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小学生でも分かる特許法|特許法第29条の2 拡大先願 ― まだ公開されていない「先に出された出願」にも負ける

小学生でもわかる特許法:拡大先願(特許法第29条の2)

小学生でも分かる特許法 / A. 特許要件・発明 #4

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出願した時点では世の中に知られていなかった。それでも、自分より先に出されていた他人の出願の中に同じ発明が書いてあれば、特許を受けられない――第29条の2は、新規性(第29条第1項)を「時間の壁」の向こう側まで広げるルールです。

条文:特許法第29条の2審査基準:第III部 第3章「拡大先願」参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

郵便は届くまで中身が見えない

特許庁に出された出願は、すぐには公開されません。出願から1年6か月たってから、みんなに公開されます(出願公開)。つまり、ある発明が「もう誰かに出願されているか」は、しばらくの間、外からは見えないのです。

ここで問題が起きます。AさんがX発明を出願した。そのあと、Aさんの出願が公開される前に、BさんがX発明を出願した。Bさんが出願した時点で、X発明は世の中に知られていません(新規性はある)。でも、Aさんの出願が公開されたら、Bさんの発明は「もうAさんが書いていた発明」と分かってしまいます。

Aさんの出願 X発明を明細書に書いた Bさんの出願 X発明を請求した Aさんの出願が公開 X発明が世の中に見える この間、X発明はまだ「見えていない郵便」の中 → Bさんは第29条の2で特許を受けられない

【図1】「見えていない郵便」のイメージ。Bさんの出願時点でX発明は公開されていないが、後から公開されたAさんの出願に書いてあったので、Bさんは特許を受けられない。

なぜBさんはダメなの?

特許は「新しい発明を世の中に公開してくれたごほうび」です。Bさんの発明は、Aさんの出願が公開されればどうせ世の中に知られるものでした。Bさんが公開しても、世の中に新しいものは何も増えません。だから、ごほうび(特許)はあげない、というわけです。

「請求した部分」だけでなく「書いてあった部分」全部と比べる

ここが第29条の2の大事なところです。Aさんが「特許がほしい」と請求した部分だけでなく、Aさんの出願書類(明細書や図面)に書いてあったこと全部と比べます。だから「拡大」先願と呼ばれます。

レベル1のまとめ
  • 自分より先に出された他人の出願が、後から公開されて、その中に自分の発明が書いてあったら、特許を受けられない。
  • 比べる相手は「請求した部分」だけでなく「出願書類に書いてあったこと全部」。

※「同じ発明者ならOK」「同じ出願人ならOK」という例外があります。正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

条文を読む

特許法第29条の2(原文) 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。

一文を4つのブロックに分ける

条文は長いですが、「本願」「他の出願(先の出願)」「発明者同一の除外」「出願人同一のただし書」の4ブロックに分けると読めます。

ブロック条文の部分意味
A 本願「特許出願に係る発明が」今審査している出願(本願)の請求項に係る発明
B 他の出願「当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に……特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は……実用新案掲載公報の発行がされたものの」本願の日より前に出され、本願の後に公開等された、他人の特許出願・実用新案登録出願
C 比較対象「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(……)に記載された発明又は考案」他の出願の当初明細書等に書かれた発明・考案(請求の範囲に限らない)
D 発明者の除外「(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)」発明者が同じなら、比較対象から外す
E 効果「と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない」同一なら、新規性があっても特許NG
F ただし書「ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない」本願の出願時に出願人が同じなら、適用しない

〔表1〕第29条の2の分解。Bの「日前」「後に公開等」がタイムラインの要件、Cが「拡大」の理由、D・Fが2つの例外。

flowchart TB
  A["本願の請求項に係る発明"] --> Q1{"本願の日前に出された
他の特許出願・実用新案登録出願があるか"} Q1 -- "ない" --> OK0["第29条の2の問題なし"] Q1 -- "ある" --> Q2{"その出願は、本願の後に
出願公開・特許掲載公報の発行・
実用新案掲載公報の発行がされたか"} Q2 -- "されていない" --> OK1["第29条の2の問題なし
(本願前に公開済みなら第29条第1項の問題)"] Q2 -- "された" --> Q3{"本願の発明は、その出願の
当初明細書等に記載された発明・考案と同一か"} Q3 -- "同一でない" --> OK2["第29条の2の問題なし"] Q3 -- "同一" --> Q4{"発明者が同一か"} Q4 -- "同一" --> OK3["適用なし(括弧書き)"] Q4 -- "同一でない" --> Q5{"本願の出願時に
出願人が同一か"} Q5 -- "同一" --> OK4["適用なし(ただし書)"] Q5 -- "同一でない" --> NG["特許を受けられない
(第29条の2)"] style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style OK0 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style OK4 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

