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小学生でも分かる商標法|商標法第12条の2・第13条の2 出願公開と金銭的請求権 ― 登録される前の「まね」に、あとからお金を請求できるしくみ

小学生でもわかる商標法 第19回「出願公開と金銭的請求権」。公開と登録前の使用への対応。

小学生でも分かる商標法 / B. 出願・審査・登録の手続 #19

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商標(しょうひょう)の申込みをしてから登録されるまでには、時間がかかります。その間にだれかが同じ目じるしを使いはじめたら、どうなるのでしょうか。商標法は、申込みがあったことをみんなに知らせる「出願公開」(商標法第12条の2)と、登録前の使用に対してあとからお金を請求できる「設定の登録前の金銭的請求権」(商標法第13条の2)を用意しています。この記事では、特許法第64条・第65条とのちがいに注目しながら、2つの条文を読みます。

条文:商標法第12条の2、第13条の2関連資料:商標審査便覧 85.01参照時点:2026年9月
目次

LEVEL 1イメージでつかむ

申込みをしても、すぐには登録されない

パン屋の「ほしぞらパン」が、お店の名前を自分の目じるしとして役所に申しこみました。商標(しょうひょう)とは、お店や商品の「目じるし」のことです。

でも、役所が調べて「登録します」と決めるまでには、時間がかかります。その間は、まだ「自分だけの目じるし」にはなっていません。

もし、その間にとなり町のお店が同じ名前でパンを売りはじめたら、お客さんがまちがえて、ほしぞらパンは損(そん)をするかもしれません。

しくみ① 役所が「申込みがありました」と知らせる

役所は、申込みがあると、そのことをみんなに知らせます。だれが、いつ、どんな目じるしを、どんな商品について申しこんだのかを、役所の「お知らせの本」にのせるのです。これを出願公開(しゅつがんこうかい)といいます。

お知らせがあれば、ほかのお店は「この名前は、もう申しこまれているな」と気づくことができます。

しくみ② 「注意の手紙」を出しておくと、あとでお金を請求できる

ほしぞらパンは、同じ名前を使っているお店に、「この名前は、わたしが申しこんでいます」と、申込みの中身を書いた紙を見せて注意することができます。

注意をしたあとも、そのお店が同じ名前を使いつづけたとします。すると、ほしぞらパンは、登録されたあとで、「注意のあと、登録までの間に受けた損の分のお金をはらってください」と言うことができます。

大事なのは順番です。「注意する」→「登録される」→「お金を請求する」の順です。登録される前には、まだ請求できません。

登録される前の「まね」にそなえる流れ(架空の例:ほしぞらパン) ① 申込みをする ほしぞらパンが 役所に名前を申しこむ ② 役所がお知らせ 「この申込みが ありました」とのせる (出願公開) ③ 手紙で注意する 同じ名前を使うお店に 申込みの中身を見せる ④ 登録のあとで請求 受けた損の分の お金をはらってもらう この間に使われた分が対象 注意の手紙より前に使われた分は、このしくみの対象にならない。 登録されなかったときは、請求できる権利は「はじめからなかった」ことになる。

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:①ほしぞらパンが役所に名前を申しこむ
  • 青緑の枠:②役所がすること(出願公開)
  • 赤の枠:③注意の手紙と、そこから始まる「対象になる間」
  • 藍の枠:④登録のあとにできるお金の請求
  • 白い枠:図ぜんたいへの注意書き

【図1】登録前の使用にそなえる流れ(模式図)。店名は架空の例。②と③の順番は入れかわることもあります(→レベル3)。

発明の申込みとのちがい

発明(特許)の申込みにも、にたしくみがあります。でも、発明のほうは、お知らせまで原則として1年6か月待ちます。目じるしのほうは、そのような「待つ期間」が法律に書かれていません。

それから、請求できるお金の考え方もちがいます。発明のほうは「使用料にあたるお金」です。目じるしのほうは「まねされたことで受けた損の分のお金」です。目じるしは、アイデアそのものではなく、お店の信用(しんよう)を守るものだからだ、と考えると分かりやすいでしょう(これは本記事作成者によるたとえで、条文に書かれた理由ではありません)。

