小学生でも分かる実用新案法 / C. 実用新案権の効力・実施権・侵害 #17
実用新案権をもつ人は、登録された考案を「業として」ひとりじめして使うことができます(第16条)。ただし、自分の考案が「先に出願された他人の登録実用新案・特許発明・登録意匠」を利用していたり、他人の意匠権・商標権とぶつかっていたりするときは、権利があっても自分で勝手に実施できません(第17条)。特許法第68条・第72条とほぼ同じつくりで、「特許発明」が「登録実用新案」に置きかわっています。
レベル2条文の骨格 ― 第16条(効力)・第17条(利用・抵触)・第2条第3項(実施とは)
レベル3要件・例外・試験での問われ方 ― 特許法第68条・第72条との対比、第26条準用との切り分け
LEVEL 1イメージでつかむ
実用新案権は「そのアイデアをひとりじめして商売できる権利」
たとえば、あなたが「消しゴムのカスがちらばらない、ふたつきの筆箱」という新しい形を考えて、実用新案として登録してもらったとします。すると、あなたはその筆箱を「仕事として」作ったり売ったりすることを、ひとりじめできるようになります。ほかの人が勝手に同じ筆箱を作って売ることは、原則としてできません(例外あり)。これが第16条の「実用新案権の効力(こうりょく)=権利の力」です。
「実施(じっし)」というのは、法律の言葉で「作る・使う・売る・貸す・輸出する・輸入する・売りますと申し出る」などをまとめた言い方です(第2条第3項)。「業として」というのは、家で自分ひとりで作って遊ぶのではなく、「仕事として」やることだと思ってください。
図は左右にスクロールできます。
実用新案権者(権利をもつ人)
専有(ひとりじめ)の向き
【図1】第16条のイメージ。実用新案権者は、登録実用新案の「実施」(第2条第3項に並ぶ行為)を業として行うことをひとりじめ(専有)する。※「専有(せんゆう)」=ひとりじめ。他人は原則としてできない(例外あり)。※説明の都合上、第16条ただし書(専用実施権を設定したとき)はこの図では省略した。
でも「先にいた人」のアイデアを使っているときは……
ここで、少しややこしい話です。あなたの「ふたつき筆箱」は、実は友だちのAさんがあなたより先に出願して登録していた「消しゴムのカスをためるポケットつき筆箱」に、ふたをつけただけだったとします。あなたの筆箱には、Aさんのアイデアがまるごと入っています。
こういうとき、あなたは実用新案権をもらえたとしても、Aさんの許しなしに、自分の筆箱を仕事として作ったり売ったりすることはできません。なぜなら、あなたの筆箱を作ると、同時にAさんのアイデアも使ってしまうからです。これが第17条の「利用(りよう)」の話です。「先に出願した人が優先」というルールが、権利をもらったあとにも続いているのです。
デザイン(意匠)や商品のマーク(商標)の権利と「ぶつかる(抵触=ていしょく)」ときも同じで、先に出願した人のほうが優先されます。
図は左右にスクロールできます。
Aさん(先に出願した人)の登録実用新案
Bさん(あとから出願した人)が加えた部分
「利用」の関係
【図2】第17条「利用」のイメージ(相関図)。後願のBさんの登録実用新案の中に、先願のAさんの登録実用新案がまるごと含まれている状態。Bさんは自分の権利があっても、Aさんの登録実用新案を使わずには実施できない。※Bさんは権利をもっていても、Aさんの許しなしに「業として」実施できない(第17条)。
- 実用新案権をもつ人は、登録された考案を「仕事として」作る・使う・売るなどをひとりじめできる(第16条)。
- ただし、自分の考案が先に出願された他人の登録実用新案・特許発明・登録意匠などを利用しているとき、または他人の意匠権・商標権とぶつかるときは、自分の権利があっても勝手に実施できない(第17条)。
- 「先に出願した人が優先」というルールが、権利をもらったあとにも続いている。
※「専用実施権を設定したとき」の例外や、「利用」「抵触」の正確な意味、権利の力がおよばない場合(第26条で準用する特許法第69条など)があります。正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第16条:実用新案権の効力
実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有する。ただし、その実用新案権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録実用新案の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
| 部分 | 内容 | 読み方のポイント |
|---|---|---|
