小学生でも分かる実用新案法 / A. 登録要件・考案(実体規定) #1
実用新案法が守るのは「考案」です。「考案」は特許法の「発明」とほとんど同じ言葉で定義されていますが、「高度」という一語がありません。そして、実用新案登録を受けられるのは「物品の形状、構造又は組合せ」に係る考案だけで、方法・物質・プログラムそのものは対象になりません。この記事では、第1条(目的)と第2条(定義)の文言を手がかりに、「実用新案が守る範囲」を確かめます。
レベル2条文の骨格 ― 第1条の目的、第2条の「考案」「登録実用新案」「実施」の定義を表で整理
レベル3要件・例外・試験での問われ方 ― 特許法第2条との対比、保護対象違反(審査基準 第X部第1章 2.1)
LEVEL 1イメージでつかむ
実用新案は「モノの形のくふう」を守る
たとえば、じどう車のドアの取っ手の形を工夫して、手がぬれていてもすべらないようにしたとします。あるいは、筆箱のふたに小さな出っぱりをつけて、片手で開けやすくしたとします。こういう「モノの形や組み立て方のちょっとしたくふう」を守ってくれるのが実用新案(じつようしんあん)です。
実用新案法では、このくふうのことを「考案(こうあん)」と呼びます。「考えて案を出す」と書きます。特許法では「発明(はつめい)」と呼びますが、考案と発明はきょうだいのような関係です。
図は左右にスクロールできます。
○ 実用新案登録を受けられる
× 実用新案登録を受けられない
小さい文字そう判断する理由
【図1】実用新案の保護対象に該当する例(上段)と対象外の例(下段)を、同じ数・同じ大きさで並べ、それぞれに理由を付した。○は保護対象の要件についての表示であり、新規性・進歩性など他の登録要件は別に満たす必要がある。下段の例は審査基準 第X部第1章 2.1 の「保護対象違反」の例による(2026年9月時点)。※説明の都合上、上段・下段とも代表例3つだけを挙げ、一定形状を有さない物体・動植物品種などは省略した(→〔表5〕)。
「発明」とのちがいは「高度」の一語
特許法の「発明」は、「自然のきまりを使ったアイデアのうち、高度なもの」と決められています。「高度」は「レベルが高い」という意味です。いっぽう実用新案法の「考案」には、この「高度」の言葉がありません。つまり、すごく高いレベルでなくても考案になるのです。
ただし、「自然のきまりを使っている」「技術のアイデアである」「新しく作り出した」という3つの部分は、発明とまったく同じです。まほうやゲームのルールのような「自然のきまりを使っていないもの」は、考案にもなりません。
図は左右にスクロールできます。
発明(特許法第2条第1項)の要素
考案(実用新案法第2条第1項)の要素
その限定がないことを示す枠
【図2】「発明」と「考案」の定義のちがい。上下2段で箱の大きさ・位置をそろえた。前の3つの段(自然法則を利用・技術的思想・創作)は共通の語で、4段目の「うち高度のもの」という限定の有無だけが異なる(特許法第2条第1項、実用新案法第2条第1項の文言による。2026年9月時点)。
- 実用新案法が守るのは「考案」。発明と同じく「自然のきまりを使った技術のアイデア」だが、「高度」でなくてもよい。
- 実用新案登録を受けられるのは「モノの形・構造・組合せ」のくふうだけ。作り方(方法)、薬や材料(物質)、プログラムそのものは対象外。
※「モノ(物品)」「形状」「構造」「組合せ」にはそれぞれ意味の決まりがあります。正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第1条(目的)― 「物品の形状、構造又は組合せに係る」の限定
この法律は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
特許法第1条と骨組みは同じですが、実用新案法第1条は保護する考案を「物品の形状、構造又は組合せに係る」ものと最初から限定しています。逐条解説(青本)は、この限定について、長年の運用により実用新案の観念が一般に形成されていることを尊重し、権利の対象をむやみに拡張することを避けたためだ、と説明しています。
第2条(定義)― 3つの用語
| 項 | 定義される用語 | 内容(要旨) | 特許法の対応条文 |
|---|---|---|---|
| 第1項 | 考案 | 自然法則を利用した技術的思想の創作(「高度」の限定なし) | 特許法第2条第1項(発明) |
| 第2項 | 登録実用新案 | 実用新案登録を受けている考案 | 特許法第2条第2項(特許発明) |
| 第3項 | 実施 | 考案に係る物品を製造・使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入し、又はその譲渡・貸渡しの申出をする行為 | 特許法第2条第3項第1号(物の発明の実施) |
〔表1〕実用新案法第2条の項ごとの内容(e-Gov法令検索、2026年9月参照、要旨)。
この法律で「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
2つの条文を並べると、違いは「のうち高度のもの」の有無だけです。逐条解説は、考案には「高度」という限定語がなく、高度のもの・低度のものの両方を含む、と説明しています。
この法律で「登録実用新案」とは、実用新案登録を受けている考案をいう。
この法律で考案について「実施」とは、考案に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸出し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為をいう。