① 申込みがあると役所がお知らせする② 中身を書いた紙を見せて注意する③ 請求できるのは登録のあと④ 対象は「注意のあと〜登録まで」の損
レベル1のまとめ
  • 目じるしの申込みがあると、役所はそのことをみんなに知らせる(出願公開)。
  • 同じ目じるしを使う人に、申込みの中身を書いた紙を見せて注意しておくと、登録されたあとで、注意のあと登録までの間に受けた損の分のお金を請求できる。
  • 登録されなかったときは、この権利ははじめからなかったことになる。
  • 発明(特許)のしくみとは、お知らせの時期と、請求できるお金の中身がちがう。

※ 「同じ目じるしを使う」「注意する」「損」には、正確には条件があります(どの商品・サービスについての使用か、どんな書面を示すか、どの場合に権利がなかったことになるか等 →レベル3)。お知らせにのせない場合もあります(→レベル2)。

LEVEL 2条文の骨格

商標法第12条の2 ― 出願があったら出願公開

商標法第12条の2(出願公開)(原文) 特許庁長官は、商標登録出願があつたときは、出願公開をしなければならない。
2 出願公開は、次に掲げる事項を商標公報に掲載することにより行う。ただし、第三号及び第四号に掲げる事項については、当該事項を商標公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは、この限りでない。
一 商標登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 商標登録出願の番号及び年月日
三 願書に記載した商標(第五条第三項に規定する場合にあつては標準文字により現したもの。以下同じ。)
四 指定商品又は指定役務
五 前各号に掲げるもののほか、必要な事項
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
部品文言意味
だれが特許庁長官は出願人が頼むのではなく、特許庁長官の義務として行う
いつ商標登録出願があつたときは条文には「出願の日から○月」のような時期の定めがない
何を出願公開をしなければならない例外なくすべての商標登録出願が対象(条文上、対象を限る文言がない)
どうやって商標公報に掲載することにより行う第2項各号の事項を商標公報にのせる
例外ただし、第三号及び第四号に掲げる事項については……この限りでない商標と指定商品・指定役務は、のせると公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるときは、のせないことができる

〔表1〕商標法第12条の2の部品分解。

号掲載事項ただし書(不掲載)の対象か
第1号商標登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所対象外(必ず掲載)
第2号商標登録出願の番号及び年月日対象外(必ず掲載)
第3号願書に記載した商標(標準文字の場合は標準文字により現したもの)対象
第4号指定商品又は指定役務対象
第5号前各号に掲げるもののほか、必要な事項対象外

〔表2〕商標法第12条の2第2項の掲載事項と、ただし書の対象。ただし書にいう「対象」は、第3号と第4号だけです。

flowchart TB
  A["商標登録出願があった"] --> B["特許庁長官は出願公開をしなければならない
第12条の2第1項"] B --> C{"商標又は指定商品・指定役務を
商標公報にのせると公序良俗を
害するおそれがあると
特許庁長官が認めるか"} C -- "はい" --> E["第3号・第4号の当該事項は掲載しない
第1号・第2号・第5号は掲載"] C -- "いいえ" --> D["第1号から第5号まで
すべて商標公報に掲載"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:原則どおり第1号から第5号まで掲載する場合
  • 赤の箱:ただし書により第3号・第4号の当該事項を掲載しない場合

【図2】商標法第12条の2の流れ。条文を本記事作成者がフロー化したもの。

商標法第13条の2 ― 設定の登録前の金銭的請求権等

商標法第13条の2第1項〜第4項(原文) 商標登録出願人は、商標登録出願をした後に当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後商標権の設定の登録前に当該出願に係る指定商品又は指定役務について当該出願に係る商標の使用をした者に対し、当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる。
2 前項の規定による請求権は、商標権の設定の登録があつた後でなければ、行使することができない。
3 第一項の規定による請求権の行使は、商標権の行使を妨げない。
4 商標登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき、第四十三条の三第二項の取消決定が確定したとき、又は第四十六条の二第一項ただし書の場合を除き商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、第一項の請求権は、初めから生じなかつたものとみなす。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。第5項(準用規定)の原文はレベル3に掲げます。
部品第1項の文言意味
だれが商標登録出願人は請求権者は出願人
いつ警告するか商標登録出願をした後に条文の文言は「出願をした後」。「出願公開があつた後」とは書かれていない
どうやって当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたとき口頭の注意ではなく、出願の内容を記載した書面を示す
だれにその警告後商標権の設定の登録前に……当該出願に係る商標の使用をした者警告の後、設定の登録の前に使用をした者
何について当該出願に係る指定商品又は指定役務について第1項の文言は、出願に係る指定商品・指定役務についての、出願に係る商標の使用(第5項で商標法第37条が準用されている →レベル3)
いくら当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭使用料に相当する額ではなく、その使用により生じた業務上の損失に相当する額

