で解決すれば第30条の場面になる、という関係です。

4. 第31条・第32条 ― 「類似する意匠に係る部分」の意味と3つの権利

第31条第1項・第32条第1項は、先の意匠権「のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分」が後の意匠権と抵触する場合と定めています。同一の意匠どうしなら後願は意匠法第9条で登録されないはずなので、抵触が起こるのは「先の意匠権の類似範囲」と「後の意匠権」が重なる場面に限られる、という構造です(意匠法第26条の「抵触」については→c23記事)。第2項は、先の権利が特許権・実用新案権の場合に準用します。

先に満了する権利 根拠 守られる人(第31条/第32条)
先の意匠権(出願日が前か同日) 第31条第1項・第32条第1項 原意匠権者/その専用実施権者・通常実施権者
先の特許権(出願日が前か同日) 第31条第2項・第32条第2項(準用) 原特許権者/その専用実施権者・通常実施権者
先の実用新案権(出願日が前か同日) 第31条第2項・第32条第2項(準用) 原実用新案権者/その専用実施権者・通常実施権者

〔表8〕第31条・第32条の適用場面。意匠権の存続期間は意匠法第21条により「意匠登録出願の日から二十五年」(関連意匠は基礎意匠の出願日から25年。令和2年3月31日以前の出願は登録日から20年→b18記事)。

5. 5つの法定通常実施権に共通する事項

条文 基準時 善意(知らないで) 実施・準備の要件 効果の範囲 対価
第29条 意匠登録出願の際(括弧書きあり) 出願に係る意匠を知らないで 日本国内で実施事業か準備 実施・準備している意匠及び事業の目的の範囲内 なし
第29条の2 意匠権の設定の登録の際 出願に係る意匠を知らないで 日本国内で実施事業か準備+第1号・第2号 同上 なし
第29条の3 移転の登録の際(権利保有)/登録前(実施・準備) 第48条第1項第1号(共同出願違反)・第3号該当を知らないで 日本国内で実施事業か準備 同上 あり(第2項)
第30条 無効審判の請求の登録前 第48条第1項各号該当を知らないで 日本国内で実施事業か準備 同上 あり(第2項)
第31条 先の権利の存続期間満了の際 要件なし 要件なし 原意匠権(原権利)の範囲内 なし
第32条 先の権利の存続期間満了の際 要件なし 要件なし 原権利の範囲内 あり(第3項)

〔表9〕意匠法第29条〜第32条の横断比較。「善意」「実施・準備」は第31条・第32条には要件として書かれていない。

いずれも「通常実施権」なので、意匠法の通常実施権に関する一般規定が適用されます(→c25記事)。試験で問われやすいのは次の2点です。

意匠法第34条第1項(原文)
通常実施権は、前条第三項若しくは第四項、特許法第九十二条第三項又は実用新案法第二十二条第三項の裁定による通常実施権を除き、実施の事業とともにする場合、意匠権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、意匠権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
意匠法第28条第3項(原文)
特許法第七十三条第一項(共有)、第九十七条第三項(放棄)及び第九十九条(通常実施権の対抗力)の規定は、通常実施権に準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000125)、2026年9月参照。
特許法第99条(原文)
通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
  • 移転:第34条第1項が移転を制限する対象から除いているのは「裁定による通常実施権」だけです。第29条〜第32条の法定通常実施権は除かれていないので、「実施の事業とともにする場合」「承諾を得た場合」「相続その他の一般承継の場合」に移転できます。
  • 対抗力:第28条第3項で準用する特許法第99条により、通常実施権は「その発生後に」意匠権等を取得した者にも効力を有します。法定通常実施権を除外する文言はありません。

6. 特許法・実用新案法との対比

特許法第79条(原文)
特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
特許法第81条(原文)
特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
制度 意匠法 特許法 主な違い
先使用による通常実施権 第29条 第79条 意匠法は「その意匠若しくはこれに類似する意匠」まで対象。基準時の括弧書き(第9条の2・第17条の3)は意匠法固有
先出願による通常実施権 第29条の2 (なし) 意匠法固有。平成10年改正で拒絶確定出願が先願として扱われなくなったこと(第9条第3項)に伴い新設された(青本〔第22版〕1326〜1327頁→2.)
移転の登録前の実施による通常実施権 第29条の3(第26条の2とセット) 第79条の2(第74条とセット) 構造は同じ。特許法は第123条第1項第2号(第38条違反に限る)・第6号、意匠法は第48条第1項第1号(特許法第38条準用違反に限る)・第3号を参照。いずれも対価あり
無効審判の請求登録前の実施による通常実施権 第30条 第80条 意匠法第1号・第2号は「同一又は類似の意匠」、特許法は「同一の発明」。いずれも対価あり
存続期間満了後の通常実施権(原権利者) 第31条(第1項:意匠権、第2項:特許権・実用新案権) 第81条(意匠権のみ) 特許法第81条・第82条は「意匠権の存続期間満了後」に限定。意匠法は第2項で特許権・実用新案権にも準用。いずれも対価なし
存続期間満了後の通常実施権(実施権者) 第32条(第3項で対価) 第82条(第2項で対価) 同上。いずれも対価あり