【図2】第29条の2の当てはめの分岐図。上から順にチェックして、最後まで「NG側」に進んだときだけ拒絶理由になる。

第29条第1項・第39条との位置関係

flowchart LR
  subgraph K["本願より前に出願されたもの"]
    P1["本願の前に
公開された"] P2["本願の後に
公開された"] P3["同日に出願された"] end P1 --> R1["第29条第1項
新規性(刊行物等)"] P2 --> R2["第29条の2
拡大先願(当初明細書等全体)"] P2 --> R3["第39条
先願(請求の範囲どうし)"] P3 --> R3 style R2 fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F

【図3】3つの条文の守備範囲。本願の前に公開されていれば第29条第1項、本願の後に公開されれば第29条の2。第39条は公開の有無に関係なく「請求の範囲どうし」を比べる。

レベル2のまとめ
  • 要件は「本願の日前の他の出願」+「本願後に公開等」+「当初明細書等に記載された発明と同一」。
  • 例外は2つ。発明者が同一(括弧書き)、本願の出願時に出願人が同一(ただし書)。
  • 第29条第1項は「本願前に公開」、第29条の2は「本願後に公開」、第39条は「請求の範囲どうし」。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 趣旨 ― なぜ「拡大」するのか

審査基準 第III部 第3章 1. は、趣旨を次のように説明しています(要旨)。後願が先願の出願公開等より前に出願されていても、後願の発明が先願の当初明細書等に記載された発明と同一なら、後願の公開は新しい技術を何も公開していない。「新しい発明の公開の代償として発明を保護する」という特許制度の趣旨からみて、そのような後願に特許を与えるのは適当でない。そして、第39条と異なり、比較対象が特許請求の範囲に限らず当初明細書等全体に及ぶことから「拡大先願」と呼ばれます。

2. 要件のチェックリスト

#要件条文上の根拠ポイント
①他の出願が「特許出願」または「実用新案登録出願」であること「他の特許出願又は実用新案登録出願」意匠登録出願・商標登録出願は対象外
②他の出願が本願の日前に出願されたこと「当該特許出願の日前の」日単位。同日出願は第29条の2の対象外(第39条第2項の世界)
③他の出願が本願の後に出願公開・特許掲載公報の発行・実用新案掲載公報の発行がされたこと「当該特許出願後に……発行若しくは出願公開又は……発行がされたもの」本願前に公開等されていれば第29条第1項の問題になる。公開等がされないまま取り下げ等された出願は要件を満たさない
④本願の発明が、他の出願の当初明細書等に記載された発明・考案と同一であること「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面……に記載された発明又は考案……と同一」「最初に添付した」が基準。後の補正で削除されても影響しない(審査基準 第III部 第3章)
⑤発明者が同一でないこと括弧書き発明者全員が完全に一致する場合に「同一」(審査基準 3.1.1)
⑥本願の出願時に出願人が同一でないことただし書判断時点は本願の出願時。出願人全員が完全に一致する場合に「同一」(審査基準 3.1.2)

〔表2〕第29条の2の要件チェックリスト。①〜④が適用要件、⑤⑥が適用除外。

3. 「同一」の判断 ― 実質同一を含む

審査基準 第III部 第3章 3.2 は、本願の発明と他の出願の当初明細書等に記載された発明との対比・判断を、新規性・進歩性の審査の手法に準じて行うとし、次の場合に「同一」とします(要旨)。

場合内容
(i) 相違点がないそのまま同一
(ii) 相違点があっても実質同一相違点が「課題解決のための具体化手段における微差」(周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものでないもの)である場合

〔表3〕同一性の判断(審査基準 第III部 第3章 3.2 の要旨)。新規性の判断(第29条第1項)では「実質同一」の概念は使わない点が違い。

根拠と補足:実質同一に含まれるのは、課題解決の具体化手段の微差であり、周知・慣用技術の付加・削除・転換等で新たな効果を生まないものです。他の出願に明示された事項だけでなく、その記載と出願時の技術常識から当業者が導ける「記載されているに等しい事項」も認定します。審査基準第III部第3章3.2・4。