〔表3〕商標法第13条の2第1項の部品分解。

項役割ひとことで
第1項請求権の発生要件と内容出願後に書面を提示して警告 → 警告後・設定の登録前の使用 → 業務上の損失に相当する額
第2項行使時期の制限設定の登録があった後でなければ行使できない
第3項商標権との関係この請求権を行使しても、商標権の行使は妨げられない
第4項請求権が初めから生じなかったものとみなされる場合出願の放棄・取下げ・却下、拒絶の査定・審決の確定、取消決定の確定、無効審決の確定(例外あり)
第5項準用・読替え商標法第27条・第37条、特許法の規定(商標法第39条・第56条第1項経由)、民法第719条・第724条

〔表4〕商標法第13条の2の項ごとの役割一覧。

時間の流れ → この間の使用が対象 (第1項) 商標登録出願 出願公開 第12条の2 書面を提示して警告 第13条の2第1項 商標権の設定の登録 ここから行使できる(第2項) 金銭の請求 警告より前の使用は対象外 登録後の使用は商標権の問題 条文上、警告は「商標登録出願をした後」であればよい。 図は出願公開の後に警告した例。第1項に「出願公開があつた後」という文言はない。 請求権の行使と商標権の行使は両立する(第3項)。

図は左右にスクロールできます。

  • 青緑の点:商標登録出願と出願公開
  • 赤の点・赤の枠:警告と、請求の対象になる期間(警告後〜設定の登録前)
  • 橙の点:商標権の設定の登録(ここから請求権を行使できる)
  • 藍の点:金銭の請求
  • 灰色の横線:請求の対象にならない期間
  • 白い枠:条文の文言についての注記

【図3】設定の登録前の金銭的請求権のタイムチャート(出願→公開→警告→登録→請求)。条文を本記事作成者が図にしたもの。時間軸に縮尺はありません。

特許庁長官 商標公報に掲載(出願公開) 商標登録出願人 (例:ほしぞらパン) 商標の使用をした者 (例:となり町のパン屋) 商標登録出願 公報で知ることができる ① 出願の内容を記載した書面を提示して警告 ② 警告後・設定の登録前に使用 ③ 設定の登録後に金銭の支払を請求 請求額=当該使用により生じた業務上の損失に相当する額 店名は架空の例

図は左右にスクロールできます。

  • 橙の枠:商標登録出願人(請求する側)
  • 青緑の枠:特許庁長官
  • 藍の枠:商標の使用をした者(請求される側)
  • 白い枠:請求できる額についての注記
  • 実線の矢印:条文が定める行為(商標登録出願・警告・請求)
  • 破線の矢印:商標公報によって知ることができるという関係(特定の相手に対する手続ではない)

【図4】出願公開と設定の登録前の金銭的請求権の相関図。条文を本記事作成者が図にしたもの。名前は架空の例。

レベル2のまとめ
  • 商標法第12条の2第1項:商標登録出願があったときは、特許庁長官は出願公開をしなければならない。時期を定める文言も、出願人の請求の制度もない。
  • 同条第2項:出願公開は商標公報への掲載により行う。商標(第3号)と指定商品・指定役務(第4号)だけが、公の秩序又は善良の風俗に関するただし書の対象。
  • 商標法第13条の2第1項:出願後に書面を提示して警告 → 警告後・設定の登録前の使用 → 業務上の損失に相当する額の金銭を請求できる。
  • 同条第2項:行使できるのは設定の登録の後。第4項:登録に至らなかった場合等は、請求権は初めから生じなかったものとみなされる。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 出願公開(商標法第12条の2)― 特許法第64条・第64条の2との比較

特許法第64条第1項は、特許出願の日から一年六月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。と定め、さらに特許法第64条の2第1項の出願公開の請求があったときも同様としています。これに対し、商標法第12条の2第1項は商標登録出願があつたときはと定めるだけで、期間の定めも、出願人による請求の制度もありません。