第3項の「実施」の定義は、「考案に係る物品」についての行為だけを並べています。特許法第2条第3項が「物の発明」「方法の発明」「物を生産する方法の発明」の3つに分けて実施を定義しているのに対し、実用新案法には方法の考案の実施がありません。これは、実用新案法の考案が物品に係るものに限られることの裏返しです。
「物品」「形状」「構造」「組合せ」の意味
| 語 | 審査基準 第X部第1章 2.1 の説明(要旨) | 逐条解説の説明(要旨) | 例 |
|---|---|---|---|
| 物品 | 空間的に一定の形を保有したもので、一般に商取引の対象となり、自由に運搬可能な商品で、使用目的が明確なもの。機械の部分も独立した物品として扱う | ― | 取っ手、筆箱、ボルト |
| 形状 | 線や面などで表現された外形的な形 | 外部から観察できる物品の外形 | カムの形状、歯車の歯形 |
| 構造 | 空間的、立体的に組み立てられた構成。建築物の構造も含む | 物品の機械的構造をいい、化学構造は含まない | 筆箱のふたの取付け構造 |
| 組合せ | 二個以上の物品が空間的に分離した形態で、それぞれ独立した構造・形状を保持し、機能的に互いに関連して使用価値を生むもの | 単独の物品を組み合わせて使用価値を生じさせたもの | ボルトとナット |
〔表2〕「物品」「形状」「構造」「組合せ」の意味(審査基準 第X部第1章 2.1、逐条解説 第22版 実用新案法編 第2条の説明を要約。2026年9月参照)。逐条解説の記述は説明であり、条文解釈の確定根拠ではない。
flowchart TD
A{"自然法則を利用した技術的思想の創作か"} -->|はい| B["考案(高度かどうかは問わない)"]
A -->|いいえ| X1["× 考案ではない(実用新案法第2条第1項)"]
B --> C{"物品の形状・構造・組合せに係るか"}
C -->|はい| D["○ 実用新案登録の対象になりうる(→第3条の登録要件へ)"]
C -->|いいえ| X2["× 実用新案登録の対象外(第1条・第3条第1項柱書)"]
style X1 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
style X2 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
○ 対象になりうる(先へ進む)
× 対象にならない(ここで終わり)
はい↓/いいえ→分岐の向きは図全体で統一
【図3】「考案」に当たるか、「物品の形状、構造又は組合せに係る」かの二段階の分岐。判断は「はい」を下、「いいえ」を右に統一した。後半は実用新案法第3条の記事で扱う。
- 実用新案法第1条は、保護対象を「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」と目的規定の段階で限定している。
- 実用新案法第2条第1項の「考案」は、特許法第2条第1項の「発明」から「のうち高度のもの」を除いた定義。
- 実用新案法第2条第3項の「実施」は物品についての行為のみ。方法の考案の実施はない。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 特許法第2条との対比
| 項目 | 特許法(第2条) | 実用新案法(第2条) | 違いのポイント |
|---|---|---|---|
| 保護される創作の名称 | 発明 | 考案 | ― |
| 定義(第1項) | 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの | 自然法則を利用した技術的思想の創作 | 「高度」の限定の有無 |
| 登録後の名称(第2項) | 特許発明 | 登録実用新案 | ― |
| 実施の定義(第3項) | 物の発明・方法の発明・物を生産する方法の発明の3類型(第1号〜第3号) | 考案に係る物品についての行為のみ(号の区分なし) | 方法の考案は存在しない |
| 「プログラム等」の定義(第4項) | あり | なし | プログラムそのものは実用新案の保護対象外(審査基準 第X部第1章 2.1) |
〔表3〕特許法第2条と実用新案法第2条の対比(各条文はe-Gov法令検索、2026年9月参照)。特許法第2条第3項・第4項は要旨。
2. 「物品の形状、構造又は組合せ」の限定はどこに書かれているか
この限定は、実用新案法の中で3つの場所に現れます。
| 条文 | 文言(原文) | 役割 |
|---|---|---|
| 実用新案法第1条 | 「物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図る」 | 法律全体の目的として保護対象を限定 |
| 実用新案法第3条第1項柱書 | 「産業上利用することができる考案であつて物品の形状、構造又は組合せに係るものをした者は」 | 登録要件として保護対象を限定 |
| 実用新案法第2条第3項 | 「考案に係る物品を製造し、使用し、……」 | 実施の定義が物品を前提にしている |
〔表4〕「物品の形状、構造又は組合せ」の限定が現れる条文(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。
逐条解説は、第3条第1項柱書について、実用新案登録の対象は「産業上利用できる考案」のうち物品の形状・構造・組合せに係るものに限られ、旧法が「型」を中心としていたのに対し、現行法は「考案」という技術的思想を中心に置きつつ、その表現形態を物品の形状・構造・組合せに限定する構成になっている、と説明しています。