| 本文 | 実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有する | 「業として」「登録実用新案」「実施」「専有」の4語がキーワード。「専有」は独占的に行えること。 |
| ただし書 | 専用実施権を設定したときは、専用実施権者が専有する範囲については、実用新案権者は専有しない | 専用実施権(第18条)を設定した範囲では、実用新案権者自身も実施できなくなる。 |
〔表1〕第16条の構造(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。ただし書に出てくる「専用実施権」の内容は第18条の記事で扱う。
「実施」とは何か:第2条第3項
この法律で考案について「実施」とは、考案に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸出し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為をいう。
| 行為 | 身近な言いかえ | 備考 |
|---|---|---|
| 製造 | 作る | 実用新案法の対象は「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(第1条・第3条第1項)なので、実施の類型は物に関する行為だけ。特許法第2条第3項のような「方法の発明」「物を生産する方法の発明」の実施類型はない。 |
| 使用 | 使う | |
| 譲渡 | 売る・あげる | |
| 貸渡し | 貸す | |
| 輸出 | 外国へ出す | |
| 輸入 | 外国から入れる | |
| 譲渡・貸渡しの申出 | 「売ります」「貸します」と申し出る(売るための展示を含む) |
〔表2〕第2条第3項に並ぶ「実施」の行為(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。
第17条:他人の登録実用新案等との関係(利用・抵触)
実用新案権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録実用新案がその実用新案登録出願の日前の出願に係る他人の登録実用新案、特許発明若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその実用新案権がその実用新案登録出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその登録実用新案の実施をすることができない。
| 要素 | 条文の内容 |
|---|---|
| 誰が制限されるか | 実用新案権者、専用実施権者、通常実施権者 |
| 相手方の権利の時期 | 「その実用新案登録出願の日前の出願に係る」他人の権利=先願の他人の権利 |
| 「利用」の対象 | 他人の登録実用新案、特許発明、登録意匠、登録意匠に類似する意匠 |
| 「抵触」の対象 | 他人の意匠権、商標権 |
| 効果 | 業としてその登録実用新案の実施をすることができない |
〔表3〕第17条の要素分解(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。「利用」の対象と「抵触」の対象が異なる点に注意。
flowchart TD
A["自分の登録実用新案を業として実施したい"] --> B{"実用新案登録出願の日前の出願に係る他人の権利があるか"}
B -- "はい" --> C1{"その登録実用新案が、他人の登録実用新案・特許発明・登録意匠・これに類似する意匠を利用するものか"}
B -- "いいえ" --> OK1["○ 第17条の制限なし
第16条どおり専有"]
C1 -- "はい" --> NG1["× 業としてその登録実用新案の実施をすることができない
第17条(利用)"]
C1 -- "いいえ" --> C2{"その実用新案権が、他人の意匠権・商標権と抵触するか"}
C2 -- "はい" --> NG2["× 業としてその登録実用新案の実施をすることができない
第17条(抵触)"]
C2 -- "いいえ" --> OK2["○ 第17条の制限なし
第16条どおり専有"]
style OK1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style NG1 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
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図は左右にスクロールできます。