比較項目商標法第12条の2特許法第64条・第64条の2
公開のきっかけ商標登録出願があつたとき特許出願の日から1年6月を経過したとき、又は出願公開の請求があったとき
時期の定めなしあり(出願の日から1年6月)
出願人による公開の請求制度なしあり(特許法第64条の2第1項。第1号〜第3号の場合を除く。第2項:請求は取り下げることができない)
公開の除外条文上、対象を除く文言なし特許掲載公報の発行をしたものを除く
掲載する公報商標公報特許公報
公の秩序又は善良の風俗に関するただし書の対象第3号(商標)、第4号(指定商品又は指定役務)第4号〜第6号(明細書等の内容、要約書に記載した事項、外国語書面等に記載した事項)

〔表5〕出願公開の比較(商標法第12条の2と特許法第64条・第64条の2)。いずれもe-Gov法令検索で2026年9月に確認した条文による。

特許法(第64条・第65条) 特許出願 出願公開 1年6月経過(又は出願公開の請求) 警告できるのは出願公開の後 設定の登録 商標法(第12条の2・第13条の2) 商標登録出願 出願公開 時期の定めなし 警告は「商標登録出願をした後」であればよい(条文の文言) 設定の登録 点の位置は模式的なもので、実際の期間の長さを表すものではありません。

図は左右にスクロールできます。

【図5】出願公開と警告の時期の比較(特許法と商標法)。条文を本記事作成者が図にしたもの。

実務の目安(特許庁公式資料):特許庁ウェブサイト「公報に関して:よくあるご質問」(更新日 2026年7月13日、2026年9月参照)は、公報の発行時期の目安として「公開商標公報:出願日から2週間程度」と記載しています(紙書類で提出された場合は電子化作業のためさらに期間を要する旨の注記あり)。これは法律上の期間ではなく、特許庁が示す運用上の目安です。

2. 公の秩序又は善良の風俗に関するただし書

商標法第12条の2第2項ただし書の対象は、第3号(願書に記載した商標)と第4号(指定商品又は指定役務)に限られます。出願人の氏名等(第1号)、出願の番号及び年月日(第2号)は、ただし書の対象ではありません。判断するのは特許庁長官です。

特許庁の商標審査便覧には「85.01 出願公開に伴う、『公序良俗を害するおそれのある商標』及び『公序良俗を害するおそれのある指定商品又は指定役務』について」という項目があり、このただし書の取扱いを扱っています。

便覧85.01は、不掲載を公報に掲載して公表すること自体が公序良俗を害する場合に限定しています。商標では卑わい・きょう激な表示、名誉を傷つける表示など、指定商品・役務では明らかに犯罪を目的とする物や行為などを挙げます。第4条第1項第7号に当たるというだけでは不掲載にならず、商標の構成自体が問題のない場合は掲載します。商標審査便覧85.01・1〜3頁。

3. 設定の登録前の金銭的請求権の要件(商標法第13条の2第1項)

要件条文の文言注意点(条文上の帰結)
① 出願後の警告商標登録出願をした後に「出願公開があつた後」とは書かれていない。条文上、出願公開は警告の要件として定められていない
② 書面の提示当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたとき警告が必須。特許法第65条第1項後段のような「警告をしない場合」の規定は、商標法第13条の2にはない
③ 時期その警告後商標権の設定の登録前に警告より前の使用は対象外
④ 行為当該出願に係る指定商品又は指定役務について当該出願に係る商標の使用をした者特許法第65条第1項の「業として」に当たる文言はない。第5項で商標法第37条が準用されている
⑤ 額当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭業務上の損失が生じていることが前提となる

