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2026年度弁理士試験・短答第9問を解説|国内優先権とパリ優先権

2026年度 短答 特許法 第9問 国内優先権とパリ優先権

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目次

【問題文】

出典:特許庁「令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験問題」特許・実用新案第9問(PDF11〜12頁)。赤字は判断に関わる箇所を示す編集上の強調です。原文の改行・字間を整理しています。

優先権に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものの組合せは、どれか。

ただし、特に文中に示した場合を除いて、特許出願は、外国語書面出願、国際出願に係る特許出願、特許出願の分割に係る新たな特許出願、出願の変更に係る特許出願又は実用新案登録に基づく特許出願ではなく、取下げ、放棄又は却下されておらず、査定又は審決が確定しておらず、いかなる補正もされておらず、いかなる優先権の主張も伴わないものとし、文中に記載した優先権の主張は取り下げられておらず、優先権の主張の手続に方式上の不備もないものとする。

また、以下において、「国内優先権」とは、特許法第41条第1項に規定する優先権をいい、「パリ優先権」とは、パリ条約第4条に規定する優先権をいうものとする。

(イ)甲は、考案イが記載された実用新案登録出願Uをし、1月後に設定登録されて実用新案登録を受けた(以下、その登録を「実用新案登録Y」という。)。甲は、設定登録の日から5月後に実用新案登録Yに基づいて発明イが記載された特許出願Aを適式にした。甲が、当該特許出願Aの出願の日から5月以内に発明イが記載された特許出願Bをする場合、当該特許出願Bに係る発明イについて、先の特許出願Aに係る発明イに基づいて国内優先権を主張することができる。

(ロ)甲は、発明イ及びロが記載された特許出願Aをした。その後、特許請求の範囲、明細書、及び図面から発明ロに係る事項を削除する補正をした。その後、甲が請求項1に発明ロ、請求項2に発明ハが記載された特許出願Bをする場合、当該特許出願Aの出願の日から1年以内であれば、当該特許出願Bに係る発明ロについて、当該特許出願Aに係る発明ロに基づいて国内優先権を主張することができる。

(ハ)パリ条約の同盟国の国民である甲は、2025年1月1日に同盟国Xで発明イが記載された特許出願Aをした。甲は、2025年8月1日にパリ優先権を主張して日本国で発明イ及びロが記載された特許出願Bをした。その後、甲は、2025年12月1日に当該特許出願Bに係る発明イに基づいて、国内優先権を主張して、発明イ及びハが記載された特許出願Cをした。この場合、当該特許出願Cに係る発明イについての特許法第29条の規定の適用については、特許出願Cは、2025年1月1日に出願されたものとみなす。

(ニ)甲は、特許出願Aに記載された発明に基づいて、国内優先権の主張を伴う特許出願Bをした。その後、当該特許出願Aは、拒絶をすべき旨の査定がされたものの、拒絶査定不服審判請求を行い、特許法第162条に規定する審査(いわゆる前置審査)において特許をすべき旨の査定がされた。その査定の謄本は、当該特許出願Aの出願の日から1年4月以内に送達された。この場合、当該特許出願Aの出願の日から1年4月を経過した後でも、特許権の設定の登録がされる場合がある。

(ホ)パリ条約同盟国の国民である甲は、パリ条約同盟国Xにおいて出願された出願Aと出願Bに基づいて、日本国において優先権を主張する特許出願Cをした。この場合、優先権主張書面から、出願Bについての優先権主張の記載を削除する補正をすることができる。

1 (イ)と(ニ)

2 (ロ)と(ホ)

3 (ハ)と(ホ)

4 (イ)と(ハ)

5 (ロ)と(ニ)

問題の公式PDF

【解説】

(イ)実用新案登録に基づく特許出願は、国内優先権の基礎にできない

この肢は誤りです。

特許出願Aは、実用新案登録Yに基づく特許法46条の2第1項の出願です。41条1項2号は、この種類の出願を国内優先権の基礎となる「先の出願」から除外しています。Aをしてから5月以内であっても、期間が短いことによってこの制限はなくなりません。

順序 手続 本問での位置付け
① 実用新案登録出願U 最初の出願
② Uから1月後 実用新案登録Y 設定登録された実用新案
③ 登録から5月後 Yに基づく特許出願A 46条の2第1項の出願。国内優先権の基礎にできない
④ Aの出願から5月以内 特許出願B Aに基づく国内優先権は主張できない

ここでは「いつ出願したか」の計算より先に、何を基礎に優先権を主張しているかを確かめます。Aが通常の特許出願であるかのように、1年以内という条件だけを当てはめると誤ります。

青本は、分割出願・変更出願・実用新案登録に基づく特許出願を基礎にできない理由を、これらの出願の要件までさかのぼって調べることによる審査や第三者の調査の負担に求めています。

根拠:特許法41条1項2号、46条の2第1項。青本第22版・印刷170頁(PDF242頁)。

(ロ)補正で削除しても、出願当初の記載は基礎になる

この肢は正しいです。

41条1項が基準とするのは、先の出願の願書に最初に添付した明細書・特許請求の範囲・図面に記載された発明です。後の出願をする時点で、補正後の書類に残っている発明だけを基礎にするのではありません。

発明ロは、Aの出願当初に記載されています。その後に削除したとしても、その当初記載に基づいてBの発明ロについて国内優先権を主張できます。本問ではAから1年以内であり、前提条件から、Aの取下げや査定確定などの別の障害もありません。

見る書類・発明 発明ロの記載 国内優先権の判断
Aの出願当初の明細書等 ある ここを基準にする
Aの補正後の明細書等 削除済み 削除だけで基礎にできなくなるわけではない
Bの請求項1 発明ロ Aの当初記載に基づく優先権を主張できる
Bの請求項2 発明ハ Aに記載がないため、同じ効果を一括して認めることはできない