○ 業として実施できる
× 業として実施できない
判断の流れ(「はい」は下、「いいえ」は右)
【図3】第17条の適用の分岐図。「先願の他人の権利」であることが前提。※説明の都合上、実施権の許諾を受けた場合や裁定(第22条)による解決は省略した(→〔表6〕)。
図は左右にスクロールできます。
「利用」の対象(もの)=①②③
「抵触」の対象(権利)=④⑤
自分の側と条文上の効果
①矢印の番号(説明用。条文に並ぶ順)
【図4】第17条の相関図(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。入口となる5つの対象を左にそろえ、集約点(自分の登録実用新案の実施)を中央に置いた。「利用」の対象はもの(登録実用新案・特許発明・登録意匠・これに類似する意匠)、「抵触」の対象は権利(意匠権・商標権)で、条文上の対象が異なる(→〔表6〕)。※説明の都合上、許諾や裁定による解決は省略した。
- 第16条:実用新案権者は「業として登録実用新案の実施をする権利を専有」する。専用実施権を設定した範囲は除く。
- 第2条第3項:「実施」は物品の製造・使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡等の申出。物に関する行為だけ。
- 第17条:先願の他人の登録実用新案・特許発明・登録意匠(類似意匠を含む)を利用するとき、または先願の他人の意匠権・商標権と抵触するときは、業として実施できない。制限される人は実用新案権者・専用実施権者・通常実施権者。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 特許法第68条・第72条との対比
実用新案法第16条・第17条は、特許法第68条・第72条とほぼ同じ文言です。違いは「特許発明」が「登録実用新案」に、「特許出願」が「実用新案登録出願」に置きかわっている点にほぼ尽きます。特許法側の説明は「特許法第68条」「特許法第72条」の記事に譲り、ここでは置きかえ箇所と実用新案法ならではの周辺の違いだけを整理します。
| 項目 | 特許法第68条 | 実用新案法第16条 |
|---|---|---|
| 権利者 | 特許権者 | 実用新案権者 |
| 専有する行為 | 業として特許発明の実施 | 業として登録実用新案の実施 |
| ただし書 | 専用実施権者が専有する範囲は除く | 同じ(専用実施権者が専有する範囲は除く) |
| 「実施」の中身 | 特許法第2条第3項(物・方法・物を生産する方法の3類型) | 実用新案法第2条第3項(物品に関する行為のみ) |
| 権利行使の前提 | 審査を経て登録(特許法第49条・第51条等) | 無審査で登録。権利行使には実用新案技術評価書の提示・警告が必要(第29条の2。別記事) |
〔表4〕特許法第68条と実用新案法第16条の対比(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。
| 項目 | 特許法第72条 | 実用新案法第17条 |
|---|---|---|
| 制限される者 | 特許権者、専用実施権者、通常実施権者 | 実用新案権者、専用実施権者、通常実施権者 |
| 基準となる日 | 「その特許出願の日前の出願」 | 「その実用新案登録出願の日前の出願」 |
| 利用の対象 | 他人の特許発明、登録実用新案、登録意匠、これに類似する意匠 | 他人の登録実用新案、特許発明、登録意匠、これに類似する意匠(並び順が違うだけで対象は同じ) |
| 抵触の対象 | 他人の意匠権、商標権 | 他人の意匠権、商標権 |
| 効果 | 業として特許発明の実施ができない | 業として登録実用新案の実施ができない |
〔表5〕特許法第72条と実用新案法第17条の対比(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。両条とも「特許権・実用新案権との抵触」は書かれていない点も共通。
2. 「利用」と「抵触」の整理
| 利用 | 抵触 | |
|---|---|---|
| 条文上の対象 | 登録実用新案、特許発明、登録意匠、登録意匠に類似する意匠(=「もの」としての考案・発明・意匠) | 意匠権、商標権(=「権利」) |
| 条文上の効果 | いずれも「業としてその登録実用新案の実施をすることができない」 | |
| 解決手段(条文上) | 先願権利者の許諾(実施権の設定・許諾)を受ける、または裁定による通常実施権(第22条:特許法第92条に相当する裁定の規定)。商標権との抵触は第22条の裁定対象外。裁定の細目は第22条の記事に譲る | |