〔表6〕商標法第13条の2第1項の要件の整理。

ポイント:出願公開は要件か。特許法第65条第1項は出願公開があつた後に特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときと定めます。商標法第13条の2第1項は商標登録出願をした後に当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときと定めます。両者を原文で比べると、商標法では警告の時期が「出願をした後」とされ、出願公開は条文上の要件になっていません。
立法趣旨(逐条解説〔第22版〕):特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕』(以下「逐条解説〔第22版〕」)は、商標法第13条の2について、次のように説明しています(要約)。
制度の目的。本条は、平成11年の一部改正において、商標登録出願から商標権の設定の登録に至る間における、その商標に化体した業務上の信用を保護することを目的として、その商標を第三者が指定商品又は指定役務について使用することにより生ずる出願人の業務上の損失を補塡するため、使用した者に対して金銭的請求権を認める旨を規定したものである。
なぜ警告が要るのか。特許法第65条に基づく補償金請求権により請求できるのは実施料相当額であるのに対し、本条により請求できるのは業務上の損失に相当する額である。損失が発生していることを出願人(請求人)が認識したうえで初めて請求するものであるため、たとえ相手方が悪意で使用していても警告は必要であり、悪意で使用されていたとしても、損失が発生していなければ警告をしても金銭的請求権は生じない。他方、その使用が善意であったとしても、警告があった後にその使用を継続することによって出願人に業務上の損失を与えたときは、その損失に相当する額の金銭を支払わねばならない。商標が出願された事実や商標公報に掲載された事実だけでは、使用をする第三者がその出願に係る商標であることを知っているとは推定されない。それゆえに、突然の権利行使という不意打ちとならないよう、書面を提示して警告しておくことを要件とした。
出願人自身の使用は必要か。同書は、金銭的請求権の創設の趣旨が商標に化体した業務上の信用を保護することにあり、出願人に業務上の損失を与えた事実の存在を発生要件としたことから、金銭的請求権の発生の前提として、出願人による出願に係る商標の使用の事実が必要とされることとなる、と説明しています。
出典:逐条解説〔第22版〕1608頁〜1609頁。立法担当者による解説であり、有権解釈ではありません。
出願公開との関係(逐条解説〔第22版〕):同書は、商標法第12条の2について、平成11年の一部改正により金銭的請求権(商標法第13条の2)を行使することができるようになったことに伴い、実際の商標登録出願の出願内容を商標公報に掲載することとしたものである、と説明しています。そのうえで、商標法上の出願公開は、その公開の代償としての仮保護を与えるものではないので、特許法上の出願公開(特許法第64条)とは異なり、補償金請求権(特許法第65条)のような権利は認めない、としています(要約)。
同書はまた、商標登録出願とみなされる国際商標登録出願(商標法第68条の9)も出願公開の対象としたのは、その出願については国際事務局により公報が発行される(標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書第3条(4))ものの、その公報のみでは発行部数や入手容易性などの点で日本国内における周知手段としては十分とはいえないことによる、と説明しています(要約)。
出典:逐条解説〔第22版〕1603頁。
第13条の2第5項は第37条を準用しています。そのため、指定商品・役務についての類似商標の使用や、類似商品・役務についての同一・類似商標の使用なども対象範囲となります。ただし、警告・業務上の損失など第13条の2固有の要件が必要です。現行条文・青本1610頁。制度は平成11年改正で設けられ、出願公開と合わせて登録までの信用を保護します(青本1603頁・1608頁)。
flowchart TB
  S["登録前に他人が出願商標を使用している"] --> Q1{"商標登録出願をした後に
出願の内容を記載した書面を
提示して警告をしたか"} Q1 -- "はい" --> Q2{"使用は警告後かつ
設定の登録前か"} Q1 -- "いいえ" --> N1["請求できない
相手が出願を知っていても同じ
警告をしない場合の規定がない"] Q2 -- "はい" --> Q3{"当該使用により
業務上の損失が生じたか"} Q2 -- "警告前の使用" --> N2["その使用分は対象外"] Q3 -- "はい" --> Q4{"商標権の設定の登録が
あったか"} Q3 -- "いいえ" --> N3["請求する額が立たない"] Q4 -- "あった" --> Q5{"第4項の事由が
生じていないか"} Q4 -- "まだ" --> W["請求権はまだ行使できない
第2項"] Q5 -- "生じていない" --> OK["業務上の損失に相当する額の
金銭の支払を請求できる"] Q5 -- "生じた" --> N4["請求権は初めから
生じなかったものとみなす"] style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N1 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N3 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style N4 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 緑の箱:金銭の支払を請求できる結論
  • 赤の箱:請求できない、又はその使用分が対象外となる結論
  • 白い箱:設定の登録を待つ段階(まだ行使できない)

【図6】設定の登録前の金銭的請求権を行使できるかの分岐図。条文を本記事作成者がフロー化したもの(時効など第5項の準用規定による制限は省略しています)。

4. 特許法第65条(補償金請求権)との比較

特許法第65条の請求権は、条文上補償金の支払を請求するものです。商標法第13条の2は金銭の支払を請求するもので、「補償金」の語は使われていません。本シリーズでは、条見出しに合わせて「設定の登録前の金銭的請求権」と呼びます。