4. 発明者同一・出願人同一の判断

発明者の同一(括弧書き)出願人の同一(ただし書)
判断時点条文に時点の指定なし本願の出願時(条文に明記)
「同一」の意味発明者全員が完全に一致(表示上一致、または実質的に判断して完全一致)出願人全員が完全に一致(表示上一致、または改称・一般承継等により実質的に一致)
一部だけ共通同一でない → 適用除外にならない同一でない → 適用除外にならない
審査基準第III部 第3章 3.1.1第III部 第3章 3.1.2

〔表4〕2つの適用除外の比較。出願人の同一は「本願の出願時」で判断する点が短答の頻出ポイント。

5. 3つの条文の比較表

第29条第1項(新規性)第29条の2(拡大先願)第39条(先願)
比べる相手出願前に公然知られた・公然実施された・刊行物記載等の発明先の出願の当初明細書等全体に記載された発明・考案先の出願の特許請求の範囲(請求項)に係る発明
先の出願の公開本願前に公開されていることが前提本願後に公開等されたこと公開の有無は関係なし
時間の単位時・分・秒日日(同日の特許同士は協議。特許・実用新案は原則双方不可)
発明者が同一関係なし適用除外関係なし
出願人が同一関係なし適用除外(本願出願時)関係なし
先の出願が取り下げ等―公開等がされていれば影響なし初めからなかったものとみなす(第39条第5項、例外あり)
実用新案登録出願も相手か―相手になる相手になる(第39条第3項・第4項)

〔表5〕第29条第1項・第29条の2・第39条の比較。第39条の詳細は先願の記事で扱います。

根拠と補足:第39条第5項では、拒絶査定・審決の確定した出願は原則として先願の地位を失います。ただし、同条第2項後段又は第4項により協議が成立せず、又は協議できないため拒絶が確定した場合は除かれます。第39条第5項。第29条第1項の公知時は時・分・秒まで比べます。審査基準第III部第2章第3節3.1。

6. 特殊な出願の扱い

他の出願の種類扱い(要旨)根拠
外国語書面出願比較対象は外国語書面(原文)。翻訳文未提出で取り下げたものとみなされた出願は除く第29条の2括弧書き、審査基準 第III部 第3章 6.1.4
国際特許出願(PCT)「出願公開等」を「国際公開等」と、当初明細書等を国際出願日における明細書等(原文)と読み替える第184条の13、審査基準 第III部 第3章 6.1.4
分割出願・変更出願分割出願・変更出願が「他の出願」となる場合、出願日の遡及は適用されず、現実の出願日で判断する第44条第2項ただし書、第46条第6項(第44条第2項の準用)

〔表6〕特殊な出願が「他の出願」となる場合の扱い。

根拠と補足:国際出願に関する第29条の2の読替えは第184条の13です。国際公開を公開に含め、国際出願日の明細書等を引用の基礎とし、翻訳文未提出による取下げ擬制の外国語出願を除きます。出願変更には第46条第6項から第44条第2項〜第4項が準用されます。第184条の13・第46条第6項。

7. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「出願人が同一かどうかの判断時点」「発明者の一部が共通する場合」「先の出願が公開前に取り下げられた場合」「同日出願」「実用新案登録出願が相手の場合」など、〔表2〕〔表4〕〔表5〕の各項目を入れ替えた正誤問題「日前」(同日は対象外)、「本願の出願時」(出願人同一の判断時点)、「最初に添付した」(補正前の内容が基準)
論文式タイムラインを与えて、第29条第1項・第29条の2・第39条のどれで拒絶されるかを論じさせる【図3】の守備範囲で切り分けてから要件を当てはめる
口述「第29条の2の趣旨は」「第39条との違いは」「当初明細書等全体と比べるから拡大」「公開の代償」の2点

〔表7〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

根拠と補足:令和8年度短答式(特許・実用新案)問19では、共同出願人の異同、国際公開、分割と先願の地位、実用新案登録に基づく特許出願が扱われています。問19全体の公式正解は5です。公式問題/公式解答。
レベル3のまとめ
  • 要件6つ:①特許・実用新案登録出願 ②本願の日前 ③本願後に公開等 ④当初明細書等に記載の発明と同一 ⑤発明者非同一 ⑥本願出願時に出願人非同一。
  • 「同一」には実質同一(周知・慣用技術の付加・削除・転換等で新たな効果なし)を含む。
  • 第29条第1項(本願前に公開)/第29条の2(本願後に公開・当初明細書等全体)/第39条(請求の範囲どうし)の守備範囲を切り分ける。
  • 分割出願・変更出願が「他の出願」になるときは現実の出願日(第44条第2項ただし書)。

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