3. 保護対象違反(審査基準 第X部第1章 2.1)
実用新案登録出願は、新規性・進歩性などの実体審査を受けずに登録されますが(無審査登録)、特許庁は登録前に「基礎的要件」を審査します。その第一が保護対象違反、つまり請求項に係る考案が「物品の形状、構造又は組合せ」に係るものでないかどうかです。
| 審査基準 第X部第1章 2.1 が挙げる保護対象外の例 | 理由(要旨) |
|---|---|
| 方法のカテゴリーである考案 | 物品ではない |
| 組成物の考案 | 形状・構造・組合せに係るものではない |
| 化学物質の考案 | 同上(逐条解説も「構造」に化学構造は含まないと説明) |
| コンピュータプログラム自体 | 物品ではない |
| 一定形状を有さない物体 | 「物品」は空間的に一定の形を保有したものであることが前提 |
| 動物品種・植物品種 | 物品の形状等に係る考案ではない |
〔表5〕保護対象違反の例(審査基準 第X部第1章 2.1、知的財産権制度入門テキスト2025 第2節を要約。2026年9月参照)。
flowchart TD
A["実用新案登録出願"] --> B["方式審査・基礎的要件審査(実用新案法第6条の2)"]
B --> C{"考案が物品の形状・構造・組合せに係るか"}
C -->|はい| D["○ 設定登録(無審査登録)"]
C -->|いいえ| E["保護対象違反 → 補正命令(第6条の2第1号)"]
E -->|指定期間内の補正で不備を解消| D
E -->|補正しない| F["× 手続の却下(第2条の3)"]
style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style E fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F
style F fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
図は左右にスクロールできます。
○ 設定登録(主経路の終端)
× 却下(例外処理の終端)
例外処理(補正命令)
はい↓/いいえ→分岐の向きは図全体で統一
【図4】基礎的要件審査の中での保護対象違反の位置づけ(審査基準 第X部第1章「3. 基礎的要件違反の場合の取扱い」、実用新案法第6条の2・第2条の3による。2026年9月時点)。主経路を左、例外処理を右に置いた。※説明の都合上、保護対象違反以外の基礎的要件(第6条の2第2号以下)は省略した。
条文上も、保護対象違反は補正命令の対象として明記されています。
特許庁長官は、実用新案登録出願が次の各号の一に該当するときは、相当の期間を指定して、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面について補正をすべきことを命ずることができる。
一 その実用新案登録出願に係る考案が物品の形状、構造又は組合せに係るものでないとき。
指定した期間内に補正をしないときは、特許庁長官はその手続を却下することができます(実用新案法第2条の3)。
4. 「高度」の有無は登録要件にどうつながるか
「考案」に「高度」の限定がないことは、定義(第2条)の話です。これと対になっているのが、登録要件(第3条第2項)の進歩性が「きわめて容易」という文言になっていることです。逐条解説は、実用新案法が特許法より程度の低い創作でも保護する制度設計になっていると説明しています。第3条の内容は次の記事で扱います。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「方法の考案について実用新案登録を受けることができる」といった、保護対象の可否を問う枝。「考案」の定義と「発明」の定義の異同 | 方法・物質・プログラムそのものは対象外。「高度」の限定は考案にない |
| 論文式 | 実用新案登録出願と特許出願の選択、出願の変更(特許法第46条、実用新案法第10条)の場面で、保護対象の違いを前提知識として使う | 方法の発明を実用新案登録出願に変更できない理由を、第1条・第3条第1項柱書の文言で説明できるように |
| 口述 | 「考案とは何か」「発明との違いは」「実用新案の保護対象は」といった定義の即答 | 条文の文言どおりに答える(「物品の形状、構造又は組合せ」) |
〔表6〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
令和8年度短答式の特許・実用新案の問5は出願・登録、問6は実用新案権の問題です。この2問は、第1条・第2条の定義を直接問うものではありません。関連する問5(ハ)は変更出願後の技術評価請求、問6の3は技術評価書と刑事罰の関係を扱います。公式正答は問5が4、問6が3です。 令和8年度問題 公式解答
- 実用新案法第2条第1項の「考案」と特許法第2条第1項の「発明」の差は「のうち高度のもの」の有無のみ。共通部分(自然法則の利用・技術的思想・創作)は同じ。
- 保護対象の限定「物品の形状、構造又は組合せ」は、第1条(目的)・第3条第1項柱書(登録要件)・第2条第3項(実施の定義)に現れる。
- 方法・組成物・化学物質・プログラム自体・一定形状のない物体・動植物品種は保護対象外(審査基準 第X部第1章 2.1)。保護対象違反は無審査登録の前に「基礎的要件」として審査される。
- 「高度」の限定がないことは、第3条第2項の「きわめて容易」と対応する制度設計(逐条解説の説明)。
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