比較項目商標法第13条の2特許法第65条
警告の時期商標登録出願をした後出願公開があった後
提示する書面当該出願に係る内容を記載した書面特許出願に係る発明の内容を記載した書面
警告をしない場合規定なし(警告が必須)出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って実施した者に対しては、警告をしない場合も同様(第1項後段)
対象となる行為警告後・設定の登録前の、指定商品又は指定役務についての出願に係る商標の使用警告後・設定の登録前の、業としての発明の実施
請求できる額当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭その発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金
行使時期設定の登録があった後(第2項)設定の登録があった後(第2項)
仮専用実施権者等に関する規定対応する規定なしあり(第3項)
権利行使との関係商標権の行使を妨げない(第3項)特許権の行使を妨げない(第4項)
初めから生じなかったものとみなす場合第4項(「出願公開後に」の限定なし)第5項(「出願公開後に」放棄等されたとき、ほか)
準用規定第5項第6項

〔表7〕設定の登録前の金銭的請求権(商標法第13条の2)と補償金請求権(特許法第65条)の比較。いずれもe-Gov法令検索で2026年9月に確認した条文による。

5. 請求権が初めから生じなかったものとみなされる場合(第4項)

第4項の場合関係する条文メモ
商標登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき―登録に至らない
拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき―登録に至らない
取消決定が確定したとき商標法第43条の3第2項登録異議の申立てによる取消決定
商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したとき商標法第46条の2第1項ただし書の場合を除く後発的な無効理由による場合(同項ただし書)は除かれる(例外あり、の中身)

〔表8〕商標法第13条の2第4項の場合分け。

ポイント:第4項に列挙されているのは、登録異議の申立てによる取消決定(商標法第43条の3第2項)と無効審決です。商標法第50条などの取消しの審判の審決は、第4項の文言には挙げられていません。また、特許法第65条第5項にある出願公開後にという限定は、商標法第13条の2第4項にはありません(商標法では出願公開が第1項の要件になっていないことと対応します。これは条文の対比から分かることで、立法理由の説明ではありません)。
flowchart TB
  A["警告後・設定の登録前の使用"] --> B{"出願のゆくえ"}
  B -- "設定の登録" --> C{"登録後"}
  B -- "放棄・取下げ・却下" --> X["請求権は初めから
生じなかったものとみなす"] B -- "拒絶の査定・審決が確定" --> X C -- "上記のいずれもなし" --> Z["請求権を行使できる"] C -- "無効審決が確定
第46条の2第1項
ただし書の場合" --> Y["第4項のみなし規定の対象外"] C -- "取消決定が確定(第43条の3第2項)
又は無効審決が確定
(第46条の2第1項ただし書の場合を除く)" --> X style X fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style Y fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style Z fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

  • 赤の箱:請求権が初めから生じなかったものとみなされる結論
  • 緑の箱:請求権が残る(第4項のみなし規定の対象にならない)結論

【図7】商標法第13条の2第4項の整理。条文を本記事作成者がフロー化したもの。

6. 準用規定と時効の読替え(第5項)

商標法第13条の2第5項(原文) 第二十七条、第三十七条、第三十九条において準用する特許法第百四条の三第一項及び第二項、第百五条、第百五条の二の十二、第百五条の四から第百五条の六まで及び第百六条、第五十六条第一項において準用する同法第百六十八条第三項から第六項まで並びに民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百十九条及び第七百二十四条(不法行為)の規定は、第一項の規定による請求権を行使する場合に準用する。この場合において、当該請求権を有する者が商標権の設定の登録前に当該商標登録出願に係る商標の使用の事実及びその使用をした者を知つたときは、同条第一号中「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」とあるのは、「商標権の設定の登録の日」と読み替えるものとする。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000127)、2026年9月参照。
分類商標法第13条の2第5項が準用するもの特許法第65条第6項が準用するもの
自法の規定商標法第27条、第37条特許法第101条
侵害訴訟関係(特許法)商標法第39条において準用する特許法第104条の3第1項及び第2項、第105条、第105条の2の12、第105条の4から第105条の6まで、第106条特許法第104条から第104条の3まで、第105条から第105条の2の12まで、第105条の4から第105条の7まで
訴訟との関係商標法第56条第1項において準用する特許法第168条第3項から第6項まで特許法第168条第3項から第6項まで
民法第719条、第724条第719条、第724条
時効の読替え登録前に使用の事実及び使用をした者を知ったとき:民法第724条第1号の起算点を「商標権の設定の登録の日」と読み替える登録前に実施の事実及び実施をした者を知ったとき:同号の起算点を「特許権の設定の登録の日」と読み替える