国内優先権の効果は、後の出願全体に一律に及ぶものではありません。先の出願に記載されていた発明について認められます。発明ハが加わったことと、発明ロが優先権の利益を受けられることは、分けて判断します。

根拠:特許法41条1項柱書・1号、2項。青本第22版・印刷168、171〜172頁(PDF240、243〜244頁)。

(ハ)優先権の効果は、AからB、BからCへ自動では引き継がれない

この肢は誤りです。

Bは、外国出願Aに基づくパリ優先権を伴います。さらにCがBに基づく国内優先権を主張しても、Aに記載されていた発明イについて、優先権の効果を重ねて認めることはできません。41条2項の括弧書による、いわゆる累積的な優先権の効果の制限です。

日付 出願 記載された発明・優先権
2025年1月1日 外国出願A イ
2025年8月1日 日本出願B イ・ロ。Aに基づくパリ優先権
2025年12月1日 日本出願C イ・ハ。Bに基づく国内優先権

発明イは、Bで初めて加わった発明ではなく、すでにAに記載されていた発明です。そのため、Cの発明イにはBを基礎とする国内優先権の効果が認められず、本問の29条の判断時点はCの出願日である2025年12月1日です。1月1日まで戻るのでも、8月1日まで戻るのでもありません。

青本は、優先権の効果を繰り返し認めると、実質的に1年の優先期間を延ばせてしまうため、この制限を設けたと説明しています。Bで新たに加わった事項についての効果とは区別します。

なお、C自身がAを基礎としてパリ優先権を主張する場面は別です。本問のCが主張しているのは、Bを基礎とする国内優先権だけです。AからCまで1年以内であるという日付関係だけで、CにAの優先日を与えることはできません。

根拠:特許法41条2項括弧書。青本第22版・印刷172頁(PDF244頁)。

(ニ)前置審査の特許査定が確定すれば、先の出願はみなし取下げにならない

この肢は正しいです。

国内優先権の基礎となった先の出願は、原則として、その出願日から1年4月が経過すると取り下げられたものとみなされます。しかし42条1項ただし書は、査定又は審決が確定している場合を除いています。

本問の特許査定は、拒絶査定不服審判の請求後の前置審査でされたものです。特許査定は、その謄本が送達された時に確定します。本問の前置審査での特許査定についても、この確定時期を押さえて42条1項ただし書を当てはめます。

時点 Aについて起きたこと 判断
Aの出願後 Aを基礎とする国内優先権付きのBを出願 この時点ではAが基礎出願
その後 Aに拒絶査定、不服審判請求、前置審査 後の特許査定の確定時期に注意
Aから1年4月以内 前置審査の特許査定謄本が送達 送達により特許査定が確定
Aから1年4月経過時 すでに査定が確定 42条1項ただし書により、みなし取下げの対象外

したがって、特許料の納付など設定登録に必要な手続を満たせば、1年4月を経過した後にAについて設定登録される場合があります。「1年4月以内に登録まで済んでいること」が本肢の条件ではありません。

また、Bを出願した後にAの査定が確定したという順序も大切です。Bの出願時にすでにAの査定が確定していたなら、41条1項4号によって、そもそもAを基礎とする国内優先権を主張できません。

根拠:特許法41条1項4号、42条1項ただし書、163条3項、164条1項、特許法施行規則28条の4第2項。審査ハンドブック1211「特許査定の謄本の送達及び特許査定の確定」。青本第22版・印刷175〜176頁(PDF247〜248頁)。

(ホ)適式なパリ優先権の主張を、補正で一つだけ削除することはできない

この肢は誤りです。

17条の4による優先権主張書面の補正は、記載の誤りを正すための手続です。方式上の不備がない優先権の主張を、後から不要になったという理由で削除するための手続ではありません。

本問の前提には「優先権の主張の手続に方式上の不備もない」とあります。したがって、AとBに基づく適式なパリ優先権のうち、Bだけの記載を削除する補正は認められません。

行おうとすること 本問での整理
優先権主張書面の誤記を正す 補正の対象になり得る。所定期間などの要件が必要
適式なパリ優先権の主張からBの記載だけを削除する 方式上の不備の訂正ではなく、認められない
国内優先権の主張を取り下げる 42条2項に関する別の手続。本問のパリ優先権と混同しない

青本も、優先権主張書面の補正と、優先権の主張の追加・取下げとは別の手続であると説明しています。「書面は補正できる」という規定だけを見て、主張内容を自由に削除できると考えないようにします。

根拠:特許法17条の4、方式審査便覧28.12「特許法第17条の4又は実用新案法第2条の2第1項の規定に基づく優先権主張書の補正の取扱い」(令和4年10月改訂)。青本第22版・印刷59〜60頁(PDF131〜132頁)。

【解答】

正答は5(ロとニ)です。

肢 正誤 判断のポイント
イ 誤り 実用新案登録に基づく特許出願Aは、国内優先権の基礎にできない
ロ 正しい 補正後の書類ではなく、Aの出願当初の記載を見る
ハ 誤り A→B→Cと優先権の効果を重ねられない。イの判断時点はCの出願日
ニ 正しい 前置審査の特許査定は謄本送達時に確定し、みなし取下げの例外となる
ホ 誤り 方式上の不備のないパリ優先権を一部削除する補正はできない

特許庁の公式正答の保存資料にある「特許・実用新案 第9問=5」と照合しています。

参照:特許法、特許法施行規則、工業所有権法逐条解説〔第22版〕、審査ハンドブック、方式審査便覧。資料照合日:2026年9月20日。青本は刊行時の解説として参照し、法令は試験日時点と2026年9月19日時点の保存条文を比較しています。

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