〔表10〕意匠法第29条〜第32条と特許法第79条〜第82条の対比。特許法第79条の2・第80条・第82条の原文はe-Govで確認済み(本文では長さの都合で第79条・第81条のみ引用)。

実用新案法第26条(原文)
特許法第六十九条第一項及び第二項、第七十条から第七十一条の二まで(特許権の効力が及ばない範囲及び特許発明の技術的範囲)、第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第七十九条(先使用による通常実施権)、第七十九条の二(特許権の移転の登録前の実施による通常実施権)、第八十一条、第八十二条(意匠権の存続期間満了後の通常実施権)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、実用新案権に準用する。

出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000123)、2026年9月参照。
制度 意匠法 特許法 実用新案法
先使用 第29条 第79条 第26条で特許法第79条を準用
先出願 第29条の2 (なし) (なし)
移転の登録前の実施 第29条の3 第79条の2 第26条で特許法第79条の2を準用
無効審判の請求登録前の実施 第30条 第80条 第20条(実用新案法固有の条文。特許を無効にした場合の原特許権者等が対象)
存続期間満了後(原権利者) 第31条 第81条 第26条で特許法第81条を準用
存続期間満了後(実施権者) 第32条 第82条 第26条で特許法第82条を準用

〔表11〕三法の条文対応表。実用新案法第20条は「特許法第百二十三条第一項の特許無効審判」を前提とする独自の条文で、特許法第80条を準用する形ではない(e-Govで原文確認済み)。

7. どの条文かを見分ける分岐図

flowchart TB
  S["意匠権者以外の者が、許諾なく実施を続けたい"] --> Q1{"何が起きた?"}
  Q1 -- "相手の出願の際に
すでに事業か準備" --> A1["第29条 先使用
(対価なし)"] Q1 -- "自分が先に出願していたが
新規性で拒絶確定、
相手の設定登録の際に事業か準備" --> A2["第29条の2 先出願
(対価なし)"] Q1 -- "第26条の2の請求で
意匠権が移転した" --> A3["第29条の3
(対価あり)"] Q1 -- "無効審判で意匠登録が
無効になった" --> A4["第30条 中用権
(対価あり)"] Q1 -- "抵触していた自分側の
権利が満了した" --> Q2{"満了した権利の
原権利者か?"} Q2 -- "はい" --> A5["第31条
(対価なし)"] Q2 -- "いいえ(その専用実施権者・通常実施権者)" --> A6["第32条
(対価あり)"] style A1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style A2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style A3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style A4 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style A5 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style A6 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

【図7】場面から条文を選ぶ分岐図。各条文の細かい要件は〔表9〕で、基準時の違いは【図3】で確認。凡例:緑=法定通常実施権が認められる終点(対価の要否は各ノードに記載)。2026年9月時点の条文による。

8. 試験での問われ方

試験種別 学習用の問いの例 気をつける点
短答式 「第29条と第29条の2の両方を満たすとき、どちらを主張できるか」「法定通常実施権は承諾なしに事業とともに移転できるか」「対価の要否」の正誤 第29条の2の「前条に該当する者を除く。」、第34条第1項の除外は裁定実施権のみ、対価は第29条の3・第30条・第32条
短答式 第29条の2第2号の拒絶理由が新規性(第3条第1項各号)に限られるか 第3条第2項・第9条での拒絶は文言上対象外
短答式 特許法第81条・第82条と意匠法第31条・第32条の対象権利の違い 特許法は意匠権の満了のみ、意匠法は第2項で特許権・実用新案権も
論文式 侵害事案で、被疑侵害者の抗弁として先使用権の成否を検討させる 基準時(出願の際)、善意、日本国内、事業か準備、範囲(意匠及び事業の目的)の順で当てはめ
口述 「意匠法固有の法定通常実施権は何か」「なぜ意匠法にだけあるのか」 第29条の2。平成10年改正の第9条第3項(拒絶確定出願は先願の地位を持たない)とセットで説明する(→2.)

〔表12〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

意匠問5の公式正解は2(正しい肢は二つ)。肢ニは先使用権と先出願権の要件をともに満たす場合の主張を扱い、先出願権だけに限定する記述は誤りです。肢ホも誤りで、先使用による通常実施権は実施事業とともに移転できます(第34条第1項)。 令和8年度・問題PDF/公式解答PDF。肢の説明と公式の正解番号を区別して確認しています。
レベル3のまとめ

  • 第29条の基準時は「出願の際」だが、第9条の2・第17条の3で出願日が動くときは「もとの出願の際又は手続補正書を提出した際」(括弧書き)。
  • 第29条の2は意匠法固有。基準時は「設定の登録の際」、自らの先出願が第3条第1項各号で拒絶確定していることが必要で、第29条に当たる者は除かれる。
  • 第29条の3は第26条の2(移転の特例)と、第30条は第48条(無効審判)とセット。いずれも善意で「登録前」に事業か準備をしていた者を守り、相当の対価を伴う。
  • 第31条(原権利者・対価なし)・第32条(実施権者・対価あり)は、先の意匠権・特許権・実用新案権が満了した場面。特許法第81条・第82条は意匠権の満了だけを扱う。
  • 法定通常実施権も通常実施権なので、第34条第1項(事業とともに移転可)、第28条第3項で準用する特許法第99条(当然対抗)が適用される。

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