〔表9〕準用規定の比較。特許法の見出しは、第105条の2の12=「損害計算のための鑑定」、第106条=「信用回復の措置」(e-Gov法令検索で確認)。

民法第724条は、不法行為による損害賠償の請求権が時効によって消滅する場合として、第1号被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。、第2号不法行為の時から二十年間行使しないとき。を定めています(e-Gov法令検索、法令ID 129AC0000000089、2026年9月参照)。設定の登録前は請求権を行使できない(第2項)ので、登録前に使用の事実と使用者を知った場合は、第1号の起算点が「商標権の設定の登録の日」に読み替えられます。

ポイント:第5項の列挙に、差止請求権(商標法第36条)、損害の額の推定等(商標法第38条)は挙げられていません。また、商標法第13条の2第5項は特許法第106条(信用回復の措置)を商標法第39条経由で準用していますが、特許法第65条第6項の列挙に特許法第106条はありません。いずれも条文の列挙を対比した結果です。

7. 拒絶理由・異議理由・無効理由との関係、防護標章登録出願への準用

場面商標法第12条の2・第13条の2との関係
拒絶理由(商標法第15条)両条は出願人に登録の要件を課す規定ではなく、商標法第15条各号に挙げられていない
登録異議の申立ての理由(商標法第43条の2)・無効理由(商標法第46条第1項)・除斥期間(商標法第47条)同じく、理由として挙げられていない。ただし、取消決定・無効審決が確定すると、商標法第13条の2第4項により請求権に影響する(〔表8〕)
防護標章登録出願商標法第68条第1項は、商標法第12条の2及び第13条の2を防護標章登録出願に準用している
商標公報へのその後の掲載商標法第75条第2項第1号〜第3号は、出願公開後における拒絶の査定・出願の放棄、取下げ、却下、出願により生じた権利の承継、指定商品・指定役務又は商標についてした補正を商標公報の掲載事項としている

〔表10〕他の条文との関係。

8. 四法比較

法律出願公開設定の登録前の金銭の請求請求できる額
特許法あり(特許法第64条:出願の日から1年6月経過、特許法第64条の2:出願公開の請求)あり(特許法第65条:補償金請求権。出願公開後の警告、又は悪意)実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
実用新案法出願公開の規定は置かれていない対応する規定は置かれていない―
意匠法国内の意匠登録出願について出願公開の規定は置かれていない(例外あり:国際意匠登録出願については、意匠法第60条の12が国際公表の効果を定める)国際意匠登録出願について、国際公表後の警告等による補償金の請求(意匠法第60条の12第1項)登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額(同項)
商標法あり(商標法第12条の2:出願があったとき。時期の定め・請求制度なし)あり(商標法第13条の2:出願後の警告が必須)当該使用により生じた業務上の損失に相当する額

〔表11〕四法比較。特許法第64条・第64条の2・第65条、意匠法第60条の12第1項、商標法第12条の2・第13条の2は、e-Gov法令検索で2026年9月に確認。国際出願に関する特例(特許法・商標法のもの)は省略しています。

9. 改正の経過

商標法第12条の2・第13条の2は、いずれも平成11年の一部改正で新設された条文です。逐条解説〔第22版〕は、両条の解説の冒頭で、平成11年の一部改正において新設されたものであることを述べ、条文末尾の改正沿革にも、平成11年の法律による本条の追加である旨を表示しています。

