小学生でも分かる特許法 / A. 特許要件・発明 #11
特許を受ける権利を複数人で共有しているときは、出願も全員でしなければなりません。条文は1文だけですが、共有をめぐる他の規定(第33条、第73条、第132条第3項、第74条)とセットで理解すると、試験で問われるポイントがはっきりします。
LEVEL 1イメージでつかむ
3人で作った発明
A・B・Cの3人が協力して1つの発明をしました。特許を受ける権利は3人の共有です。ここでAが、BとCに黙って、自分1人の名前で特許庁に出願したらどうなるでしょう。
3人で作った作品を、1人が勝手に自分の名前でコンクールに応募するようなものです。これは認められません。特許法は「共有なら、全員で出願しなさい」と決めています。
【図1】共同出願のイメージ。共有者全員が出願人にならなければならない。
なぜ全員なの?
特許は、その発明を独占できる強い権利です。Aだけの名前で特許になってしまうと、BとCは自分たちの発明なのに特許権者になれず、Aに使わせてもらう立場になってしまいます。それでは不公平です。だから、出願の段階から全員の名前を出すことにしています。
- 特許を受ける権利を共有しているときは、共有者全員で出願しなければならない。
- 1人で勝手に出願すると拒絶される。
※違反した出願が特許になってしまった場合の扱い、出願後の手続で単独でできること、などは正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
条文を読む
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。
| 部品 | 意味 |
|---|---|
| 特許を受ける権利が共有に係るとき | 共同発明の場合、または権利の一部(持分)が譲渡された場合など |
| 各共有者は | 共有者の一人ひとりに向けた義務 |
| 他の共有者と共同でなければ | 共有者全員が出願人となること |
| 特許出願をすることができない | 違反すると拒絶理由(第49条第2号)・無効理由(第123条第1項第2号) |
〔表1〕第38条の分解。
共有をめぐる規定の相関図
flowchart TB S["特許を受ける権利の共有"] --> A["第33条第3項
持分の譲渡には他の共有者の同意"] S --> B["第33条第4項
仮専用実施権の設定・仮通常実施権の許諾には同意"] S --> C["第38条
出願は全員で"] C --> D["第14条
出願後の手続は、原則として各人が全員を代表
(例外:出願の取下げ・放棄、審判請求など不利益行為は全員で)"] C --> E["第132条第3項
審判の請求は全員で"] S -. "特許になると" .-> F["第73条 特許権の共有
持分譲渡・実施権設定に同意、自己実施は自由"] style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
【図2】共有に関する規定の相関図。第38条は「出願」の場面、第14条は「出願後の手続」の場面。
- 第38条:特許を受ける権利が共有なら、出願は共有者全員で。違反は拒絶理由・無効理由。
- 第33条(持分譲渡・仮実施権に同意)、第14条(出願後の手続の代表)、第132条第3項(審判請求は全員)、第73条(特許権の共有)とセットで覚える。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 違反の効果と救済
flowchart TB A["共有者の一部だけで出願(第38条違反)"] --> B["審査段階:拒絶理由(第49条第2号)"] A --> C["登録後:無効理由(第123条第1項第2号)
請求人は特許を受ける権利を有する者に限る(第123条第2項)"] A --> D["登録後:出願人になれなかった共有者は、
自己の持分について特許権の移転を請求できる(第74条)"] B --> B1["権利帰属を整え、対応する出願人名義の手続を行う"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
【図3】第38条違反への対処。平成23年改正で第74条(移転請求)が導入され、無効にするだけでなく持分を取り戻せるようになった。
2. 共有者が単独でできること・できないこと
| 場面 | 単独でできるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 特許出願 | できない | 第38条 |
| 持分の譲渡 | 同意が必要 | 第33条第3項 |
| 仮専用実施権の設定・仮通常実施権の許諾 | 同意が必要 | 第33条第4項 |
| 出願後の一般の手続(補正、意見書など) | できる(各人が全員を代表) | 第14条本文 |
| 出願の取下げ・放棄、出願の変更 | 全員で | 第14条本文の相互代表からの除外 |
| 拒絶査定不服審判の請求 | 全員で | 第132条第3項 |
| 出願審査の請求 | できる(何人も) | 第48条の3第1項 |
| (特許後)自己の実施 | できる(契約で別段の定めがある場合を除く) | 第73条第2項 |
| (特許後)持分譲渡・質権設定・実施権許諾 | 同意が必要 | 第73条第1項・第3項 |
〔表2〕共有者が単独でできること・できないこと。第14条・第73条は条文で確認。
3. 共有になる場面
| 場面 | 説明 |
|---|---|
| 共同発明 | 複数人が実質的に協力して発明を完成させた場合。単なる補助者・管理者・資金提供者は共同発明者にならない(一般的な理解。裁判例で確認) |
| 持分の譲渡 | 発明者が権利の一部を譲渡した場合 |
| 共同研究契約 | 企業間・産学連携で、契約により特許を受ける権利を共有と定めた場合 |
| 相続 | 発明者が死亡し、複数の相続人が承継した場合 |
| 職務発明の共同発明 | 異なる使用者に属する従業者による共同発明で、それぞれの使用者が権利を取得した場合(第35条第3項) |
〔表3〕共有が生じる場面。共同発明者の判断基準は本記事では扱っていない。
4. 冒認出願との関係
第38条違反(共有者の一部による出願)と冒認出願(権利を持たない者の出願。第49条第7号)は別の拒絶理由ですが、どちらも「特許を受ける権利を有する者」以外による出願という点で共通し、無効審判の請求人適格(第123条第2項)や第74条の移転請求の対象になる点も共通しています。
| 第38条違反 | 冒認出願 | |
|---|---|---|
| 出願人 | 共有者の一部(権利は持っている) | 権利を持たない者 |
| 拒絶理由 | 第49条第2号 | 第49条第7号 |
| 無効理由 | 第123条第1項第2号 | 第123条第1項第6号 |
| 無効審判の請求人 | 特許を受ける権利を有する者(第123条第2項) | 同左 |
| 移転請求 | 第74条(持分) | 第74条(全部) |
| 異議申立て理由 | × | × |
〔表4〕第38条違反と冒認出願の比較。第49条第2号・第7号、第123条第1項第2号・第6号及び第2項を照合。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「共有者の一人が単独で出願できるか」「第38条違反は無効理由か、異議申立て理由か」「無効審判を請求できる者」「出願後に共有者の一人が単独でできる手続」「第74条の移転請求」 | 〔表2〕〔表4〕 |
| 論文式 | 共同発明の事例で、出願人の範囲、違反した場合の救済(無効審判・移転請求)を論じさせる | 【図3】 |
| 口述 | 「共同出願の要件は」「違反した場合の効果は」 | 第38条を原文で |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 第38条違反は拒絶理由・無効理由(異議申立て理由ではない)。無効審判の請求人は特許を受ける権利を有する者に限る。第74条で持分の移転請求ができる。
- 出願は全員、審判請求も全員(第132条第3項)、不利益行為も全員(第14条)。それ以外の出願後の手続は各人が代表。
- 特許権の共有(第73条)では、自己実施は契約の別段の定めがなければ各自ででき、持分譲渡・質権・実施権には同意が必要。
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