〔表6〕第17条における「利用」と「抵触」の対象の違い。「利用」「抵触」の意味そのものは条文に定義がなく、解釈に委ねられている。
3. この記事で扱わないもの:第26条で準用される特許法第69条・第70条など
実用新案権の「効力」を考えるときには、第16条・第17条のほかに、第26条で準用される特許法の規定もセットになります。とくに、効力が及ばない範囲(特許法第69条第1項・第2項)と、登録実用新案の技術的範囲の決め方(特許法第70条〜第71条の2)は、効力の「外側の線引き」を決める重要な規定です。
特許法第六十九条第一項及び第二項、第七十条から第七十一条の二まで(特許権の効力が及ばない範囲及び特許発明の技術的範囲)、第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第七十九条(先使用による通常実施権)、第七十九条の二(特許権の移転の登録前の実施による通常実施権)、第八十一条、第八十二条(意匠権の存続期間満了後の通常実施権)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、実用新案権に準用する。
| 論点 | 実用新案法の根拠 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 実用新案権の効力(専有) | 第16条 | 本記事で扱う |
| 実施の定義 | 第2条第3項 | 本記事で扱う |
| 先願の他人の権利との利用・抵触 | 第17条 | 本記事で扱う |
| 効力が及ばない範囲(試験・研究、通過中の船舶等、出願時から存在する物) | 第26条で準用する特許法第69条第1項・第2項 | 「実用新案法第26条」の記事に譲る |
| 登録実用新案の技術的範囲・判定・鑑定 | 第26条で準用する特許法第70条〜第71条の2 | 「実用新案法第26条」の記事に譲る |
| 専用実施権・通常実施権 | 第18条・第19条 | それぞれの記事に譲る |
| 権利行使の前提(技術評価書の提示・警告) | 第29条の2 | 「実用新案法第29条の2」の記事に譲る |
〔表7〕実用新案権の効力にかかわる規定の分担表。第26条による準用のうち、特許法第69条第3項(医薬の調剤)は準用されていない点は第26条の記事で扱う。
4. 制限される主体に「通常実施権者」が含まれる意味
第17条は、実用新案権者だけでなく専用実施権者・通常実施権者も名宛人にしています。実用新案権者から実施の許諾を受けた人でも、その登録実用新案が先願の他人の権利を利用・抵触するものであれば、先願権利者との関係では業として実施できないことになります。これは特許法第72条と同じ構造です。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向(作成者の整理) | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「実用新案権者は業として登録実用新案の実施をする権利を専有する」を前提に、専用実施権設定後の権利者自身の実施の可否、第17条の「利用」「抵触」の対象の正誤(例:「特許権と抵触するとき」という誤った肢) | 「利用」の対象は登録実用新案・特許発明・登録意匠・類似意匠、「抵触」の対象は意匠権・商標権。特許権・実用新案権との「抵触」は条文にない。 |
| 論文式 | 後願の実用新案権者が先願の特許権者・実用新案権者との関係でどう実施できるか(利用関係)、裁定制度との接続 | 「先願の出願に係る」という時間的要件を落とさない。特許法第72条との違いは主に文言の置きかえであることを踏まえて簡潔に。 |
| 口述 | 第2条第3項の実施類型を列挙させる、特許法との違い(方法の実施類型がない)を答えさせる | 「譲渡等の申出」に「譲渡又は貸渡しのための展示を含む」まで言えるか。 |
〔表8〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 第16条=特許法第68条、第17条=特許法第72条の「実用新案版」。文言上の違いは「登録実用新案」「実用新案登録出願」への置きかえ。
- 実用新案法の「実施」(第2条第3項)は物品に関する行為のみで、方法の実施類型はない。
- 第17条の「利用」の対象は登録実用新案・特許発明・登録意匠・類似意匠、「抵触」の対象は意匠権・商標権。制限される者は実用新案権者・専用実施権者・通常実施権者。
- 効力の及ばない範囲(特許法第69条第1項・第2項)と技術的範囲(特許法第70条〜第71条の2)は第26条による準用であり、第26条の記事で扱う。
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