第13条の2第5項(準用規定)の改正の経過(逐条解説〔第22版〕):同書は、第5項について次のように説明しています(要約)。
① 平成16年の裁判所法等の一部改正により特許法第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)が新設されたことに伴い、同規定を新たに準用することにより、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、損害賠償の請求と同様に金銭的請求権も行使することができない旨を明らかにした。また、裁判所と特許庁との間の進行調整を図るための特許法第168条第3項から第6項までの規定についても新たに準用することとした。
② 平成16年の民法の一部を改正する法律により、片仮名・文語体であった文体が平仮名・口語体に改められたことに伴い、本項も同様に改正された。
③ 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第50号)が平成20年12月1日に施行されたことに伴い、本項が引用する民法について、法律番号を示す括弧書が加えられた。
④ 平成23年の一部改正において、特許法に冒認・共同出願違反の特許権の移転請求制度が導入されたことに伴い、特許法第104条の3第3項に冒認者による権利行使の制限についての規定が新設されたが、この規定は商標法で準用する必要がないことから、準用規定について所要の改正が行われた。
⑤ 令和元年の一部改正において特許法に査証制度が創設され、また、令和3年の一部改正において特許法に第三者意見募集制度が創設されたが、いずれも商標法では準用しないことから、準用規定について所要の改正が行われた。
出典:逐条解説〔第22版〕1608頁〜1611頁。同書の条文末尾の改正沿革は、第13条の2について平成16年(2件)・平成18年・平成23年・平成29年・令和元年・令和3年の各法律を表示しています。このうち平成29年の法律による改正の内容は、同書の解説本文では説明されていません。同書は令和4年10月刊であり、その後の改正は収録されていません。
出願公開と設定登録前の金銭的請求権は、平成11年改正で導入された制度です。青本1603頁・1608頁は、国際登録に基づく出願との均衡と、出願中に生じる業務上の損失の保護を説明しています。本記事の手続は2026年9月21日時点の条文に照合しています。2026年度弁理士試験は、受験案内により各試験の実施日に施行される法令が対象で、短答試験は5月17日でした。青本/現行条文/2026年度受験案内

試験での問われ方

形式問われやすい切り口(条文から整理したもの)
短答式特許法第65条との入れ替え(出願公開後か出願後か、警告をしない場合の規定の有無、請求額)、行使時期(第2項)、第4項の場合(商標法第46条の2第1項ただし書の場合の除外)、商標法第12条の2第2項ただし書の対象となる号
論文式出願中に他人が出願商標を使用している事例で、出願人がとり得る措置の一つとして、警告と設定の登録後の請求を要件に沿って述べる
口述条文の文言(「当該出願に係る内容を記載した書面を提示して」「業務上の損失に相当する額」)を正確に言えるか

〔表12〕試験での問われ方の整理。条文の構造から本記事作成者が整理したもので、出題を予想するものではありません。

Q. 相手が、出願公開された商標登録出願に係る商標であることを知って使用していた場合、警告をしていなくても請求できますか。
A. 商標法第13条の2第1項は書面を提示して警告をしたときを要件としており、特許法第65条第1項後段(警告をしない場合でも、知って実施した者に対しては同様とする旨)に当たる規定を置いていません。条文上、警告が必要です。
Q. 出願公開の前に警告した場合はどうなりますか。
A. 商標法第13条の2第1項の文言は商標登録出願をした後にであり、出願公開の後であることは条文上の要件とされていません。
令和8年度【商標】問6の肢4は、第13条の2第1項の警告を扱います。出願公開された商標と知って使用した者にも、金銭的請求権のための書面による警告が必要です。この肢は正しい記述で、誤りを選ぶ同問の公式正解は3です。肢の判断は第13条の2と青本1609頁による照合結果です。 公式問題・公式解答。
レベル3のまとめ
  • 出願公開:商標法は「出願があつたとき」(時期の定め・請求制度なし)。特許法は出願の日から1年6月経過、又は出願公開の請求。
  • ただし書の対象は、商標(第3号)と指定商品又は指定役務(第4号)だけ。
  • 設定の登録前の金銭的請求権:出願後の書面による警告が必須。出願公開は条文上の要件でなく、警告をしない場合の規定もない。
  • 請求額は「当該使用により生じた業務上の損失に相当する額」。特許法第65条の「実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」と区別する。
  • 行使は設定の登録後(第2項)。商標権の行使は妨げられない(第3項)。
  • 第4項:放棄・取下げ・却下、拒絶の確定、取消決定の確定、無効審決の確定(商標法第46条の2第1項ただし書の場合を除く)で、初めから生じなかったものとみなす。
  • 第5項:民法第724条第1号の起算点は、登録前に知った場合「商標権の設定の登録の日」に読み替える。

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